半冷半燃少女は幼馴染   作:セロリ畑

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原作との相違点
・出久の動作の前に止まる悪癖が無い(幼少期より鍛えていた為)。
・出久の体術がかなりの練度(理由同上)。
・爆豪が原作より冷静でない。



3:ふにふにもふもふと戦闘訓練。

 入学二日目、約束通り出久と一緒に通学した。

 喜びを噛み締めていたから自然とにこにこしていたらしく、通学の電車内や学校までの道でやけに周りから注目されてしまった。

 出久はいつもの事だと苦笑していたけど、そんなに私は目立っているのだろうか。

 首を傾げていると、彼は少し照れながら、

 

「凍夏ちゃんはその、か、可愛い、から」

 

 なんて言うものだから私も照れてしまい、しばらくお互いに顔を赤くしていた。

 

 昔から彼に褒められるのは、嬉しいけれど恥ずかしい。

 

 

 なんて朝の一幕はさておき。

 

 ついに始まった雄英の授業は、言ってみれば普通だった。

 午前中の座学は流石に進学校で、それなりに難しい内容。

 とは言えしっかり授業を聞いていれば問題なさそうだし、真面目に受けていれば大丈夫そう。

 敢えて何かを言うなら、プロヒーローが教鞭を振るうのが出久的には嬉しいようで、凄く生き生きとしているのが背中を見ていた私にも分かった。

 

 お昼ご飯はクックヒーローのランチラッシュが経営する学食にて。

 麗日、飯田と一緒にいた出久と合流して、冷たい蕎麦を食べた。

 最終的に白米に落ち着くとはランチラッシュの談。私はどちらかと言えば蕎麦の方が落ち着くけれども。

 それを伝えると(何故か飯田と麗日はギョッとしていた。出久は苦笑い)お蕎麦も良いよね! 健康的! と親指を立てられた。

 

 そんなこんなで午後の授業。

 ヒーロー基礎学、ヒーロー科らしい授業がついに始まる訳で、クラスの空気がそわそわとしていた。

 

 

「わーたーしーが! 普通にドアから来た!」

 

 

 現れたのは、オールマイト。

 彼が現れただけで教室内はざわめき、盛り上がる。

 全体的にオールマイトが今年から雄英の教師になったという話に、改めて実感が沸いている様子みたい。

 着ているのは銀時代の戦闘服で、出久が感動に打ちのめされているのが分かった。

 

 

「私の担当はヒーロー基礎学! ヒーローの素地を作る為、様々な訓練を行う課目だ!」

 

 

 この人がNo.1ヒーローで、平和の象徴と呼ばれる男。

 私にとっては、初めて憧れたヒーローで。

 出久にとっては、目指すヒーロー像の極致と言える。

 

 

「早速だが今日はコレ! 戦闘訓練!」

 

「戦闘……!」

「訓練……!」

 

 「BATTLE」と書かれた札をオールマイトが突き出すと、更にざわめきが大きくなる。

 爆豪の活きが良くなっていて、出久も少し緊張していそうだけど、しっかり前を向いている。

 

 

「そしてそいつに伴って、こちら!! 入学前に送ってもらった個性届と要望に沿ってあつらえた……戦闘服(コスチューム)!!」

「「「「おおお!!!!」」」」

 

 

 オールマイトが持っていたリモコンのスイッチを押すと、黒板の横から人数分のコスチュームケースが入った棚が現れた。

 一気にテンションを上げるクラスメイトたち。

 ヒーローを目指す者なら誰しも憧れる自分だけの特注の服、是非もない。

 かく言う私も、わくわくしている。

 

 

「着替えたら順次、グラウンド・βに集まるんだ!!」

「「「「はーい!!」」」」

 

 

 さて、私の戦闘服は要望通りに出来ているかな。

 

 

 

 

 

 

 更衣室に移動して戦闘服ケースを開くと、おおよそ指定した機能通りに出来上がっていた。

 出久と一緒に考えたそれは、私の個性の補助に適した装備になっている。

 耐熱性に優れ、体温調整を自動で行ってくれる服、薬品などの救助用品が入ったベルト、氷の上で滑らないようにスパイクが付いた靴。

 全体的に明るめの青緑色に統一されてはいるけれど、ヒーローとしては少し地味なデザインかもしれない。

 

 けど、これでいい。

 

 私は、地味めなのが好きだから。

 

 

 出来に満足していざ着替えるべく制服を脱いでいると、私に向けられる視線を感じた。

 視線の方向へ振り向けば、他の女子たちが驚きやら感嘆やらの感情が籠っている顔をしている。

 

「あ、ごめんごめん! いやー、昨日も思ってたんだけど轟ってすっごいスタイル良いよね!」

「そう?」

「そう! っと、私芦戸三奈!」

 

