恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART   作:カスケード

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第十一話 白斗の如く!

―――朝五時。

白斗は自然と目が覚めた。するとそこは、見慣れない天井と景色が広がっている。

 

 

(……ああ、そうか。 俺ラステイションへ来てたんだっけな……)

 

 

朧気ながらも記憶が蘇ってくる。

昨日、ラステイションへ赴くことになり、その際にはネプテューヌに抱きつかれ、何とか宥めて入国。

その後ノワールの案内の下この教会へと到着し、ユニと交流を深め、ノワールの秘書を務めると申し出、そして彼女に仕事を頼まれた。

 

 

(……今日一日、ラステイションの街を見回って情報を集めてこい、か)

 

 

無論、これがノワールから与えられた仕事と言う名の観光であることは理解している。

同時に自分が次の国に向かうまで、ノワールとユニの距離を縮めようと誓った。そのためには白斗自身が二人との距離を詰めなければならない。

距離を縮めるには、まずはその人から信頼を得る必要がある。信頼を得るには、コツコツと仕事をこなしていくのが王道だ。

 

 

「さて、目も覚めたしちょっと早いがランニングにでも行ってくるか」

 

 

式典が終わってからのプラネテューヌもそうだったが、ラステイションでも白斗は自然と眠れ、自然と目が覚めた。

それだけ彼の安眠を脅かす気配が来ないということである。つまりは治安の良さが光っている。

白斗はそれを感じながら短パンとタンクトップに着替え、部屋を出た。

 

 

「え、あ!? は、白斗!?」

 

「おろ? ノワール、朝早いな」

 

 

部屋を出た直後、現れたのはノワールだった。

いつもの服装ではない、白斗と同じく汗を掻いてもよさそうなメッシュな素材の服を着ている。

普段の服装も可愛らしいが、こちらはこちらで違う魅力があった。

 

 

「白斗こそ早いわね……まさか、変な気配感じちゃったとか?」

 

「いや、俺元々朝早い方だから。 まぁ、ネプテューヌに寝起きドッキリ仕掛けられそうになった時は目覚めて撃退してやったがな」

 

「そ、そーなんだー……危うくネプテューヌと同じ目に遭うところだったわ……」

 

「ノワール?」

 

「な、何でもないわ! あ、あはははははは………!」

 

 

明らかに何かあったような乾いた笑いだが、深くは訊ねないことにした。

 

 

「で、これから軽くランニングでもしようかと思ったんだが……ノワールは?」

 

「私はこれから朝の鍛錬よ」

 

「マジでか? 頑張るなぁ……」

 

「これも女神の責務よ。 それに強さを保つためにはトレーニング不可欠だもの」

 

 

白斗はあの廃工場でのノルスの戦いの時、素のノワールの強さを知っている。

美しく、隙の無い剣術。力そのものは女神だからと言えばどうとでも言えるのだが、技術はそうでもない。

彼女の弛まぬ努力が、あれだけの太刀捌きを生み出したのだ。

 

 

「そうだ、折角だからノワールも一緒にランニングに行かないか?」

 

「え……ええ! ご一緒するわ!」

 

 

何やら願っても無いチャンスが巡ってきたと言わんばかりの興奮っぷりだ。

少々苦笑いしつつも、ノワールとの距離を縮めるためには信頼関係の構築が必要。その一環として、少しでも多く会話を重ねる必要がある。

白斗自らランニングに誘ったのはそのためだ。

 

 

「じゃ、行きましょう」

 

「おう。 因みにいつもどれくらいしてるんだ?」

 

「走り込みだったらいつもこの教会周辺を10周ね。 ……あ、でも今日は軽めに走りましょ! ほ、ホラ白斗がへばったら意味無いかなーって……!!」

 

 

本当は白斗とゆっくり話しながら走りたいから、なんて言えないノワールさんだった。

 

 

「いいね。 俺、ノワールと話しながら走りたいなーって思ってたから」

 

「で、でしょでしょ! もう、しょうがないわねー! 白斗のために特別にそうしてあげるわ!」

 

「はいはい」

 

「……何だろう、この頭を撫でられたような生温かい感じは」

 

 

きっとそれは、気のせいではない。

兎にも角にも、二人は同時に走り出し、朝の日差しと空気をその身に受けながら教会の周辺を走り回ることにした。

ラステイションの教会周辺には緑もあり、都会の喧騒とはかけ離れた爽やかさがある。

 

 

「んー、いい気分だ。 体が軽くなる!」

 

「でしょう? 眠くてもこうして軽く汗を流せばリフレッシュできるの」

 

「ああ。 隣にノワールもいてくれるし、な?」

 

「っ……!? か、からかわないでよ!!」

 

 

白斗の言葉に顔を赤くしてしまうノワールが、彼の肩を小突く。

予想通りの反応だったらしく、白斗はからからと笑いながら「悪い悪い」と謝っている。多分反省はしていない。

 

 

「で、ランニングって言えばプラネテューヌに居た時もやってたわよね?」

 

「ああ。 クセになってたし、見回りの意味もあったからな。 ネプテューヌもやってみりゃいいのに、『眠い~』ってパスしてきやがるんだぜ?」

 

「あの子は間違いなくそういうでしょうね……」

 

 

気が付けば大なり小なり体を動かしている白斗。

健康児と言えばそれまでだが、同時に落ち着きがないことも意味している。

白斗くらいの年齢であれば、それこそネプテューヌのように遊び倒していいくらいのはずなのに。

 

 

(……毎日走り込みしてるってのは、そういうことよね……)

 

「まぁ、毎日走り込みしてるのは……今となっちゃ体力強化の意味もあるからな。 嫌ではないさ」

 

(って心読まないでよ! 心配してる私が馬鹿みたいじゃない……)

 

「馬鹿じゃないよ。 心配してくれてありがとうな」

 

(だから読まないでって言ってるでしょーが!)

