カルデアのとある一室。
いるのは、俺とロマニとダヴィンチの3人だけ。
他には誰も居ない。
三人で内緒で話をしたいと切り出したからだ。
いきなりのことでいぶかしんだ様子を見せたが、それでも場を設けてくれた。
「特異点の修正を手伝う気はない、というのは本気かい?」
「ええ、俺は今回この戦いに基本的に手を貸すつもりはない」
そして、俺は部屋に入るとすぐにそう率直に切り出したのだ。
「君は事の重大さを分かっているのかい?このままでは人類史が滅びるんだぞ?」
「ああ、分かってるよ。でも、手伝う気はない」
これは最初から決めていたことだ。
責任の取れないことはするつもりはない。
だから、手伝うつもりもない。
「そういえば、君は特異点Fに居た時も戦わずに隠れていたそうだが」
「ええ、戦う必要性を感じませんでしたからね」
自分の命に危機が迫っているならまだしもそういう状態じゃなかった。
なら、わざわざ喧嘩を吹っかける必要もない。
「戦うのが怖いのかい?」
「いえ、別に」
そのあたりは大丈夫だ。
戦う必要があればちゃんと戦える。
「なら、どうして手伝わないんだね?」
「事の結末を知っているからですよ」
「なっ」
「え?」
ダヴィンチは驚いたような顔をし、ロマニはぽかんとした顔をしている。
「今回の事の結末を知っていて、俺は今後進むべく未来に納得しているし、それでいいと思っている。だから手伝うつもりはないってこと」
「ちょっと待て、君は未来を知っているということか?」
「知ってるよ。ただ、それを口にすれば大きく変わるから言うつもりはないけどね」
本当は知ってることを言うこと自体打ち明けない方がいいのだが、下手に隠して中途半端にばれると対処が出来るとは思えない。
自分が有能な人間じゃないことは良く分かっている。
「いったいどうやって未来を知ったんだ?そもそもどうしてそんなものを君が知り得るんだ?君も確か彼と同じ一般公募のマスター候補。バックアップ要員でしかたなかったはずだ」
「それについて納得できるであろう答えはないよ。知っているから知っているとしか言えないし、自分で知りたくて調べたわけでもはないからね」
「要するにたまたま知っただけだから、どういうしてそれを知りえたのかは分からない、と」
「そういうこと。だから、逆に何か知りたい未来のことを調べてくれといわれても調べられないよ」
たまたまプレイしていたから知っていただけの話だ。
それを言ったところで納得はしないだろう。
「あと、俺はこの身体の持ち主とは別人だよ」
「それはある程度予想していたよ」
「そっか」
「あの事故の時の君の状態を確認したら生命活動は完全に停止していたからね。だから、いろいろと調べてみたらデータと合致しないことが多かったからね」
これは先に言っておいて正解だったみたいだ。
下手に隠しておいて後で問い詰められたら面倒だし。
「身体の元々の主は死んで身体が空いてたから僕が貰ったっていう形だよ」
「ちょっと待ってくれ、それはどういう理屈だよ」
それまでダヴィンチに黙って任せていたロマニが慌てたように口を開いた。
「俺自身も理屈は分からない。さっきの未来と一緒。そうなったからそうなったとしか言えない。自分の意思でやったわけじゃないからね」
「なら、元々の君はどうなっているんだ?」
「元々の身体が死んだというのは知っているが、その後どうなったのかまでは知らないよ」
交通事故で死んだというのは理解している。
しかし、その後どうなったかまでは知らない。
「次もまたそうなるのかい?」
「それはないだろう。おそらく今回は特例だろう。同じことが二度はないはずだ」
自分がそれを望まなければ、という前提条件は付くが同じようなことはないだろう。
「まあ、その話は答えが出ない以上終わりにしないかい?」
つつかれても応えようがない以上、穿り返されても困る。
「確かにそうだね。それにいい話も聞けた。未来があるということは何とかなったって言うだろう?」
「いや、あくまでも俺が納得している未来であって、カルデアが納得している未来とは限らないよ」
「ちょっと待って、どういうことだい?」
「かいつまんで言うと、俺としてはこのまま人理が滅んだところで別にどうでもいいんだよね」
俺の言葉に二人の顔が固まった。
だが、これは偽らざる俺の素直な気持ちだ。
正直に言うと、自分自身を含め人間のことは好きじゃない。
「君達の望みは人理を正しいものに修正することでしょ?でも、俺にとってはそんなことはどうでもいい。俺にとって大事なのは静かに死ねること。ただ、それだけだ」
望むのは今度こそ静かな死を迎えること。
痛みも何も無く、静かに死ねることだ。
人理が救われるかどうかは正直どうでもいい。
一部の物語の終わり方は一応あれでよかったと納得しているし、それを無理に変えようとは思っていない。
だから、手伝いをするつもりはないし、責任を取らないといけなくなるから未来を変えるつもりもないのだ。
「僕の言葉に喜ぶことに意味はないよ。僕はその未来が自分にとって都合がいいから積極的に動く気がないだけで、君達にとって都合がいいものってわけじゃないからね。だから、自分にとって都合のいい未来が欲しいのであれば、必死になって自分で勝ち取らないとね」
僕の言葉を聴いてロマニは安堵していた。
そう、なんとかなると安心していた。
けれど、作中の彼は先がどうなるか分からないから休む間を削って必死になって未来を勝ち取ろうとしていた。
その差によって未来が変わる可能性だってあるだろう。
そうならないように楔を打つ必要がある。
決して慢心して言いということではないと。
「一つ聞きたい」
ダヴィンチがじっとこちらを見つめてきた。
「君は人理を滅ぼしたいのかね?」
「いいえ、全く。滅ぼしたいなんて思いませんよ」
ダヴィンチの問いかけはもっともだ。
だが、俺自身は人理を滅ぼしたいとは思わない。
「単純に人理を救いたいと思わないだけです」
人理がどうなったところで知ったことではない。
救うつもりも無ければ滅ぼすつもりもない。
「だから君らを手伝うつもりも無ければ邪魔をするつもりもない。見守るのみだよ」
そう特等席で見守らせて貰うだけだ。