恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART   作:カスケード

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ということでやって参りましたユニちゃんのターン!
何もイチャイチャ対象はノワールだけではぬわぁい!ということで本編どうぞ~。


第十三話 ユニの憂鬱

―――それは白斗がラステイションに滞在して五日目のこと。

 

 

「白斗、あの書類は?」

 

「こっちに。 後はここに判押してちょ」

 

「ありがとう、それは?」

 

「もう終わる。 これはどうする?」

 

「ええと……そっちに」

 

「あいよー。 んで、あれなんだけど……」

 

 

午前中、ノワールの執務室では、すっかり仕事が板についた白斗が女神と共に事務仕事を片付けていた。

まだまだミスなどはあるものの、ノワールとは曖昧なこそあど言葉でもまるでツーカーのように意思疎通出来ていた。

 

 

「……むぅ……」

 

 

それを面白くなさそうに見ているのはノワールの妹にして女神候補生、ユニ。

彼女もまた、自分に与えられた仕事を終わらせて報告に来たのだがいざ執務室の扉を開けてみればこの状況。

来て日が浅いのにノワールとしっかり意思疎通した上で仕事をテキパキこなしている白斗がいる。

 

 

(……アタシなんて、お姉ちゃんにあんな風に接してもらったことないのに……)

 

 

早い話が嫉妬である。

とは言え、それを口に出すほどユニは浅慮ではない。けれども顔には出てしまう。

頬が膨らんだところで、ノワールが彼女の存在に気づく。

 

 

「あら、ユニ。 仕事の方は終わったの?」

 

「え? あ、うん……これ」

 

「ありがとう。 どれどれ……」

 

 

彼女を手招きして書類を受け取った。

その際のノワールの声色は穏やかかつ上機嫌。理由は言わずもがな、白斗が傍に居ることだろう。

 

 

「……オーケーよ。 ユニ、ご苦労様」

 

「あ、ありがとう。 で、今回結構早く仕事を終わらせたよアタシ!?」

 

「まぁ、前回よりはね。 これくらいで慢心しちゃダメよ」

 

「あ……はい……」

 

 

受け取った書類に不備はなかった。

だが、ノワールは意識して澄ましたような顔と口調になる。なるだけ感情を表に出さないようにしているのだ。

尚更白斗との差がついてしまったように感じられ、それがユニにとっては寂しく感じてしまう。

 

 

「……じ、じゃぁアタシ、部屋にいるから! また何かあったら呼んでね……」

 

「ええ」

 

「ちょ、ユニちゃ……!」

 

 

何とか気丈に振る舞おうとするユニ。だが、声が微かに震えている。

少し強めにドアを閉め、彼女は出ていってしまった。

 

 

「……あのー、ノワールさん。 さすがに……その、ね……?」

 

 

見ていられなくなった白斗が、横から口を挟んでしまう。

頭ごなしに言い過ぎず、かと言って彼女の心に刻み込んでもらえるような言葉を模索していたその時だ。

 

 

「……やってしまった……またやってしまった……」

 

「うおおぉぉぉ!? 明らかに落ち込んでるゥ!?」

 

 

明らかに暗い雰囲気を抱えて、机に突っ伏している。

あの上機嫌な雰囲気は一瞬にして吹き飛び、ノワールの頭上には雷雨が降り注いでいるかのようだ。

声も重苦しく、顔を上げれば泣きそうな顔になっている。

 

 

「……白斗も分かってるんでしょうけど……アタシ、不器用なのよ……」

 

「分かります、ええ分かりますとも」

 

 

何とも寂しそうな声だ。

彼女も辛い思いをしている。これがユニのためになると自分に言い聞かせて、自分に嘘をついて、本当の気持ちに蓋をして。

一体これを何年繰り返してきたのか、白斗には想像もつかない。

 

 

「ホントはね、ユニにもお姉ちゃんとして接してあげたいの……でも、いざ話すと『甘やかしちゃダメ』とか、『しっかりしなきゃ』とか、『理想の女神』とかが先行し過ぎて……」

 

「素直になれない、ってことね」

 

 

この辺りはネプテューヌの分析通りだ。

ただ、この二人の場合はそんな接し方を長い年月続けてしまった所為でいつの間にか壁が分厚くなってしまっただけなのである。

 

 

「あぁ~……私の馬鹿馬鹿馬鹿ぁ~……。 なんで素直になれないのよぉ~……」

 

「ノワールは頑張り屋さんだけど、ちょっと空回りしちゃうだけだからな。 大丈夫、ユニちゃんもお前を嫌ってるってことは無いから」

 

「でも……いい加減、この関係も、こんな私自身も何とかしたいのよ……」

 

 

平時であれば、こんなさりげない弱音ですら他人に話すことは無いノワール。恐らくネプテューヌ達にも、教祖であるケイにも。

ただ一人、白斗だけがその弱音を受け止めている。

 

 

「……ふと思ったんだが、ノワールってユニちゃんの事どれだけ知ってるんだ?」

 

「……全部、知ってるわ」

 

 

白斗が突如、ポケットに手を突っ込んだままそんな質問をしてきた。

今はとりあえず何でもいいから気分を紛らわせたい、その一心でノワールは素直に答えてくれる。

 

 

「いつも一生懸命で、寂しがり屋で、友達思いで、私と同じく不器用で……でもそんなところも可愛くて……」

 

「ああ、ノワールと同じだな。 まさしく姉妹」

 

 

ユニについて話している時のノワールの表情は、どこか誇らしげだった。

声色も、先程に比べて明るくなっている。

 

 

「努力だって凄いのよ? あの子は隠してるつもりだろうけど……それこそ血の滲むような訓練を欠かして無いの」

 

「俺も見た。 夜遅くまで反復練習……本当に凄いし、心配になっちゃうよな」

 

「でしょう!? ……でも、口を出していいのか分からなくて……」

 

「だよなぁ。 でも、そんなユニちゃんの姿をちゃんと見てるんだ。 ノワールも凄いよ」

 

「白斗もね。 ユニの訓練、ケイだって察知出来てないのに」

 

 

ユニが努力家であることは、二人も認めるところだ。

彼女は周りに知られたくない余り、徹底的に隠しているのでノワールも白斗もそれを言いふらすことも出来ず、下手な口出しも出来ないことに歯痒さを感じている。

 

 

「……私は女神。 国民の……そしてあの子の姉として、理想でなきゃいけない」

 

「でも、ホントは違うだろ?」

 

「……うん。 いっぱい褒めてあげたい、いっぱい遊んであげたい……ずっと一緒にいてあげたいの」

 

 

