恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART 作:カスケード
ということで本編始まります。
白斗が提案した清掃活動。
行き場のない不良達を更生させ、街の美化、そしてノワールの活動宣伝の効果もあって関係者からは絶賛の声を受けた。
そんな一幕の次の日の夕方、ノワールの手伝いを終わらせ、ラステイションの街を遊びまわっていた白斗はある店に向かっていた。
「おー、お前ら。 早速バイトに入ってるのな」
「お! アニキ、来てくれたんスね!」
ラステイションの街を見て回っていた白斗が声を掛けたのはすっかり御用達となったパン屋。
そこで働いていた、元不良三人組。
美味いと評判のパン屋で早速働ける喜びを感じながら、汗水垂らしながら働いている。
「そりゃ、提案するだけして見に来ないなんて無責任にも程があるからな。 で、お前らパン焼いてるの?」
「まだまだ。 今はおばちゃんの技を見て盗む段階ッス!」
「職人気質よなぁ。 ま、そんな硬派なところがいいんだが」
「それよりアニキ! パン買ってってくださいよ!」
「そうだな。 んじゃぁ……」
店員となった彼らに促され、パンを幾つか買い込んだ。
自分の夜食と、ノワールへのお土産として。
「「「ありがとうございましたー!!」」」
店から去る際、そんな気持ちの良い声を聞くことが出来た。
二日前、5pb.を襲おうとしていた彼らからは想像できない姿である。聞けば店主や街の住人、更には親との関係も良好になりつつあるとのこと。
自分の提案でノワールが治める街に貢献できたことに、白斗はつい嬉しくなってしまう。
「成果も上々! ノワールも喜んでくれるかな~」
きっとこの事を伝えれば、ノワールも喜んでくれるだろう。
白斗は足取り軽く、今の拠点であるラステイションの教会へと戻っていった。
「……ん? 宅配便か?」
教会前には一人の宅配業者が、困ったように佇んでいた。
手には大き目の段ボール箱を抱えており、右往左往している。
怪訝そうに見つめていると、業者が白斗の存在に気づき、声を掛けてきた。
「あ! すみません、ここの教会の方ですか?」
「一応ここに住まわせてもらっている身ですけど」
「良かった、実はノワールさんにお届け物なんですが誰も出てくれなくて……」
なるほど、よくあるパターンだと白斗は納得した。
どうやらユニやケイ、そして肝心のノワールは外出中らしく荷物をどうするべきか悩んでいたところらしい。
荷物を受け取るだけなら差し支えないだろうと白斗は言葉を続けた。
「受け取るだけでいいなら俺が受け取りますよ」
「助かります! あ、ここにサインしてくれればいいので」
「はいよ。 ……っと、これでいいですか?」
「ありがとうございます! またご贔屓にー!!」
伝票にサインを書き込み、荷物と共に受け取る。
爽やかな挨拶を残し、業者は去っていった。
後に残された白斗は手に段ボール箱と買い込んだパンの袋を手にとりあえず教会の中へと運ぶ。
「んっしょっと……結構重いな。 ノワールの奴、何を買ったんだ?」
ドスン、と音と衝撃と風圧を立てて置かれる段ボール。
天地無用や割れ物注意とは書かれていなかったので、精密機器やガラス製品などでは無さそうだ。
とりあえず箱についているシールを見て判断しようと観察する。
「衣類って書いてあるな……ま、ノワールも女の子、オシャレくらいはするよな。 えーと、発送元は……『アニメイド』? どこのブランドだ?」
衣類と書かれていたのでノワールが新しく着る洋服でも買ったのだろうと判断する。
少し気になったので携帯電話で「アニメイド」なるブランドを調べようとした時、玄関の扉が開かれた。
「ただいまー……って白斗? 先に帰ってたのね」
「お、ノワールお帰り。 丁度良かった」
帰ってきたのはノワールだった。
彼女も買い物をしていたらしく、ボトルや果物を詰め込んだ袋を提げている。これだけ見るといいお嫁さんになれると思ったのは白斗だけの秘密だ。
「丁度良かったって……何その荷物?」
「ああ、実はさっきお前宛の荷物が届いたんだ。 で、どうしようかなと……」
「私宛……? …………のわああああああああああっ!!!?」
「うおわぁぁああああああ!!?」
思い当たったらしい、が悲鳴に近い声を上げてノワールが急接近。
