恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART   作:カスケード

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第十五話 夢見る白の大地、ルウィー

『―――アテンションプリーズ。 長旅、お疲れ様でした。 まもなく、ルウィー発着場へと到着します。 これより着陸態勢に入りますのでシートベルトのご確認を……』

 

「……んぉ? もう着くのか、早ぇな……」

 

 

定期船の中で白斗は目を覚ました。

慌ただしかったラステイションを離れ、静かなフライトも終わりを告げる。次にこの機体が着陸すれば、ブランの待つルウィーへと到着する。

過去訪れた時は、行きは転送装置で道のりをすっ飛ばし、帰りは激戦の後でもあったため周りを観る余裕はなかった。

 

 

「……お、真っ白」

 

 

上空から見るルウィーは、まさに白の大地と言う言葉が相応しい。

科学技術がそこまで盛り込まれてはいないものの、故に穢れの無い雪で覆われた国は幻想的である。

キャッチコピーは、夢見る白の大地。ルウィーならではの光景や出会いがそこに待っていると思うと、柄にもなく心を躍らせていた。

 

 

『尚、現在のルウィーの天候は晴れですが積雪により気温は氷点下2度で……』

 

「おっわ、防寒対策しねぇと……」

 

 

白斗はバッグからマフラーと手袋を取り出す。

事前に用意していたもので、コートに続きそれぞれ茶色と黒色。派手な色を好まない彼らしく、地味な色合いで固めている。

ルウィー到着まで、後15分―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ、寒ィィィ……!! お、おおぉぉォォォ……あの時は意識する暇も無かったが、さすが雪国……!!」

 

 

勇んで発着場から出たものの、想像を絶する寒さが襲い掛かってきた。

温暖なプラネテューヌ、ラステイションとは違い、まさに雪国。幻想的なイメージが先行しがちだが、やはり雪が積もるだけの気温なのだ。

幸いなのは今日がまだ晴れていることだろう。

 

 

「でも雪像や氷像……雪国ならではのオブジェ満載だな。 お、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲まである! 完成度高ぇなオイ」

 

 

子供達が作った小さな雪だるまもあれば、芸術家が持ち前の技術をフルに使用し作り上げた巨大なエンシェントドラゴンの氷像までより取り見取り。

他の国では見ることのできない光景に、白斗はつい目を奪われていた。

 

 

「ふふ……。 我が国の洗礼と景色……味わってくれたかしら?」

 

 

そこに掛けられた、細くも透き通った少女の声。

この声は聞き覚えがある。何せ、この国に来たのは観光のためと、彼女に会いに来るためなのだから。

 

 

「ブラン! 久しぶり!」

 

「久しぶりね白斗……そしてようこそ。 私の国……白の大地、ルウィーへ」

 

 

そこにいたのは、いつもの白いコートと帽子で身を包んだブランだった。

少し寒そうにも感じるが、ルウィーの女神だけあって慣れてはいるらしい。

物静かな口調と佇まいが特徴的な少女ではあるが、白斗と顔を合わせると柔らかい微笑みを見せてくれる。

 

 

「ノワールに続いて、ブランまでお出迎えしてくれるなんてな」

 

「私がしたかったんだもの。 気にしないで……と言いたいけど、私がいるのにノワールの名前を出すことは気にしなさい」

 

「え? えー………」

 

 

何故怒られたのか、今市腑に落ちない白斗だった。

そんな彼に呆れつつも、ふぅと一つ溜め息をついて切り替えるブラン。

 

 

「まぁいいわ……教会へ行きましょう。 途中、色々ガイドもしてあげる」

 

「サンキュ。 正直、前は観光どころじゃなかったから楽しみだ」

 

「ふふ……他じゃ味わえないルウィーの魅力……たっぷり楽しんで」

 

 

ノワールへの嫉妬も束の間。白斗の隣にいるブランは、本当に嬉しそうだった。

その後、二人は雪の街を歩いていく。

先程の雪だるまや氷像だけでなく、露店が多く立ち並んでいる。何より、目につくのは子供や老人が多いこと。そして街行く人々が笑顔で溢れていることだった。

 

 

「なんて言うか……この国に住んでいるのが嬉しい、って感じがするな。 ここの人達は」

 

「ルウィーは見ての通り雪国……気候的には厳しく、子供やお年寄りの多いところだけど……その分、人の心は温かいの」

 

「なるほど……保険制度とか人の暮らしを良くすることに力を入れて、住みやすい国にしてるって感じか」

 

「その通りだけど……白斗、政治とか分かるの? 凄いわね……」

 

「まぁな。 俺の元居た世界にも、そんな国があったし」

 

 