女神であることの孤独さ。

それは女神をでなくなるその時まで悠久の時を生きるからではない。

女神であるが故の使命や仕事に追われ、彼女に構ってやれず、周囲の期待に囲まれることでの壁。

ノワールは日々、そんな苦しみと格闘していた。そんな彼女が、長い間誰にも告げなかった苦しみを、白斗だけには曝け出していた。

 

 

 

 

「だって、私のたった一人の……自慢の妹なんですもの」

 

 

 

 

寂しさの余り、少しだけ涙を流した。

どれだけの涙を、たった一人で流していたのか。白斗にはもう想像も出来ない。

それでもこの涙を知っているのが、彼一人だけ。だからこそ、白斗は彼女達の力になりたいと心から願う。

 

 

「心配するなって。 姉妹なんだろ? ユニちゃんの事、大好きなんだろ?」

 

「…………うん」

 

「だったら大丈夫。 きっと向こうも同じ気持ちさ」

 

 

優しく頭を撫でてあげる白斗。

仕事でミスした時など、落ち込んでいる彼女にこれをやってやると効果覿面な模様で、癇癪を起してもすぐに落ち着き、落ち込んでいてもすぐ立ち直ってくれる。

今も元気を取り戻しつつあった。

 

 

「……ありがとう、白斗」

 

「いえいえ、どういたしまして。 そうだ、こういう時は体を動かした方が楽になるぜ?」

 

「……そうね。 なら、ちょっと付き合ってくれる?」

 

「合点承知の助」

 

 

一旦公務を切り上げ、白斗とノワールは鍛錬場へと赴く。

いつもは朝早くで剣術や体術の訓練をしているノワールだが、今回は白斗の提案を受けて体を動かすことにした。

例え八つ当たりでもいい、彼女の抱えているものを吐き出させようと一肌脱ぐことにした白斗だったのだが。

 

 

「甘いっ!」

 

「うぐおわぁっ!?」

 

 

ノワールの鋭い一閃が、白斗を弾き飛ばした。

いざ実戦形式で戦ってみると、女神化していないにも関わらずノワールに掠り傷一つすら付けられないでいる。

自信はあった白斗も、すっかりノワールの太刀筋の前では形無しだ。

 

 

「白斗、貴方の戦い方は虚を突くことに特化し過ぎて正面から受け止めることに慣れてないわ。 対人戦ならまだしも、モンスター相手だと苦労するわよ?」

 

「お、仰る通りで……」

 

 

暗殺者との戦いでは八面六臂の活躍を見せた白斗だが、それはあくまで暗殺者としての戦い方だったからである。

真正面から戦うことをしてこなかったため、正面戦闘はからっきしだったのだ。そのためクエストでもモンスターとの戦闘は案外苦戦を強いられることも多い。

 

 

「白斗はナイフの使い方や体術自体は出来ているわ。 攻撃自体は寧ろ一撃必殺を狙えるのだから、防御中心の真っ向勝負できる立ち回りを軸に訓練しましょう」

 

「へ、へーい……」

 

 

その性質から白斗の攻撃は急所に一撃を打ち込んで即撃破というスタンス。

故に攻撃自体は得意だが、攻められると弱いという典型的なタイプ。それを克服するためにも、ノワールの指導に力が入った。

―――白斗には、傷ついてほしくないから。

 

 

「さぁ、頑張りなさい白斗! この訓練で死ぬか、クエストで死ぬか!!」

 

「ど、どっちも勘弁~~~~~~!!」

 

 

スパルタな特訓に、白斗の叫びが木霊する―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――それから小一時間後。

 

 

「おー、イテテ……ノワールも手加減してくれよなぁ……。 いや、あれで手加減してくれるんだよな……」

 

 

腰を抱えながら歩く白斗、まるで老人のようだ。

元より暗殺者として技術を吸収することに長けていたことが災いし、ノワールの指導もヒートアップしてしまったのだ。

お蔭で立ち回りなどは強化されていると白斗自身受け止めてはいるが、痛みは痛みである。

 

 

「あ、白斗さん……」

 

 

道中、ユニを発見した。

あの後だったため、少し元気がない様子だ。と言ってもいつものことらしく、何とか平静を無理に保とうとしている様子も見受けられる。

 

 

「よぉユニちゃん、今日は午後から上がりだっけ?」

 

「はい。 そういう白斗さんは?」

 

「俺ももう上がっていいって。 さっきまでは鍛錬でシゴかれたしな」

 

 

そんな彼女の気に障らないように、明るくも優しい声色で話しかけた。

本来白斗がここに来たのは慰安旅行のためである。故に仕事を手伝うことはあっても、ノワールは必ず白斗に自由時間を用意してくれるのだ。

今回はその時間がユニと重なったらしい。

 

 

「そっか、白斗さん……本当にすごいですね」

 

「ん? 何が?」

 

「お姉ちゃんに認められてることですよ。 その点、アタシなんてまだまだで……」

 

(うーん、これは重症だな……)

 

 

仕事でも、鍛錬でも、プライベートでも。

ノワールの傍に常に侍っている白斗が、ユニにとっては心底羨ましいようだ。

だが何よりも問題なのはノワールとユニでのコミュニケーションが不十分なこと、お互いに不器用なこと、そして彼女の凝り固まった姉への憧れである。

 

 

(ユニちゃんが姉を理想として仰げば仰ぐほどノワールは頑張って、でその頑張り故に優しく接することが出来ずコミュニケーション取れず仕舞い、でもユニちゃんはそんなノワールが大好きで……と見事な悪循環だなこりゃ)

 

 

ノワールとユニは、やはり姉妹だ。

どちらも相手を思いやること、そして努力家なこと、不器用かつ時々空回りしてしまうことなど共通点は多い。

そんな二人だからこそ、白斗は仲良くなって欲しいと願う。

 

 

「そうだ! 白斗さん、もし良かったらこの後私達と一緒に遊びに行きませんか?」

 

「ん? 私“達”?」

 

「実はこの後、ネプギアが遊びに来るんです。 で、折角なので白斗さんも一緒にどうかってさっき連絡し合ってたところで」

 

(お、こりゃ願っても無いチャンス。 ユニちゃんと交流を深めるためにも、行ける時は積極的に参加しないと)

 

 

ユニとノワールの距離を近づけるためには、今度はユニのことを理解する必要がある。今でも親しい方だが、彼女もどちらかと言えば独りで抱え込みやすいタイプである。

少なくとも彼女が抱いている悩みを素直に打ち明けてくれるくらいに仲良くなれば、きっと彼女達の力になれると考えた。

 

 