 その内の目が合った桃色の肌の女子、芦戸が私に近づきながらそんな事を言う。

 彼女の言葉に他の子も頷き、交流の無かった人も含めて皆が周りに寄ってきた。

 

「蛙吹梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで」

「ウチは耳郎響香。八百万もだけどこないだまで中学生だったとは思えないぐらいスタイル良すぎ……」

 

 蛙っぽい子が蛙吹。耳たぶにイヤホンプラグがある子が耳郎。 うん、覚えた。

 これで女子全員の名前を聞いたと、私が一種の達成感を感じている間に、女子たちの話は進んでいく。

 

「わかるー! やばいよね!」

「そうでしょうか?」

「二人とも背が高いし、おっぱいおっきいからね!」

「凍夏ちゃんの腰のくびれすごいよ……」

「わ」

 

 感心した様子の麗日に腰を触られて、ビクッとする。

 こういうスキンシップに慣れていないから、どう反応すれば良いか分からない。

 

「お茶子ちゃん、轟ちゃんが困っているわ」

 

 そんな私の雰囲気を感じ取ったのか、蛙吹が麗日をやんわりと窘めてくれた。

 

「あ、いきなり触ってごめんね!」

「平気。蛙吹もありがとう」

「どういたしまして。後、梅雨ちゃんと呼んで」

「梅雨ちゃん?」

「ケロケロ」

 

 言われた通りに呼ぶと嬉しそうに鳴く蛙吹……梅雨ちゃん。

 名前で呼ばれるのが好き、という気持ちは分からなくもない。

 それなら。

 

「私も凍夏で良いよ、梅雨ちゃん」

「ケロ、分かったわ凍夏ちゃん」

「えー! ずるいやずるいや! 私も名前で呼びたいし呼んでー!」

「私も私もー! 凍夏に梅雨ちゃん!」

「わわ」

「危ないわ、二人とも」

 

 葉隠と芦戸が勢い良く私と梅雨ちゃんに抱きついてきたので、びっくりした。

 距離が近いが姉さんもたまにこんな感じだし、女子的には普通なんだろうか。

 まあ、悪い気はしないや。

 

 と、そこで先に着替えを終えて、微笑ましげにこちらを見ていた八百万から声がかかる。

 

「交流も宜しいですが皆さん、早く着替えないと授業に遅れますわよ」

「「「あ」」」

 

 ……ちなみにここまで、半数近くは下着姿での出来事である。

 

 

 

 

 さして着用に手間の無い私はぱぱっと着替えを済ませた……の、だけれど。

 

(……前が短い?)

 

 少しだけ、要望と形が異なっているのに気がついた。

 タートルネックのように首まで生地を指定した筈だったのが、何故か胸元が開いているデザインに変わっている。

 代わりに首に着けるベルトのようなアタッチメントがあり、耐熱性は勿論首回りの防御力を上げる性能だと説明書に書いてあった。

 そこまで大した差異じゃないし、胸の間が見えるだけで特に問題があるわけでもない。

 ヒーローコスチュームのデザイナーによる独断の変更は多々あるとあの男が漏らしていたのを聞いた事があったけど、その類いなのかな。

 

 若干の疑問を残しつつ、グラウンド・βへと赴くとおおよその男子が揃っていた。

 個性的な衣装群の中から幼馴染はどこかと周りを見渡して、緑色の兎さんの姿を見つけた。

 私に気づいた彼は、兎耳を揺らしながらこちらに駆け寄ってくる。

 

 ……率直に言って、かわいい。

 

「凍夏ちゃ……何でそんなににこにこしてるの?」

「出久が兎さんみたいで可愛いかったから」

 

 あ、固まった。

 

「…………オールマイトリスペクトだよ! っていうか知ってるよね!?」

「うん。かっこいいよ」

「……もう、良いけどさ」

 

 不満そうだった表情を苦笑に変える出久を、改めて見つめる。

 

 緑色を中心としたジャンプスーツは、彼の母親である引子さんからプレゼントされたものが元になっている。

 被服控除のコスチュームデザインと一緒に送り、サポート会社に改良してもらった。

 増強系の個性故の近接戦闘をフォローするプロテクターが手足などに付いていて、機能的にも良さそうだ。

 オールマイトの髪を模したフードは……うん、悪いけどやっぱり兎の耳に見える。

 触ってみようと手を伸ばして、ひょいっと逃げられた。悲しい。

 

「凍夏ちゃんも要望通り……っぽいけど、だ、大分ぴっちりしてるね……」

「うん。後ちょっと前が短くて、胸の間が見えちゃってる」

「んんんんっ!?」

 