白斗が元居た世界、例えばスイスと言う国がある。

そこでは国民が必ず医療保険に加入しなければならず、保険料も高めだがその分、制度が充実しており、総じて国民の暮らしを良くすることに重きを置いている。

寒い国だけど、人の心は温かい―――それがブランの目指すルウィーの姿。

 

 

「……ブランの優しさと思いが伝わってくる。 いい国だ」

 

「……ありがとう。 でも、まだ始まったばかり……もっとルウィーのいい所、知って欲しいわ」

 

「ああ、勿論」

 

 

これも、数あるルウィーの魅力の一つに過ぎない。だからこそ、白斗は更に期待を寄せている。

優しい彼女が作ったこの国が、どんな出会いを齎してくれるのか。

 

 

「……ところでいい匂いがするな、さっきから」

 

「ルウィーは雪国……観光地でもあるの。 色んな出店があるけど……何か食べてみる?」

 

「んじゃ折角だから何か一つ……さすがに温かい料理が多いな」

 

 

雪国ということで汁物や激辛料理など、体を温める料理が並んでいる。評判もいいらしく、観光客たちが口にしているその姿はとても幸せそうだ。

だが多いと言うだけで、寧ろ冷たさを売りにしているデザートなどもちらほら。

どれにしようか迷っていると、店頭に並んでいるあるものが目に留まった。

 

 

「ん? 何だこれ……ブラン饅頭?」

 

「そう。 私の顔が刻まれた饅頭……ルウィー名物の一つよ」

 

「ほー……プラネテューヌのネプビタンみたいなものか」

 

 

ポスターにはブランの顔がプリントされた饅頭が描かれている。

女神であるブランは言わば国の象徴にしてアイドルのような存在。当然、国民からの人気も高く、彼女の顔が写されている商品となれば当然人気が出る。

 

 

「白斗……食べてみる?」

 

「そうだな……折角だし。 おばちゃん、ブラン饅頭くださいなー」

 

 

早速白斗が一つ購入。

ブランはさすがに自分の顔が写っているものを食べても微妙な気分になるとのことなので遠慮することに。

紙袋を開けると、そこには天使の、いや女神の様な笑顔のブラン饅頭が出てきた。

 

 

「あ。 その顔は激レア……」

 

「はは、本物の笑顔を見てるから既にご馳走様って感じはあるけどな」

 

 

どうやらちょっとしたガチャ要素もあるらしい。

確かにこの笑顔は可愛らしいが、白斗は本物のブランの笑顔を間近で見ている。

はにかむ白斗の笑顔に、今度はブランが少し顔を赤らめてしまう。

 

 

「も、もう……お世辞はいいから早く食べて」

 

「世辞じゃねーって。 もぐもぐ……ん! 生地の柔らかさと餡の甘さが絶妙! お茶欲しくなるな」

 

「そう言うと思って……はい、お茶」

 

「お、ありがと。 ずずっ……ヤバ、まったりできるわコレ……」

 

 

こういう商品はデザインだけと思われがちだが名物に抜擢されるだけあって味も触感も一級品だった。

加えてブランが用意してくれたお茶も芳醇な香りで心を癒し、程よい苦みがより饅頭の甘味を引き立たせ、その熱さが寒さに打ち震える心をほぐしてくれる。

ほぅっと、柔らかいため息が出てしまった。

 

 

「ふふっ……お気に召してくれたようで良かった」

 

「召しましたとも。 さて、折角だから他にも……」

 

「そうね。 私もお昼まだだったし、久々に街の様子を見て回れるし」

 

「んじゃ、食べ歩きコースへレッツゴーだな」

 

 

名物料理や、おすすめのレストランへ行く選択肢もあったがこれだけ露店が並んでいるのだ。

今回は縁日よろしく、色々な出店の料理を食べ尽くすという趣向で行くことに。

まずは心温まるスープから。

 

 

「お、濃厚だな……それに大根も美味い!」

 

「この寒い地方から生まれる食材は、越冬のため栄養をその身に溜め込むの……特に大根と言った根菜はいい味がするわ」

 

 

所謂味噌汁に近いらしく、雪の下で育った大根は独特の甘みに加えて汁の旨味をたっぷりと吸い込み、口の中で溶けるほど柔らかくなっていた。

 

 

「次は肉まん……あちちち! でも美味い!」

 

「もう、白斗ったら慌てすぎ……そんなことをしなくても、料理は逃げないわ」

 

 

次は買い食いの定番である肉まん。

白い饅頭は寒さでかじかんだ手を温め、脂がしっかりのった豚肉を用いて作られた特製の餡が肉汁と共に口の中に広がった。

夢中になってかぶりつく白斗の姿が、まるで年相応の少年に見える。そんな彼の姿が可愛いと思いながら、ブランは微笑んだ。

 