 

 

でも、白斗はノワールの心を察してくれている。

だから優しい言葉で、心配を掛けさせないようにしてくれている。それは強がりではない、本音―――その一部だとノワールには伝わった。でも。

 

 

 

(……でも、肝心なところは……触れさせてくれないのよね……)

 

 

 

少し先を走る白斗の背中を、ノワールは見つめた。

確かに元気で、何の迷いもない走り込みだが―――どこか遠く、寂しくなるのを感じて。

 

 

「どうした? ペース落とそうか?」

 

「っ!? な、何言ってるのよ! 私が貴方に負けるはず無いんだからねっ!!」

 

「はっはっは、負けず嫌いも相変わらずだな」

 

 

ペールを落とすどころか上げるノワール。

当然と言うべきかなんというべきか―――その後、へばりにへばった彼女を見ることになるのは、数分後の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、こっからが本番だな」

 

 

朝ご飯を食べ終えた白斗はいつもの黒コートを着込み、教会の外へ出た。

これから彼なりのリサーチが始まる。

ノワールの想いが詰め込まれたこのラステイションの街を、一日かけて歩き回り、感じたことを纏めて報告する。

それが彼が与えられた仕事。それを全うするべく意気込んだ。

 

 

「さて、まずはこの街の魅力なるものを探すとするか」

 

 

まず理解するべきはラステイションにおける魅力。

魅力を全面的に押し出せば、その国に人が集まる。そしてそんな魅力を打ち立てたのが女神であれば、それだけノワールに信仰が集まるということに繋がる。

まずは一人で街を歩き回ることにした。

 

 

(産業とかは見せてもらったから次に見るべきは……店かな?)

 

 

工業が発達しているということでそれだけに目が行きがちだが、三国の中心にあるラステイションは貿易の中心地でもある。

つまりはそれだけ多くの物が集まるということだ。流通してくる品物を見定めるため、白斗は大手デパートに入る。

 

 

(ふむふむ。 食材、服、本、そしてゲーム……確かに各国から質の高いものが集まっているな)

 

 

食材は直接市場から仕入れた新鮮なものを取り揃え、服は最先端の流行に乗ったものをいち早く並べ、書籍関連も充実したラインナップ。

ゲームに至ってはラステイションで大人気のジャンルから、プラネテューヌ、ルウィー、リーンボックスの王道タイトルをこれでもかというくらい充実させていた。

 

 

(ただ、輸入物に関しては他より値段が高めだな……)

 

 

輸入した品物が高い背景には、輸送費や人件費、そして関税などが絡んでいる。

各国からラステイションに届くまでの必要経費を算出した上で、利益が出るような値段を設定しなければならないのだ。

となると必然的に物価が高くなる。ラステイションの生活水準は基本的に高い方だとはいえ、この物価の高さはどう響くか。

粗方リサーチを終えた白斗は、繁華街から外れた工業地帯付近を見回る。

 

 

(繁華街や教会に近いところは治安が良い。 が、女神の目が届かなくなった場所はシワ寄せが来たかのように治安が悪くなる……ここはちと見過ごせないな)

 

 

路地裏に目をやれば、ゴミが散乱している。

それだけではなく、閉鎖した工場付近に屯っている不良達もいる。数自体は多くないが、職を求めて彷徨っている失業者達まで。

 

 

(多分ノワールを悩ませている一番の問題はここだな。 彼らをどうするか……)

 

 

真面目で、優しいノワールはきっとこの問題に心を痛めている。

それをどう解決に導くか白斗が思案していた時だった。

 

 

「は、離して……! 離してぇ!!」

 

「ん?」

 

 

何やら揉める声が。

目をやれば、細身で青い長髪の女の子が何やら不良三人に絡まれていた。少女の目元はサングラスで覆われているため表情を窺い知ることが出来ない。

 

 

「いいじゃねぇか、俺らと遊んでいこうぜ~?」

 

「そうそう、悪いようにはしねぇって」

 

「寧ろ楽しく、キモチイイことだからよ……」

 

「いや……イヤぁ!!」

 

 

ただ、嫌がっていることだけは分かる。そして、見逃していい状況ではないことも分かる。

少女の頬から一粒の雫が垂れ落ちたのを見た時―――白斗の怒りが爆発した。

 

 

「……おい、兄ちゃん達」

 

「アァ? ………ヒィッ!?」

 

 

突如として聞こえてきた、怒りを孕んだ声。

鬱陶しそうに不良達が振り返ったその先に―――殺気を纏う白斗がいた。

少年とは思えないその底知れぬ恐ろしさに、思わず悲鳴を上げる。例外はただ一人、襲われていた少女だけだ。

 

 

「大丈夫か?」

 

「……う、うん……!」

 

「良かった、俺の後ろに」

 

 

男達に向けたものとは違う、少女を気遣う優しい声色。

それを聞いた少女は、男達が怯んだ隙に白斗の背後に回り込む。思わずしがみ付いてくる彼女の震えから、相当な恐怖を抱いたことが分かってしまう。

感じてしまった白斗は、もう彼女に振り向くことは出来ない。―――とてもいい笑顔で、しかし相反する殺気を纏っていたから。

 

