ワールドリワインド   作:恒例行事

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迅悠一②

「や、どんな調子?」

「お、迅さん」

 

 ボーダー玉狛支部のて訓練を行う白髪の少年──空閑遊真に声をかける。

 

 近界民(ネイバー)であり、彼の父親はボーダーを作り上げた人間の一人であったりなかなか色々な要因が渦巻いているが今は玉狛支部でのんびり暮らしている最中。

 

 黒トリガーを所持しており、ボーダー本部と衝突したこともあったが──それは置いておいて。

 

「そこそこかな。小南先輩相手には相変わらず勝ち越せないけど」

「そう簡単に勝たせないわよ、何言ってんの」

 

 現役女子高生アホの子小南桐絵──口では不遜な態度を取る彼女だが、何だかんだ言って人がいい。良すぎてすぐ騙される位には。

 

「スコーピオンの使い方にも慣れてきたよ。これ作ったの迅さんなんだっけ」

「おーそうだぞ。孤月じゃ限界感じてな」

 

 未来視というサイドエフェクトを持ってしても追い抜けなかった個人一位(太刀川慶)を思い浮かべつつ回答する。

 

「いいね、これ。身体のどっからでも出せるのがいい」

「孤月は一度出したら仕舞えないけど、それは兎に角いろんなバリエーションがあるからな。壁を貫通させて背後から刺す、なんて事も可能だよ」

 

 イエイとぼんち揚げを食べながら適当にアドバイスして、少し真面目な顔つきになる。

 

「んで、遊真にちょっと話があるんだけど──レプリカ先生も一緒で」

「ん? わかった」

 

 レプリカー、と遊真が声をかけるとにゅっと背後から黒い物体が浮いて出てきた。

 

『どうした、ユーマ』

「迅さんが話があるんだってさ」

「聞きたいことがいくつかあってね、できれば遊真にも聞いてほしい」

 

 訓練終わりで別室にいたため、リビングに移動する。リビングにはすでに木崎ともしゃもしゃヘアーの男前、烏丸京介が待機していた。

 

「京介はバイトが休みらしいから捕まえておいた」

「捕まりました」

「手間が省けるからオッケー」

 

 真顔でぼんち揚げをばりばり食べる京介の前に袋を置いて、卓を囲むように椅子に座る。迅の正面に遊真とレプリカが座り、その左右に小南と京介が座る形になった。

 

「さて……何から話したもんかな。聞きたい事を聞く前に色々説明しないといけないんだけど」

「それは俺からするか?」

「いや、いいよ。まず結論から──近い内に大規模な近界民による侵略がある」

 

 ぶふっと大きな音を立てて飲料を口から噴き出した小南と、その隣で少し目を細めた遊真。

 

「へぇ、迅さんが見たの?」

「ああ、そゆこと。前から情報はあったけど確定してなかったからな」

「て言うことは確定したんだ」

「困ったことに難易度激ムズだよ」

 

 ゲホゴホ言っている小南と、それは放置して話を進める男四人。

 

『大規模な侵攻……それが可能な国はそう多くはない』

「今度本部を交えて、レプリカ先生に情報提供して欲しいと思ってる。勿論タダでとは言わないよ」

『私はユーマの安全を買えればそれでいい。情報を提供するのは構わないし、それを条件にある程度吹っかけることも可能だ』

「逞しくて助かるよ。それで、簡単に説明すると俺の未来予知だと現状九分九厘防衛失敗するんだよね」

「……ウソじゃないんだ」

 

 遊真のサイドエフェクト──嘘を見抜く能力で迅の真偽を確かめたがそれは真実であった。

 

「……九分九厘ってほぼ確定じゃない!?」

「遅いな」

 

 復活した小南が驚き、それに対して木崎がツッコミを呟く。

 

「失敗どころか殆ど死ぬ。トリオン体とか、そういうの関係なしに」

「……それもウソじゃない。本当なんだ」

『今の玄界(ミデン)の戦力は精鋭国家とまではいかないが十分すぎる戦力はあるだろう。それを軒並み倒し殺しきるのは──尋常じゃない』

「しかもそいつは見えないし、手掛かりは一つしかないしで正直お手上げ」

 

 少し影のある表情を一瞬表したが、すぐさまいつも通りの顔に戻る。

 