 

「んじゃ次は……ラーメンと行くか!」

 

「ラーメン……出店の定番。 因みに私は味噌ラーメン派」

 

「俺はとんこつだな」

 

 

白斗とブランは、それぞれ好みとなる味付けのラーメンを注文した。

どんぶりからは湯気とそれに溶け込んだラーメンの香り。

一瞬目を奪われつつも、互いに手を合わせて「いただきます」。

 

 

「ずるずるーっ……かぁ~っ! コレコレ! たまんねぇな!」

 

「……ん、美味しい……」

 

 

互いに麺を啜る。細い麺に濃厚なスープが絡み、一気に腹へと流れ込んでいく。

あっという間に間食してしまう程、絶品と言えるラーメンに白斗もブランも大満足だ。

 

 

「さーて、お次は……」

 

「こらこら、それ以上食べると夕飯入らないわよ。 出店はまた今度にしましょう」

 

「へーい」

 

 

まだまだ味わい足りなかったが、確かにこれ以上食べては夕食に差し支えてしまう。

食べ歩きはまたのお楽しみとなった。

二人は食後の運動も兼ねて、ルウィーの街中を再び歩いていく。

 

 

「あー! ブラン様だー!」

 

「ブラン様ー! 見て見て! 小さいけど、やっと使えるようになったのー!」

 

 

そこへ、子供達が走ってくる。

どうやらブランとも交流があるらしく、子供達の存在に気づくや否やはにかんだ笑顔を浮かべる。

そして少女はその指先に、マッチよりも小さいが火を灯した。

 

 

「ん? 手品……じゃない……?」

 

「ええ、これは魔法よ。 ……凄いわ、よく頑張ったわね」

 

 

魔法、それはここが白斗がいた世界とは違う世界であることを思い知らされる要素。

モンスターや女神だけではない、ファンタジー要素の結晶とも言える魔法が、この国では盛んだった。

ルウィー、雪国とは別に魔法国家としての側面もある、まさに幻想の国。

 

 

「えへへ~! 女神様に褒められた!」

 

「よーし! もっとパワー出せるように……!」

 

「こら、調子に乗ってると自分や他の人を傷つけるわよ。 程々に……ね?」

 

「「はーい」」

 

 

幼い少年少女は、女神に褒められたのが嬉しかったのか大はしゃぎだ。

けれども調子に乗りすぎないように釘を刺すブラン。妹であるロムとラムで手慣れているのか、その姿はまさに姉と言わざるを得ない。

 

 

「……いいお姉ちゃんじゃないか、ブラン」

 

「ありがとう……。 そうだ、白斗って魔法を使おうとは思わないの?」

 

「んー? 俺異世界人っしょ、魔力なんざ無いっしょ」

 

「異世界人は大抵チート……実は強大な魔力を秘めていて……」

 

「ラノベの読み過ぎだ」

 

 

魔法なるものに興味はないというよりも使える気がしないという白斗。

元々、魔法などが存在しない世界で18年も生きてきたのだ。いきなり魔法が使えると言われてもピンとこないのが現状である。

それ以前に白斗の身体能力こそ高いが、モンスター相手に無双できるかと言われればまた別の話。現実はそこまで甘くなかった。

 

 

「ところでそっちのお兄さん、誰ー?」

 

「ひょっとして……彼氏?」

 

「「なっ!!?」」

 

 

そんな二人のやり取りが、深い関係にあると見受けられたらしい。

少年と少女は目を輝かせながらそう訊ねてきた。

突然の爆弾発言に白斗とブランの顔は燃え上がったかのように赤くなる。

 

 

「ち、違うわよ……! ああいや、でも……なんていうかその……」

 

「そ、そうだぞ。 別に俺達はそういうんじゃない」

 

「……………………」

 

 

しかし、白斗にはっきりと否定されるとそれはそれで寂しいブランだった。

 

 

「まぁいいや! ブラン様、バイバーイ!」

 

「また色々教えてねー!」

 

「全くもう……ええ、またね」

 

 

多感な子供達らしく、すぐに興味の対象は移り変わる。

ブラン達に別れを告げ、子供達は走り去っていった。

あんなやり取りの後でも、彼女の微笑みは柔らかい。国民を等しく愛するその姿は、女神だからこその美しさすらあった。

 

 

「……やっぱ女神様だな」

 

「え? 何か言った?」

 

「い、いいや。 それより次行こうぜ」

 

 

思わず呟いてしまった白斗の一言。

悟られるとさすがに気恥ずかしさが込み上げるらしい、白斗は白を切って次へと促した。

 

