半冷半燃少女は幼馴染   作:セロリ畑

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 感想・評価ありがとうございます。
 これで体育祭編完。もう体育祭関係ないですけど。

 タイトル通り。大体察して下さい。
 


27:一緒に、お風呂。

 朝食を終えて逃げるように退散した私たちは、そのままトレーニング室でクールダウンを行った。

 エンデヴァーにより組み立てられたトレーニングメニューの中にあるそれは、単体でもそこそこの運動力なので軽い運動にもなる。

 出久は追加でもう少し何かするつもりだったらしいけど、昨日たくさん怪我をしたのだからと強制的に止めさせた。

 頬を膨らませてじっと目を見つめれば折れてくれたので、今度から止める時はこうしよう。

 

 メニューは基本的に一人で出来るものばかりで、二人でやってもいいものは出久にも手伝ってもらった。

 前屈系しか二人でやれるものはないけど、一緒にやれる事に意味があるのだからそれでいい。

 

 ちなみに、私も出久も180度開脚して胸を地面に付けられるぐらい身体が柔らかい。

 学校で初めてやった時はクラスの皆には驚かれた(私は何故か峰田や上鳴にガン見された)し、幼い頃から二人で続けている成果の一つだと思うと、凄く嬉しい。

 

 

「これで、終わり……っと」

「ふぅ……お疲れ様、凍夏ちゃん。タオルあるよ」

「ありがと。出久もお疲れ」

 

 

 それなりに身体が温まった所でメニューが終わり、出久に渡されたタオルで汗を拭きながら一息吐いた。

 全身に多少の疲れは残っているが、それ以外は特に問題はないみたい。

 明後日からの学校までに疲れを癒して、いつも通りに動けるようにしないと。

 

 そんな訳で、私の癒しである出久に甘えよう。

 

 

 と、その前に。

 

 恋人になった今なら、遠慮なく誘える行為がある。

 

 

「出久、お風呂入る?」

「僕? シャワーは浴びたいと思うけど……」

「そうじゃなくて……一緒に、ね」

「………………へぇっ!?」

 

 

 わ、凄く驚いてるや。

 

 声が裏返った出久は、顔を真っ赤にして慌てている。

 中学に上がるまでは一緒に入ってたんだから、そんなに照れなくてもいいのに。

 

 いやまあ、私も出久に裸を見られるのは恥ずかしいんだけど。

 

 

 それでも、出久と一緒が良いから。

 

 折角触れ合える機会を、逃したくないと思ったから。

 

 わたわたと動かされている彼の手を握って、じっと目を見つめる。

 

 

「…………嫌?」

「い、嫌じゃないけど、そういう問題じゃ……」

「なら、一緒に入ろ……?」

 

 

 震える声色を聞いて、右往左往していた視線を合わせてくれた出久。

 

 そして、徐々に私の目が潤んでいくのを見てか。 

 

 

「………………………………うん」

 

 

 長い葛藤の後、首を縦に振ってくれた。

 

 

 

ー緑谷出久ー

 

 

 凍夏ちゃんに押し切られる形で、一緒にお風呂に入る事になった。

 先に入ってて、と言われたので、今は旅館のように広い轟家のお風呂で無心で身体を洗っている。

 早くお湯に浸かって、身体を隠したい気持ちでいっぱいだ。

 ……ホントに、幾ら恋人になったからって、初めてのイベントのハードルが高過ぎるのではないでしょうか。

 多少凍夏ちゃんとのスキンシップに慣れているとはいえ、裸の付き合いは別問題だと思うんだ。

 

 いや、確かに小学校までは時々一緒に入って洗いっことかしてたよ? 

 当時も僕は女の子とお風呂に入るなんて……と滅茶苦茶どぎまぎしていたのに、凍夏ちゃんは殆ど気にしていなかった。

 寧ろ彼女がいつも楽しそうにしていたから、どうにも断る事が出来なくて。

 流石にお互いの身体の成長が著しくなった中学生の頃には、断固として拒否させてもらった。

 凍夏ちゃんはもの凄くしょんぼりしていたけど、僕にも譲れない一線だったから。

 ……どちらかと言えば、小学校まで一緒に入ってたのがおかしいんだよね、うん。

 

 なんて、昔の距離感について考えながら髪を流していると、お風呂場の扉が開く音がした。

 お、思ったより来るのが早い。まだ身体を洗えてないのに!

