ワールドリワインド   作:恒例行事

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前話見てない人は気を付けてください。


犠牲⑥

七十六

 

――遂に、その日が近づいて来た。

 

近くにやってくるトリオン兵の数が増え、徐々に人型も確認され始めたらしい。ここまで露骨に『これから戦争仕掛けますよ』と行動されると逆に罠かと疑ってしまうがそれはない。

 

普通なら罠だが、トリオンという物を扱う以上普通の戦争とは違う。敵の戦力を把握して準備をして攻め入って壊滅させるのがトリオンを用いた戦争だ。

 

最終的に人が勝敗を決める戦争なんだ。準備に準備を重ねる。

 

味方と調整をして、その時に備える。いつ襲来しても良いように、見張りの人手も増やした。射撃型の正規兵には迷惑かけるが、死ぬよりかはマシと言いながら自分達でローテーションを組んでたりしてた。

 

いつ来てもいいように、心構えをしておく。

 

何時もより強めにギシリと剣を握りしめ、剣を振る。大丈夫、なんとかなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正規兵達がある程度の射程まで侵入してきた敵を迎撃し、それを突破してきた敵を俺・アレクセイ・少女の三人で分かれて迎え撃つ。

 

三人の内どれに黒トリガーが来るかは不明だが、ある程度来る確率が高くなるように手は打った。

 

俺が敵の真正面に相対して、尚且つ味方にも黒トリガーをできれば俺の方に誘導してくれと頼み込んである。

 

これでどうにか誘導できればいい。出来なければ応援に行けばいいだけだ。

 

既に遠くで戦闘が始まってるのか、木が倒れる音が聞こえる。最近になって良くなってきた聴覚がこういう所で地味に役に立つ。

 

 

 

 

 

――来る。

 

 

 

 

瞬間、目の前の森から二つ影が飛び出してくるのを確認。左右に分かれて逃げようとする姿を捉え、先ず一体ずつ処理する。

 

初手で殺しに来ない時点で例の黒トリガーではなく、別動隊の通常トリガー使いだろうと当たりを付けて一気に踏み込む。

 

初速で右に避けていった奴に追いつき、勢いを殺さずそのまま剣を抜く。いつものように、呼吸と同じ。エネルギーに一切の無駄を発生させず、首を断ち切る。

 

スッ、と何の抵抗もなく首に通る刃を見て殺った(やった)と確信した瞬間、背筋に凍るような感覚が奔る。ああわかった、ここは死んでやる、だがせめてどこからやってくるかは把握させてもらうぞ。

 

感覚を研ぎませ――ても正直痛みとか感触はさっぱりだから、耳で捉える。少しの風切り音で発生源を特定しろ。

 

ヒュンッ!と背後から音がする。ああわかった、それ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

七十七

 

 

――来る。

 

久しぶりの死に戻りだからかは知らないが、いつもの数倍の頭痛が襲ってきた。ああクソ、こういう時に限って悪い方向に進むな。

 

痛む頭を押さえつつ、さっきと同じように右の奴に向かって踏み込む。もうめんどくさいしここで殺す必要も無いか。

 

その勢いのまま回転し、踵落としを叩き込んで地面に埋め込む。背後から飛んでくる弾を上体を捻ることで回避し、その回避した勢いのまま剣を振りめり込ませた敵を斬る。

 

流石に身体真っ二つになって活動できるトリオン体はねーだろ。解除されて生身になったのを軽く確認して足で踏みつけ頭を潰す。

 

頭の中身がぐしゃぐしゃにミキサーされて、若干ピンクの様な色のついた脳漿と真っ白な骨がぐちゃぐちゃになって出てくるその様子は見てて嫌悪感を抱かざるを得ないが、悪く思うなよ。

 

これは戦争で、俺が勝ってお前が負けた。俺にトリオンの高い力は無くて、お前にはあった。俺に死に戻る力があって、お前にはなかった。

 

それだけの話だ。

 

もう一人の避けていった奴がどこに行ったかを確認するために周囲を見渡し、もう一度背筋に凍り付く様な感覚が襲ってきたので今度は感覚に身を任せる。

 

唐突に視界が暗くなったので、上から来ていたのだろうか。後ろに跳び退きその攻撃を回避する。そしてその場に着地して、居合の様な形を取った。

 

ああ、何か見覚えあるぞそれ。そうだ、確か斬撃伸ばす奴だよな。

 

なら予測は容易い。振られる剣の軌道を予測しその線に沿って剣を振る。それだけで伸びる斬撃は封じれる。

 

いつも通りトリオンによる衝突で音もなく消えうせた相手の斬撃を尻目に、その場で加速し踏み込む。一・二・三のリズムで足を地面に打ち付け更に加速、通り過ぎるその刹那に首を斬る。

 

トリオン体を解除し、絶望した表情でこっちを見る敵に一瞬、一瞬だけ誰かが被って見えたが――振り払って斬り捨てる。

 

頭から真っ二つ、内臓を撒き散らし血の池に沈む死体を見てこうはなりたくは無いと考えつつ次を考える。

 

まだだ、まだ序章。これは始まりに過ぎない。先程の死に戻りからずっと痛む頭を押さえつつ、次に備える。さぁ、俺のところに来いよ黒トリガー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如、森の中でも喧噪が止んだ。先程まで聞こえていた怒号や、破壊の音の一切が途絶えた。これは――来たか?

