【アンコもどき小説】やる夫と叢雲とステンノは世界を渡りながら世界の危機を回避するようです   作:北部九州在住

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インターミッション その2 後編

 東京ジオフロント。

 かつては、ヨミハラと呼ばれていたその街は秩序が整いつつあったが、その本質は未だ変わらない。

 歓楽街。いや、退廃の都と言った所だろうか。

 そんな地下都市の法の及ばぬ裏路地の一角。

 血まみれの中に幼女が佇んでいた。

 この街ではよくある光景ではある。

 だが、よくある光景ではないのは、血の海の源が倒れているオークたちであり、佇んている幼女の手に安物の包丁が握られていた所だろうか。

 

「……あはっ♥」

 

 嗤う。

 それは必死に生を生きてきた彼女が初めて味わった快楽。

 命を奪うという行為は、生物としての本能の一つであり、その行使による原始的な快楽が幼女に刻まれた。

 ぴちゃり。

 血の池に足音が響くが、幼女は嗤ったまま。

 己の獣性が新たな獲物を殺せと叫んでいる。

 ただ自然に、幼女は包丁を構えた。

 

「あー。これはダメだな。

 ソウルが飲まれてる」

 

 まるでニンジャソウルが元の魂を食らうがように。

 半妖の幼女は殺しという快楽に飲まれて我を忘れていた。

 そして、その妖のポテンシャルはかなり高い。

 襲おうとしたオークたちを返り討ちにした程度には。

 でも、幼女は動かない。いや、動けない。

 侵入者の力量を本能が悟っているからだろう。

 侵入者が獣であり、幼女が獲物という自然界によくあるシンプルな図式を。

 

「ドーモ。

 シルバーカラスです。

 これもビズでね。とりあえず死んでくれや」

 

 そう名乗った侵入者から殺気が溢れる。

 幼女の顔が歪む。

 快楽に溺れた恍惚の笑みが恐れと恐怖に歪み、涙が血の池にこぼれる。

 シルバーカラスは獲物である『ウバステ』に手をかけようとして止まった。

 彼の背後に気配が二つ。

 それは短いながらも教えた教え子のもの。

 

「アンブッシュはもっと潜んでするものだ。

 ましてや、仕掛ける前にばれるなどウカツに過ぎる」

 

「で、でもっ!」

 

 井河アサギは叫ぶ。

 対魔忍の欠点。

 身体能力の優越ゆえに大概の事に対処できるから、論理的ロジックエラーの対処に露骨に弱くなる。

 たとえば、教えを受けた師匠が別の仕事で幼女を殺そうとする場面に遭遇した時とか。

 ついでに、その師匠の仕事を止めるように命令されているとか。

 もう少し調べたならば、シルバーカラスと彼女たちの命令が同一者である入即出やる夫から出ている事がわかるのに、そこまで頭が回らない。

 

「……」

 

 矢本古希は黙っている。

 目の前の仮面をつけたニンジャが麻帆良学園都市でイントロダクションを導いてくれた師匠であるという事は分かる。

 そして、その師匠がビズと称して視線の先に居た幼女を殺そうとしているのも分かる。

 その二つが現実であるという事が彼女の中で繋がらないのだ。

 

「っ!」

「おっと」

 

 金属音が路地裏に響く。

 幼女が持っていた包丁でアンブッシュを狙ったのだが、備えていたシルバーカラスはそれを一蹴する。

 ばちゃりという音と共に、幼女が血の池にて倒れこむ。

 

「どうする?

 俺はここであれを殺す?

 ビズだからな。

 お前たちはそれを止めるのだろう?」

 

 幼女にザンシンを残しながら、シルバーカラスは二人に問う。

 その問いに対する答えはついに出ることはなかった。

 なぜならば、シューという異音が裏路地に響き渡ったからだ。

 

「っ!?

 ウカツ!!」

 

 幼女が持っていたはずの包丁が幼女から消えていた。

 先ほどの一撃をはじいた際に離れ、いや、計算して配管に刺したというのか!?

 オイランたちがビズをする歓楽街の大きな配管は大体ボイラーと繋がっている。

 それの意味する事は一つだ。

 

「逃げろっ!!」

 

 その瞬間配管が割けて、高熱の蒸気が裏路地を埋め尽くした。

 

 

 

 それはボスが不治の病の治癒条件に対して、彼の出した答えだった。

 

「……やめておこう。

 好き勝手に生きて、好き勝手に死ぬ。

 卑しいニンジャにふさわしい末路だと思わないか?」

 

「否定はしないよ。

 むしろ羨ましくもある。

 けど、いいのか?

