あれから一月――ついに制圧作戦の日程が近づいて来た。基地に戦力を集中させたりはしない。転送と言うクソ便利な移動方法があるからな、トリオン量は異常に使うがこういう時に大規模な侵攻を何の前触れもなく行えるのは非常に強い。
歩兵部隊として俺は移動するけど、どっちかというと先遣隊に組み込まれてる。基地の司令官にはある程度戦えるって事は理解されてるしな、俺達三人組だ。
あと二日でまた戦いが始まるのか――模擬戦だとか何だとかやってたかからどれだけ戦えるようになったのかは気になる。あくまで二の次だけどな。一番は自分達の生存だ。前ほど酷い状況にはならないと思うけど、それでも不安はある。
今度は裏切りでもあるんじゃないかと暗い側面が勝手に憶測する――切り替えろ。今の俺にそんな考えは不要だ。起きてから考えればいいだろ、そういう事が出来る力があるんだから。
アレクセイと少女――三人で生き残る。これが目標だ。最終目標は勿論地球に帰ることだが、一先ず一つ一つの闘いを乗り越えよう。
大丈夫、なんとかなるさ。いや、なんとかするさ。
準備を追えて、深夜に襲撃するために朝から移動する。前回俺達三人が移動してきた時間と、実際地図を見て作ったルートを組み合わせて決めたらしい。日が出てる間って逆に警戒薄そうだな……。
「徹夜にはならなそうだな。二時間位は寝れるだろう」
何で戦場に出るのにコンディション悪くするんだ、どうにかしてくれマジで。なぁお前も腹いっぱい飯食った後戦う方がいいよな?
「はい!」
おーいい子だ……いや待てそうじゃない。はいじゃないが。俺も何狂った質問してんだ、そうじゃないだろ。クソどうでもいい話題は捨てておいて、実際問題これは大事な事だと思う。少なくともこいつは腹を満たすことでストレスを解消しているのだろう。
アレクセイはよく知らないが、俺は最近寝ることで少しずつ、少しずつだが休めている。前までは夢が酷かったから全く休みにならなかったが、寝れるようになってから少しずつ頭痛が減っている。
人間擦り切れた様に見えて案外限界は深いらしい――しみじみ実感する。どうしようもなく人間とかけ離れた俺だけど、それでもまだじわじわ『喪っている』と感じる感性は残っている。それが救いであり、絶望でもある。
切り替えろ、今は俺の話じゃないだろ。
俺の事は置いといて、俺達を邪魔する要素が現れないかどうかが不安だ。アレクセイが寝不足で――こいつはトリオン体だからまぁよし。空腹少女が睡眠不足で隙をつかれたら?やり直せばいいが、必ずやり直して救える訳では無い。
そもそもやり直しの定義が決まっていないのだ、必ず助けられるという確証は存在しない。だからこそ、不安要素を取り除きたいのだ。これまでは自分を見ていれば良かったが、今は違う。この二人は仲間なんだ。この二人だけは、別なんだ。
他の有象無象を殺してでも、この二人は生き延びさせる。そうだ、刻み込め。お前はあの二人と共に地球に帰るんだ。だから死なせてはいけない。
思い出せよ、響子を助けた時の事を。
あれだけ死んで諦めなかったじゃないか。挑んだじゃないか。やり直したじゃないか。
「それでは出発だ。準備はいいか?」
「はい!」
軽く荷物を背負うアレクセイと、ふんすと息を鼻息を立ててやる気満々というポーズをとる少女。その二人を見て、頭痛がしたが抑え込み俺も続く。
「……行こう」
気張れよ、■。お前は、折れることを許されていないのだから。
―――
――
―
二十九
制圧作戦が始まった。と言っても俺たち十人くらいの少数がまず先に行って、本隊とは別のルートで向かう。要するに陽動って事だ。
俺たちが戦闘開始してから十分後に本隊が攻め入るらしい。初見殺し的な攻撃はこっちでどうにかしろと。んまぁ言いたい事は分からなくもない。大規模な砲撃が本隊に直撃したら目も当てられないしな。
一先ず所定の位置まで徒歩で移動する。転送装置を組み立てて、そこを中継地点にするらしい。だから本隊は後から来る。こういう役目があるなら少数精鋭も納得だけどさ。その後戦わせる必要無くないか?死ねと言われている気がしてしょうがない。
