強くてニューゲーム   作:トモちゃん

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アインズ「ジルクニフ、ゲームをしよう」
ジルクニフ「良いですね、やりましょう」
アインズ「先手は私だな。チェックメイトだ」
ジルクニフ「は?」
アインズ「チェックメイトだ」
ジルクニフ「…は?」


15話

―エ・ランテル城壁、特別観覧席―

隣にいるのは確か法国の神官長だったはず。

 

「久方ぶりだな、闇の神官長、レイモン殿。まさか法国が最初に降ることになるとは思いもしませんでしたよ」

「ははは、当然でしょう。元々法国は魔導王陛下のもの。本来の姿に戻っただけのことです」

 

操られているという雰囲気はないがジルクニフは魔法や戦闘については素人だ、確証はない。

 

「今日は、あのお方こそが我らが神であることを示してくださると聞いて楽しみにしているのです。まあ、疑う余地などありませんがな」

「ほう、神の証明とは一体? 」

「法国のみに伝わる口伝ですがね。いや、評議国の白金の竜王殿は実際に見たことがあるとか。位階魔法を超えた、神だけが使用できる魔法。今日はそれを発動してくださるそうです」

 

位階魔法を超えた魔法か。随分と大袈裟な話だが、本当にたった一つの魔法で王国軍を殲滅するつもりなのか。

 

「ふふふ、位階魔法を超えた魔法とは如何なるものでしょうな?陛下。いやいや、久方ぶりにこの老骨も熱くなってきましたぞ」

 

余り凄い魔法を使われてはフールーダが暴走するのではないかと不安になってきた。

 

「(他国の重鎮もいるんだ、頼むから落ち着いてくれよ)爺、少し落ち着け。後で魔法談義の時間を取ってもらうから」

「おお! 流石は私のジル! 素晴らしい! 感謝いたしますぞ」

 

思わずはあ、と溜息を吐く。そういえば、魔導王の正妃にして宰相、アルベドは落ち着いた女性だった。

帝国にも、あんな感じの落ち着いた側近が欲しいな、などと益体もないことを考えているうちに、王国軍の姿が目に入る。

10万は居るだろうか。魔導国の軍事力を見た後だと頼りないと思うが、それでもこの数は圧倒的だ。

遠すぎて見えないだろうという魔導王の配慮で、ジルクニフ達の前には魔法による映像が映っている。

その映像は、拡大も視点移動も自在に出来る優れモノで、拡大すれば兵士たちの表情もはっきりと分かるほどだ。

 

 

 

 

いつの間にか、王国軍の前にただ一人、白いドレスを身に纏った絶世の美女がいた。

 

「王国軍に告ぐ。この場で引き返すなら良し。だが、それ以上進むのであれば、誰一人生きて帰れぬと知れ」

 

その声は美貌に違わず涼しげで、不思議と全軍に聞こえるものだった。

 

「ふん、馬鹿馬鹿しい。全軍、進め! 」

 

意にも介さず、即座に命令を下すボウロロープ候は、流石に歴戦の猛将であった。

ただ、今回に限っては相手が悪すぎた。人知を超えた存在など、彼らは見たことが無かったのだから。

ボウロロープ候の脳裏には、自分が王の義父として権勢を奮う姿が映し出されていた。

この女のドレスも見事なものだ。魔導王とやらは、相当な財宝を持っていることだろう。

いや、この女も自分のものにしてしまおう。そうだ、アンデッドなどには勿体ない。

例のアンデッドは死者を復活させるとか。それを手に入れれば、富も権力も思うがままだ。

今回の戦争で、莫大な財と権力を手に入れるのだ。王国を手に入れたら帝国か法国か、さらに大きくなる野望に笑いを堪え切れない。

 

王国の第一王子バルブロは、既に目の前の美女を手に入れたつもりでいた。

「良い女だ。あれなら、自分の愛妾に相応しい。私は王になるのだ。全てを手に入れてみせるぞ! 」

義理であるというのに、ボウロロープ候とバルブロの考えていることは、実の親子以上に良く似ていた。

 

 

 

 

「それがお前たちの選択だな」

 

いつの間にか、女と入れ替わるように、黒い豪奢なローブに身を包んだアンデッドが居た。

先ほどの女と同様、全軍に響き渡る声だ。

 

未だ、弓矢が届く距離ではない。が、魔法詠唱者が目の前にいるのだ。しかもただ一人で。この機を逃す手はない。

 

「魔導王だか何だか知らんが、魔法詠唱者が一人で出てくるとは愚か者が! 全軍突撃! 」

 

突撃の号令と同時に魔導王が軽く手を振る。

 

 

 

 

「おおお! 」

 

興奮の叫び声をあげたのは帝国の魔法詠唱者フールーダ。

 

「神の魔法はあの様に大きな立体型魔法陣が発生すると聞きます」

 

闇の神官長レイモンも興奮を抑えきれない。

 

