強くてニューゲーム   作:トモちゃん

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恐怖公「お待たせしました。吾輩の出番が来ましたぞ」


22話

「やれやれだ。全く、あの女は前世から碌なことをしない。それにしても、まさか砦から脱出した後の足取りも追えないとは。聖王国の兵士たちの練度は低すぎるんじゃないのか? 聖王女も甘すぎる。拘束もせず、二人だけで会うなど。まあ、今生の別れだと思ったのだろうが、自分が殺されるとは皮肉なものだ」

 

アインズは、はあ、と大きく溜息を吐く。

 

「前世?」

 

アルベドが聞きなれない単語に小首を傾げる。

 

「ん? ああ、気にするな。それよりも、捜索の方はどうなっている? 」

「はい、デミウルゴス配下、八本指が総力を挙げて捜索しておりますが、未だ、見つかっておりません」

 

デミウルゴスの指示であれば、見落とすことはまずあるまい。

それで見つからないということは、既に聖王国には居ないということだろう。

 

八本指はデミウルゴスに掌握させた後、聖王国に本拠を移させた。

彼らはこれから、魔皇の配下として、魔導王に戦いを挑む愚者を集める仕事をすることになる。

世界中に根を張り、完全なネットワークを構築させる。

あらゆる場所に配備される、諜報機関として生まれ変わった。

六腕と呼ばれる強者たちは―今は五腕になったが―組織の用心棒として働いている。

街中での活動が主であるため、人間且つ、程ほどの強者である方が怪しまれない為だ。

 

「しかし、まさかあの女が聖王女を殺害するとはな。復活を拒否しているというのは本当か? 」

「はい。自分の腹心に殺害されたことが余程ショックだったようです」

「ふむ、私であれば復活させることは容易だが、それは望んでいないのだろう? 」

「ええ。聖王女を眠らせてあげて欲しいとか。愚かな連中ですわ。責任も取らず逃げ出したものを庇うのですから」

 

人間の分際で名乗る王など、所詮はそのようなものだ、と馬鹿にしたような顔でアルベドは嘲笑する。

 

「まあそう言うな。人間というものは弱いものだ。無理に生き返らせても使い物にはなるまいよ」

「畏まりました。では、聖王国に対する賠償請求はいかが致しましょう」

「その辺はアルベド、お前に任せよう。加減を間違えるなよ? 」

「お任せ下さい。必ずや、ご期待に応えて御覧に入れましょう」

 

予定外の思わぬ結果となったが、これで聖王国も手に入る。

上手いこと、南部と北部で騒乱の種を巻いてくれたと考えれば、レメディオスも役に立ったと言えよう。

この世に無駄な命など無いのだ。出来る限り有効に活用しなければ。

 

 

「さて、アルベド。竜王国の方はどうだ? 」

「はい、復興作業は非常に順調に進んでおります。王国からの移民も早速仕事についております。ただ、元々碌な仕事についていなかった連中ですから、余り質が良いものではありませんね。対して、亜人やアンデッドの労働力は非常に好感触を得ているようです」

「ふむ、王国の民は教育を充実させるしかあるまいな。アルベド、与える知識は厳選せよ。余計なものを与え過ぎないようにな。まあ、人間よりも亜人の方が良いところを見せられれば、より融和も進むというもの、そちらは気にすることはあるまい」

「畏まりました。そのように対処致します」

 

前世同様、民衆は完全にコントロール出来るよう、なるべく愚かであった方が―いや、言葉を選ぼう―純朴である方が望ましい。

 

 

 

「近隣では、敵対する可能性があるのはエイヴァーシャー大森林のエルフの国位か。確かここは法国と敵対していたな」

「はい、傲慢で好色な王が暴虐な統治をしているとか。アインズ様が民を開放なされば、さぞかし感謝されることと愚考致します」

 

エルフの国、あの国の王は気に入らん。きっとぺロロンチーノが居たら話し合いもせずに殺してしまっていることだろう。

前世でアウラとマーレの情操教育に良いかと思って、二人を連れて行ったのは大失敗だった。

今世ではシャルティアにやらせるとしよう。ぺロロンチーノも喜んでくれるだろう。

 

「良し、指揮官にはシャルティアを、副官には恐怖公をつける」

「え? 恐怖公ですか? 」

 

恐怖公は冷静な紳士であり、カルマ値も中立な、ナザリックでは非常に希少で優秀な人材だ。

一国の食糧を食い尽くすほどの眷属召喚が出来るので、戦争でも使い勝手が良い。

公爵だけあって、政治や経済、作法にも詳しく、内政面でも何かと重宝する。

 

ただ一点、女性NPCからは人気がない、というか、嫌われていることだけが欠点だ。エントマを除いて。

 

 

「うむ、指揮官としても彼は優秀だ。頭に血が上りやすいシャルティアと組ませるには、冷静な恐怖公は相性が良いだろう」

「さ、左様でございますね。それでは、そのように手配致します」

 

シャルティアに同情しつつ、自分は知能が高く創造されて良かった、と珍しく創造主に感謝した。

 

