ワールドリワインド   作:恒例行事

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犠牲⑤

 七十六

 

 周辺の地形の把握をするために、自分の足で歩く。あまり遠くまで行くと危険だが、一キロ程度なら平気――な筈だ。まぁ駄目だったら俺が死ぬだけだし問題ない。

 

 木の大きさや、岩の大きさ等もある程度メモして覚えておく。こんなのが役に立つのかと言われれば立たないかもしれないが、そこにある物を記憶するのは重要だ。

 

 潜伏し、隙を伺い、情報を得る。その為にはありとあらゆるものを使わなければいけない。

 

 どの木がでかいか。岩が使えそうか。地形はどうなっている。人一人隠れられるか。逃げるのに有効か。

 

 そういう要素を全て考える。作戦に含む。実行までに出来ることは何度だってやる。把握できないことがあるというなら、死に戻りをして時間を作り出してもいい。それだけの準備を行う必要がある。

 

 いきなり戦闘なんて馬鹿な事をやってはいけない。悪手にもほどがある。

 

 俺が調べ、皆で共有し、更にそれを更に調べて確実性を持たせる。そこまでやって漸く情報収集の準備が整う。

 

 それだけ甘く見てはいけないのだ。

 

 情報を束ねて束ねて、準備に準備を重ねて漸く戦える。俺はもう失う訳にはいかないんだ。

 

 

 黒トリガー以外にも、普通のトリガー使いが来る可能性だってある。幸い射撃型で固めているこの基地には現状トリオン兵がたまに来る位で大きな侵攻の予兆等は無いそうだ。

 

 それでもちょくちょく来ているという事は、偵察目的であることは間違いない。すぐに来なくてもいつかは来る――索敵範囲を広げて、情報をもっと集めなければ。

 

 味方のトリガー使いと話して、黒トリガーの対策を一緒に考えてもらう。今回要になる遠距離トリガー使いと連携を取り、早期に発見してもらう必要がある。

 

 円滑に話を進めれるよう、基地の司令とも話を付けておかなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日が経って、遂に黒トリガーが出て来たらしい。五人で戦って、二人だけ帰還した。持ち帰った情報によると敵は爪の様な物を手に装着していたらしい。

 

 遠距離から見ていたが、突如目の前に現れて勢いそのままトリオン体を二人解除させられてそのままダウン。残り三人で引きながら態勢を立て直して一人犠牲にしつつも――という話だった。

 

 爪がメイン武装で間違いなさそうだな。そして目の前に現れたという情報が一番大事だ。

 

 瞬間的な加速によるものなのか、それとも瞬間移動なのか。これはかなり大事な情報だ。しっかりと精査して、どっちでも対応できるようにしなければいけない。

 

 正解が不明な以上ある程度憶測が混じるが、的外れという事は無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黙々と飯を食いながら、ひたすら考える。足りない脳を捻り、どうにか打開策を見つける。瞬間移動に近い移動をして来て、尚且つ一撃で仕留めてくる。対策なんてあるのかって感じだが、そこをどうにかしなければいけない。

 

 戦力は正規兵が五十人程、俺、少女、アレクセイ。階級持ちは誰一人来ていないらしい、使えねー。

 

 もそもそ飯を口に運んで、痛む頭を押さえつつ考える。足りない。手札が足りない。俺と正規兵は出せる。問題ない。少女とアレクセイは出せない。

 

 リスクが高すぎる。少しでもあの二人が死ぬ可能性が増えるのは控えるべきだ。

 

 最近になって、更に頭痛が増してきた。その所為で夜も寝れないときがある――まぁ寝る時間を削って考える時間が増えるから俺としては都合がいい。

 

 はぁ、どうする。少なくとも三人で離脱しようとして、一人完全に犠牲にして漸く逃げ切れる位力の差がある。そして射撃型のトリガーを使用する正規兵は、誰かが近寄られて盾にされてしまえば攻撃を少しは躊躇うだろう。

 

 そうなってしまえば確実に全滅する。それだけは避けなければ。

 

 誰かが囮になって、集中砲火する隙を作る。これが一番確実な戦法になるだろう。

 

 問題は誰が囮になるかだが――正規兵か俺。

 

 俺の勘が上手く働けば、俺が一番メタ的な存在にはなる。まぁそもそも死んでやり直せる時点で俺が一番正解なんだが。

 

「――ふむ、一緒してもいいか?」

 

 おう、お疲れ。飯を抱えながら歩いて来たアレクセイに返答しつつ、飯を口に運ぶ。

 

「……いつもより酷い顔をしているな」

 

 ……そうか?

