恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART   作:カスケード

17 / 69
第十六話 恋構想、熱暴走

―――いつもとは違う、少し肌寒い朝。

まだ日が昇り切っていない時間帯に、やはり白斗は目覚めた。

 

 

「……ふぁぁ~……ルウィーの朝は、静かって感じがするな……」

 

 

目を覚ますと、プラネテューヌとも、ラステイションとも違う朝が待っていた。

部屋の中にはまず暖炉があり、薪が燃えている。パチパチと心地よい音を立てながら燃える暖炉は、他の国では見られない光景。

窓を開けるとまだ薄暗い中、教会の向こうには銀世界が広がっている。

 

 

「……外出てみるか」

 

 

白斗自身、雪国に訪れたことなど元の世界では訓練でしかなかった。

そんな世界の空気を味わいたくて、身支度を整えるなりすぐに外へと向かっていく。

玄関へ向かおうとすると、何やらいい香りが漂ってくる。その匂いに釣られて厨房へ赴いてみると、一人の女性が鍋の中身をかき混ぜていた。

 

 

「~♪ あ、白斗さん。 おはようございます」

 

「フィナンシェさん、おはようございます。 朝早いですね」

 

「メイドですから。 そういう白斗さんは?」

 

「元から朝早いタチなんで。 ちょっと散歩行ってきます」

 

「分かりました。 朝食は7時の予定ですのでそれまでにお戻りください」

 

「了解です」

 

 

いつもとは少し違う、厚手の革コート。

それを羽織って外に出てみると、少し肌寒い空気が白斗を包んだ。と言っても、ブラン曰く教会周辺は女神の加護により温暖であるらしく、故に雪が溶けている。

 

 

「んじゃそこから出るとどうなるか……おお、寒ぃ~っ!!」

 

 

緑と白、その境目を出れば身を切るような寒気が襲い掛かってくる。

けれども、そんな感覚が面白くて白斗は出入りを繰り返す。

十分堪能したら、今度は銀世界に足を踏み入れる。ざく、ざくと雪を踏む感触が楽しくて、白斗はつい子供のようにどんどん奥へと進んでしまう。

 

 

「……はは、何だこりゃ! 面白ぇ!!」

 

 

18歳ではあるが、少年らしいことが一切できなかった少年。

だからこそ、今それを味わっている。

誰もいない雪の世界で白斗は一人走り回り、そして雪の中に仰向けに倒れ込んだ。

 

 

「……空気も澄んでるな……それに、静かだ……」

 

 

しばらく横になって、この国の全てを五感で味わう。

肌から感じられる雪は冷たい、目で見える範囲は全て白、周りの音は全て雪に吸い込まれて静寂となり、澄んだ空気が鼻から吸い込まれ、そして口に入った雪は雑味がない。

まるで時が止まった、そんな感覚にさえ陥るほどの静けさ。痛くもあり、心地よくもあった。

 

 

「……ふぁー、そろそろ戻るか」

 

 

―――それからどれくらいの時が立っただろうか。

体の芯まで冷えそうになったところで体を起こした。

童心そのものになり、十分堪能した白斗は心底満足であった。腹も空いてきたので教会へと戻ることに。

 

 

「ふぅー、ただいまー……ってミナさん、おはようございます」

 

「あ、白斗さん。 散歩してたんですね」

 

 

そこにいたのは教祖のミナ。

既に昨日と同じ服に着替えており、仕事モードと言ったところだ。

 

 

「ええ、ついガキみたいにはしゃいじゃって」

 

「いいじゃないですか。 可愛らしくて」

 

「18歳の男に可愛らしいなんて言われてもなぁ……」

 

 

どうもこの女性には勝てる気がしない。

昨日のロムとラムに対する接し方から、この教会内における母親の様な存在。その佇まいは白斗にも影響を与えている。

 

 

「ふぁぁ~……おにいちゃん、おはよ……」

 

「……おはよ……(うつらうつら)」

 

「ロムちゃん、ラムちゃん。 おはようさん……と言いたいが、まだ眠そうだな」

 

 

その彼女の後ろから、眠たそうに瞼を擦っているロムとラム。

ついさっき起きたばかりらしく、全然目を覚ましていない。

気を抜けば今にも眠ってしまいそうなほど、舟を漕いでいる。

 

 

「仕方ない、一緒に歯磨きとかしようか」

 

「「ふぁ~い……」」

 

「ふふ、本当のお兄さんのようですね。 すみませんが、お二人をお願いします」

 

「お願いされました。 それじゃ行こうか」

 

 

体を屈めて二人と同じ目線で語り掛ける。

優しい白斗の表情と声に多少は目が覚めたのか、返事をしてくれる。

そんな二人をミナから任され、白斗は洗面所へと向かった。桶に水を張り、タオルを濡らす。

 

 

「二人とも。 綺麗にしないと可愛い顔が台無しだぞ~?」

 

「ふゃぁ……おにいちゃん、つめたいよ~……」

 

「うぷ……つめたい……」

 

「我慢しなさい。 ほーら、綺麗になった。 うん、いつもの可愛い二人だ」

 

 

タオルで二人の顔を拭いてあげる。

痛がらないように、優しく。でも顔を綺麗にすることを忘れずに。雪国の水はやはり冷たく感じられるが、おかげで二人は目を覚ましたようだ。

 

 

「……えへへ、お兄ちゃんに顔を洗ってもらえてさっぱり!」

 

「うん……世界が、違って見える……!(きらきら)」

 

「大袈裟。 ほら、次は歯磨きな」

 

 

乾いたタオルを渡して水気を拭き取らせば、二人は笑顔を見せてくれた。

さすがに子供だけあって、目を覚ませばエネルギッシュだ。

そして三人は歯磨きを開始する。歯ブラシを手に持ち、歯磨き粉を付け、一斉に歯を磨く。

 

 

「「「ガシガシ……がらがら~、ぺっ」」」

 

 

三人一緒に歯磨きをするその様子はまさに兄妹。

顔も歯も綺麗にしたところで、いよいよ朝食だ。

ダイニングルームに向かえば、メイドのフィナンシェが用意してくれた朝食が所狭しと並べられている。

 

 

「さぁ、本日の朝食はシンプルに目玉焼きとベーコン、パンにスープです」

 

「いいねぇ、フレンチですねぇ」

 

 

ここまで理想的な朝食が出ると白斗も嬉しくなると言うものだ。

シンプル、と言ったが目玉焼きは半熟、ベーコンは燻製、パンも焼きたて、スープも今朝フィナンシェが調理してくれたもの。

見た目と匂いだけでも絶品であることが伝わってくる。

 

 

「白斗さん、お飲み物はどうされますか? 大抵のものはご用意できますが」

 

「それじゃコーヒー、ブラックで」

 

「畏まりました」

 

 

何の躊躇いも無くブラックコーヒーをチョイス。白斗はコーヒー党である。

フィナンシェが注いでくれた湯気と共に立つコーヒーの香りが、白斗の脳裏を刺激する。間違いない、このコーヒーは美味いだと確信した。

ただ、その光景が余りにも新鮮に映ったのかロムとラムは興味津々だ。

 

 

「お兄ちゃん……コーヒー、飲むの……?(じーっ)」

 

「しかもブラック……大人~!」

 

「ふっふっふ……そう、俺は大人さ。 ずずっ……ん、いい味だ」

 

 