 あの二人に阻止の依頼を出して」

 

「かまわんよ。

 どうせあんたもこんな条件でこいつを殺せと命じているのだから、本気じゃないのだろう?

 だったら、少しはおれの授業につきあってもらってもばちは当たらんだろう」

 

「『ニンジャの魂は増えぬ。

 なぜなら、ひとりのニンジャ生かすに、ひとりのニンジャの魂を吸う』か」

 

「なんだそりゃ?」

 

「おとぎ話のサムライの言葉。ニンジャの所が元はサムライだったけどね」

 

「だとしたら、ちょうどいい。

 依頼の幼女を殺し、俺が殺されれば魂は二つだ。

 あの二人が何かを掴んでくれる事をあんたも祈ってくれ」

 

 

 

 幼女は逃げた。

 地上へ。

 世界はこんなにも厳しい。

 それが獣の掟でもある。

 逃げるように地下水路を歩く。

 その出口の前に、ひとりの剣士が佇む。

 

「血に魅入られたか……哀れな……」

 

 葛葉刀子は刀を構える。

 この幼女を出してはいけない。

 獣に、妖になりかかっているこの幼女が世に出たら、今度は人の血を浴びねば生きられぬだろう。

 シルバーカラスのバックアップという形で入即出やる夫の依頼のフォローをした彼女はこの幼女の背景をつかんでいた。

 母は元対魔忍で既にこの世におらず、父親は分からぬがおそらくは妖のたぐい。

 更生も考えない訳ではないが、今の幼女は血に酔い、妖の力が強まっている。

 それを抑えねば、そこまで考えて彼女は持っていた刀で飛んできたナイフをはじく。

 ぽちゃんとナイフが水路に落ち、命を削りながら歩く音が地下水路に響く。

 投げたのは、幼女の後ろまで追いついたシルバーカラス。

 

「邪魔はしないでくれ。

 これは俺の最後のビズにしてイントロダクションなんだ」

 

「気づいています?

 仮面の向こうの貴方の顔、前のこの子と同じになっていますよ?」

 

「ハハ。

 かもな。

 インガオホーってな。

 それでも、そんな卑しいニンジャにも通す筋ってのがあってな」

 

 ビズの付帯事項にちゃんと記載してある。

 『襲ってくるものがいたら実力で排除せよ。生死は問わぬ』と。

 つまり、ボスはこうなる事をどこか分かっていた節がある。

 

 

「知りたいのさ。

 君のツジギリ=ジツがどこまで通用するのかをね」

 

 

 やっと繋がる。

 ならばこれもビズの一つだろう。

 ジルバーカラスは構える。葛葉刀子も構えた。

 真ん中に幼女を置いて方や殺そうとし、方や守ろうとする変則的な立ち合い。

 勝負でなく、イクサとはそういうものだろう。

 

「神鳴流。葛葉刀子。

 参ります」

 

「シルバーカラス。

 卑しきニンジャ」

 

 井河アサギと矢本古希は見た。

 幼女を中央に置いて、二人の剣豪が立ち会おうとする姿を。

 そして聞いてしまった。

 全てを台無しにする極まった果ての飢えを。

 

「ああ。美味しそう」

 

 そして、ジェットスキーが駆けていき、五者は皆等しく死ぬほど痛い痛みを受けて気絶したのであった。

 

 

 

 目が覚めた。

 知らない天井。体が軽い。

 シルバーカラスは起き上がろうとするのを誰かが押さえた。

 ノナコだ。

 

「まだ寝てて。

 ドクター呼んでくる」

 

「たばこ」

 

「後で」

 

 ノナコが出てから、シルバーカラスは改めて起き上がる。

 思い出すのは、あの地下水道の最後の一瞬。

 ジェットスキーにまたがった対魔忍みたいな輩が全てを叩き伏せていった姿だった。

 井河アサギと矢本古希は一撃も耐えられなかった。

 幼女も同じく水の中に沈んだ。

 動けたのはシルバーカラスと葛葉刀子のみ。

 それでも、ジェットスキーの機動力とスポーツチャンバラのぽこぽこ剣二刀流に二撃目を耐えきれなかったのだ。

 ノナコと医師と一緒に入即出やる夫も入ってくる。

 当り前のように三人の女連れでだ。

 