 両手を胸の上に置いて少し屈むと、出久が凄い勢いで顔を反らした。

 逆に他の男子からは、視線を感じる。

 特に出久の近くにいた紫の戦闘服を着けた小さい男子……峰田はかなりの眼力だ。

 首を傾げていると、顔を赤くした出久に肩を掴まれて姿勢を正された。

 

「ととと凍夏ちゃん……そのポーズはダメ、特に男の人には」

「そうなの?」

「そうなの! ……凍夏ちゃんが無自覚無防備なのをどうにかしなきゃいけないのは分かってるんだけど果たして本人に僕がそれを伝えて良いものなのか幼馴染とはいえ男な訳だしセクハラに成りかねないよなけど早めに教えておかないとさっきみたいに男の前でああいう事して変な誤解とかされて取り返しのつかない事態を起こさせかねないからお母さんに頼んで伝えてもらうべきかそもそも冬美さんに一度頼んだのに僕が居れば大丈夫って言われたのも訳分かんないしいやそりゃあ僕が近くに居ればどうにかするけど近くにいない場合はどうするんだって話でここは……」

 

「何この状況! デク君怖いし凍夏ちゃんマイペース!」

「へ? あっ、ご、ごめん……」

 

 幼馴染の一人考察が始まったのでさっき逃げられて触れなかった兎耳フードをふにふにしていると、宇宙感のある戦闘服の麗日が来て突っ込みを入れられた。

 彼女の声で周りから少し距離を取られている事に気づいた出久は、言葉を止めて気まずそうにしていた。

「あれに突っ込めるとか凄いな……」という呟きと頷く気配を感じたが、そんなに変な状況だったかな?

 

「てか凍夏ちゃんいつまでデク君のフード触っとるん?」

「?」

「や、何でそんな事聞くの? みたいな顔されても」

「こういう子だから……」

「わー、遠い目。天然さんなんやね」

 

 溜め息を吐く出久と納得したようにうんうんと頷く麗日。

 出久以外にはこういう事はしないから、問題はないと思うのだけれど。

 

 

 

 

 

 

 全員が揃いオールマイトが授業内容の説明を始める。

 ビル群の密集している市街地として作られているらしいグラウンド・βで行うのは、ビル内での対人戦闘訓練。

 ヒーロー側とヴィラン側で2対2に分かれて、ヴィランがアジトに保有している核兵器をヒーローが回収するのが目的らしい。

 核を確保するか守りきる、または相手側を全員捕獲すれば勝利。

 

 私の場合、核がある設定ならヒーロー側にせよヴィラン側にせよ炎は使えないと考えておこう。

 とはいえ、ヒーロー側なら制圧はそんなに難しくない。

 空き時間にヴィラン側になった時を想定しなければ。

 

 チーム分けのくじはB。コンビの相手は個性把握テストの握力でかなりの値を出していた障子。

 

「よろしくね」

「ああ、よろしく頼む」

「わ」

 

 腕から分かれた触手のような部位に口が作られて、そこから声が聞こえる。

 手を複製していたのは見たけれど、口も出来るんだ。 

 

「む、済まない。驚かせたか」

「大丈夫。手とか口とかを増やすの?」

「そうだ、複製腕(ふくせいわん)という。触手の先端に身体の部位を複製出来る」

「便利そう。握力で力は見たけど、索敵も出来たりする?」

「ああ。目を増やせば視覚が広がり、耳を増やせばを音を拾える」

 

 障子は言葉とともに複製腕の先端を目や耳に変える。

 成る程、かなり使い勝手が良さそうだ。

 

「私は半冷半燃。氷と炎が使える」

「昨日見ていた。制圧能力が高そうだ」

「うん。今回は核があると考えるなら、炎は使えないけどね」

「ふむ、確かにな」

 

 

「続いて最初の対戦相手はこいつらだ!!」

 

 

 障子と話している間にチーム分けが済んだらしい。対戦チームが発表される。

 最初はAコンビがヒーロー、Dコンビがヴィラン。

 Aは出久と麗日のコンビ。何かと縁が出来てる気がする。

 それから相手のDは誰か……と確認したところで、思わず固まってしまった。

 

「飯田と、爆豪」

 

 一波乱ありそうな組み合わせに出久を見てみれば、彼も固まっている。

 しかし、フードの中から覗く瞳が徐々に決意に満ちていく。

 

 なら私に出来るのは、出久を信じる事。

 

「頑張って、出久」

「……うん、頑張るよ」

 

 ステージのビルへ向かう彼を激励して、私はオールマイトに率いられながら地下のモニタールームへと向かった。

 

 

 

 

 

 私たちがモニタールームに着いて少ししてから、屋内対人戦闘訓練が開始された。

 

「さぁ、君たちも考えて見るんだぞ!」

 

 オールマイトの言葉に、皆が多くのモニターから動きのあるものを注視する。

 出久と麗日が窓から侵入している映像を見ていると、私の隣に来ていた八百万が視線をモニターに固定したまま話しかけてくる。

 

