半冷半燃少女は幼馴染   作:セロリ畑

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 またまたお待たせしました。大分スランプ気味の作者です。
 点と点が上手く線に出来ない感じですが何とか続きます。

 (サブタイトルの説教は、誰が誰にするかは言ってない)
 


30:エンデヴァー事務所。模擬戦と説教。

 一つの仮定の話。

 

 ある地域に二つのヒーロー事務所があったとする。

 片方が主に救助系の個性が集まった事務所で、もう片方が対敵重視の戦闘タイプが多い事務所。

 方向性が違う故に仕事の取り合いになる事もなく、それぞれの得意分野で活躍していて。

 事務所同士の仲も悪くなく、盛んに交流してヒーローとしての質やレベルを上げている。

 両事務所のヒーローが居れば、おおよそ対応できない事態はほぼ無いと言える程優秀な集まりだった。

 

 そんな二つの事務所にそれぞれ、ヒーロー科の生徒が職場体験へとやって来る。

 普段からタイアップしている双方のヒーローたちは、その時も変わらず交流していた。

 結果、職場体験に来ていたヒーローの卵は二つの事務所のノウハウを教えてもらえる事になって。

 一粒で二度美味しい……なんて言えば安っぽいかもしれないけれど、事実として生徒たちはかなりの得をしたと言える。

 

 

 さて、この話を踏まえた上で一つの題を問い掛けよう。

 上の状況はあくまでも偶然の産物で起こったもの。

 なら、あらかじめ打ち合わせた二つのヒーロー事務所が職場体験に来た生徒たちに合同で教えるのは有りか無しか。

 答えは有り。相澤先生からの回答なので間違いない。

 事務所へのメリット如何やら双方への中継ぎやらを生徒自身が出来るなら、という前提は付くが、それさえ可能なら構わないとの事。

 コネや交渉を駆使して有利な場を作るのは将来的にも使える技術なのだから、積極的にやって良しと推奨さえされた。

 

 長々と話したけれど、結論として。

 

 私がエンデヴァー、出久がグラントリノの元へ行って、後ほど事務所同士で合流するという案が無事に決行されたのだった。

 

『――そんな訳なんだけど、良かったらこっちに来る?』

『行かせろ』

 

 ついでに言えば、余ったエンデヴァー事務所枠で勝己を誘ったのも私だったりする。

 出久も「勝利の権化であるかっちゃんなら、多少癪に触れても強くなれる機会を逃す筈がない」と言っていたので、聞いてみれば案の定食い気味の即答だった。

 うん、勝己のそういう所は私も好ましく思う。

 それを態度に出せば、舌打ちと睨みしか返ってこないだろうけど。

 

 後、エンデヴァーは勝己を誘う事にかなり乗り気らしく、嬉々として許可を出した。

 アイツの考えは何となく分かる。分かりたくもないのに。

 まあ、あの男の事はどうでも良い。

 

 

 斯くして無事に、職場体験へ挑む事になった訳で。

 

 出久はグラントリノ事務所に着いている頃だろうか……なんて思いを馳せつつ、私はある建物を前にして溜め息を吐いていた。

 

 

「…………もう着いちゃった」

「どんだけ嫌がってんだテメェは……」

 

 

 隣に居る勝己から呆れたような声が聞こえるけど、勘弁してほしい。

 

 私としてはここ――エンデヴァー事務所なんて、好んで来たい場所じゃないんだから。

 

 ともあれ、ぐだぐだしてても仕方ないのも事実。

 

 さっさと覚悟を決めた私は、職場体験の門を叩いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 勝己共々到着した事を事務員さんに伝えると、早々に代表室へと案内される。

 

「よく来たな凍夏、爆豪君。歓迎しよう」

「ヒエンです。職場体験なのでヒーロー名で呼んで下さい。それと格好つけなくていいです」

「む、むぅ……」

 

 腕を組んで威厳を出そうとしているポーズで待っていたエンデヴァーに率直に口撃を飛ばせば、途端にしょんぼりし始めた。

 これぐらいで落ち込まれても鬱陶しいだけなんだけど、どうしろというのか。

 あ、塩対応の私が珍しいのか、勝己がギョッとしてこっちを見てる。

 

「私、この男の前だといつもこんな感じだから」

「…………お、おう」

 

 満面の笑みを作って勝己にそう言えば、いつもの勢いはどうしたのかってぐらい控えめな返事が返ってきた。

 ついでにアイツに同情の眼差しも向けてる。別に要らないのに。

 

