半冷半燃少女は幼馴染   作:セロリ畑

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 長らくお待たせ致しました。
 本誌の展開で興奮して死んでたり現実でメンタルが死んでたりしましたが続きます。
 お待たせした割に進みが遅いですがご容赦を。



29:行くのはどっち?職場体験。

 

 ヒーロー名決めも無事終わり、もぞもぞと寝袋から這い出した相澤先生から職場体験の説明が引き続き行われた。

 

「職場体験は一週間。肝心の職場だが、指名のあった者は個別にリストを渡すからその中から自分で選択しろ。

 指名のなかった者は予めこちらからオファーした全国の受け入れ可の事務所40件、この中から選んでもらう」

 

 他の人より多いプリントの束を受け取って、話を聞きながらペラペラと目を通す。

 活動地域や得意なジャンルがヒーローによって異なるので、それを加味した上で選べとの事。

 指名表には私も知っている有名な所から、初めて聞くヒーローなどたくさんの事務所の名前があった。

 当然のように並んでいるあの男の名前はさておき、他のヒーローを調べてみるのも楽しそうだ。

 

「今週末までに提出しろよ」

「あと二日しかねーの!?」

 

 相澤先生、重要な事をついでのように言い残していかないで下さい。

 行きたいジャンルを決めてる人はともかく、決めてない人には時間が無さすぎる気がする。

 

 いや、限られた時間で情報を集めて処理するのもヒーローとしての勉強なのかも。

 流石雄英! なんて反応を飯田がしそうだと思ったけど……彼は神妙な顔でリストを見ていた。

 

 少し、嫌な予感がする。

 

 思い過ごしであってほしいけど、こういう勘は当たる事の方が多いから。

 

 手を振りながら教室を後にする香山先生に手を振り返しつつ、私は胸の中に生まれた小さな懸念が気にかかっていた。

 

 

 

 休み時間。

 出久の席付近に集まったお茶子と一緒に、職場体験先についての話をする。

 

「えっ、麗日さんはバトルヒーロー『ガンヘッド』の事務所?」

「うん、指名来てた!」

「対敵系の事務所だけど、良いの?」

 

 ガンヘッドと言えば多くの敵を取り締まっている対敵の強力な武闘派ヒーローだ。

 お茶子の目指している13号先生のような、人命救助中心ではないと思うけど、どういう心境の変化だろう。

 

「良いの! ……こないだの爆豪君戦で思ったんだ」

「あぁ?」

 

 彼女の言葉に、前の席で指名の束を捲っていた勝己が軽く後ろを振り向く。

 あ、No.4ヒーローのベストジーニストから指名が来てる。

 

「強くなればそんだけ可能性が広がる! やりたい方だけ向いてても見聞狭まる! ってね! 次に爆豪君とやる時は勝てるぐらい強くなるよ!」

「はっ、上等だ丸顔。何度やろうが俺が勝つわ」

「呼び方が戻ってる!? 麗日ですぅー!」

「丸顔じゃねーか」

「マジトーン止めて! てか人の身体的特徴であだ名付けるとか小学生か!」

「誰が小学生だゴラァ!!」

「勝己、そういう所」

「黙ってろ半分女ァ!!」

 

 私も呼び方が戻ってしまった。

 体育祭の時は名前で呼んでくれたのに、ちょっと残念。

 いや、別にコイツから積極的に名前で呼ばれたい訳じゃないけど。

 

 そのままぎゃいぎゃいと言い合いを始めた勝己とお茶子を横目に、私は苦笑している出久とリストを見せあいっこする。

 

「出久も、色んな所から来てる」

「そうだね。都市部から地方まで沢山頂いてる。戦闘がメインの事務所が多いけど、救助方面の事務所も結構あるかな」

「良かったね」

「うん」

 

 体育祭での出久は超パワーの派手さに目が行きがちだったけど、力がある個性というのはそれだけで様々な方面に役立つ。

 倒壊した建物の瓦礫を退かせたりは勿論、怪我をした人を力強く支えて運べる。

 

 それこそ――いつかテレビで見たオールマイトのように。

 

