VRアイドル『えのぐ』の二次創作短編小説です。

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終わらない始まり

 騒々しい夏の暑さが過ぎ去り、木枯らしと共に秋も吹き流れされて、あっという間に冬が訪れた。学校も冬休みに入り、えのぐの活動も年内の節目へと差し掛かる頃、私たちは、人影のない公園で二人っきりのランチを楽しんでいる。

なぜこの真冬の時期にわざわざ外でお昼を取らなければならないのかは、私にもわからない。ただ、彼女が外で食べよう、と提案したので何の考えも無しに二つ返事をした結果、こんな状況になっていた。

 

「ねぇ、あんず」

 

 手袋を履いた手で器用にポットのココアを注ぎながら桜ちゃんが話しかけてくる。

 

「私、福岡に帰るんだ」

「え、そうなの?」

「うん、来週末に」

「そっか、冬休みだもんね。丸茂さんには話してるの?」

「うん、もう伝えて、分かったって」

「じゃあ、何の問題もないね、ゆっくりしておいでよ」

「そう、だね」

 

 桜ちゃんはココアを一口飲んで、いつもと変わらない笑顔を私に向ける。私も笑顔で返した。ただ、少しだけ、ほんの少しだけ、私の頭の中にモヤモヤした疑念が住み着くようになった。

 

 翌週のレッスン日、その場に桜ちゃんは遅れてきた。丸茂さんと共に。

 誰かが口を開くよりも先に丸茂さんが口を開く。その瞬間、私の頭の中に住み着いていた疑念は確信に変わり、瞬く間に真実へと形を変えて姿を現した。

 

「桜子が年内限りでえのぐを脱退する。家庭の事情で福岡へ帰ることになった」

 

 時間の概念が意味をなさないほどの間、私たちは言葉を噤んだ。何かを話せば、この場が崩れる。この5人がそろっている空間が壊れてしまう。そう思って。

 だけど、4人の思いとは裏腹にこの状況を終わらせたのは、他ならぬ彼女だった。

 

「みんな、ごめん、なさい」

 

 その一言だけを残して、丸茂さんと共に、彼女はこの場を後にする。

 

「ま、待って……。

待ってよ、桜ちゃん……」

 

ようやく時間を取り戻して、なんとか声を発した時には、私たちの前に彼女はいなかった。

 

 半月後、年の瀬も過ぎ、新年を迎えていくつか時間が過ぎた。えのぐの活動はいつも通り行われている。桜ちゃんの脱退はビデオでファンに伝えられた。多くの反響がコメントに寄せられたが、彼女のいつにない真剣な態度と家庭の事情というどうにもできない事実を前にファンからも諦めの声が上がり、それ以上、脱退に関するコメントが発せられることはなかった。

 誰が唱えたわけでもないが、私たちも彼女のことを口にしないようになっていった。そして、心に残ったもやを消し去るためにも、がむしゃらにレッスンを続けた。

 

「ワン、ツー、スリー、フォー、ワン……あんず遅い!」

「ご、ごめんなさい」

「……ちょっと休憩しようか」

 

 なるべく考えないようにと、引っ切り無しに動かし続けた体を止める。その場にしゃがみこんだ私に環ちゃんがドリンクを持ってきてくれた。

 

「あんず、大丈夫?」

「うん、平気……。4人のフォーメーション早く覚えなきゃいけないし」

「次のライブはまだひと月あるわ。焦らなくても大丈夫よ」

「それは、そうなんだけど」

 

 確かにまだ一か月ある。しかし、桜ちゃんが抜けた後には、あの小柄な体躯に見合わず大きな穴が開いてしまった。ダンスのフォーメーションだけでなく、歌のパート分けも覚えなおす。それを数曲やるとなると、ひと月はあまり余裕のある日程とはとても言えない。気持ちが焦るのも当然だった。

 

「桜子……」

 

