ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり 未踏査地区編   作:ロートシルト男爵

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第4章 新王降臨

 

 

 

ロコト村 中央広場の宿

 

『第7偵察隊、豊川3曹。入ります』

 

『入れ。敬礼は省略だ』

 

小隊本部と化した宿の一室。千僧は許可を得てドアを開け、入室した豊川の敬礼を遮った。

上官の居室への入室要領をはじめ、自衛隊のあらゆる規則は指揮の系統に従い順序よく行わなければならない。

よく営門通過や入室要領を間違えていた新隊員時代の豊川に千僧はそれを身体で覚えさせていたのだが、一方で『いたずらに形式にこだわり時期を逸してはならない』というのもまた自衛隊に於ける規則である。

千僧やその辺もよく理解しているつもりであり、彼に形式の省略を許した。

何故なら、外哨から前哨に至るまでの連絡の途絶に加え、遥か遠くで銃声が鳴るというこの一帯で起きている、早急の解決を要する何らかの異常事態を察知していたからである。

 

「曹長!どう致しましょう⁈」

 

「どうもこうもあるか!こりゃ襲撃だ。通信の途絶……多分有線がブッタ切られてやがるか通信妨害(ジャミング)が起きてやがる。この手口……特地(こっち)の人間の仕業じゃねえ……多分大津ん所の奴等の仕業だ」

 

「やはり……大津一尉ですか…?」

 

「ああ。あいつの中隊には富士学校の評価支援隊(アグレッサー)R(レンジャー)持ち普通科隊員がわんさかいるって話だ。奴等にとっちゃ自衛隊を相手にしたゲリコマ活動は本職みたいなモンだろうよ」

 

「……で、どうするでありますか?」

 

「見ての通りだ。俺はここを動けねぇし、お前は姫様を守るしかねぇ。宿の警衛についてる2人を斥候に出すつもりだ」

 

「了解です。直ちに二人に申し送り——」

 

「待て!外の様子がおかしい‼︎」

 

千僧と豊川がゆっくりと窓際に近付き、薄布のカーテンをずらして緩やかな動作で外を垣間見る。

 

「あれは……善通寺‼︎」

 

「シッ‼︎でかい声を出すな。こりゃまずい事になったぞ……」

 

窓の外から一望できる中央広場では、小銃を構えた何人もの自衛官らに監視されたまま二列縦隊短間隔で歩く偵察隊の隊員達の姿があった。

皆一様に結束バンドで後ろ手に縛られ、銃、弾帯、サスペンダー、鉄帽などは取り上げられている様子だ。

皆見知った顔ぶれで、その中には善通寺の姿もあった。

おそらく、先程の銃声が示す通り何者かが歩哨の監視を突破し、就寝中だった隊員達に奇襲をかけて捕縛したのだろう。

 

捕虜護送中の隊員が指示を出すと皆「左向け止まれ」をし、その場に降り敷かされる。

 

豊川は千僧の顔を縋るように見つめ、指示を仰ぐ。

だがその千僧の顔もまた険しく、どうすることもできない不甲斐なさに表情を強張らせていた。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

「おいお前ら!何してくれとんねん!お前ら同じ自衛官やろ?何でこないな事すんねや」

 

「だ、黙らんか⁈撃ち殺すぞ」

 

「銃口こっち向けんなや!ドアホ‼︎」

 

地べたに胡座をかかされた状態で着剣した89式の切っ先を向けられながらも善通寺は見張り役の自衛官に啖呵を切る。

はじめは冷静な目で静かに監視していた見張りも、その五月蝿さに堪忍袋の緒が切れたのか段々と苛立ちを語気と表情に出し始めた。

 

「……おい、コイツどうするよ高松」

 

「知るかよ杉田。テキトーに床尾板打撃でも食らわして前歯二、三本も折ってやりゃ大人しくなるだろうよ」

 

杉田と呼ばれた自衛官はその手に握った強化プラスチック製の89式の握把部から手を離すと、銃把を握り込み目の前で喚く善通寺に躙り寄る。

 

「な…何する気や……辞めぇや!こっちくんな‼︎」

 

「少し静かにしてもらおうと思ってな」

 

「ひ…ひいっ‼︎」

 

 

 

 

「そこまで‼︎」

 

思わず目を瞑った善通寺の耳に、聞き慣れた甲高い声が入る。

 