『今近づいている国でそれを可能とするのは……四つ、いや二つだ』

「国と国が協力する可能性は?」

『無くはないが、あまり現実的な話ではない。可能性のある二つ──神の国と呼ばれる近界(ネイバーフッド)最大級の軍事国家、アフトクラトルと雪原の大国キオンは仲が良くない』

「ロシアとアメリカみたいな物ですかね」

「それはちょっと違うんじゃ……?」

 

 レプリカの説明に京介が例えるが、迅から若干否定じみた言葉を言われて少し肩を落とす。

 

『キオンとアフトクラトルが近いという時点で、すでに緊張状態が続いている筈だ。アフトクラトルが二年前から更に力を増し続けているために』

「二年前から……?」

『ああ。まだ戦争中だったあの星に滞在している時に、風の噂で舞い込んできた』

「ん……なんかあったっけ」

『アフトクラトルが、戦争している国のマザートリガーを奪っていっているという話だ』

「マザートリガー?」

近界(ネイバーフッド)で星の大元になっている母体だ。これがなくなれば、星は生活できる圏内が著しく減少して夜は明けず昼は来ない。暗闇に包まれた空間になる』

「ああ、あったなそんな話。何でも黒トリガー使いに何人かヤバいのがいるとか」

「黒トリガー使いか……何人いるとかは?」

『前の情報でよければ十三、少なくともそれ以上減ることはないだろう』

「じゅ、十三……?」

 

 風刃一つの取り合いで、黒トリガーの圧倒的な性能を遺憾なく発揮して優秀な上位エース部隊を追い返せるのにそれが十三──想像もつかない。

 

「……参ったな。話を聞けば聞くほど──お」

 

 黒トリガーを纏った遊真、傍に浮くレプリカ。場面は変わり、風刃を持つ自分(・・・・・・・)と相対する影。

 

「ううん、何だこれ」

「視えたのか」

「ちょびっと。影……ううん影か……」

 

 なんとも言えない、貴重な情報ではあるが分かりづらい物に若干ため息をつく。まあ仕方ない、と切り替える。

 

「少なくとも遊真が戦う所と、俺が風刃を使うところは見えた」

「結局風刃使うのね」

「多分、そうなんだろうな。俺のサイドエフェクト以上に風刃と相性がいいのは無い」

 

 戦力的に考えて単独である程度の近接戦闘が可能な迅に風刃をもたせず、他に持たせた方がいいという話もある。理解もできるし迅自身その方がいいと考えることはあるが──どうにも嫌な感覚は拭えない。

 

 だからこそ許可を取った。侵攻が終わった後に借りを作ることになっても構わない。遊真を寄越せだとか、変に理不尽なことを言われたら流石にそんなもの知った事かと言わんばかりに立ち回るつもりだが現状取らぬ狸の皮算用。

 

 まずは無事に侵攻を乗り切らなければならない。それは城戸も理解しているからこそ。

 

「……とりあえず、レプリカ先生と遊真には会議に来て欲しい。さっき話した内容を共有してもらいたい」

「俺は問題ないよ」

『ユーマが決めたのなら』

 

 

 

 

 

 

 

「──と、言うわけで現状怪しいのは一番はアフトクラトル。二番にキオンって形」

「……アフトクラトル、か。特徴としては“角”があるという事」

「黒トリガーが十三本、というのも脅威だ。仮に半分の数だとしても六個、侵攻されては戦力がいくらあっても足りないだろう」

「天羽くんに負担を強いる事は確定、ですかねぇ……」

 

 ボーダー本部にある会議室──ホログラムの投影図にレプリカの所持している知識を加え、膨大な近界図を作成。それを元に対策を予測を行なっていた。

 

「……一つ、レプリカさんにお聞きしたい事があります」

『私に?』

「はい、沢村響子と申します。レプリカさんの知識で、第一次侵攻の国を調べる事は可能ですか?」

 

 ピタリ、と空気が止まる。その場の時が静止し、妙な緊張感が走る。

 

『難しいが出来なくはないだろう。だが恐らく今回の件とは何の関連性もない』

「完全に私情にはなりますが、後日教えて頂きたいのですが」

「沢村さん……」

 

 迅は知っている。沢村響子がこのように問う訳を。

 

