ワールドリワインド   作:恒例行事

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始まり③

 九

 

「援軍か? 所属を答えろ」

 

 トリオン兵に斬りかかるも無事死亡、何故うまく行かないんだろうか。ていうか、俺自身に本当にそんな能力的なものがあるのかすらわからん。

 

 いっそのこと空腹少女にそういうの感じ取れないかどうか聞いた方が早いのでは……?

 

 一先ず毎回最早通例となった戦闘方法をアレクセイに聞くこれは、アレクセイがぶつぶつ何かを言いながら頭を抱える所までテンプレになった。あ、先に誰かにやってもらって変化あるかどうかみればいいじゃん。

 

 

「え? 言われたとおりにですか? はい!」

 

 

 そう言いながら死にそうな顔をしていた筈の少女が若干嬉しそうな顔でブンブンロングソードを振るう。恐怖すら感じる状況だけど何も感じ取れない。

 

 オイオイ、落第者とかそういう次元じゃないぞ。これは本格的にどうやって生き延びようか躊躇うレベル――あれ、待てよ。

 

 最初のころの俺の死因ってなんだった?思い出せ、何かに繋がる気がする。四足歩行に斬られ撃たれ、殺されてた。その他に数度、あのでかいのに飲み込まれて死んでた筈なんだ。

 

 おかしいぞ、そういえば俺が最終的に決めた道では飲み込まれたはずだ。なのに生きてる。

 

 ……どういう法則があるんだ?たまたまなのか?

 

 確証がない以上変な可能性に賭けるわけにはいかないが、何度か死んでその回数によって俺のそのトリオンとやらが増加、もしくは変化するのか?

 

 一考の余地はある――まぁ、既に何度死んだかなんてわからない訳だが。

 

 

 ぶおぉんぶおぉんとちょっと俺の持ってる武器とは違う勢いで振り回される武器と空腹少女を見ながら、再度戦場へ向かった。

 

 

 

 

 

 十

 

「援軍か? 所属を答えろ」

 

 くそっ、また駄目だった。傷はつく、傷はつくがその程度だった。相変わらず数匹ずばずば斬って死にかける空腹少女を庇って死ぬ繰り返しである。どうすればそこまで切り裂けるのか俺には分からん。うーむ、何が足りてないのだろうか。

 

 ん?待てよ。そもそも敵の数を把握してないな。

 

 現状自分の力で突破できないのだから、どうにか周りの力を頼らざるを経ない。最も戦闘力を発揮しているのは黒髪の空腹少女。他の奴らがどうかはさっぱりわからないがこの子を起点に立ち回るしかないか。

 

 

 

 

 

 

 

 十一

 

「援軍か? 所属を答えろ」

 

 敵の数は多くこそないが、俺たちだけじゃ確実に勝てない。一番の戦力である空腹少女が四、五体で止まるのに対して敵の数は恐らく百は超えるだろう。これ何て無理ゲー……。

 

 希望も救いもない現状に頭が痛くなってくる。ああクソ、どうすりゃいい。どうすれば生き延びれる。俺が力になれないだけで、こんなにも絶望的だなんて――

 

 

「どうしました?」

 

 

 ああ、ごめんな。お前の所為じゃないんだ。俺が悪いんだ。俺が、俺が、俺が、俺に、才能が無かったから……駄目なんだ。ああ、折れるな。まだ数回死んだだけだ。響子を連れて逃げた時を思い出せ。思い出そうとしても思い出しきれない程に死んで死んで繰り返した地獄をお前はもう乗り越えただろ。

 

 死んだ顔から少しだけ希望があるような表情に変わった空腹少女を見て、俺自身に何故その力が無いのかと心の奥底で思ってしまう。

 

 本当は、ただの無意味な嫉妬だと分かっている。彼女のその才能があっても、恐らく彼女と同じように四体ほど倒して殺されておしまいだろう。この状況では、俺が最も可能性がある人間なのは間違いないのだ。

 

 繰り返せ、何度でも。それだけが俺にできる唯一なのだから。

 

 

 

 

 

 十二

 

「援軍か? 所属を

 

 少女を中心に立ち回ってみたがうまく行かなかった。結局のところこの中で一番才能のある空腹少女でもミソッカスな事に変わりはないらしい。神様がいるなら今すぐ祈って救ってほしいと思うほど絶望的な状況だが、大丈夫だ。

 

 俺の心が折れない限り、俺たちは死に続け生き続ける。

 

 

 そうだ、再度■■響子に会うために――俺は何度死んででも帰って見せると誓ったんだ。

 

 

 

 

 十三

 

「援軍か?

 

 やった!傷を一つ付けるだけじゃなく、あいつらの武装の一つであるブレードを根元から斬る事が出来た。まぁその直後に撃たれて死んだが。それに、若干だが自分の中の力が分かった気がする。血液を操って注入とか意味不明過ぎるアドバイスだったけれど案外あってるかもしれない。

 

 ……でもこれ、何度も死んだ俺がやっと出来るんだから他の奴ら出来ないんじゃないか?

