特別だからって世界を救う義務は存在しない。 作:霧ケ峰リョク
これからもゆっくり書いていくんで見てやってください。
時刻は深夜1時。
皆が寝静まった時間帯の中、ユニは一人で外に出ていた。
額から大量の汗を流している上に呼吸も荒く、ハードな運動をしたかのような疲労感をユニは味わっていた。
実際の所、運動をしていたわけではない。ユニは一歩も動いていない。
だがそれだけの疲労感を味わうような事はしていた。
「…………やっと、出来た」
そして、その疲労感が報われるだけの成果をようやく出す事が出来た。
ユニはその場で安堵の息を漏らし、力無くその場にへたり込む。
「ようやく、出来ました…………」
額から流れる汗を拭いながらユニは呟く。
「本当に、出来ちゃったんですね」
まさか本当に出来るとは思ってもいなかった、と言わんばかりの口調だった。
実際、ユニ自身信じられない気持ちでいっぱいだ。
とはいえ、彼の説明が説明にもなっていないのは少し問題だったと思う。
彼としては自分以外がこの技を、技とすら呼べないこれを他人に使わせる気は欠片も無かったみたいだが。
「使えるようになった今だから分かります。あの技がどれだけ常識から外れた事をしていたのか。虚空に絵を描くどころか、絵そのものが世界を侵食するなんて…………」
彼がどれだけ頭のおかしい事をやっていたのか、彼の領域に僅かにでも足を踏み入れられたからこそ理解出来てしまう。
意味不明だったものが理解不能に変わったぐらいだが。
「と、流石にもう寝ましょうか」
そう言ってユニはその場を後にする。
誰も居なくなったその場には不自然な物質が残されていた。
+++
「――――大変見苦しい姿を見せて申し訳ありませんでした」
シャマルから盛られた惚れ薬の効果が切れ、正気に戻ったオレはユニに向かって土下座をしていた。
正直なところこれで許してもらえるかは分からない。と、いうか出来る事なら今すぐこの世界から消え去りたい。何だよあの時のオレ。何があればあんな見苦しくなれるんだ。いや、惚れ薬を盛られたから当然と言えば当然かもしれないが。
「いえ、私は気にしてませんよ。沢田さんがおかしくなったのは薬のせいだって分かってましたから」
「だとしても見苦しい姿を晒したのは事実だから――――腹を切ってお詫びします」
自身の血肉で作ったナイフで割腹する。
未だ鬼の身体から戻ってはいない為、これで死ぬ事は無い。
正直今の自分が出来る最低限の謝罪である。
「だから自傷行為に走るのはやめてください」
「大丈夫。どうせすぐに治っちゃうから…………本当は人間の身体に戻ってからしたかったんだけど」
「絶対にやめてください」
自身の臓腑を掻き出し口から血反吐を出しながら謝罪するも逆効果だったらしく、ユニは少し怒っているようにも見える。
周囲に至ってはオレから目を逸らしたり、口元を手で抑えてえずいているのも居る。
そこでオレは自分のしでかした行いに気付く。
「あー、ごめん。まだ頭が少しおかしくなってるかもしれない」
流石にマフィア関係者とは言え、子どもの目の前で切腹&腑の抉り出しのシグルイコンボは不味かった。
「大丈夫です。沢田さんは元からおかしいので」
「酷くない?」
「前向きにネガティブな上に自殺願望持ちなのが普通?」
「…………普通じゃないですねはい。でも死ぬ気の炎を使える奴は皆何処か狂ってるから」
常人は命を燃やす程の覚悟を持つことは出来ない。
死の間際や危機的状況といったものを打開する為に火事場の馬鹿力で一時的に死ぬ気の炎を灯す事は可能だ。が、そんな危機的状況を常に意識して死ぬ気の炎を出せるようにしていたら誰だって心が歪む。
尤も、歪まない人間もいるのだけれど。
「それは私もですか?」
「いや、ユニも結構普通じゃないから――――やめて、ゲシゲシと蹴らないで」
オレの言葉に静かに怒った様子を見せるユニの蹴りを受けて悲しい気持ちになる。
惚れ薬の効果は消えたから何とか平静に戻れたけど、それはそれとして好感度自体は変わってないからユニに対する好意そのままだ。
元からユニに対しては好意的に見ている。加えて惚れ薬だ。
下がる余地が無い状態で日頃から接していれば、まあどうなるかなど予想がつく。
実際自分が体験しているわけだから、自制してないとユニに何でもしてあげてしまいそうになってしまう。
本当に酷い後遺症だ。