 

 

 

 

 

「兄ちゃん達、退屈してるなら俺が遊んでやるよ。 ただし……一方的で、圧倒的で、屈辱的に……なぁ?」

 

 

 

 

 

 

―――三十秒後。

 

 

「「「ぐへぇ………」」」

 

「拳一発でこのザマとは情けない」

 

 

顎、鳩尾、どてっ腹。

白斗の繰り出した拳が男達の急所を的確に捉えて悶絶させた。

 

 

「さてと……お前、大丈夫か?」

 

「ひっ!? こ、来ないで……来ないでぇ……!」

 

 

後ろでへたり込んでいる少女を起こそうと手を伸ばす。

が、怯えて拒絶されてしまう。

 

 

「……ごめん、怖がらせちゃったな」

 

「あ……ち、違うん……です……。 その……ぼ、ボク、ひ、ひ、人見知り……で……」

 

 

顔を逸らしながらも、必死に言葉を振り絞ってくれる少女。

恐怖の原因も、目を合わせてくれないのも人見知りだかららしい。

一人称が「僕」で、極度の人見知りとは確かに珍しいかもしれないが、だからと言って気にするほど白斗は狭量でもない。

何より、震えている女の子をそのままにしてはおけなかった。

 

 

「ああ、そういうことか。 でもそれじゃいつまでも立てませんよっと!」

 

「え……? ひゃぁっ!?」

 

 

白斗は優しく少女の手を取ると、その手を引いて立ち上がらせた。

それは力強く、しかし羽が舞い上がるかのような浮遊感。少女は特に痛みもなく、両足で大地を捉えて立っている。

 

 

「よし、立てたな。 良かった良かった」

 

「あ………」

 

 

強引だったが、優しいエスコートだった。

立ち上がった彼女に白斗は笑顔を向けてくれる。少し頬が赤く染まった彼女は、自らが人見知りであることも忘れ、立ち尽くしていた。

 

 

「それじゃ、次からは気を付けろよー。 俺はこいつらを……」

 

「あ………。 ま……待って……!」

 

「ん?」

 

 

そのまま少女を逃がそうと、背を向けた矢先。少女から呼び止められた。

思わず振り返ってみると、彼女は踏ん切りがどこかつかないような、でも踏み出そうとする一歩直前と言った感じでうずうずしている。

 

 

「あの……名前……。 き、聞かせて………」

 

「俺? ……黒原白斗だ」

 

 

震える声で、名前を訊ねられた。

この世界において、彼の名前は悪名などではない。何より、自らを人見知りと称する彼女がなけなしの勇気を振り絞ってまで聞いてくれたのだ。

だから白斗も気軽に答えた。

すると少女は、意を決したかのようにサングラスを外して―――。

 

 

 

 

「……白斗君……あ、あ……あり、がとう……。 ぼ、ボクは5pb.……です………」

 

 

 

 

自らの名前を名乗った。

とても綺麗な瞳と可愛らしい顔、そして特徴的な泣き墓黒。

可憐な容姿だが、どこかで見たことある姿と聞いたことのある名前だと白斗が思案していると。

 

 

「「「ふぁ、5pb.ちゃんだああああああああああっ!!」」」

 

「きゃあぁぁぁぁっ!?」

 

「黙れカス共」

 

「「「ぎゃっ!?」」」

 

 

倒れていた男達がここで目覚め、興奮で叫ぶ。

そんな光景に驚かない女の子があろうか、いや無い。白斗は興奮し暴徒一歩寸前の男達に拳を一発ずつ叩き込み黙らせる。

 

 

「……一応聞くが、この子知ってんのか?」

 

「ハァ!? お前、分かんねぇのかよ!?」

 

「さ、さっきまでは変装で分からなかったがリーンボックスで大人気のアイドルだぞ!?」

 

「アイドル……? ああ、そう言えばネプテューヌ達が見てた番組に出てたな!」

 

 

今更ながら白斗はようやく思い出した。

夕食の時、皆で楽しく見ていた番組で歌っていた少女。大人気アイドルで自らの知り合いでもあるとベールも自慢しており、それで見覚えがあったのだ。

ただ、番組で見た彼女と今目の前にいる彼女とでは明らかに雰囲気が違ったが。

 

 

「5pb.ちゃああああああああん! 俺、ずっとファンで……ぐぼぉ!?」

 

「テメェらの所為でこの子が怯えてんだぞ! 今更近づく権利なんてあるはずねぇだろうが!!」

 

「「「う、うう~………」」」

 

 

尚もお近づきになろうとする不良にボディ一発。

鋭い白斗の眼光で、男達が一気に正座する。今ここにパワーバランスが形成された。

けれどもそんな不良達が余りにも可哀想になってしまったのか。

 

 

「あ、あの……サイン、程度なら書いてあげるよ……?」

 

「「「ホントっすか!!?」」」

 

「お、おい5pb? そんなことしなくても……」

 

「5pb.だよ。 ちゃんと「.」もつけてね。 ……確かに……怖い人達、だったけど……ボクのファン、なんだもん」

 

 

発音上伝わらないのでは、という野暮なツッコミはさておき。

5pb.は彼らの上着、シャツ、ハンカチに慣れた手付きでサインを書き込んでいく。

その際の彼女は、先程まで怯えていた人見知りの少女ではない。

堂々と困難に立ち向かい、突き進んでいくアイドルだ。

 

 

「はい、これで……いいかな?」

 