 人を助けるヒーローになる為の歩みを着実に進めている今、救助系のヒーローの目に留まったのは嬉しい事だ。

 

「……んんっ」

 

 と、私のリストを捲っていた出久が変な咳払いをした。

 

「どうかした?」

「い、いや……凍夏ちゃんも幅広い事務所から来てるなー、って」

「うん。出久と一緒のとこが多いよ」

「敢えて言葉を濁したんだけどな……!」

 

 顔を押さえて呻く出久に、首を傾げる。

 確かに私と出久の指名のうち、同じ事務所からのものが結構来ている。

 でも、これは別に恋人がどうとかじゃなくて、勝己を含めた指名数が多い三人に注目が偏った影響の一つだろう。

 私と勝己に入れた所も、出久と勝己に入れた所も同じぐらいある筈だし。

 

 それぐらい、普段の出久ならすぐに思い至るのに……どうやら、全国カップル認定のフィルターが思いの外強くかかっているようで、まだ気づいていないらしい。

 まあ彼が私を意識してくれているのが嬉しいので、構わないんだけど。

 

 

 それに、どれだけ多くの指名が来ていても、行くところは決めている。

 五十音順に並んだリストで最初の方にある見慣れた名前。

 この間全国放送で恥を晒して、世間に馬鹿さを認知された男。

 No.2ヒーローで、努力の名を持つ父親……エンデヴァー事務所が、私と出久の職場体験先だ。

 

 アイツの事だ、付きっきりで色々な経験を積ませようとするに違いない。

 

 正直、一週間も父親と行動を共にするのは物凄く嫌だけど。

 

 正式にトップヒーローのノウハウを学べる、またとないチャンスだから。

 

 多少の我慢は必要経費として、積極的に学んでいこうと思う。

 

 ……うん、出久も一緒だし、きっと乗り切れる。

 

 大丈夫。頑張れ私。ファイト。

 

 ……でも、ちょっと憂鬱になってきた。

 

 こういう時は、出久に甘えて安らごう。

 

 そう思い、私はふわふわした出久の癖っ毛を撫でながら、少しだけ荒れた心を癒していた。

 

 

 

 

 それから放課後。

 

「わわ、私が独特の姿勢で来た!!」

「ひゃ」

「わ」

 

 帰ろうとしていた私と出久の前に、体育祭前の飯田みたいなポーズのオールマイトがスライディングエントリーしてきた。

 滅茶苦茶汗をかいているけど、そんなに急いで何があったんだろう。

 

「ど、どうしたんですか? そんなに慌てて……」

「ちょっとおいで、緑谷少年……轟少女も」

「? 分かりました」

 

 言われるがままに付いていき、人気のない廊下へと足を運ぶ。

 

「二人とも、多くの事務所からオファーが来ていたね」

「は、はい。ありがたい事に……」

「良かったね……そ、それでだ。追加でもう一人、君たちに指名が来ている……」

 

 微妙に震えながら告げるオールマイト。

 わざわざ一人増えたぐらいで彼が話に来るのだから、何か理由があるんだろう。

 けど、この何とも言えない雰囲気は……怯えて、いる?

 

「その方の名はグラントリノ。かつて雄英で一年間だけ教師をしていた……私の担任だった方だ」

 

 グラントリノ、そんな人が居るのか。

 けど、雄英の教師をする程のヒーローなのに、全く聞いたこと無い名前だ。

 出久に視線を向けても首を横に振られたので、彼も知らないらしい。

 

「ワン・フォー・オールの件もご存知だ。むしろその事で緑谷少年に声をかけたのだろう。轟少女は……彼とセットだから、という認識でかな」

 

 成る程、そっちの関係者なのか。

 その人にも、出久と一緒にいるのが当たり前だと思われてるのは素直に嬉しい。

 

「そんな凄い方が……っていうか“個性”の件、知っている人がまだいたんですね」

「グラントリノは先代の盟友でね……とうの昔に隠居なさってたので、カウントし忘れていたよ……」

「オールマイト、震えが酷くなってますよ?」

「きっきき、きのせいじゃないかなななな……?」

 

