恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART   作:カスケード

15 / 69
第十四話 そして黒の女神は、恋に落ちる音を聞いた

―――それは、ノワールとユニが本当の姉妹としてのスタートラインを切った日の夜だった。

 

 

「ふんふふーん♪」

 

「おや、上機嫌じゃないか白斗。 鼻歌なんか歌ったりして」

 

「そりゃそうですよケイさん。 ノワールとユニが仲良くなったんですから」

 

 

二人の少年と少女は、教会の廊下を文字通りふらついていた。

一人はこの国の教祖である神宮寺ケイ、そしてもう一人はこの国に旅行という名目でやってきた黒原白斗。

本日はノワールとユニがやっとわかり合えたということでいつも以上に二人が仕事を張り切り、結果今日の仕事が想像以上に早く終わったのだ。

それ以前に、二人がやっと仲良くなれたという事実が白斗とケイにとって何よりの朗報である。

 

 

「白斗、教祖として僕からも感謝している」

 

「姉妹が仲良くするなんて当然の事じゃないッスか。 ……溝が出来たままなんて、悲しすぎますから」

 

「……そうか。 とにかく助かったよ。 ではまた夕食に」

 

「はいよ」

 

 

これでようやく重圧から解放される。

二人は別れ、各々の部屋へ戻ることにした。後は夕食と風呂を残すのみ。

疲れ切った体をベッドに預け、白斗は天井を仰ぐ。

 

 

(……疲れたけど、ノワールとユニが幸せそうで良かった……)

 

 

このラステイションに訪れての初日、ノワールとユニの間に出来てしまった溝を感じて、白斗が固めた決意。

何としても二人を近づけさせるという最大の目標は叶った。しかし早くももう六日目。

明日一日だけがラステイションに居られる時間。明後日には次なる国ルウィーへと飛び立つ。

何だかんだでこの部屋にも愛着がわいてきたところなので、寂寥感も生まれてくる。

 

 

『白斗……ちょっといいかしら?』

 

「ノワール? いいぞー」

 

 

ノックと共に聞こえてきたのはノワールの声。

控えめに開けられた扉、その向こうに居たのはいつものツインテールを揺らしているノワールだった。

だがその顔はいつも以上に晴れやかである。

 

 

「ユニとの一時、楽しかったか?」

 

「ええ。 ……ありがとう、白斗。 全部貴方のおかげよ」

 

「だーかーらー。 俺は別に……んむっ?」

 

 

恩を着せるつもりは無いと、白斗が口を開きかけたが出来なかった。

ノワールが、その柔らかな指先を白斗の唇に押し当てていたからだ。

 

 

「こういう時は素直に受け取っておくものよ。 ……貴方には守ってもらったり、助けてもらったり、支えてもらったり……感謝してもし切れないわ」

 

 

白斗でも分かる。ノワールは素直になれない少女だったと。

それがどうだろうか、今ではこんなにも素直に気持ちを打ち明けてくれている。そんな彼女が可愛らしくて、白斗は体温が急激に上がらずにはいられない。

 

 

「それからごめんなさい。 旅行に招待したって言うのに、結局仕事とかさせちゃって……今日だって……」

 

「それは俺自身が申し出たんだ。 気にすることじゃないってば」

 

「でも、本当は白斗にゆっくり羽を伸ばしてもらいたかったの……。 仕事もクエストも忘れて、自由を謳歌してもらいたかった……」

 

 

それだけが、ノワールにとっての気掛かりのようだ。

秘書になって欲しいと言ったのは事実だが、それ以前にこの旅行中では本当に仕事をさせるつもりは無かったのだ。

ただ楽しく遊んで、少しでも思い出を作って欲しかっただけなのだと。

 

 

「……だからね、明日。 最後になっちゃうけど……私も貴方も、仕事を休んで一日中遊びましょう?」

 

 

真面目なノワールからだと、絶対聞けないはずの台詞だ。

ノワール自身、それを自覚している。

それもこれも彼―――白斗だからそう言えるのだ。

 

 

「いいのか? 仕事の方は……」

 

「ケイとユニがやってくれるわ。 特にユニがやるんだーって聞かなくて。 ……あの子も、白斗に自由な時間を楽しんで欲しいのよ」

 

 

