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夏も終わりを迎えた頃。空が高くなり、風の冷たさが秋の到来を告げる時期にそれは起こった。
「……へ……へ……へっぶし!」
「………………へぷしっ」
天龍、木曾の二人が同時に風邪を引いた。
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「ごめんねー天龍ちゃん。私は改ニになりたてだから工房で色々調整しないと行けないのよねー」
天龍の姉妹艦、龍田が申し訳なさそうに言う。
「球磨もそろそろ秋の漁場に向けての会議があるからそれに多摩と一緒に呼ばれてるクマ」
「にゃあ」
木曾の姉妹艦である球磨と多摩はサンマ漁実行委員会の会長、副会長である。
そんな訳で同じく木曾の姉妹艦の北上と天龍と同じ軽巡で暇を持て余していた川内型の川内が遊びにもとい看病に来ていた。しかし
「北さーんこれ次の巻どこー?」
「え〜その辺に無い?」
と看病せずにただゴロゴロと過ごしている。
「不安しかねえんだけど。お前らただ漫画読んでゲームしたいだけだろ」
流石に不安に思ったのか、隣で大人しく寝ている木曾に手を置きながら天龍が口を開く。二人とも冷えピタを額に貼り軽く頬を上気させている。
「やだなーもっと信頼してよー」
北上がゲーム機から目を離さずに気合いの無い声で返す。
「そうそうちゃんとするって」
川内も寝転んで漫画を読みながら言う。
「よし、今から何か飲み物作ってあげるから待ってて」
「待て、作るって何だ。普通にお茶とかでいいから」
川内の危険な提案にすぐさま天龍が突っ込む。しかしテンションの上がった二人を止められるはずがなく、二人でキッチンに向かい恐怖のドリンクが作成していく。
「塩が良いって言うじゃんね」
「それ熱中症じゃなかったっけ?」
「そうだっけ?まあ塩分大事っしょ」
「砂糖も入れとく?」
とふざけ出す
「おいコラ!遊んでんだろお前ら」
と布団の中からツッコミを飛ばすも虚しくドリンクは作られていく。
そして
「「あ」」
という言葉から数瞬の静寂。
「……お待たせ〜」
妙に白々しい笑顔の二人がコップを二つ持ってキッチンから出てくる。
「お待たせ〜じゃねえわ、失敗してんじゃねーか!」
「まあまあー悪いもんは入ってないから」
「いらねぇ、木曾。お前も受け取らなくていーから」
律儀に川内からドリンクを受け取ろうとする木曾を止める。
「ちぇー。まぁ半分ジョーダンだったけど。どーする?」
「川ちゃん飲んでみたら?」
全く反省の色の無い二人。後に食べ物を粗末にする事を許さない球磨に見つかり般若の形相で怒られるのはまた別の話。
「お前らなぁ……半分本気かよ。……あんまり……ふざけて……ばっ……か……」
(あれ……?体が……おも……い……)
薄れる意識の中震える手で木曾を掴もうとする。
(ああ……ダメだ……。まだ……起きてる……の……に……)
「……悪ぃ…………」
伸ばした手は木曾に届くことは無く、天龍の意識は闇に包まれた。
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……音が聞こえる。…………波音?……じゃない………これは……海の底。
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「…………………………」
「あ、起きた?おはよー」
北上が読んでいた本から目を外す。
「気分どう?ごめんね?騒ぎすぎちゃって」
「ん、悪くねぇ」
天龍が伸びをしながら答える。
「……こいついつ寝た?」
天龍か隣で寝ている木曾を撫でながら聞く。
「ん?割とすぐに追いかけるように寝てたよ」
「……そうか」
「何か飲む?」
北上がそう聞きながら立ち上がる。
「……なぁ。お前らは海の底の夢、見るか?」
北上の背中に問いかける。
「……いや悪い。何でもねぇ」
「……最期の夢って事なら、アタシもあるよ。アタシの場合はゆりかごと同じ」
そう言って北上はキッチンへ向かう。
「……そか」
そう呟いて木曾の頭を撫でる。
「こいつの夢は長いだろうな」
木曾を抱きしめながら言う
「そうだよー木曾は時折『 深く潜る』から球磨ちゃんが息してるか確かめたりしてるねー」
キッチンからそう言う北上の声が聞こえる。
眠れる海の騎士の手を祈るように握り締める。正しく君が帰ってこられますように、と願いを込めて。
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「……お。よ、おはようさん。元気か?」
それからしばらくの後、ようやく起きた木曾の頭を撫でながら天龍が聞く。木曾はボーッとしたように天龍の手を取って見つめる。
「……ん?手がどうかしたのか?」
「…………タコじゃない」
「何の夢見たんだお前」
寝惚けた木曾の発言にカラカラと笑う。
「お、起きたー?とりあえずこれ飲んどきな。下から飲み物もらってくるね」
そう言ってゼリーを渡し、北上が部屋を出る。その直後。ブーブーと川内の携帯のバイブが鳴る。
「お。……那珂だ」
「今は地方巡業中だったか?」
「うん。もしもーし?」
そう言って川内も部屋を出る。
二人きりになり天龍が木曾の頭を撫でる。
「ごめんな?先に寝ちまって。お前、月の無い夜は夢見悪いだろ。変な夢見てないか?」
木曾は撫でられるがままにし答える。
「別に構わないぞ。俺の問題だから天龍が気にすることは無い」
木曾がそう言うも、天龍は木曾を抱き締めてグリグリと頬擦りする。
「いーや!お前の月になってやるって約束した手前、お前の安眠はオレの最優先事項の一つだ。つーわけで今度は歌も歌ってやる!何がいい?」
ホレホレと言って木曾を布団の中に招き入れながら天龍が聞く。木曾も大人しく布団の中に入る。
「別に何でも。お前の好きなのでいいが無理はするなよ?」
「してねえ!任せろ!」
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「ただいまー」
下の階から飲み物の入ったペットボトルを抱えた北上が部屋に戻ってきた。
「おかえりー」
「二人は?」
「さっき寝たとこ。……にしてもこの二人が静かだとつまんないなぁ顔に落書きとかしてやろうかな」
「やめときなよーあんまりやりすぎると長と龍の逆鱗にふれるよ」
「わかってるって。あの二人を敵に回す気は毛頭ないよ」
「……いい夢見なよ。おやすみ」
お久しぶりです。KeyKaです。今回はそらた氏の作品「夢の跡地」を自分流の解釈で文章にするという初の試みでした。他の作者様と関わるのは今回が初めてで緊張もしましたが、それ以上に好きな作品を自分でかけるという喜びが勝りましたね。
また機会があればこういう事もしてみたいですね。
ではまた次回でお会いできれば幸いです。
感想等心からお待ちしております。