「ま、まあ惚れ薬の効果も切れたし死ぬ気の炎を使えるようになったし、この状態さえ直せば完全復活だよ」
このまま何事も無く時が過ぎれば一週間も経たない内に人間に戻れる。
何事も起きなければの話だが。
「人血以外何も食べれてないのは本当にキツイからね。早く戻らなくちゃ」
「沢田さん大分食べてませんからね。元に戻ったら私が料理を作ってあげます」
「えっ、良いの? やったー!」
ユニの好意を隠す事も出来ず喜んで両手を上げ、
「ごめんユニ。それに皆。今すぐ全員その場に伏せて」
自身を狙った襲撃が来る事を皆に伝えて臨戦態勢に入った。
オレの言葉の意味を理解したユニを含めたクラスメイト達はその場にはしゃがみ、理解出来てなかった人達は周囲を見渡し、対処が出来るシャマルは剣呑な表情を浮かべた。
「おいおいおい! またかよ!! お前疫病神じゃねえのか!?」
「生憎まだ神様じゃない!」
シャマルの言葉にそう返すと同時に教室の外に居た襲撃者によって、教室内に沢山の鉛玉が撃ち込まれた。
リングに灯した死ぬ気の炎でシールドでユニとそれ以外を弾丸から守りながら状況を把握する。
超直感が反応がしなかったから多分敵は生命体じゃない。まだ姿を見せていないだけかもしれないが、その時はその時だ。
「さて、とっとと片付けるか」
ボロボロになった壁を破壊し中に入って来る独特な形状をしたロボット達にそう吐き捨てる。
モスカ、と言った名前だっただろうか? 確かイタリア語で蠅を意味する言葉だった筈だ。もうちょっと格好いいデザインにしたら良いのに。
そう考えながら拳に死ぬ気の炎を纏わせ、モスカの頭部を殴りぬく。
人間を超えた鬼の膂力に全集中の呼吸という技術、さらに死ぬ気の炎を加えた一撃は金属で出来たモスカの頭部を一撃で粉砕。続いて裏拳で二体目のモスカの胴体を破壊する。
「っと!」
三体目のモスカの腹部から放たれたレーザーを空気を足場に跳躍して回避。
自身の血肉と骨で作った剣を投擲して三体目のモスカも破壊。最後に残された四体目のモスカは――――流石に使わないとダメか。
「鋼血」
人の身でありながら鬼と対等に戦えるようになる身体強化術の全集中の呼吸と対を為す、鬼の肉体でなければ使えない異能、血鬼術。
血を消費して発動するこの異能はこの世界においてはオレだけしか使えない力だ。
その異能の効果とは流体の金属を操る能力、より正確には血液の中にある鉄分を利用して液体金属を生成し、それを身体の一部として操る能力だ。
「血刃!」
作り出した液体金属を飛ばしてモスカを攻撃する。
死ぬ気の炎が灯った血の刃はモスカの胴体をいとも容易く貫き、その頑丈な身体が木っ端微塵に吹っ飛んだ。
その光景を見て、やっぱり鬼の肉体って人間に向けちゃいけないタイプの力だと思ってしまう。
早く人間に戻らないといけないな。
「さて、と…………お前等の目的は何だ?」
返って来ることは無いと分かっていながらも、完全に機能を停止したモスカを見下ろしながら呟く。
『――――ふむ、この程度の性能ではダメか』
すると頭部を破壊したモスカから低いのか高いのか分からない声が聞こえた。
人間の声、というよりは電子音に近い。多分、このモスカの中には居ない。
『だが今のきみの身体スペックは理解した。死ぬ気の炎に加えて人間離れの身体能力、それに液体金属らしきものを操作する力。成る程、興味深い』
「まさか返事が返って来るとはね。それで、きみは何者?」
『それを聞いてどうする? 本当の事を言うとでも?』
「言わないって分かっててもやるしかないんだよ。様式美ってやつ。それに、何て呼べば良いか分からないからな」
ある程度の予想はつくけど、それが絶対とは限らない。
もしかしたらオレが知らない奴の仕業かもしれないし――――、
「その声…………お前ヴェルデか!?」
一人頭を悩ませているとスカルが声の主に対してそう言った。
「やっぱりか」
『…………何やら不快な声が聞こえた気がしたが無視するとしよう。さて、沢田綱吉。きみに一つ頼み事があってだね』
「頼み事をするのならあんな物騒なものは差し向けない筈だけど」
『きみの性能を確認する為の相手だ。この程度でどうにか出来るとは欠片も思ってないよ』
「それで、オレに何の用?」
『きみの力を調べたい。大人しく私の下に来い』
「寝言は寝て言えよマッドサイエンティスト」
交渉は当然のように決裂した。