「轟さんはヒーロー側の……緑谷さん? と仲が良いのですよね」

「うん。出久とは幼馴染」

「どういった作戦でいかれると思われますか?」

「そう、だね……」

 

 初戦という事もあってか、展開の予想をしながらの観戦をするつもりらしい八百万に、少し考えてから口を開く。

 

「出久は基本的に理論を頭の中で組み立てて動くタイプ。当たり前だけど自分とコンビの出来る事、知りうる限り相手の情報を合わせて、幾つかのパターンを考えてる筈」

「そうでしょうね」

「でも、今回に限っては初撃は分かりやすいかな」

「と、言いますと?」

「あれ」

 

 一つのモニターを指差すと、爆豪がヒーローチームの居る場所まで近づいている姿が映っている。

 索敵系の個性でも無いのに真っ直ぐ向かっていくのは単純に凄いとは思うけど、表情が頂けない。

 凶悪に歪んだ敵じみた顔の爆豪を見て、誰かが「怖っ!」と漏らしていた。

 ……それより、出久に聞いていた奴の性格からすれば笑っていそうな所なのに、あの余裕の無さそうな表情は一体どういう事なのか。

 

 というか今更だけど、私たちの話にオールマイトを含めて皆が聞き耳を立てているらしい。

 別に構わないけれど、少し喋りにくい。

 

「敵側の爆豪は昨日から見てたら分かると思うけど、チームプレイなんて出来る性格じゃない。()()()()幼馴染の出久も、その事をよく知ってる」

 

 ともあれ、今の状況からあの男の行動を鑑みるに、予測できる展開は一つ。

 

 

「だから最初の邂逅は……爆豪の単独奇襲を出久が避けて終わる」

 

 

 画面内、建物の曲がり角から爆豪が出久たちに向かって爆破しながら飛び出した。

 出久が麗日を庇いながら伏せて、その奇襲を回避する。

 私の言葉通りの光景に、クラスメイトたちは沸き上がった。

 

「すげえ、轟の言う通りになったぞ!」

「つか爆豪ズッケぇ!! 奇襲なんて男らしくねえ!!」

「奇襲も戦略! 彼らは今実戦の最中なんだぜ!」

「緑くんよく避けれたな!」

「成る程、馴染みがあるからこそ相手の手は知り尽くされている訳ですわね」

「そう。しかもそれは出久側だけで、爆豪は対応出来ない」

 

 映像の中で、出久が爆豪の動きを読んで懐に入り込む。

 同時に腕を取った出久が、背負い投げるように爆豪を床に叩きつけた。

 流れで確保テープを巻こうとしていたが、流石にそれは避けられた。

 

 戦闘が一旦止まり、出久が爆豪へ何かを叫んでいる。

 その辺りで飯田が小型無線機で連絡を入れたらしく、爆豪が何かを話していたと思えば、また出久へ飛び掛かる。

 麗日を先に行かせた出久は、蹴りをかわしながら再び確保テープを巻こうとしたが、爆豪が追撃を加えようとしたので掻い潜って避けた。

 

「すげえなあいつ! 入試一位と個性使わずに渡り合ってるぞ!」

 

 渡り合ってる、か。その認識は少し違う。

 

「ううん、出久の勝ち」

「へ?」

 

 体勢を立て直した出久が、爆豪の身体を指差しながら何かを話していた。

 よく見れば、奴の胴体に既に確保テープが巻かれている。

 

 息を整えている出久。

 呆然とする爆豪。

 何が起きたか分かっていないクラスメイトたち。

 

 一拍遅れて、オールマイトが慌て気味に宣言する。

 

「ば、爆豪少年確保! 行動不能扱いなのでそこから動かないように!」

「「「「お、おおおお!!!!」」」」

 

 モニタールームに歓声が響く。

 爆豪の敗因は、冷静さを失った事で。

 出久の勝因は、努力と研鑽を怠らなかった事。

 少しやりきった表情で無線機に連絡を入れる出久を、私は誇らしい気分になりながら見つめていた。

 

「いつの間に巻いたんだ!?」

「全然気づかなかった……」

「滅茶苦茶器用じゃん! よくやるー!」

 

 皆が出久を称賛する中、八百万は考え込むように顎に手を当てていた。

 

「あの一瞬で脚にかけていたテープをたぐりよせて懐へ巻き直したなんて……咄嗟の判断力に長けている、なんてレベルを越えているじゃない……」

「5歳の頃から色々な訓練をしてたから。今回はテープを巻くだけだったし、楽な方かな」

「……訓練による努力の賜物、という訳ですか。納得ですわ」

 