「何という魔力! あれは! 第10位階? いや、それ以上? ふ、ふははは! まさに! まさにあのお方こそが魔法の神! 至高にして深淵の王! 」

「爺! あれは何だ? 」

 

フールーダすら知らない魔法とはどれ程の威力があるのか? その答えはすぐに訪れた。

魔導王の周囲に浮かんでいた魔法陣が砕け散り魔法が発動する。

 

当初、アインズが使おうと思っていたのは、超位魔法黒き豊穣への貢(イア・シュブニグラス)

だが、ここに至って、使用する魔法を変更することにした。

即死魔法は、この場には相応しくないだろう。

そう、お祭りにはド派手な花火だ。

よって、この魔法を選択することにした。

 

超位魔法流星雨(メテオ・スウォーム)

 

 

天から隕石が、次から次へと降ってくる。

 

「た~まや~」

 

着弾した隕石が礫を爆発的にまき散らし、人も軍馬も肉塊に変えていく。

超広範囲の破壊魔法。まさに至高の神に相応しい魔法だった。

 

流星の雨が止んだ時、大地には大量のクレーターと、軍隊だったものの破片しか残っていなかった。

城壁の上から大歓声が聞こえる。

観客たちには大受けのようだ。やはり、ド派手な魔法は最高だ。

城壁へと振り返り、手を振るとさらに歓声が大きくなった。

まるで、エ・ランテルが揺れているかのようだ。

 

 

 

 

 

 

「何と、何という…」

 

ジルクニフはそれ以上の言葉を続けることが出来なかった。

魔導王は数万の死者を生き返らせたと聞く。そして今、10万の生者の命を容易く奪った。

生も死も、彼の超越者には同じものなのだ。確かに、法国の言う通り神の力と言っても過言ではない。

滂沱のごとき涙を流しながら、感動に身を震わせるフールーダと闇の神官長レイモンは放っておこう。

 

「あれが魔法の深淵…」「あれが、あれこそが神の御業…」

 

神が死者たちに手をかざすと、軍隊だったものから光が漂い始める。

やがて、それらは全て魔導王の手の中に吸い込まれていった。

 

「おお! 神に歯向かった愚か者たちの魂さえ救済して下さるとは。何という慈悲深きお方…」

 

魔法に詳しくないジルクニフにすら分かる。いや、あれを見ていた誰もが分かるだろう。

彼らの魂は魔導王に奪われたのだと。それは本当に救いなのだろうか?

 

「行くぞ」

 

護衛のバジウッドと秘書官たちを連れ、自室に戻る。対策を考えなければ。

戦うことなど出来ない、いや、戦いになどならないとはっきりした。

何より、あの様子ではフールーダはもう駄目だろう。

魔導王の魔法に魅せられた以上、いつ裏切っても不思議はない。

そしてエ・ランテルは交通の要所。この国の影響から逃れることはできない。

これから行われるのは殺し合いではない戦争。

神の叡智に人の身でどれだけ対抗できるのか。それでもやるしかない。

帝国を自分の代で終わらせるわけにはいかない。ジルクニフの目はまだ死んではいなかった。

 

 

 

 

 

 

―帝都アーウィンタール帝城の一室―

ジルクニフは頭を抱えていた。

魔導国との交易について、全くしないわけにはいかない。いや、むしろ積極的に交易を行い、友好関係を築くべきだろう。

問題は、その品目だ。魔導王が輸出を目論んでいるのは小麦や肉といった食糧品だ。それも主食となるものだ。

魔導国のそれは非常に質が良く、価格も安い。

建国祭の帰り、件の食糧生産地帯を見学させてもらったが、帝国がやろうとしていたことの完成系をまざまざと見せつけられる結果となった。

アンデッドを使用した大量生産。さらにドルイドの魔法による促成栽培により連作も可能。食糧は全て保存(プリザベーション)の魔法がかけられた倉庫に搬入され、新鮮なまま保存される。

出荷するときにも保存(プリザベーション)の魔法がかかったコンテナに入れられ、ソウルイーターの馬車により迅速に輸送される。

生産も流通も遥かに先を行く相手だ。帝国産の食糧はあっという間に市場から駆逐されるだろう。

その結果は言うまでもない。帝国は食糧を輸入に頼るしかなくなり、魔導国によって完全に経済を支配されるのだ。

戦うことすら出来ず、帝国は魔導国に併呑されるしかなくなる。

関税を高くすれば、輸入量を制限すれば、ある程度は防げるだろうが、それにも限度がある。

 

相手は自分たちよりも圧倒的な強者なのだ。もとより、対等な交易などありえない。

唯一の方法は、魔導王が提案した通り、アンデッドの労働力を受け入れること。

帰国するジルクニフは、魔導王の魔法の跡、大量のクレーターがすっかりもとに戻っているのを目にしていた。

アンデッドを労働力として使用した結果らしい。これもデモンストレーションの一環なのだろう。

相手が自分たちの先を行っているなら、その力を借りるのも一つの手だ。

だが、それをしてしまえば、インフラも、食糧生産も、軍事力も、全てが魔導王の手に握られてしまう。

 

