ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり 未踏査地区編   作:ロートシルト男爵

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久々の投稿。

そいやトカイワインって飲んだことないのでamazonあたりで買ってみようかしら(グヤーシュはある)


第6話 王の宴(下)

 

 

アヴァロン王国、王都。

 

何杯目かのトカイワインを空けながら器用に肉を貪りつつ、大津はかつての部下達に向けて口を開いた。

 

「さて、私はあまり食事の席で堅苦しい話をしたくないのだが…これ以上君達にただ飯を食うだけの退屈な時間を過ごさせるのも酷な話だ。本題に入ろうか」

 

「……本題…ですか」

 

「ああ、先程も言った通り、私以下部下全員に帰隊の意志は無い」

 

「何でや!」

 

「何故かって…?そうだな…兎にも角にも私はこの特地で過ごすうち、いつしかこの国の王となった訳だ。成り行きか自分で選んだ道か……どちらかというと後者だろうな。日本(そっち)に対する未練は無きに等しいし、私がこの土地に来る随分前から、あの国の為に尽くす気持ちも失せたというのが率直な感想だ」

 

「だからって……班長、あなたの行いは国家へ、そして国民の負託への反逆ですよ⁈我が国では誰も、そんな身勝手な理由で部隊を抜けた貴方方を許す者はおりません!」

 

「ほう。吹くようになったな豊川。やはり君は強くなった。やはり自衛隊はいい。特に君のように真面目な人間が成長する場所としてはな。だが、知っての通り自衛隊は有事の際任務を遂行し、国民を救う為の組織だ」

 

「ええ、分かっています」

 

「任務遂行と生命の救済、それがイコールで結ばれるものではないことは、災派も経験した君になら分かるだろう?」

 

「……ええ。たとえ自衛隊としての任務を遂行したとしても、死にかけの全ての人間を救う事は出来ない。そして、仮に救えたとして、必ずしも感謝されるとは限らない」

 

「そう、私が言いたかったのはそれだよ豊川君。阪神淡路で、イラクで、東日本で、そして海の向こうのハイチの瓦礫の中で、善きサマリア人の法など通用しないことを私は痛感した……そして私は決めた。『もう、救いきれない人間に対する憐憫の念を持つのをやめよう』『どうせ感謝されるどころか憎まれ口を叩かれ、存在を認められないのなら、これ以上ここに居る意味は無い』と」

 

「だからって、門の向こうの特地でこないな酷い事をしてええなんて…そんな理屈通らへんで!」

 

「ドンッ」と食卓を叩きながら、善通寺が声を張り上げた。

 

「……席に座りたまえ。善通寺君。食事中に食卓を叩くのはマナー違反だって知らないのか?」

 

長い髪の向こうでギョロリと覗いた金色の瞳に恐れをなした善通寺は、そそくさと席に戻った。

 

「さて…『私がどうしてこの特地で国まで乗っ取り国民を食い物にして好き放題やらかしているのか?』そう聞きたいわけだね?善通寺君。それに関しては隣の久居から解説してもらおう。眠くなる話だがそっちから質問してきたことだ。ちゃんと聞くようにな」

 

大津から水を向けられた久居は手元のワインを一口啜って喉を潤すと、口を開いた。

 

「……石器を持つ者が青銅器を持つ者に、青銅器を持つ者が鉄器を持つ者に、そして鉄器を持つ者が銃や火砲を持つ者に敗れ、征服されたように有史以来、人類は優れた文明を築いた者だけが劣った文明を持つ者を好きなようにしてよい、とそうしたルールの下生きてきた訳だ。インディオを虐殺したピサロやコルテスのようなコンキスタドール達は、いわば綺麗事を抜きにして考えれば当時の人間として正しい事をしてきた訳だ」

 

「……」

 

「無論21世紀の国際社会でこの考えは通用しないのかもしれない。だが(ゲート)の向こうのこの特地では未だこのルールに従って人々が暮らしている訳だ。奴隷制や人身供養を当然の事として受け入れ、

人権という言葉の意味も知らずにね……故に、我々が彼らのルールの下で己の実力を行使する事に対し誰が咎めるだろうか?という話だ。別に国際法や日本国のルールが通用しないこの地で自衛隊の流儀を突き通す必要は無い」

