カードファイト!!ヴァンガードG 孤独の先の、愛の物語   作:リー・D

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クロノくんとトコハちゃん、愛の物語第4段!
恋人になった彼らを待ち受けていたのは!


洗礼

トコハの誕生日の翌朝。

いつもとは違う圧迫感を感じながらトコハは目を覚ました。

いつもなら目を覚ましたトコハが最初に見るのは自分の机の筈だった。

しかし今日は見えない。

代わりに見えるのは赤。

少し混乱し、恐る恐る顔を上げるとそこにはチームメイトのクロノがいた。

自分の状況を改めて確認してみるといつものベッドでクロノの胸板に押し付けられる体勢になっていた。

自分もまたクロノの背中に手を回し、抱きついて寝ていたのだ。

 

トコハ「そっか。私クロノと恋人になったんだった」

 

クロノ「そう言うことだ」

 

クロノの声がしたので顔を見てみると、既にクロノが目を覚ましており、トコハの髪を撫でて、その優しい瞳でトコハを見ていた。

 

トコハ「クロノ。起きてたんだ」

 

クロノ「ああ。お前がぐっすり寝てたからな。腕に力が入って動けないし、折角だからお前の可愛い寝顔を観察してたんだよ」

 

トコハ「かわっ/// もう、すぐそうやって恥ずかしい事言う」

 

赤くなりながら文句を言うトコハをクロノは笑ってかえした。

そんなクロノの笑顔にトコハ自身も笑ってしまう。

恋人となって初めての朝は2人の笑い声から始まった。

 

クロノ「さてと、おはようトコハ」

 

トコハ「うん。おはようクロノ。ねえ折角だからおはようのキスしてよ」

 

そんなトコハの注文にクロノは少し困ったが、半目で睨みつけるトコハに根負けしたのか承諾した。

互いに起き上がり、トコハが目を閉じたので、クロノが顔を近づけてそのままキスをした。

軽く短いキスだったが、お互いに嬉しくなり、また笑いあった。

着替えるためにクロノは部屋から出て行ったが、トコハは自身の唇を指で撫でてまだ笑っていた。

 

トコハ(夢じゃない。本当にクロノの彼女になれたんだ。やばいなあ、顔が緩むのを止めれそうに無いや)

 

着替えた2人はリビングで待っていたアカネと朝食をとった。

アカネは終始顔を歪めていたのを見て、2人は顔を赤めてしまう。

食事が済んだら2人は荷造りを行い日本へ帰る準備を進めた。

 

アカネ「トコハちゃん、今度は何時戻ってくるの?」

 

トコハ「しばらくは日本にいるわ。戻ってくるのは来期のリーグが始まる前かな。それまではドラエンやキャピタルで働かせてもらう。クロノの受験勉強も手伝わなくっちゃ」

 

クロノ「はっはっは。よろしく頼むぜ、トコハ」

 

笑顔のトコハに苦笑して頼むクロノ。

そんな2人を安心して見守ることにしたアカネ。

 

アカネ(1年も経たないうちに離れて暮らすことになるけど、2人なら大丈夫ね。来期は忙しくなりそうだわ。ユーロ以外のリーグもチェックしとかないと)

 

2人は昨日届けられたプレゼントをどうするか話し合っていた。

結局日本でも使えるものは持って帰り、フランスの家に置いておく物は置いていくらしい。

 

アカネ「2人とも、準備が整ったら手持ちの荷物だけでパリの街でデートして来なさい。クロノ君は滅多に来れないんだから楽しんで往ってね」

 

トコハ「うん。折角だから空港で飛行機に乗るまで英語で会話しましょ。その方がクロノにとって勉強になるし」

 

クロノ「マジかよ。でもまあ、こんな機会そんなにないか」

 

トコハ「じゃあ早速始めるわよ」

 

クロノが止める間もなくトコハとアカネは英語で話し出す。

こうなったらもう止められない。

クロノも意を決して英語を話し出すがすぐにダメだしされてしまうあたりはクロノらしい。

どうにか荷造りが終わり、大半をアカネに任せて2人はパリの街を歩いた。

英語での会話は難しいが、好きな人との初デートなのだ。

心が弾まないわけがない。

クロノはもともと1年以上トコハの通信教育で英語での会話を行っていたのだ。

問題は多いがそれでも最低限の会話はできるようになっていた。

途中遭遇したパリ支部の子どもたちに自分がトコハのボーイフレンドであるとこを教えたり、ファイトを全て英語で行うなどして、少しずつ英語にも慣れていった。

デートはトコハの思い出の場所を中心に回り、お昼ご飯を食べて空港に向かうことをクロノが提案するが、トコハが行きたい場所があると言い、そこに行ってから空港へと行くことに決めた。

トコハが最後に求めた場所、それはミゲルの墓がある墓地だった。

事前に勝った花を添え、トコハはミゲルに報告するために手を合わす。

 

トコハ(ミゲル、私ね、恋人ができたの。見えるかな。私の隣にいる人。新導クロノって言うの。ぶっきらぼうだけどとても優しい、私の1番好きな人。私はこの人と結婚する。何時の日か結婚式を挙げた時や子どもができたらまた報告に来るね。これからも私たちのこと見守っていて)

 

彼女の姿を見てからクロノも同じように手を合わす。

 

クロノ(初めましてだな、ミゲル、アンテロ。まずは礼を言うぜ。お前にあったからトコハはまた一つ成長した。ギーゼの時もお前と出会ってなかったらトコハは死んでいたかもしれない。本当にありがとう。これから俺はトコハと一緒に歩んでいく。今ここで、改めて誓うよ。必ずトコハを幸せにするってな)

 

それぞれの挨拶が終わったため2人は立ち上がり、ミゲルの墓に背を向けて去っていく。

そんな時に風が吹き、トコハが押されてしまったため、クロノが支える。

 

ミゲル(おめでとうトコハ、クロノ。僕はこれからも君を、君たちを見守っているよ)

 

一瞬、2人はミゲルの声を聞いた気がした。

2人同時に墓地へと振り向いたため、双方が聞こえたと察した。

クロノもトコハもお互いに笑いあい、手をつないで歩いて行った。

 

その頃、惑星クレイではラナンキュラスの花乙女アーシャが銃士アンテロの墓参りに来ていたが、一瞬だけ彼の墓が光ったように見えたらしい。

そのことをドランに伝えたが、ドランはただ笑っただけだった。

大切な友達とその想い人のことを思い出しながら。

 

 

空港で岩倉と合流したことでクロノの日本語はようやく解禁された。

すでに昨日集まった仲間たちやパリ支部のアカネの同僚たちや生徒たちがトコハの見送りに集まっていた。

 

レオン「新導クロノ。お前は新たな風を起こしたことで求める結果を得た。次は逆風が吹くかもしれないが、お前の願いのために求め続けることを忘れるな。次に会ったときはお前の想いを俺に見せてみろ」

 

ジリアン「ようするに、次会ったらファイトしましょうってことだから。お幸せにね。トコハ、今度はアジアリーグに来なさい。存分にしごいてあ・げ・る」

 

シャーリーン「2人ともお幸せにね~。そろそろジリアンも覚悟決めたらいいのに~」

 

ジリアン「ちょっとシャーリーン、何言ってるのよ。私はレオン様との進展なんて――」

 

レオン「ん? ジリアン呼んだか?」

 

ジリアン「なんでもありません! それじゃあ、私たちは別の飛行機だから。い、行きましょ、レオン様。シャーリーン」

 

