強くてニューゲーム   作:トモちゃん

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最終話

―エ・ランテル、アインズの執務室―

 

「まさか、この世界にもワールドエネミーが現れるとはな」

 

アインズも驚きを隠せない。

何故、レメディオスの体に触れた瞬間、あれが出てきたのか、消えた後、何処へ行ったのか?

早急に見付けなければならない。

 

アインズは、前世で星を砕いたのが世界喰い<ワールドイーター>だと確信していた。

前世で、ワールドアイテムの効果がなかったのはこいつのせいか。

確かに、ワールドエネミーにはワールドアイテムは効果がない。

 

 

世界喰い<ワールドイーター>は、文字通り世界を喰らうものである。

ゲームでは、色々なイベントを達成した後、最初の街の近く、恐らくは最初に訪れるダンジョンに出現する。

 

それにしても、本当に一つの星を喰らいつくすとは驚きだ。

只のフレーバーテキストだったはずなのに。……フレーバーテキスト?

アインズがエンサイクロペディアを取り出す。

 

世界喰い<ワールドイーター>のフレーバーテキストには、こういう一文が書いてある。

 

『世界を喰らいつくす蛇。人間の魂が集まり、欲望が具現化したもの』

 

ここで、アインズは前世での実験を思い出す。

人間の魂、フールーダに研究させていたことの一つだ。

経験値を消費するスキルや超位魔法と、魂を消費する始原の魔法。

どちらも同じようなことが出来るなら、魂とは経験値と同じではないか? と。

結局、結論は出なかったが、それらは同じ性質を持つものであることだけは分かった。

 

 

アインズは、既に、ある結論に達していた。

恐らくは、人間の魂の総量がある一定値に達した段階で、フラグが立つのではないか。

いくつか条件はあるかもしれないが、それによって世界喰い<ワールドイーター>が現れるのだろう。

思い当たる節がある。前世では30万年だったのが、今世では、転移からの極僅かな期間で現れたことだ。

今世の人間の魂の総量は、まだまだ少ない筈だ。

それが一気にキャパシティをオーバーする要因。

アインズの両腕に吸収されたワールドアイテム<強欲と無欲>。

人の魂と経験値が同質のものであるならば、これに蓄積された経験値が世界喰い<ワールドイーター>を呼び寄せたことは間違いないだろう。

 

 

急がなくてはならない。

奴のフレーバーテキストにはこういう一文がある。

 

『世界喰い<ワールドイーター>は、7日間かけて世界を喰らい尽くす』

 

時間は少ないが、奴が何処にいるかは想定内だ。

 

「ニグレドを呼べ」

 

直ぐにセバスがニグレドを連れて入室してくる。

 

「アインズ様、ワールドエネミーが出現したとお聞きいたしました」

「うむ、ワールドエネミーには通常の索敵は通じない」

 

当然だ。そうであってはゲームにならない。

だが、この世界はゲームではない。

 

「恐怖公の眷属の目を通じて、この洞窟の映像を映せ」

「畏まりました」

 

ニグレドの魔法により映し出されたそこには、アインズの予想通り、確かに世界喰い<ワールドイーター>がその巨体を横たえていた。

 

「良し、場所は分かったな。今から一時間後、階層守護者達はフル装備でエ・ランテル広場に集合せよ。私は助っ人を連れてくる。それと、ニグレドはパンドラズ・アクターと協力し、私たちの戦いを中継せよ。良いか? 世界中の都市の空に投影するのだ。音声付きでな。出来るな? 」

 

これだけ大きなイベントは早々ないだろう。

折角だ、ユグドラシルの時のように、全世界に公開中継して楽しんでもらおう。

 

「はい。パンドラズ・アクター様のご協力があれば、問題なく」

「うむ、良い返事だ。では、各員、状況を開始せよ! 」

 

アインズはナザリックに一旦戻った後、すぐに転移門(ゲート)を開く。

この世界の助っ人を誘いに。

 

 

 

 

 

―評議国、某所―

 

「ツアー! さあ行くぞ! 世界のピンチ。つまり、お前の出番だ! 」

 