コーヒーを口にしながら新聞を広げる。

ここまでくると兄、というよりも父親のようだった。

けれども、今までそんな男の人が傍に居なかったロムとラムの目が輝いている。

 

 

「じゃぁ私も大人になるー! お兄ちゃん、飲ませてー!」

 

「私も……♪(どきどき)」

 

「良かろう。 後悔しても知らぬぞ、ふっふっふ」

 

 

そう言って白斗は少し冷ましたコーヒーを差し出す。

二人は意気揚々とそれをぺろ、と一舐めしたのだが。

 

 

「うっげ! 苦ぁ~~~い!」

 

「ぺっぺっ……うう、ダメ……」

 

「はっはっは、これが大人のほろ苦さって奴よ。 二人にはまだまだ早かったな」

 

(……白斗さん、お兄さんどころかいい父親になれそうですね)

 

 

そんなことを思いながら、フィナンシェは二人にお口直しのオレンジジュースを注いであげた。

心温まる一時を終え、朝食を食べ始めようとしたのだが。

 

 

「……あれ? そういやブランは?」

 

 

肝心な人物が不在であることに気づく。

この教会の主にしてルウィーの女神、ブランがまだ来ていないのだ。

メイドたるフィナンシェが声を掛け忘れるなど考えにくいと彼女に視線を送るのだが当の本人は困ったような顔をしている。

 

 

「ブラン様、朝が弱い方で……さっきもお声お掛けしたんですけど……」

 

「そういや、プラネテューヌで過ごしてた時も辛そうだったな……」

 

「ですが今回は少し遅いですね……。 白斗さん、申し訳ありませんが朝食を食べ終えてからでよろしいのでブラン様に一言お願いしてもよろしいでしょうか?」

 

「合点承知の助」

 

 

本当はブランと一緒に食べたかったのだが、こんな朝食を冷やしてしまうのも作ってくれたフィナンシェに悪いと思い、素直に指示に従って朝食を食べ始める。

睨んでいた通り味も素晴らしいもので、あっという間に胃袋の中に収まってしまった。

 

 

「ご馳走様でした。 さてブランに一言……と言いたいが反応してくれっかな~?」

 

「白斗さんの声なら大丈夫ですよ。 ブランさん、この国に白斗さんが来てくれると決まったあの夜からテンションMAXでしたから」

 

「何その激レアブラン、超見てみたい」

 

 

そんなことを言ってきたミナ。

女神化すると口調も荒々しくなる彼女だが、平時は怒っている時以外は基本物静かなブランだ。

そんな彼女が狂喜乱舞する様子がいまいち想像できない白斗だった。

さておき、白斗はブランの部屋へと向かう。他に比べてやはり立派な扉となっており、女神の威厳たるものが伝わってくる。

 

 

「ブランー、朝飯だぞー。 悪いが俺もう食べちまったからなー?」

 

 

コンコン、とノックをする白斗。

それなりの声量で呼びかけたのだが、返事がない。

 

 

「んー、いざとなったら直接起こしてくれとは言われているが……許可なく女の子の部屋に入るのはなぁ……いや、ここでやらなきゃ男じゃねぇ!」

 

 

白斗はフィナンシェから渡された鍵を手に摘まみ、チャリンと音を鳴らす。

こんな重要なものまで預けてくれるとは白斗に寄せられている信頼は相当なものであることを意味する。

その信頼に応えるためにも、白斗は意を決して部屋に入ることに。

 

 

「それでは……ってアレ? 開いてる……?」

 

 

鍵を差し込もうとした時、施錠されていないことに気づいた。

悪いとは思いつつもドアノブを回してみると、ギィと木材を軋ませながら扉は開けられる。

広い部屋だが、やはり壁のように並べられた本棚が目に付く。大きなベッド、そして執務用の机にブランは突っ伏していた。

 

 

「ブラン? 徹夜してたのか……?」

 

 

机の傍には、尋常じゃない量の書類が積まれていた。

既に処理されていた書類の量を見比べても、その量はちょうど半分と言ったところか。

 

 

「やれやれ、今日で終わるとは言ってたがここまで無理しなくてもいいじゃねーの」

 

 

とりあえず、彼女を起こさないことには話にならない。

書類の山を崩さないように、突っ伏している彼女に近寄ると。

 

 

「……ぅぅ……はく、と………」

 

「え……?」

 

 

突然、名前を呼ばれた。

ブランほどの美少女が名前を呼んでくれる。それも寝言で。

白斗の機械の心臓が、また一つ跳ねてしまう。一体、どんな夢を見ているのだろうか。

 

 

「……ちっと寝顔を見るくらい、バレないよな……?」

 

 

こんな経験は中々ない。

女の子の、しかも女神様の寝顔を拝見できる機会などこのゲイムギョウ界の人間でさえ、一生巡り合うことすらない者の方が多いはず。

密かに役得と思いながら白斗はブランの顔を覗き込んだ。

 

 

「……はぁ………はぁ……」

 

(ん? 何だ、魘されてるのか……?)

 

 

だが、様子がおかしい。

寝息は安らかではなく、寧ろその反対。魘されているような苦し気な声色だ。

汗も出ており、顔色も悪い。嫌な予感がして頬に手を当ててみると―――。

 

 

「……熱っ!? 風邪……にしちゃ異常だ! ふぃ、フィナンシェさん! 大変ですっ!!」

 

 

頬が熱かったのだ。平熱であなく、微熱でもない。高熱だ。

だがただの風邪にしては苦しみ方が尋常ではない。何かの病気にかかった可能性がある。

すぐさま白斗はフィナンシェに連絡、救援を要請した。

一分も経たないうちにフィナンシェを始めとするメイドたちや職員たちが集まり、ブランの執務室は大騒ぎになったのだった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ……はぁ………!」

 

「ブラン……」

 

 

現在、ブランの執務室に残っている人物は六名。

一人はかかりつけの医者。今も尚ブランの容体を見てくれている。フィナンシェ、ミナ、ロムとラムと言ったブランの家族に当たる人達。

そして、黒原白斗。誰もが、ブランが心配で仕方ないのだ。

 

 

「お姉ちゃん! お姉ちゃぁん!」

 

「……お姉ちゃん、しっかりして……!」

 

「だ、ダメですよ! 揺らしたら余計に悪くなりますから!」

 

 

特に、まだ幼い妹であるロムとラムの動揺っぷりは顕著だ。

大慌てでブランに駆け寄ろうとするが、無理をさせるわけにはいかないとミナが必死に止める。

その間も医者は冷静に診てくれているが、険しい表情が解けることは無く、その雰囲気だけで事態の重さを伝えてきた。

 

 

「先生、ブラン様の容態は……?」

 

「……正直、大変な状況になりました。 どうもルウィー特有の奇病、『スルイウ病』に掛かってしまったようで……」

 

「スルイウ病……?」

 

 

聞いたこともない病気だった。

元より、異世界人である白斗にはさすがに専門用語など分かるはずもないが、奇病というだけあってミナやフィナンシェもピンと来ていない様子だ。

 

 

「はい、女性にのみ発生すると言われる危険な病気です……。 疲労などで免疫力が低くならないと発症しないはずなのですが……」

 

「……どうも徹夜してたっぽいですからね」

 

 

白斗は大量の書類に目を向ける。

あの時、彼女の言葉の意味を正しく理解していれば、嫌われてもいいから手伝いを申し出ていればこんなことにはならなかったのではないか。

そんな思いが、脳裏を駆け巡る。

 