 

「ああ。今にも死にそうな顔をしてるぞ」

 

 はは、そりゃ皮肉なこった。死ぬことなんてないのにな。

 

 うまく笑えているのだろうか。自分の表情がどうなっているのかなんて、とっくの昔に忘れてしまった。笑顔、笑顔か。前は、こんな感じだったか。

 

「その死にそうな顔をやめたまえ、なんというか、その……嫌な予感しかしないから」

 

 どういう顔なんだそれは。はぁ、俺も彼女みたいに常に笑顔でいればいいのだろうか。

 

 試しにニコッてしてみるか。おいアレクセイ、これどうよ。

 

「壊れた笑顔は恐怖感が増すからやめてくれないか?」

 

 おかしい、結構まじめだったんだけど。

 

「どうも、お疲れ様で……ど、どうしたんですか。何があったんですか。もしかして遂に心が……!?」

 

 お前もか少女よ、人の笑顔をなんだと思ってるんだ。

 

「それだけ酷い顔をしていたという事だ――君、最近ちゃんと休んでるのか?」

 

 ……休んでるよ。ちゃんと寝てるし。

 

「嘘だな。君が深夜一人で外に行くのは何度か見たことがある。寝てる時間すらほとんどないんじゃないか?」

 

 一日二時間くらいは寝てるよ。寝れないこともあるけど。

 

「……はぁ。本当に目が離せないな君は。黒トリガーは君一人が悩んだってどうにか出来る事ではないだろう?」

 

 そうだけど、そうじゃない。俺が考えなくちゃいけないんだ。俺は死に戻れるのだから、チャンスが一番あるのだから。……なんて、馬鹿正直に言ってしまえたらどれだけ楽な事か。

 

『死んだら元に戻ります』なんて言って、信じてもらえるわけがない。そもそも信じてもらう必要もない。結果が大事なんだ。

 

 二人に理解してもらえなくても仕方ない。生きてさえいればいいんだ。そうだ。そこを間違えちゃいけない。

 

「……あのー、ですね。こっちとしても、全然頼られないのはちょっとそのー、寂しいといいますか……」

 

 ……頼ってるつもりなんだけどなぁ。少なくとも日常的な面では世話になってるし。

 

「そうじゃないんですよ! その、何て言いますか。そうやって悩んでるときにこそ頼って欲しいと言いますか……

 

 悩んでるときに、か。……この状況で二人を頼ったら、絶対自分たちも前に出るって言うからな。頼れる訳がない。それで死んだら元も子もない。

 

「別にそんな無茶言いません! そういう大事な時に頼って欲しいんですよ!」

 

 若干やけくそになってそういう少女に対し疑問を抱くが、それはそれとして。

 

 そうだな。少女はともかくアレクセイは元階級持ちだ。そういう黒トリガーとの戦いは経験したこと無くても、他のタイプの理不尽という物を知っているか。

 

「……哀れだ……」

 

 ぴしりと固まっている少女を見てアレクセイが呟く。ズキリと頭が痛むのを抑えつつ、飯を掻き込む。

 

 ああ、わかったよ頼ればいいんだろ頼れば。それはもう存分に使わせてもらうからな。

 

 周囲の地形の地図を纏めて隠れれそうな場所をメモしたとこを記して、敵の黒トリガーの情報を纏めて戦力を共有させるための資料作成とか基地司令への交渉とか戦闘訓練とか色々やってもらうからな。

 

「……はい!」

 

 にぱっと笑顔でそう答える少女を見て、胸がズキンと痛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 手を動かす。地図に要所としてメモしておいた箇所を精査して、本当に大丈夫かどうかを複数人で検証してきたのでその結果を描き込む。

 

 俺一人で場所を探索し、その結果を数人で精査して本当に問題ないかどうかの確認。こうすることで俺一人の主観ではなく、数人の意見が入って正確性が付与される。

 

 最終的にこうする予定ではあった。けれど、やはり最初から複数人に頼んでしまえば早かった。……どうにも失う事への恐怖が焦りを生むというか、正常な思考が出来なくなってしまう。

 

 それほどあの二人が大切なんだ。うん。そういうことにしておこう。

 

 夜も更け、完全に真っ暗な空間で描く。夜が完全に意味の無い物になった今、昼夜の逆転とかそういうレベルではない。まぁ寝る必要はあるんだが。

 

 夜だから寝るのではなく、寝る必要があるから寝るんだ。うん、ちゃんと寝ないとな。

 

「……まだ、寝ないんですか?」

 

 少女が話しかけてくる。お前こそまだ寝てなかったのか?

 

「え、えへへ……さっきまで寝てたんですけどね。ちょっと目が覚めちゃいました」

 

 そりゃ悪いことしたな。俺もここまでにしとくよ。大体書き終えた地図を机の上に放り出してもそもそ寝床に移動する。

 

「あ、すみません。邪魔しちゃいましたね」

 

 いいんだ。もう終わりかけだしな。起こしちまって悪かったな。

 

「……いいんですよ。それに何だか、こういうのも良いです」

 

 そういうもんなのか?

 

「はい!」

 

 ま、お前がいいならいいか。凝った身体をポキポキ伸ばしつつ、寝床に入る。温もりも何もないから正直布団をかぶる必要は一切ないが、気分である。

 

「……うまく、行きますよ」

 

 そうだな。うまく行くさ。みんな協力してるんだ。

 

 俺だけじゃない。俺達三人だけじゃない。皆だ。基地に居る全員が力を合わせようとしてる。

 

 うまく行く。無理やりにでもうまくやらせる。何度繰り返しても、絶対に。

 

 

 

 

 

 


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