 

「……もし、この国で行われていることが諸外国やマスコミに漏れたら、我が国の威信に関わります。恐らく彼らは言うでしょう。『平和憲法を掲げる日本国の自衛隊が、かつての旧軍の如く門の向こうの民間人を虐殺し圧政を敷いている』と」

 

「豊川…と言ったかね?君は本当に頭の回る男だ。大津の話からは想像もできない程に賢い。だが、『マスコミにも諸外国にも好きに言わせておけばいい』というのが我々の総意だ。この世界へ通ずる(ゲート)は銀座一箇所のみ。我々の行いが気に入らないなら、どこの国の回し者であろうと銀座の門を潜ってここまでくればいい。我々に勝てる火力と軍勢を引き連れてな」

 

「文句があるのなら直接攻めて来ればいい。だが自分達の下に辿り着く為には日本国の自衛隊を倒す必要がある」

 

「そして、自分達を止められる力を持つ者はこの特地には居ない。もし唯一居るとすればそれは自衛隊だけ」

 

論理は単純にして明快。

瀬戸際外交に見えて緻密な計算の元に行われた造反。

 

豊川にも善通寺にも、返す言葉が見当たらなかった。

 

「さて……豊川くん。本音を言えば我々、君達陸曹陸士をこのまま返したくはない。取り逃がした千僧の事もある。どうせいずれ攻めてくるとはいえ、君達をここでアルヌスへ返せば後から敵として討たなければならないと知っているからな……」

 

「……無理だとは思いますが、部下の陸士達だけでも…解放してやってくれませんかね…」

 

「ほう。そちらの要求は部下の解放か。別に『帰したくない』と言っただけで、無理な話と決めつけるのは早いんじゃないか?」

 

「…?」

 

「君の要求はよく分かった。で、君には何が出せる?」

 

グラスから手を離し、テーブルクロスに両肘をつきながら大津は訊く。

豊川は両手を膝の上で小さく震わせながら、静かに答えた。

 

「みんなを帰す代わりに、俺たち2人は、は…班長の部隊に……残ります」

 

「⁈」

 

豊川の言葉にまず目を見開いたのは善通寺だった。大津も少し驚いた顔を見せたが、すぐその白い顔に微笑みを浮かべて席を立ち、ゆっくりとその大きな手を豊川の背中に置いた。

 

「…ふふふ……そうか…そうか…君ならばぜひそう言ってくれると信じていたよ。豊川くん。我々も丁度特科の砲班長をやれる人材が欲しかったものでね…だが一つ誠に残念な事がある」

 

「ざ…残念ですか?」

 

「部下を逃す代わりに私の部隊に加わり力になりたい。君の実に立派な考えに対し、どうやら君の片割れは不服なようだ」

 

嫌な予感。

豊川は大津の言葉に従うように善通寺に目を向ける。

 

「——?や、やめろ!善通寺!」

 

善通寺はテーブルクロスの下で隠し持っていた9ミリ拳銃を構えていた。

その照星と照尺が結んだ先には、大津がいた。

 

「……撃たないのか?そのまま構えているだけでは何の意味もないぞ?一生そうやっていたまえ」

 

「だ、黙れ!誰がお前なんかの!お前なんかの下で働くかっ‼︎」

 

 

 

乾いた発砲音。橙色のマズルフラッシュ。

 

最高級のペルシャ絨毯の上に鈍い音を立てて落ちる空薬莢。

 

挑発に乗せられた善通寺はその銃口を大津に向けたまま、つい引き金を引き絞ってしまった。

 

 

暫しの沈黙の後、豊川は急いで背後を振り返って大津の姿を見る。

 

その姿は全くの無傷。

OD色の制服にはほつれ一つ見られなかった。

 

「……な、何でや…は…外した?まさか⁈」

 

善通寺の射撃の腕は豊川程は高くない。しかし機甲科偵察隊出身という職種柄、拳銃射撃の訓練は少なからず受けてきた分、この距離で外す事はあり得ない。

 