思わず目を開けると、まず目に入るのは停車中の高機動車のヘッドライトの光を受けて黒光りする半長靴の爪先、そして長い長い2本の迷彩柄の脚だった。

弾帯を巻いた腰の左にはアラビアの騎士が使うような長く曲がりくねったサーベルを括り付け、右腰から太腿にかけてはSiGP220(9ミリ拳銃)の入ったホルスターが吊られている。

 

「お…大津……班長⁈」

 

肩まで伸ばした髪、自分が新隊員だった頃より幾分若返った顔から最初は見間違えかと思ったが、善通寺は目の前に立つ男がかつての班長——大津厳十郎その人であることを認識した。

 

「杉田2曹…。私は君達に忠告した筈だ………客人は丁重に扱え……とな」

 

「で…ですが陛下…。こいつが余りに五月蝿くて……それで高松1曹が——」

 

「ほう?高松。お前の指示か……」

 

「ハ……ハイッ‼︎」

 

高松と呼ばれた1等陸曹が不動の姿勢のまま、3本線入りの襟書を縫い付けた襟首を脂汗で濡らしつつ答えた。

 

「高松よ……。私は君を誤解していたよ……。優秀な君なら私の指示を一字一句漏らさず聞いてくれると信じていた……」

 

「…も、申し訳ございません」

 

頭を垂れながら謝罪する高松の右後ろに大津が立ち、その長い腕を首に巻きつけ耳元で囁く。

 

「なぁ高松。出発前私は何と言ったか……もう一度言ってくれないか?」

 

「は、ハイッ!きゃ…客人は…丁重に扱え…と……」

 

「うんうん。で、続きは?」

 

「特に豊川と善通寺には絶対に暴りょ——ぐはぁっ⁈」

 

言葉を続ける高松の鳩尾に突如大津の右アッパーがめり込み、高松はその場に崩れ落ちる。

 

「そこまで分かってて何故殴らせた⁈えぇ⁈コラ‼︎俺の命令が聞けねぇってのか⁈あぁ?だったら現場でテキトーな自己判断せず事前に意見具申しろといつも言ってるじゃねぇか⁈それとも何か?俺をそんな融通も効かねぇ本土のウスラトンカチ共と糞味噌にしてんのか⁈あぁ⁈答えろやクソボケ‼︎」

 

先程の優しげな口調とはうって変わって大声で怒鳴り散らしながらマウントポジションで高松を殴りつける大津。

高松の顔はみるみる腫れ上がり、拳が振り下ろされる度に大津の白い顔が血飛沫で赤く染まってゆく。

 

「ど…どうか……もうお許しを…」

 

「よくも私の臣民の前で王である私の顔に泥を塗ってくれたなぁ貴様。死ぬか?責任取ってこの場で死ぬかテメェ‼︎」

 

「そ…それが陛下の命令でしたら……この高松喜んで…」

 

「……よろしい。未遂且つ初犯ということで命だけは助けてやる。さぁ!下がって顔でも冷やしてこい。その見苦しい顔で客人の前に立つな」

 

「は…はい!ありがとうございます!」

 

血塗れになった顔を掌で押さえながら、高松はそそくさと去っていった。

 

 

「ふぅ……疲れた…。さて、久しぶりだな善通寺君。再会早々お見苦しいところを見せて大変申し訳ない。折角お前達に会えると聞いてプレスもバッチリ、爪先もピカピカ、特地(ここ)一番の理髪師と爪磨きまで雇ったというのにあの馬鹿のせいで全部血塗れ。台無しだ」

 

大津厳十郎。

その風変わりさは方面隊規模で有名だ。

自衛官の六大義務の一つである「品位を保つ義務」を極端に拡大解釈し、五十路を迎えようというのに変に身嗜みに拘る。

営内では男の癖に部外のネイリストの元に脚繁く通い、浴場から出るときは高級化粧水やら乳液を塗りたくってくる。

当然教育の面では身嗜みや内務に厳格な指導を入れるが、「連帯責任の腕立てなど古臭い」と区隊の指導方針から堂々と外れ、一方でミスをやらかした部下に対しては先程のように堂々と鉄拳制裁をかます。

近年の教育隊で、いかに体罰廃止の方針が示されようとも御構いなしである。

 

「どこまでがネタでどこまでが怒りのラインか全く読めない」

 

入隊後彼の班に配属された者は、他のどの班よりも優秀な成績を残して後期部隊へ行くものの、皆口を揃えてそう言うという。

 