 

「症状は風邪を強力にしたようなものですが……特効薬が無いと三日三晩、高熱で魘され……最悪の場合は……」

 

 

そこから先、敢えて言葉を濁した。

だが、暗くなった表情から見て嫌でも悟ってしまう。最悪の場合―――死に至ると。

だから、大変な状況だったり危険な病気とも称したのだ。

 

 

「特効薬と言うからにはあるんですよね?」

 

「申し訳ありません、それの材料自体も貴重なものでして……おまけについ先日ストックを切らしてしまったばかりなのです……」

 

「その材料は?」

 

 

とにかく、今は冷静になって情報を集めることが先決である。

白斗は医者に淡々と訊ねて情報を引き出す。その中でもやはり重要なのはどんな材料が必要になるのか。

医者は手持ちの図鑑から、付箋の張ってあるページを開く。

 

 

「この『ルエガミヨ』という花を煎じて飲めばたちどころに良くなります……ですが、その花はこのルウィーが誇る雪山の奥深くにしか生えていないのです」

 

 

なるほど、だから貴重なのかと白斗も頷いた。

ただでさえ山奥の素材採取はクエストでも難易度が高い方である。遭難の危険性やモンスターに襲われる可能性が高いのだから。

しかも雪山となれば、その危険度は更に跳ね上がる。

絶望的な状況に、ミナもフィナンシェも、ロムとラムも絶望感に包まれた。

 

 

 

 

 

「―――つまり、その山に行ってこいと。 お安い御用です」

 

 

 

 

 

―――ただ一人、この男。黒原白斗を除いて。

 

 

「は、白斗さん!? まさか行くつもりですか!?」

 

「まさかもまさか。 ここで行かなきゃブランが危ない」

 

 

既にコートや手袋を装着し、行く準備を整えようとしている。

だが、ミナとフィナンシェは悲鳴に近い声を上げて止めようとしていた。

 

 

「ですが、ルウィーの雪山は危険です! 登山やクエストに向かった腕利き達も、帰って来なったということが何度もあるくらいなんですよ!?」

 

 

例えここがゲイムギョウ界でなくとも、雪山の恐ろしさは教えて貰うまでもない。

険しい道のり、雪の冷たさが体温を奪い、吹雪けば視界が奪われて立往生、結果ビバークも失敗し、雪山に閉じ込められて戻ってこれなくなる。

しかもこの世界ではモンスターまで生息している。その危険度はマックスと言ってもいいだろう。

 

 

「だからと言ってブランを……大切な女の子を見捨てる理由にはならねぇ」

 

 

だが、白斗は一切怯まなかった。

ただの自信だけではない。彼にとって、大切な女の子が苦しんでいるままの方が、何より許せなかったのだ。

大切な者のためならば、命をも懸けられる。それがこの黒原白斗だ。

だからブランは、彼が気になって仕方がない。彼をこの国まで招いたのだ。それを見せつけられたミナ達は言葉を失ってしまう。

 

 

「なぁに、これでも雪山での訓練は受けています。 すぐに見つけて戻ってきますよ」

 

「……お兄ちゃん……」

 

「お願い……お姉ちゃんを……」

 

「ああ。 心配しなくてもサクッと見つけてサクッて戻ってくるさ」

 

 

今にも泣きそうな表情のロムとラムの頭を撫で、白斗は笑顔を見せる。

実際彼自身、そこまで悲壮感を感じてはいなかった。

確かに不安はないと言えば嘘にはなるが、今の白斗には「見つける」以外の選択肢など無かった。ならば一々絶望だの何だのに囚われてはいられない。

 

 

「……分かり、ました。 白斗さん……私から、依頼します……」

 

「ミナ様!? でも、それは……」

 

「……悔しいですが、今頼めるのは白斗さんだけなのです……。 本当に、自分が情けない……でも、ブランさんを助けられるのなら……」

 

 

ミナの手は震えていた。

それだけ、白斗に背負わせてしまうことに責任と悲しみを感じている。そんな彼女の冷え切った手を、白斗の温かい手が包んだ。

 

 

「大丈夫ですよ。 適材適所、こういう時こそ俺が役に立たないと」

 

「……白斗、さん……」

 

「それにミナさんはこれからが大変です。 職員たちへの指示、残ったブランの仕事、ロムちゃんとラムちゃんのお世話。 貴女にしかできないんですから」

 

 

彼女の肩に手を置きながら、白斗はそう告げる。

白斗だけが苦しいのではない、ミナにもやらなければならない仕事がある。だから責任を感じる必要も、暇もない。

そんな彼の気遣いに触れて、ミナも気を引き締めた。

 

 

「……はい! 私も……頑張ります! ですから、どうか……」

 

「任せてください。 ブランのためなら、例え火の中水の中草の中森の中、ですから」

 

「……ありがとう、ございます……!」

 

 

涙ながらに、ミナは頭を下げた。

これは後悔の涙などではなく、感謝の涙だ。女性にここまでさせては、有言実行しなければ男でも何でもない。

白斗は頬をバチンと叩き、己に活を入れた。

 

 

「……っしゃぁ! 絶対に見つけてやる!」

 

「で、では私は雪山用の装備を整えてまいります! 急いで整えますので!」

 

「ならば雪山でも良く効くホットなドリンクを調合しましょう。 少々お待ちを……」

 

 

フィナンシェと医者も、自分にできることをしようと協力してくれる。

愛する女神のため、そしてそんな女神を想う白斗のため。

慌ただしかったこの部屋の人間も、白斗と言う人間が繋ぎに入ることで一つに纏まろうとしている。

 

 

「お兄ちゃん、わたし達は……?」

 

「何か、何かお姉ちゃんのためにできることはないの……!?」

 

「あるとも。 一番大事なことが」

 

 

泣きそうな表情のまま、ロムとラムが問いかけてくる。大好きな姉のために何かしたいのだろう。

そんな二人の気持ちに応えるため、白斗は膝を曲げて二人と同じ目線になる。

小さな頭を撫でながら優しい声色で語り掛けた。

 

 

「それはな、ブランの傍に居てあげることだ」

 

「それ……だけ?」

 

「大事なことだぞ。 病は気からと言ってな、気分が良くなると治りも早くなるんだ」

 

「私達が傍にいれば……お姉ちゃん、良くなるの?」

 

「なるさ。 だって、ブランは二人の事が大好きなんだからな」

 

 

もう一回頭を撫でてあげると、狼狽えていたロムとラムも気持ちよさそうに目を細める。

次に目を開いた時には、弱々しい双子ではなく、責任感溢れる女神の妹になっていた。

 

 

「……うん! 私達、お姉ちゃんの傍にいる!」

 

「私達がいつまでも弱くちゃ……ダメなんだよね……!」

 

「その意気だ。 でも、ちゃんとお医者さんの言うことは聞くんだぞ?」

 

「「はーい!」」

 

 

元気よく返事をしてくれる。いつも通りの双子だ。

その後は医者の言うことをしっかりと聞き、タオルを交換したり、汗を拭いたりしている。

二人の賢明な姿が伝わったのか、ブランの苦し気な表情も若干和らいだ。

 

 

「……ブラン、ごめんな。 すぐに戻ってくるから」

 

 