「「「ありがとうございますうぅぅぅぅうううううっ!!?」」」

 

「ひゃぁぁぁぁ!?」

 

「調子に乗るんじゃねぇっ!!」

 

「「「ぎゃばらっ!!」」」

 

 

また興奮してきたので黙らせるために拳骨&正座。

彼らの中で絶対王者として君臨してしまった白斗にはもう逆らえないし抗えない。

一方、サインを書き終えた5pb.はまた人が変わったかのように落ち着きが無くなる。

 

 

「で、5pb.はどうしてこんなところに?」

 

「そ、その……お仕事でこっちに来て……休み時間で街を回ったんだけど……この通り……人見知り、だから……人がいるところを避けていっちゃって……」

 

「こいつらに絡まれた、か。 運が無いなー」

 

 

アイドルモードが終了するや否や、またおどおどとした口調に戻ってしまう。

オンオフの切り替えがはっきりしている人なのだろうと白斗は理解し、そんな彼女に合わせて喋っている。

無駄に目を合わさず、でも彼女から目を離さず。5pb.も人見知りと言いながらも、白斗とはギリギリ会話を保てていた。

 

 

「……ってか、テレビで見たのとじゃ全然雰囲気違うな」

 

「……その、アイドルは……歌うことは……ボクの夢、だったから……だから、その……歌う時、とか……お仕事とかだと………切り替えられるんだ……」

 

「なるほど、凄いな5pb.。 怖さに負けず夢に向かって突っ走る、まさしくプロだ」

 

 

大抵、理想と現実が乖離すれば乖離するほど幻滅されるもの。

5pb.自身、自らの性格は快く思っていなかったものの気軽に話せるのが自分の身内程度なので直せる機会も無かった。

自分の子の人見知りを知って幻滅されたり、腫れもの扱いされることが殆どだった。ただ、白斗はそんな彼女とでも気兼ねなく会話してくれる。

 

 

「………あ、あり……がと……」

 

「どういたしまして」

 

 

消えそうな声で、まともに目を合わせることが出来ない。

でも、それでも自らの言葉でそれを告げた。

白斗の耳はそれをしっかりと聞き届け、笑顔で応えてくれる。

 

 

「とにかく仕事で来たんだったらスタッフの人も心配しているだろ。 早く戻って安心させて来いよ」

 

「あ……う、うん……。 そう、するね……」

 

 

とにかく、人見知りのトップアイドルをこんな場所にいつまでも置いておけない。

白斗はこの場から離れるよう促し、5pb.もそれに従おうとする。

一度は背を向けたのだが、震える体を落ち着かせて、呼吸を整え、5pb.は今一度白斗に向き合う。

 

 

「そ、そ……それと……これっ!」

 

「ん? これ……コンサートのチケット? しかも特等席!?」

 

 

5pb.が差し出したのは、一枚のチケット。

日付は今から二週間後のリーンボックス。丁度、ベールのところへ滞在する時期である。

おまけに特等席と銘打たれている。ただでさえ、リーンボックスの大人気アイドルのコンサートチケットなど手に入りにくいというのに特等席など、どれほどの倍率なのだろうか。

 

 

「……ぼ、ボクからのお礼……だよ……。 助けてくれて、ありがとう……それと」

 

「それと?」

 

 

彼女は、まだ人との接し方に慣れていない。

でも、顔を上げてしっかりと微笑む。アイドルとしてではない、5pb.という一人の少女として。

 

 

 

 

 

 

「……ライブ、見に来てね。 そ、それじゃっ!!」

 

 

 

 

 

そして彼女は走り去ってしまった。

やはり人と面と向かって話すことは慣れなかったのだろう。でも、白斗は笑顔でそれを懐にしまう。

大事に、大事に。

 

 

「……これは約束、守らなきゃな。 さぁて、お前ら?」

 

「「「ギクッ!!?」」」

 

 

振り返った先には、逃げようとしていた不良三人。

すっかり白斗に怯えてしまい、まるで蛇に睨まれた蛙のようだった。

 

 

「ちょっと顔、貸してくれるかな?」

 

「「「ゆ、許してくださああああああああい!!!」」」

 

「あー、ちゃうちゃう。 話聞かせて欲しいのよ。 ……奢るからさ」

 

「「「……へ?」」」

 

 

白斗が指差した先には、入国時にノワールから教えて貰ったパン屋。

何が何だか分からないという顔をしつつも、不良達は素直に従った。白斗が怖いことと、奢ってもらえるという話に乗ったためだ。

 

 

(ノワールほどのしっかり者の国で彼らみたいな不良が出る理由……ちゃんと理解して、分析しないとな)

 

 

この短時間で、白斗は何となくこの国が抱えている問題点に直面していた。

それを確実な形にするため、まずは当事者である彼らから話を伺うことにした。所謂モニタリング調査みたいなものである。

パン屋の店主からカレーパンとコーヒーを買い込み、彼らに与える。

 

 

「う、うめーっ!! こんな美味いカレーパン!! 初めて食ったぁ!!」

 

「だろ? なんたってこの国の女神、ブラックハート様のお墨付きだぜ」

 

「め、女神様かぁ……いい気はしねぇけど、この味は認めざるを得ねぇ!」

 

「アニキ! 奢ってくれてアザッス!!」

 

「誰がアニキか」

 

 

どうやらアメとムチの要領で接した結果、すっかりアニキ認定されてしまう。

そして先程の会話でさりげなく引っかかったのが、彼らは女神に対していい印象を抱いていないということだ。

 