 努力の賜物、まさにその通り。

 個性がなくともヒーローになるため、出久は並大抵ではない努力をしてきた。

 個性持ち相手に対抗するべく様々な戦法や捕縛術を叩き込み、多くの選択肢としてストックしている。

 うちの父親や相棒のヒーロー相手に血反吐を吐きながら……それでも弱音だけは吐かずに訓練してきたのを、私は間近で見てきたのだから。

 あの男をして、努力の天才と言わせた出久のこれまでが……今、報われている。

 

 そう感傷に浸っていると、モニター内で思いもよらない、もしくは起こるべくして起こった事態が。

 

「ちょっ、爆豪のやつ捕まったのに緑谷に掴みかかってやがる!」

「ストップだ爆豪少年! 君はもう行動不能扱いだと……あっ、ちょっ!」

 

 赤髪の少年、切島が叫んだように麗日と合流しようと背を向けようとした出久へ爆豪が掴みかかっている。

 その瞳は揺れていて、認めたくない現実を直視できていないかのようだった。

 オールマイトが静止するけれど、画面を見た限り爆豪が小型無線機を外したらしく、頭を抱えている。

 

 モニタールームがどうするんだと騒然となる中、爆豪に詰め寄られていた出久が動いた。

 

 胸ぐらを掴まれたまま、奴の溝尾に思いっきり膝を入れる。

 そのまま衝撃で手を離して踞ろうとする爆豪の背へ回り、首に腕を回し絞め落とす流れに入った。

 爆豪は暴れる間も無く、そのまま意識を失った。

 気絶した爆豪の呼吸の確認をした出久は、無線機に何かを話しかけている。

 

「あ、う、うん、済まないね緑谷少年。爆豪少年はこちらで回収するよ…………ああ分かった、訓練は続行しよう」

 

 あまりの手際の良さに唖然としていたモニタールームに、驚きを含んだオールマイトの声が響き、続いて皆の意識が戻ってきた。

 

「流れるように気絶させたぞ!?」

「個性を一切使わずに無力化させるとか凄すぎだろ!」

「爆豪は才能マンだと思ってたけど、緑谷は達人って感じのあれだ! 動きだ!」

 

 出久を褒めそやす声が上がる一方、爆豪の暴挙に眉をひそめている者も何人かいた。

 この中から障子が、オールマイトへと質問、というよりは苦言を投げかける。

 

「オールマイト。どう見ても明確なルール違反だと思うが、まだ続けるのか?」

「うむ。緑谷少年から気にせずに続けたいと言われたからね。実害を被った彼がそう言うなら、今回は構わないだろう」

「そうか……しかし同じチームの飯田が哀れだな」

 

 障子の視線の先を見れば、いつの間にか麗日と対峙していた飯田がとても苦い顔をしているのが映っている。

 一連の流れは無線機ごしに全員に伝わっていた為、あちらの二人も状況は分かっているのだ。

 飯田には気の毒だけど、今回は運がなかったと諦めてほしい。

 

 その後、出久が麗日と合流して核を持って逃げる飯田を出久の指示により挟み撃ちにして確保する事に成功。ヒーロー側の勝利となる。

 途中で気絶し、搬送用ロボに担架で回収された爆豪は保健室へと送られた。

 

 モニタールームへと降りてきた三人の顔は全体的に暗めだった。

 

 出久は無事終わった事にほっとしている一方、爆豪の件があったからか、あまり晴れた表情ではなく。

 麗日は出久を心配そうに見ていて、勝敗については気にしていない感じ。

 そして色々な意味で散々だった飯田は、分かりやすく影を背負って落ち込んでいる。

 

 三人の様子にクラスメイトたちもどう接していいか分からず、オールマイトが講評を始める宣言をするまでは戸惑ったままだった。

 

「さて、初戦からハプニングもあったが講評の時間だ! 今回のベストは誰か……まあ皆分かっているかな。緑谷少年だ!!」

「あ、ありがとう、ございます」

 

 そう言われた出久はぺこりと頭を下げて笑顔を作っていた。

 少しぎこちない笑みに、彼なりに空気を和らげようとしているのだと感じた私はぱちぱちと拍手をする。

 皆が驚いて私を見てから、意図に気づいた数人も拍手をして、クラス全体に広がるまでそう時間はかからなかった。

 それにより苦笑気味ではあるけれど、出久の笑顔からぎこちなさが消えた。

 

 暗い空気が払拭されたからか、ほっとしたオールマイトが話を進める。

 

「うんうん、仲間の健闘を称えるのは良いね! さて、各個人で良い点、悪い点があった訳だが、分かる人!」

「ハイ、オールマイト先生」

「八百万少女!」

 

 スッと手を挙げて当てられたのは八百万。

 