巨体を横たえて休んでいた白金の竜王は、呆れた顔を向ける。

いきなり現れてサムズアップしながら何を言っているのだ、この骸骨。

 

「アインズ、君はいつも突然やってくるね。今度は何だい?」

 

この骸骨のことだ、きっとまた、無茶ぶりをしてくるに違いない。

 

「ああ、前に話しただろ、俺の前世の話だ。星を砕いた怪物がこちらにも現れやがった。今から斃しに行くからお前も来い」

 

ほら、やっぱりそうだった。

 

「あの、アインズ? 良く分からないから説明してくれないか? 」

「じっくり説明してやりたいが、時間がない。奴は顕現してから7日で世界を喰らい尽くす。だから今すぐ支度しろ」

「ええ?」

「これはユグドラシルの化け物による破壊だ。分かるな? これこそ世界を汚す力だろう? 」

 

この骸骨の強引さは相変わらずだが、確かに言う通りだ。

この世界が終わるなら、それは、この世界の寿命によるものでなければならない。

 

「分かったよ、じゃあ、ちょっと待っててくれるかな」

「準備が出来たら声をかけろ。私の部下たちと共に出陣する」

 

きっちり5分後、アインズとツアーはエ・ランテル中心の広場に転移する。

 

 

 

 

―エ・ランテル広場―

 

先ほど顕現した化け物について、魔導王自らが説明して下さるということで、既に人だかりが出来ていた。

そこに、魔導王とツアーが転移で現れる。

既に守護者達は勢揃いだ。マーレとコキュートスも竜王国からシャルティアの魔法で帰ってきている。

 

「さて、魔導国の民たちよ、先ほど現れたあの怪物は、世界喰い<ワールドイーター>。世界を喰らい尽くす化け物だ。」

 

世界を喰らうという怪物。

おとぎ話のような話だが、魔導王もまた、おとぎ話に出てくるような人物だ。

その魔導王本人が断言するのだから、本当のことなのだろう。

 

「嘗て、私が支配していた世界は奴の手によって砕け散り、失われた」

 

魔導王ですらあの怪物を止められなかったのかと、どよめきが起こる。

 

「だが、私は二度も失敗するほど愚かではない。前回は、奴の所在をつかむことが出来なかった。だが今回は違う。これより、我々は世界喰い<ワールドイーター>を討伐に向かう! 」

 

力強く魔導王が宣言する。

エ・ランテル広場に集まった民は確信している。魔導王が負ける筈がないと。

 

「魔導王陛下万歳! 」

 

誰かが叫んだ。

それはすぐに波のように広がっていく。

やがて、広場は歓声の渦に包まれた。

 

 

 

 

 

―トブの大森林―

 

アインズ一行が転移で訪れたのは、トブの大森林、地下の大空洞の入り口だ。

 

「私にとって、この世界の最初のダンジョンと言えばここに当たるのだろうな。まあ、行くことは無かったが」

 

ナザリックから最も近いダンジョンと言えばここだった。

余計なところばかりゲームと同じだが、今回に限ってはありがたい。

 

「さて、世界中の民が見ていることだ。まずは派手な奴から行こう」

 

アインズの体を中心に魔法陣が浮かび上がる。

 

「超位魔法、天上の剣(ソード・オブ・ダモクレス)

 

天空から超巨大な剣が降ってくる。

それはトブの大森林、地下の大空洞の上部を吹き飛ばした。

 

「これで中継しやすくなったことだろう」

 

土煙が引いた後、現れたのは、信じがたいほどに巨大な蛇の体と蠢く触手の怪物、世界喰い<ワールドイーター>。

 

「こ、これが世界を喰らう怪物……」

 

ツアーの呟きには、怯えが混じっている。

これは八欲王など、比べ物にならない程の怪物だ。

 

不安そうなツアーを横目に、世界喰い<ワールドイーター>を見ているアインズは、今頃になって怒りが沸きあがってきた。

これまでは驚きが勝っていたが、落ち着くにつれ、怒りがこみ上げてくる。その対象は当然、糞運営だ。

 