「いいぜ。 荷物持ちくらいなってやるさ」

 

「お、気が利きますね! さっすが白斗さん!」

 

「へいへい」

 

 

軽く返事するが、このチャンスを逃すつもりはさらさらない。

一方のユニも白斗やネプギアと一緒に遊べるのが嬉しいらしく、先程の沈んだ空気を一転させてくれた。

それから準備をしてラステイションの街へ出る。

 

 

「で、今日は何をするんだ?」

 

「ネプギアと一緒にお買い物です! 他にもオシャレな喫茶店とかあったら寄ってみたいなーと思ったり」

 

(……それ、傍から見たらネプギアとユニちゃんのデートではなかろうか)

 

 

などと馬鹿な事を思いながらネプギアを探すべく辺りを見回すと。

 

 

「あ! ユニちゃーん! 白斗さーん!!」

 

「ネプギア! こっちこっちー!」

 

「「ひしっ!!」」

 

(マジでデートじゃないのかこれ)

 

 

ネプギアを発見した。

ユニも、ネプギアも、嬉しそうに手を振り、そして互いの体を抱きしめ合う。

百合百合ィな空気を感じつつも、意を決して白斗は二人に話しかける。

 

 

「オホン。 仲良きことは素晴らしきかなと言いたいが、時は金なり。 そろそろ行こうか」

 

「あ、すみません。 盛り上がっちゃって……白斗さんもお久しぶりです!」

 

「おう、ネプギアも元気そうで何よりだ」

 

「ひゃぁっ!? あ、頭撫でないでくださいー!!」

 

 

久しぶりと言ってもまだ三日ほどしか経っていないが、ネプギアにとってはそう感じるほど寂しかったらしい。

そんな彼女の気持ちを労わり、白斗は頭を撫でてあげる。

撫でられたネプギアは言葉だけは拒絶するが、顔は明らかにそれを受け入れていた。

 

 

「むー、アタシにはあんなことしないのに……」

 

「お? ユニちゃんもして欲しいのか? ん~?」

 

「い、いいですっ! っていうか、女の子の髪は簡単に撫でていいものじゃないんですっ!」

 

「悪ぃ悪ぃ。 それじゃ、そろそろ行こうか」

 

 

何やら頬を膨らませるユニ。

からかいながらも白斗は先へ進み、二人はその後へついていく。

 

 

「あれ? なんか……ラステイションの街、変わったのかな?」

 

「どうしたのネプギア?」

 

「いや、街の雰囲気が何ていうかその……以前来た時よりもちょっと綺麗になったっていうのかな?」

 

「ああ、それね。 白斗さん発案の清掃活動のお蔭よ」

 

 

ネプギアがラステイションの街を歩いて感じた違和感、というよりも以前との違い。

それは街に散らばるゴミが以前に比べて格段に少ないことだ。

さすがのノワールは毎朝は参加できないが、その分白斗やユニ、あの時の不良達、更にはノワールを慕う協会職員や衛兵たちがゴミ拾いに参加してくれている。

そしてその姿に刺激された国民たちも、少しずつだが参加してくれているのだ。

 

 

「人は集まってくれてる。 ノワールも時々だが参加して、国民との距離を縮めていければ万々歳だ」

 

「凄いです! …………」

 

「ネプギア、今お姉ちゃんもそうしてくれたらなーって考えてたろ」

 

「い、いえいえっ!? そ、そんなことないですよ? あ、アハハハハハ……」

 

 

図星だな、とジト目になる白斗とユニだった。

兎にも角にもまずはショッピング。何度も言うようにラステイションは貿易大国でもある。故に色々なものが集まる国。

手始めにユニご所望の銃のパーツを買い込むことに。

 

 

「白斗さん! これとかどうでしょうか!? 連射速度がアップしますよ!」

 

「待て待て。 リコイルとか計算に入れないと弾詰まり起こして危険だぞ、ここはこれを取り付けてだな……」

 

「でもそれ規格が合わないですよ」

 

「むう、そうだな……店主、これと同じ機能でサイズが違うものを……」

 

(((……何を話してるんだあの人達……)))

 

 

機械好き、銃マニア、そして銃に精通した元暗殺者。

三人が織りなすマニアックな話は、既に一般ピープルの常識が追い付かないでいる。

だがユニにとっては実に有益な買い物になったらしく、店から出てきた彼女はほくほくとした表情だった。

 

 

「っはぁ~! これは凄い銃が出来上がる……! 白斗さん、ありがとうございます!」

 

「おう。 何なら組み立てとかも手伝うからな」

 

「やったぁ! 正直な所、お姉ちゃんこういうの全然分からないから頼るに頼れなくて……」

 

「あー、まぁこればっかりはなぁ……」

 

 

その光景を想像すると苦笑いしか出てこない。

だが白斗ならば力になれる。ユニの助けになれればと白斗もまた嬉しくなった。

 

 

「それじゃ今度はネプギアの買い物に行くか。 何買うんだ?」

 

「白斗さんの心臓メンテのための機械をですね……」

 

「何だとぉ!?」

 

「そこまで嫌がらないでください。 そもそも私がここにきたもう一つの目的が白斗さんですから」

 

「そういうことか……!」

 

 

もう周知の事実ではあるが、白斗の心臓は機械である。

今までは白斗自らメンテを施してきたというが、心配になったネプギアもメンテに参加している。

ただ白斗として自分を弄られているようで、出来ればお断りしたいのだ。

 

 

「そ、それよりさ! ネプギア、ロボットとか作ってみればいいんじゃないかな!?」

 

「ロボットですか!?」

 

「ああ、そうだな……ネプギアンダムとかどうよ!? 俺も手伝うからさ!!」

 

「おお……いいですね白斗さん! それいただきですっ!」

 

 

何とか機械関連で話を逸らした白斗。

しかし、彼らはまだ知らない。良かれと思って出したネプギアンダムというこの名前、そして後に作られるロボットがとんでもないデザインになるとは。

その後、三人してネプギアの買い物に付き合い、今度は喫茶店へ向かうことに。

 

 

「いらっしゃいませ、ご注文は?」

 

「私はアイスティーとショートケーキ!」

 

「アタシは……エスプレッソとショコラで! 白斗さんは?」

 

「俺は……このノワールブレンド、ブラックで」

 

「畏まりました」

 

 

ウェイトレスが注文を聞き終えて厨房へと戻る。

その際に白斗は周りを見渡した。

今回はテラス席だが、落ち着いた雰囲気と店から聞こえるジャズの曲、周りには植物を植えて癒しの空間を演出している。

 

 

「んー、いい店だな」

 

