恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART 作:カスケード
それは、ブランがスルイウ病に掛かった翌日の事だった。
「………はぁ………」
執務室のベッドの上で、ブランは一人ため息を付いていた。
寝間着のまま、上半身だけ起こして本を読み漁っている。のだが、全く内容が入って来ない。
(……とても静か。 今朝の慌ただしさが嘘のようね……)
また溜め息を一つ。今朝は大変だった。
様子を見に来たフィナンシェに白斗との添い寝をバッチリ目撃され、それがあれよあれよという間にロムとラム、ミナにまで伝わった。
当然ロムとラムはブランの快復に喜ぶと同時にそれを茶化され、恥ずかしい思いをした。
それだけならまだ良かったのだが。
(でも……幾ら病み上がりだからって、ほぼ軟禁状態は酷いんじゃないかしら)
そう、現在彼女は療養目的で部屋に押し込められている。
厳密にいえば申請すれば部屋の外へは出られるのだが、外出は禁止されている。それだけならまだしも、仕事もパソコンもするなと言われてしまった。
仕事の方はミナで片づけるとのことだが、パソコンまで取り上げられてはラノベ新人賞に向けての原稿の執筆も出来ない。
(……白斗、今何をしているのかしら……)
結果、こうして本を読むことしか出来なかった。だが、やはり本の世界に浸れない。
昨夜の一幕で白斗への恋心を自覚してからは、彼の事ばかり考えているからだ。
今朝、添い寝が発覚して白斗が逃げ出してから以降ずっと会っていない。それがより、切なさを増幅させている。
『ブラン様、よろしいでしょうか?』
「……フィナンシェ? いいわよ」
丁寧なノック音。声の主はこの教会が誇るメイド、フィナンシェだった。
押し込められている自分に一体何用なのか、と勘ぐっていたが彼女ならば変な事態は持ち込まないだろうと判断し、許可した。
扉が明けられたが、フィナンシェは何やら小包を抱えている。
「何? その荷物……」
「よいしょっと……ブラン様宛の荷物です。 また通販で本をご注文されたようなので」
「……ああ、そうだったわね。 ありがとう」
「いえいえ、ちゃんと大人しくしてくださいね。 失礼いたします」
思い出した、本を通販で買っていたのだ。
本好きで尚且つ出不精のきらいがあるブランにとって通販はまさに救いの一手、重宝している。
今回は楽しみにしていた新刊の発売日。ブランは先程までの恋煩いを何とか解消するため、新刊を楽しもうと小包を開いた。
「……げ。 しまった……」
だが、包みを開けた次の瞬間。彼女の顔が曇った。
些細なミスの一つだ。ただ、同じ本を二つ注文してしまっただけである。所謂凡ミス、しかし妙に損した気分になってしまう。
「はぁ、読書家として捨てるのも売るのも出来ない……なら白斗にプレゼントね。 白斗も、このシリーズを気に入ってくれていたようだし」
本を粗末に扱うようなことは彼女には出来ない。
ならば、同じく本を好んでくれている人にプレゼントするのが一番。真っ先に浮かび上がったのが、白斗だった。
彼の愛読書の傾向は自分と似通っている。先日もオススメした本を気に入ってくれて、感想などの話も盛り上がった。
そんな彼なら、この本を楽しく読んでくれると―――
「……そうだ! 一度やってみたかったことがある……今なら夢が叶う!」
その時、この二冊の本を使ったあることを思いついた。
中々果たせなかった彼女のちょっとした野望が今、実現されようとしている―――。
☆
―――一方その頃、白斗の部屋では。
「……ふぅ、ブランが貸してくれたこの『ブレイヤーズ』シリーズがなかったら、退屈死していたところだったな……」
白斗もまた、ベッドの上で読書をしていた。
現在彼はタンクトップを着込んでいるが、その体には昨日から撒かれた包帯が今も残っている。
「全く……みんなして外出禁止とか言い出してくるんだもんな。 酷ぇや……」
