強くてニューゲーム   作:トモちゃん

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アインズ「おいでよ、魔導国」


14話

―バハルス帝国帝都アーウィンタール―

「この報告書は本当なのか? いくら何でもふざけ過ぎだと思わないか? 」

「陛下、これが冗談だったら、報告者はその度胸を称えて昇給させても良い位ですぜ」

 

帝国四騎士筆頭バジウッドは、いつも通りの歯に衣着せぬ物言いで答える。

 

「しかし、このアンデッド、間違いなく私以上の魔法詠唱者でしょうな。是非お会いしたいものだ。時に陛下? 私は、ここしばらく休暇を取っておりませんでしてな」

「却下だ。法国と評議国からの連名の書状も読んだだろ。もう王国には手は出せん。帝国の今後をどうするか考えねばな」

 

全く想定外の誤算だ。まさか、こんな国がいきなり出てくるとは。

しかも、人類最強国家と複数の亜人たちによる評議国が後ろ盾になられては、手を出したら火傷では済まない。

 

「相手が全く分からん状態では何もできん。この報告書が本当だとしたらアインズ・ウール・ゴウンとは神そのものだな」

 

そういえば、法国の書状には彼のアンデッドは神だと書いてあった。あの国の指導者たちが狂ったのでなければ。

 

「爺、お前の望みを叶えてやろう。そのアンデッドに会おう。」

「陛下? まずは情報を集めて使いを出してからですぜ」

「そんなまどろっこしいことはしてられん。法国を手中に治め、評議国とも同盟を結んだんだぞ? この三国の目が帝国に向かうのだけは阻止せねばならん」

 

ついでにバカンスも兼ねよう。最近は忙しすぎて碌に寝てもいない。

 

「失礼致します。ちょうどその魔導国からの書状が届きました」

 

計ったように見事なタイミングで秘書官の一人、ロウネ・ヴァミリネンが入室してきた。

 

「ほう、建国記念の祭典を催すそうだ。この私を来賓として招きたいらしい」

「陛下、帝国として恥ずかしくない準備をせねばなりませんな。弟子たちも連れていかねば」

 

フールーダは年を感じさせない精力的な表情でニヤリと笑った。

自分以上の魔法詠唱者に会えると知って、遠足前の子供のように嬉しそうなフールーダに呆れながらジルクニフも笑う。

仮に戦力では負けていたとしても、人間の知恵は決して負けていないはずだ。

久しぶりに全力で知恵比べが出来るだろうか。楽しいゲームになりそうだ。

不敵に笑う皇帝の貌には王者の風格が漂っていた。

 

 

 

 

―リ・エスティーゼ王国ヴァランシア宮殿の一室―

「そんなアンデッドなどとっとと滅ぼしてしまえば良い」

「所詮化け物に過ぎん。王国の土地であるエ・ランテルを占領するなど許し難い」

 

勇ましい声を上げるのは貴族派閥のボウロロープ侯とその取り巻きたちだ。

 

「蒼の薔薇からの報告によれば、死者数万人を甦らせ、僅か2週間で都市を作り直したそうだが」

「馬鹿馬鹿しい、それこそ幻でも見せられたのでしょう。アダマンタイト級冒険者といえど所詮は女子供。騙されたとしても仕方ありませんな」

 

蒼の薔薇を嘲笑するような声がそこかしこから聞こえてくるが、彼らは冒険者のことなど殆ど分かっていない。

只のモンスター退治屋程度の認識しかないのだ。最高位の冒険者の力というものを侮っていた。

 

「お待ちください。彼の魔法詠唱者、アインズ・ウール・ゴウン殿は決して侮ってはなりません」

「黙れ、平民風情が! お前に発言など許されておらんわ! 大体、戦士長ともあろうものが、化け物に臆したか」

 

故に、アダマンタイト級に匹敵するという戦士長の話も一笑に付される。

ただ一人を除き、この場にいる貴族の中で、アインズ・ウール・ゴウンの脅威を理解しているものはいなかった。

 

「ボウロロープ候。貴方を総大将としてエ・ランテルに軍勢を向かわせてみてはどうでしょう? 」

「おお、レエブン候。確かに軍を率いるなら私が適任でしょうな。陛下、ご命令下さい。この私にエ・ランテル奪還を! 」

「むう、どちらにせよ、一戦も交えずに領土を手放すことなど出来ぬ。良かろう、頼むぞ、ボウロロープ候」

 