「もう、白斗さん。 コーヒー飲まずしてそう決めるのは早いですよ」

 

「いや俺には分かる。 この店はアタリだってね」

 

 

得意げに鼻を鳴らす白斗に対し、ネプギアとユニは苦笑いである。

この白斗と言う少年、普段は冷静で大人びているのに妙なところは年相応の無邪気さがある。

そんな点も可愛いと感じていると、テラスの風に吹かれ、いい香りが三人の下へと運ばれた。ウェイトレスが注文の品を持ってきてくれたのだ。

白斗はコーヒーを一口、その苦みとコクを余すことなく味わう。

 

 

「……ん、美味い。 やはりアタリだ」

 

「ですね! ……あの、白斗さんはそのアタシのコーヒーと……」

 

「コーヒーに貴賎なし。 だが、俺はユニちゃんのコーヒーも好きだぜ」

 

「あ、ありがとうございます……って撫でるなぁっ!」

 

 

どうやらまた一つ、ユニの自信が揺らぎそうになる。

こういう時は褒められたり、肯定される言葉が染みるというもの。それに白斗自身、ユニのコーヒーを気に入っていたので温かい言葉と共に頭を撫でてやる。

ユニも、言葉だけは嫌がっているが決してその手を払おうとしない。

 

 

「む……白斗さん! ユニちゃんばっかりズルいです!」

 

「ん? ネプギアもして欲しいのカナ~?」

 

「えっ? あ、しまっ……!」

 

 

思わず口にしてしまい、ネプギアの顔は爆発したかのように赤くなる。

そんな初心で純情な彼女達をからかうのが楽しくて、白斗はついつい笑ってしまう。

 

 

「オイゴラァ! 熱ぃじゃねぇか、アアン!?」

 

「ん? な、何だ何だ?」

 

 

だが、そんな楽しい一時を壊すような怒号が飛び込んできた。

背後から聞こえたので振り返ってみると、一人の柄の悪い男がウェイトレスに詰め寄っている。

凄い剣幕だが、声色と良い態度と言い見ていて気持ちがいいものでは無い。

 

 

「も、申し訳ございません!」

 

「すみませんで済むなら女神様なんざいらねぇんだよ! どーすんだ、俺の手火傷しちまったじゃねぇか!? こりゃ慰謝料ものだぜ!!」

 

(うわぁ……絵に描いたようなDQNだ……。 マジでいるのな……)

 

 

どうやらコーヒーを置こうとしたところ、飛沫が跳ねて男の手に掛かったらしい。

確かに発端はウェイトレスにあるのかもしれないが、彼女は十分な謝罪と誠意を見せており、正直な所責められすぎと言える状態。

とにかくこれ以上は見てられないと白斗が腰を浮かしたところで。

 

 

「ちょっとアンタ、幾ら何でも言い過ぎよ! この人、ちゃんと謝ってるじゃない!」

 

「「ユニちゃん!?」」

 

 

彼よりも早く、ユニが男に詰め寄り、そしてウェイトレスを庇うように前に出た。

腰に手を当て、鋭い視線で男を睨み付ける。

 

 

「あぁ? ンだぁ小娘!? テメェにゃ関係ねぇだろうが!!」

 

「関係ないから何!? アンタみたいなDQNの迷惑行為放っておけないでしょ! 責めるにしてもモラルくらいは守りなさいよ、みっともない!」

 

正論で返すユニ。

ただウェイトレスを庇うだけではなく、彼女の非を認めた上で男の対応を改めるべきだと訴えている。

だが、頭に血が上っている人間ほど自分に不利な正論をかざされるのは逆鱗に触れてしまうもの。

 

 

「うるせぇって言ってんだろぉがァ!!」

 

「っ!?」

 

 

なんとそのままユニに殴り掛かろうとしたのだ。

注意しようと詰め寄ったのが災いし、回避が間に合わない。思わず目を瞑ってこらえようとした、のだが痛みは襲ってこない。

恐る恐る目を開けてみると。

 

 

「……もういいだろ、兄ちゃん?」

 

「は、白斗さん……!」

 

 

更に割り込んだ白斗が、男の拳を受け止めていた。

少年とは思えない握力と鋭い視線で、男が震え上がる。

 

 

「暴力沙汰になれば間違いなくアンタが逮捕されらぁ。 ここで手打ちにしようや」

 

「ふ、ふざけんじゃねぇぞ……! ガキが揃いも揃って歯向かいやがってぇ!!」

 

 

ますます我慢ならなくなったらしい。男は掴まれた手を振り払い、今度は白斗に対し殴り掛かろうとする。

危ない、とユニが叫ぶ中、白斗は冷静にその拳の軌道を見切り、その勢いを利用して裾を掴んで引き込む。

 

 

「ほぉれぇい!!」

 

「ぐほぁ!?」

 

 

そのまま一本背負い。

痛快な音と共に男はテラスの真ん中で情けなく投げられ、背中に強烈な痛みが走った。衝撃で肺の中から息が全て吐き出され、一瞬呼吸が困難になる。

 

 

「……すみません。 俺がこいつの分支払いますんで勘弁してやってください。 その代わり、アンタも今後は気を付けてな」

 

「え……あ、は、はい……」

 

「兄ちゃんも。 コーヒー代払わなくていいから、これ以上痛い思いと赤っ恥を味わいたくなけりゃとっとと失せな」

 

「く、クソ……! もう来るかよ、こんな店!!」

 

 

白斗が折衷案を出し、互いに利と非を認めさせようとする。

ウェイトレスは勿論の事、男の方も白斗の気迫にも実力にも負け、半ば自棄で店を後にした。

後片付けは店員達に任せ、白斗は後ろで震えているユニに振り返る。

 

 

「やれやれだな……ユニちゃん、大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫……です……」

 

 

見た所怪我も無い。しかし、声と体が震えていた。

無理もない、暴力を振るわれそうになったのだからと白斗は思っていたのだが、それにしては少し違う表情を見せていた。

まるで何かに責任を感じているかのような、そんな思いつめた顔だ。

 

 

「……俺らも出ようか。 ネプギア、伝票」

 

「は、はい!」

 

 

さすがに騒がしくなってきた店内には居づらいもの。

少し冷えたコーヒーを飲み干し、白斗は店を後にする。とりあえず腰を掛けようと公園に向かうことになった。

そこはあの早朝清掃での集合に指定される、いつもの公園。ラステイションの憩いの場としても親しまれていた。

 

 

「………………」

 

「ゆ、ユニちゃん……」

 

 

