カードファイト!!ヴァンガードG 孤独の先の、愛の物語 作:リー・D
Pixiv版からタイトルと内容を大きく変えました。
クロノとトコハの交際が双方の親族の許可が下りてから3ヶ月。
2人はあるバイトの無い土曜日に何度目かのデートを楽しんでいた。
少し遠出して大きなデパートで買い物をし、こちらにあるカードショップでファイトを楽しみ、食事を取る。
ありきたりのことだが、十分に楽しんでから家に帰った。
「「ただいま」」
家には誰もいないので返事はなかった。
2人はそのままリビングに向かった。
「あれ? メモが置いてある」
「あ、ライブお義父さん。今日は帰らないって」
「シンさんとミクルさんが結婚して初めてのチームニッポンの飲み会を新田家で行うのか。ミクルさんとミサキさん、フォローが大変だな。あれ?」
つまり、今宵新導家はクロノとトコハの2人きりと言うことだ。
「「……」」
その事実に気づいた2人は気まずくなってしまう。
「とりあえず、夕飯食べるか」
「うん」
同棲を始めて3ヶ月の月日が経ったが、一晩中2人だけというのは始めてのことになる。
その事実から目を背けるために2人は夕飯の準備を進めた。
用意するのは2人分と急に帰ってくるライブのための予備。
それは、以前から何度もあったことだが、ミルクが帰ってこないため、計4人分を作る必要が無くなったのは大きい。
「「いただきます」」
普段なら、準備中も食事中も笑いあって食べる2人だが、今日は無言が多かった。
ミクルがシンと結婚して約1ヶ月。
ミクルが全く帰ってこない日々にも慣れてきた2人だが、気まずさと相まって寂しく感じてしまったらしい。
食事が終わり、トコハが後片付けをしている間に、クロノがお風呂にお湯を入れる。
クロノが先に入り、トコハと入れ替わりで出た後、各種戸締りの確認をしてから部屋で勉強をしながらトコハが出てくるのを待った。
(この家って、こんなに広かったっけ?)
「クロノ。お待たせ。……なんで手が止まってるの?」
「えっ? いや、何か静かだなって」
「……」
クロノとお揃いのパジャマを着たトコハは、目を見開いてクロノの手を取った。
「クロノ、アンタ集中できてないよ。それじゃあ駄目」
そう言って、クロノをベッドに連行し、部屋の電気を消した。
既に他の電気も消され、新導家は真っ暗になった。
「おい、トコハ。まだ眠くねえって」
「駄目」
強気で言って来るトコハにクロノはたじろんでしまう。
「ねえ、クロノ。私には嘘つかないで。寂しいって言って。逃げないから。支え続けるから。本当の気持ちを教えて」
そんなクロノを押し倒すようにベッドに入ったトコハは、泣きそうな顔でクロノに迫った。
クロノは暗くてよく見えないが、トコハの声が震えていることに気がついた。
「……ごめん、トコハ。またお前に心配かけた。少しだけ騒がしくて、温かい日々が続いたからさ、それが無くなるのがさ」
「寂しくなった?」
「うん。やっぱ俺駄目だな。こんなんじゃトコハを海外に送り出せない」
「寂しさは変化の中で誰もが感じる正しい感性だよ。大事なのは、その感情に押し潰されずに居られるかって事。クロノは、押し潰されないように見栄張って、強がって生きてきたから、受け入れかたが分からないだけ。私だって、アカネさんが居るとはいえ、フランスでの生活は辛かったんだよ。でも、家族が、友達が、仲間が、そしてクロノが応援してくれているって実感していたから、乗り越えることができたの」
少し泣きそうになった時、トコハがクロノを強く抱きしめた。
「……でも……それだけじゃないでしょ」
「えっ?」
「貴方の内にある恐怖は、それだけじゃないでしょ。クロノ、教えてよ」
クロノはトコハの真剣な表情に目を背けてしまう。
それが、トコハには悔しかった。
「どうして教えてくれないの? 私、頼りない? クロノを支えられてない?」
「…………やだ」
「えっ?」
「こんなにも幸せなのに、また俺のせいで壊れちまう。そんなのはもう……嫌だ!」
ハッとトコハは目を見開く。
「親父が居なくなったのも、ミクルさんが苦しんだのも、リューズが暴走したのも、全部俺のせいだ」
クロノは腕で顔を覆いながら泣いていた。
そして、これまで自分の中で押さえていた感情が、吐き出されていく。
「俺が、あの時、ドランを呼ばなければ、シオンやマモルさん、伊吹、ルーナやアムに迷惑かけることなんてなかったのに。ディフライドなんて起こらなかったのに。ギーゼだって復活しなかったんだ。……俺が……俺が悪いんだ」