「糞運営が。世界を喰らい尽くす怪物こそ、人間の欲望だって? どんだけ使い古された陳腐なテーマなんだよ。今日日、ゲーム制作者でそんなこと言う奴いねえよ。もう少し凝ったアイデア無かったのかよ。だから糞運営とか言われるんだよ。俺と子供たちで頑張って作った世界を壊しやがって。今回も壊すだと? ふざけるなよ! 絶対に許さん! 叩き潰してくれる!! 糞運営殺す!」

 

 

 

 

 

―エ・ランテル広場―

 

いつも温厚な魔導王が怒っている。

“くそうんえい”というのは良く分からないが、きっと悪い奴らなのだろう。

世界が終わるかもしれないというのに、エ・ランテルの市民の心は喜びに満ちていた。

 

魔導王は、自分と子供たちの国と言ったのだ。自分たちを自分の子供だと。

絶対的な超越者だと思っていた。

しかし、人と同じように怒り、笑うのだ。

自分たちの王は、何と愛に溢れた方だろう。

我ら魔導国の民は、神に愛された、神の子なのだ。

誰かが膝を折り、祈りを捧げる。

やがて、それは広場の、エ・ランテルの、そして世界の全てに広がっていく。

 

 

 

 

 

―トブの大森林―

 

「さて、お前たち、手筈通りに行くぞ」

 

「承知。一番槍、ツカマツル。≪能力向上≫≪能力超向上≫≪真・能力向上≫≪神・能力向上≫三毒ヲ切リ払エ、不動明王撃(アチャラナーダ)! 」

 

コキュートスの斬撃が世界喰い<ワールドイーター>の巨体を切り裂く。

複数の武技により、能力強化してある。相当なダメージになったことだろう。

 

「あれ? アインズ? 彼は武技を使えるのかい? 」

 

ユグドラシルのNPCは武技を使用できない筈だ。

 

「ああ、あれは私が始原の魔法で作ったアイテムによるものだ」

 

何でこいつが使えるんだよ?

 

「竜王国の女王いるだろ。前世であいつからタレントを貰った」

 

さらっと、なんてこと言いやがる。

 

「それと、あの刀、神刀・斬神刀皇。あれは相手の防御力を完全無効化する効果を持っている。それこそ紙だろうが、ヒヒイロカネだろうが一刀両断だ」

 

骸骨の顔だが、自分には分かる。良く分かる。そのドヤ顔止めろ。

 

 

 

 

 

―エ・ランテル兵舎―

 

「うおおおおおお!!!」

 

コキュートスの、自分たちの将軍たる武神の、本気の斬撃を初めて見る兵士たち。

既に、兵舎は興奮の坩堝だった。

 

「おう、ザリュース、ゼンベル」

「どうした、バザー? お前は祈らなくて良いのか?」

「馬鹿か? コキュートス将軍と魔導王陛下が一緒に戦場に立ってんだぞ。どうやったら負けられるんだよ? 」

「へへっ違いねえ」

「そうだな、あの方々が負ける筈がない」

「だろうよ、訓練でもするか? 」

「良いな」「よし、やるか」

 

訓練場では、剣戟の音が響き渡っていた。

 

 

 

 

 

―トブの大森林―

 

マーレの補助魔法とアウラのデバフが終わるまでは、シャルティアが壁役だ。

 

「さあ、かかってくるでありんす! 」

 

世界喰い<ワールドイーター>の複数の触手がシャルティアに襲い掛かる。

いくら神器級の装備とはいえ、ワールドエネミーの攻撃力は絶大だ。

一気に6割ほど体力を持っていかれる。

 

「アインズ、不味い、彼女に回復を」

 

ツアーが叫ぶが、アインズが取った行動は下位アンデッドの召喚だ。

 

「シャルティア! 」

 

言うや否や、アインズが呼び出したアンデッドはシャルティアの槍に貫かれた。

瞬間、シャルティアの体を光が包み込まれたと思ったら、完全に回復していた。

 

「は? 」

「ふふふ、あれが神槍・スポイトランスだ。回復能力に特化させてな、大体、レベル20以下位のモンスターを殴れば全快する程だ」

 