 

「……あ、本屋さん」

 

「ん? お、なんか趣がある店だな。 古本屋って奴かね?」

 

 

するとそこへ通りがかったのは、古い木材で建てられた店。

古書店と書かれており、黒ずんだ木目が不思議な魅力を引き立てている。特に本の虫と自他共に認めるブランの興味は津々なようだが。

 

 

(……だ、ダメよブラン。 今日は白斗の案内をするの……口惜しいけど、また今度……)

 

 

ちら、と白斗を見ては振り切るように頭を振っている。

無類の本好きであるブランだが、だからと言ってやるべきことを放り出すようなお人ではない。

けれども当然、隣にいる白斗はそれを目の当たりにしているワケで。

 

 

「……あー、なんかラノベの話してたら本読みたくなったなー。 ちょっと寄っていいか?」

 

「え!? ……し、仕方ないわね。 白斗が行きたいって言うのなら」

 

「おう、仕方ない仕方ない」

 

 

その本人出る白斗が彼女の気持ちを察してそう言ってきた。

反応したブランは、口調こそいつも通りだが明らかにテンションが高まっている。

ブランに連れられる形で入り口を潜る二人。店主はダンディズム溢れた人物で二人の入店に気づきつつも優雅にコーヒーを飲んでいた。

そんな不思議な雰囲気の本棚を見て回っていると。

 

 

「……! こ、これ……昔一時期にしか発売されなかって言う短編小説集!? こんな掘り出し物があるなんて……! この店はアタリね!」

 

 

真剣に漁っていると、どうやらかなりのレアものを発見したらしい。

震える手でページを捲っていけば、ブランはあっという間に本の世界に引き込まれる。

 

 

(やれやれ、嬉しそうだな。 ……ま、ブランが可愛いからいいか)

 

 

興味惹かれる本に出会えれば一喜一憂、物語を彩る文字に目を通すその視線は真剣そのもの、そして物語の世界に入り込むことで変わる表情。

無愛想、などとネプテューヌ達は評していたが白斗はそんなことはないと思う。寧ろ、可愛らしい女の子の姿がそこにあった。

 

 

(んじゃ折角だし俺も……ん? 『女神と守護騎士』……何だこりゃ?)

 

 

折角本屋に立ち寄ったのだ、何か一冊買っていこうと思っていた矢先の事。

カラフルな本が治められた棚の中に一冊だけ、やたら古ぼけた本があった。色褪せてしまったそれに手を伸ばしてみる。

タイトルは、「女神と守護騎士」。女神という部分だけで反応してしまったのだが、手に取ってみれば言いようのない、運命の出会いと言うものを感じてしまった。

 

 

(何々……遥か古来のゲイムギョウ界にも女神が降臨し、そしてその女神を守るため、また添い遂げるために守護騎士なる存在がいた……。 面白い内容だが、これ小説か伝記か……どっちだ?)

 

 

紙質だけで言えば、相当古めかしいものだ。

下手をしたら数百年以上前の記述になるかもしれない。ページを捲るにも慎重にならなければならないほど擦り切れていたが、不思議と文字はしっかりと読める。

しかもその文章がやたらリアリティが込められており、すっと頭の中に入ってくる。フィクションか否か、判別がつかない。

 

 

(少年は暗殺者でありながら女神達に救われ、そして女神達を守るために散った。 女神達もまた少年に恋をし、これまでの償いと幸せな人生を与えるため、力の一部を渡して少年は蘇生され、守護騎士となった……はは、こんな凄い奴がいるんだな)

 

 

元とは言え暗殺者であった白斗は、主人公である少年が他人とは思えなかった。

暗殺者であった過去もそうだが、女神様に拾われた部分やそれに恩義を感じる描写が自分と重なってしまう。

ただ、最後の部分だけは違った。

 

 

(……女神と恋に落ちる、か。 それだけその守護騎士って人は凄かったんだろうけど……俺は、そんなんじゃないからなぁ……)

 

 

羨ましい、とも感じたが同時に納得もした。

守護騎士に選ばれたからには相応の責任も付きまとう。そして、女神と釣り合うだけの人物でなければならない。

白斗は自らがその器ではないと思いつつも、隣にいるブランに目をやった。

 

 

(……それでも、守るくらいは……いいよな?)