 

「変わりはないか?見たところ曹としての生活も上手くやってるようだが」

 

「ああ、いつも通りやで。そっちも相変わらずのようで」

 

「まぁな。昔を思い出したか?最近は昔にも増してキレやすくなってな…更年期障害を疑った方がいいかもしれん」

 

「自衛隊病院ならロハで受けられんで。早いとこ帰って来いや。俺らはハンチョ迎えに来たんやから」

 

「知ってる。今まで何度もその誘いを受けて来たな……だが答えは決めてるつもりだ。帰る気はない」

 

 

「何でや‼︎」

 

 

「その辺の話についてはまたもう一人——豊川が来た時にでもじっくり……食事でもしながらしよう。善通寺。ところで豊川の姿が見えんが…どこにいる?」

 

「豊川は…知らん!俺が歩哨交代した後の話やから……」

 

「ほう。じゃあ私の方から呼ぶとしよう。お〜い!豊川〜?みんなの大津班長がお呼びだゾ〜〜?」

 

「チッ‼︎無視か。おい矢口。軽機(ミニミ)を貸せ」

 

「は、はい‼︎只今‼︎」

 

大津は、機関銃手の矢口が恭しそうに差し出したミニミ軽機関銃を掴むと、被筒部から伸びた脚付きのフォアグリップを握り、槓桿を引いて初弾を装填した後、その銃口を宿の方に向けた。

 

「とーよかーわくん‼︎一緒に遊びましょ」

 

ダダダダダダダダダダッ‼︎

 

闇夜に響く断続的な発砲音。

数珠繋ぎに飛び出る薬莢とベルトリンクから分離されたM27弾帯の金属片が夕立のようにばらばらと地面に降り注いでゆく。

 

 

「武器、弾薬等を愛護節用せよ」

 

そんな戦闘間隊員一般の心得などどこ吹く風と、大津は窓という窓、壁という壁に連射(フルオート)で5.56mm弾の雨を降らせてゆく。

 

数ある機関銃の中では比較的軽量とはいえ、本来伏射で運用する筈のミニミを、銃口を一切ブレさせずぶっ放し、大津は某元加州知事の映画俳優もかくやといった感じでかつての教え子が隠れる宿へと慈悲の鱗片すら見せずに射撃を続ける。

 

「あっつ‼︎クソっ‼︎矢口‼︎換えのベルトリンクと銃身を持って来ぉい‼︎」

 

「りょ、了解‼︎」

 

 

 

* * * * *

 

 

「無事か⁈豊川‼︎」

 

「はい‼︎曹長もご無事で‼︎」

 

穴だらけになった小隊本部の壁際にて、千僧は床に伏せたまま豊川に生死を確認した。

 

「トヨカワ‼︎これは何事ですの⁈」

 

尋常じゃない外の状態に対ししびれを切らしたのか、フェルネットが警衛の二人の静止をものともせず寝巻きのまま穴だらけのドアを押し開け入ってきた。

 

「ば、馬鹿!伏せろ‼︎」

 

「ああっ⁈な、何を⁈」

 

第3匍匐——即ち片肘と臀部を床につけた状態の匍匐で這い寄って来た豊川に足を引っ張られる形でフェルネットが転倒し、そのまま床に伏せる。

 

「大津だ。奴が来た。歩哨の隙を突かれて俺ら以外はみんな捕まっちまった…」

 

「そ、それは本当なの?トヨカワ。あいつ…最近は王宮から滅多に姿を現さなかったのに……」

 

「…おそらく、奴の狙いは俺と殿下でしょう。だから直接こんな所まで来たんだ。このままじゃあいつら……部下が全員やられてしまう」

 

「とーよかーわくーん‼︎居るんだろう?命令だよ。一緒に飯でも食おう。そこの姫君も連れてさっさと出てこないと今度はこいつらが標的になるよ♡」

 

窓の縁から外の様子を垣間見ると、既に捕虜となった部下達にミニミの銃口を向けた大津が満面の笑みでこちらを見ていた。

 

「……曹長。殿下とメイド達を連れて逃げて下さい。俺が行かなきゃ…あいつら殺されます」

 

「駄目だ豊川‼︎お前が一人であの気狂いの前に立って、指揮官の俺がのうのうと逃げるなど…許されない‼︎」

 

