恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART   作:カスケード

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第十九話 白の女神との逢引き

―――白斗がルウィーに滞在してから6日目。

すっかりルウィーでの生活が板についてきた頃には、次なる国への出発が迫っている。

一日一日を無駄にしてきたつもりは無いが、それでも時が経つのは早い。

本日もロムとラムの希望で絵本の読み聞かせをしていた。

 

 

「……こうして女神様は、犯罪神を懲らしめ、ゲイムギョウ界に平和を齎しましたとさ」

 

「女神様、カッコイイ~!」

 

「お姉ちゃんみたいで、素敵……♪」

 

 

もう夜は更けた。

風雪で小窓が揺れる中、白斗は読み終えた絵本を閉じた。

優しい声色と、時折臨場感溢れる演技でロムとラムはすっかり大満足のようだ。

絵本だけではない、積み木、かくれんぼ、ままごと、お絵描き、人形遊び、そしてゲームなどなど。

今日一日は、ロムとラム、そしてブランの希望で双子と過ごしていたのだ。

 

 

「はい、お終い。 さ、そろそろ寝る時間だぞー」

 

「えー! もっとお兄ちゃんと遊びた~~~い!」

 

「お兄ちゃん、明後日には帰っちゃうんでしょ……(うるうる)」

 

「うぅっ!? 何だ、この子犬を捨てるような後ろ髪を引かれる感じは……」

 

 

駄々を捏ねながら裾を引っ張るラム、反対側の裾を涙目ながら掴むロム。

どちらも幼さゆえの愛くるしさがある。そして思いが純粋なだけに、白斗も頭ごなしにダメとは言いづらかったのだ。

だがもう九時、二人にはそろそろ寝てもらわなければならない。

 

 

「でも、良い子は寝る時間です。 良い子にしてないと、お兄ちゃんこの国に来なくなっちゃうかもよ?」

 

「そ、そんなのヤダ~!」

 

「だったら……お兄ちゃん、離さない……!(ぎゅーっ)」

 

「逆効果!?」

 

 

離れてしまうくらいなら、この国から出さないと言わんばかりに抱きつかれてしまう。

擦り切れていた心を持つ白斗にとって、純粋な心ほど弱いものはないのだ。無理矢理引き剥がすことも出来ず、どうしたものかと寧ろ泣きそうにさえなった時。

 

 

「コラ、二人とも! 白斗が困ってるじゃない!」

 

「「お、お姉ちゃん……」」

 

 

勢いよく開かれた扉、その先に居たのはブランだった。

少し迫力のある顔と声で叱りつけ、手は力強く腰に当てられている。

 

 

「ま、まぁまぁブラン。 二人の気持ちも分かるし……」

 

「白斗、甘やかしちゃダメ」

 

「ハイ」

 

 

白斗も叱られ、項垂れる。

まるでその姿は、娘たちを甘やかしては妻に怒られる夫のようだった。

 

 

「それに、約束通り今日一日は白斗と遊んだのだから約束は守りなさい。 白斗には明日、大事な用事があるんだから」

 

「んぁ? 用事ってそんなの―――ムガッ!?」

 

 

突然そんなことを宣うブラン。

とんと覚えのない白斗が思わず口を挟みかけたが、ブランの綺麗で柔らかな手が白斗の口を塞ぐ。

言われてみれば今日は仕事の手伝いもせず、代わりにロムとラムの二人に付き合っていたのだがどうやらそれは姉妹による約束があったらしい。

 

 

「うー……そうだけどぉ……」

 

「それに……約束を守らない子達を、白斗が好きになると思う?」

 

「嫌われるの……イヤ……(うるうる)」

 

「なら早く寝なさい。 それに、ちゃんと貴女達の時間も作るから」

 

「「はーい……」」

 

 

しっかりと言い聞かせることで、渋々ながらも従うロムとラム。

厳しいだけではない、優しさも織り交ぜたその諭し方はまさに姉。見た目は幼いかもしれないが、ルウィーの女神として、そして姉としてブランの内面が表れた一幕だった。

 

 

「いい子達ね。 ロム、ラム。 おやすみなさい」

 

「おやすみ。 ロムちゃん、ラムちゃん」

 

「「おやすみなさい……」」

 

 

二人がベッドに潜り、白斗とブランは二人の頭をそれぞれ撫でた。

大好きな姉と兄の二人から頭を撫でられてはロムとラムも先程の不満そうな顔はどこへやら、気持ちよさそうに目を細めた。

あっという間に安らかな寝息を立て始め、白斗とブランは部屋の電気を消してから部屋を出る。

 

 

「……ごめんなさいね、白斗。 二人が我儘ばっかり……」

 

「ああいう可愛い我儘もたまにはいいモンだよ。 それに、明後日にはこの国を出ちまうんだから思い出作りもしたくなるさ」

 

「そう言ってもらえると助かるわ」

 

 

穏やかな時間が二人の間で流れる。

外では風も止み、雪も静かに降り積もっていた。

 

 

「ところでさっき言ってた用事って? 俺、そんなの聞いてないけど」

 

 

先程から気になっていたこと。それはブランの発言。

白斗に用事があると言われても、一切聞いてないのだ。聞き返そうとしてもブランに遮られたまま。

明日は最後の一日、予定があるなら予め聞いておかなければならない。

一方の訊ねられたブランは、少しもじもじしながら顔を赤らめる。それでも精一杯の勇気を振り絞り、言葉を絞り出した。

 

 

「…………白斗、明日一日。 私とルウィーの街を回らない?」

 

 

震える声で、けれども真っ直ぐな瞳。

ブランの綺麗な瞳に吸い込まれそうになるが、何とか白斗は彼女の言葉を理解する。

 

 

「観光なら一日目にやったぞ?」

 

「あれだけじゃルウィーの魅力全てなんて伝えきれない。 それに……」

 

「それに?」

 