 

 

今はこうして大好きな本の世界に没頭している少女だが、その本質は女神。

彼女だけではない、ノワールも、ベールも、女神候補生たちも、そしてネプテューヌも。

白斗にとっては皆恩人で、そして大切な―――

 

 

「……あ。 ご、ごめんなさい白斗……つい、集中し過ぎたわ……」

 

「良いってことよ。 俺も面白い本を見つけたし、これ買おうか……って高ぇ!?」

 

 

ここでブランが我に返った。

あくまで今回は白斗の案内が目的なので、これ以上時間を取らせるわけにはいかないとブランも決心した。

互いにお気に入りの本を見つけたので、購入しようとしていたが白斗の本は想像以上の高さ。そのお値段10万クレジット。

 

 

「相当な古さに見合うだけの高さね……でも、それくらいなら出してあげるわ」

 

「女に奢らせる男なんざカッコ悪いっての。 まぁ、今回は諦め……」

 

 

などと言いながら本棚へ戻そうとすると。

 

 

「構わんよ。 9割引きにしてやる」

 

「「え?」」

 

 

突然、渋い声が。

声がした方向を振り返ると、先程と変わらぬ姿勢でコーヒーを飲んでいる店主がいた。

店主はこちら見ることもなく、そう言っていたのだ。

 

 

「て、店主さん? き、9割引きって……そ、そんなの悪いですよ!?」

 

「構わんさ。 確かに商売だが、俺は本が好きで店やってるんだ。 本との出会いは運命すら感じる……その運命的出会いをフイにして欲しくないんだよ」

 

 

何と気前の良く、そして格好良い店主なのだろうか。

思わず心に来てしまうブランと白斗。

本当に本が好きな人なのだと確信する。ならば、その好意に甘えないのは寧ろ失礼に値する。

 

 

「……ありがとうございます。 なら遠慮なく」

 

「おう。 その代わり、また来てくれよ?」

 

「ええ。 こんな素敵な店……見逃すなんて人生の9割損してるわ」

 

「有難いね、そりゃ」

 

 

ここまでされたら大事にしなければと二人して微笑む白斗とブラン。

店主の心意気のお蔭で懐に余裕を保てたまま気に入った本を買うことが出来た。

気候は寒いが人の心は温かい―――ブランの言葉を裏付けた一幕だった。

 

 

「いやぁ、良い買い物したな」

 

「そうね……白斗、ありがとう」

 

「んぁ? 俺ぁ何もしてねーっての」

 

「でも、私の気持ちを汲んでくれた……だから、ありがとう……」

 

「……どういたしまして」

 

 

本を買えたこともそうだが、ここに入るために白斗がしてくれた気遣いをブランは見逃さなかった。

あの時はテンションが上がっていたので言葉にできなかったが、本を読んでいるうちに彼のお蔭でこの店とこの本に出会えたのだ。

そんな彼の心に触れたくて、この国に招待した。その判断は間違ってなかったと、ブランは嬉しく思っている。

 

 

「そろそろ教会に行きましょう。 ロムとラムも首を長くして待っているだろうから」

 

「ははは、キリンとかになってなけりゃいいけどな」

 

「それは大変ね……ふふ」

 

 

こんな些細な冗談の言い合いですら楽しく感じる。

ルウィーの街は相変わらず寒かったが、白斗との触れ合いは確かな温もりをブランに感じさせた。

まだ始まったばかりだが、これからどんな心温まる触れ合いが待っているのだろうか。

それを思うだけで、胸が熱くなるブランだった。胸は薄いが。

 

 

「……白斗、今……語り部を殺さなきゃいけない気がしたわ」

 

「急にどうしたブラン!?」

 

 

日常に潜む地雷、皆さんも気を付けましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――それから二人は特に寄り道をすることもなく、ブランの住居にして国政の中心である教会へと向かっていった。

教会へ向かうにつれ、徐々に雪が溶けてきており緑が見え始めている。

 

 

「……そういやこの辺りって妙に温かいよな? 何でだ?」

 

「説明してなかったわね。 教会周辺は女神の守護によって比較的温暖なの」

 

「マジか。 凄いなブラン!」

 

「この程度当然よ……」

 

 

と言いつつも目をキランと輝かせて得意げである。

そうこうしているうちに、ルウィーの教会へとたどり着いた。教会と言ってもその外見はまさに西洋のお城である。

観光名所にもなっており、幻想の国の名に恥じない大きさとデザインだった。

 

 

「久しぶりに見たが……やっぱ凄ぇな、ブランの教会」

 

「ありがとう……。 改めてようこそ、私の教会へ」

 

 

ブランが扉を開けてくれる。

すると玄関で彼を最初に出迎えてくれたのは、一人のメイドだった。

 

 

「おかえりなさいませブラン様。 そして黒原白斗様、ようこそおいでくださいました」

 

「どうも……って、貴女……確かフィナンシェさん、でしたよね?」

 

 

白斗は彼女の姿に見覚えがある。

以前、ロムとラム救出のために転移装置で訪れた際に倒れていた女性を二人発見した。

その片方が彼女、メイドであるフィナンシェだった。

 