自慢気に話すアインズの顔がムカつく。だからそのドヤ顔止めろ。骸骨の表情が分かるようになった自分が悔しい。

 

 

 

 

 

―エイヴァーシャー大森林、エルフの国―

 

「シャルティア様!! 」

 

エルフたちの絶叫が響く。

深紅の鎧に身を包む戦乙女に、複数の触手が叩き付けられる。

 

「狼狽えるな! 」

 

クアイエッセが一喝する。

 

「お前たちの神を信じよ! あの程度で倒れるはずが無い! あのお方こそ、魔導王陛下の守護者最強、シャルティア・ブラッドフォールン様であらせられるぞ! 」

 

そうだ、自分たちの為に怒って下さった戦乙女を、自分たちが信じずして誰が信じるのか。

 

「我らに出来るのは信じることのみ。迷うな、我らの神に勝利以外の結果がある筈が無い!!」

「そうだ! シャルティア様を信じよ! 」「シャルティア様、勝利を! 」

 

エルフたちの応援が森林に木霊する。

 

 

 

 

 

―トブの大森林―

 

補助魔法をかけ終わったアルベドがシャルティアと交代する。

挑発スキルでヘイトを稼いだアルベドに、世界喰い<ワールドイーター>の触手が叩き付けられる。

それをパリィで悉く撃ち落とすアルベド。

 

「デミウルゴス! 」

 

アルベドの合図に合わせ、悍ましい悪魔の姿を開放したデミウルゴスのブレスが、世界喰い<ワールドイーター>の体を焼く。

焼け爛れた肌は、毒に侵され、さらに爛れていく。

 

 

 

 

 

―エ・ランテル広場―

 

広場に集まった女性たちから、大歓声が上がる。

エ・ランテルの女性の憧れ第一位を欲しいままにする美貌の宰相は、愛する夫を守る為の盾でもある。

アルベドの魔導王への愛と献身は、世の女性たちの憧れである。

あれ程の愛情を抱かせる殿方に、自分たちも巡り会いたい。

エ・ランテルの女性たちに護身術が流行するのは、この後である。

 

 

 

 

 

―聖王国南部―

 

二人の男女がベッドの上でシーツに身を包んで寛いでいる。

男は、女の腰にそっと手を回す。

 

「あんたは祈らなくて良いのかい? 」

 

女―八本指の幹部―ヒルマが気怠そうに男に振り替える。

 

「ふん、あの方々が勝てねえんならどうしようもねえよ。それに、あのバケモンが勝ったって、俺たちは死ぬ程度で済むだろ」

 

男、ゼロが答える。

 

「ふふ、そうだねえ。そうしたら、最期はあんたと一緒かい? もう少しいい男と一緒が良かったんだけどねえ」

「悪いな。まあ、俺らは運が悪かったんだろうよ」

 

あの怪物が世界を壊すのなら、運が良いのだろう。

魔皇の配下として生きるよりはずっと。

 

 

 

 

 

 

―トブの大森林―

 

竜人の姿を開放したセバスが、デミウルゴスと同時にブレスを吐く。

 

「やれやれ、折角、状態異常にしたというのに、焼いてしまっては元も子もありませんね」

 

こんな戦闘中に嫌味を言う余裕があるとは。全く、相変わらず嫌な奴だ。

 

「仕方ありませんな。では、失礼」

 

やはり、直接殴る方が自分には性にあっている。

数発殴った後、空中に飛び上がる。高く、高く。

頂点に達した後、一気に加速しながら蹴りを放つ。

さながら、一本の矢であるかの如く、それは、一条の閃光へ。

 

 

 

 

 

 

―リ・エスティーゼ王国―

 

姿が変わっていても、愛しい男を見間違えるはずが無い。

自分の目に映る竜人こそがセバスだ。

 

「頑張れ、セバス様」

 

法国の連中は、セバスたちのことを魔導王の従属神だと言っていた。

確かに、セバスは人間としては強すぎる。

だが、それが何だというのか、彼が愛する男であることは変わりがない。

自分が彼を愛していることだけは間違いない。

 