「な、何でもない! ……それとも、イヤ……?」

 

 

涙目と上目遣いのコンボ。ブランだけではない、白斗の知る女の子達は結構な確率でこれをやってくる。

そして白斗は結局、それに弱いのだ。

だが、こんなにも小さくて可愛い女神からそんなことをされて白斗の心拍数はいつも以上に上昇していた。

 

 

「い、イヤじゃない! ……俺も……ブランと明日一日、過ごしたい」

 

「ホント!? や、約束……だからね?」

 

「おう、約束だ」

 

 

約束を交わせば、今までにないくらいの明るい笑顔を向けてくれるブラン。

その輝きは笑顔がトレードマークであるネプテューヌに勝るとも劣らない。寧ろ中々見せてくれない分、破壊力としては凄まじいものがある。

 

 

(やった……! これで白斗と過ごせる……! ロムとラムには今日一日、白斗を独占させる代わりに明日の大半を二人きり……涙を呑んだ甲斐があったわ!)

 

 

どうやら白斗との時間を作るためにあの手この手で根回ししていたらしい。

このブラン、かなりやり手である。

 

 

「それじゃ白斗! おやすみなさい!」

 

「お、おう……おやすみ……」

 

 

ハイテンションなまま自分の部屋へと戻るブラン。

後に残された白斗は、そんな彼女の勢いに圧倒されたまま唖然とするしかない。

そしてブランは部屋に戻るなりすぐにベッドに包まり、アラームをしっかりとセットして消灯する。

 

 

「ふふ……。 白斗と一緒にお出掛け……明日がこんなにも待ち遠しいなんて……。 まるで乙女じゃないの、私ったら……」

 

 

火照った顔を冷やすように、枕に顔を埋めるブラン。

幸せな気分に浸りながらその瞳を閉じる。

まどろむ意識の中、明日はどんな一日になるのか、色んな理想を思い描いていた―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃の白斗君は。

 

 

『白斗ぉぉおおお――――!! 今度はブランとデートなのかあああああああ!!?』

 

「どっから聞きつけたんだお前は!?」

 

 

ネプテューヌ様から絶賛尋問中でありましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そして、運命の七日目。

ブランは自然と目が覚めた。アラームを用意していたのだが、その五分前に。

いつもならば眠気が勝り、そのまま二度寝してしまうのだが今はその時間すら惜しい。

 

 

「……いい朝ね」

 

 

朝が弱いブランですら、気持ちの良い目覚めと感じる。

それだけ、今日と言う日が楽しみだったのだ。

顔を洗い、寝間着から着替え、いつもの白の帽子と服を纏う。鏡で変な所はないか入念にチェックし、握り拳を作った。

 

 

「……よし、これで白斗の前に出られる」

 

 

女の子として、意中の男性の前ではいつでも綺麗な姿を見せたいもの。

そんな健気な思いと共に部屋を出た。

良い香りが食欲を刺激する食卓では、既に支度を済ませていたロムとラムが席に着いている。

 

 

「お姉ちゃん! おはよー!」

 

「おはよう、お姉ちゃん……(にこにこ)」

 

「ロム、ラム。 おはよう」

 

 

今日が白斗の滞在期間、最後の一日というだけあってロムとラムも早起きだ。

いつも以上に元気いっぱいなその姿に、ブランも柔らかく微笑む。

そしてその向こうの席には、彼女が会いたかった少年が座っていた。

 

 

「うーす! おはようブラン」

 

「白斗、おはよう……!」

 

 

白斗がいつもの笑顔でそこに居てくれた。

心なしか、ブランもいつもより張り切って返事をしてしまう。いつもは物静かな雰囲気を纏わせる白の女神も、想い人の前ではまさに恋する乙女だった。

 

 

「では、今日はブラン様のリクエストにより和風の朝食をご用意しました」

 

 

そこに、台車に本日の朝食を乗せたフィナンシェがやってくる。

彼らを迎えたのは、まさかの和風で統一された朝食。

炊き立ての白米に味噌汁、塩鮭。そして傍に置かれているのは納豆。

 

 

「お、納豆じゃん! 気に入ったのかブラン?」

 

「ええ……あれ以来、時々納豆を食べないと落ち着かなくなってしまって」

 

 

プラネテューヌで過ごしていた時、一時期白斗と朝食を共にした。

その時、白斗が悪戯として納豆をブランのご飯に掛けてしまったのだが食べてみるとこれが意外や意外、美味なのだ。

以来、すっかり納豆を気に入ってしまったブラン。そしてロムとラム、白斗も交えて。

 

 

「「「「ぐるぐるぐる、ぐるぐるぐる……ねば~」」」」

 

 

皆で仲良く、納豆をかき混ぜるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから朝食を食べ終えた白斗とブランは一旦部屋に戻る。

自室から外出用の服に着替えるためだ。

白斗は用意してくれていた厚手の革コートを纏うだけだが、ブランは違う。

ニット帽に茶色のトレンチコート、そして可愛らしい色合いのマフラーが口元を隠している。完全防寒でありながら、女の子らしいファッションでだった。

 

 

「……行ってくるわ。 ミナ、後のことはよろしく……」

 

「はい、お任せくださいブランさん。 白斗さんも楽しんできてくださいね」

 

「ありがとうございます。 それじゃ、行ってきます!」

 

 

お見送りしてくれたのはミナ。

これまで仕事やトラブルやらで二人揃っての外出は殆ど出来なかった。だからこそ、今日一日を楽しんでもらいたいとミナも快く送り出した。

そんな彼女の声を受けて、白斗とブランは歩き出す。教会周辺は女神の加護により相変わらず温暖だが、徐々に冷気が迫ってくる。

 

 

「まずはどこに行くんだ?」

 

「ふふ……ルウィーならではの遊びよ」

 

「へぇ、そりゃ楽しみだな……ってブラン!?」

 

 