「緑谷さんについては、これと言った悪い点は見当たりません。作戦の立案、奇襲への対応から確保への流れ、暴走した爆豪さんを素早く行動不能にしたのも高評価ですね。その後は麗日さんと連携して室内で速さに制限のある飯田さんを上手く捕らえました。強いて悪い点らしきものを挙げるとすれば、個性を使っていない、というぐらいでしょうか。昨日のテストを見た印象では制御が拙いようなので、使っていれば逆にマイナス点になったかもしれませんが」

「は、はい」

「麗日さんは中盤に気が緩み、飯田さんに気が付かれたのはよくありませんでした。加えるならおおよその行動が受け身で、緑谷さんの指示に従うだけ。積極的に意見を述べるのも訓練の内かと」

「うー……」

「爆豪さんの行動は、見た限り私怨丸出しの独断。確保されてからも納得がいかず設定を無視して襲いかかった挙げ句、無線を外して先生からの警告を無視するなど、この訓練では最も酷いと言わざるを得ません」

 

 スラスラと言葉を紡いでいた八百万が、三人の講評を終える。

 そして飯田へと視線を向けて、少し言い辛そうに続ける。

 

「飯田さんは……その、置かれた状況下では最善を成したのではないでしょうか」

「…………ありがとう」

((((だいぶ言葉を濁した!!))))

 

 

 この場の心境が一致した瞬間だった。

 

 

 

 

「さあ! 気を取り直して次のチームだ!!」

 

 

 飯田への同情の空気を吹っ切るように、第二戦のチームが発表される。

 ヒーローチームが私と障子のBコンビ、ヴィランチームが葉隠と尻尾男子、尾白のIコンビ。

 相手には悪いけど、これはすぐに終わる。

 出久も私のやりそうな事が想像についたらしく、見送る際に「……程々にね」と言われてしまった。

 

 核を設置するヴィランチームを待つ間に、私は障子に作戦とも言えないやり方を伝える。

 ちなみに最後まで聞き終えた後の彼の反応がこちら。

 

「……えげつないな」

 

 うん、私もそう思う。

 

「けど、これが設定的にも最善だから」

「ああ、今回は索敵役に徹しよう」

「お願い」

 

 さあ、もうすぐ開始時間だ。

 出久も頑張ったのだから、私も本気でやらないと。

 

 

 

 

ー緑谷出久ー

 

 

 

「それじゃあ第二戦、スタート!」

 

 

「デク君、どっちが勝つかな?」

 

 オールマイトの開始宣言で凍夏ちゃんの戦闘訓練が始まると、麗日さんが話しかけてきた。

 少し距離感が近い事に照れそうになりながら、僕の考察……というより凍夏ちゃんが一番に取りそうな手を考えながら口を開く。

 

「多分だけど……決着はすぐに付くと思うよ」

「そうなん?」

「凍夏ちゃんが今回の設定でヒーロー側なら、一番にやれる事が、ね……」

 

 ヒーローチームが映るモニターでは、障子くんが腕に耳や目を増やして、恐らく索敵をしている。

 それが終わったら、口に変えて凍夏ちゃんへと話しかけていた。

 ヴィランチームも透明な葉隠さんが手袋や靴を脱いで遊撃へと出たらしいが……あまり意味はないだろう。

 障子くんがビルの外へ出ているのを見て、一応注意を言っておく。

 

 

「麗日さん。寒くなるから、身構えてた方が良いかも」

「へ?」

 

 

 麗日さんがぽかんとした直後。

 

 凍夏ちゃんから放たれた冷気が、ビル全体を包み込んだ。

 

 画面に見える全てが凍っていき、核の部屋にいる尾白くんや廊下に潜む葉隠さんの足が氷で固定される。

 地下のモニタールームにまで及ぶあまりの規模と寒さに全員が震えて唖然とする中、凍夏ちゃんが障子くんを呼び戻してビルを上がって行く。

 四階まで上がっていき、身動きの取れない葉隠さんをテープで確保。

 続いて尾白くんのいる核の部屋にたどり着くと、障子くんが彼を確保し、凍夏ちゃんが核へと触れた。

 

「仲間を巻き込まず、核兵器にもダメージを与えず、尚且つ敵も弱体化!」

「最強じゃねェか!!」

「ひ、ヒーローチーム、WIN!!」

 

 オールマイトが震えながら勝利を宣言すると、今度は凍夏ちゃんから熱が発されて、みるみるうちにビルの氷結が溶けていった。

 半冷半燃、氷と炎を操る個性。

 幼い頃からの特訓で、この程度なら何の負担もなく出来る。

 

 これが、轟凍夏。

 僕の幼馴染で、有名なヒーローの父を持つ、雄英高校推薦入試での合格者。

 凄すぎる彼女に対して、劣等感が無い訳ではないけれど。

 

 今の僕があるのは、凍夏ちゃんのお陰だから。

 