今度はブランの頭を撫でる。

綺麗な栗色の髪は、汗で少し濡れていた。けれども白斗の体温が伝わったのか、少しだけ嬉しそうな顔を見せてくれる。

「行ってらっしゃい」―――白斗には、そう告げているかのように見えた。

 

 

「……行ってきます、ブラン」

 

 

その一言だけを残し、白斗は部屋を出た。

部屋を出れば、フィナンシェが雪山用の装備を一式整えてくれていた。厚手のコート、手袋、帽子、地図、食料など必要なものが最大限詰め込まれたリュックサック。そして、ブランを愛する者達の想い。

それらを全てその背中に背負い、白斗は雪山へと向かっていった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから約一時間後、ディース雪原―――。

 

 

「―――とは言ったもの……寒ィイイイイイイイイ!!!」

 

 

ルウィーの数ある雪山の中でも、厳しい部類に入る雪原。

気温は当然のように氷点下10度を下回り、鼻水すらすぐに凍ってしまう。何でもいいから動き続けていないと、白斗自身も凍ってしまいそうだ。

動けこそすれど、寒さだけは訓練云々でどうにもならないのが現実だ。

 

 

「ゴクゴクッ……! くっはぁ、お医者さんが作ってくれたこのドリンクがなきゃカチンコチンだっただろうな……感謝感謝……」

 

 

誰もいない中で独り言を呟いてしまっているが、これも生き残るため。

常に思考を切らさず、体を動かし続け、目で周りを見続け、足で前へと進み続ける。

 

 

「それにしてもルエガミヨか……。 変わった色合いの花だな。 この雪原内であれば生えているとのことだが……」

 

 

どうやら地域は限定されていないらしい。が、これは二つの意味があった。

一つは運が良ければすぐにでも発見できる可能性、二つ目は特定の場所に咲いていないため虱潰しに探す必要があるという点。

ブランのためにも、体力的な意味でも、前者の方が望ましい。

 

 

「ルエガミヨ……こんな感じの花だよなー」

 

 

そう言って白斗は近くに咲いていた花を摘んだ。

この雪山には珍しい、少しカラフルな色合いの花―――。

 

 

「……って見つけたああああ!? 思った以上にアッサリ見つけたあああああ!?」

 

 

とんでもないミラクルに白斗は大仰天。

普段のクールさもどこへやら。驚きと嬉しさが交じり合って、とんでもないテンションになってしまっている。

 

 

「は、ハッハハハ! やったぜブラン! お前の日頃の行いがいいから早く見つかったよ! さて、ゲット出来りゃこんなトコ長居する必要もねぇ!」

 

 

お目当ての品がこんなに早くも見つかるのはさすがに予想外だ。

これもブランの人徳のお蔭だと納得する。

後は潰さないよう、大切にバッグの中へと詰め、急いでルウィーの教会へととんぼ返り―――。

 

 

 

 

 

 

「きゃあああああああああああああああっ!!」

 

「え!? な、何だ……女の子の……悲鳴!?」

 

 

 

 

 

 

突然、雪風吹き荒れるこの雪原に似つかわしくない少女の叫び声が聞こえた。

慌ててその声のした方向に駆けつけてみる。

するとそこには―――。

 

 

「う、うぅ……私の、忍の技が……通じない、なんて……」

 

「グゥォォォォオオオオオオオオオ!!!」

 

 

一人の少女が、雪男のようなモンスターに襲われていた。

少女はオレンジ色のボブヘアーに、忍者の様な出で立ちで、小刀やクナイを装備していた。だがどうやらあのモンスターの前には歯が立たなかったらしい。

モンスターは少女を潰すべく拳を振り上げる。忍の少女はこれから襲い掛かる“死”に、思わず目をギュッと瞑ると―――。

 

 

「グッ!? グギャアアアアアアアアアアアアア!!?」

 

「……え……?」

 

 

銃声が、響き渡った。

顔を見上げると、雪男の左目が潰されている。どうやら誰かの銃弾が当たったらしい。

背後を振り返るとそこには。

 

 

「おい! 大丈夫か!?」

 

(……男の、子……?)

 

 

少女の目には、黒いコートを着た少年が銃を手に立っていたのだ。

それも距離は100メートル以上も離れている。しかもこの風雪が舞う雪原の中、寸分の狂いもなくモンスターの目を射抜いたのだ。

弱り切ったくノ一少女でも、それが認識できる。あの少年は―――自分を助けてくれたのだと。

 

 

「アイエフから貰った銃が役に立つとはな……なんて言ってる場合じゃねぇな! それっ!」

 

「きゃっ!?」

 

 

出来るだけこちらへ接近してきた少年はコートの袖口からワイヤーを一本伸ばした。

伸ばされたワイヤーは少女の腕へと巻き付き、そして引き寄せられる。

一方の雪男は、目を潰された激痛にもがいている上に視界が潰されたこともあって狙いが定まらない。

その隙に少年は、少女を自らの下へと引き寄せた。

 

 

「しっかりしろ! もう大丈夫だ!」

 

「……きみ、は……?」

 

「自己紹介は後! これ借りるぞ!」

 

「え……? わたしの……煙幕……?」

 

 

その腕で、少年は抱き留めてくれた。

温かく力強い言葉も、冷え切った少女の体へと染み渡る。そして腕から伝わる、熱い位の体温も。

すると少年はいつの間にかくすねていたらしい、煙幕を投げつけた。

 

 

「グゥゥ……!? オォォォオオオ!!」

 

 

未だに激痛が収まらず、そこに煙幕まで加わったことでモンスターはパニックに陥った。

その剛腕でやたらめったらに振り回し、煙幕を振り払おうとする。

やがて煙が晴れるとそこには少年も少女も、跡形もなく消えていた―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……う……ん……?」

 

「お、目が覚めたか」

 

 

ようやく目を覚ました少女。

目を開けてみると、そこは洞穴の中だった。その中で少女はリュックサックを枕、少年のコートを毛布代わりにして寝かされていた。

焚火もされており、ほのかな灯りと温かさが少女を包んでいた。

 

 

「……ここ、は……?」

 

「偶然洞穴を見つけたらその中に逃げてきたんだ。 怪我はなかったようだが、大分衰弱しているようだったからな」

 

「……そうだったんだ……」

 

「おっと、無理はするなよ。 とりあえず簡単なもの作ったから食べてくれ」

 

 

助けられたのだと悟った時、少女の顔が真っ赤に染まった。

無理をさせまいと、少年は優しく微笑んでくれた。焚火や手当だけではなく、食事まで。

外は極寒の筈なのに、少女は自らの体が熱くなるのを感じた。

 

 

「……ありがとう。 私、マーベラスAQL。 君は……?」

 

「俺は黒原白斗だ」

 

「白斗君……いい名前だね。 あ、私の事は気軽にマベちゃんって呼んでね」

 

「おう、よろしくなマーベラス」

 

「うう……白斗君、意地悪だ……」

 

 

互いに自己紹介し合う。

少女―――マーベラスは明るい声と顔になっている。白斗の手当てを受けて、元の性格に戻っていったようだ。

 

 

(……にしても、デカイ……)

 

 

そして、何を隠そうその少女は胸が大きい。その大きさたるや、あのベールにも比肩―――いやそれ以上かもしれない。

白斗も年頃の少年、マーベラスの胸に目がいきがちだった。

と、彼女の服装をや装備を見てあることに白斗が気付く。

 

 

「それにしても……変わった服と装備だな。 もしかして忍者?」

 