そう言いながら、ブランは手を握ってきた。

小さく、冷たい手だったが、きめ細やかな肌の感触で白斗の顔に熱が籠った。

振り返ってきたブランの顔も赤かったが、それ以上に嬉しそうな表情を見せてくれる。

 

 

「ほら、行きましょう?」

 

「……ああ」

 

 

そんな彼女に導かれるのが心地よくて、白斗は誘われるがままに着いていく。

手を繋いで歩いているだけなのに、それすらもがブランにとっても、白斗にとっても嬉しかった。

さて、教会を出て十分くらい歩いたところである場所へとたどり着く。

 

 

「ここは……スケート場か!」

 

 

平らに張られた氷、そしてその氷の上で滑る人々。

まさしくスケートリンクだった。白斗もテレビで見たことがある程度の物で、実際にこうして触れる機会は愚か、目の当たりにすることすらも無かった。

彼の反応を見て連れてきて良かったと思いながら、ブランが説明する。

 

 

「ここはルウィーの寒さだけで作られた天然氷のスケートリンクよ。 一年中、スケートが楽しめるわ」

 

「いいね、俺スケート初めてだったんだ! ……にしてもヒッキーなブランからこういう発想が出てくるとは」

 

「ヒッキー言うな。 イ・ン・テ・リ、なインドア派と言いなさい」

 

(インドアじゃなくてインテリの方を強調したな……)

 

 

苦笑いしながらも、そんな彼女がここに来たのは間違いなく白斗のためである。

それに感謝して、二人は受付を済ませ、レンタルのスケート靴を駆りて早速氷の上へ。

 

 

「んじゃ、まずは俺から……うおっととととっ!!?」

 

「白斗!?」

 

 

初めの一歩へと踏み切った瞬間、氷に足を取られ、バランスを崩しかける。

幾ら器用な彼でもスケートは初体験、初見でうまく滑れるはずがない。

それでも意地で持ちこたえ、踏み止まる。慌てて助けに行こうとしたブランも、白斗が転ばなかったことに安堵していた。

 

 

「お……おお、ははは! 滑れた! 見てるかブランー!」

 

「もう子供みたいにはしゃいじゃって……ちゃんと見てるわよ」

 

 

その後、持ち前の体幹とバランス感覚ですぐにコツを掴み、プロ顔負けまでは行かないが人並みに滑れるようになった。

初めてのスケートが出来るようになって、柄にもなく白斗は大興奮。そんな彼を可愛いと思いながらも、今度はブランが滑ろうとする。

 

 

「次は私ね……って、ちょ、これは………っ! きゃっ!!?」

 

「ッ!! ブランっ!!!」

 

 

しかし、ブランも初体験だったようで同じように転ぼうとしてしまう。

尻餅をつかせるわけにはいかないと白斗が氷の上を滑りながら彼女を背中から抱き留め、人を交わしながら滑っていく。

ブランを抱きかかえながら滑るその姿はまさにフィギュアスケート。

 

 

「あ……。 白斗、ありがとう……」

 

「良いってことよ。 一緒に上手くなろうぜ」

 

「……うん!」

 

 

その後、ブランは白斗に手を引かれながら練習を始めた。

それこそ最初は生まれたての小鹿のように足を震わせ、立つこともままならなかった。だが彼女はインドア派とは言え戦闘もこなせる女神。

体捌きには優れており、一度コツを掴めばあっという間に上達していく。

 

 

「……楽しいわね。 どう、白斗?」

 

「……いや、真面目に凄いし素敵だ。 俺より上手いぞ……」

 

 

白斗の評価は偽りない。

人を避けながらの滑りは勿論、少しだけだがジャンプまで出来るようになった。

さすがは女神と言ったところだろう、白斗も舌を巻いている。

 

 

「ふ……私の事は氷上の妖精と呼んで頂戴」

 

「HEY! そこの氷上の妖精!」

 

「……やっぱ恥ずかしいから却下だ……! で、何だよ白斗!?」

 

 

つい調子に乗って変な渾名を考えてしまうが、白斗に呼ばれると恥ずかしさが込み上げてくる。

うっかり素の口調が出てしまうが、そんな白斗から手を差し伸べられた。

 

 

「……一緒に滑ろうぜ! フィギュアスケートみたいにさ!」

 

「……ええ!」

 

 

氷上で反射された陽光。

それに照らされた白斗の笑顔が、ブランには凛々しく見えてしまった。意中の人からそんな言葉と顔で誘われては、断れるはずもない。

笑顔で手を取り、二人で氷上のダンスを楽しむ。

手を取りながら、時にはブランが白斗に体を預け、抱きかけるようにしてターン。二人の間で、一挙一動、時折吐かれる息遣いすらも楽しんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――この二人の見事な氷上の舞は、後にルウィーの伝説として語り継がれることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん! ここのカレー美味ぇな!!」

 

「でしょう? コクがあって、家庭的な味でいて……何度でも食べたくなるの」

 

 

スケートを一頻り楽しんだ白斗とブラン。さすがに腹も空かせてしまったので、昼食を食べることに。

今回は定番すぎて逆に食べてこなかったカレーである。

ブランお勧めのレストランで食べるカレーは辛口でありながらも、具材の旨味が溶け込んだまさに絶品だった。

 

 

「ふぅ、食った食った……ご馳走様ー!」

 

「まだよ。 デザートが残ってるわ」

 

「お、そうか。 でも俺頼んでないけど……」

 

「私が頼んでおいたの。 白斗には、どうしても食べて欲しかったから」

 

 

いつの間にかブランが注文していてくれたらしい。

甘いのも辛いのも好きである白斗にとっては嬉しい追加オーダーである。

 

 

「そう言えば白斗って何でも美味しく食べてるけど、嫌いなものってあるの?」

 

「んー? そうだな……レバーがダメ。 見てるだけでアカン」

 