完全に関係を断ち、鎖国したとしたらどうだ。いや、それも無理だ。

今回の建国祭の大盤振る舞いは、あれは、撒餌だったのだ。各国の行商人たちに見せつける為の。人の口に戸は立てられぬ。ましてや商人だ。

どう足掻いても国民は魔導国のことを知ることになる。そうなれば、人の流出は避けられない。

防ごうとすれば、血が流れるだろうが、それは慈悲深い魔導王が帝国に侵攻する大義名分を与えてしまう。

かといって放置すれば、遠からず、帝国は見るも無残なほど衰退する。

敵ながら、魔導王の叡智に改めて感心する。どうにもならない袋小路だ。戦う前から、帝国は詰んでいた。

 

 

 

魔導国において、警戒すべき相手は魔導王を除けば二人。

正妃であり、宰相でもある魔導国の№2アルベド。

そして、魔導王の右手ともいうべき大悪魔デミウルゴス。

他にもいるようだが、現在分かっている警戒すべき知者は彼ら二人のみ。

愛妾であるロクシーと共に彼らとの会談に臨んだが、久しぶりに意見が完全に一致した。勝てる相手ではない、と。

だが、戦える相手でないなら、味方に引き込めば良い。

魔導王への態度から考えて、アルベドは無理だろう。だが、デミウルゴスならいけるかもしれない。

ジルクニフがそう考えるのには訳がある。アルベドとデミウルゴスに関する神話を聞いたからだ。

最初聞いた時には眉唾物だったが、彼らの力を知った今では、疑う余地もない。彼らは、正しく神話の世界の住人なのだ。

アルベドとデミウルゴスはどちらも悪魔という種族だが、その性質は大きく違う。

 

アルベドは、最高位の天使として生まれるはずだったが、夢見る国の化け物との融合により、大きく歪んだ姿となって生を受けた。

その内面も捻じ曲がり、邪悪で狡猾、残忍な悪魔となった。

しかし、彼女を哀れんだ魔導王の力により、本来の天使としての自分を取り戻したアルベドは、やがて魔導王を愛するようになり、その最初の妻になったという。

その物語は、既に吟遊詩人の詩にも詠われているほどで、特に、クライマックスのアルベドが天使の自分を取り戻すシーンは、女性に大人気だとか。

 

現在の彼女は“慈愛の女神”と称えられる完璧な淑女であり、魔導王を一身に支える理想的な賢妻である。

その美貌と、慈悲深い微笑みは魔導国の至宝とまで言われ、魔導王に向ける少女のような笑みは見るものを魅了する。

国民にも非常に人気が高く、女性の理想形として崇められているという。

宰相としても非常に優秀なことは、僅かな時間会談しただけのジルクニフにも十分に理解できるほどだ。

ロクシーからの評価では、アルベドの魔導王に対する愛情は疑いようもないらしい。

崇拝にも似た感情だと言っていたが、彼女の過去を考えると、そういう思いもあるのかもしれない。

ともあれ、愛情と忠誠の二つにより縛られた相手を篭絡するのはまず不可能だろう。

ならば、もう一人の相手を何とかこちら側に引き込まなくては。

 

デミウルゴスは、かつて魔皇ヤルダバオトと名乗り、世界を蹂躙した大悪魔。らしい。

遥か大昔のことで当時のことは誰も知らないというが、重要なのはそこではない。

魔皇ヤルダバオトは魔導王に戦いを挑み、そして敗れた後、魔導王の軍門に下ったという。

情により縛られているアルベドと異なり、デミウルゴスは魔導王の力に従っているのだ。

悪魔というものについて、詳しいわけではないが、悪魔の本質は残忍で残虐なものだという。これは種としての本能のようなものだ。

魔導王の慈愛に満ちた治世というものを、疎ましく思っている可能性は高い。

その戦闘能力にしても、バジウッド曰く、最低でも難度200以上という。300でもおかしくないそうだ。

また、その配下の悪魔たちも難度200以上と思われる化け物たちがいるという。

その為か、魔導王もデミウルゴスの意見を無視することは出来ないと言われている。

 

重要なのは、魔導王とデミウルゴスの両方に良い顔をしつつ、帝国がこの二人のバランスをコントロールする立場になることだ。

軍事力では勝負にならないが、政治、経済において影響力を得ることが出来れば、早々に潰されることもあるまい。

相手が相手だ。大きな野望は身を滅ぼすことになる。最も重要なことは帝国が生き残ることだ。

ジルクニフの苦難の日々は、これから始まる。

 




ジルクニフ「何か、何か手があるはずだ」
バジウッド「毛ですか? 」
ジルクニフ「手だって言ってるだろうが!! 」
バジウッド「あれ?ここ、10円禿げが出来てますぜ」
ジルクニフ「あああああああ!!! 」

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