実は彼もまた、ブランと同じように外出禁止令が下されてしまった。
原因は言わずもがな、昨日の大怪我だ。
命に別状はなかったとは言え、転落して背中を強打すると言う大怪我。当然皆からは激しく心配され、今日一日大事をとって絶対安静と言われていたのだ。
「つっても、出ようとするとロムちゃんとラムちゃんに泣かれるし……かと言って、ブランが貸してくれた本も読み終えた……退屈だ……」
退屈しのぎの本も全て読破してしまった。
どれも本の蟲であるブランが勧めるだけあって傑作だったが、読み終えた後の手持ち無沙汰感が尋常では無かった。
感想を言い合えるブランも、同じく軟禁状態。
「こういう時に限ってロムちゃんとラムちゃんも来ない……きっとミナさん辺りに止められているんだろうなぁ」
いつもだったら飛びついてくる双子の姿も、今朝以来見かけない。
白斗の容体を悪くしないように控えてくれているのだろう。
「ネプテューヌと話でもするか……イヤイヤイヤイヤ! この状況を知られたらきっとまた心配かけちまう……今はやめとこ」
退屈を紛らわせようと携帯電話を手に取りかけた。
いつも騒がしいが、最終的に自分を楽しくしてくれるネプテューヌとの会話。だが妙な所で勘のいい彼女の事だ、きっと知られてしまう。
通話は諦めたが、猶更無聊を囲う羽目に。
「……ブラン、大丈夫かな……。 今朝の時点では元気そうだったけど……」
そして、ふとブランの事を考える。
昨日まで病に倒れていた彼女だ。今日は大事をとって療養してあるとは聞かされているが、その後も悪化していないかどうか不安になる。
せめて一目だけでも見ることが出来れば、と思っていた矢先の事。
『……白斗。 今、いいかしら……?』
「え……ブラン!? い、いいけど……」
控えめなノック音。そしてブランの声。
思わず驚いて跳ね起きたと同時に扉が明けられる。現れたのは、二冊の本を抱えたブランだった。
「……良かった、元気そうで……」
「そりゃこっちの台詞だ。 でもよく部屋から出してくれたな」
「仕事とパソコンと教会の外へ出ることを禁止されただけ、教会内は動けるの。 白斗は正真正銘の外出禁止だけど」
「酷いわっ!! 格差社会っ!!」
「格差も何も白斗の方が酷い怪我なんだから当然よ」
呆れられてしまった。
「……ところで白斗、ブレイヤーズ……もう読み終えたの?」
「ああ、すっげー面白かった! それだけに読み終えたら退屈になっちまって……」
口惜しそうに語る彼の言葉から、本当に気に入ってくれたみたいだ。
またまた彼との好みが合致して嬉しい。しかもただ趣味が合うだけではなく、白斗は新しい意見や考察を盛り込んでくれるのだ。
それもまた、議論が盛り上がる一つの要因となっている。
「そう、丁度良かった……。 実は今日、それの新刊の発売日で今届いたの。 でも、間違って二冊購入しちゃったから白斗に片方あげるわ」
「え? いいのか!? ありがとなブラン!」
珍しく無邪気にはしゃいでいる白斗。
余程嬉しかったのだろう、年相応の可愛らしさに思わずブランも胸に来てしまうが、今は悶えている場合ではない。
「で、ついでなんだけど……お互いに、同時に読んでみない?」
「ん? どういうことだ?」
「ここに同じ本が二冊あるから、それを二人で同時に読むの。 読み終えたら、いつものように感想会……どう?」
要するに、同じ本の世界をリアルタイムで共有しようと言うのだ。
本は人によって読み進めるペースが違うため、共有するのが難しい。だがこの方法なら、それぞれの読み方で、同じ世界に浸ることが出来る。
「面白そうだな、いいぜ」
「良かった……それじゃ、スタート」
ベッドの上に腰かけ、ブランの合図と共に本を開く。
冒頭には絵師入魂のフルカラーなイラストで、今回の本がどんな内容なのかを簡潔に伝えてくれる。
手軽に楽しめるのも、まさにライトノベルの魅力だろう。
掴みは上々、二人は寄り添いながら
(ん? こいつ、前の巻に出てきた奴だな……ここで出てくるのか!)