 ヒーローになる夢を諦めて卑屈にならずに済んだのは、彼女と出会えたから。

 

 無個性だった頃から、ヒーローになれると言ってくれた、かけがえのない人だから。

 

 嫉妬なんて感情は、とうの昔に消え去って。

 

 君とヒーローを目指す日々を、楽しみにしているんだ。

 

 

 ……ただ、モニタールームに帰ってきた凍夏ちゃんからほわほわした笑顔でVサインを向けられた事で、恨めしそうな視線を幾つも突き刺される羽目になったのは勘弁してほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘訓練が順調に終わり、放課後。

 誰かが訓練の反省会をしようと言い出し、大体の人が残っていた。

 居ないのはまだ保健室にいるらしき爆豪、彼の様子見と荷物を届けに行った出久だけ。

 私も付いていきたかったけど、二人で話したい事があるから待っててほしい、と言われたので渋々断念した。

 

 少しだけしょんぼりしながらクラスメイトたちの話を聞いていると、私の話題が中心になり始める。

 

「しっかし凍夏ちゃんにはしてやられたよー! 何も出来ずに終わっちゃった!」

「本当にね……勝負にすらならないなんてな……」

「緻密な操作だけでなくあれほど大規模な空間制圧も出来るなんて、流石ですわ」

「ありがとう。けど二人の場所が分かったのは障子のお陰。正確な索敵は心強かった」

「そう言ってもらえるとありがたい」

「場所がバレてたなんて私の立場が無くなっちゃう! 靴に手袋まで脱いだのに!!」

「かといって全裸はどうかと思うよ、葉隠さん……」

「索敵タイプの個性は便利だよなー。このクラスじゃ障子と耳郎か?」

「ウチ、音を拾うのには自信あるよ」

「俺もそれなりには」

 

 わいわいと私の周りに集まる皆の勢いに押されながらも、今まではなかった交流を楽しく感じる。

 知ってか知らずかは分からないけれど、あの父親の娘というフィルターがかけられずに接してもらえるだけで、雄英に来た甲斐があったと思う。

 帰ったら姉さんにも話そうと考えていると出久が戻ってきて、皆が彼の元へと寄って行った。

 

「緑谷戻ってきた!! お疲れ!!」

「一戦目から凄かったぜ!!」

「よく避けたよー!」

「わわわ……!?」

 

 周りに人が集まってきてチヤホヤされる出久は、慣れていない状況にあわあわしている。

 さっきまでの私と似た光景に、笑みが溢れてしまう。

 皆に自己紹介をされながら色々と聞かれている光景は、私としても嬉しい。

 これまでの出久の努力が形を成して、皆に認められている証拠だから。

 ……胸の奥に少しの寂しさが沸いたのは、あまり良い感情ではないかもしれないけれど。

 一旦解放されたらしい出久が肩を落としながら席に座ったので、寂しさを埋める意味も含めて彼の近くへと歩み寄る。

 

「お疲れ?」

「ああ、うん……こういう感じ、慣れてないからね……」

「私も。肩揉んであげる」

「えっ……い、いやいや、悪いよ!」

「……嫌?」

「嫌じゃないけどそうじゃなくて!」

「なら遠慮しないで」

 

 何故か言い訳を探すように慌てている出久の肩に手を添えて、少しずつ力を入れていく。

 もみもみと凝り気味の筋肉を解していくにつれ、徐々に抵抗が無くなってきた。

 出久は力を抜いている、というよりはぐったりしている意味で脱力している気がするが、どうしたのだろう。

 

 そういえば、いつの間にか教室が静かだ。

 皆の方を見れば、おおよそ全員が何故かこちらをガン見していた。

 顔を赤くしている子もいるけれど、なんだろう。

 

「あー、えっと、ちょっといいかな」

 

 その中から尾白が私たちへ声をかけてきた。

 他のクラスメイトたちから、まるで魔王へ立ち向かう勇者のような視線を向けられている。

 

「どうかした?」

「ずっと気になってたんだけど、その、二人は付き合ってるのか?」

 

 どんな質問が来るのかと思えば、なにか妙な事を言われた。

 

「付き合うって、何に?」

「は? いやだから、恋人、なのかな、って……」

 

 余程不思議そうな目をしていたのか、尾白の声は徐々に小さくなっていく。

 恋人。

 尾白には……というかクラスメイトたちには私と出久が男女の仲に見えるらしい。

 頭を傾げながら、私は私たちの関係を言葉にする。

 

「私と出久は幼馴染って、言ってなかったっけ?」

「それは聞いたけど…………えっと、付き合ってない、のか?」

「うん。ね、出久」

「そうだね……うん、やっぱりこれ、おかしいんだ……」

 

