ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり 未踏査地区編   作:ロートシルト男爵

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序章

ファルマート大陸東部、碧海沿岸。

アヴァロン王国王宮。

 

 

 

アルヌス式の六陵郭の城壁に守られた王都の中心に聳える王宮——現国王ヴェルモットが住まう大理石の宮殿。

宮殿正門から続く、インドのタージマハル庭園に似た四分庭園を進んでゆくのは複数のOD色の車両——陸上自衛隊の高機動車。

そしてその車列に随伴するのは最新式の迷彩服4型を身につけ、89式小銃を「担え銃」で担ぐ無数の自衛官達の縦隊。

総数約1個中隊。

彼らの顔や身体、銃剣は所々返り血に染まっており、小銃の消炎制御退器(フラッシュハイダー)にもまた鉛色の発射ガスがこびり付いていることから、彼らが城門の近衛達を打ち倒してここに押し入ったことが容易にうかがえるだろう。

アヴァロン王国——大陸東部、旧帝国植民地に勃興した王国。

数年前アルヌスの丘に出現した『門』より現れた自衛隊との戦いで帝国は6割もの兵力を失い、帝国属国、周辺諸侯陵から大規模な兵力の招集がなされた。

このアヴァロンの地も例外ではなく、帝国植民地駐屯軍の殆どが帝都へと徴集された。

その後、帝国の軛から解放されたこの地にて内戦が勃発。

現国王ヴェルモットを筆頭とし、貴族からなる王党派、そして平民議員らからなる共和派の争いは数ヶ月続き、その内戦の最中、突如現れた通称「緑の人」——自衛隊が王党派に加担したことにより、この国は王政となり繁栄を極めていた。

自衛隊は現地住民、亜人種、果ては共和派の捕虜達をも丁重に扱い、奴隷制など古くからの因習を禁止し、王宮の周りに城下町を作り、新興王国を滅ぼさんとする周辺諸国や帝国軍の襲撃を悉くはね返し、この国に恒久の平和を齎した。

見返りといえば多少の金銀、石油や硝石、鉄、作物や家畜などの食糧ばかりで、掠奪もせず女も買わない。

故に彼ら自衛隊は現地住民らから奇異の目で見られながらも、愛され、感謝され続けていたのだ。

 

 

そう、この事件が起こる今日この日までは……。

 

 

この国の先人達が築き上げた美しき文明の結晶に対し唾するように、ピカピカに磨き上げられた半長靴のゴム底が庭園の石畳を踏みつけてゆく。

 

水平直角一直線。

号令も無しに歩調、隊列を一切乱さず進む兵士達を見た彼らはその練度の高さに度肝を抜かれたことだろう。

厳格な規律の下、ただ淡々と鉄の器で敵を屠ってゆく二百人で1つの殺戮マシーンを止められる者はこの世界には居ないのだ。

 

 

 

「気をつけ‼︎中隊長登壇。中隊長前へ(まいえ)

 

89式小銃を「立て銃」の姿勢で構え、各班縦隊の隊形で並ぶ200人の若き自衛隊員達の前に現れたのは作業帽と作業服、弾帯と半長靴のみの軽装の自衛官。

襟には一等陸尉を表す緑線に3つの桜が刺繍された階級章を一対つけ、両袖、ズボンの裾には他の隊員同様一枚の紙のようにアイロン線がぴっちりつけられている。

しかし、腰の弾帯には鍔まで血で赤く染まった長大なサーベルを提げており、迷彩色の作業帽からはwac(女性自衛官)のように長い黒髪が伸びていることから、彼が普通の自衛官でないのは明らかである。

身長は約190cm。平均身長の高い特地のヒト種の中にあってはさほど珍しくない高さだが、日本人の中では珍しく、身幹順(背の順)で並んだ先頭の隊員達の誰よりもずば抜けて高い。

注目すべきはその長身だけではなく、目深に被った作業帽の鍔鍔の下から覗く色素の薄い金色の眼に凍死体のような白い肌。堀りの深い目鼻立ちで、その男が純粋な日本人ではなく西洋人(コーカソイド)との混血(ハーフ)であることが伺える。

 

「中隊長にたーいし、敬礼」

 

列外に立ち中隊長に正対する白髪に角眼鏡の初老の幹部自衛官——副中隊長の久居権三郎が嗄れた大声で叫ぶと、号令に合わせて列中の自衛官達が立て銃のまま一糸乱れぬ動きで銃礼を行う。

 

第1混成調査中隊中隊長、大津厳十郎一尉は眼前の隊員達の基本練度の練度に満足した様子で鼻を鳴らし、その血塗れの白い大きな手を作業帽の鍔の右端に合わせて挙手の敬礼で答礼を行った。

 

「おはよう‼︎」

 

「「おはようございます‼︎」」

 

「事前に通告した通り、本日より貴官らは、私の一存により自衛隊の任を解かれることとなる。貴官らの中でこの命令に対し、異存がある者、正直に挙手せよ」

 

「「なし‼︎」」

 

「よろしい。それでは予定通り総員200名。本日を以って我が王立軍の隊員として任命する。貴官らはこの大陸の全てを統べるまで行軍を続ける神の軍勢となったのだ。故に以降の任務、決して忌憚なきよう……以上。事後の行動にかかれ」

 

「別れて事後の行動。わかれ‼︎」

 

「「別れます‼︎」」

 

 

大津が回れ右をし、サーベルを抜いて宮殿の正門へと続く階段を駆け上がると、他の隊員達も各々銃を「控え銃」で構え、その後に続いてゆく。

 

かくして、血塗れの新国王の誕生と共に王都の長い長い冬が始まったのだった。

 

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