ワールドリワインド   作:恒例行事

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神の国Ⅻ

「――っ!」

 

 

ブン、と素早く振られる剣に対して正面から対応する。

 

軌道を読み力のかかり方を観察し、受け流す為に最適の角度に腕を動かす。正確には、勝手に腕が動く。こうすればいい、このタイミングで挟めばいい――ある程度の事は経験が助けてくれる。

 

キ、ギイイィ!と不愉快な金属同士の擦れる音を耳に入れつつ右腕を上に掲げて徐々に逸らしていく。

 

そのまま右半身を前にだして踏み込み、逸らす勢いを保ちつつ左足で蹴る。素直に真っ直ぐ蹴り抜き、相手の腹に直撃する。

 

 

「ご――ぼぇっ」

 

 

衝撃で口から物を撒き散らしながら吹き飛んでいく男――ヒュースを見てまだやるか、と問う。

 

 

「――とう、ぜんだ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何度か模擬戦を繰り返していく内に、ヒュースとの実力差がそこそこ縮んで来た。と言っても流石に負けはしなかったが、危うい場面は幾つか出てきた。

 

年齢的にもまだまだ成長する時期だから、簡単に追いついてくる。それに若干の嫉妬を覚えなくもないがそれはそれ。前にもそんなのと一緒にずっといたのだからその程度簡単に抑えられる。

 

 

「はぁ……」

 

 

顔に幾つかの打撲痕、それに細かい切り傷を作り地面に座り込むヒュースを尻目に予め用意しておいた治療箱を手に持つ。

 

「……少しは追いつけたのかと思ったんだが」

 

体育座りの様な姿勢で顔に手を当て呟く。まぁ、そんな短期間で追いつかれる様だったら生き残ってないさ。

 

「それはそうだが……こっちも修練してきた年数というものがある」

 

それはそうだ。俺の場合最初から実戦で、基礎なんか学んでなかった。逆に言えば強くなるしか無かったのさ。

 

布を取り出し、消毒液をかける。一体どこからこういう必需品を生み出してるのか不明だが、密かに別の星と取引でもしているのだろうか。

 

そのままヒュースの顔に持って行き、切り傷に当てる。血を拭き取るのと、雑菌を取り除くのを意識して当てる。

 

「――〜〜っ……」

 

少し深いところまで切れてるところもあるので、そう言った場所は染みるのだろうか。なんにしても俺には既に味わえないもの――別に進んで味わいたいものではないが。

 

傷口にテープを軽く貼り止血、今日の模擬戦はここまでだと告げる。

 

「……助かる。あとこれからは自分でやる」

 

にしても、なんで急に生身でやろうなんて言いだしたんだ?

 

「それはだな……トリオン体を解除させられた場合を想定してだ」

 

まぁ確かにトリオン体を解除させられた場合、ほぼほぼ詰みである。俺とか彼女が異常なだけで、普通は生身で戦おうなんてことはしない。

 

「剣鬼、トリオン体を解除した奴に対してどういう対応してた?」

 

即殺してた。

 

「……そういう訳だ。普通は捕らえて交換条件用の捕虜として扱う。最初期のお前の様に」

 

残念ながらあの戦場じゃそれどころじゃ無かったんでな。殺して殺され殺して殺す。少なくとも俺とあと一人、この中に入ってる奴は殺しに特化していたよ。

 

「……そう、か」

 

剣を軽く揺らし、アピールするとヒュースは納得する様に言葉を飲み込んだ。

 

……それにしても、模擬刀で刃を潰している筈なのに斬れてしまった。まぁ、頼りきりにならなくてもある程度これなら戦えそうだ。

 

刃や鋭さで斬るのではなく、完全に速度と威力で斬っていた。斬るというより切るの方が正しいかもしれない。

 

ス、と構えて虚空と相対する。目の前に浮かべるのは――彼女。

 

記憶の中にあるその動きを思い出し、それに対応する様にこちらも動く。気が付けば振られている剣に対応し、こちらからも剣を振る。

 

 

『――えいっ!』

 

 

そう言いながら描かれる軌道に対して、懐かしくて――一つ、違和感を覚えた。

 

ピタリ、と動きを止める。何だ、今の違和感は。

 

何か、何かがおかしい。ズレている。なんだこれは。

 

何に違和感を感じた。一体どうした。

 

 

「……どうした?」

 

 

ヒュースの声が聞こえてくる。ああ、いや。何でもない。

 

……気のせいだろうか。こういう時に感じた違和感は出来るだけ放置しない方がいいんだが。

 

何か、取り返しのつかないものにならない様に――覚えておこう。感じた違和感を。

 

 

 

 

 

 

 

「……それにしても、お前はそんなもんで足りるのか」

 

ヒュースと共に飯を食う事にしたので、食堂までやって来た。適当に頼んで出て来たのは名前も忘れた何か。

 