「……普通過ぎて面白くないわね」

 

「面白けりゃいいのかよ……」

 

 

苦笑いを浮かべていると店員がデザートを運んでくれた。

それは器に、三層くらいに盛り付けられたアイスクリーム。それをスプーンで割ってみると、まだ温かく湯気を放つスイートポテトが顔を覗かせる。

 

 

「あっ、これ俺が提案したアイスじゃん!」

 

「そうよ。 早速この店で取り扱ってくれることになったの。 名前は『ブラン・ド・ポテトアイス』よ」

 

「ブランとブランドを掛けてるのか。 うまいな、色んな意味で」

 

「ありがと」

 

 

実際味も良かった。ルウィーの過酷な環境を乗り切ったミルクと芋の味は濃厚。

冷たさに体を振るわせれば、温かいスイートポテトでそれを解してくれる。

間違いなく名物になると白斗は確信した。

 

 

「実際客受けはどうなんだろうな、コレ」

 

「見てれば分かるわ」

 

「分かるって……ん!? 周りの人達が頼んでるのってポテトアイスじゃないか!」

 

 

そう、白斗たち以外にも来店している客がいたのだが、大抵がそのポテトアイスを注文していた。

新感覚のアイスとその美味しさに舌鼓を打ってくれている。

 

 

「お蔭様で本当にルウィーの新名物となりそうなの……ありがとう、白斗」

 

「おう。 ブランの力になれて良かった」

 

 

これだけ大盛況ならば、国を代表する名物になれる。

アイスの場合は饅頭とは違い、通販が難しい。つまりはこれを食するためにルウィーに訪れる人も多くなるはず。

それがルウィー、ひいてはブランの信仰心に繋がると白斗は嬉しくなった。

 

 

「改めてご馳走様ー。 美味かった!」

 

「良かった……。 それじゃ次は……」

 

 

味にも満足してもらえて、ブランも嬉しそうだ。

食文化は国の魅力を伝える絶好の機会。今日のデートを盛り上げるだけではなく、白斗にまた一つルウィーのいい所を伝えられたということだ。

ブランも足取りが軽くなり、次なる目的地へと向かおうとしたところで。

 

 

「あーっ!! 白斗君ーっ!!」

 

「ん? 何だ何だ?」

 

 

するとそこへ突然の白斗を呼ぶ声。

女性の声、しかもそのテンションからして白斗の知り合いにして好感を抱いている人物。

ブランもそれに気づき、二人で辺りを見回すと向こうから誰かが走ってくる。

オレンジ色のボブヘアーにセーラー服にも近い衣装、インカムマイクを当てており、更には走る度に揺れるその爆乳―――。

 

 

「あっ!! マーベラス!?」

 

「やっぱり白斗君だ!! やっと会えたよ~~~!!」

 

 

数日前、ディース雪原で助けた忍者少女ことマーベラスだった。

白斗と会えた彼女はとても嬉しそうですぐに白斗の手を取る。

当然、隣でそれを見せつけられているブランの心中は穏やかではなく―――。

 

 

「んなっ……!? ば、爆乳……しかも好感度高……それでいて爆乳……そして爆乳!? おい白斗……こりゃどういうことだァ!!?」

 

 

どうやら余程爆乳が許せないらしい、マーベラスのある一点から目が離せないブラン。

拳を振るわせては青筋を浮かべて白斗に詰め寄る。

 

 

「し、紹介するよ……ディース雪原で助けたマーベラスAQLって子……」

 

「あ! ブラン様! でもこっちのブラン様か……。 私の事は気軽にマベちゃんって呼んでください!」

 

 

以前、出会ったのはこの国に来て二日目。ブランがスルイウ病に掛かってしまった時だ。

その治療薬の材料を求め、ディース雪原に赴いた。そこでモンスターに襲われていたのがこのマーベラスだった。

 

 

「ディース雪原……? ああ、あの子が件の……尚更許せるかァ!!」

 

「ひぃっ!? こっちのブラン様もキレやすいなぁ……」

 

 

ブランはあの正夢から白斗の身に起こったことは大体見ている。

その最中、白斗が女の子、それも爆乳の子を助けたことは知っているがそれが彼女なのだと知れば余計に気が立ってしまう。

 

 

「って、そう言えば貴女……私の事を知っているような素振りだけど……」

 

「何でも別世界を旅したことがあるらしい。 別世界のネプテューヌも知ってたってことは別世界のブランとも出会ったんだろ?」

 

「うん! 性格も見た目も同じだったよ」

 

 

そう、彼女は所謂平行世界から来た存在らしい。

さすがに知的好奇心旺盛なブランもついつい目を輝かせてしまう。

 

 

「で、マーベラス。 その様子だと仲間は無事に救えたみたいだな」

 

「うん! 本当に……本当にありがとう、白斗君!!」

 

(……ちょっと待って。 まさかとは思ったけど……この子!?)

 

 

涙ながら顔を赤くして、それでもしっかりお礼を言ってくるマーベラス。

その女性特有の雰囲気を、ブランは知っている。何せ、彼女も最近になってその感情を知ったばかりなのだから。

するとそこへ、慌ててこちらへ走ってくる女性が一人。

青い長髪に泣き墓黒、そして魔女の様な帽子が特徴的な落ち着いた雰囲気の女性だ。

 

 

「おい、マーベラス。 急に走り出したと思ったら話し込んでどうしたんだ?」

 

「あ! MAGES.! 紹介するね、この人が黒原白斗君だよ!」

 

「そうか、お前が例の……。 その節は世話になったな、私は運命に選ばれし狂気の魔法使い、MAGES.。 よろしく頼む」

 

 

走ってきた女性ことMAGES.が紹介してきた白斗を一瞥する。

何やら言い回しが、アイエフの中二病を更に拗らせたように感じたがそこは受け流した。

興味深そうに白斗を見つめるが、一方的に視線を受け続ける白斗は顔を赤くしてしまう。そして隣のブランはどんどん怒りのボルテージを上げていくのだった。

 