チームドレッドノートの3人の仲の良さにトコハは笑い、クロノはレオンとの再戦に思いを馳せた。

次に声をかけたのはガイヤールとネーブだった。

 

ガイヤール「トコハさん。あなたがいなくなるのは、ユーロリーグにとって寂しいけど、今は想い人との時間を大切にしてください。あなたなら強くなって戻ってくると信じています。新導君、トコハさんを君が選び、選ばれたんだ。必ず守りたまえ。次に会ったら僕ともファイトしよう」

 

ネーブ「俺も忘れてもらっては困るぞ。安城、お前の慈愛は多くのものを救ってきたと聞いた。しかし、彼が求めているのは慈愛だけでは無いはずだ。お前たちが互いに向け、互いを癒し合う愛を忘れるな。お前たちの人生はここからだ。頑張れよ」

 

クロノ・トコハ「「はい! ありがとうございます!」」

 

ハイメ「えーっと。トコハ、クロノ」

 

クロノ・トコハ「「ハイメ!!」」

 

次に話しかけてきたのは昨日の騒動の原因ハイメだった。

 

ハイメ「2人とも昨日はソーリィだよ。俺、冷静じゃなかったね。でも今は君たちの間にあるラブがすごくきれいに見える。ううう、ハートにキター!」

 

いつものセリフを大声で叫び、再び顔を見せたハイメはどこか吹っ切れたように見えた。

 

ハイメ「クロノ、次は何も考えずに、どーうとーうとファイトしようね~! トコハも帰ってきたら連絡頂戴よ~。じゃ、俺はこれで、アディオス!」

 

そういって走って行ったハイメにクロノは呆れてしまった。

 

クロノ「……ははは。ハイメの奴、すっかり調子取り戻しやがって。てか途中、堂々とファイトしようって言ったのか?」

 

トコハ「でも、元気なってよかった。あのままだったらちょっと心配だったもの。次に会うときはハイメももっと強くなってる。私も負けていられないな」

 

次からはクロノにとっては初顔の者たちからのトコハへのエールや祝福だった。

その多さに圧倒されるも、トコハが嬉しそうなのがクロノにとってはうれしかった。

ただし、あまりにも多いので切り上げることにした。

 

クロノ「よし、お前ら。トコハは俺が貰っていく。手ぇ出すなよ。いくぞ、トコハ」

 

トコハ「え? クロノこの格好」

 

なんとクロノはトコハを所謂お姫様抱っこで抱き上げた。

当然ながらトコハは驚きと羞恥心が同時に来てしまったため顔が真っ赤に染まる。

 

クロノ「それじゃあ、俺たちは行くぜ。岩倉さん、お願いします」

 

トコハ「ああ、クロノ待って。アカネさん、みんな行ってきます」

 

アカネ「ええ、いってらっしゃい。トコハちゃん、今の幸せを噛みしめてきなさい」

 

笑顔のアカネの言葉にトコハも笑顔で返す。

そうこう言っている間にクロノは歩を進めて飛行機に向かう。

その姿は少し急かしているようにアカネには見えた。

見送りの人たちは2人が見えなくなるまでエールを送り続け、アカネはただ想いを乗せて見守るだけだった。

 

アカネ(あの小さかったトコハちゃんに恋人ができて、本当に幸せそうにしてる。クロノ君、大変なこと沢山あると思う。でも、貴方たち2人なら大丈夫。だって、貴方たちの周りには、2人のことが大好きな人がたっくさんいるのだから)

 

トコハ「もう、クロノったら何そんなに急がなくても良いじゃない。私は何処にも逃げないよ」

 

クロノ「時間は逃げるだろ。俺は一刻も早く宇宙に行きたい。だから今は日本に帰る。トコハと1秒でも長く同じ時間を過ごして、夢を叶えるために。お前が居る場所に帰る時のために」

 

トコハには、この言葉を言ったクロノの頬が赤く見えた。

恋人同士になり、カッコいい姿を見せられ続ける中で、無意識だったとしても、昔のクロノらしさが見えるのが嬉しく感じてしまい、トコハの頬が緩み、腕をクロノの首に回して飛行機登場口まで抱きついていた。

 

櫂「遅かったな」

 

クロノ「……なんでいるんですか? 櫂さん」

 

飛行機に入ると何故か櫂が居た。

クロノ達の間では神出鬼没で有名な彼だがまさか個人ジェットにまで現れるとは予想していなかった。

 

櫂「今日日本に帰るとあの男に口走ったら、お前たちと同じ飛行機に乗るように言われてな。チケット代が浮くから利用させてもらった」

 

クロノ「岩倉さん……」

 

呆れるクロノと乾いた笑いをするトコハ。

そんな2人を他所に岩倉が飛行機発進の放送を送った。

空港を飛行機が発ち、約12時間後に日本に到着する。

前回は1人だったため、その時間を主に寝て過ごしたクロノだったが、今回は2人の追加がいるので、その間をファイトしたり、ユーロリーグの話をして過ごした。

しばらくするとトコハが眠ってしまったので、クロノは肩を貸して自分も寝ることした。

 

櫂「2人は寝てしまったな」

 

岩倉「おふた方は恋人に成ったばかり。興奮が収まらないことも多いでしょう。少しでも休めるのでしたら休ませてあげましょう」

 

櫂「……日本に着いたら俺が車を運転する。あんただって休みが必要だろ」

 

岩倉「いえいえ。櫂様のお気遣い嬉しく感じますが、本日の午前中はお暇を頂きましたし、今とて本機は自動運転です。休めるときに休ませて頂いてますので、心配は無用です。それに私の車は普通免許では運転できません。櫂様はご自身の休憩をおとりください」

 

そう言われては仕方が無いので、櫂も寝ることにした。

パリでは昼過ぎに出発したが、日本時間で夕方に到着する飛行機の旅。

その後半はただ静かに過ぎていった。

 

 

トコハ「帰ってきたね」

 

クロノ「ああ。でも変な気分だ。見えている世界が今までと違う」

 

トコハ「うん、私も。きっとクロノと同じ世界を見てるって確信があるからかな」

 

櫂「その台詞、アイチたちも同じようなことを言っていたな。戸倉にでも聞いたか?」

 

トコハ「えっ!? そうなんですか? 初めて聞きました」

 

櫂は無言だが驚いた。

トコハがミサキを慕っていることを知っているため、同じ言葉を言ったことが偶然だとは考え付かなかったのだ。

 

クロノ「アイチさんもロマンティストなんですね。それはそれとしてトコハ、ご両親に帰国時間とか知らせてたか?」

 

トコハ「うん。これから帰るってもう連絡した。兄さんにはクロノも連れて行くけど両親には内緒にしてって言ってあるから、2人にはサプライズになるわね」

 

クロノ「おいおい」

 

トコハの悪戯を知ったクロノは笑った。

しばらく岩倉が車を止め、クロノとトコハは乗せてもらって安城家に行くことになった。

櫂は1人で行動すると言ったので、2人はお礼を言い、この場で別れた。

安城家に向かう間にクロノはミクルとライブに予定を伝え、2人も安城家に向かうことを連絡しあった。

安城家に到着し荷物を下ろしたところで、岩倉も役目は此処までと帰ることになった。

 

クロノ「岩倉さん。本当にありがとうございます。シオンにもよろしく伝えてください」

 