男は船、女は港という。

ならば自分は彼が帰る港になろう。

差し当たっては、ラキュースに料理でも習うとしよう。

戦士ガガーランの、新たな戦いがこれから始まる。

 

 

 

 

 

 

―トブの大森林―

 

「影縫い! 」

 

「え、え~い」

 

アウラの支援に合わせて、マーレの魔法が炸裂する。

大地がひび割れ、世界喰い<ワールドイーター>の巨体の一部が地中に埋まる。

アウラとマーレの役目は、主に前衛の支援だ。

息の合ったコンビネーションが出来る彼ら二人は、この手の仕事にピッタリだ。

補助魔法や敵の弱体化スキルの有無は、ボス戦では生命線と言っても過言ではない。

 

 

 

 

 

 

―リ・エスティーゼ王国―

 

「アウラ様、頑張れ」「マーレ様、頑張れ」

 

青の薔薇の双子、ティアとティナはじっと戦局を眺めている。

戦闘では自分たちも補助に回ることが多い為、闇妖精の双子の役割の重要性は良く理解している。

現状、戦局は優勢だが、双子のどちらかが倒れれば、一気に逆転されることもあり得る。

世界喰い<ワールドイーター>の攻撃は強力だ。

自分たちには、ただ祈ることしか出来ない。

きっと勝ってくれる筈だ。そう信じて双子の祈りは続く。

 

 

 

 

 

 

―トブの大森林―

 

「さあ私たちも行くとしようか」

「やれやれ、やっと出番か、僕が先に行くよ? 」

 

元々この世界の魔法は、真なる竜王だけが使える始原の魔法だけだった。

現代の竜王たちは位階魔法を使うが、それではこの世界の最強種、真なる竜王には届かない。

 

世界喰い<ワールドイーター>の巨体を閃光が包んだと思った瞬間、大爆発が巻き起こる。

ワールドエネミーは、例外無く高い耐性が付与されている。

通常の攻撃魔法は、有効なものですら、ほぼ全て効果が半減する。

しかし、始原の魔法だけは例外なのだ。

この魔法はユグドラシルのそれとは理が異なるため、ユグドラシルの耐性は効果が無い。

超位魔法に匹敵する威力を全く低減できないとなると、そのダメージは計り知れない。

 

「ふふ、流石の威力だな。私も実際にあれを喰らったときは驚いたものだ」

 

前世での懐かしい戦いを思い出し、笑みがこぼれる。

 

魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)現断(リアリティ・スラッシュ)

 

先ほどのコキュートスの一撃にも勝る、空間を切断する刃を三重化して放つ。

 

「オオオオオオオオオオ」

 

世界喰い<ワールドイーター>が咆哮を上げる。

かなりのダメージを負わせたようだ。

 

「さて、そろそろ始まるな」

 

世界喰い<ワールドイーター>の特殊能力、その名もワールドイーター。

己の名前を持つ、そのモンスターを象徴するスキル。

それは広範囲に無属性のダメージを与え、その力を吸収し、自身を強化していくスキルだ。

それだけ聞くと、大したことが無いように聞こえるかもしれないが、強化具合が酷く、しかも重ねがけが可能。

使い続けると、無限に攻撃力と防御力が強化されていくという壊れスキルだ。

 

「アルベド! 使え! 」

 

アインズは予定通り、アルベドに指示を出す。

聞こえると同時に、アルベドはスキルを発動させる。

全ての攻撃を一身に受ける身代わり系のスキルと、受けたダメージを鎧に移すスキルを。

 

アインズの予定通り、アルベドの鎧、第一層が破壊される。

 

「一回目は凌いだか。さて、これからだな。お前たち、奴のHPを見誤るなよ」

 

ゲームのボスキャラというものは、特にラスボスや隠しボスには、発狂モードというものがある。

世界喰い<ワールドイーター>の場合は、残りHPが約20%を切ったあたりでワールドイーターを連発してくるようになる。

その前にかたを付けなければならない。

 

 

 

 

 

 

―帝都アーウィンタール、帝城の一室―

 

「もう、どうでも良いか。うん、諦めた」

 

