四十
トリオンを一瞬だけ籠める――めちゃくちゃ難しい。全然うまく行かない。
相変わらず空腹少女は一回で成功させてにぱーと笑顔を向けてくるがこっちはその才能を素直に羨ましいと思うほかない。ああ……自分が醜くていやだな。彼女はたまたま生きる上で必要のない才能を持ってた所為でこんなところに連れてこられてるんだ。だから余計な感情を抱くな。彼女は仲間で俺が救うべき一人だ。
「どうしました?」
いや、何でもないよ。頑張ろうな。
四十五
トリオンを一瞬だけ込めるのに成功した。籠めるのに成功したのはいいが、籠めるのが一瞬過ぎて結局ちょっと刃が食い込んで終わりだった。やっぱり剣を振るう速度自体が早くないと駄目だな。どうするか、剣を振る速度の強化なんてどうにもならんぞ。
うーむ、こっちは生身だしな。ただの人間の身体能力じゃ無理だろ。……あれ、そう考えると空腹少女が本当に人間かどうか怪しくなってきた。ちょっと違う生物なんじゃないだろうか。
四十六
剣を振るう速度を意識してみたが、駄目だな。どうにもうまく行かない。ちょっと空腹少女に例の一瞬だけトリオンを籠めて斬る方法を教えたら、一人で五匹同時に相手してた。頭おかし……じゃなくて、動きがヤバかった。あれ絶対堅気じゃねぇよ。どこぞの格闘漫画出身だろあの子。
敵のブレードを掻い潜って、飛んできた砲撃を切断しそのまま二体同時に斬り残り三体を相手にする。
彼女だけ世界観が違う、これは間違いないと思う。
折角だし彼女の動きを見て真似してみよう。動けてるイメージが自分の中で存在しないからその動きが出来ないのであって、まずはイメージを確立させるところから始めよう。
四十七
目で追えるけどわけわからん、どうやったらあんな変態挙動出来るんだ……?やはり彼女は格闘漫画とか異能バトル世界の出身に違いない、いやまぁ異能バトルなのはこの世界も一緒か。
でも若干イメージはついてた。彼女の場合なんていうかアレだな、トリオン兵の攻撃が来る前に反応してる気がする。やばすぎだろ。
とてもじゃないが真似できそうにないけど、現状彼女を参考にするほかないよな。
五十
少しだけ理解できたかもしれない。彼女恐らくだけど、【勘がいい】。
……それだけ?と思うかもしれんがこれ、それだけだと思う。勘が良くて、身体を動かす才能があって、戦う才能がある。主人公かな?いやー選ばれた人間って本当にいるんだなってつくづく思わされるね……俺も選ばれた人間だと思うけど。神様じゃなくて悪魔に。
俺には生憎戦う才能もないし動く才能もないし勘も良くない。オイオイ何も持ってないじゃねぇか。大丈夫、何も持ってない俺でも何度でもやり直せればどうにか出来る。それは既に証明済みだから、問題ない。
さ、次に行こう。この程度で止まってる暇はない。
繰り返せ、学習しろ、実験しろ――死を恐れずに突き進め。
五十五
彼女の観察をしつつ、すこしずつでも剣を振る速度を上げられるように練習する。一対一なら負けなくなってきた。逆にここまでやり直して漸く一対一で勝負になる様になるって所にセンスの無さを感じる。まぁいいさ、あいつらは一回で終わりだけど俺に終わりは無い。精々これまで殺してくれた感謝を込めて一振りで終わらせてやろう。
それはそうと、やっぱり俺たちの中で一番異常なのは空腹少女だ。いつやっても常に複数体相手にしてそれで生き残るのだからすごい。やり直すたびに限界がリセットされてるから何体か倒したら動けなくなって死ぬからその度に代わりに俺が死んでるんだけど。
剣を振るうと意識して振るうのではなく、身体が勝手に動くとかそういう領域になるまで極めるしかない。俺は彼女の様な才能はないのだから、ひたすら身体に染み付かせる。
視認する、斬る――ではなく、視認した、既に斬ったへと変更しなければならない。
殺して殺して殺されて、その繰り返し。
六十
一体一体殺意を籠めて。
漸く斬る速度が追い付いて来た。
やはり何度も繰り返して行うというのは体が勝手に反応するから良いモノだ。
六十五
一体を殺す時間が凡そ十秒程度に短縮できた。殺すどころかボコボコにされ続けてた奴をこういう風に殺せるようになるとアレだな、なんつーか気が楽になる。状況は絶望的だから気は抜けないんだけど。
七十
二対一で囲まれても何とか対応できるレベルになった。ただやっぱり二段攻撃とか同時攻撃が来ると呆気なく死ぬから、まだまだ油断はできない。一つずつ慎重に積み重ねていこう。
七十五
二対一無理。これ勝てる気がしないわ。何度やっても多段攻撃が対応できない――あークソ、どうすればいいんだ。俺自身に腹が立つ、何故ここまで才能が無いのだろうか。物事がうまく進んでるときはいいが、下手な失敗をしたりうまく行かなくなると精神的に不安定になっちまう。
大丈夫、俺は凄い奴だ。出来る。問題ない、トリオン兵なんざぶち殺せ。
それに、俺はいつか再会すると誓ったんだ。
……誰に、誓ったんだっけか。
おい、嘘だろ。誰に、誓ったんだ?やめろよ、何でどうして。俺は、そう、■■■■に――ああ、嘘だろ。いや待て、まだ覚えてる。俺はあの人に会うと決めた、守ると決めた。■■響子を守ると決めたんだ、それだけで十分だろう。そうだ、俺は覚えてる。問題ない。