岩倉「わたくしはシオン様から承った役目を果たしたまで、お二人の成功はクロノ様ご自身の力です。わたくしが望むのは、シオン様の大切なご友人との関係がいつまでも続くことです。どうか、これからもシオン様のことをよろしくお願いいたします」

 

トコハ「はい。シオンは私たちの親友ですから。岩倉さん、私からもお礼を言わせてください。ありがとうございます」

 

その言葉に岩倉は笑顔で応え、去って行った。

シオンにもフランスでのことを伝えてくれるだろう。

車が見えなくなるまで見送った後、2人は安城家に入った。

 

トコハ「ただいま!」

 

勢い良く扉を開けると兄マモルと母ミサエが笑顔で待っていた。

 

マモル「お帰り、トコハ。今日は一段と元気だね」

 

ミサエ「お帰りなさいトコハ。さあさあ、お腹空いたでしょう。今日の夕飯は貴方の好きなコロッケよ。沢山作ったからいっぱい食べてね」

 

トコハ「うん! あ、お父さん居る?」

 

ヨシアキ「呼んだか? トコハお帰り」

 

トコハ「ただいま」

 

久しぶりの家族との会話は終始笑顔で進んだところで、ミサエがクロノの存在に気づいた。

 

ミサエ「あら、あなたはクロノ君。あなたも来ていたのね。今日はどうしたの?」

 

クロノ「どうも。お久しぶりです」

 

トコハ「ねえねえ、お父さん、お母さん。クロノのこと改めて紹介するね」

 

クロノ「待て、トコハ。俺が言うから。あの、トコハのお父さん、お母さん。今日は俺、トコハと結婚を前提でお付き合いさせてもらえるようお願いに参りました」

 

そう言ってクロノは頭を大きく下げる。

安城両親はそろって驚き、逆に兄妹は笑ってクロノの援護に回った。

 

ミサエ「えっ? お付き合いって、トコハ貴方たちつき合ってたの?」

 

マモル「正確にはクロノ君がパリに告白しに行って、2人で帰ってきたんだよ。だから、2人は恋人になってまだ1日しか経ってない新人さんさ」

 

トコハ「クロノはね、パリに飛ぶ前にいろんな人とファイトして合計5連勝して、皆に私に告白してくるって宣言してから来てくれたんだよ」

 

ミサエ「あらそうなの。うふふ、トコハ嬉しそうね。この前の不調が嘘みたい」

 

トコハ「クロノがね、来てくれたから。私を好きだって言ってくれたから。私また挑戦しようって思えたの。クロノが私を大空に飛び立たせてくれたの。だから私はクロノと一緒に居たい。だから私たち付き合うことにしたんだよ」

 

クロノ「あの、俺、まだ学生で、未熟で、自分の夢も叶えていない者ですが、お嬢さんが好きだって気持ちは誰にも負けません。必ずお嬢さんを幸せにしてみせますから、お願いします。俺にトコハをください! これ、詰まらないものですが、お納めください」

 

また大きく頭を下げて、お土産のお菓子を渡してクロノは願う。

その誠意ある行動に母ミサエは嬉しそうである。

しかし、父ヨシアキは先ほどから顔を下げて震えているように見える。

 

ミサエ「それなr「許さん」あら?」

 

マモル「とう、さん?」

 

ヨシアキ「トコハは、渡さん!」

 

その瞬間、クロノにこぶしが突き刺さった。

ヨシアキが正拳突きでクロノの頬を殴ったのだ。

不意打ちでまともに受けてしまったため、クロノは大きく吹き飛ばされる。

 

トコハ「クロノ!」

 

マモル「クロノ君! 父さん、これはどういうことだい!? つぅ!?」

 

マモルは父親の突然の暴力に抗議を行おうと振り返るが、そこで見えたヨシアキの目に怯えてしまう。

そのままヨシアキは倒れているクロノに近づいた。

 

ヨシアキ「貴様などにぃ! トコハはやらん!」

 

そしてマウントポジションをとり、再びクロノの顔を殴った。

何回も何回も。

 

トコハ「お父さん! なにするの、やめてよ!」

 

ヨシアキ「黙れ! こんな何所の馬の骨とも知らん奴にお前をやるわけにはいかん!」

 

トコハ「う、馬の骨って。クロノは私の元クラスメイトでチームメイトよ! 一緒にジェネレーションマスターになった、チームトライスリーのリーダーよ! お父さんもよく知ってるでしょ!」

 

ヨシアキ「つぅ、もういい! トコハ、家に入るぞ! 貴様は帰れ! トコハはやらん!」

 

倒れたクロノを放置してヨシアキはトコハの腕をつかんで歩き出した。

そんな父を見てトコハは俯いてしまう。

 

トコハ「お父さん! ……いやよ!」

 

ヨシアキ「トコハ?」

 

トコハは拒絶と同時に腕の拘束を解くとクロノの下に走り、抱きかかえる。

そして父に向き合った。

 

トコハ「お父さんがここまで頑固だなんて思わなかった。お父さんが認めなくても私はクロノと一緒に生きるって決めたの! だから私この家出て行く!」

 

ヨシアキ「なっ!?」

 

突然のトコハ家出宣言はこの場を戦慄させた。

 

トコハ「私、クロノの家に住むから! お父さんが認めてくれるまで家に帰らない!」

 

マモル「おいトコハ。クロノ君の家に住むって、服とかどうするんだい?」

 

トコハ「お母さんに後で届けてもらう。もう決めたから。行こうクロノ」

 

新導家での同居を決め、父の言う通り帰ろうとするトコハだが、それを止めたのは他でもないクロノ自身だった。

 

クロノ「ま、て、トコ、ハ。と、トコハのお父さん。構いません。幾らでも殴ってください」

 

トコハ「ちょっとクロノ!?」

 

クロノ「俺は貴方の大切な娘さんを奪っていく悪い男です。そんな奴なら殴られても文句はありません」

 

ヨシアキ「き、貴様っ」

 

クロノの態度と言葉にヨシアキは動揺してしまう。

それでも再びクロノの顔を殴りつけた。

今度は倒れなかったが、代わりに何度も殴り続ける。

 

クロノ「20年、近く、大事に、育て続けた、娘、さんなん、です。大切、なのは、当然、ですよね。俺みたいな男にトコハを渡したくない、そう言われて仕方がありません」

 

でも、とクロノは強くヨシアキに向き合う。

 

クロノ「彼女が、トコハが俺を選んでくれた。俺を受け入れてくれたんです。だから、彼女を悲しませるようなまねは止めてあげてください。彼女を信じてあげてください。俺も全力でトコハを守りぬくと誓いますから!」

 

顔が腫れ、目も上手く開けられない、瞳も霞んでいるにも関わらず衰えていない強い意志にヨシアキもたじろんでしまう。

それでも拒絶しようとクロノから離れ、足を上げた。

 

ヨシアキ「お、お前などにぃ!」

 

マモル「父さん! それはやり過ぎだ! 足を下ろして!」

 

ヨシアキ「トコハはやらーん!」

 

トコハ「ダメーーー!」

 

父の暴走と恋人のボロボロな姿を見ていられなくなったトコハは目から大量の涙を流しながら父のもとに走る。

しかしその間にもヨシアキは上げた足でクロノを蹴ろうと振り下ろす。

もはや誰にも止められないと思われたその時――

 

ヨシアキ「なっ! だ、誰だ貴様!」

 

ライブ「この子の父親だ!」

 

