半冷半燃少女は幼馴染   作:セロリ畑

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 全編通して出久視点。
 この出久くんの原点は幼少期に。



7:緑谷出久:オリジン

 僕、緑谷出久の人生は、平坦とは言い難い道の上にあった。

 四歳で発覚した無個性という現実が、おおよその理由を占めている。

 オールマイトに憧れていた僕はヒーローになりたくて、けれど無個性であるだけでそれは不可能だと否定されてしまう。

 お母さんさえ謝るだけで、辛くて、現実を信じたくなくて。

 

 ふらふらと家から遠くの公園にたまたま足を踏み入れたあの日。

 

 轟凍夏という女の子に出会うまでは。

 

 

 幼い頃の凍夏ちゃんとの思い出で、印象的な事は二つ。

 

 一つは、出会ったばかりの時。

 

 

『ぐすっ……もう、やだよぉ……』

 

 

 公園のベンチに座り込みひとりぼっちで泣いている赤白の髪の女の子を見て、幼い僕は自分が失意の底にいる事も忘れて駆け寄った。

 

 

『だいじょうぶ? どこかいたいの?』

 

 

 かけられた声にびくりと震えた後、彼女は恐る恐るとこちらを見上げる。

 視線が合い、涙ぐんだ少女の目が見えた僕は、つい思った事を声を出てしまう。

 

 

『きれい……』

『え…………』

『あっ……ごごごごめんいきなり! かみのけもきれいで目もきれいとかおもわずこころのこえがでちゃってってなにいってるんだぼく! あ、こ、これハンカチ! ぼくのだけどつかってないしきれいだとおもうからよかったらつかって!』

 

 

 早口で喋る僕を、女の子はぽかんとしたまま見ていて。

 

 

『…………ふふっ』

『っ!』

 

 

 おかしそうな顔で小さく、けどしっかり微笑んでいた。

 この時の笑顔が、今でも思い出せるぐらい鮮明に記憶に残っている。

 

 

 これが一つ目。

 

 

 もう一つも、この少し後の事。

 

 

 涙をハンカチで拭いた彼女と友達になり、家に帰りたくないというので僕の家へ連れていったんだ。

 

 

『とうか。とどろきとうか。とうかってよんで』

『ぼぼ、ぼくはみどりやいずく!』

『いずく、だね』

『う、うん! とうかちゃん』

 

 

 それまでかっちゃんたち男の子としか話した事がなかった僕は、女の子の友達に緊張したりして。

 家に帰れば、お母さんに少し驚かれながらも歓迎されて、僕の部屋でオールマイトのグッズで遊んだりしながら、楽しい時間を過ごした。

 途中で凍夏ちゃんを泣かせてしまった気もするけど、何があったかは覚えていない。

 

 たくさん遊んでお昼寝をして、遅い時間まで家にいた凍夏ちゃんを、お母さんが家の人が心配するから送ると言った時。

 

 

『……もう、かえりたくない。おかあさんはいなくなっちゃったし、おとうさんはいじめるから』

 

 

 凍夏ちゃんは胸の奥に溜め込んだものを吐き出した。

 兄姉と離されて、一人で辛い訓練をさせられて、心の拠り所だった母に拒絶された事を。

 

 小さな僕には分からない話も多かったけど、凍夏ちゃんが苦しみに苦しんでいる事は分かった。

 

 同時に、この子は僕と同じなんだとも。

 

 あるか無いかの違いはあっても、個性に振り回されているんだと。

 

 

 だからか、難しい顔をしたお母さんに、僕はこんな事を言った。

 

 

『ぼくが、とうかちゃんについていく!』

 

 

 それからは必死だったからか、よく覚えていない。

 

 お母さんと一緒に凍夏ちゃんの家に行き、彼女を背に庇いながら険しい顔のエンデヴァー相手に思いのままを叫んでいた事。

 

 思い詰めたような彼に、母が何かを言っていた事。

 

 その日、僕は轟家に泊まった事。

 

 そして、笑った凍夏ちゃんから。

 

 

『いずくは、ヒーローになれるよ』

『こせいなんてかんけいないもん』

『わたしは、むこせいのいずくにたすけてもらったんだから』

『いずくはもう、わたしのヒーローだから』

 