「そうだよ。 白斗君こそ、ナイフに銃なんて珍し……ってこれ白斗君のコートじゃ……!?」

 

「ああ、体を冷やしちゃまずいからな」

 

「そ、そんな! 白斗君こそ……」

 

「さっきまで弱ってた奴が何言ってんの。 ほら、大人しくしなさい」

 

 

ようやく白斗のコートが毛布代わりにされていたことに気づいたらしい、マーベラスが大慌てしだす。

当然気恥ずかしさもあれば、白斗に申し訳ないという気持ちもあったのだがそれを知ってか知らずか白斗はマーベラスを優しく寝かせた。

 

 

「あ、それとも変な臭いがするのか? だったらごめ……」

 

「ち、違うから! そう言うんじゃないから!」

 

 

慌てて否定すると、より深くコートに包まる。

いまいち解せない白斗だったが、とにかく大人しくしてくれるなら何でもいいかと流してしまった。

 

 

(……逆だから困るんだよぉ……)

 

 

こんな顔、見せられない。

乙女心全開のマーベラスは全力で赤くなった顔を隠すのだった。

こうしてみると、忍者であること以外は特に変わりのない女の子なのだがだからこそ余計に疑問が拭えなくなる。

 

 

「ところで幾ら忍者と言えど、こんな雪山の中を女の子が一人でうろつくなんて何があった? クエストか何かか?」

 

「ああ、それは探し物を……ってこうしてる場合じゃないっ!!!」

 

 

目的を訊ねた瞬間、思い出したかのようにマーベラスが跳ね起きた。

余程火急の要件があるらしい、急いで外へ出ようとするがそれを見過ごせる白斗ではない。

 

 

「ちょ!? 落ち着け!! まだ病み上がりだろうが!!」

 

「で、でも……早くしないとMAGES.が……!」

 

「めーじす……? 仲間か?」

 

「そうだよ!! だから離して!! もう三日目……早くしないと……!!」

 

 

先程まで死にそうな目に遭った彼女を送り出せるはずがない。

かと言ってこのままにもしてはおけなさそうだ。

とにかく、この血が上り切った頭を冷やさせるべく無理矢理座らせて、彼女の目線と同調させる。

 

 

「とりあえず何があったのか教えてくれ。 このまま行ってもさっきの二の舞だ」

 

「……うん……」

 

 

怒鳴りつけず、しかし決して離さず。

白斗は優しくも強く言い聞かせた。まずは言葉に出させることが大事だ。

何でもいいから話していれば、徐々に落ち着いてくるのが人間。マーベラスも、彼の言葉を何とか受け入れて細々ながらも話し始めてくれた。

 

 

「……私、仲間とあちこち旅をしてて……色んな世界を行ったり……ネプちゃん達と一緒に世界救ったり……」

 

「ネプちゃん……ネプテューヌか?」

 

「あれ? 白斗君、ネプちゃん知ってるんだ。 と言っても、ここの世界とは違うネプちゃんだけどね」

 

「平行世界って奴か? 凄いなマーベラス……っと悪い、続けてくれ」

 

 

聞き覚えのある名前が出てきたことでつい口を挟んでしまう白斗。この世界のネプテューヌとは別人らしいが、口ぶりを見るからにどの世界でも彼女は変わらないのだろう。

とは言え、今聞くべきは彼女の過去ではなく何故この雪山に来たのかだ。

 

 

「……その仲間……MAGES.が、スルイウ病に掛かっちゃったらしくて……」

 

「スルイウ病だと……!?」

 

 

まさかここでも名前を聞くことになろうとは。

何せ白斗がこの雪原に入った理由もそれなのだから。ブランを蝕んでいるものと同じ病魔、それがマーベラスの仲間にも巣食っている。

ここまで来たら、嫌でも彼女の目的は察した。

 

 

「……その治療のためには、ルエガミヨっていう花が必要らしくて……この雪山にしかないって……でも、見つからなくて……もう、今日しか無くて……!」

 

 

どうやらつい最近になってようやくそれを突き止めたらしい。

ともなれば、確かに彼女の焦りも理解できる。

大切な仲間の命が尽きようとしているのだから、冷静でいられるはずが無い。

 

 

「……私……モンスターに勝てなくて………白斗君に助けてもらって……どうしたら………どうしたらいいの……!? 私、また……仲間を、助けられない……っ!!」

 

 

しかしやってきたは良いもの、目当てのものが見つからないばかりか死にかけてしまい、今に至るということらしい。

弱々しくなる言葉が、彼女の心の痛みを表現する。白斗も、聞いていて胸が痛くなった。

 

 

(……あるんだよなぁ、それが……)

 

 

懐に手を伸ばす。そこには、先程手に入れたルエガミヨの花。

これだけは無くしてはならないと、後生大事に持っていたものだ。この花があれば、ブランを救える。そして―――彼女の仲間も救える。

だが、医者から見せてもらった資料によると一人一輪でなければ効力を発揮できない。

つまりこの一輪で救えるのは、ブランか彼女の仲間か、どちらかだけ。

 

 

「うっ……うぅぅう……!!」

 

 

己の無力さに打ちのめされ、マーベラスの涙が止まらない。

そんな彼女の姿が―――嘗ての自分の姿と重なった。

 

 

(……俺も、殺しの技術ばかり叩きこまれて……結局は嫌になって。 よくわかんない内にこの世界に飛ばされて……。 でも、俺にはネプテューヌ達がいてくれたから……ここまで生きてこられた……幸せにしてもらった)

 

 

傷つけるだけの力しか与えられず、その力は自らをも傷つける結果になってしまった。

そこから逃げ出して、白斗はいつの間にかこの世界に来ていた。

そんな彼を救ってくれたのはネプテューヌら女神達だ。けれど、今の彼女には味方がいない。しかも、タイムリミットもない。

 

 

(……俺は手を差し伸べて貰ったって言うのに、今泣いているこの子に差し伸べなくていいのか?)

 

 

白斗はまた懐に手を伸ばした。

触れる直前、一瞬だけ躊躇う。手に入ったのは恐らく奇跡、今を逃せば次は来ないかもしれない。

でも、それでも。

 

 

(……ごめんな、ブラン……。 嫌われても仕方ねぇ……でも、俺はブラン達に手を差し伸べて貰ったから生きてこれたんだ。 だったら俺も……手を差し伸べたい)

 

 

今でも後悔はしている。行動に起こす前から後悔している。

こんな選択しかできない自分が心底嫌になり、ブランに何度も謝っている。許されることではない、恨まれても文句は言えない。

けれども、白斗は覚悟を決めた。

 

 

「―――マーベラス、泣くなって。 ちょっと見せたいものがあるから顔を上げてくれよ」

 

「え……?」

 

 

彼女の肩に優しく手を置いた。温かな言葉と手が、彼女の涙を止める。

何と可愛らしい顔か。そんな顔を、涙で染めさせるわけにはいかない。

 

 

「ワン、トゥー……スリー!」

 

 

ポン、と言う軽い音と共に白斗の手から一輪の花が咲いた。

そこにあったのは、マーベラスが求めていた花―――。

 

 

「え? それって……ルエガミヨ!?」

 

「そう。 お前、日頃の行いがいいな。 こうやってチャンスが巡ってきたんだから」

 

 

彼女に差し出すべく、花を近づけた。

夢中で手を伸ばそうとしていたマーベラスだが、直前になって止まってしまう。

 