 

「ど、どうも黒原白斗です……ってMAGES……? それって、確か件のスルイウ病に掛かっていたっていう……?」

 

「違う、最後の『.』が抜けている」

 

「発音上関係ないって……。 5pb.みたいなことを言うな……」

 

「ああ、なるほど。 ラステイションで5pb.を助けた少年とはお前の事か」

 

「ん? 知り合いか?」

 

「知り合いも何も、5pb.は私の従妹だからな」

 

「そうなのか!? って言われてみれば面影があるような……」

 

 

改めてまじまじとMAGES.の顔を覗き込む白斗。

言われてみれば顔の輪郭に泣き黶、そして青い長髪と共通点が多い。

 

 

「……余り、女性の顔をまじまじと見るのは感心しないぞ」

 

「おうっ!? ご、ごめんなさい!!」

 

「謝るなら私ではなく、後ろの二人にだ」

 

「後ろ? ……ひぃぃぃぃッ!!?」

 

 

すると少し顔を赤くして顔を逸らしてしまうMAGES.。

いきなり異性の顔が近づいてきたのであれば、落ち着いた雰囲気の彼女とは言えどさすがに恥ずかしくなってしまうのだろう。

だが指摘されて振り返ったその先に居たのは不満そうに膨れっ面になっているマーベラス、そして今にも大爆発寸前のブランだった。

 

 

「オイ白斗ォォォ……! 今日は私との時間だってのに、女二人とフラグ立てやがってえええええええええええ!!!」

 

「ふ、フラグなんて立ててねぇわ! なァ!?」

 

「え!? い、いや……その……私………」

 

 

けれども、訊ねられた先のマーベラスは顔を赤くしてもじもじとしていた。

非常に可愛らしいのだが、今欲しいのはそんな反応ではない。

MAGES.も困ったように肩を竦めている。こちらは面白がってこう返しているだけなのだろうが、否定の言葉すら返ってこないのではブランの溜飲が下がるはずもなく。

 

 

「白斗ォォォォオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

「ひいいいいいいい!!? と、とにかくマーベラスとMAGES.も今日はこれにてドロンさせていただく!! またなああああああああああああッ!!!」

 

「逃がすかあああああああああああああああああああ!!!」

 

 

ハンマーをコールして襲い掛かってくるブラン。

必死にそれを避けながら白斗は脱兎のごとく逃げていった。追いかけていくブランも全速力で、あっという間に街の彼方へと消えていく。

挨拶する暇もなく、マーベラスとMAGES.はその場に取り残された。

 

 

「あ、白斗君……あーあ。 折角会えたのに……」

 

「ふふ、気になった男に相手されなくて寂しいかマーベラス?」

 

「んなっ!? ち、ちちち違うもん!!」

 

「ははは、なら一つチャンスをやろう。 あの少年の次の行き先だが恐らく……」

 

 

白斗が去っていったことでマーベラスは寂しそうな声と顔になる。

見かねたMAGES.が、ある提案をした。

その提案とは何なのか、それを知るのはもう少し先のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜー……はー……ったく、ホントにどうしようもねージゴロだなお前は……」

 

「ンなこと言われても……サッパリだってーの……ハァ、ハァ……」

 

 

あれからどれだけの追いかけっこを演じたのだろうか。

ようやくブランも怒りを収めてハンマーを仕舞う。

さすがの白斗も肩で息をし、冷たいルウィーの地面に背中を預けていた。

 

 

「……なぁ、お前……そんなに……好きなのか?」

 

「あ? な、何の話だ……?」

 

 

すると、ブランは急に寂しそうに声と顔を曇らせた。

口調だけは素のままだが、どこか泣き出しそうな雰囲気さえある。一瞬怪訝そうにしてしまった白斗も、そんな顔を見せられては聞かざるを得ない。

 

 

「……デカい胸」

 

「は、はァ!? 何でそうなる!?」

 

「だって!! 白斗……さっきのマベちゃんもそうだったし、ベールや女神化したネプテューヌにデレデレだし……」

 

 

体系にコンプレックスを抱いているブランだからこそだ。

今も尚自分の胸に手を当てては気を落としている。

口調もいつの間にかいつも通りの方になっているが、徐々に暗くなっていくのが分かった。

 

 

「……こんなに胸が小さくて、人見知りで、無愛想で、おまけにすぐキレる奴……白斗、嫌いなのかなって……」

 

 

ブランにとって、一番怖かったのはそこだったのだ。

胸が大きい人に目移りして、自分を見てくれないのではないか。そして見れば見るほど欠点が浮き彫りになる自分を、嫌ってしまうのではないか。

恋する少女となってしまったブランにとって、恋した少年に嫌われることは何よりも辛いことなのだ。

泣きそうな声で瞳を潤ませるブランに対し、白斗は―――。

 

 

 

 

「……………」

 

「え………?」

 

 

 

 

無言で、抱きしめた。

どこまでも優しく、どこまでも力強く、どこまでも温かく。ブランを包み込んだ。

それが―――彼の答えだった。

 

 

「……嫌ってる奴に対し、こんなことしねーよ」

 

「ぁ………」

 

「胸が小さいからなんだ? キレやすいからどうだってんだ? ……俺は知ってるぜ。 ブランが本当は優しくて、可愛くて、だからこそ守りたくなる女の子なんだって」

 

 

声も、顔も、抱きしめ方も。何もかもが優しかった。

だからブランは、彼が好きになってしまったのだ。

自分の事は省みないのに、大切な人のためになればどこまでも頑張れて、どこまでも強くなり、どこまでも優しいこの少年が。

 

 

「……ありがとう。 それと……ごめんなさい。 追いかけまわしたりして……」

 

「まぁ、あれは止めていただければと思うが」

 