新たな妹分であるユニもまた、白斗に絶大な感謝と信頼を寄せていた。

仕事の代行を申し出たのも、全て白斗のためだと。

そして教祖であるケイも惜しみない助力をしてくれる。であれば、ノワールの言う通り素直に受け取らないのは寧ろ失礼に値する。

 

 

「……分かった。 明日一日、よろしくなノワール」

 

「ええ!」

 

 

約束を交わせば、ノワールは更に笑顔になってくれる。

白斗も、ようやく彼女と本格的に遊べることに明日が待ち遠しくなっていた。嬉しさの余り、ノワールは部屋飛び出していく。

華麗なステップに鼻歌とコスプレをしている時以上に上機嫌だった。

 

 

 

 

 

((……あれ、これってデートと言うのではないだろうか?))

 

 

 

 

 

―――それを自覚すると、互いに顔を赤くしてしまうのはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――次の日。

朝食を食べ終え、珍しく髪型も整えた白斗があの公園で佇んでいた。

ただ立っているのではない、待っているのである。

現在時刻、9時5分前。約束の9時まであともう少しだ。

 

 

(……それにしても、待ち合わせから始めるとは)

 

 

合理的なノワールなら、一緒に教会を出ることも考えたはずだがそこは年頃の女の子。

どうやら待ち合わせなるものを体験してみたかったようである。

白斗自身も当然初めてであるため、自覚する度に体温の上昇を感じてしまう。

 

 

「あれ? アニキじゃないッスか!」

 

「ん? おお、お前らか。 そっか、今日は店休みなんだな」

 

 

そこに通りかかったのは、白斗が更生させた元・不良達。

本来であれば仕事をやっている時間なのだが、肝心のバイト先が店休日らしい。

彼らは所謂オフで、久々に街へ繰り出そうとしていたようだ。

 

 

「そういうアニキは? 何かやたら気合入ってるッスけど」

 

「……あ、分かった! 女神様とデートなんでしょ~?」

 

「なっ!? で、でででデートなワケあるかぁ!!?」

 

 

顔を真っ赤にして否定するも、図星である。

彼を弄れるいいネタが手に入ったと言わんばかりに、彼らの反撃が始まる。

 

 

「じゃぁ今、何してるんスか?」

 

「……待ち合わせ」

 

「誰と待ち合わせてんスか?」

 

「……ノワール」

 

「ノワール様とどうする予定で?」

 

「……街中をぶらり」

 

「「「デートじゃん!!」」」

 

「デートなのか!?」

 

 

デートだった。

 

 

「んじゃぁ、デートの邪魔しちゃ悪ィし」

 

「お邪魔蟲は退散するとしますかね~」

 

「大丈夫! 誰かに言いふらしたりしねーからよぉ~」

 

「お・ま・え・らぁ~~~~~ッ!!!!!」

 

「「「きゃー♪ 逃っげろー☆」」」

 

 

すっかりからかわれた白斗の顔は茹蛸よろしく真っ赤だ。

そんな彼など怖くも無いと言わんばかり、悪友となった男達が走り去っていく。

はぁ、とため息をついて顔を見上げると。

 

 

「……お、お待たせ。 白斗……」

 

「……ノワー、ル……?」

 

 

ノワールが、いた。

いつものツインテールではなく、ストレートに下ろした黒髪が風に靡いている。

服装もホットパンツにニーハイソックス、ピンク色の上着と動きやすさと可愛らしさを両立させたものとなっていた。

 

 

「……ど、どう……かな……」

 

「………可愛い………」

 

「え?」

 

「ッ!? い、いやぁ!! まるで別人だって思ったから言葉が見つかんなかったぜ!? あ、アハハハハハハハハハ!!」

 

 

いつもとは違うノワールの姿に白斗が漏らしてしまった感想。

うっかりで飾り気のない言葉だからこそ、偽らざる彼の本心。

思わず誤魔化してしまう白斗だが、当然ノワールの耳には届いていた。

 

 

(……ふふっ! 褒めて貰っちゃった……♪)

 

 

気合を入れた服、何より可愛いと褒めて貰えたこと。

ノワールにとってはまさに天にも昇るような心地だ。

白斗には見せられないが、頬が緩んで仕方がない。それでも何とか引き締めた。

 

 

