転生者迷走録(仮)   作:ARUM

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第四十二話 輝く

「どうもお久しぶりです、中佐殿。一日千秋の思いでお待ちしておりました。ええ、お待ちしておりましたとも」

「お、おおぅ」

「ささ、どうぞどうぞ。お好きな物を手に取ってご覧になってください。地上と言うことで幾らか絞り込みましたが、ザクⅠ初期改修の時と同じ程度の量は揃えました」

「なんたるデジャビュ。というか余計なことを」

 

無事の再会は喜ばしいことであるはずなのだが、それを阻むのもまた彼女だ。

 眼前の台車に山と積まれたファイルに辟易してしまう。顔も引きつっているだろう。

 せめて少し間を開けてくれたなら、素直に喜べた物をどうしてこう……いや言うまい。

 

 工作艦であるという方のザンジバルの格納庫で冬彦とフランシェスカを待っていたのは、かつて仕事を共にしたエイミー・フラット伍長だった。

例の如く、見てくれはさして変わっていない。ノンフレームの眼鏡に、緑の髪を後頭部でまとめるバレッタもそのままで、強いて言うなら、以前は軍服の上に羽織っていたつなぎをきっちり襟の所まで止めていることくらいか。

初めての乗機であったザクⅠに改装を行ったのがもう数年から前のこととは、時の流れは早い物だと実感させられる。

 このまま、何ごとも無く終戦まであと数ヶ月、辿り着ければ良いのだが。

 

「ご心配なく。そのための台車ですので。ヘリに積んでおきますから後でゆっくりとご覧になってください。ちなみに新型のザクヘッドも持ってきていますよ」

 

 ああ、そうですか。きっと知らない内に換装は済んでいるんでしょうね。

 

「見ますか? すぐに出せますよ。今回のはメインカメラにヴィーゼ教授が手を入れた傑作です」

「……元気そうで何より。伍長。あと今はいい」

「それは残念。あ、私、生憎昇進しまして。今は曹長です」

「そいつはおめでとう」

 

曹長と言うと、二つ階級が上がったらしい。

そういや自分も出世したなぁ、と何となく感慨にふけっていると、ガデムが咳払いを一つ。

 

「曹長。それよりもとっとと例のコンテナの所へ案内してくれ。旧交を温めるならその後でもできる」

「おっと、失礼しました。何せ中佐殿と離れて以来、心躍るような派手な仕事が中々無い物で」

「それは、喜ぶべきなのかな?」

「中佐……」

 

それではと、エイミーは眼鏡の位置を直して、身振り手振りでついてくるよう促した。安全靴を履いているのか、後に続く三人よりも重い足音がする。

 

 件のコンテナとやらは、どうやら工作艦の奥まった所に置いてあるらしい。

 遠目には既に見えてはいるのだ。おそらくは“それこそ”がそうなのであろう、緑のシートがかぶせられた、見た限りは立方体の大きなコンテナ。それが横に三つ、並べられている。

 しかし、見えているとは言ってもこのザンジバル級を改装したと思われる工作艦は通常の物より胴が幾らか長い。更に工作艦という性質からか、格納庫が随分と広い。ちなみに、ザンジバルの全長は三百メートルを超える。

 おかげで、格納庫の端にあるそのコンテナまで歩くだけでも、重力下においてはちょっとした運動になる。

 

「おっ」

「どうしました? ……ああ、それですか」

 

 格納庫の端を目指して歩く冬彦だが珍しい物を見つけて立ち止まる。

 ザクに比べると、ショルダーアーマーのスパイクやら脚部やら、鋭角的なデザインが目に付くMS。いわゆる新型である、グフ。

 いつだったか正確には覚えていないが、ルウム会戦後に病院であったゲラート少佐との会話が反映されたのかどうなのか手に持つ武装としてのヒートロッドは無くなり、ワイヤータイプの物が右腕に装備されている。

 しかし残念というか、結局左手はフィンガーバルカンになっている。残念。

 