 

『だからいずくは、ヒーローになれるよ』

 

 

 生まれて初めて、ヒーローになれるって言ってもらえた事。

 

 これがもう一つ。

 

 

 僕はただただ泣いて、慌てる凍夏ちゃんも泣き出して、泣きつかれた僕たちはそのまま一緒に眠ったのだった。

 

 

 無個性の僕がヒーローだったと、ヒーローになれると初めて肯定されて、僕が改めてヒーローを志した日。

 

 

 これが、僕のオリジン。

 

 

 その日から凍夏ちゃんとの深い交流が始まった。

 少し雰囲気の柔らかくなった気がするエンデヴァーに、ヒーローになるための稽古をつけてもらい始めたのもその頃だ。

 血反吐を吐くようなキツい訓練だって、ヒーローになるためにと頑張った。

 応援してくれた凍夏ちゃんも頑張っているのだから、弱音なんて吐かなかったし、吐くつもりもなく。

 相変わらずかっちゃんたちには馬鹿にされて虐められていたけど、心の支えがある僕には耐えられる事だ。

 

 ……いつだったかその事をぽろっと漏らしてしまい、凍夏ちゃんが激怒したのをどうにか慰めたのを覚えている。

 一度、どうしてやり返さないのかとも言われた。鍛えている僕なら、無力化するのも簡単な筈なのにと。

 

 

 けれど、ヒーローは私欲で力を使うんじゃないから。

 

 鍛えているのはヒーローになって人を助けるためで、虐めっ子にやり返す為じゃないから。

 

 

 こう言えば凍夏ちゃんには呆れられながらも、嬉しそうに『出久らしいね』と言われたっけ。

 ただこの時点で凍夏ちゃんがかっちゃんに対して完全に敵意を向けていたので、会わせてほしいと真顔でされたお願いだけは、断固として拒否した。

 

 そうしてヒーローになる努力を続けてきたお陰でヘドロ事件の時もセメントで固める発想を思いつきかっちゃんを助ける事が出来たし、オールマイトから個性を引き継ぐ為の肉体も問題がなかった。

 未だに個性を上手く使う感覚が分からなくて、制御が出来ていないんだけども。

 

 雄英に入れたとはいえ、僕はまだまだ皆から出遅れている。

 

 もっともっと頑張らないといけない。

 

 そんな志で望む筈だった救助訓練。

 

 

 これが最悪の始まりで、僕の、僕たちの波乱の幕開けだった。

 

 

 

 

 水難ゾーンに一緒に飛ばされた蛙吹さん、峰田くんと共にどうにか第一関門を突破した僕は、指の激痛に耐えながらこれからの行動についてを考えていた。

 

「緑谷ちゃん、次はどうしましょう?」

「とりあえず、救けを呼ぶのが最優先だよ。このまま水辺に沿って広場を避けながら出口へ向かおう」

「そうね。広間は相澤先生が敵を大勢引きつけてくれてるもの」

「せ、先生はあの大人数相手で大丈夫なのかよ……」

 

 心配そうに広場を見る峰田くん。蛙吹さんも顔には出していないが、同じ心持ちのようで。

 

 けれどまだ僕たちでは、先生の力にはなれない。

 敵を倒したから錯覚しそうになるが、飛ばされる前の観察で僕たちの力が通じそうにない敵が居たのを見ていたからだ。

 

「大抵はどれも個性をもて余したチンピラみたいなものだから大丈夫だと思う。ただ、明らかに格が違うのが何人かいるから、そっちが心配だね……」

「ケロ……緑谷ちゃんがそういうなら、そうなのでしょうね」

「お前ら本当落ち着きすぎだろ! てか、ま、まさか加勢するとか言わないよな……!?」

「慌てても何にもならないからね。加勢も駄目。僕たちじゃ散らばってるのには勝てても、本当に危ない奴らには、今は手も足も出ない。人質にでもなったら目も当てられないよ。だから一刻も早く救援を呼ぶのが、現状僕たちが出来る精一杯だ」

 

 僕の言葉に蛙吹さんは頷き、峰田くんも顔を青くしながら精一杯気合いを入れていた。

 