「でも、あれは白斗も悪いから」

 

「だからなんで!?」

 

 

ただ、嫉妬することは別である。

本当に好きだから、本気で惚れてしまったから。誰かに渡したくないとブランは思うのだ。

 

 

「……手」

 

「ん?」

 

「手、繋いでくれたら……許してあげる」

 

「……ああ」

 

 

本日二度目だが、ブランが手を繋いでくれと願う。

白斗は驚きも、当然嫌がりもしなかった。

彼自身も悪い気はしなかったから、ブランがそれで喜んでくれるならとその小さな手を握る。

 

 

「……やっぱり、貴方の手……温かいわね。 心が温かいからかしら?」

 

「そうか? 体温が高い人間の心は冷たいって言うが」

 

「だとしたら、それは迷信ね。 ……白斗の心は温かいって、知ってるから」

 

「そうかよ……って、ちょっとブラン!?」

 

 

面と向かって、淀みない瞳で、ブランからそう言われた。

ルウィーの気温は相変わらず低いというのに、白斗はやけに頬が熱くなるのを感じて仕方がない。

ブランは、そんな彼の腕に抱きついて頬を擦り寄せた。

 

 

「……嫌っている人に対し、こんなことしないわよ」

 

「……一本取られた」

 

 

先程の白斗の台詞を、そのまま返された。

マーベラス達への嫉妬も、暗くなった心も、白斗と一緒に居ればそれが幸せへと変わる。

そんな幸せな気持ちを抱えたまま、ブランと白斗は幻想の国ルウィーの街を遊び歩いていくのだった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、とうとう夕方を迎えた。

夕焼けに照らされる雪の街も中々に趣があるが、そろそろ帰らなければならない。

教会に向けて歩いている白斗とブラン、二人の手には買い物袋が握られていた。

 

 

「結構買い込んだわね。 猪肉、ハクサイ、キノコ、豆腐……これで何作るの?」

 

「雪の国には打って付けのモンだよ」

 

「……楽しみにしてるわね」

 

 

白斗がまた料理を作ると言い出したのだ。

どうやらフィナンシェとも打ち合わせ済みだったらしく、そのための食材を買い込んでいた。

わざわざ買い出しをしたのは、ブランと買い物をしたかったからというのもある。そんな彼の気遣いが嬉しくて、ブランは買い物袋を手に嬉しそうに歩いている。

 

 

「そういや、今日一日外で遊んだってーのにブランに気付く人少なかったな」

 

「私、インテリなインドア派だから」

 

「褒められたことじゃねーよ……」

 

 

気に入ったフレーズなのかまた引っ張り出すが要は引きこもっていることが多くて、余り顔が知られていないというところなのだ。

メディア出演するにしてもホワイトハートの姿で出ることが多いのだろう。

そんな他愛もない会話すら楽しんでいたが、あっという間に教会に到着してしまう。そして扉を開けてみれば。

 

 

「ただいまー……ってうおわぁ!?」

 

「お兄ちゃーん!! お姉ちゃーん!! お帰りなさーい!!」

 

「お帰りなさい……!(ぎゅーっ)」

 

 

二つの小さな影が飛びついてきた。

ロムとラム、二人の幼い女の子が白斗を待っていたと言わんばかりに力強く抱き着いてくる。

ブランもそんな光景に苦笑しながら二人の頭を優しく撫でた。

 

 

「ただいま、ロム、ラム。 良い子にしてた?」

 

「うん! ちゃんとお勉強もしたよ!」

 

「偉いぞ。 んじゃ、良い子にはご褒美。 今夜は俺が晩御飯作っちゃうぞー」

 

「本当? 楽しみ……♪(わくわく)」

 

 

どうやら白斗の料理も中々受けが良いらしい。

二人は目を輝かせてくれる。これだけ期待されては白斗も腕によりをかけるしかない。

早速厨房に入り、準備をした。

と言っても買ってきた食材を切り、鍋を用意して出汁を取り、後はそれに火を掛けるだけ。

 

 

「と、言うことで作ってみました」

 

「これは……鍋ね」

 

「そう、鍋。 今回は猪鍋だ。 みんなで食べる鍋も良いんじゃないかって思ってさ」

 

「素敵なチョイスね……ありがとう」

 

 

食卓の上に置かれたコンロ、更にそのコンロの火に晒されて煮える鍋。

寒い日の定番料理、鍋料理である。

美味しさも勿論だが、こうして家族全員で一つの料理を囲むことで団欒できることも魅力の一つだ。

 

 

「すみません白斗さん、私達まで……」

 

「ええ、私なんてメイドですのに……」

 

「ミナさんもフィナンシェさんも、立派なブランの家族なんですから。 遠慮なんかしないで」

 

 

当然、その中には教祖であるミナも、メイドであるフィナンシェも加わっている。

母親のようにブラン達を見守り支えてきたミナも、メイドとして彼女達の生活を支えてきたフィナンシェもこの教会において家族も同然。

 

 

「それじゃ……いただきます」

 

「「「「いただきます!」」」」」

 

「はい、召し上がれ」

 

 

ブランの音頭と共に全員が箸をつける。

出汁が沁み込んだ食材、そしてその食材から旨味が溶けだした出汁、そしてその出汁を食材が吸う、これにより鍋はどこまでも美味しい料理となる。

 

 

「熱い……でも、美味しい……♪」

 

「ホントホント~! 美味しいよお兄ちゃん!」

 

「そりゃ良かった。 ブランは?」

 

 

熱い料理だけに冷ましながらになるが、それでもロムとラムは美味しそうに食べてくれた。

そんな姿に満足しつつ、白斗は肝心のブランへと振り返る。

彼女も熱い料理自体は得意ではなく、同じように冷ましながら口に運んだ。でも、それでも。

 

 

「……美味しい!」

 

 