凄まじいスピードが生み出す風圧に押され、白斗は荷物を奪い取られた。
「み、見た!? 見た見た見た!?」
「見てない!! 見てない見てない見てナッシング!!」
「じゃぁ何しようとしてたの!?」
「発送元のブランドを調べようとしていたくらいで……」
「調べるな。 女神命令、良いわね?」
「アッハイ」
その時のノワールの声色は、視線は、表情は。とても冷たかったという。
謎の身震いを感じ、白斗はそれ以上の追及を諦めた。
反対にノワールはお目当ての荷物が届いたことからすぐに上機嫌となる。
「あ、そうだ。 私、今夜面会謝絶だからよろしく」
「え? あ、ちょ……」
「それじゃーねー! ふんふふーん♪」
何かを待ちきれない様子でノワールは去って行ってしまう。
それほどまで楽しみにしていた荷物だったらしい、ノワールは聞く耳持たずで、足取り軽く、鼻歌まで歌いだしている。
「やれやれ、どんな荷物なのやら……」
「荷物って何ですか?」
「ん? ユニちゃんか、お帰りー」
さすがにそんな反応をされては気になって仕方がないが、かと言って約束を破るほどかと言われればそうでもない。
と、その時ユニも帰ってきた。こちらは雑誌を購入してきたらしく、胸に抱きかかえている。
「いや、ノワール宛に荷物が来たんだがそれがやたら楽しみだったらしくてな」
「あー……お姉ちゃん、時々あるんですよね。 新しい服だとは思うんですけど、あんまり見せてくれないんです」
「んー? それ着て出掛けたりしないのか?」
「まぁ、お姉ちゃん忙しいですから。 それを来て外出した気分になったりとかかも」
(にしてはさっき買い物してくるくらいの余裕はあったんだが……詮索はしない方がいいかな)
服を集める程度は女の子の嗜みだとは思うが、それを人前で見せないとは。
少し怪しい気もするが、ユニにとってはいつもの事らしく、気にしない方がいいらしい。
白斗も空気を読んでこの話題は忘れることにした。
「まぁいいや。 ユニちゃん、晩飯終わったらFPSで対戦しないか? パン食べながらさ」
「あ、いいですね! でもアタシに挑戦状叩きつけたこと、後悔しても知らないですよ~?」
「ふふーん、今日こそその鼻っ柱へし折ってやる」
お土産として買ってきたパンをちらつかせながら白斗が挑戦状を叩きつけた。
負けないだの、自信ある態度だの、一歩も引かないその様子はライバルというよりもまるで兄妹のようだったという―――。
☆
「あー……クッソ! 4勝6敗……あそこで左振りむいてりゃぁなぁ……」
その夜、白斗はユニの部屋から出てきた。
結果は惜敗。暗殺者として培った勘の良さから立ち回りは自信があったものの、ゲーム内の技術はユニの方が上。
故に切迫した勝負になり、最後は経験と意地の差でユニに軍配が上がった。
悔しがりながらも、白斗は楽しそうに呟いている。
「……今度あのゲーム買って練習するかぁ。 でもそうなると小遣いがなぁ……」
ネプテューヌと対戦するためといい、このゲイムギョウ界に来てからゲームをすることの楽しみを覚えた白斗。
ゲームに手を出すだけの余裕が出てきたのは、彼を取り巻く環境が変わったことが一番大きい。
そんな自分自身に気づくことも無く廊下を歩いていると。
『~~~♪』
「ん? ノワールの声……部屋からか?」
どこからか、上機嫌なノワールの声が。それも歌っているようだ。
特に今日は仕事に支障も無かったが、嬉しくなるような報告すらなかった。強いて言えば、白斗の提案した清掃活動の進展とあの不良達の顛末である。
しかしそれすらまだ報告できていない。となると―――。
「……ああ、なんか服買ったんだっけ」
ノワールから深追いしないように念押しされていたので記憶の片隅に留めて置いただけだが、彼女宛に衣類の荷物が来てから様子が変わった。
荷物について触れられたくなかったり、それでも楽しみにしていたり。
(どんな服か見てみたいんだけどなぁ……。 ワンピースとか結構似合いそう……)
などと考えながら部屋を過ろうとしたその時だった。
『ひっ!? きゃあああああああああああああっ!!?』
「なっ!? ノワール!!?」
突然、ノワールの部屋から悲鳴が上がったのだ。
戦闘も強く、狼狽えることはあっても弱音を吐くこと自体滅多にない彼女からそんな悲鳴が上がる理由はそう多くない。
(まさか……また誰かがノワールの暗殺を!? クソッ!!)