「にしても、普通の服もあったんだな」

 

「何よ、私がコスプレ衣装しか買ってないみたいな言い方して」

 

「え?」

 

「白斗、歯を食いしばれ」

 

「悪かった!! だから腰を落として真っ直ぐ相手を突くような拳しないでぇ!!」

 

 

震える拳を引っ込め、やれやれと息を吐くノワール。

兎にも角にも、今日一日がここから始まる。大きく息を吸い込み、気持ちを切り替える。

 

 

「全く……。 それじゃ―――行きましょ!」

 

「……はいよ」

 

 

二人は一緒にラステイションの街へと歩き出した。

ノワールにとっては当然だが、白斗もこの周辺は何度も歩き回った。今では脳内の地図にはこの周辺の店やオススメまで全て網羅している。

―――はずなのに、何故か自分が知っている街とは全く異なっているような気分になった。

 

 

「……なんか、こうして二人で歩くのって入国ん時以来だな」

 

「そうね。 ……でも、本当は私……こうして白斗と一緒に遊びたかったの」

 

 

旅行に誘ったのも、彼に羽を伸ばしてもらいたかったから。

同時に彼と過ごしたかったから。どうしてなのかは、ノワールもまだ気付いていない。

いや、気づきかけてはいるがその想いの名前がまだ分からない。だから、それを知りたくて彼を呼んだ。

きっと、他の女神達も似たような理由なのだろう。

 

 

「……ありがとな。 んじゃ、今日はリクエストにお応えして遊び倒しますか!」

 

「ええ! まずは私オススメのゲームセンターよ!!」

 

 

デートと言えば、買い物や喫茶店など多くのスポットがあるがそこでゲームセンターをチョイスしてくる辺りがさすがゲイムギョウ界。

けれども、思えば彼女とゲームで遊んだことは殆どなかった。これは興味深い経験になると、白斗も着いていくことにした。

 

 

「ここがラステイションの中でもガチ勢が集う、屈指の強豪店よ」

 

「おお、プラネテューヌに負けず劣らずの盛況ぶりだな」

 

「遊ぶならプラネテューヌなんて言うけど、娯楽にだって力入れてるんだから。 で、白斗はどれで遊びたい?」

 

 

ゲームセンターというだけあって、その種類は様々だ。

ユニの好きなガンシューティングもあれば、レースゲームや格闘ゲームなど盛りだくさん。正直色々目移りしてしまうが、中でも目に留まったものが一つ。

 

 

「ノワール、あの音ゲーとかどうだ?」

 

「音ゲー? ああ、シェイク・シェイク・レボリューションね。 面白そう!」

 

 

白斗が指差したのは、ダンスを取り入れたゲーム。

最新の技術を用いて足の動きだけでなく手や顔の動き方まで採点してくれるというもの。

ノワールの恰好が動きやすさを重視しているのもあって満場一致。早速二人で遊んでみることに。

 

 

「で、白斗。 曲は何にする?」

 

「そーだな……君に決めたっと!」

 

 

どうやらチョイスは白斗に任せてくれるようだ。

ならばとステップを踏んでカーソルを移動させれば、曲が選択される。

曲名―――「流星のビヴロスト」。

 

 

「5pb.の曲じゃない。 ……何? ハマったの?」

 

「……恥ずかしながら……」

 

「ハッキリ言って複雑だけど……いいわ! 負けないから!」

 

「っしゃぁ! 俺だって負けないぜ!」

 

 

白斗は知らない。彼が言う「負けない」とノワールの言う「負けない」とでは対象と想いが違うことを。

それでも彼らは流れてくるメロディーに乗ってステップを刻み、手を振り、顔を動かす。

あの人見知りな彼女からは想像も出来ないほどの力強い歌声に体が勝手にリズムを刻む。歌が彼らの体を動かしてくれる。

 

 

「はっははは! 何だ、ノワールすげぇ動きするな!」

 

「白斗こそ! でも私、まだまだ本気じゃないから!」

 

「面白ぇ! こっちこそフルスロットルだ!!」

 

「うっかりオーバーロード・ハートなんてしないでよね!!」

 

 