 

「じゃぁ、改めて話を聞かせてもらえるか? そうだな……まずはお前らのことから」

 

 

食べながら、彼らから話を聞きだす。

何故不良などになってしまったのか、要約するとこうなった。

 

 

―――三人ことリョウとケン、ハリーは親が同じ工場で働いていたため自然と幼馴染になった。だが、最近その親の勤め先が競合に敗れ、職を失ってしまった。

父親は荒れ、その矛先が彼らに向いた。そんな家には居たくないと外へ飛び出し、しかしまともに就ける職もなく、こうして落ちぶれてしまったのだと言う。

そして、ラステイションの基本方針を定めているのが女神なのだから、女神に不満をぶつけるしかないのだと。

 

 

「なるほどなぁ……そりゃ荒れちまうわな」

 

「アニキ! 分かってくれるんで!?」

 

「俺も、親がロクでなしだったからな。 ……女神様のおかげで持ちこたえたが、一歩間違っていればお前らになってたよ」

 

「そうなんですかい……」

 

 

白斗は何となく、彼らの境遇を理解できてしまった。

彼もまた親に翻弄され、結果地獄の道を突き進まされたのだから。

 

 

(こうして職を失った結果、十分な金を得られず、ラステイションの高い物価が災いして貧富の差が出来ちまってるってことか……。 で、家庭が荒れ、そのしわ寄せが子供達に来て、その子供達が工場跡地などで屯し、治安が悪くなる……「仕方ない」の連続が生み出した悪循環だな)

 

 

ノワールも、各家庭の事情にまで首を突っ込むことは出来ない。

それが積み重なった結果、こうした人が出来てしまっている。それはこのラステイションだけではない、どこの国でも、どこの世界でもある自体だろう。

ただ、このラステイションは経済の水準が高いことが災いして、その差が著しいというだけなのだ。

 

 

(……だからってノワールに矛先向けるのも違う)

 

 

ただ、その原因がノワールではないことだけは確かだ。

彼女は確かにラステイションの基本方針を定めているが、寧ろ彼らの様な人々が生まれないために、国民のために毎日懸命に仕事をしている。

それを知っている白斗だからこそ、何とかその概念を正したい。

 

 

(でも、頭ごなしに否定しちゃ反発心が生まれるだけ。 ここは俺が抑えて、こいつらの本音を引き出すところから始めないと……)

 

 

とにかく、彼ら自体は女神が憎いわけではない。それが分かったことが何より大きい。

女神にしか不満のはけ口がないからであって、それを正すことができればきっと事態は良い方向に変わるはず。

 

 

「……ところでお前ら、女神様に会ったことはあるのか?」

 

「無いッスね。 どんな姿をしてるかは知ってるけど……」

 

「普段、クエストをこなしたり企業と話してるってことくらいッスかね」

 

「まあ、女神様というからにゃお高く留まってるんでしょ。 きっと」

 

 

どうやら彼らは直接女神を見たことは無いらしい。

ネプテューヌのようなサボりがちで、でもよく街中に出る女神様の方が特殊だろう。

そういう意味ではプラネテューヌは女神に対する文句はあるが、信頼もある。彼女の人となりを、彼女自身が晒しているから。

 

 

(と、なると……良し! この手で行ってみるか……ノワール次第だけど)

 

 

白斗は、ここで作戦を組み立てた。

承認されるかどうかはノワール次第だが、提案してみる価値はあると判断する。

 

 

「お前ら、ここで会ったのも何かの縁。 もう一個パン食うか?」

 

「い、いいんですか!? さっすがアニキ!」

 

「なぁに、その代わり……ちょっと早起きして手伝ってもらいたいことがあってな?」

 

「て、手伝い……何なんスかそれ?」

 

「言っておくけど極道とかヤクザとかそんなモンじゃないから安心しろ」

 

 

白斗は彼らの肩を組んで何やら話始める。

その姿は、まるで悪友と楽しく会話しているかのようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――それから数十分後、白斗は教会へと戻ってきた。

そのままノワールの執務室へ向かい、ノックをして入室する。

 

 

「―――ただいま、ノワール」

 

「おかえりなさい、ラステイションの街は見て回れた?」

 

「ああ、ビッシリとね」

 

 

懐から取り出したのは、白斗が纏めたメモ。

彼が感じたこと、見たこと、考えたこと全てをそこに書き記してある。想像以上のまめさにノワールも舌を巻いていた。

―――そして、今日あった出来事を話し始める。それを受けてノワールは、溜め息をついた。呆れではない、自分への不甲斐なさ故にだ。

 

 

「……そう、やっぱりそう言うことなのね」

 

「予想……してたんだ?」

 

「何となくだけど、ただこうして白斗が言ってくれたから確信に変わったわ。 ……ラステイションの最大の問題点よね……」

 

 

痛くなった頭を抱えて、ノワールが項垂れた。

彼女の責任ではないはずなのに、それを自分のものとして抱え込んでしまっている。

 

 

「でも、ノワールにも考えがあってのことなんだろ?」

 

「……ええ。 確かに国民のために働くのは女神の義務、だからって女神が全てを解決しては国民自身が成長しないの」

 

「甘やかしすぎないってことね」

 

「そう……。 でも、甘えていたのは私の方かもしれない……見て見ぬふりをしてきただけかもしれない……」

 

 

実際、そう言った人達が出ていることを知っては何とかしてあげたい。何とかしなければならない。

それがノワールの真面目さ。彼女の長所でもあり、短所でもある。

真面目さ故に全てを受け止め、しかし受け止めきれずに圧し潰されそうになっている。

 