 いや、そんなガチガチに震えながら言われても。

 話が始まってからどんどん顔色が悪くなってるし、明らかに怖がっているように見える。

 No.1ヒーローがここまで怯える人物なのか、グラントリノ。

 

「わわ私の事は置いといて、本題なんだけど……出来れば緑谷少年には、職場体験でグラントリノの所を選んでほしいなーって……思うんだけど……」

「う、うぅん……」

 

 ああ、そういう話だった。

 出久的にはオールマイトの先生に教わるなんてレアな機会は逃したくないと思うし、(一応)師匠からの頼みだから大分悩んでるみたい。

 

 ヒーローとしての実績が分からないのが不安なのかな、と思っていたら、出久はチラリと私に視線を向けた。

 

「……凍夏ちゃんはもし僕がこっちに行ったら、一緒に来る?」

「? うん、勿論」

 

 だって、オールマイトの先生には私も興味がある。

 感覚派の彼に教育出来るぐらいだから、教育者としての能力は高い人だと予想している。

 あそこまで怯えられるぐらいだから、かなりのスパルタ先生なんだろう。

 隠居しているらしいので、プロヒーローの事務所としては得られる経験は少ないかもしれない。

 だとしても、平和の象徴を作り上げる一端を担った人なら、私たちにとって十分貴重な時間になりうると思う。

 

 ……うんまあ、一人で父親の元に行きたくないっていうのも大きいんだけど。

 

 最後の本音も隠さずに私の意見を伝えると、出久は遠い目になってしまった。

 

「…………僕たち二人ともグラントリノの所に行ったら、絶対炎司さん泣くよなぁ……」

「Oh……」

 

 エンデヴァーが泣く、と聞いてオールマイトが何とも言えない表情になっている。

 私も中年ガチムチ親父が泣いてる所なんて想像したくない。きもい。

 

「アイツの事なんて、気にしなくていいよ」

「凍夏ちゃんはもうちょっと気にしてあげて。けど、本当にどうしようか…………」

 

 難しい顔で首を捻る出久。

 どちらにも行きたいけど、どちらかにしか行けない、そんな状況。

 エンデヴァーの一番弟子としての立場と、オールマイトの後継者としての立場が彼の中でせめぎあっているみたいで。

 

 

 出久の負担を減らせるように、私も何か手がないかと考えてみる。

 

 オールマイトとエンデヴァーの双方の顔を立たせられて、出久も納得出来る打開策を。

 

 いや、現実問題として職場体験は一つの場所にしかいけないのは分かってる。

 

 一番良いやり方が私と出久が別々に分かれて、後にそれぞれの経験を擦り合わせる方法で、それを提案したくないのが我儘なのも。

 

 エンデヴァーの元に一週間も一人でいるのは相当なストレスになるけど、終わりが見えているなら耐えられなくはない。

 

 ああ、どうにかして二つの事務所に一緒に行けたりはしないかな……………………あれ?

 

 

「出久、出久」

「ん、どうしたの凍夏ちゃん」

「こういうのは、どうなんだろう?」

 

 

 思い付いた案を、出久とオールマイトに話してみる。

 

 私の話を聞いているうちに、二人は目から鱗といった様子で目を見開いて。

 

 

「……そうか。それなら確かにいけるかも……!」

「ちょ、ちょっと待っててくれ! 相澤君に確認してくるから!」

「お願いします!」

 

 

 慌てて走っていくオールマイトの背中を見送る。

 

 前例はないかもしれないけど、殆ど旨味しかない話だから間違いなく許可はおりる筈。

 

 そしてこの案が実現すれば、私たちにとって大きな利益になる。

 

 何より、出久と分かれずに済むのは大きい。

 

 

「大丈夫だったら、僕から炎司さんに連絡するね」

「あ、待って出久。もう一つ、良い?」

「もう一つ?」

「えっとね――――」

 

 

 それに加えて、ちょっとだけ我儘を言ってみる。

 

 我儘、というよりこうしたらもっと良いんじゃないか、って話かもしれない。 

 

 こっちはオールマイトとエンデヴァー、それに当事者になる()()()()の同意があれば、問題ないだろう。

 