歌とダンスと、そして二人の楽しむ気持ちが一つになる。

華麗、スタイリッシュ、そして楽しいことこの上ないダンスが周りの客たちを魅了していく。

飛び散る汗ですら美しさを醸し出す演出、観客たちの喝采すら音楽の一部となる。

 

 

―――君がそこにいるから―――

 

 

やがて歌が止まり、二人のダンスも終わる。

息が上がり、汗も止まらず、心臓も激しく脈を打っている。にも拘らず、心地よい疲労感、そして惜しみない拍手と称賛の声が白斗とノワールを包んだ。

そして点数が表示される。白斗89点、ノワールは―――91点。

 

 

「っはぁー、負けた負けたぁー。 でも楽しかったな!」

 

「ええ! ふふ、正直勝ち負けなんてどうでもよくなっちゃった。 ……いえ、この子には負けたくないけど」

 

「何の話だ?」

 

 

得点は僅差でノワールの勝利だったが、それ以上に楽しいダンスが出来たことが何よりも嬉しかった。

そんな中、ノワールはそれとは別にこの歌手に対する妙なライバル意識を絶やすことは無かったが。

 

 

「何だあいつら!? 凄かったな!」

 

「ああ、見るからにカップルなのが惜しい……ってあの彼女の方、見たこと無いか?」

 

「確かに……誰かに似てるような……」

 

「あれ? ブラックハート様……に見えなくもないよーな……」

 

 

どうやら一部の観客たちは気づき始めたようだ。

カップル扱いは悪い気はしないが、さすがに大騒ぎになるのはまずいと判断する。

 

 

「あらら。 ノワール、ここは戦略的撤退だ」

 

「そうね。 あーあ、もうちょっと遊びたかったなぁ……」

 

 

もう少し遊んでいたかったが、下手にスキャンダル扱いされても困る。

二人はそそくさとゲームセンターを後にした。

元々普段とは全く違う髪型や服装、そして雰囲気だったことが幸いしたのかその後は大した騒ぎにもならず、SNSにも大したニュースにはならなかった。

 

 

「さて、次はどーする?」

 

「そうね。 体動かして疲れちゃったから……映画! 映画見ましょう!」

 

「映画か……いいな! 何か面白いのやってるといいんだけどなー」

 

 

次もデートの定番、映画鑑賞。

異議はないと二人揃って映画館の前に到着した。様々なポスターやPVなどで派手な宣伝活動が行われており、客足も好調なようだ。

 

 

「さて、俺はこの世界の流行りとか知らないから今度はノワールにお任せしよう」

 

「任されました♪ それじゃ、こういう時は話題作よね!」

 

 

ノワールが指差した先のは、今一番人気だというSFのアニメ映画。

SFという部分に興味がそそられ、白斗も文句なくそれを受け入れる。

幸い、席は確保できたので次映画館の定番を買い込むことに。

 

 

「映画館と言えばコーラとポップコーンよね~」

 

「もうすぐ昼飯だから食べ過ぎないように」

 

「わ、分かってるわよ!」

 

「ならよろしい。 ……ところで、どうして映画館にはコーラとポップコーンなんだろうか」

 

「そう言えばそうよね。 なんでかしら?」

 

 

この黄金律を生み出した偉大な人物は一体誰なのだろうか。

その答えは出ないまま、二人は場内へと足を運ぶ。席に座ると早速暗くなり、話題作や放映予定の映画の予告ムービーが流れる。

 

 

(この映画館の予告とか見ないと落ち着かないよな~)

 

(そうよね~)

 

 

新作に対する期待を高め、そして映画館の雰囲気へと酔わせるこの予告の時間も映画の醍醐味である。

その後、本編が始まり、壮大な音楽と派手なアニメーション、声優の熱演による名場面の応酬で白斗とノワールの興奮はもう止まらない。

笑いあり、興奮あり、涙あり。まさしく話題作に相応しい見所のオンパレード。

―――そして最後には、主人公とヒロインが故郷に戻り、夕焼けの公園で告白するというラブシーンで幕を閉じる。

 

 

『……ずっと前から、君に恋してた……』

 

『……うん。 私も……あなたに、恋してました……』

 

(なんというベタな展開……しかし、前半がハードだったからこそこんなシンプルな台詞が活きるなぁ……)

 

 