 ハルちゃんが誰も口にしなかった名前を言葉にして発する。直後にその顔が何かに気付いたかのように少し歪めた。恐らく無意識に発してしまったのだろう。

 誰もが口を噤んだ。

 口にしたらそこに彼女がいない現実を認めてしまう。理解してしまう。名前を呼んでも返ってこない返事を皆が待った。理解したくないから。認めたくないから。いくら待っても返事が返ってこないことは理解しているのに。

 このまま現実から目を反らして、4人で活動を続けていればいつか自然な状態に戻るのだろうか。

4人のために曲が作られて、4人のフォーメーションが決まって、4人のイベントをやって。いつか世界中の人たちが私たち4人のことを見てくれて。

いつか彼女のことを忘れて……。

そんなの、無理だよ。

 

「私、行ってくる」

 

 急に立ち上がった私に3人が視線を向ける。もう何か待ってなんかいられない。以前、私がしたいことをすればいいと環ちゃんは言ってくれた。私は、桜ちゃんに会いたい。今すぐに会いたい。

 

「福岡に、桜ちゃんのところに行ってくる」

 

誰も何も言わない。もちろん、皆には迷惑をかけることになる。反対されるかもしれない。それでも、止められても、嫌われても、怒られても、ここを飛び出す覚悟をしていた。

 返ってくる反応が怖い。それでも、袖をぎゅっと握って我慢する。決して皆から目を反らさない。しっかりと前を向いて、受け止めて、ここから走り去ろう。そう覚悟を決めて3人の声を待つ。

 

「行ってらっしゃい」

 

 環ちゃんの言葉は予想に反して、素っ気なくも優しい一言だった。奈央ちゃんが背中を押して、ハルちゃんがドアを開けて送り出してくれる。

気づけば私は走り出していた。今更考える事なんて何もない。レッスン着のままでも気にせず、ただひたすらに彼女に会うため、無我夢中で走り続けた。

 

レッスン場を飛び出した私は、さすがにレッスン着で旅立つわけにもいかず、一度家に帰って着替えてから空港へと向かった。勢いに任せて出てきてしまったとはいえ、財布も忘れるなんて、少しは考えたほうが良かったと今更ながら後悔の念に駆られた。

家にあった通帳から下したお金で移動はなんとかなりそうだけど、一応、通帳のことも含めて環ちゃんに連絡しておこうかな。電話するため、カバン中からスマホを探す。あれ、スマホが……、もしかして、置いてきた?

 

「あー!」

 

 思わず、人目を気にせずに頭を抱えて叫んだ。

そうだ、レッスン場に置いてきたコートの中だ……。どうして、私は、こう……。

 

「……仕方ないか」

 

 忘れてきてしまったものは仕方ない。前に福岡の話を聞かせてもらった時、実家がある街の名前も聞いているし、何とかなるだろう。うん、何とかする。いざとなれば、公衆電話で連絡すればいい。

 搭乗手続きも済ませて、飛行機へ乗り込む。桜ちゃん、今、会いに行くよ。言いたいこともいっぱいある。絶対に取り戻すから。

 

 東京を飛び立ってから3時間。あっという間に福岡空港に到着した。

 さて、どうしよう。ここから桜ちゃんが言っていた街までは……。

 駅までの行き方を地図で調べていると一つの影が私に近づいてきたことに気付いた。

 

「あん……、ず?」

 

 顔を見なくても声だけでその影が誰のものか分かった。久しく聞いてなかった彼女の声に様々な感情が渦巻く。だけど、最初に私がすべきことは、一つだけ、会う前から決めていた一つだけだった。

 

「さくらちゃんのバカアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 全力で叫んだ。空港中に私の声がこだまする。

 

「え? えぇ!?」

 

 戸惑う桜ちゃんを他所に私は続ける。

 

「桜ちゃんは馬鹿だよ! どうして何も言わないでいなくなるのさ! 何で何も話してくれないの! もう会えないとか、そんなわけないって、ずっと信じてた。でも、桜ちゃん、何も言ってくれないし! 電話も、ラインも返してくれないし! やっと、やっと会えた……。もー! 良かったー!」