「それでは、軍の編成はどのように致しましょうか?」

「そうだな、この国は王を討てばそれで終わろう。実質的な軍隊の指揮と編成は恐怖公に任せるとしよう。シャルティア単独で王を討たせろ」

「畏まりました。それは、シャルティアも喜ぶことでしょう」

 

主に、恐怖公のそばから離れられることに。

 

「それと、エルフたちは極力保護する様に。我々は不当な王の暴虐からの解放者なのだからな。シャルティアにも、気高い戦乙女として振舞うよう、厳命しておけ」

 

ちゃんと命令しておけば、彼女たちはきちんと演技をすることが出来る。出来ないのはどこかのポンコツメイド位だ。

それと、王の死体も回収させよう。確か、前世での研究によれば、高レベルの人の皮はそれなりのスクロールになる筈だ。

使えるようなら生き返らせて剥ぎ取りの材料にしよう。レベルも高いから一日に何回も剥いだところで問題にはならないだろう。

 

 

 

「さて、帝国はどうだ?」

「はい、デミウルゴスとの接触の機会を探っているようですね。王国でのことが伝わっておりますので、慎重になっているようです」

「ほほう、では、背中を押してやると良い」

「背中でございますか? 」

「そうだ。皇帝の権力の根拠となっているものは何だ?」

「ああ、成程。畏まりました。では、騎士団の一部を篭絡すると致しましょう」

「うむ、騎士団全員が魔導国の力を分かっている訳ではない。レメディオスのように頭の固いものもいるだろうからな」

「くふふ、騎士団からの要請とあらば、無下にも出来ませんわね。どうせ何をしても無駄なのだから、いい加減、諦めれば良いのに」

「人の世を治めるのにあの男は役に立つ。だが、下に置くためには決して勝てないと分からせねばならない。これはゲームだ。アルベド、楽しめば良い」

 

ジルクニフに好感は持っているが、彼は野望が大きすぎる。

懐に入れるには、まずは心を折ってからだ。

 

 

 

 

―聖王国首都ホバンス―

「全く見つからねえってどういうことだよ? 何やってんだお前ら! 」

 

イライラした様子で、刺青の禿げ頭が部下たちを叱責する。

現在のボスであるデミウルゴスの命令により、聖騎士団団長レメディオスの捜索をしているが、一向に見つからない。

出来ませんでしたで許してくれる相手ではないのだ。

最悪、殺してくださいと泣きながら哀願するような目に合わされるのだから、彼らも必死だ。

 

「糞が! 見つからねえじゃあ済まねえんだよ! 」

 

恐ろしい。見つからなかった時、どんな目に合わされるのか想像しただけで吐きそうだ。

 

「良いかお前ら、どんな手段を使ったって良い。金ならいくらかけても良い。絶対に探し出せ」

 

旧六腕、ゼロは部下たちに号令を下す。

魔皇の配下になって、自分たちなど所詮人間だと思い知らされた。

自分が悪などと、はなはだしい思い上がりだった。本物の悪魔とはどれ程邪悪なものか。

泣きながら小便を漏らし、無様に許しを請う己の姿を思い出す。

もう二度と、あんな恐怖は味わいたくない。

自らも捜索へと赴く、少しでも情報を得るために。

 

 

 

 

 

―リ・エスティーゼ王国―

「聖王国、ひでえことになってやがんな」

 

女戦士ガガーランがエールを呷りながら最新の情報に食いついた。

 

「ちょっと、昼間っから飲まないでよ」

 

いくら最近は冒険者の仕事がないと言っても、油断し過ぎだ。

 

「悪いな。まあ、一杯だけだし大丈夫だって」

「はあ、全く反省してないでしょ? で? 聖騎士団長が暴走して魔導国に戦争を仕掛けたって、馬鹿なの? 」

「信じがたい馬鹿」「歴史に名を残せる馬鹿」

「まあ、馬鹿だろうな。魔導国に戦争を仕掛けるのもそうだが、同盟を結んだ国に戦争を仕掛けるっていうのが信じられん」

「これ、マジな話らしいんだよなあ。セバス様も否定しなかったし」

 

自慢するようにガガーランが続ける。

 

「え? いつお会いしたの? っていうか、エ・ランテルに来たらって話、本当だったの? いつの間に? 本当に行ったの? 」

「当たり前だ。セバス様が嘘を吐くわけねえだろ」

「ちょっと詳しく教えなさいよ」

 

窘めるでもなく食いついてくるラキュース。

 

「止めろ、ラキュース」

「リーダー焦ってる」「まだまだその鎧使える」

「馬鹿言わないで。相手が居たら私だって」

「いないから無理」「もう試合終了」

「お前らいい加減にしろ。話を戻すぞ。聖王女を殺害した聖騎士団長は、現在、聖王国を脱出し、王国かその近隣に潜んでいると思われる」

 

法国は入国審査が厳しい。魔導国は無理。

聖王国を出て向かう先は王国位しかない。あるいは、エルフの国か。

 