 

 

「お、お待たせ、出久」

「う、ううん! まま、待ってないよ」

 

 

 少し恥ずかしそうにしているのが分かる声色に、思わずどもりながら返事をする。

 そして凍夏ちゃんがひたひたとこちらに歩いてくる音に、鼓動がどんどん速くなる。

 彼女がどんな格好をしているか分からないから、迂闊に振り向けない。

 ただ僕の後ろまで来たらしい凍夏ちゃんの気配が、そこにバスチェアを置いて座ったみたいで。

 

 

「もう、全部洗っちゃった?」

「え、い、いや、身体はまだ、だけど」

「そ、そっか……なら、身体は、私が洗うね」

 

 

 ――まあ、そうなるよね!

 

 いや、いやいや、いやいやいや。

 

 落ち着け僕、予想出来ていた流れだろ。

 

 昔はよくやってたし、何も緊張する必要はない筈。

 

 

「じっ、自分で洗うよ?」

「私が、洗ってあげたいの」

「そっ……そう、なの」

「そうなの。だから…………良い?」

「…………な、なら、お願い」

「うんっ」

 

 

 だから凍夏ちゃんの声に艶があっても、僕の背中に柔らかい手が触れても、気にしてはいけない。

 

 視界の端でボディーソープを取る彼女が、一糸纏わぬ姿だったとしても、心を乱してはならない。

 

 そのボディーソープを、自分の身体……胸の辺りで泡立てようとしている気がするのも、僕の妄想とか思い込み――

 

 

 

「……ちなみに、どうやって洗うつもり……?」

 

 

「…………私の、身体で?」

 

 

 

 ――じゃないな! 現実だなこれ!?

 

 

 

「待って待ってストップ!! それは何か違うよね!!?」

「け、けど、こうしたら出久が喜んでくれるって、前に冬美姉さんが」

「何教えてるんだあの人……!!」

 

 

 薄々勘づいてたけど、時折どこで覚えてきたんだって知識を凍夏ちゃんに植え付けてたのは冬美さんか!

 

 確かに! 確かに嬉しいか嬉しくないかで言えば嬉しいけれども!

 

 年頃の、思春期の男子には幾らなんでも刺激が強すぎる!

 

 というか、そういう行為は恋人になった次の日にやるには段階が飛びすぎだと思うんだ!

 

 

「君の身体で洗うのは駄目です! それやるなら自分で洗うからね!!」

「…………嫌?」

「嫌じゃないけど! そういうのはまだ駄目なの!! 分かった!!?」

「……………………分かった」

 

 

 ペースを取られるものかと捲し立てれば、少し不満そうながらもどうにか止める事が出来たらしい。

 

 よかった。心の底から助かった。

 

 今回ばかりは押し切られる訳にはいかなかった、頑張ったよ僕。

 

 とりあえず、後で冬美さんには抗議しておかないと。

 

 

 

「……でも、次はさせてね」

「つ……次かぁ……」

「うん、約束。指切り」

「…………はい」

 

 

 ……それでもしっかり約束を取り付ける辺り、凍夏ちゃんらしい。

 

 次っていつだろう。ちょっと怖い。

 

 後、凍夏ちゃん。普通に指切りしてるけど、今の君は裸なんだから少しは隠して下さい。

 

 視線を顔で固定させ続けないと、色々見えてしまうんです。

 

 

 

 

 それから凍夏ちゃんにタオルで丁寧に丸洗い(前は自分でやった)された僕は、先に湯船に浸かっていた。

 うん、とりあえず女の子に身体を洗ってもらうのは色々やばい。

 詳しくは伏せさせてもらうけど、密着感が半端なかった。

 これを次は凍夏ちゃんの身体でやってもらうのか……と考えると思考回路がショートしそうなので、頭の隅に追いやっておこう。

 

