短編集と言う形で随時追加していこうと思います
ゆる~いものからシリアスなものまで幅広くできたらいいなと思っています
また各話毎の話に関連性は基本的にはありません
全く別の鎮守府で起こった出来事だと思っていただければ嬉しいです
例外的に同じ鎮守府で起こったお話を書くことになった場合は前書きに記載させて頂きますのでよろしくお願いします
投稿は気まぐれとなりますので予めご了承ください
カリカリカリカリカリカリカリ
ペンを走らせる音だけが響く執務室
秘書艦も出払っているようでそこには一人の男性提督のみがひたすらにペンを走らせる
カリカリカリカリ……
ペンを走らせる音が止まる
「やっと書き終わった……」
コンコン
誰かが執務室の扉を叩く
「ちょうど書き終わったところだ。入ってくれ」
「失礼します。提督、新しいお仲間がそろそろ来るみたいですよ。」
扶桑型超弩級戦艦一番艦扶桑。ここの現秘書艦である
「ああ…もうそんなに時間がたってたのか。ありがとう、扶桑」
「お気になさらないで下さい…それと、まだ書いていたんですね」「ああ、これだけでもしないと気が済まなくてな」
「その気持ちは分かりますけども…あまり無理はなさらないで下さいね?」
「分かってるさ、でもこれは俺の贖罪でもあるんだ。もうこれくらいしかできないけどな」
「提督…」
「さて顔合わせに行こうか。コレを置いたらすぐ向かうよ」
男性提督は手に先ほど書き終えた手紙を手に持ち工廠とは逆の方向へ向かう
●
「ここに来るのも久しぶりみたいに思えるな…今までずっとコレを書いてたからか…」
「全く、静かになったもんだよ…前はこんなに静かなこと絶対になかったのにさ」
「じゃ、コレここに置いておくからな…本当にごめんな…」
独りで謝罪の言葉を空へ投げかけた後、工廠へと男性提督は向かっていく
●
「どなたが来るんでしょうね?」
「どうなるだろうな、まぁ誰でも大歓迎だよ」
「陽炎型駆逐艦8番艦、雪風です!どうぞ、宜しくお願い致しますっ!」
「え……?」
(不沈艦なんて…不沈艦なんて…)
「…雪……風…?」
(不沈艦なんて…この世に無いのね…)
「司令?どうしたんですか?」
「本当に……雪風なのか?」
「どういうことですか?雪風は雪風ですよ?」
「雪風……ごめんな、本当に…ごめん」
男性提督は突如として頬に涙を伝わせ膝から崩れた
「提督、落ち着いてください…貴方、申し訳ないけれど少し待ってて頂けるかしら?」
●
執務室に戻った男性提督はようやく落ち着きを取り戻す
「すまない、扶桑。心配をかけたな」
「私は大丈夫ですが彼女は戸惑っていたようでしたね」
「それも無理はないか…初対面の人間からあんな反応をされたんだからな…」
「ですが仕方のない事だと思いますよ…あんなことがあったんですから」
「そうも言ってられないだろう…、彼女はあの事については全く知らないんだからさ」
「そうなのですが…」
「そろそろ落ち着いてきたからまた会って話してくるよ…」
●
ところ変わって先ほど男性提督が手紙を置いていた部屋
秘書官である扶桑に案内されて雪風はここで待機していた
「司令官はどうしたんでしょう?雪風が何かしてしまったのでしょうか?」
先ほどの一件で混乱している様子の彼女の目に一通の手紙が目に留まる
「これは何なのでしょう?司令官の忘れ物でしょうか?」
彼女が手紙の置いてある机に近づいたとき、ある一文が不意に目に飛び込んだ
<<ごめんな、雪風>>
「これって雪風に宛てた手紙でしょうか?でも、司令官とは今日初めてお会いするはずなのに」
彼女はその手紙を手に取り読み始める
初対面のはずの人間が自分に宛てた手紙を…
<<雪風へ>>
<<お前がいなくなってからもう一週間が過ぎた>>
<<あの時無邪気に笑っていたお前はもうここにはいない>>
<<もし、今ここにお前がいるのであれば言いたい>>
<<『ごめんな、雪風。それと今までありがとう』と>>
<<直接言ったことはなかったが俺はお前からいつも元気をもらってた>>
<<いつも明るく、そして前向きに俺と一緒にいてくれていた>>
<<どうやら俺はそれが当たり前だと思っていたらしい>>
<<あの日ほど後悔したことは今まで一度もない>>
<<目先の勝利に目が眩んだ俺の人生最大の過ちだ>>
<<今はお前の代わりに扶桑が秘書官をやってくれている>>
<<扶桑には迷惑をかけっぱなしだ。彼女にも感謝をしなければならない>>
<<多分、あの時の雪風が今の俺を見たら『司令、元気出してください!!』なんて言うんだろう>>
<<雪風は俺がこんな風になるのは望んでないのかもしれない>>
<<でも、俺にはこんなことしかできない>>
<<それにそうでもしないと俺がお前に申し訳が立たない>>
<<つまらない自己満足かもしれないけど最後にこれだけは言わせてくれ>>
<<今までありがとう、それとすまなかった。そしてさようなら>>
「……」
手紙を読み終えた彼女は驚きを隠せなかった
自分よりも前に【雪風】がいて彼はその【雪風】との別れを経験している
彼の反応にも納得がいった
筆跡が新しく、手紙にはわずかに水滴が落ちたであろう箇所があり
その箇所も乾いていなかった
別れを経験しやっと踏ん切りがついたのであろう状況で自分がやってきたからだ
コンコン
誰かがドアを叩く
彼女はあわてて手紙を元の場所に戻す
「雪風、情けない姿を見せてすまなかった。あのような姿を見せてしまい頼りないかもしれないがこれからよろしく頼む」
事実を知った彼女はそれを悟られないようになるべく明るく、それでいてはっきりと
「はいっ!頑張ります!」
と言って彼のもとへ歩み寄った
友人が雪風を沈めてしまったと言っていたにも関わらずヘラヘラしていたので書いてみました。
これを読んで艦娘を轟沈させる提督が減れば嬉しいです。