 私の提案に、出久は少し驚いた顔をしてから。

 

 

「……うん、僕も良いと思う」

 

 

 にっこりと、肯定してくれた。

 

 ()がいれば、きっと出久にもプラスになるからって所まで見透されたみたい。

 

 私の思いを全部分かってくれている優しい笑顔に、同じぐらい想いを籠めた笑みを返す。

 

 温かい気持ちが溢れてきて、堪らず出久の腕に抱きついたら。

 

 人気の無い廊下だからか彼は私を離れさせずに、苦笑しつつも頭を撫でてくれた。

 

 

「それじゃあ、諸々の連絡は凍夏ちゃんにお願いした方が良いかな」

「うん、任せて……ね、出久」

「なあに?」

「楽しみだね、職場体験」

「あはは、だね。一緒に頑張ろう!」

「おー」

 

 

 ゆるい掛け声を上げれば、出久はくすくすと笑っていて。

 

 つられて笑い始めた私の声と合わせて、二人の明るい笑い声が静かな廊下に響いていた。

 

 

 朗報を持ち帰って来たオールマイトに、生温かい視線を向けられるまであと少し。

 

 

 

 

 

 

 

 それから紆余曲折あり、職場体験当日。

 全国各地のヒーロー事務所に散らばる為、新幹線の駅に赴いたA組一同は相澤先生から最後の連絡を受けていた。

 

「コスチューム持ったな。本来なら公共の場じゃ着用厳禁の身だ。落としたりするなよ」

「はーい!!」

「伸ばすな「はい」だ芦戸……くれぐれも体験先のヒーローに失礼のないように。じゃあ行け」

 

 元気な返事をした芦戸を含め、大体皆そわそわしていて。

 これから行くヒーロー事務所を楽しみにしていたり、実際に現場を見れる事へ思いを馳せている。

 

 

 ただ、一人……飯田が心配だ。

 

 インゲニウムがヒーロー殺しにやられて以降、雰囲気が固くなった彼に、私はおろか出久やお茶子も何も言えないままで。

 

 聞けば、飯田が職場体験に行くヒーロー事務所は事件があった保須市だとか。

 

 多分、これは偶然じゃない気がする。

 

 どこか遠くを見ているような目の飯田は、解散と同時に自分の乗る駅のホームへ向かっていく。

 

 

「飯田くん」

 

 

 暗い空気を纏う彼の背に、思わずといったように出久が声を掛けた。

 

 

「…………本当にどうしようもなくなったら言ってね。友達だろ」

 

 

 お茶子もその言葉にコクコクと頷き、不安げな顔を向けている。

 

 

「ああ」

 

 

 振り返った飯田は小さく返事をして、そのまま一人で行ってしまった。

 

 私も何か言うべきだったかもしれないけど、掛ける言葉が見つからなくて。

 

 代わりに、どうか早まらないでと、小さく心の中で祈った。

 

 

 ……今、私に出来る事はない。飯田の心配は一旦置いておこう。

 

 心配そうなままの出久とお茶子に、わざと明るい声で話しかける。

 

 

「そろそろ行くね」

「……っと、私も! 頑張ろうね、デク君、凍夏ちゃん!」

「……ん、頑張ろう麗日さん! 凍夏ちゃんは()()()()!」

 

 

 二人も雰囲気を変えようとした私の意図に乗ってくれて、ぎこちないながらも普段の様子に戻ってくれる。

 

 三人で軽く手を合わせてから、私たちはそれぞれのホームへと歩き出した。

 

 

 駅に着くと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()もう一人のクラスメイトが待っていた。

 

 

「遅え」

「ごめん……それじゃあ行こう、()()

「けっ」

 

 

 大股で先を進む勝己に続いて、私も新幹線に乗り込んだ。

 

 あの男が無駄に張り切って私たちを待っていると思うと、少し……いや、結構憂鬱だけど。

 

 これからの一週間を最高のヒーローになる為の糧に出来るよう、気合を入れていこう。

 

 

 




 色々あってオリ主ちゃんはかっちゃんと共に職場体験へ。
 大体やりたい事は察される展開かもしれない……。

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