ワールドリワインド   作:恒例行事

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地獄へ⑪

 四十三

 

 駆けて駆けて駆ける――只管森の中を進む。進行速度を上げ、狙撃手を殺す為に全速力で駆ける。既に俺達三人に退く道は無い――この作戦が失敗しては、またあの前線基地が侵略される可能性がある。そうなると、不意を突かれて二人が死ぬ可能性が出てくる。それじゃあ駄目だ。

 

 せめてあの二人に被害が向かないようにしないと。

 

 だからこそ、この敵は何とかしなければいけない。俺達三人全員等しく遠距離から戦う装備と言うのを所持していないから、一番の天敵なのだ。

 

 時折飛んでくる弾も、焦りからか素直に飛んでくるから回避できる。流石に追われている最中に弾をコントロールすることは出来ないらしい。

 

 ある程度接近すると、パタリと狙撃が止んだ。逃げに徹するつもりらしいが生憎逃す気は無い。

 

 どっちに行ったかわかるか?

 

「……多分、あっちです」

 

 元気無さげにそう伝えてきたので、その方向を睨む。……どうする。ここで仕留めたいが、深追いすると逆に待たれる可能性がある。逃げる?だが退路がない。逃げてその先はどうする?また狙撃されて二人が死んだら元も子もない。俺とは違って死が重いんだ。

 

「引いても良いんじゃないか? 私達が戦闘してるここは既に本隊突入位置から十分離れているから役目は果たしただろう。命令としては先遣隊として戦ってこいだが、一戦交えたのだから問題ない」

「一度引き返して、また来ましょう!」

 

 二人が諭してくる。……次か。次、もし二人のうちどちらかが撃ち抜かれたとして元に戻れる保証はない。逆に言えば今が確実に二人を死なせる事なく敵を追い詰められる。

 

 逆に敵が罠を仕掛けている可能性も無くはない。冷静に考えて見れば、突然撃ってこなくなるのは怪しすぎる。さっきまで撃ちながら逃げてたのに?

 

 頭を冷やせ、冷静に行こう。無理な突撃は俺一人の時にするもんだ、二人を巻き込むわけにはいかない。

 

 ああ、そうだな……戻ろうか。焦っても仕方ない。

 

 そうだ。二人を犠牲にするくらいなら、本隊が犠牲になれ。俺一人でだって基地は取り返してやる、だから二人をこれ以上危険な目に合わせるわけにはいかない。

 

「……もし君が私達二人を大事に思っているのなら、心配は無用だ。私はトリオン体があるから、少なくとも君達二人より死なない。彼女だって、その、何というか。……アレだろう?」

「アレってなんですか! アレって!」

 

 うん。まぁ言いたいことはわかる。……そうだな。ちょっと気にしすぎたかもしれない。

 

 まさか目の前でアレクセイが死ぬだけでここまで精神的に不安定になるとは思わなかった。はぁ、だめだめだな。自己分析が全くできてない。自分が死ぬのはいい、けどこの二人が死ぬのはだめだ。

 

 取り戻せないモノだってあるんだ――気を引き締めろ。地獄へ向かってるんじゃない、既にここは地獄なんだ。

 

 切り替える。ここから逃げる場合、捜索範囲が広がって本隊の方に注意が向いてしまうかもしれない。それは避けなければ。

 

「ふむ……。ならば、索敵範囲からは離れず、それでいて手出しするのを躊躇う程度の距離を維持すればいいんじゃないか? 時折前に出て後退して、を繰り返すだけで相手にとっては大分ストレスになるだろう」

 

 流石に戦いを経験してきた正規兵は違う。そうやっていればそのうち痺れを切らして突撃してくる可能性もあるから、そこを上手くつけばいいって事か。

 

 少しずつ後退しながら、また狙撃が飛んでこないか注意する。後ろから撃たれちゃ流石に反応のしようが無いし、初手で致命傷を与えてくるかもわからない。そもそも俺を狙ってくるとは限らない。

 

 駄目だな、悪い方向に考えるから良くない。少しは二人を信用しよう。アレクセイはトリオン体だし、少女はいつも通りの回避性能。つまり現在一番死ぬ確率が高いのは俺だ。致命傷以外は本当に見てから回避しないと躱せないから。

 

 一発受けて、それが腕を断ち切ったとかそういう類のものは死に戻らないと。腕一本なくなっちまったら、流石に戦えなくなる。

 

 敵はどうやら警戒しているようで、迂闊に手は出してこない。その間にもこっちはどんどん距離を離しているからここまでくれば逃げ切れる筈だ。

 