(相変わらず伏線回収が巧みね……小説家を目指す者として、見習わなければ)
二人は知る由もないが、読み進めるスピードはほぼ同じだった。
ページを捲る音、反応を示すタイミング、息の飲み方。その全てが重なる。
(……お、ヒロインと急接近……! いよいよ鈍感なこやつにも春が来たか!?)
(……ごくり……。 こ、こっちまでドキドキしてきちゃうわ……)
そして物語はいよいよ佳境へと入る。
敵の本拠地へ攻め込もうとする前日、所謂決戦前夜。命を落とすかもしれぬ明日を前にして、主人公とヒロインが寄り添う。
背中を互いに預け、その温もりを肌で感じながら、一切振り返ることなく―――
(……? そう言えば、さっきから背中が……)
(温かい、ような……?)
背中、温もり。その単語が出てきた途端の事。
白斗とブランの背中も妙に温かい何かに当たっていることに気づいた。軽く振り返ってみると。
「「……あ」」
互いの目線が、合った。
「「………ッ!!?」」
白斗とブランは、少し見つめ合った。
それは数秒とも、数分とも、もしかしたら一瞬の出来事だったのかもしれない。でも、確実に互いの視線が同調した。
白斗の力強い瞳、ブランの美しい瞳。互いのそれに吸い込まれそうになった瞬間、我に返り慌てて目線を逸らした。
(び、びっくりしたぁ~……! ってか俺、ブランと背中合わせしてんのか!?)
(い、いつの間に……! 無意識、って奴かしら……!?)
バックン、バックンと心臓がうるさい。白斗に至っては機械の心臓にスイッチが入ってしまいそうだった。
外は猛吹雪、しかし感じられるそれぞれの体温は燃えるように熱い。
(……そう言えば、ブランの背中って……こんなにも小さいんだな。 女神様だけど……こう、すっぽり収まって……守りたくなるような…………)
(……白斗の背中……大きい……。 私を包み込んでくれるような大きさと力強さ……。 ああ……私はいつもこの背中に守ってもらったのね……)
こんな風にして、異性と背中合わせしたことなど二人には無かった。
片や暗殺者、片や女神様。生まれやこれまでの道のりは違えど、特殊な人生であったことから他人と交わることがなかった。
それが今ではこうして、互いの背中を通じて、互いを感じている。
(って何不埒なこと考えてんだ俺っ!? ブランにキレられるぞ!! ホワイトハートになったこやつを止められるワケ無かろうがッ!!)
(……う、うう……! 白斗に呆れられたら、もう一貫のお終いよ……! ここは、心を鬼にして集中集中集中……!!)
気まずい雰囲気が背中越しに伝わる。少し汗ばんできてるような気もする。
だが緊張の余り、そこまで気にしている余裕はない。
何とか物語の内容に目を通すが、先程に比べて入り込めない。それでも、脳内で声にしながら読むことで無理矢理切り替えるという手段に出た。
(えーと、……少年と少女は……)
(おずおずと……手を後ろに伸ばし……)
((……その手を、重ね合わせた……って!?))