「クロノ! 違う、違うよ!」
その言葉をトコハは強く否定する。
しかし、決壊したダムの水のようにクロノの自虐の言葉は止まらない。
「……また、俺が壊しちまうんだ。俺は、やっぱ消えた方が良いんだ。幸福なんて……むぐっ」
止まらないはずだったその言葉は、トコハのキスによって止められた。
「ぷっは。ごめんね、クロノ。私、無神経すぎた」
その瞳からは、止めきれないほどの涙が流れている。
「クロノ。ずっと苦しんでいたよね。誰にも吐き出せないで、自分の中で押さえ込んで。でも、消えたいなんて、幸せを掴んじゃ駄目なんて言っちゃ駄目だよ!」
全身を使ってクロノを抱きしめながらトコハは続ける。
「私、クロノが大好きだよ。だから、私にだけは貴方の弱さを、悲しみを分けて。2人なら乗り越えれるから」
「でも……」
「クロノ。貴方はもう独りじゃ無いんだよ。私はずっと傍に居るよ。だからね、クロノ」
トコハは徐に顔を耳に近づけて微笑みながらボソッとつぶやいた。
「私の胸の中で泣いて。私は何所にも逃げないから」
次の瞬間。
クロノは我慢が途切れ、これまで以上に大きく泣いた。
10数年分の悲しみを吐き出すように。
そのあいだ、トコハはずっとクロノのそばを離れずに抱きしめていた。
そして――
「もういいの?」
「ああ。ありがとう、トコハ。さすがに泣き疲れたな」
「もう、クロノったら。明日、ちゃんと起きなきゃ駄目だからね。でも、ふわ~あ。私も疲れた~」
「もう寝るか」
「うん」
お互いに軽口を叩きあい、そのままベッドに倒れた。
「ねえ、クロノ」
「ん?」
「抱きしめて」
「好きにしろよ。俺はもう寝るからな」
「うん。好きにする」
トコハがクロノ腕の中に入り込み、クロノの胸板を枕にして、ぐっすりと眠った。
「トコハ、ありがとう。俺、お前となら幸福な未来を願っても良いのかもしれない。この温もりがあれば、この幸せな日々を思い出せば、もう、寂しく無いから」
クロノもまた、トコハの背中に手を回して眠りだした。
その寝顔は、これまで以上に穏やかで、幸せに満ちたものだった。
「あれ? 此処は?」
トコハが目を覚ますと、そこは不思議な空間だった。
地面が無く、周りはずっと光っているだけ。
他に誰もいないのに、不思議と不安はない。
「やっとつながった」
声がしたので振り返ってみると、そこには。
「ずっと君と話したかったんだよ」
「あなたはドラン?」
「久しぶり、トコハ」
クロノ・ドラン。
クロノの友だちであり、今も共に戦い続ける仲間だ。
彼は惑星クレイの住人であるため、本来はイメージの中でしか会えないはずである。
「どうして、あなたが居るの? それに此処は?」
「此処は僕と君を繋ぐイメージの中、所謂夢さ。此処でなら、君と話せる」
「夢?」
「そう。君自身は、今も自分の部屋の中で眠っている。君が不安を感じないのも当たり前さ」
此処が夢であり、自分は今も愛する人の腕の中で眠っている。
無意識にそう確信に満ちているのなら、確かに不安など無いだろう。
「そっか、夢か。よかった」
「何が良かったんだい?」
ドランは笑顔で聞いてみた。
「またクロノを独りにさせるわけにはいかないもの。これで私が誘拐でもされてたら洒落にならないわ」
「そうだね。僕が君と話したかったのも、そのクロノのことなんだ」
「えっ?」
ドランはトコハに近づいて、その手を取った。
「君のおかげで、やっとクロノは本当の意味で救われた。本当にありがとう」
「……どういうこと?」
トコハの問いにドランは目を閉じた。
「僕は、ストライドゲート事件の後、クレイに帰ってからもずっとクロノを見守っていた。だから、分かっていた。クロノは10年間ずっと、罪悪感の中で生きてきたことを」
その顔は、とても哀しそうだった。
「あの時、僕が呼ばなければ、クロノに罪の一端を背負わすことはなかった。ライブが失踪することも、リューズがあの姿になることもなかった。その後に続く、ディフライド事件も起こらなかった。全ては僕の責任だ。にも関わらず、クロノにばかり重い責任を負わせてしまったんだ。それがとても悔しくて、悲しかった」
唇を噛みしめ、ぶつけられない悔しさを表すように手を握りしめる。
そんなドランを見て、トコハも泣きそうになってしまう。
「だから、少しでもクロノを支えられるように、クロノジェットの姿で僕は彼の傍に行った。クロノにまつわる全ての因縁に決着をつけるために。そして、多くの仲間達と共にその因縁は終わった。特異点も閉じて、僕たちの罪の証はなくなり、解放されたはずだったんだ。でもクロノは、自らが救われることをよしとしなかったんだ」