それでも戦って名声を得ないと元の故郷に帰れないと。ほんとこの国クソだな。
やるしかない――心にそう刻め。お前は進むしかない。後ろを振り向くな。自分の死を犠牲にして突き進め。
転送装置をもった技術部兼トリガー使い達と共に歩き出す。所定の位置まで歩きでおよそ五時間ほどかかるから、少しずつ進む。一気に進軍して相手に気取られてはまずい。
あくまで俺たちは発見されても問題ないが、転送装置の場所は発見されてはいけない。発見される前に設置して、その場所とは離れた位置で発見される必要がある。
つまり俺たち三人は別働隊になる必要がある。本隊の場所とは離れた場所で発見されるために。なので途中まで味方に同行し、その後三人になって敵の方へと近づいていく。
夜に本隊が攻撃するため、夕方に何度か戦闘しておく必要がある。あーくそ、やる事多いなちくしょうが。
ザクザク音を立てて歩く後ろのトリガー使い達を横目に確認しつつ、周囲の警戒に気を割く。奴らはレーダーを無効化する手段がある――それはつまり、こっちのレーダー技術を上回っているという事だ。
いつ発見されるかは不明だが、不意打ちが来ないわけが無い。俺だったら不意をついて数を減らす。それくらい先手を取れるのは大事だ。
俺たちの場合空腹少女とか俺がいるからまだ反応出来るけど、普通の部隊にこんな命令出したら速攻死ぬからな。覚えとけよ本部!
まだ何も起きていないが、一旦中休み。既に歩き始めて二時間経つのでそろそろ別れる必要がある。
アレクセイはまだトリオン体にはなってない。お前一人だけ体力作りサボってたからちょっと疲れてんじゃねーか。
「いやこれは……違うんだ。ちょっと暑いだけで」
息少し荒くなってないか?ほら見ろ!体力作りをちゃんとした俺たち二人は問題ないぞ!
「……ソウデスネ」
「……私が言うのもなんだが、可哀想だな」
く、空腹少女の目から光が……?いやでも疲れて無さそうだし、うーん元気はないな。仕方ないなんかやるか。おっとこんな所に俺が持ってきた干し肉が。
「……! はい、基礎トレーニングは大事ですよ?」
「こ、こいつ……物で釣ったな……」
手段は選んでられねぇ――俺も必死なんだよ……!そんなものに必死になるなとアレクセイに睨まれるが知ったことではない。フハハ、俺たちは絆で結ばれてるからさ。悪いな。
ぐぬぬと悔しがるアレクセイを尻目に、干し肉をガジガジ噛んで食べる空腹少女を見る。うーんいつ見ても幸せそうな顔で食うな。俺はもう食べる事で幸せになれる事は無いだろうから、それが心底羨ましく思う。
客観的に自分を分析出来るようになったのは自覚してる。前まではもっと精神的に不安定だったからな……この二人のお陰で少しはマシになった。
「そもそもアレクさん私が走ってる時見捨てましたよね?」
「いや違う!落ち着きたまえ!あれは別に見捨てたとかそう言う訳ではなく」
「でもトリオン体操とか言って何処か行きましたよね?」
「……はい」
うーん残念すぎるぞこの正規兵、休憩中に何時もの漫才が始まった事で周りの技術兵もニヤニヤしながら見てる。ああやっぱそういう感じで見てたのか。
赤い髪を切り揃えて前髪を上げてワイルドに顔を見せるイケメンなのに、何故ここまで残念なのか。俺たちが絡まなければ普通かもしれん。
……これから殺し合いをするとは思えない雰囲気だな。ま、ずっと張り詰めてても疲れるだけだ。俺はこんなもんでいいと思う。
その場その場で切り替えろ、常にスイッチを入れる必要はない。
技術兵達と別れて、回り道をして敵の基地へ向かう。
腹を少し満たして満足そうな顔をしている空腹少女を尻目に、周囲への警戒を増やしていく。レーダーがどれだけ見ているのかは知らないが、少なくとも俺たちの基地にあるのよりは広い範囲を見れるだろう。
俺たちが歩き続けても、転送されてくる本隊との差はあまりない。回り道して進んでるから、直線距離的には変化が少ないのだ。だからこそこんな無茶な作戦を組み立てたんだろうが、ちょっと無茶が過ぎる。俺達三人をなんだと思ってるんだ。
一人――正規兵階級持ち。あれ、この時点で十分じゃないか?