 

 微妙に居たたまれなくなった空気を誤魔化すように、エンデヴァーは咳払いをしてから話し始めた。

 

「……とりあえず、職場体験は出久の体験先の事務所と合流してから本格的に始める。午後には来る予定になっているのでそれまでは事務所内で待機する」

「はい」「っす」

「とは言え待っているだけでは時間の無駄だ。ヒーローについての細々とした講義をしても良いが……うむ、お前たちなら既に学習しているか」

「はい」「っす」

 

 私たちの淡々とした返事に目を閉じたエンデヴァーは小さく頷き、ならばと言葉を続けた。

 

「ヒエン、グラウンド・ゼロ。トレーニングルームへ行くぞ。この俺が直々に指導してやる」

「っ……!」

 

 不敵(私的にはウザい)に言い放たれた内容に、勝己が口元を吊り上げ、目をギラつかせた。

 ある程度分かっていた事だけど、こうして相対していると改めて理解出来た。

 

 エンデヴァーと勝己は、似た者同士だ。

 

 ただただ上を見て己を高めて、周りを気にせず自らの評価を以て前に進むタイプ。

 

 丸くなったとは言え、エンデヴァーもその根本は変わっていない。

 

 だからこそ、勝己を職場体験に呼ぶ事に積極的だったのだろう。

 体育祭で見せた自尊心の高さや絶対的な自己が、昔の自分に重なったのかもしれない。

 私としても、好敵手に成り得る勝己を強くしてくれるのは有り難い話だ。

 

 

 事務員さんに案内された更衣室で戦闘服に着替えてから、勝己と一緒にトレーニングルームへ向かう。

 地下に作られたそこに着けば、エンデヴァーがわざわざ仁王立ちして待っていた。

 

「さて……まずはグラウンド・ゼロ、かかってこい。初動でどの程度動けるのか見ておきたい」

「はっ、俺がスロースターターなのは知ってるってか」

「私が教えた訳じゃないよ」

「んなこたぁ気にしとらんわボケ」

 

 軽く柔軟しながら答える勝己。ボケじゃないし。

 態度の大きさがホントにエンデヴァーそっくりだ。もう私の代わりにアイツの息子になればいいのに。

 それで私は引子さんの娘になる。勿論出久のお嫁さん的な意味で。

 

 あ、そういえば私は嫁入りするつもりでも、出久がどう考えてるのかは知らないや。

 婿入りでも嫁入りでも構わないけど、出来れば嫁入りが良いな。

 どうしてかって言えば……うん、緑谷の名字になりたいからです。

 私は出久のものって感じが強くなって、考えるだけで凄く幸せな気持ちになる。

 

 

 緑谷、凍夏。

 

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………。

 

 ………………一人で妄想して、一人で赤くなってどうするの、私。

 

 

 う、うん、一旦忘れなきゃ。

 

 

 ともかく、勝己は楽しそうな顔してるし、横から突っ込むのは止めてあげよう。

 

 No.2ヒーローの胸を借りて、自分がどこまで出来るかを確認しに行くんだから。

 

 

 

 

「この部屋は頑丈に作ってある。換気も良好だから酸欠の心配もない……故に、遠慮なく来るがいい」

「ああ。んじゃまあ――――死ねェ!!」

 

 

 その言葉と同時、戦闘が開始する。

 勝己は両手の爆破で勢いをつけてエンデヴァーに突撃する。

 

 

閃光弾(スタングレネード)!!」

「むっ……!」

 

 

 そう見せかけて、ある程度距離を詰めてから目眩ましをした。

 軽く手をかざし目を細めて状況を注視していると、勝己が突っ込んだ勢いのままエンデヴァーの後ろへ回り込んでいるのが見えた。

 私の時もそうだったけど、相手の視界を奪ってからの強襲が好きなのかな。

 

 戦闘としては合理的だけど、何となくみみっちい戦い方だとちょっと思ってしまった。

 

 そのまま後ろから右の大振りを食らわせようとした勝己。

 しかし、その腕をエンデヴァーがノールックで掴んだかと思えば。

 

 

「ぬぅん!」

「ぐっ!? がはっ……!」

 

 

 そのまま背負い投げの要領で、床に叩きつけられてしまう。

 うん、そうなると思ってた。

 けど、戦闘に対してはかなりクレバーな勝己がそんな事も分からずに突っ込む筈はないんだけど……

 

 