白斗の場合は純粋にストーリーを楽しんでいた。

彼自身恋愛ごとには疎かったが、それでも顔が火照ってきてしまう。

一方のノワールは、そのラブシーンを食い入るように見つめていた。

 

 

(……好きな人と結ばれた、かぁ……)

 

 

好きな人と恋に落ちる―――それは女の子にとって、誰もが憧れる素敵な夢。

彼女は思わず画面の中のヒロインに自分の姿を重ねてしまう。

そして結ばれる主人公、その姿に投影される人物は―――。

 

 

「ノワール? 終わったぞ?」

 

「……ハッ!?」

 

 

突然体全体が揺らされる。反応を見せない彼女を心配に思った白斗が揺さぶったのだ。

気が付けばスタッフロールも終わり、館内が明るくなっている。

既に客たちは帰り支度を始めており、寧ろノワールと白斗が最後尾になりつつあった。

 

 

「どうした? 顔が赤いが……」

 

「い、いや! その……最後のラブシーンで照れちゃって!」

 

「あー、分かるなぁ。 でも俺的に一押しはやっぱ戦闘シーンで……」

 

 

その後も互いに映画の感想や見所を上げていく。

確かに映画は面白かった。白斗とのトークも弾む。にも関わらず、ノワールの脳内には常にあの映画のワンシーンが脳裏にちらついて仕方がない。

 

 

(……もし、白斗とそんな風になれたら……)

 

 

―――どれだけ、幸せなのだろうか。

そんなことを思いながら、ノワールは白斗の傍を歩いていく。

 

 

「……んで、昼飯はどうするよ?」

 

「そ、そうね……折角だからこの情報誌に載ってるお店とかどう!?」

 

「どれどれ~……ほぉほぉ、オシャレな店じゃないか」

 

「ひゃっ!?」

 

 

ここで次なる話題は昼食へと移る。時計は12時を過ぎ、ポップコーンなども腹に入れたとは言え、昼食はしっかりと食べなくては。

そこでノワールがバックから取り出したのは、ラステイションのスポットを紹介する雑誌だった。それを覗き込もうと白斗が近寄ってくる。急接近する彼の顔に、ノワールは可愛らしい声を上げた。

 

 

(もー! 白斗ったら~! 何でこう、ドキッとするようなことをサラッとして本人はケロッとしてるのよぉ~……)

 

 

白斗は今の状況に全く気付いていない。

それが尚の事、ノワールをやきもきさせていた。その後、情報誌に掲載されていたレストランへ赴いたが、そこまでの道のりははっきりとは覚えていないノワールであった。

気が付けば自分の目の前にはビーフストロガノフが、白斗の目の前にはハンバーグが置かれている。

 

 

「ビーフストロガノフとは……ノワールのチョイスはオシャレだな」

 

「白斗はハンバーグ……ふふ、ちょっと可愛い♪」

 

「なっ!? は、ハンバーグくらい普通だろ!?」

 

「はいはい、そうねー」

 

「……なんだろか、この母親に頭を撫でられた気分は」

 

(母親扱いは……嬉しくないわね)

 

 

などと思いつつもそれぞれの昼食にありつく。

ノワールが注文したビーフストロガノフは、肉や野菜の味がしっかりと溶け込み、口の中に濃厚な味わいが広がる。

白斗が選んだハンバーグは肉汁たっぷりで、噛めば噛むほど肉の味が溶けていく。

 

 

「ん~、んまい! ラステイションにハズレ無し、だな」

 

「でしょう? ……って白斗、ソースついてるわよ」

 

「ん? どこだ?」

 

「そこじゃなくて……もう、仕方ないわね。 拭いてあげるから動かないで」

 

 

料理の味は二人とも大満足だったようで、あれよあれよという間に箸が進んでいく。だが勢いの余り、白斗の頬にソースが飛び散ってしまっていた。

指摘された白斗は紙ナプキンを手に頬を拭いているが全くの見当違い。じれったく感じてしまったノワールが、彼の頬を拭くため手を伸ばした。

 

 

(ちょ!? ノワール近ぇよ!?)