 

「はい、ロム様とラム様を助けてくださってありがとうございまいました。 それと、お礼を申し上げるのが遅くなり、大変申し訳ありません」

 

「いえいえ。 みんな無事で何よりですよ」

 

「……お優しい方ですね。 ブラン様の仰る通り」

 

「え?」

 

「ふぃ、フィナンシェ! 余計なこと言わないで……」

 

 

顔を赤らめて言葉を遮ろうとするブラン。でも否定自体はしない。

どれだけ彼女が普段、白斗の事を話題にしていたのだろうか。

尤も白斗はそれに気づくことは無かったため、首を傾げてはいるが。

 

 

「すみません。 では早速中へご案内しますので」

 

「……頼んだわ。 白斗、私はこれから仕事あるから……」

 

「だったら俺も手伝うよ。 これでもネプテューヌやノワールんトコで慣れてっから」

 

「ありがとう。 でもあなたは旅行で来ているのだからしっかり休んで。 それにノワールからもそう言われてるし」

 

 

どうやらルウィーでは完全に白斗を休ませるつもりでいるらしい。

ブランも内心頑固なところがあるため、譲らないつもりだろう。

とは言え彼女が心配であるため、白斗も手伝いたい気持ちを引っ込めるつもりは無かったのだが。

 

 

「それに仕事と言っても細かい案件ばかりだから、正直白斗の手を借りるほどじゃないわ。 明日には終わるから、それさえ超えれば一緒に居られる……」

 

「そっか。 んじゃ、明後日からが本格的になるのか」

 

「そういう事。 それじゃ、私はこれから執務室に籠るから……フィナンシェ、後はお願い」

 

「はい、お任せくださいブラン様」

 

 

そう言われては白斗も無碍には出来ない。

お言葉に甘えて今回は完全オフの気分に切り替え、フィナンシェの後をついていった。

残されたブランは気を引き締めて執務室へと向かう。

 

 

(……そう、仕事……今回のために調整してきた。 残るは山のように積み重なった書類との死闘……でも見積もりでは、明日で全て終わるはず……!)

 

 

ドアを開ければ、山積みになった書類。

ブラン二人分の高さはあろう、そびえ立つ書類に一瞬怯みそうになるが、今のブランには真っ向から立ち向かうだけの勇気がある。

 

 

(……白斗と一緒の時間……とても、楽しかった……。 あの時間を味わうためなら、この程度の労力など惜しまない!)

 

 

ここに来るまで白斗と一緒に店を回ったり、一緒に食事をしたり、一緒に話し合った。

その時間が何よりも楽しくて、温かくて、愛おしくて。

白斗となら、そんな時間を過ごせると確信していたから彼をこの国に招いた。ならば一緒にいる時間を少し出も多く作りたい。

 

 

「大丈夫、徹夜作業なんて慣れっこ……やるのよブラン! 白斗との時間を過ごすためにも!」

 

 

嘗てないほどのやる気を漲らせるブラン。

全ては、あの人と触れ合うために―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、白斗はフィナンシェの案内の下、教会内を歩いていた。

 

 

「ふぁー……プラネテューヌの教会……プラネタワーも凄かったが、ここは横に広いって感じだな」

 

「新入りの職員とかは今でも迷ったりしますよ」

 

「はは、俺も気を付けないとダメってことですね」

 

 

傍から見たら西洋のお城であるこの教会だが、やはり内部は複雑に入り組んでいる。

タワーとして縦に長いプラネテューヌの教会とは違い、こちらは横に広い。

以前、ロムとラムを探し出すためにあちこちを奔走していたあの日の記憶が蘇る。気を抜けば迷ってしまいそうだ。

 

 

「まずは白斗様のお部屋にご案内します」

 

「あのー……別に俺、様付けとかいいんで……」

 

「ですが、白斗様はお客様にして私達の恩人ですから……」

 

「だったらお客様命令。 フランクに接してくださいよ」

 

「……でしたら仕方ありませんね。 では改めてお部屋にご案内します、白斗さん」

 

「はいよっと」

 

 

白斗自身の性格から上に置かれるのは正直堅苦しかった。

だからこそ、これからお世話になる人達には出来るだけ畏まらないで欲しかったのである。

おかげでフィナンシェとの距離も縮まったように感じられた。

和やかな空気の中、まずは例によって部屋に案内される。そしてノブを回し、部屋の中へ入ろうと―――

 

 

「お兄ちゃ~~~~ん!! どーん!!」

 

「お兄ちゃん、会いたかった……!(どーん)」

 