おお、と歓声が上がる。領土を奪還すればボウロロープ候の発言力は大きく上がることだろう。

彼の娘婿、第一王子バルブロが王位を継ぐのは間違いない。そう、奪還出来れば、だ。

 

ガゼフは、どうにかこの集団自殺とも言える暴挙を止めたかった。

だが、もとより、政が苦手な彼には、説得する言葉を持ってはいなかった。

アインズの言葉が思い出される。自分は、何故、もっと早く動こうとしなかったのか。

後悔だけが募るが、絶望の未来は、既に幕を開けようとしていた。

 

レエブン候は、既に第二王子ザナックを通してラナーと面会、蒼の薔薇から詳細な情報を得ていた。

その後、レエブン候に与えられた使命は、王国が明確に敗北した、と内外に示すよう、働きかけることだ。

レエブン候は、ボウロロープ候とバルブロを生贄とすることで、それを達成することにした。

今回の奪還作戦を後押ししたことで、魔導王の目的通り、王国の支配はスムーズに進むだろう。

 

王は敗戦の責任を取って王位をザナックに譲るだろう。

戦後の混乱を治めるために必要ならば、新王の首を差し出せば良い。

後は、自分の領土を息子に継がせることが出来れば、それでいい。

その他の貴族たちがどうなろうが、どうでも良い。

その為に、あの魔女と手を組んだのだから。

 

 

 

―リ・エスティーゼ王国ヴァランシア宮殿、ラナーの部屋―

「馬鹿って死んでも治らないのね」

「仕方ありませんよ。あの方たちは強さなんてものは分かりませんから」

 

優雅に紅茶を淹れながら笑うラナー。

 

「で、あいつらが負けた後はどうするんだ? 」

「そうですね。多分魔導国から使者が来るでしょうから、その口上を聞いてからになるとは思いますが」

「勝てないのは分かってるが、どんだけ生き残るかねえ」

「誰一人生き残れません。文字通りの全滅ですよ」

 

ラナーの態度は何を当たり前のことを、と言わんばかりだ。

 

「魔導王はアンデッドだが慈悲深い。普通のアンデッドのように殺戮を好むようには見えなかったが? 」

 

イビルアイは同じアンデッドだからか、何となく魔導王を庇う様な発言をしてしまう。

 

「魔導王は敵対者には容赦するほど甘くはないと思います。恐らく、彼の王は、本物の王なのです。戦うとなれば、慈悲は一切期待できないでしょう」

「慈悲は十分に見せた。今度は力と苛烈さを見せつけるというわけね」

 

ラナーは首を縦に振る。

 

「ええ、帝国の皇帝に、この戦争ともいえない虐殺を見せつけるつもりでしょうね。魔導国は建国記念の催しに皇帝陛下を招待したそうよ」

「他国の皇帝を呼んでお祭りかよ。戦争って分かってんのか」

「十分に分かっているのでしょうね。戦争では無く、ただ蹂躙するだけだと」

 

蒼の薔薇のメンバーは全員が分かっている。魔導王の僕の一体ですら、王国軍を容易く殲滅出来ると。

 

「しっかしタイミングもドンピシャだな。これも偶然じゃねえんだろ? 」

 

聞いているスケジュールからすると、皇帝が到着して二日後には王国軍がエ・ランテルに辿り着くはずだ。

 

「魔導王の計画通りなのでしょうね。聞くところによると、彼の王は万物を見通すほどの賢者だとか」

「何でもかは分からないけど、あの王の叡智が凄いことは疑いようがないわ。ラナー、きっと貴方でも及ばないと思うわ」

 

良く知っている。だからこそ、馬鹿な貴族と愚かな兄が功を焦るように、レエブン候を使って情報を誘導したのだから。

どうやったのかは分からない。けれども彼らは自分の密かで細やかな望みを知っていた。誰も知らないはずの小さな望みを。

それを叶えることが出来るのは、彼らだけだと理解したラナーは迷わずその手を取った。

 

 

 

 