新導ライブがその足を受け止めた。

突然の登場に誰もが驚くが、すぐに正気を取り戻し、クロノの下へ走った。

クロノは既にミクルが2人の父親から引き離しており、水を飲まされていた。

 

ミクル「クロノ、お水飲める? 酷い腫れね。すぐに冷やさないと」

 

トコハ「クロノ! 大丈夫? なんであんな無茶を!」

 

クロノ「だから言っただろ。あの人には俺を殴る権利があるって」

 

ミクル「それでもやり過ぎよ。殴り返さなかったのは立派だけど、いつまでも無抵抗で大切な人を泣かせるのも違うわよ!」

 

クロノ「ごめん、ミクルさん。ごめんなトコハ」

 

クロノは泣いているトコハの頬に手を出した。

トコハはそのまま手をとり、自身の頬を押し付けて泣き続けた。

 

トコハ「馬鹿。クロノの馬鹿」

 

マモル「トコハ。言いたいのは分かるけど、クロノ君の傷を癒さないと。ミクルさん、クロノ君の腫れた場所をこのタオルで冷やしてください。クロノ君、頭の下に布を引くから少し顔を上げられるかい?」

 

黙ってクロノは首を上げ、タオルを敷いてもらい、ミクルはぬれたタオルでクロノの顔を拭いた。

その間にもライブとヨシアキの攻防は続いていた。

 

ヨシアキ「そこを退け、俺はあの男を殴らねばならん!」

 

ライブ「俺はあなたと違い父親失格の駄目人間だが、それでも意地と言うものはある! 残された父としての意地に賭けて、俺がクロノを守る!」

 

ミサエが用意した桶の水で複数回傷を拭かれたクロノは再び立ち上がる。

 

トコハ「駄目だよクロノ。安静にしてなくちゃ」

 

クロノ「俺が説得しなくちゃいけないんだ。後で幾らでも怒って良いから、行かせてくれトコハ」

 

その決意に満ちた目はトコハでは止められない。

トコハの手を振りほどき、クロノはもう1度ヨシアキの話しかけるのだった。

 

クロノ「トコハのお父さん! これ以上はあなたの娘さんが悲しみますから止めてください! でも、それではあなたの気が晴れないでしょうから、もう1度俺を殴って構いません! これで最後にしましょう!」

 

その宣言にライブもヨシアキも驚き、動きを止めた。

マモルやミクルは止めるように説得するが、もうクロノは止まらない。

そして――

 

ヨシアキ「良いだろう。トコハを奪おうとするなら俺のこぶしを受けてからにしろ!」

 

再びヨシアキの右ストレートがクロノの顔に突き刺さる。

しかし今度は初めから受けることを前提としていたため、クロノは踏ん張り、耐え切った。

 

ヨシアキ「……なぜだ。なぜここまでやられてお前は反撃しない。反撃でも何でもして無理やりトコハを奪うこともできたはずだ」

 

クロノ「はあ、はあ。言ったはずです。俺はトコハを幸せにすると。そんな方法で彼女を手に入れても、後悔が残るだけです。それじゃあ、アイツは心の底から笑えない。トコハは自分の幸せを誰よりも貴方たちお2人に祝福して貰いたいはずです。だから、アイツの選択を認めてください! お願いします!」

 

トコハ「く、クロノ」

 

トコハは涙でぐちゃぐちゃな顔でクロノの土下座を見続けた。

それはヨシアキも同じだった。

 

ヨシアキ「み、認めん。認めんぞ。今日はもう帰れ!」

 

マモル「父さん、いい加減に……母さん?」

 

ミサエ「いいのよ。維持張ってるだけだから。クロノ君とそのご家族の皆さん。今日はもう遅いですし、この話は後日改めてとさせてください」

 

ライブ「……分かりました。では今日はこれで失礼します」

 

ライブとミクルは頭を下げて門へと向かっていった。

クロノを支えるトコハもそれについていく。

 

クロノ「おい、トコハ。本当についてくる気か? 親父さんと話さなくていいのかよ」

 

トコハ「いいの。お母さんの言う通り、私もお父さんも維持張ってまともに話せそうにないから。お父さんが認めてくれるまでこの家には帰らない」

 

ミクル「トコハちゃん。……分かったわ。クロノのことお願いね」

 

そうこう言っている間に、マモルが家の中からパックに包まれた物を持ってきた。

 

マモル「トコハ。せめてこれを持っていくんだ。母さんのコロッケ。お前の大好物だろ」

 

トコハ「兄さん。ありがとう。それにごめんね、迷惑かけて」

 

申し訳なさそうなトコハにマモルは笑いかける。

 

マモル「本当に迷惑だと思うのなら、落ち着いてから父さんとちゃんと話し合うんだ。クロノ君は想いを伝えた。あとはお前の説得次第だよ」

 

トコハ「うん。お母さん、兄さん、安城トコハは新導家に花嫁修業に行ってきます!」

 

マモル「はっはっは。花嫁修業ときたか。そうだね、頑張るんだよトコハ。兄さんはいつでもトコハの味方だから」

 

その言葉に笑顔で返事をした後、クロノがライブの車に乗せられたので、トコハはその隣に乗った。

ミクルがもう1度ミサエとヨシアキに挨拶してから助手席に座り、車は新導家に向かった。

その間もヨシアキはソッポを向いたままだったのが、トコハには悲しかった。

 

ミクル「さて、トコハちゃん。ようこそ新導家に。でもその前に、クロノ、アンタもう寝ちゃいなさい。トコハちゃんの荷物は兄さんが運ぶし、それ以外は私がなんとかするから」

 

反論の余地も無く、クロノは着替えて顔を拭いてからベッドに押し込まれた。

車の中でコロッケを食べていたので特に小腹も空いていない。

今クロノの頭を占めるのは、ヨシアキの返事が事実上保留となってしまったことへの後悔だ。

 

クロノ(……次は、ちゃんと聞きかせてあげたい。トコハへのおめでとうを)

 

考えているとドアが開く音が聞こえた。

少し顔をあげるとトコハが部屋に入っていた。

 

クロノ「どうしたんだ、トコハ。こんな夜遅くに」

 

トコハ「どうしたじゃないわよ。私、この部屋で寝ることになったから。ほらもっと奥つめて」

 

強気で言われたので仕方が無くベッドの半分ぐらいを開け、トコハが入ってきた。

そのまま寝ようとしたところで突然クロノの顔が何かに挟まれた。

 

クロノ(な、なんだ。この柔らかくて暖かいのは!? これってまさか!?)