 第一次侵攻で想い人でもあった家族を喪い、取り返す為に死に物狂いで戦っていた事。四年の歳月が経とうとしている今、前線から離れて尚諦めてはいない。こんな形で、レプリカという膨大な知識を持つ希望が現れたのだ。食いつかないはずがない。

 

『私は構わない。しかし──』

「それは後日、やって貰おう。今は侵攻対策会議の筈だ」

「はい、失礼しました」

 

 腰を折って礼をして、オペレーター業務へと戻る。

 

「それで、他にアフトクラトルの特徴……というより、戦力で分かる事は何かあるのか?」

『当時──七年前か。あの時に新型のトリオン兵を作成していた記録が残っている。名前はラービット、詳しい性能は流石に知り得なかったがトリオン体をキューブに変換し取り込む能力を持っている。トリガー使いを捕獲するためのトリオン兵だ』

「トリガー使いを……!?」

『作成に使われるトリオンの量は他のトリオン兵と比べてもかなり多い。A級隊員であったとしても一対一で相対するのは危険だ』

「七年前にすでに作成が始まっていたとするならば、完成していてもおかしくはない。早急に対応が必要だな……」

「……緊急脱出(ベイルアウト)が重要になるな」

 

 仮に敗北して捉えられるその寸前で脱出できる緊急脱出(ベイルアウト)は非常に強い武器になる。数時間経てばトリオン体を作り直せる者もいるため、長期戦とするならば非常に大きな要素になる。

 

「ああ、いやうーん……多分だけど、長期戦はやめといた方がいい」

「──何か視えたのか」

「いや、そうじゃないんですけど長期戦を考えて戦力を出せば多分一瞬で潰されますね」

 

 最初から全力でないと、ぶつかり合うことすらできない。暗にそう告げる迅に城戸は目を閉じ何かを考える仕草を見せた。

 

「……今スカウトに向かっている部隊にも出来るだけ帰ってくるように命令を飛ばしてある。加古隊は合流に間に合うだろう。それと特例で部隊ランク戦も休ませる。恐らくボーダーのほぼ全戦力が三門市に集まる筈だ」

「えぇ、その未来は見えてます。でも……」

「変わらない、か。……だが、それでは話にならない」

 

 最悪が見えているのに、防ぎようがない。そんな状態に歯噛みしたのは、もう何度になるのだろうか。

 

「東西南北に分かれて防衛ラインを敷く。これは最初から決まっている対策だ。あとは配置する人員だが──」

 

「南東は天羽に任せたらどうですか」

「……えぇー、嫌だよ。めんどくさいし代わりに迅さんがやってよ」

「俺はやんなきゃいけない事が多すぎるからパス」

 

 ぶぶー、と手でバッテンを作って唯一のS級隊員である天羽に答える。

 

「確かに、多方面を相手するという事に関しては天羽が一番適任だ。無事に守りきれば、評価しよう」

「んー……迅さん、視える?」

「ん?」

 

 天羽に呼ばれ、迅が天羽の方を見る。迅の視界に映るのは、黒トリガーを展開した天羽と──いや、見えない。

 

「……悪いけど天羽しか見えなかった」

「そっか」

 

 少し気を落としたような仕草で別のことに意識を向ける。

 

「……?」

 

 ふと、何か考えに引っかかっていることに気がつく。何か、何か重大なことを忘れていないか。何かなかったか。

 

 違和感が襲ってくる。ぐるぐると頭の中で巡るその違和感に、探りを入れて──

 

「取り敢えず、今日はここまでにしよう。その時が過ぎるまで警戒態勢を敷いておくから、各員携帯は携帯しておいてくれ」

「おお、うまい」

「洒落じゃないだろ……」

 

 忍田の言葉に楽しそうに笑う遊真と、それに突っ込むB級隊員の三雲修に気をとられる。

 

 遊真の過去は、重い。彼は既に天涯孤独の身なのだ。幼い頃からランク戦などではない命の奪い合いを経験し、実の父を目の前で無くしている。そんな遊真に笑って生きて欲しいから、こうして死に物狂いで毎日を過ごしている。

 

 兎に角、やるしかない。何かを見つけるしかない。先ほどの違和感を頭の片隅に入れたまま、遊真の元へと歩いて行った。

 

 

 

 




何か、見落としているものがあるんじゃないか?
→???

気の所為か。
→全滅√

そもそも何かあったっけ?
→全滅√

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