―――自然と、二人の手が動いていた。
意識してか、それとも無意識か。
まさに、物語の少年と少女のように、その手を重ね合わせた。
「なっ……!? あ、いや……ごめ………! って、ブラン……?」
「っ………」
また気恥ずかしさの余り、白斗が手を退けようとする。
のだが、寧ろブランは彼の手を握っていた。
その小さな手では、白斗の大きな手を全て包めなかったが、それでも彼を離したくないと言わんばかりに握っていた。
「……白斗は、嫌……?」
「嫌って、何、が……?」
「……私と……こ、こうして……手を、繋いでいるの……」
声は震え、息は乱れ、汗は止まらない。
それでもブランは、白斗の手を離そうとはしなかった。顔は振り向いてくれないが、きっと真っ赤に染まっていることは想像に難くない。
何せ、白斗も同じなのだから。だから、白斗は答える。
「………嬉しい」
「………っ!」
否定や、肯定ではない。彼の想いを、正直に言葉に乗せた。
ブランの体温が、また上がる。その熱さは、背中と手を通じて白斗にも伝わった来た。ここまでくると痛いくらいだ。
しかし、白斗もまたその手を離そうとはしなかった。
「………ありがとう………」
「どういたしまして」
白斗は、受け入れてくれる。
こんな些細な願いすらも真摯に受け止めて応えてくれる。昨日、やっと自覚した恋心だが、その想いは間違いなどでは無かったとブランは嬉しくなった。
「……このまま、読み進めましょ」
「片手で読書なんてやりづらいけど……ま、いいか……」
読書が好きで、趣向も同じで、同じ読み方。
こんな人は、もういない。彼しか、彼女しか、いない。
二人はまだ恥ずかしさを捨てきれないが、それでも手を繋いだまま、再び本の世界へと入り込んだ。
―――今度は、緊張とは違う。嬉しさを覚えながら。
☆
「276ページの、こいつなんだけど……動きおかしくね? 怪しいって絶対!」
「確かに……。 でも、敵のスパイにしては利が無さすぎるわ」
「むぅ、言われてみれば……」
それから本を読み終えて、二人は感想会を始めた。
率直な感想を述べるだけではない。自分なりの意見を出し合って、物語への見解を深めている。
時に同調したり、時には反論したり。でも、不思議と喧嘩になることは無かった。寧ろ、楽しく議論を展開できる。
「……うーん、今語れるのはこれくらいかな? でも、やっぱり面白かった!」
「私も……」
そして、最後には率直な感想で締め括られる。
二人の感想は、大体同じなのだ。
読書が大好きなブランが本を勧め、白斗がそれにハマる。二人の感想会は盛り上がり、ブランがまた次の本を探してくれる。
そんな関係が、既に二人の間で出来上がっていた。
「……なんか、たまにはこういう読み方も……いいな」
「そうね……幸せよ。 ふふっ……」
白斗は、いつも以上に新鮮で、いつも以上に楽しめたようだ。
ブランもまた普段とは違う幸せを味わっている。
(……好きな人と趣味を、時間を、世界を共有できることが……こんなにも幸せだったなんて……。 案外私って、乙女っぽいのかしらね……)
単なる思い付きが、最高の時間へと変わった。
それも全て白斗のお蔭だと、ブランは微笑む。
しかし読書に集中し過ぎて少し喉が渇いてきた。フィナンシェに頼んで飲み物でも用意させようかと思い立ったその時だ。
『白斗さん、すみません。 今よろしいでしょうか?』
「フィナンシェさん? いいですよ」
丁寧なノック音。またもやフィナンシェだ。
グッドタイミングだ、用事を済ませてもらうついでに飲み物を頼もうとブランは考える。
白斗も特に不都合など無かったので、二つ返事で許可した。
「よいっしょっと……は、白斗さんにお届け物です……。 ってブラン様、こちらに来ていたんですか」
部屋に入ってきたフィナンシェ。
彼女は大きな段ボール箱を持ってきた。女の子一人は入れそうな大きさで、重量もそれなりにあるらしく、必死になって運んでいる。
「今日はやたら荷物を持ってくるわねフィナンシェ。 それにしても大きい段ボール……白斗、何を買ったの?」
「いんや? 俺、通販なんてこの世界に来てから一度もしてないけど……」
だが当の白斗は全く覚えがないらしい。
断言しているのだから間違いはないだろう。訝しむ白斗とブランだが、とにかく伝票を見て見ないことには何もわからない。
「ええと、差出人は……ネプテューヌ? あいつ何を送ってきたんだ?」
どうやらネプテューヌが何かを送ってきたらしい。
毎晩連絡している白斗だが、そんな話は一切聞いていない。何かのサプライズだろうかと思いながら開けようと手を伸ばしたが。
―――ガタガタガタッ!!!