外敵の侵入―――ここ最近の平穏でその可能性を失念していた。
白斗が己の不甲斐なさに歯軋りをしつつも迷うことなくドアを蹴破った。
例え怒られようとも、嫌われようとも、それだけでノワールが無事でいられるなら。
「ノワール、大丈夫か!?」
一発でドアを蹴破った白斗が部屋を見渡す。
オシャレながらも女の子らしい部屋だったが、彼女はベッドで毛布に包まりながらガタガタと震えている。
「は、白斗ぉ!! 蜘蛛……蜘蛛がぁ!!」
「……蜘蛛ぉ? ああ、こいつか……」
良く見ると部屋の真ん中に宙づりになっている蜘蛛が一匹。
それも掌サイズ以上の大きさだ。恐らく天井裏に巣食っていたものが成長してきたのだろう。
見た所モンスターの類でもなければ毒蜘蛛でもないため肩透かしを食らったが、女の子相手にはきつすぎる見た目と大きさだ。
「悪いがお帰りになってくださいよっと」
白斗はポケットからハンカチを取り出して蜘蛛を包み、部屋の窓から投げ捨てた。
念のため気配を研ぎ澄まし、辺りを探る。
入念に調べた結果、侵入者の痕跡は一切発見されなかった。今回は単なる蜘蛛の乱入だけだったようだ。
「ふぅ、侵入者は無し。 蜘蛛も追い払った。 もう大丈夫だぞー」
「うう……白斗、ありがと……う……」
危機は去った。安全であることを告げると、ついノワールは油断して毛布から出てきてしまう。
だが、そこで固まってしまった。白斗も彼女を落ち着かせようと振り向いてしまった。
互いにその姿を見合わせる。白斗はいつもと何ら変わりのない黒コート。だがノワールの姿は、先程の物とは全く異なっていた。
(……何、このアニメっぽい服……どこかで見たような……)
青を基調とした、フリルたっぷりのドレス。
可愛らしい帽子。そして手には女の子が憧れるような魔法のステッキ。
そうだ、見たことがある。確かあれは以前ネプテューヌ達が可愛いと絶賛していた魔女っ子アニメの―――。
「………思い出した! それ、確かアニメで出てたキャラの衣装だっけ?」
「~~~~~~~~~っ!!?」
「っと悪い! とりあえずドア閉めて……!!」
ノワールはぼわっと、顔から火が出そうな勢いで真っ赤になってしまった。
目も涙目で、声にならない声を上げている。
そんな彼女の姿に慌ててしまい、白斗は慌てて扉を閉めて情報遮断。その際に改めて部屋を見渡すと、先程の段ボール箱が開けられていた。
(……なるほど、衣類は衣類でもコスプレだったのね……)
更に見ればタンスにはこれまた可愛らしい衣装が幾つも吊るされている。
部屋にはミシンなどの裁縫道具も完備されており、更にはステッキだけではなくインカムマイクやギター、箒に様々な帽子などあらゆるグッズが揃えられている。
間違いない、全てコスプレのためである。
「は、白斗……見な……見ないで……! わ、わた……わたし……」
今にも泣きそうな声で白斗を呼ぼうとするノワール。
でも、恥ずかしさや悲しさ、恐れが入り混じり上手く言葉にならない。
荷物について触れられたくなかったり、面会謝絶していたのはこのためだったのだ。確かに、知られたくはない趣味かもしれない。でも白斗は―――。
「カッシャー、カッシャー、カシャカシャカッシャー」
「ちょっ!? 何で写メ撮るのよ!? しかも連射!!?」
携帯電話で写真を撮影しだした。
思わず怒りのツッコミを入れてしまうノワールだったが、すぐにその心は暗く染まってしまう。
何せ、白斗に見られた上に写真まで取られたのだから。
(う、うう……見られた見られた見られたぁ……!! こんな恥ずかしい趣味、絶対馬鹿にされる……ヒかれる……何より、何より……!