「で、どこまでが、ボスの仕掛けだ?」

 

「最後のあれは出ればいいと思ったぐらいさ。

 葛葉刀子にどこまで通じるかが分れば御の字だと。

 怪我はないはずだ。スポーツチャンバラだからな」

 

「肺のオタッシャが消えているんだが?」

 

「知らんよ。

 誰かのお節介じゃないのか?」

 

 入即出やる夫は面白そうに笑い、ノナコは顔を赤めて視線をそらした。

 なお、シルバーカラスのオタッシャ案件をばらしたのは彼である。

 もちろんそれを言うつもりはないが、シルバーカラスはニンジャ洞察力で察していた。

 

「まったく派手に暴れてくれたよ。

 あの地下水路は全壊で、俺はお小言をもらい始末書を書かねばならぬ。

 セップクしないだけましだがな」

 

「だったら、あんな茶番をしなくてもよかっただろうに」

 

 やる夫は『少し明るい海』を投げる。

 シルバーカラスはそれを口に咥えるがライターがない。

 ライターに手を伸ばそうとした所をノナコの手がライターをとる。

 火のつかないたばこを咥えたまま、彼はやる夫の話を聞くことになった。

 

「あの幼女。月詠というらしいが、未来に中々困った事をする娘になるらしくてね。

 で、あのとおり、まず生きるために獣にならざるを得なかった輩だ。

 話を聞くためにも、という訳だ。

 フォローに葛葉刀子をつけたのもそういう理由さ」

 

「……最後のあれはなんだ?」

 

 シルバーカラスの一番聞きたかった事をやる夫は目をそらして答える。

 珍しく、口調が重たい。

 

「来るかもとは思っていたが、ああいった形で来るとは思って無くてな。

 一応水着剣豪というやつらしい?」

 

「水着剣豪?

 対魔忍じゃないのか?」

 

「言わないでやってくれ。

 彼女も気にしているらしい」

 

 つまりそれを言えという事か。

 視線で確認したら、やる夫もニヤリと笑った。

 

「さてと。

 邪魔者は帰るよ。

 次の見舞客が待っているみたいだからな。

 しばらくは南の島でのんびりするといい。

 契約は解除する気はないから、戻ったらビズをしてもらうのでそのつもりで」

 

「ああいうのと当たるなら、ボーナスを要求したいな」

 

「それでやってくれるなら喜んで払うさ。

 では、お大事に」

 

 やる夫が医者と三人の女たちと共に部屋を出た後しばらくして病室のドアがノックされる。

 予想はしていた。

 ドアの先には花束とフルーツを持った井河アサギと矢本古希と葛葉刀子の姿が。

 そして、あの地下水道でやりやった月詠という少女と一緒に。

 

 

「……」

 

 

 もう一人いるのだが、誰も視線を合わせない。

 そりゃそうだ。

 昼間の病院内で、アメリカンな水着で豊満なものを晒して歩くなど対魔忍でもせぬ所業。

 だけど気にしない。バーサーカーだから。

 もっとも、周りは気にする訳で。

 かくして、水着剣豪は見事なまでに土下座した。

 

「すみませんでした……」

「ほんと、すみませんでした…………」

「ほんと……すみませんでしたぁぁぁ…………」

 

 

 後に、麻帆良学園に田中鍵という教師が現れ、居合術を教えるようになるこれはその前の話。

 なぜか麻帆良の武道館にて、恐ろしく強い剣豪たちが立ち会っていたりする事をみるようになる前の話である。




おとぎ話
 『F.S.S.』剣聖ビザンチン。

「騎士の血は増えぬ。
 なぜなら、ひとりの騎士を生かすのに、ひとりの騎士の血を吸う」

が元ネタ。
 この言葉がでた巻は好きなんだよなぁ。あの世界の騎士の見方が色々変わった思い出がある。


月詠
『ネギま』より。
確認したらどうも人外設定っぽいので、桜咲刹那と同じ半妖設定にした。
桜咲刹那はこの時期京都だろうなぁ。
葛葉刀子経由で神鳴流を知ってという感じ。


水着剣豪宮本武蔵
 全部持っていきやがった。
 武蔵ちゃんを他作品の剣豪とかち合わせようというのがこの話のテーマだったのだが、宝具演出を見てああなった。
 見事にオチまで掻っ攫っていってさすが水着剣豪である。
 なお、対魔人より忍ばない。
 水着剣豪だから。水着剣豪だから。
 大事なので二回言ってみる。

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