強くてニューゲーム   作:トモちゃん
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エピローグのちょっと前のお話


番外編 ガゼフ・ストロノーフ

―魔導国首都エ・ランテル―

 

元王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフの朝は早い。

朝日が昇る前には朝食を済ませ、訓練場に入る。

今日も一番乗りだ。

 

「おはよう、ハムスケ殿」

 

すっかり馴染みとなった白銀の魔獣に声をかける。訓練場脇の馬房が彼女の寝床だ。

どうやら、まだ眠っていたようだ。

 

「んむうぅ、ガゼフ殿でござるか。もう朝でござるか。今日も頑張るでござるよ」

 

ハムスケは魔導王のペットであるが、現在はガゼフの騎獣として働いている。

何でも、馬の代わりに魔獣を使用した部隊の設立を検討中らしく、そのテストケースだという。

足場の悪い森や岩場に強い魔獣を騎獣に出来れば、その機動力は戦局を左右する程になるだろう。

最近では、騎乗した状態での戦闘が、ガゼフの訓練の中心となっていた。

 

「ああ、いつも通り、皆が来るまでの間、訓練に付き合ってくれるか?」

「勿論でござるよ、それでは行くでござる」

「済まんな、一対一の訓練もしておかねば腕が鈍るのでな」

 

一人と一匹は早朝のこの時間、毎日のように模擬戦を行っていた。

ハムスケにとっては、戦士としての技量に長けたガゼフは格好の練習相手であったし、ガゼフにとっても、自分より強い相手との練習は刺激であった。

何より、この魔獣は素直で真っ直ぐで気持ちが良い。

いや、この訓練場で共に汗を流す仲間たちは―その殆どが亜人であるが―皆、気の良い連中だ。

そして皆、例外なく強い。

王国にいる間は、自分と互角に戦えるものがこれ程沢山いるとは思ってもいなかった。

世界というものは本当に広い。

 

 

「あ~、やっぱりガゼフが一番乗りか、畜生」

「だから言っただろうがゼンベル、もっと早く起きろって。大体、いつも夜、飲み過ぎなんだよ」

 

リザードマンの二人組もやってきた。

そろそろ、ヴィジャーやバザーといった亜人の強者たちも来る頃だろう。

 

「今日の指導担当はセバス様だったな」

「おう、今日こそ一発当ててみせるぜ」

 

セバスと同じモンクであるゼンベルが気合を入れる。

仮に当てたとしても、ダメージを与えられるかどうかは別問題だが。

さあ、そろそろ本番の訓練が始まる頃だ。

 

 

 

 

 

―エ・ランテル兵舎、食堂―

 

「……疲れた。そして全身痛え。全身隈なく痛え。痛くねえところがねえ」

「うるせえぞゼンベル。痛くねえ奴なんかいねえんだ。ルプスレギナ様がもう少しで来られるだろ。それまで黙ってろ」

「いつも思うんだが、俺たち、良く生きてるよな」

「本当に死なないギリギリを狙ってるな、あの方々は」

「ああ、竜王国での戦争が懐かしい…」

「戦争より厳しい訓練ってどういうことだよ」

「俺は竜王国では出番が無かったからな。今度は使ってもらえるように頑張らんとな」

 

リザードマンの二人、バフォルクのバザーとガゼフは(地獄の)訓練終了後の食事を楽しんだ後、いつも通り雑談していた。

 

「お前ら、回復してもらうの忘れるなよ。んじゃ、俺は神殿寄ってから先に帰るぜ」

「おうお疲れ。家族サービス頑張れよ。嫁さんと子供が沢山だと大変だな」

「ザリュース、お前も他人事じゃなくなるんだろうが。聞いたぞ、もうすぐ生まれるんだって?」

「何だ、知ってたのかバザー。まあ、もうちょっと先だけどな」

「え? 何だと? 俺聞いてねえぞ」

「いやゼンベル、何でお前が知らないんだ?」

「言ってないからな」

「言えよ!」

 

