【アンコもどき小説】やる夫と叢雲とステンノは世界を渡りながら世界の危機を回避するようです 作:北部九州在住
英国。ロンドン郊外。時計塔。
魔術師達の都であり学び舎であるそこの一室にて、最近ロード・エルメロイ二世と名乗る羽目になったウェイバー・ベルベットがレポートを淡々と読み進めていた。
聖杯戦争の勝者として『祭位』の地位にロード・エルメロイの名前、現代魔術科三級講師の地位が重たく感じるのは、それが得たものではなく与えられたものであるというのが大きい。
「邪魔をするぞ。兄上」
堂々とした名乗りで部屋に入ってきたのはライネス・エルメロイ・アーチゾルテ。
後ろにトリムマウを連れているが、ロード・エルメロイ二世はちらりと見たのみで書類を読み進める。
「愛しい妹が来たのだから、もう少し歓迎をしてくれてもいいと思うのだけどね」
「歓迎というのは、客人に対してするもので、厄介事に対してするものではないだろう」
「言うね。
とはいえ、その厄介事を人任せとはいえ乗り切った我が兄君の才覚は評価しているのだよ」
聖杯戦争終了後から始まったロード・エルメロイのお家争いは時計塔外の介入によってこの二者が勝者となったのである。
上位分家の骨肉の争いが他のロードの介入を招いて本決まりという所で起こったのが、日本の八丈島沖で発生したタンカーシージャック事件である。
これが時計塔のルールを吹き飛ばした。
円卓会議によって時計塔にやってきた英国王室・政府・英軍・騎士団・イギリス清教・魔法省・ヘルシング機関が介入してきたのだ。
神秘を盾にこっそりと魔導の世界の椅子取りゲームをしていた時代は終わり、そんな時に時計塔のロードの一つであるエルメロイ家のお家争いは、彼らにごちそうを差し出す行為にしかならなかった。
エルメロイ家の上位分家が軒並み潰され・降伏し・逃げ出す結果となったのは、彼らがエルメロイ家没落の直接的原因としてウェイバー・ベルベットにその責を背負わせようとしたからである。
彼が入即出やる夫によって聖杯戦争の勝者に仕立てられたという事を忘れて。
国家組織の本気の介入に、法政科は後手に回らざるを得なかった。
ウェイバー・ベルベットに背負わせようとした借金ですら、ヘルシング機関のインテグラ卿は鼻で笑ったのである。
「何だ。
オールドレディの建造費用にすら届かないじゃないですか」
と。
ライネス・エルメロイ・アーチゾルテが勝ち残ったのも、彼女より上の一族が潰されたり・降伏したり・逃げたりしたからに他ならない。
何よりも致命的だったのが、彼らはエルメロイ家復興の一手としてウェイバー・ベルベットへの責任追及と他科と組んで入足出やる夫の封印指定を主張していた事があげられるだろう。
入即出やる夫にそれを見透かされて裏取引を持ちかけられた結果、英国は己の陰謀の後始末に奔走し、ライネス・エルメロイ・アーチゾルテが勝者の椅子に座れたのも、この二者を満足させる一手、ウェイバー・ベルベットにロード・エルメロイの名前を継がせて自分が成人になるまで当主代行につけるという手がハマったからに過ぎない。
なお、この英国の後始末をやる夫は知ってはいたが、手は全く出してはいない。
話がそれた。
「で、何を読んでいるのかね?
兄君」
そっけない態度で書類を読んでいたロード・エルメロイ二世の書類に興味が出たライネス・エルメロイ・アーチゾルテが尋ね、読み終わったロード・エルメロイ二世はその書類を彼女に渡す。
「我らが恩人、入即出やる夫氏がここに居た時に残したレポートだよ」
やる夫の卒業した科
1 全体基礎科
2 個体基礎科
3 降霊科
4 鉱石科
5 動物科
6 伝承科
7 植物科
8 天体科
9 創造科
10 呪詛科
11 考古学科
12 現代魔術科
13 法政科
結果 3 降霊科
「降霊科に居たそうだ。
成績は悪かったらしいが、隠していたのだろうな。
でなければ、あの時にあの女神を召喚できるものか。
そんな訳で、彼の在学中のレポートを読んでいたという訳だ」
「で、何か分かったのかな?」
そのレポートに目を通しながら、ライネス・エルメロイ・アーチゾルテが尋ねるとロード・エルメロイ二世は葉巻に火をつける。
「あの人がレポートに選んだのは、『古代神話における女神の類似性』だ。
我々人類が神という『道具』を生み出した時、それゆえに神は必然的に人にならざるを得なかった訳で、その最初の女神についての類似性の指摘がレポートの中身だ」
「つまり、イヴについての考察?」
「そう捉えるのが分かりやすいのだが、あの人はその役すら剥ぎ取った後に残る権能を指摘していた。
舞台に上がる女優に『イヴ』役を与えたら、観客は彼女をイヴと認識する。
だからこそ、女優そのものにスポットは当たらない。
その最初の演者についての考察だ。
その演者の演技が素晴らしかったから、他の女優たちがその演技を真似た。
このレポートはここでは完全に評価されなかったみたいだが」
極東の没落魔術師が貴族主義の降霊科でどれだけ真面目に評価されたのやら。
そんな事を紫煙をくべらせながら考えていたら、ライネス・エルメロイ・アーチゾルテが声をかける。
「で、我らが恩人だが、更に出世するそうだ。
来年、かの国では省庁が再編されて、我が国で言う所の王室直轄の局長に就くらしい。
大臣・次官・局長だから、大出世だな」
「そんな要人を、この時計塔の主流派は封印指定する為に拉致しようとしていた訳だ。
これで時計塔単体でのあの人への封印指定は完全に消えたな」
その当人が、この世界ですらない場所で、時空管理局と共にヴォルケンリッター相手に死闘を始める前の一コマである。