「狙いは悪くないが、甘い。その動きは体育祭で凍夏にも避けられているだろう」

「っづぅ…………」

()()()()()()()、娘に出来て俺に出来ないとでも? 舐められたものだな」

「……舐めちゃ、いねえよ!!」

「!」

 

 

 あ、倒れた状態から近距離の大火力爆破を撃った。

 エンデヴァーも一瞬で反応して、炎の壁で受けきる。

 むぅ、やっぱり瞬間的な火力や炎の展開はまだまだアイツの方が上だ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()けど、総合的な強さは流石にNo.2ヒーローには届かないか。

 

 煙幕があるうちに距離を取った勝己はすぐに両手の爆破で飛んだかと思えば、手を交差させて爆破しながら回転を始める。

 ってあれは、私との戦いで出した最大火力を撃つ技!

 まだ身体が温まり切ってないだろうに、もう使うのか。

 格上相手だから遠慮無く、というか一気に畳み掛けるつもりらしい。

 

 

榴弾砲(ハウザー)、着――」

 

 

 そして必殺技が放たれようとした、次の瞬間。

 

 煙の中から飛び出したエンデヴァーが、勝己の腹へ拳を振り抜いた。

 

 

「甘いと言っとろうがぁ!!」

「っおごぉっ!!?」

 

 

 うわ、容赦無いというか……滅茶苦茶痛いやつだ、あれ。

 鳩尾にクリティカルヒットしたから胃の中のものは全部出てくるだろうし、暫くまともに息も出来なくなる。

 今がお昼前なのが、不幸中の幸いかな。

 

 口から胃液を吐きながら吹き飛ばされた勝己は壁に衝突して、床に崩れ落ちる。

 まともに立ち上がれず嘔吐を続けるあいつに、エンデヴァーは歩み寄っていく。

 

 

「同年代なら凍夏や出久にも匹敵する実力なのは認めている……だが、トップヒーローを相手にするならば、動きに隙が多すぎる」

「ぅぅぅ…………!!」

 

 

 えずいたままの勝己は、その言葉に悔しそうに顔を歪める。

 

 

「癖になっている右の大振り。爆破する動作の予兆。相手が対応出来ないだろうという動き方の読みやすさ。一流以下ならば通じようが、今のままでは超一流には届かん」

「っ…………!!」

 

 

 ……アイツの言いたい事は分かる。

 高い理想があるならそれなりの実力では駄目だと、戦闘の癖は直さないと駄目だと伝えているつもりなんだろう。

 

 だけど、ちょっと待って。

 

 

「高校一年にしては仕上がっていようとも、オールマイトを越えるヒーローになるならば――――」

 

 

 ――言い方に、幾らなんでも遠慮が無さすぎるでしょうが。

 

 

「れいとうぱーんち!」

「ぬごぉっ!?」

 

 

 暴言の嵐を投げつけているエンデヴァー(バカ)の背後へ忍び寄り、後頭部に氷を纏った右手をゆるい掛け声と一緒にグーで叩き入れた。

 それなりに本気で殴ったから、大分痛いと思う。

 

 頭を抑えて膝を突いたダメダメな父親をスルーして、踞ったまま唖然としている勝己へと近寄る。

 

「大丈夫? 立てる?」

「っ…………その言い方、止めろやクソが……心配要らんわ……」

「そう。ならもうちょっと休んでて」

 

 いつもと変わらない調子の勝己を大丈夫そうだと判断した私は、くるりと振り返る。

 

 その瞬間から蔑んだ目と凄んだ笑みを顔に貼り付けて、こちらを涙目で睨む髭燃やし中年男に視線を合わせた。

 

「な、何をする凍夏……!」

「こっちの台詞です。模擬戦闘に関しては別に口出しする気はありませんし実際何も言うつもりは無いですけど、実力を計る段階で不用意な言葉の刃で無駄に心を折りに行く意味が分かりません」

「俺はただ事実を述べただけだ!」

 

 …………ふぅん、まだそんな事言うんだ。

 

 これは、徹底的に分からせないと駄目かな。

 

 

「そういう遠慮の無い言い方はせめて身内だけにしろって言ってますよね。貴方は昔から人との距離の取り方が壊滅的に下手くそなんですからもっとオブラートに包んでいかないと駄目なんですよこの駄目ンデヴァー」