 

「……で、でもそれって白斗君のものでしょ……? もしかして、白斗君も……!」

 

「あー、違う違う。 俺はモンスター討伐のクエストで来ただけ。 希少なものだから金になるかなーって思っただけで」

 

 

嘘だ。本当は後悔に満ちている。

これが原因で、ブランを救えなかったら―――そんな思いが、彼の胸中を引き裂いている。

それでも、白斗は精一杯笑顔を浮かべた。彼女に悟られないように、出来るだけ優しく。

 

 

「……いい、の? 本当に……」

 

「いいとも。 それよりも仲間の命が危ないんだろ? さっさと行ってやんな」

 

 

マーベラスは、未だに受け取るかどうか迷っている。

忍者を自称する彼女の事だ、ひょっとしたら感づかれているかもしれない。

でも、今の白斗には彼女を助ける以外の選択肢など無かった。だから、後悔はあっても迷わない。

笑顔で頷き、彼女の手にルエガミヨの花を取らせた。

 

 

「……白斗君……!! ありがとうっ!!!」

 

「うおわっ!? だ、抱き着くなって!!!」

 

 

感極まったマーベラスが、泣きながら抱き着いてくる。

女の子特有の甘い香りと、爆乳とも称せるバストの柔らかさが白斗を包み込んだ。

突然の抱擁に白斗は赤面するが、何とか理性を取り戻して離れた。

 

 

「お、俺の事は良いから早く行けっての!!」

 

「うんっ!! でも、白斗君は……」

 

「俺ぁまだモンスター討伐出来てないからここまでだ。 ちゃんと帰れるかな?」

 

「む……忍者舐めないでよね! そのくらい忍法で出来るんだから」

 

「忍法すげぇ」

 

 

軽い会話とテンポの良さで、誤魔化しに掛かる。

彼女に手渡してしまった以上、焦りだすのは白斗だ。今度はブランが危ない。

一刻も早く、新たなルエガミヨを探さなくては。それを悟られないためにも、必死で心を押し殺す。

 

 

「……白斗君! また……会おうね!! 絶対にお礼するから!!」

 

「いいから行けってば!! ……またな、マーベラス」

 

 

涙と共に明るい笑顔を見せてくれたマーベラス。

そのまま何度も白斗にお礼を言いながら下山していった。

そんな彼女の姿見えなくなった途端、白斗は焚火を消し、荷物を纏める。

 

 

「……くっそォ! 俺の馬鹿野郎ォ!! こうなりゃ死んでも見つけてやる!!」

 

 

自分への義憤の余り、自らの顔を殴りつけた。

鈍い痛みが広がったが、血が上った頭を冷やすには丁度良かった。

冷静さと勢いを保ったまま、再び雪原を駆け巡る。まだ時刻は昼前、日没になれば捜索は困難を極める。

日没前にはなんとしてでも発見しなくては。

 

 

「……チッ、さすがにすぐには見つからないよな……!」

 

 

風も強くなってきた。最悪の場合、吹雪になるかもしれない。

吹雪けば視界も遮られ、体温も体力も一気に奪われる。タイムリミットは、日没だけとは限らない。

何とか突破口を見つけようと辺りを見回すと。

 

 

「……! あの崖、見晴らし良さそうだな」

 

 

切り立った断崖を見つけた。

ここは雪山ではあるが雪原でもある。つまりは視界を遮る木々も少ない。

あそこから見下ろせば、闇雲に探すよりも発見できる確率が上がるかもしれない。もう時間もない以上、試せる手は何でも試したかった。

 

 

(頼む! 神様……じゃなくてこの世界だと女神様だな。 ……同じ女神なら、俺はどうなってもいいから……ブランを!! ブランを助けさせてくれ!!!)

 

 

柄にもなく神頼みをしだす。

例え無様と言われようとも、白斗には構わなかった。それで彼女が救えるのなら、どんな誹りも、泥でも被る覚悟がある。

勿論崖に向かう途中でも、周りの探索は怠らないが、やはりルエガミヨは見つからなかった。

 

 

「はぁっ……はぁっ……! と、到着……」

 

 

ここに来るまでも全力だ。

全神経と全筋肉を使い、ここまで最短最速、尚且つ一切の見逃しが無いように走ってきた。

息が上がるが、ここで休んでいる暇はない。早く見下ろそうと崖に近づくが。

 

 

 

 

 

「……あれれ~? 可笑しいぞ~? ルエガミヨが咲いているような……」

 

 

 

 

 

―――奇跡は二度起きない。そう思っていた。

だが、白斗の目の前には雪風に揺れる一輪の花。

何度手持ちの資料と見比べても、全く変わらない。類似する植物も存在しない。

彼の目の前にあの花が―――ルエガミヨが咲いていたのだ。

 

 

「……やった! ありがとう、女神様!! これでブランを助けられるっ!!!」

 

 

思わず涙してしまう白斗。

急いで駆け寄ろうとした、その時。

 

 

 

「グゥルルル……グルァアアアオオオオオオオオオオッ!!!」

 

 

 

この雪原をも揺るがすような咆哮が轟く。

足を止め、振り返ってみるとそこには雪男のようなモンスターがいた。

白い体毛、丸太の様な剛腕、獰猛な牙、そして潰された片目―――。

 

 

「なっ!? あいつ、マーベラスを襲ったモンスター……まだいたのか!?」

 

「グゥォオオオオオオ……ォォォァァアアアアアア!!!」

 

 

息が荒く、唯一残った目は完全に白斗を見据えている。

血走ったその眼から感じられるのは怒り、いやそれを通り越した憎悪。間違いない、このモンスターは、片眼を潰した白斗に復讐すべくここまで追いかけてきたのだ。

 

 

(クッソ、こんな時に……! あの時は銃とかで不意打ち出来たから良かったが、俺単体でこいつに勝てるなんて思えねぇ……何より時間が無いんだよ!!)

 

 

まだ一日目、だとしてもこれ以上ブランを苦しませたくない。

焦る白斗だが、ここで冷静さを失えばただでさえ少ない勝機が潰えてしまう。決してモンスターから目を離さず、少しずつ後ろへとにじり寄る。

最悪の場合、ルエガミヨだけでも回収してこの場から撤退するということを考慮してのことだったが。

 

 

「グ……ォァガアアアアアアア!!」

 

 

そんな白斗の行動が気に入らなかったらしい、モンスターは近くの枯れ木を一本へし折り、腕に担いだ。

それだけでも凄い剛腕なのだが、それを振りかぶり―――。

 

 

「ってまさか投げる気か!!? おい馬鹿やめろぉ!!」

 

 

間違いない、その大木をこちらへ投擲しようとしている。

あのパワーで投げつけられる大木、受ければ骨が折れるどころの話ではない。しかも後ろには目的の花、ルエガミヨ。

何より崖が崩落し、花が磨り潰される可能性すらある。とは言え、もう銃も間に合わない。

 

 

「クッ………ソがあああああああああああああああああああっ!!!」

 

「オオオオオォォォォォォォォォォ!!!!!」

 

 

ならば、道は一つしかない。

振り返り、ルエガミヨの花に手を伸ばす。それと同時にモンスターが木を投げつけた。

雪風をも切り裂きながら飛んでくる大木。花に向かって飛びつく白斗。

 

 

(間に合え! 間に合えッ!! 間に合いやがれええええええええええッ!!!)