 

 

彼女の顔が近づいてい来る。この男、先程似たようなことをしたにも関わらずこの始末である。

だがそれだけではない、白斗の顔を固定しようとノワールが彼の頬に手を添えたのだ。少し冷たくも、綺麗な指先の感触が白斗に伝わってくる。

 

 

「はい、取れたわよ」

 

「ド、ドウモ……」

 

「? 何顔を赤くして…………、っ!?」

 

 

さすがに白斗ほど鈍くはなかったノワール。

ようやく自分の行動と距離間に気づき、ぼっと顔を赤くさせてしまう。

恥ずかしさの余り二人は声も出せず、少しの間無言の空気が続いた。

 

 

((……間が持たない……))

 

 

とりあえず、残った料理を口に運ぶ。

しかし不思議なことに、あれだけ美味しかったはずの料理の味が一切感じられなかった。

逆にそんな彼らの様子をまざまざと見せつけられた他の客たちはと言うと。

 

 

「店員!! カレーじゃカレー!!」

 

「コーヒー持ってこいやぁ!! カフェイン注入ぅ!!」

 

「塩たっぷりの味噌汁!! こんな甘ったるい空気クソ喰らえじゃあああ!!」

 

 

吠えていた。(主に男性限定)

 

 

「……そ、そろそろ出ましょうか。 伝票伝票」

 

「おっと、こういう時は男が出すモンだろ?」

 

「え、でも……」

 

「これくらいさせてくれよ」

 

(((ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!)))

 

 

また男達が吠えた。心の中で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――その後も、彼らはラステイションの街を遊びまわった。

買い物ではノワールの新しい服を見たり、新作ゲームをチェックしたり。ラステイションの街並みを一望できるスポットや博物館、雰囲気のある喫茶店で一休み。

ノワールですら新発見のある、充実した時間を過ごした。

 

 

 

だが、時間は過ぎるもの。やがて時刻は6時、夕方を迎える。

 

 

 

「ふぅー……今日はメチャクチャ楽しかった!」

 

「楽しんでもらえてよかったわ。 やっと旅行の面目躍如ってところね」

 

「旅行に面目躍如っておかしい気もするが、まぁいいか。 とにかく、ノワールが作った国は凄い! この一言に尽きるな!」

 

「ザックリ纏められるといまいち伝わらないわね……」

 

 

夕方の公園で、彼らはベンチに腰を掛けていた。

噴水のあるこの公園はあの清掃活動の集合場所として、そして人々の憩いの場としてすっかりお馴染みだ。

だが烏が鳴き出すこの時間帯になれば、元気な子供達も家へと帰ってしまっている。いるのはただ二人、白斗とノワールのみだ。

 

 

「……ノワール、ありがとな。 俺、この国に来てよかったよ」

 

「そう言ってもらえると、本当に救われた気分になるわ。 もうこのまま永住しちゃえば? 女神権限ですぐ手続するわよ。 当然秘書官として……」

 

「ありがたいが、まだ他の国回ってないしな」

 

「むぅ……」

 

 

結局勧誘するもやんわりと断られてしまう。

白斗からすれば戯れに聞こえたのかもしれないが、ノワールからすれば本気も本気だった。

故に少し剥れてしまうが、今はこの楽しい雰囲気を壊すべきではないと切り替える。

 

 

「……さて、そろそろ帰るか……うぉ!?」

 

 

もう時間も時間、そろそろ帰らなければならない。

そう思ってベンチから立ち上がろうとしたのだが、白斗の手が引かれてしまい、立ち上がれない。

―――ノワールに、その手が握られていたから。

 

 

「……まだ、帰りたくない……」

 

「……そう、だな」

 

 

そんな寂しそうな声と顔をされては、白斗も断る理由がない。

ゆっくりと腰を下ろし、背もたれに体重を預ける。

工業大国として名を馳せているラステイションも、今では噴水の音と烏の泣き声くらいしか聞こえない。

静かで、しかしどこか寂しい時間が二人の間に流れる。

 

 

「……白斗」

 

「え……」

 

 

その時、綺麗な感覚がするりと白斗の手に入ってきた。

ノワールの手が、指が、絡んできたのだ。

柔らかく、少し冷たい、でも優しい感触が白斗の動きを止める。

 

 

「…………ねぇ、最後にお願い………していい?」

 

「最後なんて言わず、ドーンと来なさいっての」

 

 

少し体をもじもじさせながら、ノワールが口を開いた。

声が震えている。緊張しているからだ。

そんな彼女の緊張を解こうと、白斗は敢えて自信満々な態度で受けて立つ。

 