 

クロノ「おいトコh「黙って」……はい」

 

トコハ「クロノごめんね、痛い思いさせて。私、事前にお父さんを説得しておけば良かった。クロノが好きだって家族に伝えておくべきだった。ごめんね、ごめんね」

 

クロノの頭の後ろを腕で抱きかかえて、自分の胸に強く押し当ててトコハ泣いた。

そんなトコハにクロノは何も言わず、両手を背中に回して優しく叩いてあげたのだった。

しばらくすると涙の音も聞こえなくなり、2人の寝息が部屋に響くだけになった。

そして、夜が明けた。

 

クロノ「ううん。朝か。トコハ、まったくなんて格好してるんだか。ここまで無防備だと襲うぞ。まっ、お父さんに認めてもらうまでしないけどな」

 

そう言って寝ているトコハの腕を離れて掛け布団を敷いた。

まだ少し腫れている頬に痛みが走るが、我慢してリビングにいくと既にミクルが朝食を作って食べていた。

 

ミクル「おはようクロノ。早かったわね。今日も休んで良いじゃない?」

 

クロノ「おはよう。さすがに3日も休むのは不味いだろ。今日からまた学校に行くよ」

 

ミクル「そう、あの後兄さんがシオン君に連絡してね。あなた達の帰国パーティー、私とシンくんのことも含めて盛大にやろうってことになって、今週末にドラエン支部で行うことになったわ。当然、そこにはトコハちゃんのご両親も出席する。これが何言っているか分かってるわね」

 

ミクルがコーヒーを飲みながら視線を合わせてくる。

 

クロノ「そこで皆の前で交際を認めてもらえってことだろ。援軍はパーティーに集まる仲間たち。何回殴られても説得してみせるさ」

 

ミクル「そうやって殴られ続けるとまたトコハちゃんを泣かしちゃうわよ。マモル君も言っていたけど、泣かし続けると怒られるのはあなたよ、クロノ。もう少し頭を使って説得しなさい」

 

そう言ってミクルはクロノの頭をはたいた。

少し痛かったがミクルの言葉で自分には大勢の大切な仲間たちがいることを思い出し、協力を仰ぐことに遠慮していたことを思い知らされた。

 

クロノ「分かった。とりあえずシオンやカズマに相談するよ。ありがとなミクルさん」

 

ミクル「うん。良い顔になった。それじゃあ私は出かけるわね。頑張りなさいよ、クロノ」

 

少し笑ったクロノを嬉しそうな笑顔で激励したミクルは出勤した。

学校に行く準備を進めているとトコハもパジャマから着替えて出てきた。

 

トコハ「クロノ、おはよう。今日学校行くの?」

 

クロノ「おはよう。ああ、痛みも引いてきたし、出席日数も大切だからな。心配しなくても勝手にお父さんに会いに行ったりはしないぜ。だから心配するな」

 

顔を伏せてしまったトコハの髪を撫で、クロノは笑う。

心配だったが、逆にクロノに心配をかける訳にはいかないので、トコハも顔を上げる。

 

トコハ「うん。じゃあ私はシンさんにお願いしてキャピタルでバイトさせてもらう。私も頑張るからクロノも勉強頑張って」

 

クロノ「ああ。じゃあ行ってくるな」

 

そう言って鞄を持って玄関に向かうとトコハが呼び止めた。

 

トコハ「まってクロノ。いってらっしゃい。えい!」

 

チュッ、とトコハがクロノの頬にキスをした。

その大胆な行動に頬に手を置いて、真っ赤に染まりながら登校した。

学校ではカズマやクミが帰国を祝ってくれたが、顔の腫れと挙動不審な行動を心配しながら勉強の遅れを手伝ってくれた。

トコハもキャピタルに向かうまでの間、ずっと頬を赤く染め、面接中でも顔が緩みっぱなしだったと新田シンは語った。

 

 

そして、週末の日。

ドラゴンエンパイア支部にはクロノの仲間たちが多く集まり、パーティーが開催された。

 

大山「それではこれより、トコハちゃんお帰り、クロノ君との交際おめでとうパーティーと新田新右ェ門さん、新導ミクルさんの婚約おめでとうパーティーを始めま~す。えー本日の司会進行を勤めさせていただくのは私、ドラゴンエンパイア支部支部長、大山リュウタロウと」

 

伊吹「ヴァンガード普及協会会長、伊吹コウジだ。よろしく頼む」

 

2人の開催宣言を終わったところで参加者が歓声を上げたり、口笛を吹いたりして会場が大きく震えた。

その歓声を、手を挙げて止めたところで伊吹が言葉を続ける。

 

伊吹「ではまず、近いうちに結婚式を挙げる新田シン氏と新導ミクル嬢の言葉からいただこう。両名とも前へ」

 

2人がステージに上がると同時に拍手が巻き起こり、両名とも恥ずかしそうにマイクを取った。

 

シン「改めまして、この度、結婚を決めました新田新右ェ門です。実はもう僕35歳なんですよね。月日が経つのは早いものです」

 

この言葉に会場中の人が笑ってしまった。

なかには「おっさん」とか言って茶化す人もいるほどである。

声が納まるとシンが真剣で少し悲しそうな表情で言葉を続けた。

 

シン「僕もミクルさんも実の両親を失った姪や甥のためにこれまで頑張ってきました。僕は高校生の身でありながら、兄の残した店の店長として。ミクルさんは大学に行きながら会社を設立し、その社長として。ミサキもクロノ君もそんな僕たちを見てきたため、とてもしっかりとした人間に育ってくれました。でも、同時に2人に孤独をあじあわせてしまったのも事実です。だからこそ、僕たちは結婚することを決めました。もう2人に迷惑なんて考えなくていいと、僕たちは今も昔も自分たちの幸せを掴むために歩んでこれたのだと証明するために」

 

そこでシンがミクルに合図を送り、ミクルはうなずいてマイクを取った。

 

ミクル「クロノ。ミサキちゃん。前に言ったわよね。私たち幸せだって。2人とも私たちに遠慮しがちなところがあるけど。でも、もう大丈夫だから。私たちに見向きしないで2人とも自分の大好きな人との人生を考えて。他の誰でもないあなたが選んだ道を」

 

シン「今日はそんな私たちを祝福してくださってありがとうございます。そして、私たちの大切な子らとこれからも友として、仲間として一緒に居てあげてください」

 

両名がそろってお辞儀をして、再び会場中に拍手が巻き起こる。

ミサキとクロノは少し涙を流し、それぞれの恋人に慰められた。

そして、トコハの父、ヨシアキはそんなクロノとミクルを見て何かを考えていた。

拍手が止まらない中、伊吹は再びマイクを取った。

 

伊吹「両名ともありがとうございます。それでは続いて、「ちょっと待った!」」

 

伊吹の進行を妨害した声が発せられたほうを全員が振り向く。

そこには安城ヨシアキが堂々と立っていた。

 

トコハ「お父さん!?」

 

クロノ「どうして?」

 

皆の疑問が飛び交う中、ヨシアキはステージに歩いていき、伊吹に向き合った。

 

ヨシアキ「少し時間をくれないか」

 

伊吹「……それが今のあなたに必要なことでしたら」

 

マイクを渡し、伊吹はステージから下がった。

 

ヨシアキ「新導クロノ!」

 

ステージに上がったヨシアキは大きな声でクロノに呼びかける。

クロノはその声と顔に正面から向き合う。

 

ヨシアキ「ステージに上がれ! お前がトコハを奪うと言うなら俺と戦え!」

 

マモル「父さん、また!」

 

ミサエ「マモル!」

 

父の行動に再び異を唱えようとしたマモルを母ミサエは止める。

 

ミサエ「今はお父さんの思うようにさせてあげて」

 

その真剣な目にマモルは何も言えなかった。

 

クロノ「……戦うってどうするんですか?」

 

クロノがステージに上がり、ヨシアキと向き合う。

互いにすでに覚悟が決まっている目だ。

 

ヨシアキ「そうだな。ファイトは私ができないし、飲み比べは君が無理だ。だから」

 

服を脱ぎ、こぶしを構える。

 

ヨシアキ「コレしかないだろ」

 

その姿にクロノは目をそむけ、下を向いてしまう。

 

クロノ「……俺、あなたを殴る事なんてできません」

 

ヨシアキ「甘えるな! 小僧!」

 