 

 会えない間に募り募った疑問と怒りと悲しみと、会えた時に溢れる安心と喜びが言葉となって次々と私の口から飛び出す。次々と涙も流れ出る。

 桜ちゃんは黙って私の頭を撫でてくれた。

 

「桜ちゃんがアイドル辞めたいなら、反対はしない。他にやりたいことがあるなら応援する。きっと、やりたいことが出来て、いつか笑顔で話してくれるんだって、そう思い込もうとしたよ。

でも、違うじゃん! 桜ちゃん、あんなに楽しそうにしてたのに、あんなにえのぐが好きだって言ってたのに、辞めるって丸茂さんが伝えにきた時、あんなに悲しい顔してたのに、本当に辞めたいと思ってるわけ……ない、よ」

 

 心の中に閉じ込めていた気持ちをすべて吐き出した私は、全身で叫んだせいか、緊張の糸が途切れたせいか、酷く疲れていた。その場にへたり込もうとしたところを桜ちゃんが支えてくれる。

 そうして、ゆっくりと口を開いた。

 

「ごめん、本当にごめんね、あんず。心配かけちゃったよね。私もどうしていいかわからなくて、いっぱい考えたけど、何を言っていいのか分からなくて。逃げるみたいな形で出て来ちゃったことを本当に後悔してたの」

 

 そう話す桜ちゃんの目にもひとしずくの涙が流れていた。しかし、彼女は涙を拭かずに続けた。

 

「私も辞めたくなかった。でも、約束だったの」

「約束?」

「アイドル活動は1年だけって、お父さんとの約束……。一年過ぎたら福岡に戻って地元の高校に通ってほしいって言われてたの」

「そんな、聞いてないよ……」

「ごめん。私、言い出せなくて……。言おうと思っていたら、あっという間に1年が経って、帰ってきなさいって……」

 

 桜ちゃんから告げられる真実を聞いて思わず涙も止まる。もう理由は分かった。泣いている場合じゃない、どうすれば桜ちゃんを東京に連れ戻せるか。どうしたら桜ちゃんのお父さんが許してくれるのか。必死に頭を回転させて考える。このまま何も言わずに連れて帰る? だめ、それじゃあ桜ちゃんに家族を裏切らせることになる。そうじゃなくて、ちゃんと、円満な解決方法を……。

 

「さくらちゃん、行こう」

「え? どこに?」

「桜ちゃんの家、連れて行って。私もお願いしてみる」

 

 そう言って、手を伸ばすと、桜ちゃんは笑顔で頷いて手を取った。

 

 空港を出発して1時間。桜ちゃんの生まれ育った家にたどり着いた。

まだ何をどう説明すればいいのか分からない。もしかしたら、怒られるかもしれない。やっぱりダメだって、拒否されるかもしれない。だけど、ここまで来て怖気付くわけにもいかなかった。絶対に何があっても桜ちゃんを連れて帰るって決めたんだ。

彼女と繋いだ手に思わず力が入る。桜ちゃんは、そんな私の手をぎゅっと握り返してくれた。一瞬見つめあって、家に歩みを進める。

 

 ガラガラガラガラ。

 玄関の扉を開ける音に気付いた女性がすぐに歩み寄って来た。恐らく桜ちゃんのお母さんだろう。

 

「お帰り、桜子。そっちの子は?」

「……ただいま。えっと、あんずって……」

 

 桜ちゃんがそこまで言ったところでお母さんはハッとした表情を見せた。

 

「あぁ、えのぐの! 貴方があんずちゃんね。いらっしゃい。遠くから大変だったでしょ、上がってゆっくりしていって」

「え、あ、あぁ、はい。お邪魔します」

 