だがベンチに腰を下ろしても、ユニの表情は晴れなかった。

親友であるネプギアが幾ら声をかけても、暗く沈んだ顔色のままだ。

店から離れて、時間が経っているというのにまだ恐怖に震えているのは少しおかしいと白斗も違和感を感じる。

 

 

「おいおい、そんなに怖かったのか?」

 

「……違うん、です……」

 

 

震える声で出てきたのは否定の言葉。

それが引き金となったのか、ユニは少しずつ言葉を発し始める。

 

 

「……アタシ、何とかしなきゃって思って……突っ走っちゃって……。 でも、結局なにも出来なくて……それどころか白斗さんに迷惑ばっかりかけて……」

 

 

どうやら先程の一悶着で責任を感じてしまっているようだ。

こういった抱え込みやすさや責任感が強すぎる面も姉譲りだな、と白斗は苦笑い。

だが当の本人にしてみれば笑い話では済まないらしい。

 

 

「でも、白斗さん……一瞬で解決しちゃって、アタシ、何も出来なくて……全然ダメダメで……!」

 

「ゆ、ユニちゃん? そんなことないよ……」

 

「ネプギアにアタシの何が分かるって言うのよ!? アンタ達姉妹は仲良しだからいいじゃない! アタシ、アタシ……こんなんじゃ……」

 

 

親友であるネプギアの言葉にも耳を貸さない。

日に日に感じる姉との差、埋まらない距離、追い打ちをかけるようにして現れた白斗の存在、更にはプラネテューヌ姉妹の仲の良さ。

それら全てがユニに痛撃を与え、気力を奪おうとしている。

 

 

 

 

「……お姉ちゃんみたいに、完璧になれないっ……!」

 

 

 

 

涙と共に必死になって振り絞った声。

ネプギアは掛ける言葉を見失ってしまい、その場に立ち尽くしてしまう。

 

 

「別にならなくてもいいじゃん」

 

「え……?」

 

 

だが、この男は―――白斗は違った。

真っ向から、ユニの言葉を否定して見せたのだ。そんな言葉を掛けられるとは思っても見なかったユニの涙は止まり、顔を見上げてしまう。

 

 

「ノワールが完璧とかそんなの、本気で思ってるのか?」

 

「だ、だって……! お姉ちゃんは強くて、仕事も出来て、皆から尊敬されて……! 最高の女神なんですよ!?」

 

「そりゃその裏で努力してきたからな。 あいつは努力の天才だが最初から最後まで完璧なんかじゃないさ、誰でもな。 だから、助けたがる人がいる」

 

 

生真面目過ぎて融通が利かない、他人とどこか壁を作ってしまう、人当たりがきつい、不器用、何よりこうして一人で抱え込んでしまうところ。

これは立派な欠点だ。欠点があるからこそ、支えたくなる人が出てくる。

 

 

「ユニちゃんだってそうさ。 確かに完璧じゃない。 だからこそ、その人のいい点が光る。 ユニちゃんにはユニちゃんなりのいい所があるのさ」

 

「……でも、アタシにはそんなところなんて……」

 

 

姉と比べて自分を卑下しがちなユニ。

そんな彼女に勇気を与えるのは白斗ではない、彼女が大好きなノワールの言葉。

だから白斗は“それ”を届けるべく、懐から自身の携帯電話を取り出す。

画面をタップし、あるアプリを開くと―――。

 

 

『……ふと思ったんだが、ノワールってユニちゃんの事どれだけ知ってるんだ?』

 

『……全部、知ってるわ』

 

 

「……え? こ、これ……お姉ちゃんの声……?」

 

 

流れてきたのは、白斗と会話するノワールの声。

しかしそこから聞こえてきたのはいつも彼女が憧れている理想の姉のものではない、落ち込んでいる、ただ一人の女の子としての声だった。

 

 

「実はあの後の会話を録音しておいたんだ。 勿論、ノワールには内緒でな」

 

(白斗さん……まさか、ここまでの展開を見越してたの!?)

 

 

驚いているのはネプギアだ。

こんな録音を用意した、と言うことはユニに聞かせるためだったことに他ならない。

しかもノワールには内緒でということに加え、この会話自体が今朝のもの。あの会話の時点で、ユニを元気づけようとここまで咄嗟に思いついたということだ。

だが、ユニはそんなことまで頭が回らず、必死に聞き耳を立てている。

 

 

『いつも一生懸命で、寂しがり屋で、友達思いで、私と同じく不器用で……でもそんなところも可愛くて……』

 

『ああ、ノワールと同じだな。 まさしく姉妹』

 

 

「……おねえ、ちゃん……」

 

 

いつもなら聞くことのない、褒めちぎるような言葉。

その一つ一つが優しい声色で、とても誇らしげで。今まで自分に見せてくれなかった、姉の姿が目に浮かぶ。

 

 

『努力だって凄いのよ? あの子は隠してるつもりだろうけど……それこそ血の滲むような訓練を欠かして無いの』

 

『俺も見た。 夜遅くまで反復練習……本当に凄いし、心配になっちゃうよな』

 

『でしょう!? ……でも、口を出していいのか分からなくて……』

 

『だよなぁ。 でも、そんなユニちゃんの姿をちゃんと見てるんだ。 ノワールも凄いよ』

 

 

「ええ!? み、見られてたの!?」

 

「はっはっは。 お姉ちゃんは見てるってことさ、俺もな」

 

 

本人としては隠しているつもりだったため、急に恥ずかしさが込み上げてくる。

白斗が更に頭を撫でてくるため、羞恥心に追い打ちが掛かった。

でも、同時に―――嬉しさも込み上げてくる。見ていてくれたのだと。

 

 

『……私は女神。 国民の……そしてあの子の姉として、理想でなきゃいけない』

 

『でも、ホントは違うだろ?』

 

『……うん。 いっぱい褒めてあげたい、いっぱい遊んであげたい……ずっと一緒にいてあげたいの』

 

 

そして、そこに込められていたのは女神ブラックハートではなく、彼女のたった一人の姉ノワールとしての本音と弱音。

絶対に自分には言ってくれない言葉の数々―――そこには、いつもの様な冷たさではない。温かさが確かにあった。

 

 

(……ずっと、見てくれないと思ってた……。 ずっと、届かないと思ってた……)

 

 

恥ずかしさ、嬉しさ、そして温かい涙が込み上げてくる。

憧れで、女神で、大好きな姉がいつも自分の事を気にかけてくれたことに。

それでも泣きたくはないと、ここでも堪えようと口元を押さえているユニ。だがそんな意地などもう必要無い。

 

 

 

 

 

 

『だって、私のたった一人の……自慢の妹なんですもの』

 