 

「隣、入るね」

 

 

 一種の悟りを開きそうな精神で口元までお湯に浸かっていると、自分の身体を洗い終えた凍夏ちゃんが僕のすぐ隣に入ってきた。

 

 ちゃぷ、と足を湯船に入れる音や、お風呂の嵩が増して溢れる音がやけに鮮明に聞こえる。

 

 肩下ぐらいまで浸かった凍夏ちゃんは、小さく息を吐いていた。

 

 これで裸をあまり気にせずに接する事が出来ると横を見て……隣り合う彼女と同じ目線じゃないのが、何となく嫌で。

 

 湯船から少し身体を出して、頭を同じ高さへ並べる。

 

 その事に気づいた凍夏ちゃんは、微笑みを向けてくれた。

 

 僕の好きな彼女の優しい笑みに、少しだけ罪悪感が沸いてくる。

 

 

「……ごめんね、凍夏ちゃん」

「? 何が?」

「なんというか、こう、一人でドキドキしてて……」

 

 

 一緒にお風呂に入っていても、僕だけ変に意識しすぎている。

 

 凍夏ちゃんはきっと、純粋にスキンシップを取りたかっただけなんだろう。

 

 今まで幼馴染の時にしていた事より、深いものを求めている。ただそれだけ。

 

 なのに僕はといえば、一人で意識して、緊張していて。

 

 男だからなのかもしれないけど、少しでも不純な気持ちを持ってしまうなんて。

 

 

 そうやって、俯きかけた僕の腕を。

 

 

 

「……出久っ」

「ちょっ――!?」

 

 

 

 胸の谷間に収めるように、凍夏ちゃんは抱きついてきた。

 

 とんでもなく柔らかい感触に動揺する心臓とは別に、何故か冷静なままの意識で彼女に視線を向けると。

 

 

 

「……私も、ドキドキしてるよ」

 

 

 

 真っ赤に染めた顔で、僕を見つめていて。

 

 そう言われて、柔らかな感触の奥にある彼女の心音が、僕と同じくらい高鳴っているのに気がついた。

 

 

「出久が先に入ってからね、心を落ち着けてたの」

「…………心を?」

「うん。一緒にお風呂って言ったのはいいけど、いざとなるとドキドキしちゃって」

 

 

 聞こえてる? と首を傾げる凍夏ちゃんに、小さく頷く。

 

 そしてもたれ掛かってきた彼女は、いつものように僕の首元へ顔を埋めた。

 

 

「臆病風に吹かれそうになって、頑張って自分を奮い立たせて、やっとお風呂に入ったら……出久が居てくれたの」

「そりゃあ、居るよ」

「うん、凄く緊張してた。お陰でちょっと落ち着いちゃった」

「う……喜んでいいのかどうか……」

 

 

 人が自分より緊張してると冷静になるってやつだ。

 

 情けない姿を見せた事を不甲斐なく思っていると、凍夏ちゃんは顔を上げてから言葉を続ける。

 

 

「出久はガチガチで言葉を震わせてても、ちゃんと返事をしてくれて、私を気遣って身体を見ないようにしてくれた」

「それは、まあ……」

「近くに寄って、逞しい背中を見て……とっても格好いいって思って」

「…………」

「抱きつきたい衝動に駆られて、でもはしたないと思われたくなくて、身体を洗う建前で、触れたかったの」

 

 

 そう告げた凍夏ちゃんは僕の胸板に触れて、感触を確かめるように撫でてきた。

 

 少しくすぐったさを感じながら、されるがままになる。

 

 

「出久に抱きしめられたいって、出久に触ってほしいって、出久の身体を洗いながら、ずっと思ってたんだよ」

「そ、そう、なんだ」

「うん……だから、謝らなきゃいけないのは私の方」

「え?」

 

 

 疑問符を上げれば、凍夏ちゃんは少しだけ表情を暗くしている。

 

 

 

「ごめんね。私が無理を言ったから、出久に負担をかけちゃった」

「っ……」

 

 

 