「これ、技術屋としてはどうなのかね。実際」

「悪くは無いですよ。事実、スペック上はザクより強いです。出力がある分、機動力もありますし装甲も厚い。ただ……」

「ただ、何だ」

「私見ですが、ごく少数の生産に留め置くべきでした。少なくとも、わざわざザクと並行して生産ラインを確保しないといけないようなスペックはないです」

 

 冬彦の隣に立ち同じように見上げるエイミーの答えは、少し意外な物だった。

グフは人にもよるのだが、余り評判が良くない。史実において一部のエースパイロットがカスタム機を駆ってそれこそ化け物じみた活躍を見せた一方で、それ以前の初期のグフが装備面で問題があったり、そもそも重力下における格闘戦用というコンセプトに疑問が投げかけられることも少なくないのだ。

 奇襲戦や乱戦ではその強さを発揮するだろうが、少なくともグフに置いてはその分射撃武器が犠牲になっている。それなりの数が造られる予定のグフだが、全てがそういった想定したとおりのある意味恵まれた環境で戦える訳ではないだろう。

 遠巻きに砲撃されたらどうするのか? 黙って耐えて近づいてくるのを待つのか、一気に急接近して行くか、それとも貧弱なフィンガーバルカンで対応するか。

 

 詰まるところ、格闘戦のできるMSは必要ではあったのだろうが、グフである必要があったのか、格闘専用機ではなく格闘のできる汎用機の方が良いのじゃないか、という問題なのだ。

ザクのガワをそのままにアップバージョンするか、そうでないなら極々一部への、それこそイフリートやケンプファーのような少数生産と供給ではいけなかったのか、という問題でもある。

ガデムにしても、つい先ほど冬彦にしばらくはザク(Ⅰ)に乗ると言っていたくらいであるし。

 

 後々にも、グフの直系と言えるような格闘戦用というコンセプトを持つMSは結構な数が開発される。宇宙で戦える物も現れる。

しかし結局、そういったMSの中に大々的に量産された物が存在しないというのが、きっとこの問題の答えだろう。

 やはりワンオフ機でもない限りは、格闘戦用機を造るより格闘もできる汎用機を目指すほうが大局的には安上がりになるはずなのだ。

 

「そうか……この機体、どうなるんだ? ガデム大尉は乗らんのだろう?」

「予備機扱いですね。中佐殿が乗りますか? 頭部パーツつけますよ」

「いらんし乗らん」

「あの、じゃあ私が」

 

「フランシェスカ中尉、本気か?」

「え?」

 

 

 

 

 

「で、これがそうか」

「ええ、そうです。我々開発局の者は元より、艦内の誰も中身を知りません。もし爆発物だったりしたら一蓮托生になります」

「縁起でも無いことを言ってないで、良いから早く開けてくれ」

 

 間近まで来ると、見上げるような大きさになる。人の背丈は軽く超え、いや四メートル以上はあるか。なお近づいてわかったが、立方体ではなくトラックの荷台にあるような大型のコンテナだ。

 

「あ、それはできません」

「ん? え、これまさか開けられないのか?」

「はい。私には開ける権限がないので出来るのはシートを捲るとこまでです」

「……紛らわしいこと言わんでくれ。で、どうすれば開くんだ?」

「ナンバーロックがあるので、そこに中佐殿のパスを打ち込めば開きます。少し待ってください、シートを上まで捲るのに脚立が……」

 

 エイミーが目当ての物を探してきょろきょろと周りを見渡す。まだ、勝手知ったるとはいかないらしい。

 だがそれよりも、冬彦には気になることがあった。

 

「……俺のパスって?」

「え」

 

 

 

「×××―×××―××××……と、これでどうだ?」

「……当たりのようです」

 

 かこかこかこ、と、端末にずらりと表示された数字の最後の一字を打ち込んでエンターを押すと、電子音が響いた。

 パスは、ガデムから渡されたのメモリーディスクの中身であるファイルの一つに入っていた。

 最初は気まずい沈黙が流れたが、フランシェスカがディスクのことを思い出し、端末に入れてみたところ、ビンゴだった。

ファイルの一つが、その名もずばりロックナンバー。中身の文章データは、0から9までの数字が数十連なった数列で、貨物コンテナの電子ロックにしては随分長い。

 それだけ重要なものが入っているのだろうが、中身を知らずに開ける側としては戦々恐々である。世の中に、知らない方が良い知識というのは山ほどある。コンテナの中身がそれでない、というのは、楽観すぎるだろうか。