 

 

今、彼は自分の無事など全く考えていない。

ただ、ルエガミヨの花を手にできるかどうか―――いや、ブランを助けることだけが彼の全てだった。

引きちぎれそうなほどにまで、力の限り伸ばされた腕は―――

 

 

 

 

 

 

 

―――花を、もぎ取った。

 

 

 

 

「やっ、た……がぁぁああっ!!?」

 

 

 

喜びで溢れたのも束の間、白斗は背中に凄まじい衝撃を受ける。

モンスターが投げつけた大木が、白斗の真後ろに落ちたのだ。

直撃ではないとは言え、そのダメージはすさまじく、白斗は雪の上を転がり、あわや崖から転落しそうになってしまう。

 

 

「ぐっ……まだまだぁ!!!」

 

 

直前、ワイヤーを伸ばし崖の岩に巻き付けた。

何とか真っ逆さまにはならずには済んだ―――のだが、最悪の事態は止まらない。

投擲の威力に耐えきれなかったのか、崖に亀裂が生じ始めたのだ。

 

 

「ちょ!? 待……うわあああああああああああああああああああ!!?」

 

 

ミシミシという不吉な音が、白斗から血の気を引かせる。

しかし生死の言葉も空しく、崖はついに音を立てて崩落した。

落ちながら白斗はもぎ取ったルエガミヨの花を抱える。せめてこれだけは、守り抜くために。

 

 

 

 

 

 

 

 

(………ブランっ………!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

意識が途切れる直前、白斗の脳裏には、ブランの笑顔が浮かんでいた―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ルウィー教会、ブランの部屋。

 

 

「……――ッ!? は、白斗……!!?」

 

 

突然、ブランが飛び起きた。

顔色は悪く、汗も滝のように流し、息も荒い。気分は最悪だ。

スルイウ病に掛かっていたからではない、彼女にとって最悪な“夢”を見たからだ。

 

 

「はぁっ……はぁっ……! は、白斗……白斗は!?」

 

 

辺りを見回す。だが誰もいない。

窓の外は既に暗く、吹雪いているのかカタカタと窓が揺れている。

風の音だけが空しく響くブランの部屋。そこに、彼女が一番傍に居て欲しい人物がいなかった。

 

 

「……こうしちゃ……いられない!」

 

 

先程見たのは単なる夢でしかない。

だが、彼に会わない限りはその悪夢が悪夢でしかないという保証はどこにもなかった。

白斗に会いたい一心で、ブランは彼をベッドを降りようと―――。

 

 

 

 

「おいおい、病み上がりが無茶すんなっての」

 

「え……? 白斗……!?」

 

 

 

 

開けられた扉、

そこから姿を現したのは、いつもの黒コートを身に纏った少年―――白斗だった。

手には摩り下ろしたリンゴや水差しを乗せたトレーを手にしている。

 

 

「だ、大丈夫……なの……?」

 

「何の話だ? それよりお前が大丈夫なのってハナシ」

 

 

トレーをサイドテーブルに置き、白斗が近寄る。

そして何の躊躇いもなく、手を彼女の小さな額に当てた。

 

 

「ひゃっ!?」

 

「お、大分熱が下がっ……って段々熱くなってる!?」

 

「テメェの所為だバカ!!! うっ………」

 

 

何故かキレられた。だが、病み上がりが怒って平気なワケが無い。

すぐに気分が悪くなり、倒れそうになる。

そんな彼女の小さな体を、白斗の腕が抱き留めた。

 

 

「おっと、無茶すんなって言ったろうが」

 

「誰の、所為だと……」

 

「落ち着けっての。 それよりリンゴ、要るか?」

 

「……食べる……」

 

 

渋々ながらも押し黙り、リンゴを要求。

すると彼は摩り下ろされた一切れを串に刺すと。

 

 

「はい、あーん」

 

「って、ちょっと……!? は、恥ずかしい……」

 

「病人が我儘言うんじゃありません。 ほら、あーん」

 

「……あーん……」

 

 

そのリンゴを、食べさせようとしてきた。

羞恥心から一度は拒否してしまうが看病してもらえること、何より憧れていた「あーん」というシチュエーションの到来にブランは結局受け入れてしまう。

正直な所―――幸せ過ぎて味が分からなかった。

 

 

「うん、その様子だと大丈夫みたいだな。 それにしても焦ったぞ、スルイウ病にかかったなんて言うから……」

 

「スルイウ病って……あの奇病……?」

 

「そうだ。 疲労などが原因で免疫力が低下すると掛かりやすくなる……今回の原因は言うまでもなく徹夜だな、全く……」

 

 

呆れたように溜め息を吐かれしまい、ブランはばつが悪そうに視線を逸らす。

今は片づけられているが、今朝までは徹夜で仕事を進めていたのだ。

今日一日でしばらくの仕事を終わらせ、白斗との時間を少しでも作ろうとしたのだが完全に裏目に出た形になってしまった。

 

 

「……だって、白斗と……一緒に居たかったから……」

 

「……ありがとなブラン。 でも、それでお前が倒れたら意味ないだろ? ロムちゃんとラムちゃんも、ミナさんも、フィナンシェさんも、職員の人達も心配してたぞ」

 

 

少し怒ってはいるが、責めたいわけではない。

弱々しく俯かれた彼女の頭を撫でながら、白斗が諭すように語る。

さすがに今回はブランも素直に受け入れ、小さいながらも頷いてくれた。

 

 

「……白斗も、ごめんなさい……」

 

「いや、謝るのはこっちの方だ。 ……遅くなってごめんな、ブラン」

 

 

心配をかけてしまったことを謝るブランだが、白斗も謝ってきた。

今の時間は夜。ブランが目覚めたのはつい先程の事。

どうやら、今より少し前に彼はこの教会に戻ってきたらしい。つまりは夕方頃の帰還になる。

その間、彼女を苦しめてしまった。白斗にとっては、死んでも詫びきれないほどの罪悪感に駆られている。けれども、ブランは頭を横に振りながら。

 

 

「いいのよ。 ……人助け、したんでしょう?」

 

「え?」

 

「まぁ、その相手が爆乳娘だってのは軍法会議ものだけどなァ?」

 

「ゑ?」

 

 

何故か、ぴしゃりと言い当てられていた。

しかも相手の事まで詳細に把握している。当然、白斗は驚きの表情に満ちていた。

彼女は今の今まで眠っていたのだ。外の情報を知る機会など無かったはず。

呆気に取られていると、ブランが顔色を少し暗くしながら話しかけてくる。

 

 

「……夢を、見たの……。 白斗が、私のためにディース雪原に行く夢……」

 

「マジで!? 予知夢まで見れるとは……さすが女神様……」

 

「私だって、こんなの初めてよ……。 でも、もう見過ごせない……」

 

 

どうやら彼女が見た夢は現実に起こった事をそのまま見ていたようだ。

ここまでくると予知夢というより幽体離脱して覗いていたとしか思えないが。

だがブランはそれを誇ることは無く、寧ろ辛そうな表情のまま、白斗の袖を握り締めていた。

 

 

「……白斗、ごめんなさい……。 私の所為で、大怪我をさせちゃって……」

 

「は? な、何のことだか……」

 

「つんつん」

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!?」

 

 