 徹底抗戦する気で乗り込んだ私は、思わぬ歓迎に拍子抜けしてしまう。

 リビングに通された私と桜ちゃんは二人並んで座っているとお母さんは、お茶を出してくれた。お父さんは見当たらない。もしかして、出かけてるのかも。

 

「桜子がアイドル辞めること、よね」

 

 私たちの対面に座ったお母さんは、少しだけ申し訳なさそうに話を切り出した。

 

「そう、です」

 

 私も少し申し訳なく感じてしまった。私は桜ちゃんを連れていかれたと感じていたけど、そうじゃない。私たちに桜ちゃんを預けてくれていたんだ。1年だけという条件はあったにしても、娘を1人で遠くの都会に送り出すことはとても不安だっただろう。やっと約束通り帰ってきてくれたのに、また行ってしまう。それはあまりにも酷な気がした。

 だけど、私たちにも桜ちゃんが必要だということも変えようのない事実だ。なんと言われようが連れて皆のところに帰る。何度誓ったか分からない誓いをもう一度立てて、お母さんと目を合わせた。

 

「今まで桜ちゃんと一緒にアイドル活動を続けてきて、たくさんの時を一緒に過ごしました。笑いあえた時も、泣きあった時も、慰めあった時も、喜びを分かち合った時も、ずっと一緒でした。彼女抜きで私たちは成り立ちません。不躾なお願いだと自覚しています。だけど、私には……、いえ、私たちには彼女が、桜ちゃんが必要なんです! どうか、お願いします、私たちに桜ちゃんと一緒に夢を追う時間をください!」

 

 気持ちが昂ぶり、思わず一息で思いのたけをぶつけてしまった。だけど、私が伝えたいことすべて言葉に出来た。あとは反応を待つだけ。ダメだと言われたら……、その時は私も……。

 覚悟を決めて頭を下げると、桜ちゃんも続けて、頭を下げた。

 

「お母さん、我儘言って、ごめんなさい。でも、私もえのぐの活動をもっと続けたいの。もっとあんずと一緒に居たい。やっとやりたいことへの、夢への一歩を踏み出せたの! だから、お願いします。せめて高校を卒業するまで、あと2年だけえのぐを続けさせて!」

 

 二人並んで頭を下げ続ける。まるで永遠に続くのではないかと思うほどの静寂をお母さんの一声が打ち破った。

 

「二人とも顔を上げて」

 

 言われた通り、顔を上げてお母さんを見ると、とても柔らかな表情を見せてくれる。しかし、その目は微かに潤んでいた。

 

「桜子、あなたの目指してるものは2年やそこらで達成できるものなの?」

「そ、それは……。難しいと思う」

「じゃあ、2年なんて言わずにやりたいだけやってきな」

「え……、いい、の?」

「いいよ。お父さんには私から言っておく。今度は自分で辞めたいと思った時に帰っておいで、いつでも待ってるから」

「ありがとう……、ありがとう! お母さん!」

 

 桜ちゃんがお母さんに抱きつく。二人ともはっきりと涙を浮かべていたが、その表情はとても優しく、暖かさに満ちていた。

 桜ちゃんを受け止めながらお母さんが私に顔を向ける。

 

「あんずちゃん、ありがとうね。この子を迎えに来てくれて。突然のことで迷惑もかけたでしょう、ごめんなさい。この子がどうか、満足して福岡に帰ってこられるようお願いね」

「そんな、私こそ急にお邪魔して勝手なことばっかり言ってすみません。ありがとうございます。絶対、一緒に夢を掴んでみせます」

 

 私がそういうとお母さんは出会ってから最も優しい笑顔を見せてくれた。

 

「お母さん、行ってきます」

「はい、行ってらっしゃい。休みが出来たら帰っておいで」

「うん!」

 

 挨拶を済ませてから軽く会釈をして家を出る。私たちの姿が見えなくなるまでお母さんは見送ってくれていた。

外はすっかり、夜になっていた。月明りが照らす道を二人で歩く。

ひと段落ついたことで余裕ができたのか足取りは来る時よりも軽い。軽い気分で歩いていると一つの疑問がふと浮かんだ。

 