 

 

 

 

―――限界だった。

今、ここにがいないけども。大好きな姉から、掛けて欲しい言葉を貰えただけではない、確かな愛情を感じられたから。

今まで閉じ込めていたものが、溢れ出した。

 

 

「うっ、ぐ、ふぁ、ぁ、ぁあああ……うあああああぁぁぁああああああああ……!!」

 

「……良かったね、ユニちゃん」

 

 

人前であるにも関わらず、ユニは泣いた。嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて。

そんな彼女を、少し貰い泣きしたネプギアが優しく抱きしめてあげる。

労わるかのように、支えるかのように、共に喜び合うかのように―――。

 

 

「……よく頑張ったなユニちゃん。 これでもう、大丈夫だろ? ……お姉ちゃんはちゃんと見てくれてる、ちゃんと頑張れてるんだって」

 

「白斗さん……グスッ! はいっ!」

 

 

ようやく落ち着いてきた彼女の頭を、白斗が優しく撫でてあげた。

涙を拭いてあげられた彼女の顔は、眩しいくらいの笑顔だ。

 

 

「それから更にアドバイスだ。 見てて思ったんだが、ユニちゃんの事務能力はノワールより上だと思うぞ」

 

「え? そう……ですか?」

 

「ああ。 今までユニちゃんの書類は記載ミスとか一度もないからな。 ノワール、案外ポカやらかしてるし」

 

 

ノワールだけではない、白斗もしっかりと見ていてくれていた。

まだ滞在して5日目ではあるが、その間に書類には可能な限り目を通していたのである。

その結果導き出した結論、それが事務能力の高さだ。

 

 

「それに気配りも出来る。 だからノワールのような派手さは無いかもしれないが、縁の下の力持ちという意味では比肩する者はいない」

 

「……お姉ちゃんを目指すだけじゃなくて、お姉ちゃんを支えられるってことですか?」

 

「そうだ。 ノワールの前に出るんじゃない、ノワールの背中を守れる存在になればいい。 ユニちゃんならそれが出来る」

 

 

アドバイスする際、白斗は懐からメモ帳を取り出していた。

少し見えただけでも、その情報量は1ページにびっしりと書き込まれている。ユニが持っている能力、長所と短所、彼女のクセなどあらゆるデータがそこにあった。

―――全て、ノワールとユニの距離を縮めるために。旅行中なのに、貴重な時間を割いてまで。

 

 

「……ありがとうございます、白斗さん」

 

「んー? 俺じゃなくてユニちゃん自身が頑張ったから、だろ?」

 

「でも、アタシのためですよね。 これだけのことをしてくれて……」

 

「ただの切っ掛けよ、こんなモン」

 

 

照れ臭くなった白斗が頬を逸らしてしまう。

そんな彼が可愛く映って、ユニは笑ってくれた。ネプギアも一緒に笑ってくれた。

妹達との間に、温かい時間が訪れる。

 

 

 

 

「……白斗さん、本当に……ありがとうございます!」

 

 

 

 

ユニが見せてくれた笑顔は、今日一番の、飛び切りの明るさと眩しさ。

ここ最近、姉絡みで暗かった彼女がやっと解放されたことによるその晴々とした姿。

正直、この笑顔を見れただけでも白斗は旅行しに来た甲斐があった。

 

 

(……本当に、凄いなぁ。 白斗さん……やっぱり、頼れるお兄ちゃんみたい)

 

 

そんな彼を、ユニとは違う羨望の視線を送るネプギア。

ここに至るまでも、常にエスコートしてくれて、どんな話題にも真摯に向き合ってくれて、でもどこか抜けてて、一緒に居て楽しくて、一緒に居たくなる。

性格こそ違うが、彼女にとってのネプテューヌのような存在だ。

 

 

(いいなぁユニちゃん、白斗さんにあんな風に気にかけて貰えて。 白斗さんがお兄ちゃんだったら、あんな風に気にかけて貰えたのかなぁ……)

 

 

つい、ネプギアは想像してしまう。彼が兄だったらと。

姉であるネプテューヌと一緒に遊んで、一緒に食事して、一緒にクエストにいって、一緒にテレビを見て、一緒に笑いあって―――。

想像しただけで楽しくなってしまう。

 

 

「ん? どうしたネプギア?」

 

「ふぇっ? な、何でもないよお兄ちゃん!?」

 

「お、お兄ちゃん!?」

 

「し、しまっ……!?」

 

 

咄嗟に声を掛けられたため、ついつい口に出してしまったネプギア。

当然、白斗は驚きの余り素っ頓狂な声を上げてしまう。

 

 

「ちょ、ネプギア!? まさか、アンタ……!?」

 

「……も、もうこの際です! 白斗さん! 私、白斗さんのことお兄ちゃんって呼んでいいですか!?」

 

「ま、マジで言ってるの!?」

 

「はい! お姉ちゃんがいるけども、白斗さんがお兄ちゃんになってくれたら、もっと楽しくて、もっと幸せになれるって思ったから……ダメ、ですか……?」

 

 

ネプギアほどの美少女に、そんなことを言われて感極まらない男があろうか。

しかも少しの上目遣いと涙声で。

女の子特有の必殺技に、白斗の脳内はクラッときてしまう。

 

 

「……い、嫌でないなら……」

 

「やったぁ! よろしくね、お兄ちゃん!」

 

「うおわぁ!? だ、抱き着くなって!!」

 

 

晴れて白斗が彼女の兄となった。

感極まってネプギアは抱き着いてしまう。いつもの癖から、白斗は左胸から遠ざけようとするが、お構いなしだ。

―――一方で、話の中心であったはずのユニは茫然自失となっている。

 

 

(え? あれ? 可笑しいな……さっきまで白斗さんがアタシを励ましてくれている流れだったはずなのに、なんでネプギアのターンになってるの? なんでアタシ一気に蚊帳の外になってるわけ? なんで白斗さん取られちゃってるのよぉ!?)