八十
試しに空腹少女の闘い方を再度観察してみたが、どうやら彼女は狙ってなのか無意識なのかはわからないが敵に囲まれないように立ち回ってるっぽい。一体ずつおびき寄せ、近くに寄せて斬る。
そして回避し再度おびき寄せる――鮮やかな戦闘方法だ。効率的で合理的。相手をおびき寄せるというのも参考にさせてもらおう。
八十一
真似してみたが、おびき寄せるのはいいがそのまま追い付かれて死ぬ。彼女はすんなり回避してるけど初見じゃ無理だろこんなん。何度も繰り返しやってみるしかないな。
八十五
ああ、そうか。一人に視点を集中させすぎなんだな。こういう時は一度冷静になってみるべきだ。一対一に慣れ過ぎたと言うべきか。
考えを変える必要がある。ここは戦場で、一対一で正々堂々と戦うような場所じゃない。卑怯外道姑息何でもありだ。俺には絶望的なほど戦う才能が無い。通常の人間が一回やれば覚えれるようなことが俺は十回やらねば理解できないし行動に移せない。
――だから、こんな能力なのか。そんなことはどうでもいい、切り替えろ。
だからこそ、俺はやり直す。
今度は視界を広めに、一体の動きに集中するのではなく周りを見渡せ。
九十
やっぱり上手くはいかない――が、少しづつ対応できるようになってきた。
左右両方に居るトリオン兵を相手に、少し時間はかかるが殺せるようになった。左のトリオン兵を斬り殺し、瞬間砲撃が飛んでくるから右にいるトリオン兵に突撃して振るわれるブレードを回避しそのまま斬る。
無茶な姿勢から斬ると中々力が入りづらいから、最初のころは一対一でも全然速く斬れないとかはあったが流石に慣れた。腕で振るうのではなく、身体全体を動かして斬る。エネルギーの流れを無理やりに動かさず、自然に動かせばそれなりに速度と力が乗る。
二体倒せたことに安堵しつつ、砲撃を向けてきたトリオン兵に意識を向けようとしたら――
九十一
まぁ二対一はなんとかなる様になってきたか……問題は意識外からの砲撃。俺たちの持ってる武器は現状このロングソードのみで遠距離武器なんざ一つもない。
これ遠距離に居るやつらをどうにかする方法を編み出さないとずっとここで繰り返すことになるな……どうするか。他の武器を探すくらいしか方法は無いんだが。そこらへんの石にトリオン籠めたら兵器にならないか――流石に無理だ。
空腹少女に斬撃伸ばせるか聞いてみるか。
「斬撃を伸ばす……?」
ブオォン!!と少女が剣を振るうとちょっとだけ、ちょっとだけ切っ先より少し先くらいにあった土がえぐれた。これじゃ流石に無理だな、てか伸ばせんのか……やはり天才か。
百体くらいいる内の凡そ十体は協力して狩れるようになった――何だ、着実に進歩してるじゃないか。焦ることは無い、じっくり作戦を考えて手段を思いつき実行すればいい。
九十二
試しに剣をぶん投げてみた。トリオンを注入した分だけ稼働する武器なので、勿論弾かれた。バカか俺は。
九十三
シンプルにひたすら動き回ってみる。これまでで最高の十匹を自分だけで殺せたが、息切れと体力の消耗がヤバすぎて遠くの敵に撃ち殺された。
九十四
遠距離の敵の動きを見張れる奴が居ればいいんじゃないか?ツーマンセルで組ませて、俺と空腹少女の二人がメインでトリオン兵を狩る。残りの組みで一体ずつ処理させて、余った組でやられそうになってる所の援護や遠くの様子をうかがわせる。
お、これ最強の作戦じゃないか?
九十五
そもそも剣を満足に振れる奴がほぼ居ない件について――当たり前なんだよな……俺も普通に剣振るうだけで苦労したのに、それに対して彼ら彼女らは初見で剣を振って敵を殺せと言われる。
いや、そりゃ無理だな。俺も感覚がマヒしてたかもしれない。俺が出来るのは繰り返したからで、才能があったわけではないという事。
これからは先に誰が出来て誰が出来ないかを見定めて、そのうえで振り分けをしよう。
遊撃隊として動くのは俺と空腹少女。他の組は互いをカバーし合える程の近距離である程度固まって、死角が無いようにすること。空腹少女が力尽きるその瞬間までにこの百数体を殺しつくさなきゃ最低でも生き残れないハードモードだが、俺も一人で一割持っていけるようになったし協力すれば絶対うまく行く筈なんだ。
これで何度か繰り返して、どうしてもだめな場所があったらもう一度考え直そう。
死に戻り主人公の良い所を私が思っている限り伝えようと思います
まずやはり一番の理由としてはその精神性の強さですね何度絶望を叩きつけられ死を迎えても決して折れずに自分の思い描く未来を手に入れる為に挑戦するのは控えめに言ってかっこいいしそれに対して段々表側の態度が壊れていく様子を見るのはまさに愉悦私個人の趣味としてはやはり某ハリウッド小説がかなり理想なんですけどあそこまで死を恐れないと私としては素晴らしいと感じます何度かやり直すことで把握し自分の置かれた状況を利用して何とか生き残ろうとするその心意気はとても素晴らしいもので私が実際に自分がそんな能力を押し付けられても瞬間で諦める自信がありますなので私は彼らが大好きです証明完了Q.E.D