 

 まぁ大丈夫か。その場合は俺が何度でも死んで繰り返せばいい。目の前の人間を救うために遠回りくらいは、響子も許してくれる筈だ。

 

 

 

 

 

 ――斬る。

 

 ただそのひとつに集中する。

 

 目の前を駆けるトリオン兵を待ち受け、周りの警戒も行いつつこのトリオン兵を斬ることに全神経を集中させる。チャンスは一瞬、感覚は覚えた。何度も何度も何度でも練習できるのだ、必ず使いこなせるようにだってなる筈だ。

 

 瞬間駆け出し、四足歩行の目の前に躍り出る。

 

 そして手に持った剣を振りぬく。自動車ほどのサイズだが、この謎の力――トリオンならばうまく行くはずだ。何より、ぶった斬るという行動はもう何度も見たからイメージが出来る。

 

 砲口から刃を滑り込ませ、その瞬間に前に更に加速する。その巨体を飛び越えるかのように飛び抜け、そのまま真っ二つにする。

 

 よし、うまく行った――!!

 

 何度死んだかは数えてないが、ようやく単独で殺すことができた。ここからだ、ここから漸く反撃が始ま

 

 

 

 

 

 

 

 十四

 

 無慈悲にも一体殺したところで横合いからの砲撃で死んだ。流石に容赦なさすぎる……てかあの空腹少女はあんな即砲撃飛んでくるような状況で五体も殺してたの?頭おかしいんじゃないか。

 

 それはそうと、やっと自分の力を自覚できた。どうやらこの剣、トリオンを流し込むとトリオンを纏って攻撃する仕組みらしい。非効率的すぎるだろ……他になんかないのか。トリオンがミソッカスな奴にこんな効率悪いモノ渡すとか本当にこの国は頭がおかしいな。

 

 一体殺す事が出来たら後は何度も繰り返して繰り返して繰り返す。殺し殺されの繰り返しを永遠に続けるだけだ。

 

 次だ次、何度だって繰り返す。

 

 

 

 

 

 

 

 十五

 

 一体殺して、次に飛んでくる砲撃を避けてもう一体殺せた。行動パターンが大きく変動しないのは前回で学習済みだ、出来るだけ覚えて最高の未来を手にしてやろう。

 

 

 

 

 十六

 

 三体まで殺した。

 

 

 

 十七

 

 五体殺したところで、足が消し飛んだ。てか、六体目が斬れなかった。どうやらトリオン量に関してはやはり空腹少女もその他も俺も等しくミソッカスらしい。足が消し飛んだ時に空腹少女が助けに来てくれたけど、俺に気を取られてる間に他のトリオン兵に殺されてた。クソったれ、俺なんかを庇うなよ。俺は何度だってやり直せるけど、お前らは違うだろ?

 

 殺すことに夢中になって仲間を忘れちゃいけない。俺にとって■■響子が一番大事だが、彼女は今は無事な場所に居る――筈だ。

 

 そして俺は無事ではないが死ぬことは無い。ならばそのうち確実に再会できるのだ。だからこそ、俺は仲間を大切にしなくてはならない。今この世界に居る唯一同じ民族なのだから。

 

 

 

 十八

 

 これ、斬る瞬間だけトリオン流し込めばいいんじゃないか?結局前回も七体までだったが、最後の最後で極少数のトリオンを流し込んだらその一瞬だけ斬れた。つまり、流し込む時間を減らせば殺せる数も増える。

 

 流し込む時間を減らすという事は、それだけ早く斬る腕が必要になるという事だ。ああ、いいだろう。何度でも斬ってやる。

 

 

 

 

 十九

 

 一体を本当に極少数のトリオンで殺す練習をした。結果的に言えばいきなりは無理だった。何度も繰り返さないと無理だなこりゃ。毎度毎度手足が千切れてくが、最近痛みをあまり感じなくなってきた。いちいち苦痛を感じなくていいから精神的には楽だな。

 

 

 

 

 二十

 

 まだ無理。でもなんとなく感覚は分かった。一瞬だけ流し込むっていう事は意外と難しくない……いやごめん嘘。めちゃ難しい。試しに空腹少女に聞いてみたら、

 

 

「一瞬だけ、ですか? ……あ、出来ました」

 

 

 やはり……天才か。天は二物を与えずとはよく言ったものだとつくづく実感するよ。つーか流し込む才能があっても剣を振るえなきゃ意味ないし。アレ?そう思えばなんで空腹少女いきなりあんな早く剣振るって動けるんだ?

 

 やっぱ選ばれた人類なのか……? もしそうだとしたら逆に納得する。戦闘するために産まれてきた血族とか言われても正直疑わない。

 

 初手で俺がズタボロにされてるのに初見で動ける空腹少女は正直おかしい。もうこれやっぱ空腹少女の存在がどうにも必要に感じるけどな……。

 

 

 うーむ、やはり何度も試してるがなんとなくでしか上手くいかない。まぁいいか、どうせ何度でも繰り返せるし。

 

 

 

 

 


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