二人――奴隷兵士、謎の勘で攻撃を回避しまくり敵を刹那の合間に斬る忍者みたいな奴。……奴隷、兵士?
そして俺――死んでも死んでも死なないで死ななくなるまでやり直し続ける異常生物。
あれ、意外と妥当なメンバーじゃないか?何だ余裕だ、と調子ぶっこいてたら死ぬのが俺だからな。気にかけていけ。俺は死んでもいいが、二人をむやみやたらと死なすわけにはいかない。そこを心に再度刻め。
「しかし半日歩きっぱなしは流石に脚に来るな……」
体力的には持つけど、純粋に脚が辛い。その気持ちはよくわかる。
「そ、そうですねー」
あ、こいつ意外と余裕だな?周りに合わせようとしただろ今。流石は天才、いつの間にか俺の事も追い抜いて行ったか……寂しくなるな。
「君たちはやっぱりおかしい」
誠に遺憾である。お前らトリオンある連中はトリオン体に頼り過ぎなんだよ!もっと俺達ミソッカス奴隷兵士を見習え!
「そうですよ!大体トリオン体あるからって油断してるから首取られるんじゃないですか!」
「いやその理論はおかしい」
うん、その理論はおかしい。
俺が否定すると嘘だ!みたいな目つきで俺を見てくる。オイオイこの子いつの間にこんなアグレッシブな子になったんだ?……最初からか。
いじけてぷりぷり怒りながら先に歩いて行く少女を見つつ、若干微笑ましい気持ちが沸いてくる。
「……あの子は大切にしろよ」
ああ。わかってる。勿論お前もだぞ?パフェ、食うんだろ?
「当然だ。『ちょこぱふぇ』なる物を食べるまでは死ねんのだ」
それでいいのか正規兵。いやまぁこの国だしな。そんなくらいでちょうどいいか。先に行って姿が遠くなりつつある空腹少女を思い出し、さっさと追いかけることにする。
全く気が早いな、焦らなくてもいいだろうに。追いついて三人で横に並ぶ。闘いの前だというのに、いつまでもこの光景が続けばいいなと――そう思った。
――刹那、どこからか飛来した弾がアレクセイの頭部を吹き飛ばす。飛び散る脳漿、零れる血液。重力に逆らわずにゆっくりと地面に落下していく目玉を見るのは初めての光景だ。
ああ、そんなことを考えたいんじゃない。どこだ。誰がやった。違う、そんなことはどうでもいい。死ななければ。アレクセイが死ぬ前の時間に。
ぬるま湯の世界から地獄へ――自分のスイッチを入れ替える。あれほど油断するなと言った癖にこの様だ。頼む、どうにかなってくれ。
そうだ、忘れるんじゃない。この世界は等しく地獄。俺たちは今まさに、地獄へ向かっているのだと。
素早く剣を抜き自らの首を切断する。
地獄へ――その言葉を刻み付けろ。
戦いはまだ、終わってなんかいない。ずっと、ずっと続いているんだから。