……白斗に、嫌われちゃう……)
余りの悲しさに涙すら出てしまう。
白斗に嫌われる―――それが何よりも、彼にバレたくなかった最大の理由であり、最大の哀しみ。
こうして彼が写メにまで収めてしまった以上、記憶を消すことなど出来ない。
けれども、彼らから出てきた言葉は予想だにしないものだった。
「いや、完成度高くてすっげぇ似合ってたからさ。 記念に残しておこうと思って」
「………え?」
白斗の口から出たのは拒絶の言葉ではない。寧ろ称賛の言葉だった。
そんな彼の言葉が、ノワールの心に光となって降り注ぐ。
顔を上げて見れば、嫌な表情どころか穏やかな表情でノワールを見守ってくれていた。痩せ我慢の様子すらない。
「は、白斗……その……嫌じゃ、ないの……?」
「別に? 俺の元いた世界でもコスプレ趣味の人なんてザラだったし、何よりノワールが可愛いしな。 眼福眼福」
「か、可愛っ……!?」
今度は羞恥で顔が紅くなってしまう。
それだけ「可愛い」と褒めて貰えたことが恥ずかしくて、信じられなくて、何より嬉しかった。
「……コスプレ趣味なんて……恥ずかしくて、笑われると……嫌われると思ったのに……」
「まぁ、人に言えないのは理解できるが嫌う理由になるはずないじゃん。 寧ろ、ノワールが可愛い女の子だと再認識できた」
「今のはちょっとバカにしたでしょ!?」
「いーや、別にー?」
少し茶化したかもしれないが、白斗が嫌っている様子は全くなかった。
本当の彼女の姿を受け入れてくれる―――ノワールにとって、それが何より嬉しかったのだ。
ようやく涙も引っ込み、落ちついたところでノワールはベッドに腰を掛ける。
「……私、ゲームもそうだけどアニメも好きなの。 で、好きになったアニメのキャラになりきったりして、その世界に浸りたくて……」
「あー、俺もやったやった! ヒーローとかの真似事したりな」
「でしょ!? ……でも、女神になってから公務が忙しくて、その分そういった世界の憧れへも強くなって……気が付けばコスプレしてたの」
彼女にとってコスプレとは単なる趣味だけではない。
日頃のストレスから解放される至福の一時なのだろう。誰もが憧れるアニメや漫画、ゲームの世界。そこに行きたいと願う心は、寧ろ純粋なものだ。
確かに少し子供っぽいかもしれないが、同時に女の子らしい可愛らしさもあった。
「で、ミシンとかもあるってことは……自分で作ったのもあるのか? 凄いな!」
「あ、ありがとう……。 自分で言うのも何だけど、もう最高の出来栄えで!」
表裏のない言葉に、ノワールは明るく返してくれる。
余程琴線に触れたらしく、いつもの真面目な彼女からは想像できないほど女の子らしい顔をしている。
そう言いながらタンスの中の服をとっかえひっかえしていると、一冊の本が落ちてきた。
「おい、何か落としたぞ……ってオーディション用台本?」
「あ……じ、実は……声優にも憧れちゃったりして……身分隠して、オーディション受けたんだけど……」
「その様子だとダメだったのか……」
暗い表情からなんとなく察してしまう。
けれども、こればかりは仕方がない。声優とは単に声を当てるだけの芝居ではない、寧ろ声だけで全てを表現しなければならないのだ。
憧れる人も多いが、売れる人はその中の一握りという厳しい世界。さすがに女神の肩書を隠しただけの少女では、受かることは無い。
「ええ……でも、諦めない! いつか必ず、憧れの世界に……ってそうだ!」
「な、何だ?」
「白斗! もし良かったら、時間のある時でいいから台本の読み合わせとかしてくれない!? こんなこと頼めるの、白斗しかいないの!!」
普段の硬派な彼女からは想像できないほどの真剣なお願い。
白斗にだけ、ということは教祖であるケイや妹であるユニですら伏せているということだ。
親友たちにも、妹ですら打ち明けられない真剣な悩みをただ一人聞かされた存在として、どうして断ることが出来ようか。
「……いいぜ。 正直言うと、俺も興味あったしな」
「ホント!? 約束よ!?」
「おう。 嘘ついたら三十二式エクスブレイド飲まされるからな」
「違うわ。 ボルケーノダイブよ」
「そこだけ涼しい顔で灼熱的な技ぶち込むのやめてもらえませんかね?」
などと言いながら笑いあう白斗とノワール。
女神と暗殺者ではない、年相応の少年と少女らしい楽しい一時だった。
「で! ついでにお願いしたいことあるんだけど!」
「おねだり多いな」
「助けてくれたとは言え、入るなって約束破っちゃったんだからこれくらいするのが当然でしょ!」
「はいはい。 で、何だ?」
白斗も嫌がっているのは口だけ。
入ってしまったことは事実だし、責任感以上にノワールと秘密を共有できているこの時間が何より楽しい。
そんな彼女に付き合うのも悪くはない、と軽い気持ちで引き受けたのだが。
「じゃぁ……この衣装着てみて! 絶対白斗に合うから!」
「お、俺もコスプレ!? 待て待て! ノワールの持ってるってことは女物の衣装だろ!?」
「男装コスプレもあるから心配しないで! 大丈夫、絶対似合うから!!」
この上ないキラキラとした視線を向けてくるノワール。
思わず後ずさりしてしまうが、ここで退くは男の恥。
(ええい、ままよ! 変装の一環だと思えば……!)