「んなっ!? 何だ何だ何だァ!!?」
「箱が動いて……!?」
ひとりでに、箱が動いた。
思わず飛びのいて距離を取る三人。間違いない、あの中に何かがいる。
一体何なのか、臨戦態勢に入りながら固唾を飲み―――
「パンパカパーン!! ネプテューヌ登場ーっ!!!」
―――中から、ネプテューヌが出てきた。
「「「………………」」」
「あ、あれれ~? おかしいぞ~? リアクション薄いなぁ、もー……」
「ブラン、今すぐ詰め直すぞ。 そして湖へドボンだ」
「了解だ白斗。 縄……いや、鎖を持ってきてくれ」
「ねぷぅぅぅ――――っ!? 土曜サスペンス劇場にはまだ早いよ!!?」
冷たい視線から一転、白斗とブランが怒りを隠そうともせずに睨み付けた。
ブランに至っては、素の乱暴さが表に出てしまっている。
「お黙り!! 大体何でお前がここにいるんだよ!?」
「何言ってんの!! 白斗が大怪我をしたって聞いたから慌てて来たんだよ!!」
「ゑ!? な、何で知って……!?」
叱るように白斗が言うが、逆に叱られてしまった。
しかもその理由が、白斗の大怪我を心配してとのことだ。心配かけさせたくないから黙っていたのに。
情報の出どころはすぐに分かった。隣で気まずそうにしているブランだ。
「……私から話したの。 白斗が大変な目にあったのに、隠すなんて出来ないから……」
どうやら今朝の時点でブランから一報を入れたらしい。
今、白斗の身元引受人はネプテューヌだ。家族同然である彼女に連絡を入れないのは確かに筋違いである。
この分だと、他の女神達にも話が伝わっているだろう。
「……やっぱり、白斗を連れ戻しに来たのね」
「え? つ、連れ戻しにって……どういうことだブラン!?」
「当然よ。 ……私の所為で、白斗に大怪我させてしまったから……こうなっては、この旅行が中断されても仕方ないの……」
理屈は分かる。
形としては、白斗は国のトップである女神直々に招かれた来賓。その来賓がこんな目にあっては、国の威信に関わると言うもの。
何より白斗の事を大切にしているネプテューヌが見過ごせるはずがない。
「私だって、逆の立場ならそうしてるわ……」
「で、でも……ネプテューヌ、ちょっと待ってくれないか!? 俺、まだ……」
やはり責任を感じているブラン。その声は、暗い。
そんな彼女を放っておけなくて、何よりまだ帰りたくなくて。白斗はつい口走ってしまう。
対するネプテューヌはと言うと。
「えーと……勘違いしているみたいだけどさー。 ブラン、私は見舞いにきただけだよ? 別に白斗を連れ戻そうとかそういうんじゃないから」
「え……? そう、なの……?」
困ったような表情で、そう返してきた。
予想外だったらしく、今度はブランが呆気にとられる。
「……正直言えば、白斗が大怪我したって聞いた時……頭真っ白になっちゃって。 凄く……心配だったんだよ? ……私、本当に怖かったんだからね?」
「あ……その……。 ネプテューヌ、心配かけて……ごめんなさい」
心からネプテューヌは、白斗の事を心配してくれていたのだ。
それも自分の事のように、本気で心を痛めて。悲しそうに目を伏せて。顔まで俯いて。
明るく、優しい彼女にそんな気持ちにさせてしまったことを白斗は悔やみ、本気で頭を下げた。
「……でも、白斗が生きててくれて……本当に良かったよぉ……!」
「……ホントに、ゴメンな」
終いには涙まで出てしまうネプテューヌ。
そんな彼女を見ていられなくて、白斗は涙を指で拭ってあげる。
するとネプテューヌは笑顔を見せてくれた。まだ気持ちは収まっていないが、それでも白斗が生きていてくれたことで心底安心してくれる。
「ぐすっ……ホントだったら無理矢理にでも連れ戻したいけど……白斗には旅行を楽しんでもらいたいし、まだベールの所もあるから……今回だけだからね!」
「肝に銘じる」
「私も……本当にごめんなさい、ネプテューヌ」
いつも無茶しがちな白斗も、彼女の涙を見せられては反省せざるを得ない。
ブランも同じ気持ちで、珍しく素直に頭を下げた。彼女にとっても、ネプテューヌにとっても大切な人を危険な目に遭わせてしまったことは今でも悔いているから。
