とっぷりと日が暮れ、見張りをしている者以外が寝静まった頃。
俺は、自分の寝屋から起き上がるとタバコに火をつけた。
空を見上げると、前世では見たことが無い煌びやかな空が広がっている。
その光景は素直に美しいと感嘆するほどだ。
そんな美しい空に向けてそっと紫煙を吐き出す。
未成年の子供達が居る前で堂々と吸うには心引けたので我慢していたのだが、今は傍に誰もいない。
藤丸もマシュもイリヤも寝静まっている。
せいぜい見ているのはカルデアぐらいなものだろう。
タバコを咥えながら、ここまでの道程を思い返す。
藤丸とマシュが帰ってくると程なくガリア行きが決定となった。
現状、旗色が悪いのはこちら側だ。
かなり押し込まれている。
だが、それを指を咥えて受身に周るわけにもいかない。
すでに、それをひっくり返すためのガリアへの先行隊が派遣されているのだが、その援軍として出陣することとななった。
そして、今日その野営地にたどり着いた。
こちら側にいるサーヴァントはブーティカとスパルタクス。
ブーティカはさほどゲーム上で使用することは無かったが、スパルタクスは周回のお供とも言われるほど有能なサーヴァント。
ただし、現実だとバーサーカーなため意思の疎通が難しく、制御も出来そうにない。
逆にブーティカはさすがは勝利の女王と言われるだけはあって、こちらに着くと同時に模擬戦をやったが洗練された戦捌きだった。
「隣いいかい?」
噂をすればなんとやら。
思い巡らせてみれば、ちょうど思い浮かべた勝利の女王がいた。
「どうぞ」
タバコの火を消して携帯灰皿に突っ込む。
「別に続けても構わないんだよ?」
「いえ、もう吸い終わりましたから」
本当は若干残っていたが、吸わない人間の前でふかすのはマナー違反だ。
特に何か話があってきたみたいだし。
「そうかい。気遣いすまないね」
「いえ。それよりも何か御用でも?」
「世間話をしにきたらいけなかったのかい?」
「でも、そのために来たわけじゃないんでしょう?」
「確かにそうではあるけど。いきなり本題じゃ味気ないだろう?」
まあ、いきなり用件を切り出すなんてことはない。
最初は当たり障りのない世間話をしてから本題に入ることの方が普通だろう。
「・・・星が綺麗ですね」
「ぶふっ」
噴出された。
自分でも唐突だと言うのは分かっているが、いきなり世間話なんて出来ない。
「ごめんごめん。あたしが悪かったよ。うん、そういうのが苦手なんだね、君は」
正しくその通りだ。
コミュニケーション能力の塊の藤丸と違ってコミュ症な自分には他人と小粋に話したりすることは出来ない。
「うん、でも、それが本来のあんたなんだね」
「はい?」
「ここに着いたばかりの君を見たとき彼と対照的だなと思ってね。彼と違って君の目は濁っていたし、意識もこちらにほとんど向いていなかった」
その言葉に俺は何も返せない。
自室の鏡で見た自分の目は確かに濁り、淀み、死んだ者のような目をしていた。
こちらを意図を探りたいあちらとしては気になる点ではあるだろう。
「あの時のあんたは彼のおまけみたいな言い方をしていて、まともに人となりが分からなかったけど、今ならなんとなく分かるよ」
「まあ、俺は藤丸と違って人付き合いが下手だからね」
「下手というよりかはする気がない、だろう?」
ドス、と音がしたのではないのかと思うほど、心にぐさりと来た。
こうもあっさり自分の本性を言い切られるとさすがに堪える。
「あと、あんた模擬戦の時に手を抜いただろう?」
「いや、あれが今出せる全力ですよ」
「それは今
そういった彼女はじっと俺を見つめる。
その目には自分の言ったことが間違いではないと言う自信が伺える。
「あの時の模擬戦であんたは一つの動作について、二度反応を見せていた。一度目は攻撃に対する本能的な反応。そして二度目はその本能的な反応を止めた上で抑制した反応だった。そうだろう?」
さすがはサーヴァントだ。
こと戦闘のことに関しては誤魔化しは効かないということだろう。
「藤丸の前で俺はまともに戦えずフォローぐらいしか出来ないマスターでないといけないからね」