その言葉と同時にヨシアキが正拳突きでクロノを殴る。

なんとか踏ん張るが大きく下がってしまう。

その様子に仲間たちも息を詰まらせてしまう。

 

ヨシアキ「トコハを悲しませたくないから殴れない。その誠意は素晴らしいだろう。だが、時には力をもってしてでも押し通らなければならない事もある。その時、君は今のように無抵抗を貫くのか? それでは何も守れはしない!」

 

左フック、右ジャブ、さらにボディブローと続き、ニー・キック、ロー・キックとクロノを攻撃し続けた。

 

クロノ「ぐあっ! はぁはぁ、ヨシアキさん、格闘術の経験でもお有りですか?」

 

ヨシアキ「ああ、昔少しだけな」

 

再び右ストレートでクロノを殴る。

 

ヨシアキ「お前は私を殴ることで、力尽くでトコハを奪うことでトコハは笑えないと言った。だがよく見ろ! お前が殴られ、傷つくことで誰が泣いている!」

 

クロノ「あっ!」

 

クロノが後ろを振り返るとそこには今にも泣きそうなトコハがいた。

その涙はクロノが傷ついてために流しているのだ。

 

ヨシアキ「自分の行動で愛する人がどんな思いするのか分からないやつに誰かを愛する資格など、ない! これで終わりだ!」

 

ヨシアキの右ハイキックが降りかかる。

それをクロノは――

 

クロノ「……ごめん、トコハ」

 

右腕で受けとめた。

 

ヨシアキ「なあっ!」

 

クロノ「すみません、ヨシアキさん。でも、俺にだって掴みたい未来があるんだぁ!」

 

クロノはその右腕を軸に回転し、左裏拳でヨシアキを吹き飛ばした。

 

シオン「クロノ、何時の間にあんな技を!」

 

ヨシアキ「くぅ、まだまだ!」

 

今度は左ストレートを放つヨシアキだが、腕を下からはたかれて逸らされ、クロノの反撃の右ストレートを食らってしまった。

 

三和「あれ、お前の技だな」

 

伊吹「……」

 

伊吹はクロノを鍛えた時のことを思い出す。

 

伊吹『お前は何度誘拐されれば気が済む。ちょうどいい、ここでお前を鍛え直してやる。覚悟しろ。俺の特訓は荒っぽいぞ』

 

ヨシアキの連続ジャブが繰り出される。

 

伊吹『相手の連続攻撃を全て受けきる必要はない。受ける瞬間に少し体や足を下げたり、ジャンプして衝撃を受け流すだけでもダメージが少なくなる』

 

クロノはジャブの何発かを受けながら大きく下がった。

 

サヤ「みゅ! クロノお兄ちゃん!」

 

カズマ「大丈夫だ。直撃はしていない!」

 

ヨシアキが再び攻撃を決めようと突撃してくる。

 

伊吹『大振りの攻撃は、反撃のチャンスと思え』

 

クロノは振りかぶった右腕を躱し、そのまま回転して腕を掴んだ。

 

伊吹『攻撃方法によっては、相手の勢いをこちらの攻撃の威力に変えれるよう、様々な技を習得しておけ』

 

そのまま腕を肩と腕で固定して一本背負いでヨシアキを投げ飛ばした。

ヨシアキは大勢を整えるために立ち上がる。

 

タイヨウ「一本背負い!? クロノさんはあんな技も」

 

ヒロキ「でも、あのおっさんも受け身でダメージを抑えたぜ」

 

アンリ「新導君は、あの人に向かってる!?」

 

伊吹『こちらから攻撃する際は、相手が大きな隙を見せた時のみ行え。そして、その一撃に想いを込めろ』

 

クロノ「うおおおおお!!」

 

伊吹『軸足に力を込め、腰を緩ませることなく、こぶしを握り締めろ』

 

アイチ「クロノ君、無茶だ!」

 

櫂「いや、そのまま行け!」

 

伊吹『己が信念を撃ちこめ。たとえそれが、何度防がれようとも。最後まで貫き通せ』

 

クロノのこぶしが放たれる。

 

ヨシアキ「小僧が、調子に乗るなー!」

 

体勢を立て直したヨシアキもこぶしを構えて鉄拳を撃つ。

クロノの左腕とクロスするように。

 

シオン「クロノ!」

 

カムイ「負けんなー!!」

 

皆『(新導)クロノ(くん)(さん)!!!』

 

だが、クロノはその右腕を掴んだ。

 

伊吹『決して諦めるな。それがきっとお前とお前の守りたいものを守ってくれる』

 

伊吹「だから。進め! クロノ!!」

 

クロノの本命の右の拳がヨシアキに向かう。

その一撃を止められるものは誰もいない。

 

トコハ「いっ! けぇー!」

 

クロノ「これが! 俺の力、だぁー!!!」

 

ヨシアキの左頬にクロノの拳が突き刺さると同時にクロノが左手を離した。

抵抗する力を持たないヨシアキは吹き飛ばされ、転げ落ちた。

一瞬、沈黙が場を支配した。

しかし、誰か1人が拍手を行い、それに釣られるように他の人も拍手を行い、会場が歓声に包まれた。

 

トコハ「クロノォー!」

 

クロノ「トコハ!? うおおっと」

 

歓喜でトコハがステージに上がり、クロノに飛び着いた。

疲れていたクロノは驚いて支えきれずに押し倒されてしまった。

 

トコハ「よかった。クロノ、ありがとう。クロノが勝ってよかったよおお。うええん」

 

トコハは歓喜のあまり泣いてしまった。

クロノは、そんな彼女の頭をただ撫でた。

倒れていたヨシアキはそのままの体勢で上を見ていた。

 

ヨシアキ「負けた、か」

 

ミサエ「あなた、お疲れ様です。手加減なさった?」

 

ヨシアキ「まさか、本気で倒すつもりだった。ただ、彼の。クロノ君の想いの方が強かっただけだ」

 

起き上がり、ヨシアキはクロノとトコハを改めて見た。

泣いてはいるものの、とても嬉しそうなトコハと、そんなトコハを本気で愛しむクロノの姿が今は美しく見えた。

 

ヨシアキ「私は、自分の感情に捕われ、何も見えなくなってしまっていたのだな。あんなにもトコハは嬉しそうで、綺麗になったのに」

 

ミサエ「良いじゃないですか。トコハの相手を見極めるのもあなたの役目です。それに、今のあなたは違うでしょ」

 

ミサエは微笑んでヨシアキを支え、背中を押した。

ヨシアキは19年間のトコハとの日々を思い出していた。

 

ヨシアキ(マモルが生まれてから10年。やっと生まれた念願の娘。本当にいい子に育ってくれた。明るく、優しく、少し頑固なところがあるが、自分の間違いをすぐに認め、謝ることができる。そんな可愛い娘に)

 

見てみるとクロノは仲間たちから胴上げをされていた。

トコハはすでに泣き止み、そんなクロノを見て笑っていた。

今のトコハの笑顔を生みだしたのは、間違いなく新導クロノだ。

 

ヨシアキ(育て上げたのは確かに私たち家族だ。でも、今のあの子は新導クロノと共にいることで成長した。他の多くの人々の影響も大きいだろうが、キッカケは間違いなく彼だ。逃げていたヴァンガードに向き合う決意、留学、プロ、そのすべてに関わっている。その彼が今度はトコハそのものを欲しいと言ったことが恐ろしく感じてしまった)

 