「ならよろしい! ブラン、今度こそ白斗の事……頼んだからね!」
「ええ……。 もう、怪我なんかさせないし、絶対に満足させて見せるから」
「その意気! あ、それからこんぱから差し入れのプリンだよ!」
「お! やりぃ!」
見舞いとして、プリンを持ってきてくれた。
しかも料理上手なコンパお手製らしい。であれば期待せざるを得ない。
先程の暗かった空気も一転、白斗は笑顔でプリンを受け取った。この空気の切り替えも、ネプテューヌの得意技である。
「はい! それからこれはブランの分!」
「え……わ、私にも……?」
けれども、ブランの目の前にも一つ。プリンが差し出された。
驚いたような表情で見つめ返したが、ネプテューヌは相変わらずニコニコと笑っている。
「だから言ったでしょ、お見舞いだって。 白斗も心配だったけど、ブランも心配だったんだからね!」
―――そう、白斗だけではない。ブランのためでもあった。
常に友達を思いやる心、これがネプテューヌがネプテューヌたる所以。
思わず心が熱くなってしまうのを感じ、ブランは胸元を握り締めながらそれを必死で隠そうとする。
「……あ、ありがとう……」
「どういたしまして! まぁ、プリンを作ってくれたのはこんぱだけど」
「……でも、心配してくれたのは……嬉しいわ」
ブランも、ノワールほどではないが素直ではない部分がある。
けれどもここまで優しく接してもらって邪険にするようなお人ではない。柔らかい微笑みでプリンを受け取り、それを一口。
極上の甘味が口の中で溶け、体中に糖分を齎す。
「ん、美味い! さすがコンパ!」
「ええ……。 ちゃんとコンパにも、お礼を言わないとね」
「むー、二人が食べてるのを見ると私も食べたくなってきた! というワケでいただきまーす!」
「「オイ」」
二人してツッコミを入れてしまう。
けれども、ネプテューヌにはしんみりされるよりもこうして元気でいてくれる方がいい。
すぐに白斗とブランの表情は柔らかくなった。
と、そこへ慌ただしい足音が更に二つ―――。
「白斗!! 大丈夫なの!!?」
「大怪我をしたと聞いて……まぁ、何て包帯の量……!」
「え? の、ノワール様にベール様!?」
現れたのは残る女神、ノワールとベール。
今まで部屋で呆気に取られていたフィナンシェもさすがに察知できておらず、急な訪問に驚いている。
「うーす、黒原白斗。 今日も元気です」
「そんな包帯だらけで何言ってるのよ! ってネプテューヌまで来てたのね……」
「当然だよ! あ、旅行は中断しないから安心してね」
「良かった……。 旅行継続もそうですが、白ちゃんとブランが無事で何よりですわ」
どうやら二人とも、白斗とブランを心配してきてくれたようだ。
ベールに至っては来週が控えているためフライング気味の登場ではあるが。
結局、先程までの静かで二人きりの時間がぶち壊されたのでブランは少々不満そうだったが、すぐに笑顔になる。
(……こうして皆が一度に集まってくれたのは嬉しい……。 白斗、これも貴方のお蔭ね)
友好条約を締結する前まで、個人の事情を優先する傾向にあった女神達。
だが、白斗が現れてからはそれが一纏まりになりつつある。
彼がいつの間にか中心となり、彼を慕う女神達が歩み寄ってくる。そして、絆を結び、それが広がっていく。
ブランは、それを感じていた。だから何も言わない。
「……さて、みんな来てくれたことだしゲームでもしましょうか。 ゲームくらいなら白斗も大丈夫でしょ?」
「まぁ、体を動かすわけじゃないが……意外だな。 ブランからそんな提案をしてくるなんて」
「私だって、そうしたい時もあるわ」
「そっか。 なら、俺も遊び倒しますかねっと!」
結局、女神全員ゲーム好きということもあり、夕方までゲーム大会へと早変わり。
皆との絆、そして白斗への想い。
それを自覚したブランは、今日一日を思い切り楽しんだ。
今日も今日とて雪国ルウィーはとても寒い、けれどもとても温かい一日がそこにあった。
と言うことでブランの読書ネタのお話でした。
結構静かな描写が多かったので、その分恋愛描写を強めてみた感じですが如何でしたか?
次回は元気なちびっ子、ロムラム姉妹に焦点を当てちゃいます。
それではお楽しみに!