 

「……確か、あの映画のラストシーンって……こんな感じの夕暮れの公園だったわよね?」

 

「え? ああ……そう言えば、そうだな……」

 

「……それ、やって欲しいの……ダメ?」

 

 

いつかのコスプレ騒動の時のように、あの名場面の再現をしたいようだ。

尤も今手元にコスプレ衣装はない。

だが、周りに人の気配はなく、シチュエーションとしては最高の舞台。ただ、ノワールとしては再現がしたいだけではないようだが。

 

 

「……そんな顔されて嫌だって言える男がいるかよ」

 

「……っ! ありがとうっ!!」

 

 

白斗自身、恥ずかしさはあったがそんな彼の顔色はきっと夕焼けが隠してくれるだろう。

承諾した時のノワールの顔は、本当に幸せの頂点と言わんばかりの輝かしさだ。

噴水を背景に彼らは手を取り合い、息を潜めて。

 

 

 

 

 

 

「……ずっと前から、君に恋してた……」

 

 

 

 

 

白斗が告げてくれた言葉。

彼からしたら、あの映画の再現。単なる演技だったのかもしれない。

それでも、その言葉を受けて。これまでの思い出を振り返って。そして彼女の中の想いを感じて。

―――ドクン、と心臓が打ち鳴らされた。

 

 

 

 

 

(……白斗の声……温かくて、幸せになれる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

恋、してる………。 そう言われたら、ドキドキして、嬉しくなって……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……“恋”……そっか。 私……白斗に……恋、してたんだ……)

 

 

―――そして黒の女神は、恋に落ちる音を聞いた。

 

 

(白斗が気になってたのも……傍に居て欲しかったのも……傷ついてほしくなかったのも、白斗が嬉しいと私が嬉しいのも……恋、してたからなんだ……)

 

 

ノワールは己の中に燻る、その感情の名前をやっと見つけた。

何故、彼がこんなにも気になるのか。何故、彼がいてくれないと不機嫌になるのか。何故、彼と一緒だと嬉しくて仕方がないのか。

今まで己の中に抱いていた最大の疑問が今、氷解した。優しく、ゆっくりと。

 

 

(……好き、白斗の事が好き。 好き、好き……あーもうっ! 大好きっ!)

 

 

自分の中に芽生えた感情―――白斗への恋慕。

それを自覚した途端、今までの反動が襲ってきたかのようにノワールの心は白斗一色に染め上げられる。

 

 

(助けてくれたカッコイイ白斗も、助けてくれる優しい白斗も、私のために怒ってくれる真剣な白斗も……みんな大好き! あはは……もう、私ってばどうして気付かなかったのかしら!?)

 

 

彼の一挙一動で心がときめき、息が荒くなる。でも、幸せになれた。

女神として誕生してからもう長い年月が経つ。

ラステイションと言う国を興し、ユニという妹が出来、ネプテューヌ達とも知り合った。けれども、彼女をここまで恋に落とした人などいなかった。

 

 

(―――白斗に出会う直前の、あの夜……『素敵な恋をしてみたい』なんて柄にもなくお願いしちゃったけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

私、今……素敵な恋、してるんだ……)

 

 

ふと、そんなことを願ったあの日を思い出す。

何となく呟いてみたその一言。でも、思えば心にずっと願っていたことだったのかもしれない。

そんな彼女の願いを、彼が叶えてくれた。

温かな思いが彼女の心を溶かし、溶かされたそれが涙となって静かに頬を伝った。

 

 

「の、ノワール……?」

 

 

台詞の続きが出ないことで、白斗も少し焦りだす。

それどこかノワールが突然泣いていたのだ。

何か落ち度があったのか、それとも辛いことでもあったのか。ノワールの事を本気で心配してくれている彼に、ノワールは迷わず―――。

 

 

 

 

 

 

「……うん! 私も……あなたに……恋、してました……!」

 

 

 

 

 

 

笑顔で、飛びついたのだった。

 

 

「うお!? っとと……!! 飛びつき過ぎだっつーの!!」

 

「ふふっ、これくらいで音を上げてちゃ後が保たないわよ?」

 

「え?」

 

「なーんでもない! さ、帰りましょ!!」

 