笑顔を、弾けさせてくれた。

そんな笑顔を見せてくれるだけで、本当に頑張れる。

ミナも、フィナンシェも、そして白斗自身も満足しながらみんなで鍋をつついていく―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、夜は明けた。現在時刻朝の四時。

白斗はまだ日も昇り切らないこの時間帯に、ブランと共に外に出ていた。

現在の気温は氷点下10度を下回り、尚且つ時間が時間であるため人は勿論、モンスターですら寝静まっている。

薄暗さと静けさ、そして冷気が支配するルウィーの森を、二人は歩いていく。

 

 

「ごめんなさい、こんな朝早くに……。 こうでもしないと見られないものがあるの」

 

「謝るなって、今日が最後の日だし。 それに俺、元々朝早いから」 

 

 

朝早くから起こしてしまったことを詫びるブラン。

だが元々朝が早い、というよりも余り寝られない体質の白斗は特に気にしていなかった。寧ろ出不精なブランがこうしてまで誘ってくれたのだ。

これから向かう先に何があるのか、楽しみで仕方がない。

 

 

「……ここよ。 私が集めたデータと計算によれば、そろそろ見られるはず……」

 

「ん? 何にもないところだが……」

 

「すぐに分かるわ」

 

 

どうやら時間によって見られる何からしい。

互いに白い息を吐きながら、じっとその時を待つ。手袋をしているとはいえ、手は少しずつかじかんでいく。

するとブランは懐から一本の水筒を取り出した。

 

 

「……はい、お茶」

 

「お、サンキュ。 ……ふぅ、温まるぅ……」

 

 

熱々のお茶が、魔法瓶によってその温度を保たれたままカップに注がれる。

有難くそれを受け取った白斗は少しだけ冷ましてから飲んだ。

冷えた体をも溶かすような温度のお茶が、体の中から温めてくれる。それだけではない、こんなものをわざわざ用意してくれたブランの優しさも伝わった。

 

 

「……来た! 白斗、見て!」

 

「ん? 一体何…………って、これは……!」

 

 

と、ここでお目当ての何かが来たらしい。ブランが声を掛ける。

目を向けると、朝日が昇り始めていた。

勿論、それも美しかったのだがその朝日を吸い込んだ氷の結晶が、空中で幾重にも煌ている。

空気中に浮かぶ小さな氷が陽光で輝いているのだ。その現象の名は、正式名称「細氷」、またの名を―――。

 

 

 

 

「……ダイヤモンドダスト……」

 

 

 

 

氷は、まさに宝石の王であるダイヤモンドの如き美しさ。

それが空気中で無数に散りばめられ、視界全てが宝石箱、或いは星空のように燦然と輝いていた。

ダイヤモンドダスト、それこそ氷点下10度を超えるような雪国などでしか見られない、奇跡とも言える現象。

白斗はそれを目の当たりに、息を飲んでしまう。

 

 

「……俺、初めて見た……。 すげぇ……」

 

「でしょう? ……こんな綺麗な光景に出会えるのは、ルウィーだけよ」

 

 

そして、そんなダイヤモンドダストを背景にブランが微笑んできた。

彼女の笑顔もまた、ダイヤモンドダストに照らされながら、しかしそれに負けない輝きを放っている。

雪国、ルウィーの女神である彼女の姿が―――とても美しかった。

 

 

「……ああ。 とっても、綺麗だよ」

 

 

ダイヤモンドダストも、そしてそれに包まれるブランが美しかった。

確かにダイヤモンドダストは雪国であるこのルウィーでしか見られない、でも更にそれに包まれる女神様は今この瞬間、白斗だけしか見られない。

 

 

「……ブラン、ちょっと変身してくれないか?」

 

「変身……? ……いいけど……」

 

 

目を閉じて意識を集中させ、シェアエネルギーに身を包む。

光が晴れるとそこには、ダイヤモンドダストを身に纏う白の女神―――ホワイトハートが姿を現した。

 

 

「……これで、いいか?」

 

「………………………」

 

「ってオイ! 折角変身してやったんだぞ! 何とか言いやがれ!!」

 

「ご、ごめん! ……いや、マジで綺麗だったから……」

 

 

呆気にとられた。

普段は可愛らしく、それでいて勇ましい女神ホワイトハート。だが今彼の目の前にいる彼女は、美しさそのものだ。

ダイヤモンドダストの輝きに身を包みながら舞い降りた女神に、白斗の思考回路は一瞬ショートしてしまっていた。

 

 

「き、綺麗ってそんな……!」

 

「お世辞じゃないよ。 その証拠にこの写真」

 

「って写メ撮ってたのか!? お前、だから変身しろなんて……!!」

 

「撮らなきゃでしょ。 こんな綺麗な国の、綺麗な景色の中、綺麗な女神様がいるんだから」

 

 

白斗が見せた携帯電話の画面。その中にはダイヤモンドダストを背景に佇んでいる変身前のブラン、そして女神ホワイトハートがいる。

密かに写真を撮っていたらしく、そのために女神化をお願いしたようだ。

 

 

「う、ううぅ~……お前って奴は~……わ、私だって我慢してたのに……!!」

 

「んぁ? 我慢?」

 

「……同じこと、考えてたってことだよ!!」

 

 

するとブランは、女神ホワイトハートは―――急に抱き着いてきた。

こんな寒い気候の中でもいつものレオタード姿だ、独特の柔らかさに加えて素肌が白斗の腕に絡んでくる。

厚着をしているとはいえ、意識をするなと言う方が無理だ。

 

 

「うぉわぁ!? ぶ、ブラン……!?」

 

「うるせぇ! お前は大人しく……写メ撮られてりゃいいんだよ♪」

 

 

口調は荒々しいが、どことなく嬉しそうだ。

眩しい笑顔を浮かべたまま、今度はブランの携帯端末をコールする。そして腕に抱きついたまま、パシャリ。

ダイヤモンドダストを背景にした、白斗とブランのツーショット写真が出来上がった。

 