―エ・ランテル―

魔導国首都となったエ・ランテルは、未曽有のお祭り騒ぎに浮かれていた。

高級な食事、酒が無料で振舞われ、吟遊詩人の歌が、大道芸が、市民たちを楽しませていた。

この一か月間は建国祭として仕事は休みだ。働くのはアンデッドだけ。

飲んで騒いで、楽しんだ後は、区画毎に整備された公衆浴場で汗を流す。

贅沢にお湯を使う風呂などは極一部の貴族にのみ許された娯楽だったのだが、この都市では、誰でも無料で使用できる。

病気や怪我をしても無料で治してくれる。税は軽くなり、食糧は安くなった。しかもこれが全て旨い。

アンデッドの行政は不正が無く、誰の目にも公平公正であった。

王国の鬱屈した空気を吹き飛ばした賢王の建国を、誰もが喜んだ。

 

 

 

 

「本当にこれがエ・ランテルか? 」

 

帝国四騎士筆頭、雷光バジウッドは思わず感嘆の声を上げた。

綺麗に石畳で整備された道路。美しい街並み。町を歩く人の顔は軒並み明るい。

街を巡回するデスナイトを見て興奮するフールーダを止めるのが大変だったことは、もう忘れたい。

 

昨日の、魔導国での歓迎の式典は驚くほど洗練され、優雅で厳かなものだった。

魔導王の王城は、僅か2週間で作られたとはとても思えないほどの見事なものだ。豪華絢爛ではあるが決して下品ではない。

魔導王は文化にも通じているのだと、思い知らされる思いだった。

その後の食事は、普段贅を尽くしたものを食べているはずのジルクニフをして、天上の美味と言わしめるほどだった。

共に招待されたと思われる法国の神官長と、評議国の者と思われる亜人が―本音はさておき―友好的に食事をしている姿は、例の連名での書状が間違いではないと知らしめるものだった。

肝心の魔導王との会談も儀礼的なものでなく、実のある話が多かった。本格的な交渉は明日以降だが、王国の貴族と違い、無駄を嫌う、合理的な考え方をする人物であることは間違いないようだ。

 

バジウッド以下、信頼を置く部下たちには、今日は街を散策させることにした。魔導王の統治を見極めるために。

 

「さて爺、どうだった? 魔導王殿は? 」

「どうやら魔力探知を阻害する魔法かマジックアイテムを使用しているようですな」

 

心底残念そうにフールーダは肩を落とす。

そこに血相を変えたバジウッドが飛び込んできた。

 

「陛下、ヤバい! 王国軍だ! もうこの近くまで来てるらしいぜ! 」

「王国軍だと? あの馬鹿どもこの国に攻めてくる気か? 嘘だろ? 」

 

街を巡回しているアンデッド一体ですら、帝国全軍に匹敵するほどの軍事力を有する国に戦争を仕掛けるなど、王国は自殺願望の持ち主しかいないのか?

 

「魔導王は王国軍を殲滅するって宣言したらしいですぜ。それも魔法一つで」

「ほう! どんなじゃ? その魔法は何というのじゃ? 何と言っておったんじゃ! 早う! 早う言わんか! 」

「落ち着け爺! バジウッド、街の様子はどうだ? 」

「相変わらずのお祭り騒ぎですわ。連中、王国軍が都市に辿り着けるとすら思っちゃいねえ。むしろ城壁上の席取りが始まってますぜ」

「は? 何だそれは? 」

「魔導王陛下の魔法を一目見ようって連中が城壁の上で見物しようってことらしいですわ」

「いや、敵国の軍隊が攻めてきてるんだぞ? 城壁なんて開放してるのか? 」

「街じゃあ魔導王陛下が出るんだ、負けるはずがないって雰囲気でしたよ。むしろ王国軍が苦しまずに死ねれば良いって祈ってる奴までいました。戦争だと思ってるやつはいません。お祭りの出し物の一つ扱いですわ」

「フールーダ、待望の大魔法が見れそうだぞ? 」

 

ジルクニフは明日の戦争を見学出来るよう、魔導国の従者に伝言を伝える。

上手くいけば、魔導王の力がどれ程なのか見極められるかもしれない。

 




ジルクニフ「どうした君たち? 何故、私の頭をじっと見てるんだ? 何か面白いものでもついているか?」

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