「それはどうしてだい?」
「俺は人理のためには戦えないからだよ。理由については言えない」
ここは嘘をついたところで仕方ない。
下手なことを言ったらたぶん感づかれる。
そう言ったことに関する観察眼あるだろうし、自分の能力でごまかしきれるとは思えない。
ただ、だからと言ってこと細かく言ってしまうと誤解を与えかねないから押し黙るしかないのだが、彼女はそれで納得はしてくれないだろう。
「そうかい」
しかし、俺の予想に反して彼女はそう言っただけだった。
ただ、俺を見て優しい笑みを浮かべている。
「そういえばこっちに来てからゆっくりと休めているかい?」
「そのあたりは大丈夫」
「嘘だね」
ばっさりと切られた。
まあ、確かに嘘ではあるが。
野宿の経験なんてまともに経験がないし、何より自分にとっての安住の地じゃない以上、心安らかに休めるわけなんてない。
だから無意識のうちに周囲を気にしている。
「あんたはもう少し肩の力を抜いたほうがいいね。あと、頑張りすぎるのも良くない」
そういった彼女はぽんと俺の頭に手を置くと優しい手つきでなで始める。
「あんたの状況は分からないが、あんまり自分で自分を追い詰めない方がいい。その息苦しさを君は必死に隠しているつもりなんだろうけど、やはり分かる人にはわかる」
かけられた言葉は優しい声だった。
久しく聞いたことのない声音だった。
「何が君をそこまで追い詰めさせているのかは知らないが、なんならここに居る間はあたしに頼ってくれても構わないよ」
「・・・どうしてそんなことを言うんだ?」
分からない。
どうして、彼女がそんな言葉を俺にかけるのだろうか。
今日会ったばかりだ。
おまけにその人間は見た目は死んだ魚のような目をした上、何のために動いているのかも分からないような奴だ。
「あんたは仲間だ。そして、その仲間が辛そうにしてる。なら、答えは簡単だろう?」
仲間。
信用した結果裏切られた言葉だ。
だが、彼女に対してはそれを心配する必要のない言葉だ。
「まあ、それでももし誰にも構われたくないって言うんだったら、きっちりと隠すんだな。あんたは顔に出すぎだ」
周りに対する興味が無かったからこそ表情を隠すことなんてなかった。
感情をばっさりと消して飄々とすることなんて出来ないし、する気もなかった。
だからと言って大きく感情を表に出すことも無かったが。
「ありがとう」
よく出来た人だ。
本当に同じ人間だと思えないほど良くできた人だ。
ローマによって祖国は嬲り者にされた。
それでも、民草のためにと自分の感情をコントロールしてこうして連合ローマと戦っている。
本来ならアヴェンジャーとして召喚されて敵味方関係なく襲い掛かってもおかしくないはずなのに、こうしてここにいる。
仲間や家族、周囲の人間の裏切り程度で人理を見捨てても構わないと思ってしまっているちっぽけな自分とは大違いだ。
「うん、ありがとう」
しかし、それに対して卑屈にならないのは、きっとそれが彼女の力なのだろう。
声音、雰囲気、そして手。
思わず振り払って逃げ出したくなるはずなのに、不思議と彼女に言われるままにしてしまう。
彼女に委ねたくなってしまう。
「ふふ、少しはいい顔になったね。ほら、そろそろ寝な。夜更かし過ぎると明日が大変だよ」
「ああ、そうするよ」
このままずっとしてもらいたい。
思わずそう思ってしまったが押し込む。
ちょっとした麻薬のような感覚だ。
下手すると依存しかねないほどの心地よさだった。
「おやすみ」
「うん、おやすみ」
そっと立ち上がると寝屋に戻る。
その足取りは軽かった。
ブーティカさんの母性に溺れそうになる主人公
主人公はマザコンだった?
あと、二部三章のオープニングが実装されましたね。
やっぱりキリ様はキリ様でした。
そして、どこかで見たことあるキャラが出たなと思ったら、あの人だったとは。
生い立ちが違うから性格は違うみたいですけどね。
まあ、メルブラはそこまで詳しくないからどれほど違うかは分からないですが。
なんにせよ、楽しみですので三章早く実装して欲しいものです。