「見付けたら生死は問わないらしい。信じがたい額の懸賞金が掛かってる」

「俺らも探しに行くか? セバス様との結婚資金貯めときてえしな」

「ガガーラン、気が早すぎ」「まずはちゃんと恋人関係になってから」

「私もいい加減、相手を見つけたいわね。ラナーに相談してみようかしら」

 

ガガーランの顔が一瞬引き攣ったが、気付いたものは誰もいなかった。

 

 

 

 

―旧スレイン法国―

「さあ、クアイエッセ殿! いよいよ、アインズ様にその信仰を捧げる時が来ましたぞ」

 

二足歩行のゴキブリ、恐怖公が良く通る、爽やかな声で告げる。

 

「遂に、遂に私が神の為に働けるときが来たのですね! この身命を賭して使命を果たして御覧に入れます! 」

 

漆黒聖典第五席次、クアイエッセ・ハゼイア・クインティアは狂喜に身を焦がす思いだった。

ついに神への信仰を示すチャンスが来たのだ。しかも、これは神から与えられた勅命だ。燃えないはずがない。

 

「その意気や良し! ですが、宜しいですな? 今回の目的は、暴虐なエルフの王を討ち斃すこと。吾輩たちの使命は、シャルティア様がエルフの王を討つまでの間、エルフたちを“保護すること”にあります」

 

殲滅ではない。全ての生命を愛している慈悲深き神は、強制的に戦場に送られるエルフたちも救おうとしているのだ。

自分たちは神の代理者として、彼らを救わなければならない。無用な死者を出しては神の名を汚すことになるだろう。

 

「ギガントバジリスクの石化の視線なら、死ぬわけではありません。後で纏めて石化を解除致します」

 

ドルイドでもある恐怖公は、回復魔法もある程度は使用可能だ。

 

「お任せ下さい。この身命に代えましても、必ずや成し遂げてみせましょう」

「頼もしい限りですな。吾輩にとっても久方ぶりの大仕事」

 

恐怖公は、恐らく、笑ったのだろう。

アインズへの狂信的な信仰を持つクアイエッセは、ナザリックの面々ともそれなりに仲良くなっていた。

特に、召喚が得意な恐怖公とはうまが合うようだ。

森林での活動も多く、虫に対して嫌悪感を持っていないのも大きいのかもしれない。

 

「今回吾輩たちが率いる魔獣達は、皆、麻痺や石化、睡眠の能力を持つものたち。能力も高いですが、こちらは相手を殺さない。力の差以上に大変な戦ですぞ」

「勿論分かっております。楽な戦場などどこにありましょう。むしろ地獄の戦場こそが我らが棲家。望んで業火の中に飛び込みましょうぞ」

 

盛り上がっている二人を尻目に、一人佇んでいるのがシャルティアだ。

この二人は暑苦しすぎる。もっと優雅に出来ないものだろうか。

 

「さあ、二人とも。出陣しんすえ。じっくり攻めるように、とのご命令でありんすから、のんびり行くでありんすよ」

 

それでも精々一週間というところだろう。

一日で落としてしまってはクアイエッセや恐怖公の指揮能力、部隊の継戦能力が測れないとのことらしい。

至高の主に捧げる戦い、結果は勝利以外にあってはならない。

鮮血の戦乙女を筆頭に、エルフの国の解放戦争が幕を開けた。

 





―本日は、聖王国在住のZさん(仮名)にお話を伺います。

Z(仮名)「よろしくお願いします」

―早速ですが、Zさんの自己紹介をお願いします。

Z(仮名)「非合法組織H本指(仮称)の幹部をしています」

―H本指(仮称)と言えば、高給で有名ですが、その分激務と聞いています。

Z(仮名)「はい、ただ、最近新しくなった上司のパワハラが酷くて悩んでいます」

―パワハラですか? 具体的にはどのようなことをされるのですか?

Z(仮名)「はい、肩の肉をむしり取られたり、ゴキブリに体の中から食べられたり、発狂するまで拷問されることもありますね」

―それは辛いですね。転職しようとは考えなかったのですか?

Z(仮名)「今の職場は守秘義務が厳しくて、退職時には、全ての記憶を抹消されるんです」

―それでは、転職しても一からやり直しになってしまいますね。

Z(仮名)「この年で0歳からやり直しはきついですからね。そうなったら牧場勤務位しか働ける場所がありません。」

―それでは最後に、就職活動中の方たちに向けて一言お願いします。

Z(仮名)「はい、高給につられてブラック企業に就職してはいけません。今、就職活動中の人たちは、将来をきちんと考えて行動してほしいですね」

―今日はお忙しいところ、ありがとうございました。

Z(仮名)「こちらこそ、ありがとうございました。」




Zさん(仮名)のように、世の中にはまだまだブラック企業で苦しんでいる人が居ます。
魔導国はブラック企業撲滅を推進しています。
貴方の職場がブラックかも、と思ったらお気軽に、お近くの魔導国労働管理局へ。
無くそうブラック企業! 楽しく働ける職場へ!


魔導国労働管理局広報課からのお知らせでした。





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