「ぐおおぉぉぉっ!? ろ、ロムちゃんにラムちゃん……ははは! 久しぶり!」

 

 

小さな影が二つ、抱き着いてきた。

何とかして受け止めると、その正体はロムとラムだった。二人とも、大好きな兄の胸に顔を埋めては頬を摺り寄せてくれる。

まるで小動物のような可愛らしさに白斗も嬉しそうだ。

 

 

「もうっ! お兄ちゃんったら、全然遊びに来てくれないんだもん! 寂しかった!」

 

「ゴメンゴメン。 でも、今日から一週間はお世話になるからいっぱい遊ぼうな?」

 

「ほんと……? 嬉しい……!(きらきら)」

 

「ホントホント」

 

 

この二人の兄となってから、彼らは本当に仲良しだった。

二人ともまだ幼い上に周りの親しい人はみな女性であることから、頼れる唯一の男性であったことも大きいのだろう。

 

 

「あああ、ロム様にラム様も……白斗さんのご迷惑になっちゃいますよ」

 

「大丈夫ですってこのくらい」

 

「白斗さんも甘やかさないでください。 お二人のためになりませんから」

 

「へーい」

 

 

フィナンシェに軽く怒られる三人。

怒られはしたが、こういう距離感の方が嬉しいと白斗は先程のやり取りが無駄ではなかったことに安堵する。

兎にも角にもまずは抱き着いている二人を優しく床に下ろし、そして荷物も置いた。

 

 

「見て見て! ここがお兄ちゃんのお部屋!」

 

「私達、一生懸命お掃除したの……(わくわく)」

 

「二人が掃除してくれたのか、ありがとうな」

 

「「わーい!」」

 

 

どうやら今の今まで白斗を歓迎するため、この部屋を掃除してくれていたらしい。

確かに窓も床もピカピカ、誇り一つすらない。

ベッドシーツも乱れておらず、本棚もきちんと整理されていた。本棚に並べられている本は、ブランが白斗の好みをリサーチした上で並べてくれたのだろう。

 

 

「これからはこのお部屋をお使いください。 この内線電話で私達メイドにも繋がりますので御用があれば何なりと」

 

「致せりつくせりで申し訳ないくらいですよ」

 

「お客様ですから当然です。 さて、それでは……」

 

 

まだまだ案内しなければならない箇所はたくさんある。

次なる場所へと向かおうとした時、白斗の手が二つとも握られた。

ロムとラムが、それぞれの手を握っていたのだ。

 

 

「お兄ちゃん! ここからは私達が案内してあげる!」

 

「ガイド、やりたい……!(わくわく)」

 

「あらあら……白斗さん、その……」

 

「ははは、折角ですしこの小さなガイドさん二人にお任せします。 すみません、フィナンシェさん」

 

「いえいえ。 ではお二人とも、白斗さんのご案内、よろしくお願いしますね」

 

「「はーい!」」

 

 

元気のよい挨拶と共に、二人が掛けだす。

ちびっこ二人のパワーには勝てず、白斗は半ば引きずられるような形で二人についていった。

 

 

「で、二人とも。 どこを案内してくれるんだ?」

 

「まずは紹介しなきゃいけない人がいるからその人に会わせてあげるね!」

 

「ミナちゃんって言う人だよ……」

 

「あ、ミナさん……教祖の人か」

 

 

教祖、西沢ミナ。つまりブランの補佐役の女性だ。

以前来た時に倒れていた二人の女性、その片割れがそのミナだった。あの時はロムとラムの保護で精一杯だったのでその後会話する余裕も無かった。

故にまともな顔合わせは、今回が初めてとなる。

 

 

「ミナちゃーん! お兄ちゃん連れてきたよー!」

 

「えへへ……」

 

「ロムさん、ラムさん。 廊下は走っちゃダメですよ」

 

 

双子に連れられて入った部屋には、見覚えがあった。

あの日、白斗が転移装置によって転送された先の部屋がここだった。

そしてその部屋の中央では書類を整理していた一人の女性がいる。長い髪に眼鏡、優しい雰囲気ながらもどこか芯の強さを感じさせる人だった。

 

 

「ようこそお出でくださいました。 改めてこの教会の教祖をしております、西沢ミナです」

 

「黒原白斗です。 一週間お世話になります」

 

 

礼儀正しい人だった。タイプ的に言えばイストワールに近いだろうか。

清楚な見た目でありながら、どこか包容力に溢れている。この教会を家族構成で言えば、母親の様な存在なのかもしれない。

 

 

「先日はロム様とラム様、そして私達を助けてくださり本当にありがとうございました。 それと、お礼が遅れてしまい、大変申し訳ございません」

 

「はは、フィナンシェさんも同じこと言ってましたよ」

 