 

「―――大丈夫だよ。 ノワール」

 

「は、白斗……?」

 

 

そんな彼女に掛けてあげるべき言葉は、支えとなる強い言葉。

白斗は秘書として、彼女を支えるだけの力強さを持とうと意識する。

肩に手を置かれ、顔を上げたノワールに降り注いだのはそんな彼からの力強く、温かい言葉だった。

 

 

「ああいう奴らも出てきてしまったかもしれない。 でも、それ以上にノワールが頑張ってきたからラステイションっていう素晴らしい国が出来た。 それを女神の所為にするのは、ただ理解が出来ていないだけなんだ」

 

 

今度は、白斗が懐から一冊の本を取り出した。

それはこのラステイションの中で話題になっている、起業家の成功談を記した本である。

リサーチの際、ラステイションを知るためにと購入した本だ。

 

 

「ほら、ここの文章見て見ろよ。 『ノワール様がアドバイスし、またラステイションという国を作ってくれたから私はここにあるのです』……ノワールが幸せにした人だって、ちゃんといるんだ。

こういう人を一人でも多く作ろうと頑張ってきて、経済大国ラステイションが出来たんだぜ?」

 

 

まだ、このラステイションに来て日が浅いはずなのに。

白斗はしっかりと、ノワールの努力、そしてその努力が生み出したものを見てきてくれた。そして彼女が求めていた言葉をかけてくれた。

思わず目頭が熱くなるのを、ノワールは感じている。

 

 

「それに、今回の件は理解が出来ていないからだ。 あいつらのノワールに対しての理解、そして自分自身に対しての理解……その機会を設けてやればいい」

 

「……白斗……。 でも、機会を設けるって……?」

 

「ああ、お前次第なんだけど……」

 

 

白斗はある提案をした。

先程言った、「理解を深める機会」。それを実現するための提案を。

ノワールは彼からの提案を一言一句逃さず目と耳で聞き、内容をメモにして書き留めている。その精確さは、まさにやり手の一言である。

白斗も己の気をしっかり持たなければ、威圧されてしまうそうになった。

 

 

「……急だわ。 まずは私に話を通すべきだったわね。 場合によってはお流れになる可能性もあるんだから」

 

「す、すみません……」 

 

 

すぐに白斗の粗を指摘する。

ぐうの音も出ない正論に、白斗は頭を下げるしかなかった。

 

 

「でも、これだけの情報を集め、分析し、それをどうするべきか打ち立てて、私にこうして提案してくれた。 何より、さっきの言葉……貴方が秘書で、本当に良かった」

 

 

だが、その直後に今回の利点を褒めてくれる。

仕事に真摯な彼女だからこそ、一切の妥協も無く、短所も長所も見てくれる。見てくれたから、こんな素敵な笑顔をしてくれる。

 

 

「貴方の案を採用します。 ……明日の朝、よろしくね」

 

「はい!」

 

 

そして公平に検討し、採用してくれた。

女神様のお言葉だからこそ、白斗は余計に気合が入る。認めてくれた、それだけ期待と重圧がのしかかるということ。

何としても、期待に応え、重圧に打ち勝ってみせると誓った。

 

 

「ところで白斗、何か落ちてるわよ」

 

「え? あ、チケット……」

 

 

白斗が拾い上げたのは、5pb.から貰ったコンサートチケットだ。

先程から懐からメモ帳やら本やらを取り出していたからか、落ちてしまっていたらしい。

それを拾い上げてくれたノワールだが、目を通して顔色が変わった。

 

 

「………白斗、これどこで手に入れたの?」

 

「へ? ど、どこ……と申されますと?」

 

「5pb.の特等席チケットなんて簡単に手に入るものじゃない、増してや貴方は今までそう言うのに興味を示す素振りも無かった……どうやって手に入れたの?」

 

 

今日のあらましについては、先程話した通りだ。

個人情報を話すつもりは無かったため、名前は伏せていたのだが勘のいいノワールは大体察している。

それでも白斗本人から説明してもらわないと気が済まないらしい。

 

 

「じ、実はですね……その不良君達とお話する際に5pb.を助けましてそのお礼に……」

 

「……あっそ! ふん!」

 

「何故怒る!?」

 

「知らないっ! それよりもこの事、さっさとケイやユニに話してきなさい!」

 

「ヒィッ!? り、了解ですぅぅぅうっ!!」

 

 

不機嫌なノワールの声に気圧され、白斗は部屋を後にした。

これからユニとケイに声をかけ、明日の段取りを組もうとしているのだろう。

ふん、と鼻息を鳴らしたノワールはどっかりと椅子に座り込んだ。

 

 

「何よ白斗ったら! 私を放っておいてまさかのアイドルからコンサートのお誘い受けちゃって! ……って、私……どうしてこんなにヤキモキしてるのかしら……」

 

 

何故か5pb.に嫉妬していたことに気づく。

彼女だけではない、他の女神達も、時にはユニでさえそんな感情を抱きそうになったことがある。

訳の分からない独占欲の正体、それに気づくのは―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――AM 6:00。

ラステイションの街に朝日が差し込む。これから働きに向かう人も出てくるという時間に、街の中心にある公園で人が集まっていた。

 

 

「みんな、良く集まってくれたわね。 突発企画なのに、どうもありがとう」

 

 