 謝る凍夏ちゃんを見て、心が痛んだ。

 

 

 ……違う。こんな事を言わせたい訳じゃ、こんな顔をさせたい訳じゃないのに。

 

 

 彼女と一緒に、笑っていたいと思ってる癖に。

 

 

 二人きりの今、自分の羞恥心に負けた程度で、この子の笑みを曇らせるつもりか、僕は。

 

 

 その先は言わせない。どんな手を使っても止めてやる。

 

 

 

「恋人になれたからって、自分の気持ちばっかり押し付けて……私、全然出久の事を考えてない――」

 

 

 

 これ以上、僕のせいで凍夏ちゃんに暗い気持ちを抱かせてなるものか。

 

 

 俯きそうな彼女の頬に手を当て、無理矢理顔を上げさせて。

 

 

 

 

「え、いず――――んむっ!?」

 

 

 

 

 凍夏ちゃんの口を、僕の口で塞いだ。

 

 

 

 目を見開いて驚く彼女は、少しだけ抵抗するかのように動いたけど。

 

 

 優しく頭を撫でてあげれば、すぐに大人しくなり、目を瞑ってくれた。

 

 

 そして、口を塞ぐだけのキスから、少し、先に進む。

 

 

 小さく開いている凍夏ちゃんの唇の内側に、ちょっとだけ舌を当てる。

 

 

 ビクッと震えた彼女は、ほんの少しの躊躇いの後……僕の舌に、自らの舌を触れさせた。

 

 

 ぬるぬるざらざらした未知の感触に、しかし気持ち良さを感じながら、お互いの舌を絡め合って。

 

 

 僕からゆっくりと、口を離した。

 

 

「ぷはぁっ…………いずく……?」

「凍夏ちゃん」

「え……きゃっ」

 

 

 とろんとした顔で首を傾ける凍夏ちゃんを、胸の中に抱きしめる。

 

 

 同時に豊満な身体が押し付けられるけど、今は気にしない。

 

 

 

「これで、僕は君に触れたし、抱きしめたね」

「な……なんで……?」

 

 

 

 嬉しそうで、少し戸惑いながら見上げる彼女に、火照ってきて熱い顔で笑いかける。

 

 

 

「凍夏ちゃんがしたい事は、僕がしたい事でもあるんだって、分かってほしくて」

「っ」

「負担なんてかかってないよ。恥ずかしいだけで、僕も君と同じ気持ちだから」

「出久っ……」

 

 

 

 もう、そんなに嬉しそうな声を出さないでよ。

 

 

 恥ずかしさより嬉しさが勝って、もっと本音を溢してしまうじゃないか。

 

 

 

「不安にさせて、暗い顔をさせてごめん。僕は、君に笑っていてほしいんだ」

「っ――――うんっ」

 

 

 

 滅茶苦茶クサイ台詞なのに、凍夏ちゃんは潤んだ瞳で抱きしめ返してくれた。

 

 

 こんなにも愛らしい、最愛の女の子。

 

 

 僕も、抱きしめる力を強めて。

 

 

 それから、彼女の耳元で、心を込めて囁けば。

 

 

 

「大好きだよ、凍夏ちゃん」

「私も、大好きっ」

 

 

 

 凍夏ちゃんは、幸せそうな笑顔で返事をしてくれた。

 

 

 

 お互いへの愛を確かめあった、お風呂場での一時。

 

 

 とても大切な、二人だけの時間。

 

 

 後で思い返せば、死ぬほど恥ずかしくなると思うけど。

 

 

 それも含めて、凍夏ちゃんとの思い出だ。

 

 

 

 ……まあ、この後二人してのぼせたせいで、お母さんたちに生暖かい視線を向けられながら看病される事になるんだけど。

 

 

 