 見つからないように遠回りで出口を目指そうとした、その時。

 

 

 

「本命は、俺じゃない」

 

 

 

 背筋が凍るような声色が、やけに大きく響いた。

 

 

 

「対平和の象徴、改人『脳無』」

 

 

 

 震える身体で視線を向ければ、相澤先生が脳味噌剥き出しの巨漢の敵に組み倒されて右腕をへし折られている。

 

 

「個性を消せる……素敵だけどなんてことはないね。圧倒的な力の前ではつまり、ただの無個性だもの」

 

 

 続けて左腕も、先生が視ているにも関わらず、まるで小枝でも折るかのようにグシャリとへし折った。

 イレイザーヘッドの個性でも無効化出来ない、つまりは素の力であの怪力という事。

 そんな相手が、今あそこにいる。

 

 

「ケロ……」

「み、緑谷……ヤバいってこれ……!」

 

 

 峰田くんが声を震わせながらそう言うが、この状況ではどうする事も出来ないのは彼も分かっている。

 頼みの相澤先生が倒れた、ここからの行動をどうするか考えないと。

 

 焦りながら思考を回す僕の目に、更に絶望的な光景が広がる。

 ワープと思わしき個性の黒いもやの敵が、広場に戻ってきたのだ。

 

 

「死柄木弔」

「黒霧、13号はやったのか」

「行動不能には出来たものの、散らし損ねた生徒がおりまして……一名逃げられました」

 

「…………は?」

 

 

 けれどそれは朗報付きで、クラスメイトの誰かがUSJから逃げられたという報告もあった。

 可能性が高いのは足の速い飯田くん、次点で透明で隠密が可能な葉隠さんといったところか。

 

 どちらにせよ救援の見込みは立った。後は今をどう凌ぐかだ。

 

 

「はーー……黒霧お前、ワープゲートじゃなかったら粉々にしたよ……あーあ……」

 

 

 主犯格らしき身体中に手を付けた不気味な男が、首をガリガリと掻きながらぼやいている。

 どう見ても子どもじみた様子は、今回の犯人像とはどうも結び付かない。

 

 ここまで大がかりな襲撃を、こんな奴が考えられるのか?

 

 

「流石に何十人ものプロ相手じゃ敵わない。今回はゲームオーバーだ……帰ろっか」

 

 

 ……何だって?

 

「帰る……? カエルっつったのか今!?」

「そう聞こえたわ」

「やっ、やったあ! 助かるんだ俺た……ごぼぼ……」

 

 敵の帰還宣言に喜ぶ峰田くんは、どさくさに紛れて蛙吹さんの胸を触ったらしく、水の中に沈められていた。

 

「けど、気味が悪いわ」

「うん……これだけの事をしといて、あっさり引き下がるなんて……後、蛙吹さん。今は沈めるのは止めてあげて」

「ケロ……そうね」

「ぶはぁっ!?」

 

 ゲホゲホと水を吐く峰田くんを横目に、僕は混乱していた。

 オールマイトを殺すと言っておきながら、プロが来ると知れば躊躇無く撤退を決める。

 これでは雄英の危機意識が上がるだけで、相手にとって今回の襲撃の意味が殆ど無くなってしまう。

 ゲームオーバーとも言っていたが、まさか遊び感覚でやっているのか?

 

 

 

「けどもその前に、平和の象徴としての矜持を」

 

 

 

 しかし、敵の続いた台詞を聞いて、僕は強制的に思考を打ち切った。

 

 危機を告げる信号が、頭の中で警報を鳴らしたからだ。 

 

 即座に水から上がり、左手で無事な人差し指を構える。

 

 

 

「少しでもへし折って帰ろ「SMASH!!」ぅぐっ!?」

 

 

 

 直感に従い指を弾くと、蛙吹さんに迫っていた死柄木という敵の腹に、風圧による攻撃が直撃する。

 が、それは思った程の威力にはなっておらず、相手は倒れないで後退するだけに留まっていた。

 加えて言えば、僕の人差し指も折れていない。

 

 この土壇場で力の調整が上手くいったのは嬉しいが、吹き飛ばすつもりでやったので何もこのタイミングに出来なくてもと、少しばかり恨めしく思う。

 