その集いの中心に居たのはこの国の女神、ノワール。

彼女の周りにいたのは、数名の人物である。

この企画の発案者である黒原白斗、女神の妹であるユニ、教祖である神宮寺ケイ、そして―――。

 

 

「アニキ……あの人が、ブラックハート様ッスか?」

 

「本物を見るのは初めてだ……」

 

「つーかアニキ、ブラックハート様と知り合いだったんスね……」

 

 

昨日、白斗とつるむことになった不良三人組だ。

まだ眠そうな目をこすりながらも、現れた女神の降臨に驚き、眠気が吹っ飛んでいる。

と言っても彼らは根っからのノワール信者ではない。故に驚いてはいても、興奮まではしていなかった。

 

 

「ではこれより、町内清掃活動を始めます! 一時間の間だけど、よろしね!」

 

「「おーっ!」」

 

 

女神の言葉に声を上げたのは白斗とユニ。ケイはため息を付きながらも、女神の提案に従う意を示す。

そう、先日白斗が提案した事。それは国の象徴たるノワールが、朝早くから清掃活動を行うというものだ。

それもあの不良三人組を含めて。

 

 

 

『―――清掃活動?』

 

『ああ、国の象徴たるノワールが率先して清掃活動に取り組む。 この街はゴミを路地裏に捨ててる人も多いから、意識改革につながる』

 

『なるほどね。 で、他には?』

 

『この国はノワールの威光が強い余り、神格化し過ぎている人も多い。 そう言った人達に女神様を知ってもらうことで、より国民に女神が近くにいるぞということを意識してもらう』

 

『私自ら話しかけろ、ということね』

 

『ああ。 今回はそのモデルケースとして不良三人組を連れてくる』 

 

 

 

以上が、白斗が立てた計画の大まかな流れだ。

女神であるノワールが自ら清掃活動を行うことで美化は勿論、人々にノワールの存在を身近に感じてもらう。

女神が身近にいると感じることで、犯罪など不埒な真似はさせないようにという抑止力、同時に人々に安心感を与えるのが狙いだ。

何より、女神に対して良い思いを抱いていない、そしてこの街の負の部分を受けてしまった子供達にそう言った感情を無くして欲しい。そのための第一歩だ。

 

 

「んじゃ、振り分け発表していくぞ。 ケンと俺は第一地区、リョウとユニちゃんは第二地区、ハリーとケイさんは第三地区だ」

 

「え? 俺らバラバラっすか?」

 

「仲良し三人組は結構だが、たまにはいいだろ。 俺らも手伝うから頑張ろうぜ」

 

「それはいいけど……ノワール様は?」

 

「各地区を回りながら清掃だ。 ぶっちゃけ一番ハードだぞ~」

 

「た、確かに……」

 

 

この振り分けを考えたのは白斗だ。

彼らにして欲しいのは理解してもらうこと。そしてそのためには会話が必要だ。

一対一で話し合うことで理解を深めてもらう。同時にいつもつるんでいる三人組をばらけさせることで、新しい発見をしてもらうというのが白斗の狙いである。

 

 

「……アニキぃ、何だってこんな面倒なこと……」

 

「5pb.の好みは良い人だと聞いたぞ」

 

「良い人に、俺はなる! うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

白斗の人心掌握も完璧だった。

不良達はやはり慣れない慈善活動に文句を垂れてはいたが、それは自身の中の不満をこじれさせてしまっていたから。

それを理解し、ちゃんと会話してくれる人にはそれなりに返してくれる。

 

 

「お疲れ様。 頑張ってくれてるのね」

 

「ぶ、ブラックハート様!?」

 

 

そこへ現れたノワール。

既に他よりも多くのゴミを抱えており、既に額には汗を掻いていた。

だがそれよりも近くに寄ることで女性特有の甘い香りが広がってくる。今まで意識していなかった女神との急接近に、不良の一人であるケンは大層緊張してしまう。

 

 

「あら、結構細かなところまで取ってくれてるのね。 特にたばこの吸い殻なんて見落としやすいのに……」

 

「……俺、不良ッスから。 何となく捨てる奴の心理が分かるんスよ」

 

「でもそれって、結構気配りが出来るってことよ。 ……私には、それが足りないって時々言われるのよね」

 

「め、女神様が……?」

 

 

積極的にノワールから話しかけ、話題を振っていく。

相手の利点を褒め、ノワールは爽やかな笑顔を絶やさない。

尚且つ相手が自分を理解してもらおうと自らに関する話題も混ぜて、トークの幅を広げる。

 

 

(うんうん。 ネプテューヌから教わっておいて大正解だった)

 

 

昨夜のネプテューヌとの通話の際、いつも国民と会話する際に何を意識しているかを予め聞いておいた。

彼女自身は特に意識はしていないと言うが、とにかく楽しく笑顔でがモットーとのことだった。確かに明るい顔の方が、会話していて楽しいと感じるのは当たり前のことである。

 

 

「……そうなのね。 ごめんなさい、ちゃんと見てあげられなくて」

 

「い、いえいえ! 女神様が謝ることじゃないッスよ!」

 

「そう言ってもらえると助かるわ。 そうね、貴方達みたいな人をちゃんと支援できる制度を設けて、白斗が言っていた職業案内所もちゃんと設置するべきね」

 

 

ただ話すだけではない、少年が一体何を苦しんでいるのかを理解し、その少年のためになるような言葉を選んでいる。

ノワール自身、そういった会話をする機会が少なかったためまだ戸惑いはあったものの、それでも円滑に話が進められている。

 

 

「……あ、ありがとうございます、女神様!」

 