 

「これでお相子、だぜ……♪」

 

「……やっぱり、敵わないな」

 

 

可愛らしく微笑む女神様に、降参して両手を上げる白斗。

その二人は、このダイヤモンドダストが見えなくなるまで手を繋ぎ合った。

いつまでも、いつまでも―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それじゃ皆! 一週間お世話になりました!」

 

 

定期船発着場。

そこでは荷物を纏めていた白斗が、これから定期船に乗ろうとしていた。

白斗を見送るのは、一週間家族として接しきてきたルウィー教会の女神達。

 

 

「白斗……貴方が来てくれて、本当に良かった。 また来てね」

 

「はい、私達もお待ちしております」

 

 

ブランとミナが、笑顔で見送ってくれる。

対するロムとラムは、今にも泣きそうな表情で白斗の足にしがみついていた。

 

 

「うぅー……お兄ちゃん、行かないでよぉ……」

 

「やっぱり……わたし達と一緒に暮らそ……?(うるうる)」

 

「二人とも、ダメよ。 白斗だって行くべきところがあるんだから」

 

 

泣きそうになる二人を宥めるブラン。

頭ごなしに怒るのではなく、優しく頭を撫でながら。それに、ロムとラム以上に白斗に離れて欲しくないのはブランの方なのだ。

震える手から、そんな彼女の気持ちが伝わったのかロムとラムも少し大人しくなってしまう。

 

 

「大丈夫。 また遊びに来るし、それに言ってくれりゃ兄ちゃんはどこだって駆けつけるからさ!」

 

「ホント!? 約束だよ!!」

 

「ああ、約束だ。 ブランにも約束する」

 

「ええ、約束よ。 指切り……」

 

「どうしてゲイムギョウ界の女神様は指切り好きなんだか……まぁいいや」

 

 

皆を代表して、ブランが小指を差し出す。

小柄な彼女だけに指も細かった。白斗も自身の小指を差し出して、絡め合う。

 

 

「指切りげんまん、嘘ついたら……ハードブレイクでぶっ潰す」

 

「守ります!! 守るから潰さないでね!!?」

 

 

どうもこの世界で女神に約束すると言うことは命懸けらしい。

 

 

「これでお兄ちゃん……来てくれる……♪(るんるん)」

 

「それで白斗、準備はいいの?」

 

「俺自体はいいんだが、リーンボックス行のチケットが無くてな」

 

「え……? それってマズイんじゃない!?」

 

 

そろそろ搭乗の時間、かに思われたが白斗は妙に余裕というよりも対処のしようがないと言う様子だった。

訊ねてみればそもそもチケットすらないのだと言う。

これを聞いて焦りだすのはブランの方だ。

 

 

「いや、ベール姉さんに聞いたらこの時間で待ってればいいって言うから」

 

「ベールが迎えに来てくれるのかしら……? ん? てことは……」

 

 

迎えに来るのであれば、白斗がチケットを持つ必要はない。

だがベール自らわざわざ定期船に乗ってくるのは明らかに非効率的で無駄が多い。

と、なるとどんな方法で迎えに来るのか。それに思い当たった瞬間―――ルウィーの雪雲を突き破って緑色の流星がこちらへと飛んできた。

 

 

「白ちゃああああああん!! やっとこの日を迎えられましたわ!!!」

 

「ぬぅぉっ!? べ、ベール姉さん!?」

 

「やっぱり……女神化して飛んできたのね……!!」

 

 

流星の正体、それは女神化を果たしたベールの姿だった。

確かにこの姿ならチケット要らず、場合によっては定期船よりもずっと早い。

因みに女神化しての飛行は各国の協定により領空侵犯などの問題にはならないらしい。女神ってすごい。

 

 

「と、いうワケで白ちゃん! このままリーンボックスへご招待ですわぁ!!」

 

「ちょぉっ!? 待っ……ブラン、みんなぁ!! またなああああぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

 

 

あっという間に白斗を荷物ごと抱え込み、空へと飛びあがるベール。

まだロクにお別れの言葉も言えないため、大急ぎで最後の挨拶を発するも、悲鳴交じりの白斗の声はすぐに遠くなった。

余りにも一瞬の出来事に、誰もが唖然となってしまった。

 

 

「……………」

 

「ベールさん、凄かったねラムちゃん……(あわあわ)」

 

「そうだね……ってお姉ちゃん!? どうしたの!?」

 

 

いつもの落ち着いた振る舞いをするベールらしくないハイテンションに、ロムとラムも困惑気味だ。

だがそれ以上に、隣でプルプルと震えるブランの姿が怖く映る。

直後、ブランは悔しさを露に地面を殴りつけた。

 

 

「……ドチクショォオオオオオ!! そうだ!! 女神化して運ぶって方法があったじゃねぇかあああああああああ!!! なんで私はそんなステキな方法を思いつかなかったんだああああああああああああああああああああああああああああああ!!?」

 

 

女神ならではの方法を思いつかなかった自分が恨めしくて、目の前で白斗を掻っ攫われたことが許せなくて、ブランは地面を叩いた。

何度も、何度も、何度も。

 

 

「お、お姉ちゃん……」

 

「怖い……(ぶるぶる)」

 

「あ、あはは……ブランさんのこの病気は……いつまでも治りそうにありませんね」

 

 

そんなこの国の女神の様子を見て、さすがに引き気味なロムとラム、そしてミナ。

この日、ブランがこの状態から回復するまで実に一時間も必要とするのだった―――。




ということでブラン様とのガチデートでした。
ブラン可愛いですよね~。そんな彼女が勇者ネプテューヌではどうなることやら。
勇者ネプテューヌの発売も来週に迫って参りました。滅茶苦茶楽しみ!
次回からはリーンボックス編。みんなのお姉さん、ベールさんの本領発揮な日々をどうかお楽しみに~。
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