となると考えられるのは、大津が鋼と謳われるその身体で銃弾をはじき返したという冗談のような結論だけだ。

 

「……いいや、善通寺。ちゃんと当たってるよ。いや、当たったというより『私の皮膚ギリギリまで弾が接近した』というのが正解かな」

 

「ど…どういう原理や?」

 

「特地に来てまだまだの君達も知っているだろう?科学力の乏しいこの特地では『魔法』なる概念が存在することを。随分と興味深いから、私も習いたくなってね……ロンデルから一番の魔導師を拉致して来て日がな教えを請うていたという訳だ」

 

「ま…魔法?」

 

「そうだ。ちなみに今のは簡単な防御魔法。50calや35mmの掃射を跳ね返せと言われると苦しいところがあるが、小銃弾の単射くらいなら避けるのも造作もないというわけだ。後は発火、爆破魔法、物体浮遊も少し…。本当はもっと学びたかったが、生憎雇っていた導師が急にここでの生活を怖がってか逃げ出してしまってな……折角美味い飯に最高の寝床と決して安くない月謝まで払ってやったのに……ファック!すぐに逃亡先を割り出して刺客を送り込んで一家郎等蜂の巣にしたお陰で今度は自分で魔導書を紐解くしかない毎日の始まりだ…。お陰である程度の魔法は自分でも編み出せるようになり、ロンデルでは博士号まで取った事もある。尤も、更に上の導師号に挑もうとした時は私の研究の先見性を理解出来ない老害共にペンキを投げ付けられたものだから、仕返しに刺客をまた送り込んで其々に相応しい末路を用意してやったが……」

 

「キ…キチガイ…やっぱあんたは殺人鬼や……」

 

「こらこら、そんな汚い言葉を使うものじゃない。子供が聞いていたらどうするんだ?ちなみに、こういう事もできる。よく見ていたまえ」

 

大津が片手を豊川の肩に乗せたままもう片方の手を善通寺に向けると、善通寺の身体がまるで操り人形のように持ち上がり始めた。

 

「な…何やこれ⁈は、離せ‼︎」

 

「あっちの世界でいう念動力(サイコキネシス)のようなものだ。身体に流れる電気信号を操れるようで、やろうと思えばこのまま心臓を止めたり首や手足を曲げてはならない方向に曲げたり思い切り地面に叩きつけたりもできる」

 

「⁈ひいっ‼︎」

 

淡々と恐ろしいことを口にする大津を目にし、善通寺は思わず声を上げる。

 

「さてさて善通寺くん。そういう危ないものは食事の席には持ってこないのが礼儀と言うものだ。このまま腕をねじ切られる前に捨てるのが賢明だと思うがねぇ…」

 

「くっ…畜生っ!」

 

善通寺が渋々右手の握力を緩めると、掌から落ちた9ミリが「カシャリ」と金属音を立てて絨毯に叩きつけられた。

 

 

 

「さて……そろそろお開きといこうか…興が醒めてしまった……デュセス!この場を片付けておけ。残飯の類は城下の奴隷共にでも投げつけておけ」

 

「はっ!」

 

デュセスと呼ばれた黒毛のヴォーリアバニーは、大津の言葉に耳をピンと立てて反応すると、部下のメイド達を引き連れて食い散らかされたテーブルを片付け始めた。

 

「誠に申し訳ない。豊川くん。君の言いたい事はよく分かってるつもりだ。だがもう暫くVIPルームの方で待っていてくれると助かる。くれぐれも、単独で何処かに行ってしまわないでくれよ、、私は君の唯一の取り柄である誠実さを信じているからな」

 

「は…はい……班長。あの、善通寺の方は——」

 

「ああ、あいつか……あいつは君と違ってマナーを理解していないようだから、この私直々に指導を入れようと思う。なぁに、殺したり後遺症が残るような怪我はさせないから安心したまえ。さて佐藤!豊川くんをゲストルームへ。丁重にな」

 

「はっ!」

 

宙に浮かされたまま磔のような格好で拘束された善通寺の姿を不安げに見つめる豊川の黄色い双眸は、佐藤によってかけられたOD色の目隠しによって完全に覆われた。

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