「いいのよ。 それじゃ私は次の地区へ行ってくるわ。 白斗、彼の事よろしくね」

 

「ああ、そっちも頑張ってな」

 

 

十分彼と話し、互いの理解を深めたところで次の地区へと向かう。

清掃活動を続けながら、残り二名とも話し合い、互いの気持ちを知り合う。小さな一歩でも、積み重ねないことには意味がない。

努力家であるノワールだからこそ、この提案を受け入れてくれたのだ。

 

 

「……アニキ」

 

「んー?」

 

「女神様も……なんつーか、俺らと変わんないんスね。 いっぱい悩んで、いっぱい苦しんで……でも俺らと違って、いっぱい動いて……」

 

「かもな」

 

 

ノワールの実情は、白斗も全て把握している。

だが、敢えてぼかした物言いでケンにそう答えた。今必要なのは彼が女神を理解すること。

白斗自らが答えを与えるのではなく、彼自らが答えに行きつくことなのだから。

―――やがて一時間が経過し。

 

 

「ふぅ……いい汗かいたわね! これはこれで早朝訓練になるかも」

 

 

何十ものゴミ袋を山のように積み上げて、ノワールが汗を拭いた。

女神を含め、たった七名の清掃活動にも拘らず、十分な成果と言える。当然ラステイションの街全てを綺麗にできたわけではないが、それでも汚れているよりずっといい。

何より、今まで不良だった彼らの心にも明確な変化が訪れていた。

 

 

「ですね! ノワール様の言う通りです!」

 

「正直メンドかったけど……初めて、やりきったって感じだ!」

 

「見ろよ、この公園! 俺らがピッカピカにしたんだぜ!? 信じられるか!?」

 

 

ノワールへの見方、初めての達成感、美化意識。

良い兆候が彼らに見られている。

白斗とノワールにも、確かな手応えを感じさせていたところで。

 

 

「ノワール様、ゴミ拾いご苦労様です」

 

「ん? あ、パン屋のおばちゃん! お店の方はいいのかしら?」

 

「主人に任せてあるから。 それより、ゴミ拾いしてくれたお礼に差し入れです。 みんなで食べてくださいね」

 

「ありがとう! みんな、差し入れよー」

 

 

更にはノワール御用達のパン屋の店主から差し入れが送られた。

焼きたての香ばしい匂いを放つパンが一人一袋で手渡される。

労働の後のちょっとしたご褒美に、不良達は勿論白斗たちも気分が良くなった。

 

 

「あの子達が店の前を熱心に掃除してくれたから、そのお礼も兼ねてるのよ」

 

「え? あ……じ、実はこの間アニキに奢ってもらって以来……すっかりこのパンの味に惚れちまって。 だからかな……」

 

「ありがとう。 ……そうだ、皆さえ良ければウチでバイトしないかしら? 若い子は一人でも多い方がいいわ」

 

「え? 俺ら三人纏めてで……大丈夫ッスか?」

 

「ふふ、私も若い頃は似たような苦労をしてきたから。 どう?」

 

「……あ、ありがとうございます!!」

 

 

どうやら、今回のゴミ拾い活動の姿が感動的に映ったらしい。

パン屋の店主が不良達三人をバイトとして迎えてくれた。思わぬ労働の斡旋に思わず感動する男達。

そんな光景にユニもケイも、ノワールも目を丸くするばかりだ。

 

 

「白斗さん、ここまでの流れを読んでたんですか?」

 

「まさか。 ……あいつらがホントに頑張らなきゃ、おばちゃんの心を動かしたりできない。 あいつら自身の功績だよ」

 

「おやおや、白斗は随分謙虚だな」

 

 

ユニやケイが褒めてくれるが、実際白斗はここまでになるとは思っていなかった。

小さな意識改革から始めていくつもりだったのだが、実際に事を起こしてみれば誰もが満足するような結果に終わった。

 

 

「……ありがとう、白斗。 貴方がいてくれたから、あんな素敵な光景が出来たわ」

 

「ノワールがいて、実行してくれたからだよ。 俺だけじゃどうにもならなかったし、ノワールっていう女神様だからこそあいつらも頑張れたんだ」

 

 

そして、白斗は何よりもノワールの行動力と真面目さあってこそだと思っている。

彼女が最後まで真面目に清掃活動をやり遂げたからこそ、彼らと対話を試みたからこそ、ラステイションと言う街を作り上げたからこそ。

それが生み出した奇跡ともいうべき光景。それでもノワールは、白斗への感謝の気持ちが絶えなかった。

 

 

「……貴方が秘書で良かった。 また……頼っても、いい?」

 

「モチのロン」

 

 

軽い口調ながらも、重みのある声で応えてくれた。

はにかんだ笑顔を見せてくれる白斗に、ノワールの胸がまた一つ高鳴る。

 

 

 

 

 

(……何故かしら。 白斗相手だと……こんなにも頼れて、気兼ねなく話せて、そして……離したくないって思っちゃうのは……)

 

 

 

 

 

日に日に増していく白斗への淡い想い。

ノワールはそれを自覚する度切なく、しかし温かい気持ちに包まれる―――。




サブタイの元ネタ「ハヤテのごとく!」

ということでラステイションの景色を広げつつ、5pb.ちゃん登場のお話でした。
メーカーキャラヒロイン一人目!
白斗……お前、女神だけじゃ飽き足りないんか……。でもメインはノワールであることは崩しません!

次回のお話はノワール個人とのイチャイチャでお送りします!
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