喜ばしくも悲しい娘の自立。

その始まりである新導クロノ。

トコハが彼に惹かれるのはある意味当然なのかもしれない。

それを思い知らされ、認めるのがヨシアキは怖かったのだ。

だから必要以上に拒絶した。

誰よりも自分自身を守るために。

 

ヨシアキ(俺は、なんて弱いんだ)

 

ヨシアキはまた顔を伏せてしまった。

そんな夫を見て、ミサエは頭をなでる。

 

ヨシアキ「今の俺はトコハの父親失格だな」

 

ミサエ「なら、父親らしいことをしなくちゃね」

 

妻の笑顔に背中を押されたのか、ヨシアキは立ち上がり、歩いた。

 

トコハ「もう、クロノのバカ。ぐすん」

 

クロノ「悪かったって」

 

少し泣いているトコハとそれを慰めるクロノの下へと。

 

ヨシアキ「新導クロノ、くん」

 

穏やかに話しかけられ、少し驚かれるが、ヨシアキは言葉を紡ぐ。

 

ヨシアキ「今回や前回の件、私は謝らないよ。少なくとも今は」

 

トコハ「ちょっとおとう「トコハ」クロノ……」

 

クロノ「……俺も、貴方の怒りは当然だと思っています。だから、謝罪の言葉は必要ありません。そして、俺も謝りません」

 

クロノの誠実な態度にヨシアキは笑ってしまう。

 

ヨシアキ「私が言うべき言葉はたった1つだ。クロノ君」

 

クロノ「はい」

 

ヨシアキ「これからも、トコハをよろしく頼む」

 

小さく会釈して言われた言葉。

それはトコハが、クロノが、ずっと欲しかった言葉だ。

 

クロノ「はい!」

 

だからこそ、クロノは大きくうなずく。

その言葉を聞いたヨシアキは黙って後ろを振り向き、去っていった。

そんな父を見て――

 

トコハ「お父さん。ありがとう」

 

トコハは笑顔で感謝し、ヨシアキの姿が見えなくなるまで、父の背中を見届けた。

 

 

ヨシアキはトコハの言葉を聞いて、少しだけ立ち止まったが、振りかえることなく会場から去っていき、往きつけの居酒屋に入った。

 

ヨシアキ「親父さん。開いてますか?」

 

居酒屋店長「まだ準備の途中だが、どうしたんだい今日は?」

 

ヨシアキ「早めに飲みたい気分なんです。生1杯で良いので出してもらえませんか?」

 

そのヨシアキの顔を見て、店長は何も言わずにビールを出してくれた。

それを受け取ったあたりで声をかけた。

 

店長「それで、今日は何があったんだい?」

 

ヨシアキ「嬉しいことがあったんですよ。とても、とても嬉しいことが。だから、乾杯したくなったんです」

 

マモル「付き合いますよ、お父さん」

 

振り返るとそこには息子のマモルが居た。

お互いに声には出さなかったが、笑顔になる。

そんな親子を見て、店長は笑ってビールを1杯ずつだしてくれた。

 

店長「俺の奢りだ。その代わり、聞かせてくれ。あんたら家族に有った嬉しいことってやつを」

 

本日、この店には大きな笑い声とほんの少しの泣き声が響いたと言う。

 

 

大山「ええ、大きな騒ぎもありましたが、改めてクロノ君、トコハちゃんのこれからを祝してパーティーの続きといこうじゃないか。でわでわ、カムイ君。よろしく!」

 

カムイ「では改めて俺の後輩、クロノの奴がついにトコハちゃんと恋人同士になったわけですが、皆さん、馬券もとい恋券持ってますか~?」

 

クロトコ「「……ん?」」

 

『うおおおおお!!!』

 

カムイの発言に疑問を感じた直後、他の人から発せられた歓声に驚いてしまい、クロノもトコハも疑問を解決する時間がなくなってしまった。

 

カムイ「えー、混乱しているであろう当のお2人に説明すると。実はわれわれ、結構前からどちらが告白するか賭けをしてまして。その最終結果を今此処で発表しようと言うながれです。ご理解いただけましたか?」

 

クロトコ「「してません!!」」

 

さらに混乱させる爆発発言を聞いてしまい、クロノもトコハもいろんな意味で顔を真っ赤に染めてしまう。

 

クロノ「そもそも、結構前って具体的に何時からですか!?」

 

カムイ「俺とシンさんは、お前たち3人がチームを組んだあたりで、笑い話としてクロノとシオンどっちが先にトコハちゃんに告るか賭けやってたぜ。そこからシオンやトリドラが参戦して、いつのまにかかなり大きな掛け金に」

 

トコハ「本当にお金賭けてたんですか!?」

 

自分たちの知らないところで賭けの対象になっていたなど信じられるわけが無い。

特にこういう事に興味なさそうなシオンまで参加していたのは驚愕を通り越して呆れてしまうほどであった。

 

シオン「偶然カムイさんたちの話を聞いてしまってね。折角だから参加したんだよ。何回外したか数えてないけど」

 

クロノ「賭け直せるのかよ!」

 

シオンは完全に遊んでいたらしい。

1回に幾らつぎ込んだのだろうか?

 

カムイ「えー、おかげさまで皆さんの掛け金の合計がこの度100万円を超えました。このお金はクロノ君とトコハちゃんへの礼金として寄付させてもらいます」

 

クロトコ「「高!!」」

 

カードパックを10カートンぐらい買えそうな値段である。

 

カムイ「それでは皆様、結果発表を行います。最もこの結果に近い人はステージに上がってください。ちなみにクロノが告白を決意した段階で券の販売は終了しておりますので、ご理解ください。まず、告白した日付は~、『今年の4月17日』!」

 

この言葉に回りは「外した」とか「賭け直せば」とか悲惨な声が多く上がった。

この盛り上がりにクロノもトコハもさらに混乱してしまう。

 

カムイ「続きまして、告白した場所は~、『パリ』! そして~、告白した側は、『クロノ』です! さあ、皆さんの結果はどうでしたか~?」

 

歓声と悲鳴、両方が同時に上がり会場中を沸きたてる。

その様子をクロノもトコハも何とも言えない雰囲気で見ていた。

そんな2人に話しかける者も居た。

 

リン「黄昏んのは理解できるが、もう少しシャンとしろよ、お前ら」

 

トコハ「リン、さん。来ていたのですね。まさかリンさんもこの賭け、やってたりしませんよね?」

 

親しい人がこぞって参加していたので、彼女も参加者なのか疑ってしまう。

 

リン「はっ、そんな馬鹿なことするかよ。金が勿体ねーだろうが。大体お前らがくっついたって、あたしには関係ねーんだよ」

 

クロノ「でもその紙……」

 

そう、リンが手に持っているのは例の恋券だ。

紙には「来年の3月、トコハがスカイツリーでクロノ君に告白する」と書かれていた。

参加していないのなら何故彼女が持っているのだろう。

 

リン「うっ……こ、これはな、さっき安城マモルがあたしに渡してきたんだよ。なんでもアイツ、父親追うからこれの結果見て賞金を貰っておいてくれってな。なんのことかわかんなかったが、これのことだったんだな」

 

最初少しだけ頬が赤くなったが、しだいに2人同様呆れた顔に変わった。

 

トコハ「兄さんまで参加してたの」

 

まさかの最愛の兄まで参加していた事実にトコハは完全に落ち込んでしまった。

これを見てクロノには最悪の可能性を考えてしまい、頭から振り払おうと大きく首を振った。

 