「曹長!奴の目的は俺です!俺と善通寺なら大丈夫ですから。ですがこのまま俺が逃げたら…部下は殺されてしまいます‼︎」

 

「トヨカワ‼︎私もセンソウに賛成よ!私が代わりに奴らの前に出て、跪いて奴の靴に口づけをすれば……あなたも部下も救われるわ」

 

「殿下…命の価値は平等。自分はそう考えております。ですが殿下だけは違う!殿下がもし敵の軍門に下ったり処刑されたりすれば、現政権に抵抗する者の意志はいずれ挫かれ、お父様の希望は叶えられぬまま終わってしまいます!」

 

「トヨカワ…」

 

「殿下の命は我々のそれより重い……塗炭の苦しみに喘ぐ民の為にも、どうかそれを自覚して、ご自分の命を大切にして下さいませ」

 

「……分かったわ。どうかご無事で。あなたにエムロイのご加護を」

 

伏せた姿勢のまま、フェルネットは豊川の手を取り、その甲にキスをした。

 

「ト〜ヨ〜カ〜ワ〜⁈待ち草臥れたぞ〜?あんまり待たすようだと村人もこの銃の餌食になるがそれでもいいかねぇ?」

 

「ハンチョー!悪りぃ待たせた!ちょっとお色直しに手間取った。すぐそっちに行くから勘弁してくれ!」

 

「豊川〜。随分待ったぞ?あと少しでこいつらバラす所だったよ……私はしょっちゅうお前に言い聞かせたよな?『常に物心両面の準備をしとけ』って。新教(新隊員教育)からやり直すかぁ?」

 

「そ、それだけは勘弁してくれ〜」

 

平気な顔をして人が殺せる人間の元へと足を運ぶ——その恐怖を紛らわす為にも豊川は大声で戯言の応酬を繰り返しながら、一歩一歩宿の出口へと向かってゆく。

 

「止まれ‼︎両手は頭の上に!武器は持ってないな?」

 

大津配下の自衛官達が一斉に銃口を向けながら、宿の門扉から現れた豊川に向けて叫ぶ。

 

「別に何もねぇよ。銃口下げろよ…またハンチョに殴られてぇか?お前ら」

 

「…うっ……」

 

恐怖で声を震わせながらも豊川は軽口を叩き、自分に向けられた89式小銃を下げさせる。

 

「上出来だよ豊川くん。なかなかの胆力だな。流石陸教(陸曹教育隊)を乗り切っただけある」

 

「ま、まぁな。あそこの先任助教に比べたらハンチョのパンチなんて怖かねぇ」

 

「ほうほう…嬉しいよ。あの射撃以外何をやらせても駄目駄目のクソエースがここまで成長してくれて……出来ることなら君が言いつけ通り姫君と…千僧ほか数名をもエスコートしてくれたらもっと嬉しいんだがねぇ…」

 

「悪りぃハンチョ。みんなあのドサクサで逃げちまったみたいだ。俺だけは約束通りきたから許してくんねぇかなぁ……」

 

「ふむ…逃げたか……まぁいい。小さな国だ。じき見つかるさ。さて……行くぞ。ようこそ我が国——アヴァロン王国へ。君だけはVIP待遇で入国を許可する。王であるこの私直々の接待、どうぞ楽しんでくれたまえ。ハッハッハッハッ‼︎」

 

自分より頭一つ分高い大津に背中を抱き抱えられる形で、豊川は高機動車の後部座席に乗せられる。

 

「「乗車よーい‼︎」」

 

「「乗車‼︎」」

 

捕虜となった部下達、そしてそれを護送、監視していた自衛官達も次々と後続の 96WAPC(96式装輪装甲車)に鮨詰めで乗車していく。

 

賑やかだった中央広場からは一台また一台と車両が去ってゆき、やがて元の静寂を取り戻した。

 

 

 

群青から曙色へと変わりつつある地平線の彼方へと、緑色の車列が向かってゆく。

 

彼らの姿が見えなくなる頃には既に空も曙色へと変わり、絶望と悲しみに塗れた明日の訪れを知らせる鴇色の太陽が再び顔を出し始めた。

 

 

 

 

 

 




大津がミニミぶっ放すシーンは自衛隊が出てくる某ホラーゲーからのインスピレーションです。
ミニミ、撃ってみたいなぁ…(ちなみに筆者はAKMとか5.56mmの小銃とか9mmは射撃経験あります)
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