「おはようございます!」
身支度を終えると、イリヤが元気な声であいさつをしてきた。
どうやら、今起きてきたみたいだ。
「はい、おはよう。と、ちょっと寝癖がついてるね、おいで」
座り込むと、自分の膝をポンポンと叩き招く。
「ふぇ?」
「寝癖治してあげるからおいで」
そういってもう一度膝を叩く。
身長差の都合上膝の上に乗っけるのが一番やりやすい。
椅子があればいいんだが、そんなものはここにはないし、だからと言って立ったままだと中腰にならないといけないのでしんどいし、座らせてやるにしても地面に膝立ちは痛い。
「ふえっ!?」
たいそう驚かれた。
サーヴァントである自分がマスターである俺の手を煩わせたくないと思ったのだろうか。
「えっと、そういうのはちょっと恥ずかしいかな」
そう思っていたのだが、どうやら違ったらしい。
彼女もお年頃で、子供扱いされるのは少し恥ずかしいらしい。
俺にとっては自分の娘というには少し年が近いがそれでもだいぶ離れているので、そういう目線でしか見ていたのだが、どうもそれがいけなかったみたいだ。
「でも、寝癖つけたままの格好の方がもっと恥ずかしいだろう?だから、ほら?」
ポンポンと膝を叩く。
これでも、女性の髪をとかすのは得意だ。
相棒に膝の上に載られてはしょっちゅうせがまれたため、かなり鍛え上げられてきた。
「うー」
なんと言って断るべきかと言わんばかりに唸る彼女。
『イリヤさん、これは諦めて行った方がいいですよ』
そんな彼女の脇から出てくるルビーがこちらの援護射撃をしてくれる。
俺だって自分のサーヴァントの寝癖姿を見せるのは恥ずかしい。
そこら辺の管理はしっかりしろと言われかねないし。
「でもだってルビー・・・」
『マスターさんから邪な感情は出てませんから大丈夫ですよ』
「うん、それは分かってる」
その言葉に思わず、ポンと手を叩きそうになった。
それもそうだ。
確かに、まだ小学五年生とは言っても女の子ではある。
まだそんなに親しいわけでもない男の膝の上に座るのは勇気がいる。
というか、普通に考えたらアウトだ。
自分にとっては子供という認識しかないため。思わず相棒の時の癖でやろうとしてしまったが、これは失礼にあたるな。
せっかくの縁で契約したわけだし、出来る限り仲良くしたいと思ったのだが、今回のはちょっと度が超えているし、完全に俺の失態だ。
「あー、ごめんね。確かに男の俺がやるのは嫌だよな。マシュかブーティカさん呼んでくるからちょっと待ってて」
二人を探しに行くために立ち上がる。
そろそろ朝食のはずだから、すぐに見つかるはずだ。
「ああっ!?えっと、大丈夫です!マスターさんで大丈夫ですから、お願いします!」
ガシッと腕をつかまれるそのまま座らされると膝の上にイリヤが座る。
『おおっと、いきなり押し倒して膝の上に座るとか、イリヤさんも大胆ですねぇ』
「ルビーは黙ってて!」
ルビーの軽口はぴしゃりと切り捨てられた。
「無理にしなくてもいいんだよ?」
膝の上に座っている身体は緊張しているのかちょっと硬くなっている。
「いいえ、大丈夫です!マスターさんのこと信頼してますから!」
それでも健気に彼女は続けた。
彼女も彼女なりにこっちに歩み寄ろうとしてくれているのだろう。
「ありがとう。じゃあ、失礼するね」
軽くポンポンと頭を撫でてから自分のスキルで作った櫛で髪を丁寧に梳いてやる。
さらさらと綺麗に流れ行くそれは極上の銀糸のようで、日の光を浴びるときらきらと光り輝く。
綺麗な髪の女性はそれだけで魅力的だと言うけれど、確かにその通りだと思う。
彼女の母であるアイリスフィールを見るに、サーヴァントである目の前にいる彼女はこれ以上成長することはないだろうが、成長しうる本体の方は将来かなりの美人になるのは間違いないだろう。
いったいどれだけの男の人生を狂わせるのか、ちょっと気になるところではある。
まあ、この少女状態のイリヤを見て人生を狂わせてる人間も間違いなくいるのだろう。
『イリヤに一番ドキドキした』と言わせたあたり、一人は間違いなく人生は狂わされただろう。
それは別の彼女ではあるが。
「ふぇー」
髪が途中で引っかかったりしないように細心の注意を払いながら髪をとかしていたら、気持ちよさそうな声が漏れ聞こえてきた。
どうやら、お気に召してくれているようだ。
座った直後は緊張でがちがちだった体もしっかりとほぐれたみたいでリラックスしている。
相棒によって鍛え上げられた腕前はしばらく使われることはなかったのだが、どうやら錆びることなく健在のようだ。
『イリヤさんがここまで骨抜きにされるとは。マスターさんもなかなかやりますね』
「昔取った杵柄って言うやつだよ」
『ほうほう、それは要するにイリヤさんみたいな小さな女の子を捕まえては膝の上に座らせていたと』