最近、めっきり薄くなった頭を掻きながら、どこか清々しい表情でジルクニフは呟いた。

 

「まあ、そうですね。ありゃあ、無理ですわ。」

 

どこか遠い地で起きている神話の戦いを目に、バジウッドも同意する。

こんな連中と戦おうと思うことが間違いだ。

そもそも、あのいかにも悪魔という悍ましい姿、あれが魔皇ヤルダバオトの本当の姿だろう。

あんなものの手を取るくらいなら、まだ骸骨の手を取った方がマシだろう。多分。

 

「バジウッド、あれ、あの魔導国の酒を持って来い。飲むぞ、付き合え」

「了解です、陛下。酒の肴には、これはちょいと刺激が強そうですがね」

 

グラスに酒を並々と注ぎ、乾杯する。

神話の戦いも、劇場か何かだと思えば、悪くない。

 

 

 

 

 

 

―旧スレイン法国神都―

 

「あれは、白金の竜王」

「まさか、あの竜王が、プレイヤーと共闘するときが来るとはな」

 

神官長たちは皆、驚きを隠せない。

 

「うわ、あれ、全部私より強いじゃない」

 

ハーフエルフの少女が、淡々と感想を口にする。

もう彼女を縛るものは無い。

魔導王の統治の下、ようやく彼女の時間が動き出す。

とりあえずは、魔導国の首都に行こう。

あの強者たちと会えるのが楽しみだ。

年相応の、少女らしい笑みを浮かべ、彼らと戦うことを夢見る。

 

「まあ、大人しく出来るとは思わんが、街中で戦いを挑んだりするんじゃないぞ?」

 

本当は自分達神官長よりも年上なのだが、その姿からどうしても子ども扱いしてしまう。

 

「大丈夫ですよ。私も付いていきますから」

「ノワール、貴方も来るの? 」

「勿論、私と行けば、魔導王陛下に謁見が叶うかもしれませんよ?」

「じゃあ、一緒に行こう」

 

現金なものだ。だが、彼女はずっと、この神殿と戦場しか知らなかった。

これからは、それ以外の楽しみも見付けて欲しいものだ。

今戦っている神々が作る世界なら、きっとそれが叶うだろう。

 

 

 

 

 

 

―トブの大森林―

 

「お前たち、下がれ」

 

アインズの合図で一斉に攻撃を中止する。

世界喰い<ワールドイーター>のHPが30%を切った。

隠しボスの発狂モードは、一気呵成の攻撃で飛ばしてしまうのが一番だ。

要するに、ここからの攻撃で一気にかたをつけるのだ。

 

虚空からスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを取り出す。

ユグドラシルで仲間たちと作り上げた至高の武器。

そして、前世でカロリックストーンを使いまくって強化しまくった、神器級でありながら、ワールドアイテムを超えるギルド武器。

正直、今のアインズなら、一対一でも世界喰い<ワールドイーター>を斃すことは可能だろう。

 

アインズがそうしなかった理由は、酷く単純だ。

彼は、前世で強化した守護者達のアイテムが振るわれる様を見たかったのだ。

強化するだけ強化して、結局、振るうことが無かった武器たち。

今世では、遂にそれを使うに足る敵が現れたのだ。

 

金色の杖を握ると、自身の能力が強化されていく。

圧倒的な力に、大気が震えていると錯覚するほどだ。

 

 

「世界を喰らうものよ。欲望の権化よ。欲というものは、生者が生きるために必要な、生命が持つ輝きだ。しかし、全てを喰らい、やがて己自身すらも喰らうような欲望は、その輝きを持たない。世界喰いよ、決して埋まることのない飢餓に支配された、哀れな存在よ。これがお前に与えてやれる唯一の慈悲であると知れ」

 

 

 

 

 

 

―世界中の都市で―

 

神の声が世界中の空に響き渡る。

あの、世界を喰らおうとする怪物ですら、慈悲の心を持って救おうというのか。

至高の神の、その慈悲の心は、何と偉大であることか。

この後、アインズの言葉は一冊の本に纏められ、長く語られることになる。

 

 

 