 

 

ここで注目すべきはネプギアと白斗の距離が縮まっていること、そしてユニが白斗を取られたことに嫉妬していることである。

 

 

「……だ、だったら! 白斗さんアタシも!」

 

「な、何だ何だ!?」

 

 

ネプギアの反対側からユニが詰め寄る。

先程の笑顔も温かな空気も吹き飛んでの剣幕に白斗もたじろぐ。

何やらユニは緊張した様子だが、深呼吸で調子を整えた末、真っ直ぐと白斗の目を見て口を開いた。

 

 

「……は、白兄ぃって……呼んでいい……ですか?」

 

「は、白兄ぃ!?」

 

 

まさかの愛称だった。

彼女も妹ポジションをご所望だけでなく、より親密な関係になりたいと言っている。

それだけ彼女が白斗を信頼し、そして感謝していることの表れでもあった。

 

 

「なっ!? ゆ、ユニちゃんそう言う路線で……!?」

 

「いいよね!? 白兄ぃ!?」

 

 

期待の籠った視線を向けてくるユニ。

まさか今日だけで妹が二人も……というより、女神候補生全員が兄と慕ってくれるとは夢にも思わなかった白斗。

だが、これだけの信頼を受けて、なお断れる男など男ではない。ふっ、と微笑みを漏らして、白斗は頷く。

 

 

「……ああ。 よろしくな、“ユニ”」

 

「~~~~~!! やったぁ!!!」

 

「のわっ!? だ、抱き着くなっって……!!」

 

「あ、ユニちゃんズルいー!! 私も私もー!!」

 

 

夕焼けのラステイションの街。

そこでは新たに誕生した兄妹達が仲良く戯れていたという―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の晩。

 

 

『白斗!! ネプギアが白斗を“お兄ちゃん”って言ってたけどどういうことなの!? そんな特別な関係になるなんてズルいズルいズルいーっ!! 私だって、私だって……っ!!』

 

「どうしてこうなった!?」

 

 

凄まじい勢いで詰め寄ってくるネプテューヌがいたとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そして翌日の早朝。

 

 

「……ではこれより、組手による実戦訓練を行います」

 

 

まだ空が白んでいる時間帯、この訓練場には三人の人物が集っていた。

一人は審判及び立会人を務める白斗。

そして、彼を挟むようにして立つ二人の少女。この国の女神とその妹、ノワールとユニである。

 

 

「……来たわね、ユニ」

 

「うん! お姉ちゃん、今日もよろしくお願いします!」

 

 

胴着を着込み、姉と向き合うユニ。

その顔は、いつもより晴れやかで、適度な緊張と自信に満ちた表情だった。

 

 

(……どうやら白斗の言葉通り、吹っ切れたらしいわね)

 

 

あの後、何があったかは部下達や白斗からの報告で耳にしている。

具体的にどう吹っ切れたかは知るところではないが、それでも彼女が一皮むけたことは見るだけでも理解できた。

三日会わざれば括目してみよ、という諺があるがその通りだと思う。そんなノワールの脳内に呼び起こされるのは、その際の白斗の言葉だった。

 

 

『え? 賭け?』

 

『そ。 明日、ユニはノワールから一本取る。 そしたら俺の言うこと一つ、聞いてくれないか? 出来なかったらその逆でいいからさ』

 

『……よっぽど自信があるのね、それとも信頼? どっちにしても妬けちゃうわ』

 

 

ノワールに昨夜叩きつけられた挑戦状。

それは単なる賭けではない、彼の自信と信頼の証。そして彼が願う、ノワールとユニの歩み寄りのための最後の一手。

挑発的な言動にはムキになって受け取るノワールも、今回は彼の真意を察し、寧ろ期待を寄せた声色で返したのだった。

 

 

「……さぁ、行くわよユニ! 言っておくけど、私は常に全力よ!」

 

「はい!」

 

 

そんな昨日の一幕を脳裏に思い起こし、ノワールは帯を締め直す。

向けられた彼女の視線は刃のように鋭く、盾のように固い。だが、ユニは怯むことなく立ち向かっていく。

 

 

(白兄ぃ、見てて!! ……アタシ、やっとわかった気がするの!!)

 

 

今、彼女を支えているのは白斗の想いだ。

そしてユニは姉だけではない、白斗にも認められたいという向上心で力を漲らせている。

そこに重圧に苦しんでいる少女はいない。寧ろ自分を高めたくして仕方ない、元気な少女の姿があった。

 

 

『―――最後のアドバイスだユニ。 ノワールとの訓練だが、あいつは常にお前を試してる』

 

『え? 試すって?』

 

『聞いた話だと、ノワールはお前に技や立ち回りを教えた後に実戦形式の訓練を行っている。 そうだろ?』

 

『そうだけど……つまり?』

 

『おっと、これ以上はいけねぇ。 答えは教わるものじゃなくて考えるものだしな』

 

『えー!? 勿体ぶらないでよ白兄ぃ~!!』

 

『はっはっは。 でも大丈夫、ユニならきっと“出来る”さ』

 

 

それは昨夜、今日の早朝訓練が決まった後の事。

白斗からそんな話をされた。

あの時は、兄妹がじゃれつくかのような絡みだけで終わってしまったが、一晩考えてユニは一つの答えを導き出した。

 

 

「やぁぁぁっ!!」

 

(っ……攻撃に隙が無くなってる……! 以前教えたポイントを、ようやくモノにしたってところかしら?)

 

 

胴着を掴もうと伸ばされるユニの手。

しかし漫然と組みに掛かるのではなく、フェイントを織り交ぜた攻撃でノワールの防御をかき乱そうとしている。

それどころかそのフェイントですら下手な反撃を受けないように、届かないと分かれば即引っ込めるなどの対策が見られた。

 

 

「でも、隙は見つけるだけじゃなくて生み出すものよっ!」

 

「うっ!?」

 

 

だが、ノワールの鋭い一手がユニの攻勢を崩した。

風のように早く、針のように鋭く、雨のように無数に襲い掛かる手。ユニは迂闊に組まれないよう、防御に立ち回るので精一杯だった。

 

 

(なんて組手だ……! ノワールはやはり強い……俺だったら、一瞬で投げ飛ばされただろうな……)

 

 

ただ激しいだけではない。隙が一切見当たらないのだ。

集中しているノワールの目は、ユニの隙を一切見逃さず、逆に自身の隙を一切見せない。

攻撃そのものが絶対無敵の防御なるその様に、審判を務めている白斗ですら息を呑んでいた。

 

 

(これは……お姉ちゃんからの問題! どうやって、この攻撃を凌いで……反撃に転ずるか!!)

 

 

あの厳しい訓練の日々が、鮮明に蘇る。姉に教わり、そしてその夜反復練習を幾度となく繰り返してきた。

今まではただ漫然と繰り返すだけだったが、今になって体中に刻み込まれたその動きが、その意味が理解できる。

―――ノワールは常に、訓練での成果を出せるように試しているのだと。

 

 

「―――っ!! やぁっ!!」

 

「く!?」

 

 

死中に活を見出すかのように、ユニがノワールの手を振り払った。

一瞬だけだが、ノワールの体勢は崩れる。

 

 

「やるわねユニ……でも、まだまだぁ!!」

 

 

崩れたのはまさに一瞬だけ、すぐさま反撃に転じるノワール。

猛攻を振り払おうとしたユニの反撃は大振りなもので、その分隙も大きい。

その隙を狙って、素早く手を伸ばすノワールに対し。

 

 

(……そして! これは昨日、白兄ぃが見せてくれた動き!!)