 

「さて、ご開帳だ」

 

 壁の一面が少しせり出した後、上の方へと開いていく。中は、意外なことに何かが詰め込まれていると言うわけでは無く、まるで部屋のようだった。

光が差し込み照らし出されたコンテナの中は、銀行の金庫室のようなしつらえで、横から見ても奥行きのある巨大な棚には一面引き出しがついている。

 

「……これは、一体何でしょうか?」

「さて、とりあえず爆弾の類では無さそうだが」

「気をつけてください。何でしたら、私が引き出しを」

「いい。もしかすると、機密書類の類かもしれないし」

 

 コンテナの中に入り引き出しに手をかける間もフランシェスカは冬彦の後に続くが、エイミーはコンテナの外にいる。

冬彦は知らないことだが、開発局の人間は常に前へ出てくるようで、本当はいつもどこか一歩引いている。彼らなりに、自分達の立ち位置には思うところがあるのだ。

 

 そんなことは露知らず、冬彦は手近な引き出しの一つを開けた。横が三十センチ、縦が十五センチほどの、奥行きのある引き出し。それが何の抵抗もなく、すっと手前へと引き出され、その中身が冬彦の前に現れる。

 

 だが冬彦は、すぐに引き出しを黙って閉めた。

 

「中佐殿、中身は何でしたか?」

「…………」

「中佐殿?」

 

 冬彦はエイミーには答えず、後ろにいて、同じ物を見たであろうフランシェスカと視線を交わす。

 視線が何を意味するか察するのはそう難しくない。見たか、と。フランシェスカは、目を丸くしながらも、確かに頷いた。

 

 もう一度、今度は違う引き出しを開ける。まずは隣を、次にその下を。遠くの物を開けたり、反対側の棚物も開けてみたり。

 どの引き出しを開けても、やはり――

 

「……同じだ」

「まさか、これが全部ですか……!?」

「すいません中佐殿。放っておかないでもらえるとありがたいのですが」

 

 自分をほったらかして真剣な表情になっている二人に、エイミーは声をかける。

 二人はしばし見つめ合い、それから少しして冬彦が黙って手招きした。入ってこいということなのだろう。

 

「……大きな声を上げないように」

 

 エイミーが入ってくると、冬彦は引き出しの一つを開ける。

 それまで開けた物に例外が無かったように、この引き出しにも同じ物が入っていた。

 

「……これは!」

 

 黒いクッション材の間に収まった、四角い棒状の金属。

 黒に引き立てられ、輝く金。

黄金の、インゴット。

 

 

 

 

 

 

◆オマケ:ギリギリまでやろうかやるまいか悩んで結局やめた没ネタ◆

 

「さて、ご開帳だ」

 

 壁の一面が少しせり出した後、上の方へと開いていく。中は、意外なことに何かが詰め込まれていると言うわけでは無く、まるで部屋のようだった。

 

 目を引くのは、コンテナの中を埋め尽くす機械群とその中央に安置されたカプセル。

 その蓋が、コンテナが開放されたのと連動して、誰が触れたわけでもないのに勝手に開いていく。

 

 少女、少女だ。白い髪、白い肌。未成熟の肢体。人によっては幼女とも言えるような幼い少女が、カプセルに身を預けたまま、黒の瞳でじっと冬彦の方を見ている。

 

「フユヒコ・ヒダカ中佐ですか」

「あ、はい」

「ソロモンNT研究所より派遣されました、検体№5です。よしなに、マスター」

 

 

 

 




オマケについては、そういやロリわくいないなと思って突発的に書きました。
グフについては、某所のSSでガルマ様が言ってたことが大体当てはまります。ただ、私はあれに完全に同意するわけではありませんが。

……重装型? ノーコメントです。

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