ノワールのコスプレはともかく、自身がすることにはさすがに抵抗感がある。
しかし興味が無いと言えば嘘にはなり、何より彼女の期待に応えたかった。
無言で頷くと押し付けるようにして衣装が手渡される。彼女が布団に包まっている間に着替えを終えると。
「きゃー! 白斗カッコイイ~~~~!!」
「……これ、侍っぽい衣装だな……」
青い上着に袴、そして腰に刺した刀にハチマキ。立派な侍の姿だった。
デザインは新選組に近く、手触りから素材も拘り抜かれていると分かる。
刀は当然模造刀だが、安っぽい玩具ではなく、寧ろ刃剥ぎをしているだけであって重さと感触は本物のそれである。
そんな彼の姿にノワールは大興奮、写真を撮りまくっている始末だ。
「素敵よ白斗! 居合やって! 居合!!」
「さ、さすがに居合は始めてやるが……離れてろよ? ―――ズェァ!!」
「~~~っ!! イイ!! 最ッ高よ!!!」
ノワールのリクエストを受けて、居合の真似事をしてみることに。
暗殺者と言えど刀を扱ったことは無いので見様見真似ではあるが、それでもノワールにとっては本物と見間違うくらいの美しい太刀筋。
まるで現代に蘇りし侍だと言わんばかりに感動していた。
「そうだ! そのヒロインの子の衣装もあるから……このシーン再現してくれない!?」
「ん? どれどれー……お、おお……これは照れちまうな……」
彼女の携帯電話から見せられたのは、お気に入りアニメのワンシーン。
侍を主人公としたアニメで満月の夜、桜の木の下でヒロイン役の姫と主人公の侍が手を取り合い、互いの好意に気づくというシーンだ。
「照れも一線超えれば楽しくなるものよ! さぁやりましょ!」
「そう、だな……。 ここまで来たらやり切るのみ!」
彼女の夢を叶えて上げたい、そして自分もその世界で楽しみたい。
強く拳を握って白斗は立ち上がる。
「ありがとう! それじゃ私も着替えて……」
「じー」
「……良いって言うまで後ろ向いてなさいね。 覗いたら……(メキッ)このボールペンと同じ末路を辿るわよ」
「イエスマムッ!!」
さすがにへし折られるわけにはいかない。
先程のやる気も一瞬で吹き飛ぶほどの恐怖を感じ、白斗は後ろを向きながら土下座よろしく床に伏せている。
その間、ノワールは着替えていく。
「ん、んー……着物って一人で着付けるの難しいのよね……。 専用の器具使っても中々……白斗、ごめん! もうちょっとだけ待ってて!」
(何これ? 音や声だけでも背徳的な気分になるんですけど!?)
密閉空間に、男と女が二人きりのこの状況でさえ垂涎もの。
その女が女神様で、しかも今白斗の後ろで着替えている。
しゅるしゅると音を立てて落ちていく服。想像しただけでも、白斗の中の何かが掻き立てられる。
(ま、まずい……オーバーロード・ハートしちまいそうだっ!!)