ハッとトコハは目を見開く。
「未来永劫、自分の罪を背負って生きていく。寂しくても、辛くても、その本音を誰にも伝えずに自分の中に押しとどめて生きていく道をクロノは選んでしまったんだ」
ドランは悲しそうな顔で語る。
それは、トコハがかつてシオンに語った「幸せの拒絶」そのものだった。
(ドランも私と同じことを感じていたんだ)
「でもね」
目に溜まっていた涙を拭い、ドランは目を開いた。
「最近になってやっとクロノは、自分自身の幸せを掴もうとし始めたんだ」
「えっ、それって……」
「そう、君を人生のパートナーとして選んだあの日から。そして今日、クロノは君に、本音をぶつけて、君との幸せを本気で願った。だから、クロノの残っていた特異点の力で僕と君の意志を繋げることができたんだ」
「どうして、私と?」
「言ったはずだよ。クロノを救ってくれてありがとうって。君がクロノのことを好きになってくれたから、2人の気持ちが通じ合ったから、クロノは君に本当の気持ちを言えるようになって、自分の幸福を素直に受けとめることができるようになったんだ。君が僕の友だちを救ってくれた。本当にありがとう」
「ドラン……」
ドランが頭を下げて礼をしていると、トコハが突然泣き出した。
「わ、私、クロノを救えた?」
「うん」
ドランから、自分の行動が最愛の人を救ったと言われたことは、トコハにとっても救いだった。
自らが正しい行動をできていたのだと、証明されたのだから。
「クロノもう、大丈夫?」
「それは、君たち次第だ。だから、クレイで祈ってるよ。君たち2人のこれからを」
「うん……うん! 私……これから……クロノと幸せに……なる! 見守っていて……ね」
2人は握手し合ったところで、トコハの意識が途切れ、この空間から去って行った。
残されたドランは今一度思いを馳せた。
「ありがとう。トコハ。ありがとう、クロノ。君たちとの出会いこそ、僕にとって最高の幸福だ。ずっとずっと、君たちと、君たちの子どもたちを見守っていくよ。だから……」
どうか、お幸せに。
「うう~ん。朝か」
翌朝、クロノが目を覚ました。
「あれ? トコハ?」
眠気が残る目で見渡してみると、昨晩も一緒に寝ていたはずのトコハが見当たらない。
何処に行ったのか分からないので、クロノはとりあえず着替えて、リビングに出てみた。
そこには、長い髪をクロノが買ってあげたクリップでまとめ、エプロンで身を包んで料理を作る最愛の人が居た。
その姿を見たクロノは無意識に彼女に抱きついていた。
「きゃっ。えっ? あっ、クロノ。おはよう。今日は甘えたがりだね」
トコハは後ろから突然抱きつかれて驚いたが、すぐに笑顔でクロノに対応した。
「ん。ダメ、か?」
「ううん。ダメじゃ無いよ。むしろ嬉しい。でも、もう少しでできるから、邪魔はしないでね」
「……もっとこうしてたい」
クロノの我が儘にトコハはクスクスと笑ってしまう。
その間にも料理は進み、なんとか完成した。
「ほら、クロノ。一緒に食べよ。準備して」
「ご飯より、トコハが食べたい」
「/// う、嬉しいけど、ダメ! 今日はバイト有るんだから。勉強もしなきゃダメでしょ」
トコハに叱られて、クロノは残念そうにうなだれて、離れる。
そんなクロノに向き合って、トコハは抱きついた。
「……でも、終わったら、また甘えて良いよ。私もこうしてクロノに抱きつかれるの大好きだから。ねっ。今日も1日頑張ろう」
「トコハ……。おう、分かった」
クロノもトコハの背中に腕を回して、お互いに抱き合った後、2人はキスをした。
クロノの目には、愛おしい相手と共に歩む世界が、輝いて見えた。
これまで見えてなかった風景に心躍らせ、彼の心に決意が生まれた。
「トコハ」
「なあに?」
「俺を好きになってくれて、ありがとう」
「私もありがとう。クロノが私のこと愛してくれて、嬉しいよ」
「俺、頑張るな。お前を護るために。一緒に暮らしていくために。勉強も仕事も全部。だから、これからも」
「うん」
「俺と一緒にいてください」
クロノはまたトコハに力いっぱいトコハを抱きしめた。
その想いに応えるようにトコハもクロノの背中に手を回す。
「大丈夫。私もクロノと一緒に幸せなるよ。クロノ、私を護って。私もクロノを護るから。2人で歩んでいこう。私たちの望む、輝ける未来を」
おわり
Pixiv版も是非見てください。
次回最終話です。