 

白斗からすれば、それは気分が高じて少しアドリブを入れたように受け取られたのだろう。

でもノワールからすれば、それは告白に近かった。

今はまだ、彼に自らの想いを届ける時ではない。それでもノワールはこの日から、決意した。

 

 

 

 

 

(……白斗。 好き……大好き。 誰にも渡したくないくらいに。 ネプテューヌ達もライバルになるかもだけど……絶対に負けない! だから……覚悟しなさいよね白斗♪)

 

 

 

 

 

教会に向けて歩を進めるノワールと白斗。

その時のノワールの足取りは、上機嫌以外の何物でもなく、遊び疲れた白斗は追い付くのに精一杯だった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そして、とうとう次の日。

定期船発着場では、今日の多くの人々が行き交っている。

愛する故郷へ戻る者、そして新天地へと旅立つ者。白斗は、後者だった。

 

 

「……ケイさん、ユニ、そしてノワール。 一週間、お世話になりました!」

 

「白兄ぃ! またね!」

 

「ああ、いつでも来てくれ。 ラステイション総力を挙げて歓迎するよ」

 

 

この一週間でユニという妹が増え、更には接点こそ少なかったものの仕事やノワールとユニの関係改善からケイも白斗の事を信頼してくれていた。

だからこそこうやって、わざわざ見送りに来てくれている。

 

 

「……ノワールも、元気でな」

 

「ええ。 絶対、白斗にはラステイションに住んで、私の秘書官になってもらうんだから」

 

「ははは、楽しみにしてるよ。 ……っと、時間だ」

 

 

いざ、別れの時となると言葉が出ない。

永遠の別れでも何でもないが、白斗の心の中に新天地への期待とは別にラステイションを―――ノワール達の下を離れる寂しさがある。

でも、ノワールの笑顔を見ていたらそうも言ってはいられなくなった。

 

 

 

 

「……また来る! 絶対に!!」

 

 

 

 

それだけを言い残し、白斗は搭乗ゲートを潜った。

数十分後、一直線の雲を描きながら白斗を乗せた定期船は飛び立っていく。次なる目的地、ルウィーへと。

 

 

「……行ってしまったね。 ノワール、ユニ。 寂しくなるな」

 

「ホント……折角白兄ぃって呼べたのに、甘える機会殆ど無かった……」

 

 

ケイもユニも、白斗が離れてしまったことで寂しさを感じていた。

どこか堅苦しい印象のあったラステイションの教会も、彼が来てから一段と明るくなった。彼自身が明るい性格ではないにも関わらず。

きっと、それは彼女達が白斗に対し明るい思いを抱いていたからなのだろう。

 

 

「……さぁ二人とも! ぼーっとしている暇はないわ!」

 

「お、お姉ちゃん……?」

 

 

けれども、ノワールは気合を入れていた。

振り返ったその顔は、使命感や責任感に押しつぶされそうな顔ではない。寧ろ、これからの未来に期待を馳せて真っ向から受けて立とうとする、美しくも凛々しい女神の顔だった。

 

 

「絶対、白斗が欲しくなるような国にしてみせるんだから! ユニ、ケイ! 今日からさらに忙しくなるわよ!」

 

「お、お姉ちゃんが嘗てないほどのやる気を……。 でも、そうと聞かされてはアタシだってやる気100%!!」

 

「やれやれ。 教祖として、支えないわけにはいかないね」

 

 

彼女達は颯爽と発着場を後にし、教会へと戻る。

その最中、ノワールは一度だけ青空を見上げた。

澄み切った空の中、ルウィーへの軌道を描く飛行機雲。白斗の足跡となるそれを見つめて、ノワールは思いを風に乗せる。

 

 

 

 

 

 

(…………白斗、見ててね。 必ず、貴方を傍に置いて見せるんだから)

 

 

 

 

 

 

今日からしばらく、白斗はいなくなる。

だがノワールは寂しくなかった。寧ろ、彼を思えば思うほど幸せになれた。

それが彼女が願った「素敵な恋」だから。




ということでノワールとのデート話でした。
まさに恋人、みたいな空気をお伝えできれば幸いです。
次回からはルウィー編ことブランのターン!お楽しみに!
感想ご意見お待ちしております!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。