 

「げほっ、糞餓鬼が……スマッシュ? オールマイトのフォロワーかよ、気持ち悪ぃ……」

 

 

 死柄木は鳩尾に入ったのか少し咳き込んでいたが、すぐに呼吸を整えて僕を忌々しげに睨み付けている。

 けど、これで狙いは僕だけになった。

 

 

「蛙吹さん峰田くん!! 今のうちに逃げて!!」

「ケロ!?」

「み、緑谷ぁ!? お前を見捨てて行けって言うのかよ!?」

「良いから早く!!」

 

 

 そう言って僕は死柄木へ向かい駆け出す。

 後ろから悲鳴のように制止する声が聞こえるが、無視する。

 

 相澤先生が倒れた今、この場で動けるのは僕だけ。

 

 先生を、蛙吹さんを、峰田くんを助ける為にも、動かなきゃいけない。

 

 幸いにも、さっきまでと違い僕には手札が増えた。

 

 

(身体が壊れないワン・フォー・オールの感覚は今ので理解できた……割合で換算して、二割程……!)

 

 

 負担無く制御出来る力を、身体中に巡らせる。

 今までも発想としてはあったのだが、調整が出来なければ意味がないやり方。

 

 

(個性を使うのではなく、纏う! 身体全部にワン・フォー・オールを!!)

 

 

 全身に個性を発動させて一気に敵の前まで迫り、僕は右腕を振り抜いた。

 

 

 

「20%デトロイトスマッシュ!!」

 

 

 

「脳無」

 

 

 

 それは、死柄木に当たる直前に間に入ってきた。

 

 先生を押さえていた筈の脳無と呼ばれた敵に、僕の攻撃は思いっきり入った……というのに。

 

 

「効いてない……!?」

 

 

 ほんの少しも後退せず、壁のように立ちはだかっている。

 

 

「いい動きだが……脳無には効かない」

 

 

 厭らしい笑みを浮かべながら言う死柄木に、僕は即座に判断を変える。

 

 

「100%デトロイトスマッシュ!!!!」

 

 

 折れた指のある左手を握り締めて、個性の調整を手放した状態で全力で殴り付ける。

 左腕全体に激痛が走るが、歯を喰い縛ったまま我慢する。

 

 そしてすぐに相澤先生へ駆け寄り、右手で抱えてから遠くへと飛び退いた。

 

 

「嘘……だろ……!?」

 

 

 しかし、それでも脳無は殆ど堪えていない様子で、その場にいた。

 

 

「無駄無駄。自分の腕を折るぐらいのとんでもパワーも、ショック吸収のコイツには効かないよ」

「そん、な……!?」

 

 

 腕を壊しても全く意味がなかった事実に、僕は唖然とする。

 

 

(100%はオールマイトの力、それが通用しなかった。つまり奴らのオールマイト殺しの本命は……!)

 

 

「緑谷、逃げろ……俺は置いていって構わん……!」

 

 

 腕に抱えた相澤先生の言葉に、絶望に呑まれかけていた思考が止まる。

 

 僕は今、自分以外の命も背負っている。

 

 腕の一本を駄目にしたぐらいで、弱気になってる暇はない!

 

「聞けません。僕はヒーローになりたいんです……!」

「駄目、だ……ぐ……」

 

 

「やれ、脳無」

 

 

 死柄木がそう、指示を出すと同時。

 

 

 USJ入口の扉が、吹き飛んだ。

 

 

 

「もう、大丈夫」

 

 

 

 そこから聞こえた声は、皆に希望を与える人のものだったけれど。

 

 

「私が来た!!!!」

 

 

「オールマイトォォ!!!!」

 

 

「あー……コンティニューだ」

 

 

 

 現れた最高のヒーローは、笑っていなかった。

 

 

 




 この出久くんは幼少期からの特訓のおかげで20%ぐらいなら余裕です。
 見た目はあんまり原作と変わってないつもりなので、細マッチョって事で一つ。

 あと話には直接関係ありませんが、この世界の出久ママこと引子さんは太っていません。
 言うタイミング忘れそうなので一応。
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