世間では特別な日ではなく、それはあーしさんの家でも同じ。
何気ない日常をまったりとお送りします。
※単発モノです。
よっちいです。
ぽんかん⑧先生が優美子のイラストをTwitterで上げていました。
しかも、いい夫婦の日の近くに。
これは、リハビリチャンス。
そんな作品です。暖かい目でお願いします。
もうすぐ結婚して1年。思えば、色んなことがあった。泣いたり笑ったり、怒ったり甘えたり。どれもこれも幸せだったなぁ。もちろん、今も幸せ。
そんな風に、少し昔を懐かしみつつあーしは彼の帰りに合わせて、夕飯を作っている。
11月22日。今日は、いい夫婦の日だ。これは美味しいご飯を食べなきゃいけないっしょ。そう思ったあーしは、いつもよりも力を入れて夕飯を作っている。彼の帰りはまだだろうか。
『駅着いた』
結婚しても尚、彼の連絡はそっけない。世間一般からしたら、愛がないとか言われるかもしれない。でも、短い言葉なのに想いが詰まっている時もある。たまに、本当に愛が無いんじゃないかって不満もあるけど、それも結婚した者の贅沢だろうか。
彼の連絡に『ん』とだけ返す。手が離せない時は大体こう。これで伝わる辺り、彼は言葉の裏を読もうとする。それが助かる時もある。
しばらくして、ガチャッという重めの鍵の音と共にドアの開く音が聞こえた。
「たでーま」
だらしない言葉。今日もお疲れなのだろう。ぬぼーっとした人。彼から聞いたことのある、ある同級生の第一印象である。同級生って誰だろうね。限られてるけど。
手洗いや着替えを済ませてキッチンを覗きに来た彼の鼻は少し赤い。鼻炎があるわけではない。
「おかえり。外寒かったっしょ。もうすぐ出来るから待ってて」
「おう。今日はなんか偉く手が込んでるな。なんかあったっけ?」
彼は、何かの記念日と勘違いしているらしい。圧力鍋で煮込み物をしていればそう思えるのも無理はないか。半分正解で半分ハズレ。そのリアクションにあーしってば愛されてるなぁ。と思いニヤッとしていまいそうになるのを心の中だけで留めた。まぁ、少しニコッとしてしまうくらいには隠しきれなかったけど。
「なーんも。でも、今日は良い夫婦の日だからね。あーしも仕事休みだったし、愛しの旦那さんに美味しいもの食べて貰おうかなって」
「後半の方、もう1回言ってくれ」
「調子に乗るなし」
「すまん。ただまぁ、なんだ。外寒かったから、あったかいもんはありがたいな。手伝うことはあるか?」
「んー。ワインだけ出して開けておいてくれる?」
「おう」
赤ワインは飲む直前に栓を開けて空気を含ませるとまろやかになる。彼がどこからか覚えてきた小ネタ。実際、渋みが消えるので飲みやすい。
慣れた手付きでコルクを開け、デキャンタに移す。少し赤みの強いミディアム。これは美味しそうだ。
結婚する前から、彼とは料理とお互いに勉強してきた。どちらも出来ないのは家庭的にも経済的にもよくない。もちろん、当時は結婚するかなんて分からなかったけど、一人暮らしを始めたタイミングが近かったこともあって、半ば通い妻のようなことをしていたっけ。逆もまた然り。
色んな思い出があるなぁ。などと考えながら再び鍋を見ていると、視線がある事に気づく。
「どしたの?」
「いや、なんとなく料理してる姿をな。良い夫婦の日って言われたら変に意識しちまった。邪魔なら退くけど」
「じゃ、邪魔じゃないし! そーだ、ハチ。そこのフランスパンあっためておいて」
「あいよ」
彼は今でも不意打ちがずるい。いちいち照れてるあーしもチョロいんだけど。でも、嬉しい言葉を言われて喜ばない人はいないっしょ。
照れ隠しといわんばかりに、彼に少し手伝って貰うことにした。返事をした彼の顔はどこか柔らかい笑みだった。
そうこうしている間に、出来上がったので配膳する。そう、今日はビーフシチューだ。肉をほろほろにしたかったので圧力鍋を使っていた。あらかじめ盛り付けて冷やしておいたサラダを冷蔵庫から取り出す。
「じゃあ、良い夫婦の日に。あーしたちに乾杯」
「なんだそれ。乾杯」
荷崩れせず、だけどほろほろなビーフ。一緒に食べるパン。肉と合う赤ワイン。フレッシュさを伝えてくれる野菜。いつもよりちょっとおしゃれな夕飯なだけなのに、こんなに幸せなのは自分で作ったものが美味しいだけじゃない。口には出せないけど。
「どう?」
「これ最高だな。めっちゃ柔らけぇ。ワインとも合うし、最高だ。いいお嫁さんだなぁ」
「そ。よかった」
やけに素直な彼。よっぽど美味しかったのかな?夕方前から作った甲斐があった。
彼はサラリーマン。働きたくないとアレほど豪語していた彼はなんだかんだ言いながらも、しっかりと働いている。
あーしはアパレル店員。土日休みはどちらかが基本で後は、平日に1日。今日は偶々語呂のいい日と休みが被った。そしたらウキウキしてしっかり作りたかったというわけである。そんな日があってもいいっしょ。
「ごちそうさまでした」
声を揃えて言う。そのまま二人で皿や浸けておいた鍋などを洗う。洗いながら話すというのが、あーし達夫婦のコミュニケーションの一つだ。その方が早く済むし、やらなきゃいけない事に飽きないし。
そうして、団欒タイム。なんとなくテレビを見ながら二人でソファーに掛けている。お酒が入ってるせいかいつもよりお互いに近い。というかくっついている。
「あったかいな」
「うん」
彼の言葉は、吐く息のように軽く出た。今ある様を言いたかっただけなのか。そんなわけない。人肌が恋しいのはあーしも一緒。そして隣に居る人が愛する人ならなおさら。
視線を彼の方そうっと向けると、それに気づいたのかこっちを見た。段々と顔が近づいてきて、そっと唇を合わす。幸せを感じる。
「ほんと、いい夫婦っしょ」
fin
もっと甘々に続くと思いました?
残念ながら、続きは皆様におまかせします。
R-18に持っていくにはまだまだ駄文ですので、難しいのです。
さて、本編『あーしとヒキオと』ですが、長らくのインプット期間でした。
今回の単発で、ようやくアウトプットが出来てきたので頑張りたいです。
作者、逃げてはないのですよ、逃げては(言い訳)
他の作家さんとコミュニケーションを取る機会があったおかげで、この作品も生まれました。
関わってくださる作家さん方、本当にありがとうございます。
お読みくださった方々も、是非感想などお待ちしてます。
それでは、読んでくださった方に感謝。
よっちい