「それ、完全に犯罪者にしか聞こえないからやめてくれ。俺だって誰にでもはやらないよ」
それこそところ構わず誰かにやるようなことはしない。
通報されるリスクがあるし、何よりどうでもいい相手にまでそこまで骨を折るつもりはない。
『要するにイリヤさんは特別だと』
イリヤの身体がぴくっと反応した。
まあ、サーヴァントとしてはマスターが自分のことをどう思っているのかは気になるところだろう。
「当たり前だよ」
自分にとっての唯一のサーヴァントだ。
自分の身の安全を預ける相手でもある。
そんな相手を特別だと、大事だと思わないわけがない。
藤丸にとって直接契約しているマシュが特別に思っているのと同じようなものだ。
「だからイリヤもあんまり遠慮しなくてもいいからね。なんなら敬語もなしでいいよ。俺は君と対等な立場でいたい」
マスターとサーヴァント、それは指示をする側と指示を受ける側であり、立場上はマスターの方が上だ。
まあ、実際は強力すぎるサーヴァントの力を制御できない場合が多いが。
というか、あっさりとマスターが切り捨てられることなんて珍しくはない。
「はい、おしまい。これでばっちりだよ」
櫛をしまうと、ぽんと頭に手を置く。
梳かし終えた髪はふわりと吹く風を受けてさらさらと流れる。
「えっと、ありがとうござ・・・。ううん、ありがとう」
「こっちこそこんな綺麗な髪を触らせてくれてありがとう」
サーヴァントとマスター。
いつまでも続く関係ではないが、それでも決して短くない時を一緒に過ごす相手だ。
少しで距離を縮められたらと思ってのことだったが、今回は間違えなかったようだ。
「あら、もう終わりかい?」
「「え?」」
二人して顔を声がしたほうへと向ける。
そこにはちょっとだけ悪戯っぽい笑みを浮かべたブーティカがいた。
「うん、その表情を見る限り、あんたも昨日はちゃんと寝れたようだね」
「おかげ様でね」
「そうかい。それは良かった」
そう言って彼女が浮かべた表情は先ほどとは打って変わって穏やかなものだった。
「それにしても、あの子達もだいぶ仲が良かったが、あんた達もあんた達で仲がいいね。カルデアでのマスターとサーヴァントの関係ってそんな感じがスタンダードなのかい?」
「さてね。俺は俺以外のマスターは藤丸しか知らないからなんとも言えないよ。ただ、俺も藤丸も一般的な魔術師とは程と遠いからもしかすると違うのかもしれない」
俺が知ってるマスターは藤丸と後はステイナイト勢ぐらいだ。
カルデアの魔術師がどんな人間なのかは分からない。
せいぜい知っているのはAチームの人間の表層部分ぐらいな物で、実際の性格なんて分からない。
それにステイナイト勢の彼らに関してはまともな魔術師は遠坂ぐらいで、その遠坂も一般的な魔術師とは言い難い。
メディアのマスターアトラムなんかは魔術師らしい魔術師みたいだが、俺のフェイトの知識は浅いため良く分かっていない。
「それで?用件は?」
「ああ。簡単なもので悪いが朝食の準備が出来たのでね、あんた達を呼びに来たんだが仲睦まじい様子だったからさ、邪魔するのは忍びなくてね」
「出歯亀をしていた、と」
「見守っていたといって欲しいところだね」
「仲間としては見解の相違は、すり合わせをしておきたいところだが、せっかくの朝食が冷えてしまうのも勿体無い。イリヤ、行こうか?」
「あ、うん」
心あらずというか、何か考え事でもしていたようで、ぽけーとした様子だったイリヤ声をかける。
しかし返事とは裏腹に立ち上がろうとはしない。
「イリヤ、悪いけど立ってくれないと、俺も立てないんだけど」
「あ!ごめんなさい!」
「ふふふ、どうやらあんたの膝の上がお気に召したみたいね?」
「あ、えっと、さ、先に行ってます!」
すたっと立ち上がると慌てて走っていく。
せっかく梳いた髪が走ったせいでぼさぼさにならないといいんだが。
「ちょっとからかいすぎたかな?」
「反応が可愛いのは分かりますが、いじめ過ぎないでくださいよね?」
「分かってるって。あんたの大事なサーヴァントなんだろう?ほら、あんたもさっさと一緒に行っておいで」
くすりと笑った彼女はイリヤが走って行った先を指す。
「そうするよ」
軽く肩を竦めると立ち上がり、俺もイリヤの後を追った。
事案発生?通報不可避?
なお、容疑者はそんなつもりはなかったと否認している模様。
さて、そんなことより前話でもいいましたが、二部三章がもう間もなくの実装の模様ですね
仮面セイバー実装か、とも言われてますが、ガチャはどんなふうになるのか、少し楽しみです。
ただ、個人的には財布の中が寂しいので今回は耐え忍ぶ時になりそうですが。
三周年からの地獄のPUにデレステのライブなどちょっと使いすぎて、魔法のカードの利用明細を見て分かっていたとはいえ、冷や汗かきました。
やはり課金は家賃までですね。