食事にこだわりは無い、けど食事は取りたい。

 

味なんてどうでもいいんだ。要は、俺が飯を食べているという事実をしっかりと取りたいだけで。

 

「そうか」

 

んが、と口を開いてスプーンを口に運ぶヒュースを尻目にこれからどうするか考える。現状、俺の目的を達成する為に協力者が欲しい。

 

遠征メンバーは頼れない。黒トリガーあっての俺だと思っているから黒トリガーをわざわざ元に戻したいなんていう事には付き合ってはくれないだろう。逆に止められるかもしれない。

 

一番個人的に協力してくれそうだと感じているのは、エリン。家の当主ということもありそれなりに偉い立場、まぁ裏は何かしらあるだろうがこの技術を表に出さないことを条件に協力してくれるかもしれない。

 

黒トリガーを元に戻す、仮にこの方法がもっと手軽で敵に使用できる物であれば戦争の戦力と言うものが大きく変わる。

 

黒トリガー使いは強いが、対抗策を持たれていると無力な個人に成り下がるのだ。そういう面で言えば協力してくれなくも無い。

 

リスクが大きすぎて、あまり賛成はしてくれ無さそうだが。

 

「前に、お前の目的と言うものを聞いたな」

 

タイムリーな話題をふって来たヒュースに心でも読んだのかと内心思いながら答える。

 

そう、だな。俺は目的がある。何年かかっても、どれだけ時間を使っても――絶対に達成しなければならない。

 

「……黒トリガーの中を、どうするんだ」

 

そもそも俺のこの剣の中には、今二人いる。トリオン体を作る為の場所に、一人。そしてこの黒トリガーを作った本人。

 

二人共俺なんかよりもっともっと優秀な奴だったよ。こんな、一人じゃ何もできない落第者と違ってな。

 

だから、元に戻す。黒トリガーから元の人間に、必ず戻す。

 

方法が無いって言うのなら、俺が作ってやる。諦めてたまるか。俺は誓ったんだよ、あの日全てを失ってから。

 

「…………そうか。俺は応援するぞ」

 

ずぞぞ、と最後の一杯を飲み干したヒュースが言葉をこぼす。

 

……ああ、ありがとう。

 

そのまま口に飯を運ぶ。食い終わったのに待ってくれてるヒュースに申し訳なく思う。

 

「気にするな。エネドラとは違ってお前といるのは別に不愉快じゃ無い」

 

なんだ、エネドラと仲悪いのか。

 

「あいつは目上の人間への敬意が足りない。この間だってヴィザ翁相手に――……なんだその顔は」

 

話を聞いていると、怪訝な表情をされた。別に変な顔はしていなかったと思うのだが。

 

「ふん……あいつは仲間だが、気に入らない奴だ。共に居たい奴じゃない」

 

成る程、そういう考え方もあるのか。俺にとっての仲間はあの二人だけだし、他に味方はいても仲間はいない。どこかから攫われた、という記憶はある。けれど、故郷の事は覚えてない。

 

でも、いつか帰る。三人で帰るって決めたから。

 

「……境遇を馬鹿にしたり、軽く冗談で言うわけでもないが――そういう関係は少し、羨ましいな」

 

気兼ねなく仲間と言い張れ、そこに打算や裏のやり取りは存在しない。互いに互いを尊重するからこそ生まれる信頼。

 

――でも、お前にはエリンがいるだろ?心から信頼する主人が。

 

「ああ。だから少し羨ましい。別に本気で羨んでる訳じゃない」

 

だろうな。

 

最後の一口を放り込み、待たせたことを詫びつつ席を立つ。なんだかんだ言って、別に俺の事を殺そうと考えている奴じゃない。別に殺されても損はないが。

 

食堂の外に出て、少しだけ同じ道を歩く。俺が先に歩き、ヒュースが後に。

 

「……お前の目的、少しでいいなら協力してやる」

 

後ろから声をかけられ、思わず振り向く。

 

「なんだ、応援すると言っただろう。お前がどう思っているかなんて知らんが――別に俺はお前の事が嫌いじゃない」

 

だから手伝ってやる。呆れた顔でそう言うヒュースに思わず呆然としてしまう。

 

「お前の境遇も、過去も、ある程度聞いた。同情するからじゃない。そんな目に遭っても折れないお前だからだ。そこを勘違いするなよ」

 

その一言で、今までの自分の嘆きや葛藤を丸ごと受け止められたような気がした。

 

……そう、か。そうか。ありがとう、ヒュース。

 

少し、楽になったよ。

 

「……ふん、だが他人にあまり言うなよ。その目的は――」

 

ああ、分かってるよ。散々考えて、何度も浮かんだ可能性だ。そこは十分に気をつける。

 

ほんの少しだけ軽くなった胸と対象に、痛む頭を抑えながら歩く。まだ、これからだ。忙しくなるのはこれからなんだ。

 

 

 

 

 

 

 


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