 出久へと言葉を向ければ、何とも言えない表情で呟きながら頭を抱えていた。

 私たちの答えに、クラスメイトたちは一瞬間を空けて。

 

「「「「はああああ!!??」」」」

 

 絶叫とも言える叫びを上げた。

 

「えっ、嘘だろ!? これで付き合ってねえの!?」

「幼馴染でも男女でその距離感は近すぎるだろ!!」

「いやでも付き合ってないだけで凍夏の一方的なLOVEの可能性も!!」

 

 芦戸の言葉に、皆がはっとしたように私を見る。

 けど、注目されても困る。

 

「……?」

「駄目だ! これ分かってない感じだ!」

「じゃあ逆に緑谷は!?」

 

 首を傾げる私は放置されて、今度は出久に注目が集まる。

 しかし出久も出久で俯いたまま。

 

「かっちゃんが真っ当な幼馴染じゃなかったから気にしてなかったけど一般的には凍夏ちゃんの距離感はおかしいんだいや僕も度々おかしいとは思ってたけどお母さんや冬美さんが問題ないみたいに言ってたから僕もそうだと思い込まされていただけなんだ二人ともどういうつもりなんだまさかそういう意味で僕と凍夏ちゃんをどうこうしたくて接させてた訳でもないだろうにでもかといってスキンシップを凍夏ちゃんが止めるかと言ったらそうでもないんだろうけどというか末っ子気質の強い彼女にお願いされたら断れないんだよなあ自分の願いを通す天才とでも言えば良いのか直す直さないとかじゃないし……」

 

「デク君のこれ通常運転なんやね」

「考えをまとめる時はこんな感じ。あんまり反応ないから気にせず触れるよ」

「そうなんや」

((((緑谷怖いし轟も大分マイペースなのに気にせず話せる麗日凄い!!))))

 

 ブツブツと呟く出久の髪に顔を埋めながら、一人近づいてきた麗日にそう答える。

 

 もふもふした緑の髪は柔らかくて、何度触れても癖になる感じ。

 

 ほんのりと滲む汗は、彼と鍛練をしている時によく嗅ぐ匂い。

 

 もっと出久を感じたくて、抱きしめるように腕を回した。

 

 とても落ち着いて、けれどどこか胸が疼くようなこの気分は……

 

 

「お前らいい加減にしとけ」

 

「うぎゅ」

「へっ……あだっ!?」

 

 何か頭に衝撃を感じて痛みで思わず出久から離れれば、彼も頭をクリップボードの横で叩かれている。

 その行為者……担任の相澤は私と出久に睨むような視線を向けていた。

 

「別に生徒同士の関係に口を出す気はない。が、風紀を乱すのは止めろ。他のやつらの目の毒だ」

 

 彼の指し示す方を見れば、先程より顔を赤くして目を背けるクラスメイトたちがいた。

 いや、麗日は口笛を吹くような顔でそっぽを向いているだけか。

 多分先生の接近から見捨てた事を誤魔化そうとしているんだろう。

 

「分かったら返事。他のやつらもそろそろ帰れ。もうすぐ下校時刻だぞ」

「は、はいっ!」

「「「「失礼します!」」」」

 

 相澤が鋭い視線でクラスを見渡すと、皆は慌てて帰る準備をして教室を後にする。

 私も何が起きたかいまいち理解しておらず返事だけしていた出久を促して、共に帰路へと着いた。

 

 

 以降、私たちが一緒にいる時に限り、私と出久との関係に口を出さないようにするという暗黙の了解が出来上がったと、後にこっそり麗日より聞かされた。

 

 私は内心ほっとして、心の中で温めている想いに意識を向ける。

 

 芦戸の指摘を誤魔化した時、私は首を傾げただけで。

 

 好きか嫌いかの疑問には、一言も答えてない。

 

 つまりは、そういう事。

 

 

 ――私は、出久に恋をしている。

 

 

 これは二人が最高のヒーローなるまでの物語であると同時に。

 

 轟凍夏が緑谷出久に、最高の想いを伝える物語でもある。

 

 

 




 オリ主の戦闘服は明るめのシアン色で原作焦凍くんと現見ケミィさんの戦闘服を合わせた感じだと思って頂ければ。つまり結構パツパツ。
 今回の場合、オリ主が要望をきっちり書いてる割に地味すぎるから、デザイナーの勝手で少しでも派手さを追求した感じです。
 ヒーローのコスチュームデザイナーは見た目も機能も重視したいこだわりを感じると同時に、エロ親父疑惑も感じている作者です。

 あと爆豪の扱いが酷い感じで爆豪ファンの方ごめんなさい。
 原作と違い爆豪は出久がずっと鍛えているのを知っている(出久は知らないと思ってる)ので、ある程度出久を認めていたが故の暴挙です。
 爆豪視点での思いもいずれ。
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