尚もしらばっくれる白斗。ブランに余計な心労を掛けさせたくないからだろう。

だが、ここで誤魔化されては一生後悔し続ける。ブランは心を鬼にして、白斗の背中を突いた。

すると激痛が彼の背中に走り、らしくない悲鳴を上げさせる。

 

 

「……やっぱり……崖から、落ちたのね……」

 

「………どこまで見てるんだよ、ったく………」

 

 

隠しきれない、そう悟った白斗は観念したように黒コートを脱いだ。

その下からは、痛々しく撒かれた包帯が晒される。

―――あの後、不幸中の幸いか瓦礫の下敷きにはならず、新雪がクッションになってくれた。だがやはり高所から落下したために全身打撲。

体を引きずって帰ってきた時にはもう夕方、ロムとラムには泣かれてしまい、フィナンシェやミナに大慌てで治療してもらった。

 

 

「……酷い、怪我……。 わ、私の……所為で……」

 

 

分かってはいた、分かってはいたのだが―――実際目の当たりにした白斗の怪我にブランは口元を押さえてしまう。

ガタガタと震えだし、顔色を青くした。

 

 

「い、命に別状はないし! だから気にすんなって!」

 

「……でも、私の所為で……白斗が、こん、な……大怪我を……っ!」

 

 

やはり、責任を感じてしまっている。

命に別状はないとはいえ、怪我は怪我。しかも包帯の量や怪我を負った状況からして大怪我の部類に入る。

彼にそんな思いをさせてしまったことを、ブランは何よりも許せなくて、震えながらも謝ってしまう。悲痛な声と共に、涙まで流しながら。

 

 

「ごめ……ごめん、な……さい……! ごめんなさい、白斗……!」

 

「……ブランの所為なんかじゃない。 それにな」

 

 

未だに泣きじゃくるブラン。その姿は、年相応の女の子そのものだった。

だが、女の子を泣かせたままにはしておけない白斗。

ブランを落ち着かせるべく、右胸に抱き寄せた。

 

 

 

 

「……俺、ブランの笑顔が見たいから頑張れたんだ。 ……だから、笑ってくれよ」

 

「………はく、と………」

 

 

 

 

優しい声色で、温かい体温で、心地よい鼓動で。ブランを包み込んだ。

それらが彼女の哀しみを溶かし、温もりを齎す。

先程の哀しみの涙とは、違う涙が瞳から溢れ出し、ブランは甘えるようにその胸に頭を預けた。

 

 

(……ああ、やっぱり……あなたは温かくて、優しい人……なのね……)

 

 

彼は、自分の事を暗殺者などと罵っていたがブランとって白斗は暗殺者などでは無かった。

どこまでも優しくて、どこまでも温かくて、どこまでも包み込んでくれる人。

いつでもブランを支え、守り、そして思ってくれる―――ブランの心臓が、心地よく跳ねた。痛い位に跳ねる心臓、でも気分は幸せだ。

 

 

 

(……あの日、ロムとラムを助けると言ってくれたのが嬉しかった……。 それだけじゃなくて、私の想いを守ってくれた……。 ウサンの事件の時も、私のためを思って取り計らってくれた……それに、一緒にいると楽しくて、嬉しくて、幸せになれる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………やっぱり、そう。 私は……女神ホワイトハートは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……白斗に、恋……してしまったのね………)

 

 

 

恋、それは彼女が愛し、自身も執筆しているラノベでは何度でも出てきているシチュエーション。

けれども、今まで知り合った存在の中に、彼女にそこまでの気持ちにさせる男性などいなかった。増してや、ここまで想ってくれる人など。

それが今、こうして現れた。こうして傍に居てくれている。―――黒原白斗が。

 

 

(薄々は感じて……だから、それを確かめたくてこの旅行に招いた……。 そして、確信した……もう迷わない、私はこの人が……白斗が、好き……大好き……!)

 

 

その恋を自覚した途端、幸せな気持ちで溢れだす。

先程までの自己嫌悪など、全て掻き消されてしまう程に。この一瞬、白斗が抱きしめてくれるこの一時ですら、ブランにとっては愛おしい。

穏やかな笑顔で、ブランは白斗の全てを受け入れた。

 

 

「……白斗、なら……一つお願いしていいかしら?」

 

「んぁ?」

 

「……一緒に、寝て欲しいの。 もう、白斗が離れるのは……嫌、だから……」

 

 

彼の腕の中で抱かれながら、上目遣い。

ブランの体格だからこそできる必殺攻撃に、嘗ての世界で最高峰の暗殺者と言われた白斗ですら成す術無し。

一瞬にして理性が削がれてしまい、ゴクリと固唾を飲みながらも白斗はゆっくりと頷いた。

 

 

「……分かっ、た……」

 

「ふふ……今度は、いい夢見れそう……」

 

「……だと、いいな……」

 

 

二人して横になる。

ブランのベッドは大きめだったため、体格の大きい白斗が横になっても十分余裕はあった。

抱き合う形になるので、白斗もブランも緊張気味だったが、決して嫌な気持ちにはならない。寧ろ、ブランにとっては幸せそのものだ。

 

 

(おっと、寝る前にネプテューヌに連絡……今夜はメールだけにしとくか)

 

「……ネプテューヌに連絡してるの? マメね……」

 

「ナチュラルに心読むなよ……。 しないとうるさいからな、あいつ」

 

「ネプテューヌらしいわね……。 でも、今は私がいるんだから他の子の話題はしないで」

 

 

メールを打ち終えると、少し拗ねたような声を出すブラン。

またもや甘えたように顔を埋めてくる。

そんな彼女が可愛らしくて、その体温が心地よくて、何より疲労困憊だった白斗の体に睡魔が訪れる。

 

 

「………やべ……俺も、眠ぃ………」

 

「寧ろ寝て。 ……二人で、良い夢……見ましょ?」

 

「……だな…………おやすみ……ブラ……ン…………」

 

 

すぐに白斗は眠りについた。やはり相当な疲労がたまっていたのだろう。

思えば、彼は寝顔を今まで他人に晒したことは少ない。気絶ことはあれど、無防備となる睡眠は他人に晒せないという彼の暗殺者としての過去が原因だろう。

でも、今ではこうして彼はブランの隣で安らかな寝息を立ててくれる。

 

 

(……例え貴方が暗殺者だったとしても、それでいいの。 ずっと、私は貴方の傍に居る……だから、ずっと傍に居てね)

 

 

そんな彼の顔が、愛しくて。

今でも心臓は彼の顔を見る度に心地よく跳ねる。

これが、恋。彼女が心のどこかで願っていた、ただ一人の女の子としての気持ち。

 

 

(……ありがとう、白斗……。 貴方には、本当に返し切れないほどのことをしてもらった……守ってくれて、助けてくれて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこかで願ってた「素敵な恋」が……貴方で良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白斗……大好き………よ…………)

 

 

 

大好きな人の腕の中で寝られる幸せを噛みしめながら、ブランも眠りにつく。

その顔は、今までの人生の中で最も幸せな顔だったという―――。




サブタイの元ネタ「ネプテューヌ☆サガして」の歌詞より抜粋

ということで、病気ネタのお話でした。
同時にマベちゃん登場。私の好きなメーカーキャラ故に贔屓した結果のヒロイン昇格である。
そしてとうとうブラン様陥落。ブランの可愛らしさを描写出来たら幸いです。
次回はブランと言えば読書、ということでそれにちなんだシチュエーションをば。
お楽しみに~。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。