「そういえば、桜ちゃん、なんで空港にいたの?」

「あー、えっとね、実は内緒で東京に戻ろうかと……」

「え?」

「えのぐに戻れなくても、せめてあんずにだけはちゃんと話がしたくて……。その前に電話かけたんだけど、あんず出なかったよ」

「あ、ごめん。私、スマホ東京に置いてきちゃった」

「なんだ、そうだったんだ。スマホ無しでどうやってうちに来るつもりだったの?」

「こ、公衆電話とかで何とかなるかなーって」

「もう、あんずは無鉄砲だよ」

「そうだね……、ごめん」

「気を付けてね。……でも、ありがとう」

「……うん」

 

 私たちは空港に着くまで途絶えることなく話を続けた。桜ちゃんが帰ってからの出来事、ここに来るまでの経緯、桜ちゃんの家族の話。そんな他愛もない話がまた出来ることが、この上なく嬉しかった。

 でも、何か忘れているような……。

 

「あんず」

「なぁに?」

「今年もよろしくお願いします」

 

 そうか、そうだった。

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 平成最後のこの時に私たちは同じスタートラインから新たな旅立ちを誓った。

 

 

『栗原家(おまけ)』

 

「良いんでしょ?」

 

 リビングの隣から出てきたお父さんに問いかける。昔からこの人は、娘が友達を連れてくると家の中に隠れてしまう。照れ屋なのはいくつになっても変わらない。

 

「あぁ。東京へ送り出すときは不安だったけど、あんなにあの子のことを思ってくれる仲間がいるなら何も心配することはない。あの子がやりたいことを応援しよう」

 

 見ると1年前、あの子を送り出した時と同じような悲しい顔をしている。しかし、その顔にあの時のような不安は一切なく、晴れ晴れとしていた。

 

「それなら顔ぐらい見せればよかったのに」

「良いんだよ。あの子の顔ならいつでも見れるさ、夢を追っている姿も、あの子の大切な人たちも」

 

 

 

『東京(おまけ)』

 

「えっと、だからですね、あんずは今ちょっと出ていて」

 

 あんずが飛び出した後、様子を見に来た丸茂さんにあんずの行く先を問い詰められていた。

 

「だから、連絡するにも、あんずスマホ置いて行っちゃったんですって!」

 

 丸茂さんは怒っていないが、連絡がつかないとなっては不安で居ても立っても居られない様子だった。

 そんな様子で尋問を受けていると、ハル姉のスマホが突然なり始めた。

 

「ハル―、マナーにしときなよー」

「あっ、ごめんなさ……、桜子!?」

 

 その場にいた全員が見合わせる。

 

「もしもし? 桜子? うん、うん……、うん!」

 

 ハル姉の表情が次第に明るくなる。その様子だけで電話の内容が伝わって来た。

 私たちは、丸茂さんを見つめた。何も言わずとも察したように、黙ってうなずいてくれる。私たちは3人そろって、レッスン場から空港を目指して飛び出した。

 

 1時間後、空港に着くなり、到着口へと急ぐ。そこには見慣れた2人の姿があった。ハル姉が走り寄って二人を抱きしめる。

 

「おかえりなさい桜子!」

「ハルちゃん、ただいま!」

 

 私とひなおもそれに続いて3人に近寄る。そして、あんずの頭をそっと撫でた。

 

「あんずもお帰り」

「うん、ただいま、環ちゃん」

 

 あんずの笑顔を久しぶりに見た気がする。その笑顔を見て心の底から良かったと思えた。

 

「じゃあ、帰ろうか。みんなももう遅いし、うちにおいでよ」

「やったー! お邪魔しまーす」

「せっかくだから、新年会しようよ」

「それだ! 鍋しよ、鍋」

 

 そんな話をしながら、5人揃って歩き始めた。皆、同じ場所から、同じ場所を目指して。

 

 

 


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