 

 

 

―トブの大森林―

 

「(決まった。ラスボスへの止めの前には中二全開の口上。そうですよね、ウルベルトさん!)」

 

心の中のウルベルトが満面の笑顔でサムズアップしている。良かった、どうやら合格のようだ。

 

「さあ、止めと行こう!」

 

アインズが運営に感謝することがあるとすれば、これから使うスキルがユグドラシルで実装されなかったことだ。

こんなスキル、どう考えても誰も耐えられない。

 

世界崩壊(ジ・エンド)

 

超位魔法のようにアインズの周囲に魔法陣が展開される。

だが、超位魔法とは異なり、それはドンドンと重なり、大きく広がっていく。

やがて、天まで覆い尽くすほどの魔法陣が展開されたとき、それは発動した。

 

大災厄(グランド・カタストロフ)以上の威力の8種の属性による8回攻撃。

その全てが耐性を貫通する上、一発毎に凶悪なデバフと耐性貫通の状態異常を付与するという壊れスキル。

効果範囲は敵一体から世界全てを覆うまで自由自在。

恐らくは、単純に効果範囲が設定されていなかったせいだろうが。

どこの馬鹿がこんなもの考えたのか、全く。

恐らくは、実装する前にサービスが終了してしまったということだろう。

いや、こんなふざけたスキルを作る時点でやっぱり運営は糞だと言えるだろう。

 

 

 

超高威力の、まさに世界を崩壊せしめるに足る驚異の魔法が終わった時、世界喰い<ワールドイーター>は消滅し、後には一つの指輪と剣が残されていた。

アインズが拾い上げたそれは、世界級アイテム、永劫の蛇の指輪(ウロボロス)世界意思(ワールドセイヴァー)

 

 

戦利品を手に入れた魔導王は、力強く両腕を上げ、雄叫びを上げる。

勝利を世界に宣言するように。

この瞬間、世界は歓喜の声に揺れた。

 

 

「うおおおおおお!! (うわ、ワールドアイテムじゃん! しかも二つも。マジか、やったぜ! おっと、思わずガッツポーズしてしまった。神様に相応しくないかもしれないが、まあ勝ったし、良いだろう)」

「ふう、勝ったね、アインズ」

「ふふ、当然だ。ツアー、これから楽しくなるぞ」

 

嫌な予感がする。

この骸骨と出会ってから、この予感は外れたことが無い。

 

「恐らく、フレーバーテキストなどの、何かしらの条件を満たしたなら、この世界にもワールドエネミーが出現するようだな」

「それが何なんだい?」

 

嫌だ、聞きたくない。

 

「決まっているだろう? これからワールドエネミーの探索を始めるんだ。こんな奴らが他にも出てきたらどうするつもりだ? 殺られる前に準備を整えて殺るべきだろう? 」

 

やっぱりそうだった。

 

「それに、ワールドエネミーを倒したら、大体ワールドアイテムが手に入ると相場は決まっているんだ。ふふふ、楽しくなってきたぞ。誰も手に入れることが出来なかったアイテムを入手出来るかもしれん。いや、全てのワールドアイテムを入手することも夢ではない」

「……君はドラゴンに生まれるべきだったと思うよ。本当に」

 

この骸骨に振り回される日々が目に浮かぶようだ。

まあ、それも退屈な日々の繰り返しだった頃よりは刺激的で、きっと楽しいのかもしれない。

 

「さあ帰ろうか、アインズ」

「そうだな、皆もこのイベントを楽しんでくれたことだろう」

 

エ・ランテルに帰ったアインズを待っていたのは、アインズへの狂信者で溢れる世界だということを、彼はまだ知らない。

 

 




開発者A「ラスボスの設定どうしましょうかね?」

開発者B「ん? 人間の魂とか、欲望の具現化とかで良いんじゃね?」

開発者A「いや、ベタ過ぎるでしょ? もうちょっと捻りましょうよ」

開発者B「大丈夫だって。ストーリーなんておまけみたいなもんなんだから。王道だよ、王道。」

開発者A「まあ、マスターアップまで時間無いし、それでいきますか」

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