 逃げ切っちゃ意味がないが、レーダーの範囲には入っている。そのくらいの距離を保ちたい。レーダーの範囲を俺たちの使用している範囲だと計算して、アレクセイが元々使用していたレーダー範囲を覚えていたのでそれよりは離れない程度に近くにいる。

 

 流石に狙撃されるような距離ではないな。ここまで狙撃できたらそりゃもう人間じゃない。人の皮を被った化け物だな……俺が言うと滑稽だ、やめよう。

 

 囲まれない程度に緩やかに移動しつつ、時折近付きプレッシャーを与える。何度も繰り返すとバレてしまうので、たまに本当に奥深くまで進む必要がある。

 

 その役割は俺がやる。

 

「君にばかり負担をかけるのはな……それに君は生身で、私はトリオン体だ。私に任せてもらえないか」

「いえいえ、こう言う時は若い人が行くんですよ! という訳で私が行きます」

 

 いや待てお前ら、お前らは駄目だ。

 

「そんなこと言ったら君もだ。私にとって二人は大切な仲間なんだ、わざわざ死地に向かわせるわけにはいかない。それにこれは私の譲れない所でもある、これ以上仲間を死なせたくはない」

「私だってこれまで助けられてばかりで、肝心な時に役に立って無いんです。少しは頼ってください!」

 

 ……駄目だ。二人は、ダメなんだ。

 

 頼む。お前達二人は、生きてて欲しいんだ。死んで欲しくない。お前ら二人が死んだら俺はもう……生きて、いけない。

 

「私だって、そうです」

 

 腹ペコ……。

 

「え、私そんな呼ばれ方してたんですか!?」

「……これはひどい」

 

 は、腹ペコ……そう言って崩れ落ちる空腹少女にデジャヴを覚える。ああ、そう言えば基地に来てすぐの頃はよく走りながら崩れ落ちるとかいう訳わかんないことしてたなぁ。

 

「……な、名前そういえば教えてなかったし聞かれてなかったかも……」

「逆に君達どうやってコミュニケーション取ってたんだ? そこが気になるんだが」

「なんとなく?」

 

 なんとなく、うん。確かにそれがしっくり来る。

 

「……もしやこんな連中ばかりなのか? そんなキチガイ達を攫ってきて捨て駒にしてるのか?」

 

 おいやめろよ、俺達がまるでキチガイみたいな言い方。空腹少女はともかく、俺はある程度まともだぞ。ちょっと死に戻れるだけで。

 

「何か酷い扱いされてる気がしますけど……それはいいんです! あのですね、私だって死んでほしくないんですよ?」

 

 それは、まぁ……分かるけど。俺も死んで欲しくないんだよ。二人ともだ。

 

「だから、それも一緒です。私達三人とも、互いが欠けちゃダメなんです。一人でも欠けちゃったら、もう駄目なんです」

 

 それは、少女の勘の良さから導き出された答えなのか――それとも彼女が考えて考えて考え抜いて出てきた答えだったのか。正直、彼女もかなり疲弊している事には気が付いていた。俺が死ぬとき、空腹少女の顔は毎度絶望に染まっていた。その光景を見ながら、敢えて見て見ぬふりをしてきた。これ以上背負えないと、自分に言い聞かせる為に。

 

「彼女の言う通り、だな。……ふ、いっその事本隊を犠牲にしてしまおうか?」

 

 正規兵とは思えない言動だが、その裏には俺達を心配する表現が受け取れる――ああくそ、なんでこいつらはここまで。

 

「私たち三人が居れば大丈夫ですよ! ちょっと顔出して、ちょっと戻って。情報収集してるとでも思わせるような立ち回りだと思えばいいんです!」

 

 ……天才か?

 

 アレクセイと二人で固まる。おい、その手があったか。

 

「盲点だった……そうか、それなら奴らもある程度まで踏み込んでくるし、それでいて無理やり突破するほど労力は割けない。必然的にある程度使えるが絶対的ではないという敵がやってくる」

 

 おおう、もう、なんというか……。

 

 そもそも作戦がガバガバだった、それに尽きる。……ちゃんと二人を信用して、踏み込むべきか。だけど、この二人を失ってしまえばきっと俺は――もう元には戻れない。漠然と、予感がするのだ。

 

 駄目だ。これまで二人が死んだ記憶が多すぎて、頭が痛い。クソ、こういう時に限ってひどい頭痛だ。

 

「ではわざと情報収集している様な痕跡を残そうか。それでいけば何とかなるかもしれない」

 

 そうだ、何とかするんだ。これ以上失わない為にも、二人も俺も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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