 

剣を構える。普段は来てから抜刀というスタイルだが、それじゃ確実に間に合わない。黒トリガーの戦闘方法が少なくとも瞬間移動に近い物だとするならば、振ってからでは遅い。確実に一度は死ぬ。

 

そういう点で言えば俺は完全なメタ存在だが、それを知る事実は俺だけだ。

 

何時森から出てくるかわからない。移動音すら聞こえないこの状況では少なくとも下手に動くことは出来ないだろう。いや、逆に動くべきか。

 

二人の方向に敵が行ってしまっては仕方ない。黒トリガーだけは俺がどうにかしなければいけない。

 

どうする、ここは敢えて踏み込むのもありか。うん、そうだな。基地の防衛なんぞより、二人が生き残る可能性を優先しよう。

 

 

 

剣を握りなおし、一歩足を前に踏み出す。僅かに嫌な感覚がする。

 

 

 

もう一歩森に近づく。今度こそ明確に、ゾクリと背筋に感覚が奔る。ああ、この先に進めば確実に死ぬと、これは最早予知等というレベルではない。

 

 

 

それでももう一歩近づく。死ぬんだ、そういう感覚が全身を駆け巡る。これまで何度も死んだからか、それとも研ぎ澄まされた勘か、俺の勘違いか。勘違いであればどれほどいいか、そんな都合よく事が運ばれる世界なら俺はそもそもこんな場所にはいないか。

 

 

 

 

一歩また一歩と森へ足を運び、その度に駆け巡る死の感覚を全身で受け止めながら更に足を運ぶ。俺一人が死ぬくらいが何だ。それで二人が救えるのなら何度だって死んでやる。

 

 

 

 

森にあと一歩で踏み込める、そういう距離まで近づいた。背筋は凍り付く様な感覚は既に消えうせ、代わりに久しく忘れていた心臓の鼓動という物を感じている。バクンバクンと、動き過ぎで死ぬんじゃないかと勘違いする程の感覚。

 

 

 

 

 

 

『別にそんな無茶言いません! そういう大事な時に頼って欲しいんですよ!』

 

 

 

 

 

 

脳裏に声が反芻し、足を動かそうと考えていた思考が止まる。大事な時――今この瞬間は、紛れもなく大切な時なのだろう。こういう時に頼るのが、仲間であると――彼女は言っていた。

 

でも、今この状況で頼ったりしたら。駄目だ、それだけは駄目だ。

 

けど、ここで頼らなければ彼女に文句を言われるだろう――ああ。文句を言われる方がマシだ。下手に頼ると死ぬ可能性が増してしまう。それは駄目だ。

 

駄目だ。駄目だ。駄目だ。駄目だ。駄目だ。駄目だ。

 

ぐっと剣を握りしめ、改めて森を見る。音が完全に途絶え、死の気配しかしない悍ましい森。

 

それがどうした、寧ろ死は――俺の味方だ。歓迎しろ、受け入れろ。

 

今更死ぬことに恐怖するな、お前が恐れなければならないのは死ぬことじゃない。失う事だ。

 

覚悟決めろよ。何度死んでも諦めるな。そこにお前が求めるものがあるんだ。それを掴み取れ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――……れ……こへ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――森に飛び込んだ。既に音を無くして、完全に何が潜んでいるかどうかすらわからない環境だが恐れはしない。

 

黒トリガーは愚か、通常トリガー使いすらいない。姿かたち何もかも見えない。

 

味方のトリガー使いが潜伏していた筈の場所を先に回る。何か形跡はないかどうか、出来るだけ音を立てながら。俺が森に既に侵入している事を敵に伝える必要がある。

 

そうするためにわざわざ敵が居そうな場所を音を立てながら回る。

 

味方がいたはずの場所には既に事切れた死体が幾つかあるだけで、敵の姿はどこにも無かった。……退いた?このタイミングで?ありえない、黒トリガーなんて破格な物があるのに退く必要性が全くない。

 

そもそも現時点で圧倒的に有利なのは向こう側だ、退く利点が一切ない。という事は、既に森を抜けて向かったかまだこの森の中に潜んでいるのかのどっちかになる。

 

森を抜けているという可能性もなくは無いが、そもそも森の中での戦闘音が途絶えている。その時点で森の中で何かしらの行動を行ったと見て間違いないだろう。

 

ならまだ潜んでいる筈だ。もしくは周辺に居る筈。黒トリガーにデメリットでもあるならば辻褄はあるが、十中八九それは無いだろう。恐らくこれは、俺達三人をおびき寄せて戦闘員を無力化し基地に黒トリガーの情報を一切通さず終わらせる気だ。

 

そう考えた方がしっくりくる。

 

耳を研ぎ澄まし、音の一つの聞き漏らしも無いよう集中する。

 

風の音ひとつ聞き逃さない、今ここに全てを集中させろ。

 

 

瞬間、背後でガサリと音がする。

 

 

 

剣を抜き、振りかぶり――

 

 

 

 

 

 

 

 


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