○おまけ


「お父さん、入るよー」
「……ああ」

 おにぎりなどの軽食を片手にした冬美は、父親の部屋を訪れていた。
 和室の部屋の中には、パソコンを前に作業をしている炎司の姿がある。

「はい朝ご飯。凍夏は出久くんとクールダウンするって」
「そうか、済まんな」
「いーえ。お昼は顔出すの?」

 冬美が何気なく問えば、炎司は微妙に眉を下げてから首を横に振る。

「……いや、昨日の今日で凍夏の機嫌を損ねるのもな……また一人、部屋の隅でパンの耳を齧るのは勘弁だ」
「あー……昨日は引子さんとお母さんが凍夏に代わって有言実行したからねぇ……」

 遠い目をする父親に、冬美は苦笑いする。

 表彰式でやらかした炎司は、帰ってきてから母親二人組に正座させられながら怒られたのだ。
 年頃の娘の前であれは無いだの、昔から炎司さんはデリカシーが無いだの、怒濤の勢いだったのを冬美は見ている。
 結果、凍夏が言った庭の隅でパンの耳の刑が科される事になった。
 青い顔の父を不憫に思った冬美のフォローにより、部屋の隅になったのはせめてもの救いか。
 部屋の隅でもそもそとパンの耳を食べる炎司に、出久が顔を引きつらせていたりして。
 そこにNo.2ヒーローの威厳など欠片もなかったと、後に彼は勝己へ語る。


 それはさておき。


 作業が終わったらしい炎司は、軽く首を回していた。

「……よし、これで一通りは良いだろう」
「お疲れ様。終わったの?」
「ああ。思っていた程昨日の一件は荒れていないらしい」

 温かい緑茶を飲む炎司の横から、冬美がパソコンの画面を覗く。
 そこにはエンデヴァー事務所とのやり取りがあり、各所への根回しについての指示が書かれていた。
 何の話かと言えば……凍夏と出久の関係についてである。

 全国放送で口付けをした二人には、意外にも讃える声が多数ではあったのだが、不純異性交遊だと非難する声も多かった。
 将来的に国民を守る立場のヒーローの卵が、恋愛にうつつを抜かすのはどうかと思うのは当然とも言える。
 それは雄英高校にも向かいかねない非難で……事が大きくなる前に手を打つ必要があった。

 故に炎司は昨日よりずっと、自らの事務所を通して二人の関係が()()()()()()主旨の説明文を各所に送ったり、雄英と対応の仕方を打ち合わせたりしている。
 本人にも責任があるからと頑張っているのだが……端から見れば親馬鹿や弟子馬鹿にしか見えない光景だったりするのはご愛嬌だ。
 余談になるが、体育祭以降のエンデヴァーのネットにおけるサジェストには「親馬鹿」「弟子馬鹿」などがトップに来るようになり、地味に支持率や支持層が拡大していたりする。

「『最強カップル爆誕! 将来のNo.1ヒーローズか!?』……これ、凍夏に教えたら喜びそうだね」
「かもな……何にせよ、あの二人が契りを結んだのは目出度い事だ」
「お父さんってば、気が早いよ。まだ高校生なんだから……」
「む、そうか……祝いの品でも見繕うつもりだったんだが」
「何それ! お父さんも変な所で抜けてるよね」
「むぅ……」

 ケラケラ笑う娘に、頭を掻く父。
 十年前は考えられなかった家族らしい光景が、轟家では見られるようになった。

「……ともあれ、凍夏と出久の仲に無粋な横槍を入れさせる訳にはいかん。飯を食べたらもう少し対応を詰めていく」
「りょーかい。食器は後で回収しに来るね」
「済まんが頼む」
「違うでしょ、お父さん」
「何?」
「謝るんじゃなくて……ヒーローなんだから、分かんない訳ないよね?」
「……そうか、ありがとう、だな」
「どういたしまして! 頑張ってね!」
「ああ」

 小さく笑った炎司に、冬美は笑顔を返しながら部屋を後にする。


 こんなやり取りも、出久のお陰で出来るようになった轟家の住人たち。

 当の本人には自覚がないが、それだけ皆が彼に感謝していた。

 なのでエンデヴァーは勿論、冬美たちも出久の為なら、協力は惜しまない。

 可愛い娘/妹を任せるだけでなく、出来る事をしてあげよう。

 そんな風に、愛されている出久であった。

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