「うぐっ……」

「そんなんだから下手な接し方でファンサービスをしようとして子どもに泣かれて女性や子どものファン層が減ってアンチに叩かれたりするの分かってる? お母さんはそういう不器用な所が可愛く見えるとか時々トチ狂った事言うけど私にはただただウザい。っていうかお母さんは病んだ影響が残ってるとしか思えない。人とのコミュニケーションについては私も褒められるレベルじゃないけどその私から見ても酷い。そもそもこの前の体育祭でもそうだけど――――」

 

 

 この際だからと、日頃から溜め込んでいるエンデヴァーへの鬱憤を晴らすべく、言いたい事を全部吐き出す。

 年頃の娘に対しての扱いがなってないとか、私抜きで出久とご飯に行くのズルいとか、お母さんとデートするならもうちょっと変装を上手くしろとか、同性だからって出久に愚痴ったりして甘えすぎだとか、引子さんに娘との接し方を相談するのは止めろとか、出久を晩酌に付き合わせるのは止めろとか、冬美姉さんに家を任せっきりにするのはどうなのかとか、夏雄兄さんの様子を見に行くのにお忍びで行くなとか、燈矢兄さんが――――――とか。

 途中から丁寧口調を止めた私に言われたい放題のエンデヴァーがいつの間にか正座の姿勢で俯いていたけど、気にせずクドクドネチネチと続けた。

 

 

 

――――――暫くお待ち下さい――――――

 

 

 

「――――そんな不器用拗らせた所が良いってコアなファンが一定数居るのも知ってるしホークスさんとかその典型だけど彼らみたいな人は少数なんだから…………っと」

 

 小一時間程説教を続けていた事に気がついて、話を止める。

 個人的はもっと続けたいけど、今は職場体験に来ているのだし無駄な時間を増やしてはいけない。

 すっかり縮こまったエンデヴァーを一瞥して、軽く溜め息を吐いた。

 

「時間を使い過ぎたしここまでにするから。ほら、ヒーローに戻って」

「……………………うむ」

 

 凄くテンションが低い。ちょっと言われたぐらいでそこまで落ち込むものなの?

 時間を浪費した事には反省はしてる、けど後悔はしてない。

 

 ローテンションなNo.2を放置して、壁際で座って待たせてしまった勝己へと声をかける。

 

「ごめん。時間取らせた」

「……親子喧嘩は他所でやれや、ボケ」

「うん、次からはそうする」

 

 こっちも妙に疲れた顔してた。本当に待たせてごめん。

 もうお昼に近いし、何かする時間は殆ど無い。

 模擬戦の続きをやるにせよ他の事をするにせよ、ご飯を食べてからかな。

 

「それじゃ勝己、ご飯に行こう」

「あぁ? ……ちっ、んな時間かよ」

「近くの蕎麦屋さんで良い? この辺に来る時に出久と一緒に行くの」

「流れるように惚けんな色ボケ女」

「わ、まだ新しいあだ名を増やすの」

「ウゼェ! どこでも良いからさっさと行くぞクソが!!」

 

 ずんずん先に歩いていくけど勝己、場所知ってるんだろうか。

 その後を追いかける……前に、漸く立ち上がっていたエンデヴァーへ一言言っておく。

 

「それじゃあ、一時間以内には戻って来ますから」

「……ああ、代金は俺名義で領収書を切ってくれて構わん。ヒーロースーツも着たままで良い」

「はい。ではまた」

 

 そう言い残して、今度こそ私はトレーニングルームを後にした。

 

 午後には出久も来るし、蕎麦を食べて気合を入れないとね。

 

 

 

 

「エンデヴァーさん、俺たちもお昼行きましょう」

「…………ああ」

「娘さんも多感な時期ですから、そう落ち込まず!」

「…………ああ」

「ほらほら、ここのお店はデザートの葛餅が美味しいらしいですよ!」

「…………ああ」

 

 

 ……その後、監視カメラで見守っていた事務所の相棒(サイドキック)たちに慰められるエンデヴァーの姿があったらしいけど、私は知らないし興味もなかった。

 

 




●お昼の道中のやりとり。

「勝己、籠手だけ外したら?」
「たりめぇだ。飯食うのに付けとく訳ねぇだろアホ」
「アホじゃないし。次アホボケ言ったらバカツキって呼ぶよ」
「だぁれがバカツキだ殺すぞクソカス!!」
「そこでアホとボケ以外の罵倒を選んでる所がみみっちいって言われる所以だと思う」
「っーーーー!!」
「わ、ヒーローとは思えない凶悪顔だ」
「もうテメェは喋んな黙っとけクソが!!!!」

 意外と仲良し(?)な二人。
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