 

いつも通り、仲間たちとの他愛ない雑談を交わしながら、ガゼフはかつてのライバルに思いを馳せる。

ブレイン・アングラウス、御前試合で戦った最高のライバル。

その男が、盗賊団の用心棒として、討伐されたと聞いた時には、言い知れぬ気持ちになったものだ。

もし、道を間違えなければ、この場にいたかもしれないというのに。

 

「さて、俺も行くとするかな。じゃあまた明日な」

「おう、お疲れさん」「また明日な」

 

 

 

 

リザードマンたちと別れ、街に繰り出す。

向かう先は墓地。

途中で花を買って、ブレインの墓参りだ。

 

「よう、来たぞ」

 

投げるように花束を捧げ、誰もいない墓に向かって話しかける。

 

「馬鹿野郎が。真っ当に生きてりゃあ、もっと強くなれただろうに」

 

誰よりも強くなることに熱心だったからこそ、手段を選ぶ余裕が持てなかったのだろうか。

もしそうなら、彼を追い詰めたのは自分ではないだろうか。

 

「人生とは、自分が思う通りには生きられないものだな」

 

突然、後ろから声をかけられた。

振り返ると、この国の絶対支配者が立っていた。

 

「魔導王陛下、何故このようなところにお一人で?」

 

ガゼフが跪く。

 

「ん? ああ、王城から、ちょうど墓地が見えるようになっていてな。偶々お前の姿が目についたのでな」

「そうでしたか。しかし、供も無しとは感心しませんな。アルベド様に連絡しておかなくては」

「ははは、勘弁してくれ、ガゼフ。王様にだって、偶には息抜きも必要だろう?」

 

この王は、時々悪戯っ子のような顔を見せることがある。

 

「ガゼフ、お前がブレイン・アングラウスのことを気に病むのは分かる。だがな、それは彼の人生を侮辱するようなものだ」

「侮辱ですか?」

「そうだ。彼は強くなるために手段を選ばなかった。もし誘われれば八本指にも行っただろう」

「……そうかもしれません」

「ひょっとすると、そのことを死の間際に後悔したかもしれん。しかし、それは彼が自分の意志で選択したことだ」

 

確かに、強くなるために手段を選ばなかったのはブレイン本人だ。

 

「それが間違った選択だとしても、今となっては、お前が介入する余地は無い。彼の意志や人生を否定する権利もな」

「ええ、分かっています。ただ、最後に彼と、ブレインともう一度戦いたかったのです」

「ふむ、戦ってみるか? いや、そうだな、今度はお前が正しい道へ導いて見せろ」

「は? しかし、ブレインは罪人です。魔導国の法では、死罪になったものの復活はご法度では?」

「復活はな。だが、次の生を生きることは禁じてはいないぞ?」

 

魔導王が手を振ると、魔導王を中心に魔法陣が展開される。

魔導王だけが使える、神の魔法だ。

 

転生(リーンカーネーション)

 

魔法陣が砕け散ると同時に、ブレインの墓が光に包まれる。

 

「魔導王陛下、今の魔法は一体?」

「ん? ああ、転生の秘術だ。ブレイン・アングラウスは、遠からず生まれ変わることだろう」

「生まれ…変わり…」

「ああ、新しく生まれてくるブレインを、真っ当な道に戻してやるが良い。彼は罪人だからな、記憶を継がせることは出来んが、お前ならすぐに分かるだろう。エ・ランテル生まれに限定したからな。ここ数日中に生まれる人間の子だ」

「へ、陛下」

「人生とはままならんものだな。私も、今でも後悔していることがいくつもある。最も大きなものは、ずっと昔のことだが、我儘を言ったことと、我儘を言えなかったことだな」

 

偉大なる超越者でも、後悔することがあるのだろうか。

ただ、ガゼフを慰める為だけの言葉ではないだろう。

先ほどの言葉には、それだけの実感が籠っていた。

 