これは最早拷問と言ってもいい。
早く終わって欲しい、でも終わらないで欲しい。そんな二律背反な思いを抱えながら目を閉じていると。
「お、お待たせ……」
やっと許可が出た。
複雑な思いを抱えつつ、振り返るとそこには―――。
「どう、かしら……? 似合って、る……かな……?」
顔を赤らめている、着物姿のノワールがいた。
桜色の着物を着こみ、髪型もいつものツインテールではなく団子に纏められている。かんざしも刺しており、何より袖で顔を少し隠そうとしているその仕草が妙に艶っぽい。
「……マジでどこの姫様かと思った……心臓止まるかと思ったぞ」
「貴方がそれを言うと洒落に聞こえないのよね……」
「これだったら止まってくれた方が良かったかもな」
「縁起でもないからやめて。 ……でも、ありがと」
こんなにも可愛らしいお姫様と、あのワンシーンを演じられる。
白斗も妙な高揚感に包まれた。ここまでされて、中途半端な演技は出来ない。
「―――いざ、参る」
白斗は頬を叩いて気合を入れる。
見開いた眼は、完全に主人公のそれと全く同じ鋭さだった。
刀のようにどこまでも真っ直ぐで、鋭くて、綺麗な瞳にノワールは魅了されてしまう。
「い、いいわよ白斗……降りてきてるわね! それじゃ雰囲気を出すために灯りを消して……」
スイッチを押せば、部屋には月明りだけが入ってくる。
窓から差し込まれる柔らかな光に照らされながら、向き合う二人。
「……姫……」
「あっ……」
憧れの“彼”に手を取られ、背中を支えられる。
着物越しでも感じる彼の体温に、“彼女”は頬を赤く染めた。
「……貴女だけです。 拙者をこんな気持ちにさせてくれたのは……拙者を、救ってくださったのは……」
「お侍、さま……」
“彼”と“彼女”の視線が、気持ちが重なり合う。
桜こそないが、美しい月明かりの下、今世界には立った二人だけ。
「……姫。 こんな血に濡れた身で……それでも、拙者は……」
「……血に濡れようとも、罪に塗れようとも……私は、知っております……。 貴方様が、真に優しきお方であると……私の、『お侍様』であると……」
“彼女”は既に、“彼”の罪を知っていた。
知っていた上で受け入れた、知った上で傍に居たかった、知った上で―――惚れてしまった。
「……で、あれば……姫。 これが、拙者の気持ちでござる……」
「……お侍様……」
二人の顔が、近づき合う。
見つめるは互いの唇。近づいてくるそれが、まるで遅く感じられて。その度に心臓の鼓動は速まっていって。
もう何が何だか分からない。ただ、それを黙って受け入れようと―――。
「……はい、ここまで。 これ以上はシャレにならんしな」
「え? あ……」
直前で、白斗が離れてしまった。
思わず寂しそうな声を漏らしてしまうノワールだったが、彼には届かず。
白斗は部屋のスイッチを入れて明かりをつけてしまう。
「……別にフリじゃなくていいのに……」
「ん? 何か言ったか!?」
「何でもありませんっ。 つーんだっ」
「えぇ!? な、何かやらかしたか俺……?」
突然不機嫌になるノワール。
その理由が分からなくて白斗は困惑してしまう。姿勢もセリフも何一つ間違いはなかった。
敢えて言うなら間違いを犯さぬことが間違いだろうか。
「やらかしてくれてないから不満なのっ! ……でも、ありがと♪」
それでも、彼女が見せてくれた笑顔は最高に眩しかった。
こうして、コスプレを巡る騒動は一応幕引きを迎える。
黒の女神が、どうしてこんなにも心乱されるのか。その理由に気づくには、あともう少し―――。
「あ、白斗。 さっきの写メは消しなさい」
「そんな!? 記念に残そうかと思ったのに!!」
「消せったら消せー!!」
「嫌だ嫌だ嫌だー!!!」
その後、写メを巡って追いかけ回される白斗の姿があったとかないとか。
ということでノワールのコスプレ話でした。
いやね、真面目にね、コスプレノワールちゃん可愛い。個人的にはゼノブレイド2のホムラのコスプレとかして欲し(殴
さて、フラグこそ立っているものの未だに陥落していない強情な黒の女神様。次回こそは!……と見せかけてあの子のターンに回ります。
お楽しみに!