シオン「ふっふっふ。おのれクロノ! 完全にはずれだったじゃないか! 僕の合計パックボックス3ダース分のお金返せ!」

 

クロノ「知らねえよ! しかも高いなお前。まさかこの間のファイトで怒りが見えたのはこの事だったのか!?」

 

振り払おうとした可能性が再び浮上してきてクロノの頭を悩ませたのは余談だ。

ちなみに1番近かったのはタイヨウであり、2人の迷惑金ほどではないが、大量の賞金を手に入れてとても良い笑顔でステージに立っていた。

 

 

でかすぎる衝撃の後は比較的おとなしいものだった。

レンの合図で始まったかくし芸大会では意外な特技をいろんな人が見せてくれた。

特に酔わされて無理やり参加させられた伊吹の歌が、この場で1番上手だったのは皆驚いたことだった。

衝撃の展開とは続くようで次はシオンが爆弾を投入してきた。

 

シオン「皆さん。この場をお借りして僕は発表したいことがあります。それは、僕にも好きな人がいるということです。今日はその彼女をご紹介します。それは、蝶野アムです。ではステージに上がってください」

 

そう言われてラミーラビリンスの蝶野アムはステージに上がり挨拶をした。

皆、本当に驚愕してしまった。

特にラミラビのファンであるトリニティドラゴンはショックの余り気絶してしまうほどであった。

ルーナも知らなかったため、慌ててステージに上がり事情を聞くほど驚いている。

 

クロノ「……シオン。お前ってやつは。俺らのこと出汁に使うつもりだったのか?」

 

ステージから降りたシオンに真っ先に声をかけたのは、怒り模様のクロノだった。

結果はどうあれ、今回は自分たちのための企画なのだ。

そこで会場中を一色に染めるようなことをしたシオンに怒るのは当然のことだろう。

そんなクロノにシオンは笑いながら謝罪する。

 

シオン「ごめん、ごめん。彼女のことを話すのは、大きな舞台で大々的に行うのが1番だからね。この間の見送りが予想以上に盛り上がったから、此処で行えば、彼女のことも守りやすくなると思ってね。つい」

 

クロノ「ったく、お前の大胆さには驚かされてばっかだぜ。でも、アムと生きると決めたのならちゃんとやりとげろよ」

 

頭をかいて苦笑するクロノは、一呼吸置いて真剣な顔でこぶしを突き出した。

 

シオン「もちろん、そのつもりだ。そうそう、僕も君に言うべき言葉があったんだ。聞いてくれ」

 

自身のこぶしをクロノのこぶしに合わせてシオンは続ける。

 

シオン「トコハとの交際おめでとう。幸せにね」

 

クロノ「……ああ。お前もな」

 

合わせたこぶしを離した後、今度は握手をおこなった。

男たちの友情に少し嫉妬しながら黙ってトコハはこの光景を見続けるのだった。

 

 

いくつもの騒動が巻き起こったパーティーだったが、漸く落ち着き、食事やファイトを行って疲れた者や用事がある者から解散していった。

祝われる側であるクロノとトコハも比較的早めに帰されることになった。

なお、片付け中にまた別の騒動が起こるのだが、それはまた別の話。

帰った2人は風呂に入り、部屋のベッドに座って今日のことを思い出した。

 

クロノ「いてて、今日も疲れたな」

 

トコハ「まだ痛むのね。ごめんね。家のお父さんがまた殴って」

 

そう言ってトコハはクロノの頬に手を当てた。

1番多く殴られた箇所はまだ少し赤かった。

 

クロノ「大丈夫だ。トコハのお父さんに認めてもらえたからかな。痛みよりも嬉しさの方が大きいんだ」

 

クロノはトコハの手に自分の手を重ねて頬から外して、2人の間に持っていき、手のひらを重ねる状態に変えた。

そして、トコハのおでこに自分の頭を置いた。

まるでトコハがここにいることを感じているように。

 

クロノ「ありがとう、トコハ。こんな俺のことを好きなってくれて。俺、お前のこと絶対に幸せにするから。俺、頑張るから。だから、ずっと俺の傍にいてくれ」

 

トコハはクロノが震えているのが分かった。

彼の内に秘められた寂しさを感じ取ることができたから、クロノの背中に手を回した。

 

トコハ「クロノ。私はここにいるよ。これはあなた自身が選び、掴み取った今。私はずっとあなたの傍にいます。あなたを支え、帰りを待って、子どもを産む。そんな未来を2人で築いていこう」

 

トコハの言葉を聞いてクロノは完全にトコハを抱きしめて押し倒した。

そのままクロノは泣いた。

物心つく前に母を亡くし、父が失踪する原因を己が造ってしまい、残された叔母に迷惑をかけ続けたと感じていた少年が初めて内に秘めていたものを吐き出したのだ。

そんな彼をトコハは優しく包み込んだ。

 

トコハ「クロノ。今は泣いて。自分に嘘をつかないで、私はちゃんと受け止めるから。明日、あなたの笑顔を見せてくれれば良いから。一緒に生きよう。私たちの求める未来に向かって」

 

この日、2人は本当の意味で恋人になった。

今日、涙を流した分、明日は笑顔になるだろう。

その笑顔は2人の望む輝ける未来への懸け橋となる。

 

クロノは夢を見た。

以前にも見た自分が宇宙飛行士として出発するときの夢だ。

内容は大きく変わらないが、1つだけ違うところがあった。

トコハがスーツではなく、もっとゆったりとしたドレスを着て、その腕の中には自分と同じような渦巻きの髪がある子供が笑顔でクロノに手を伸ばしていた。

クロノもその子供ごとトコハを抱きしめ、必ず帰ると誓う。

そんな優しい夢を。

 

互いの弱さを知ったクロノとトコハの未来はこの夢のように明るい。

それを表すように2人の寝顔はとても穏やかなものだった。

 

 

その日の安城家。

ヨシアキが家に帰ってきたのは日付が変わる直前だった。

 

ヨシアキ「ただいま」

 

ミサエ「おかえりなさい。少しすっきりしたみたいね」

 

ヨシアキ「ああ。ところでトコハは?」

 

ミサエ「あの子ならクロノ君のお宅よ」

 

ミサエはヨシアキが去った後、トコハに声をかけたのだ。

 

ミサエ『トコハ、おめでとう。今日はうちに帰ってくる?』

 

トコハ『う~ん。いや。私はクロノと1秒でも長く一緒に居るの。あ、でも時々はお母さんのご飯食べたいから帰るね』

 

その言葉を言った顔はとても清々しい笑顔だったらしい。

 

ヨシアキ「ええぇ! トコハ!」

 

ミサエ「はいはい、あなた落ち着いて。良いじゃないですか。帰ってくるって言っているのですから」

 

ヨシアキ「いや、でもあの子たちはまだ学生で……何が起きてからじゃ遅いんだぞ」

 

ミサエ「大丈夫。何が起きても、あの子達なら乗り越えれる。クロノ君も言っていたでしょ。自分の娘を信じてくれって」

 

笑顔の妻の言葉に詰まってしまった後、ヨシアキも笑った。

 

ヨシアキ(そう遠くない未来にあの子は結婚して、子供を産むだろう。そしたら、あの子の頭を撫でてやろう。昔と同じように)

 

変化を止めることはできなくとも、受け止め、受け入れ、新たな日常でまた笑顔に戻る。

次の変化を夢見て、ヨシアキはまた前を向くのだった。




次は番外編です。
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