 

 

あの喫茶店で、暴漢から守ってくれた時の事。

逆上した相手の勢いを利用して腕を引き込み、担ぐようにしてその腕を抱える。

 

 

「あっ……!?」

 

 

今のノワールは、まさにその態勢だった。

ユニが「自ら作った隙」を的確に突き過ぎて、咄嗟に手を伸ばしてしまったのだ。その勢いを利用して、ユニはノワールを背中に抱える。

体を屈め、全体をバネに変えて、そして一気に担ぎ上げる。

 

 

 

 

「白兄ぃ直伝!! 一・本・背負いいいいいいいいいいいいっ!!!!!」

 

 

 

 

―――ノワールの景色が、くるりと一回転した。

背中に衝撃が訪れる直前、彼女の視界に飛び込んだのは、汗に塗れながらもひたすらやり遂げようとしている妹の顔。

 

 

(……凄いじゃない、ユニ……)

 

 

そして、痛快な音が訓練場に響き渡った。

音も、動きも、時すら止まったかのように何もかもが停止している。

食い入るように見つめていた白斗も、投げられたノワールも、そしてやり遂げたユニも。何もかもが止まっていた。

 

 

「……白斗、何やってるの? 審判なのよ。 さっさと宣言して頂戴」

 

「……あ、ああ! 悪ぃ!」

 

 

一体、誰が、何をやり遂げたのか。

ノワールだけがいち早く、その事実を認識していた。

彼女の言葉でようやく我に返った白斗が、笑顔ながら高らかに宣言する。

 

 

 

 

 

「背負い投げ、一本! 勝者、ユニ!!」

 

 

 

 

 

勝者―――もう、一生聞くことすらないと思っていた言葉。

それがユニには信じられなくて、耳にしているはずなのに遠く聞こえる。

 

 

「……え? あ、アタシ……やったの……?」

 

「そうよ。 貴方はやり遂げたのよ」

 

 

目の前の光景すら信じられなくて茫然としている中、立ち上がったノワールは胴着に付いた埃を払い、彼女の目の前に歩いてくる。

そして―――。

 

 

 

「……凄いわ、ユニ。 さすがは私の自慢の妹ね」

 

 

 

優しく、抱きしめてあげた。

言葉だけではない、こんなにも優しく、自分を褒めてくれるような行動すらもうしてくれないと思っていたから。

ユニの瞳から、氷が溶けだしたかのように涙が溢れてくる。

 

 

「あ………ああぁ……お、お姉ちゃん……アタシ、アタシ……!」

 

「……ごめんなさい、今まで冷たいことしか言えなくて……。 でも、今だから言える……貴女の努力は、誇れるものだって。 貴方自身にも、そして私にも」

 

「う、ううぅぅ……うわぁ、あ……あぁああああああああ!!!」

 

 

惜しみない称賛の言葉で、ユニの涙腺が一気に崩壊した。

同時に、地平線から太陽が昇り切り、輝かしい朝日が差し込んでくる。

まるでユニの成長を、そして歩み寄った黒の女神姉妹を祝福するかのように。

 

 

(どうだ、俺の言った通りになったろ?)

 

(……ええ、貴方のお蔭よ白斗)

 

(それを言うならノワールだって最後の取っ組み合い、大振りで少し雑だったぜ?)

 

(さぁ、どうかしらね?)

 

 

あくまでユニには聞こえないくらいの音量で話し合う白斗たち。

だが、それでも彼女の成長と実力に変わりはない。

 

 

「さて、んじゃノワールには俺の言うことを一つ聞いてもらおうかな?」

 

「はいはい、何を聞けばいいのよ?」

 

 

そう言えばそんな約束をしていた、とノワールも肩を竦める。

正直ユニを賭けのダシにされたのはいい気分ではないが、それ以上に今はユニと歩み寄れたことが何よりも嬉しい。

だからどんなお願いでも聞いてやろう、とノワールは軽い気持ちだった。

 

 

「今日一日、ユニと過ごしてやれ。 ……お姉ちゃんとして、な」

 

「え? は、白斗……」

 

「ユニもそうだが、お前だって寂しかったんだからな」

 

 

優しくノワールの頭を撫でてあげた。

辛かったのはユニだけではない、そんな言動しか取れなかったノワール自身も辛かったのだと白斗は彼女を労わった。

そんな彼の心遣いが嬉しくて、ノワールは顔を赤らめて俯いてしまう。

 

 

「あー! 白兄ぃ! アタシが一番頑張ったんだからアタシを褒めてよね!」

 

「え!? 白兄ぃ!? ユニまで白斗をお兄ちゃん扱い!? ってそう言えばいつの間にかユニの事を呼び捨てに……!!」

 

「はいはい、ユニも偉い偉いっと」

 

「うにゃー……撫でられたくらいで……でも、許しちゃうんだなぁ……」

 

「ゆ、ユニがそんな猫みたいな……って言うか一から説明しなさーい!!」

 

「おっと、そろそろ朝の清掃活動に行かないとー!!」

 

「ま、待ちなさーい!!!」

 

 

問い詰めようとするノワールを避けようと、わざとらしい声を上げて白斗は逃げる。

そんな彼を追いかけようとするノワールとの追いかけっこが始まってしまった。

先程まで激しい組手をしていたはずなのに軽快に動ける姉の姿を見て、ユニはまだまだ精進しなければと思う。

けども、確実に姉との距離が縮まった。

 

 

 

 

 

(……ありがと、白兄ぃ。 アタシ……白兄ぃのおかげで、頑張れるから)

 

 

 

 

 

―――それからケイの報告書にある一筆が加えられた。

『女神姉妹は、やっと本当の意味でスタートラインを切れた』と。




サブタイの元ネタ「涼宮ハルヒの憂鬱」より

さぁ、とうとうシスターズ全員に「お兄ちゃん」と仰がれるように。
ユニちゃんは気の強さとその裏にある可愛らしさが出すのが難しくて、だからこそ挑戦し甲斐がありました。
それで他のシスターズと一線を画すために呼び名にも一工夫。最初は「お兄ちゃん」でもいいかなと思いましたが、パイオニア達とは違った味を出すためにこのような路線に。
さて、次回はラステイション編最終話!ズバリ、ノワールとのデート話!お楽しみに!
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