「当然です、私達からすればこの国の恩人なのですから」

 

「それは言いすぎですから……」

 

「言いすぎでもありません。 ロムさんとラムさんは次の女神なのですから」

 

 

しかし彼女の言い分も理解できる。

何せロムとラムは次期女神候補。つまりはブランの代わりにこのルウィーを治めていく女神になる。

そんな彼女達を助けることは、この国を助けることと同義なのだ。

 

 

「とにかく、今日から一週間はこの教会が貴方の家です。 気兼ねなく、何でも言ってくださいね」

 

「すみません、何から何まで」

 

「ブランさんからの希望でもありますし、私も白斗さんにはルウィーを楽しんでもらいたいと思っていますから」

 

 

どうやらルウィーでも、白斗は心底歓迎されているようだった。

ここまで尽くされるとむず痒さを覚えてしまうが、その好意が嬉しくもある。

 

 

「さて! 紹介フェイズも終えたことだし!」

 

「次は、私達のターン……!(とことこ)」

 

「うおっととと! ちょ、二人とも待ってー!!」

 

「二人ともー! あんまり白斗さんにご迷惑かけないようにー!!」

 

「「はーい!」」

 

 

ミナとの話が終わるや否や、すぐにロムとラムが白斗の手を引いてくる。

元気いっぱいなちびっ子のパワーに勝てる気力も湧かず、白斗は引きずられるままだ。

やがて連れてこられた一つの部屋。やたらファンシーなものが詰め込まれた、女の子の部屋だった。

 

 

「この部屋って……」

 

「そう! 私達のお部屋ー!」

 

「お兄ちゃんだから、ご招待したの……!」

 

 

ここがロムとラムの部屋らしい。

確かに二人好みの可愛らしいぬいぐるみやおもちゃ、内装、そして壁には二人が書いたと思わしきブランの絵。

双子の内面が良く表れた部屋である。

 

 

「ははは、そりゃ光栄だ。 んじゃ、ここで何かして遊ぶか」

 

「うん! まずはお絵描き!」

 

「それから絵本……そしておままごと」

 

「それからそれからー……」

 

「待って!? 兄ちゃん分身出来ないから! 一つずつやっていこうね!?」

 

 

兎にも角にも、夜を迎えるまで二人と遊んだ。

当然子供らしい内容ばかりだったが、白斗にとっては童心に帰る――寧ろ初めて童心を迎えたような気分になり、意外と楽しんでしまった。

だがそれ以上に、二人が楽しく、幸せにしていてくれたことが何よりも嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ってな感じで今日の一日は終わりましたとさ」

 

『……白斗、ロリコン説浮上』

 

「馬鹿言うなネプテューヌ!! 俺ぁノーマルだぞ!?」

 

 

その夜、皆で夕食を終えての初めてのルウィーの夜。

白斗はベッドの上でごろ寝しながら通話していた。

相手は勿論ネプテューヌ。いつも白斗と会話している時の彼女はまさに天真爛漫だったのだが、今日一日の出来事を話すとそんな総評が飛んできた。

 

 

『だって白斗、ロムちゃんとラムちゃん、それにブランからこれだけ好かれてるんだよ? ルウィー国民が知った日には生きてルウィーから出られないよ?』

 

「業が深すぎないかルウィー国民!?」

 

 

悲しきかな、人間の性。

 

 

『でも大丈夫! そうなっても私は白斗を見捨てないから!』

 

「……頼りにしてますよ、ネプテューヌ様」

 

『任せなさーい!』

 

 

けれども、何だかんだで二人は仲がいい。

ネプテューヌは白斗のを心から白斗を信頼してくれていて、白斗もまたネプテューヌには忠誠に近い感情を抱いていた。

互いを尊敬し、互いを思いやり、互いのために尽くせる。そんな関係になっている。

 

 

『それじゃ、今日も対戦しよー! 私、こうして白斗と一緒に何かしてないと落ち着かなくなっちゃってさー』

 

「……俺もだ」

 

 

ネプテューヌにそこまで思われているとなれば、少し顔が赤くなってしまう。

けれどもそれを隠すかのように白斗はゲーム機を取り出す。

今日も今日とて少年と少女はゲームを楽しむ。それが彼らにとっての日常―――。




サブタイの元ネタ「超次元ゲイムネプテューヌ(無印)」よりルウィーのキャッチコピー。

ということでルウィー編でございます!
今回のお話は雪国が舞台ということでほんわかと温かいお話が多めになると思います。でもちょっとした騒動もあるよ!
いつぞやで言ったかもですがブラン大好きです。おい誰だロリコン言ったの。
では次回もお楽しみに!
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