「守護者達との訓練で気を抜くなよ。油断すると簡単に死ぬぞ」

 

魔導王はそのまま踵を返し、転移の魔法で帰っていった。

訓練に身が入っていなかったことを気にかけてくれたのだろう。

やはり、この方こそ魔導国の、いや、世界を総べるべき至高の王だ。

 

ガゼフは再び逢えるであろうライバルを想う。

今度は殴ってでも、真っ直ぐな道を共に進むのだと。

 

 

 

 

 

―アインズの執務室―

 

豪奢な椅子にもたれ掛かりながらアインズは考える。

最近、ガゼフの元気がないと聞いていたが、討伐された友人のことを気に病んでいたとは。

ブレインを転生させたのは、ガゼフやブレインの為というだけではない。

次の生を歩むことが出来る、転生の秘術のことを知らしめるためだ。

 

この魔法は、別の種族に転生できるが、転生先は選べないという唯のネタ魔法だ。

取得できる数が限られている超位魔法の中から、こんなものを選択する物好きは、まずいないだろう。

ユグドラシルでは、一部のガチ勢が転生ガチャを繰り返し、理想のビルドを検証していたらしいが。

 

この世界では仕様が変わり、望んだ種族、性別に転生が可能だ。

記憶を引継いだまま、第二の人生を歩むことが出来るのだから、今のアインズ同様、二周目無双も夢ではない。

同じ姿になるよう転生することも可能なので、魔導国に貢献した者には、恩賞として与えることも検討している。

前世では、アインズが気に入った人間で永遠の命を望む者は殆どいなかったが、二周目ならいけるのではないかと考えた結果だ。

大体、リアルの頃を含め、アインズは今回で人生三度目だ。

誰か、一度くらいは付き合ってくれても罰は当たらないだろう。

 

何にしても、これでガゼフの胸のつかえも取れたことだろう。

聖王国での戦争が間近なのだ。

人間の戦士代表として、気合を入れ直してもらわなければ。

その為に、態々ハムスケを騎獣として貸し出しているのだ。

人間の中にも強者がいると知らしめなければ、人間に対する差別などが生まれかねない。

 

アインズは、勝手に人類の将来をガゼフに押し付け、ツアーと共にどこを冒険しようかとか考えていた。

 

 

 

 

 

―エ・ランテル兵舎―

 

「うおおおおお!」

 

今日のガゼフは絶好調だ。

昨日までの悩みが吹き飛び、もはや迷いはない。

 

「おいヴィジャー! お前ハムスケの足を止めろ」

「ふざけんなバザー! 止まるかあんなもん。それより鐙だ、鐙を狙え」

「そっちこそふざけんな! 狙えるわけねえだろ」

「お前ら、ハムスケ来るぞ」

「げッ」「ちょ、待て」

 

「行くでござるよおおおお!」

「六光連斬!」

 

亜人の強者二人を相手に圧倒する一人と一匹。

いや、今日は正に人獣一体という程に息があっている。

 

 

「お~、ガゼフ達絶好調だな。あ、バザー轢かれた。だからハムスケ相手に足止めんなっつってんのに」

「言ってる場合か! やばいな、ありゃ。おいゼンベル! 気合入れろよ!」

「任しとけ! 良し、行くぜ!」

 

この後、聖王国の内戦において、元王国戦士長は大きな武勲を上げ、人間種の地位向上に大きく貢献することになる。

 

一人の少年を熱心に指導するガゼフの姿が見られるようになるのは、さらにその数年後である。

 




ハムスケ「と~の~。某、オリジナルの武技を身に着けたでござるよ」

アインズ「ほう、でかしたぞハムスケ。で? 何という武技だ?」

ハムスケ「<轢逃げアタック>でござる」

ガゼフ「ハムスケ殿と二人で考えました」

アインズ「そ、そうか……その、分かりやすい技名だな、うん。」

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