恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART   作:カスケード

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第二十話 雄大なる緑の大地、リーンボックス

―――ルウィーを出てから小一時間。

すっかり青くなった空の下、白斗は女神グリーンハートに抱えられながら水面擦れ擦れを飛んでいた。

 

 

「はっ、ははは! 何だこれ!! すげぇ!!!」

 

「ふふ、お気に召していただけたようで良かったですわ」

 

 

初めは高速飛行を直に肌で感じていたため、さすがに恐怖を覚えていた白斗だが段々と慣れるにつれ、人間の身では味わえない空の世界を感じることが出来た。

風を切り、大海原を真上から眺め、鳥と共に飛ぶ。白斗の居た世界でも、こんな経験は絶対にできなかった。それ故に白斗はまさに少年の如く興奮している。

 

 

「気持ちいい……! 女神の皆は、いつもこんな感覚を味わってるのか……」

 

「女神の特権、ですわね。 あ、そうですわ! 白ちゃん、今度一緒に夜のフライトに行きません?」

 

「何それ素敵! ベール姉さんマジ最高!」

 

「もっと褒めてくださいましー!」

 

 

義理とは言え、仲の良い姉弟だった。

その間も風と一体となり、海の上を滑るような爽快感を味わう。

やがて、水平線上の向こうに見えてくる。優しく包み込むような緑が広がる大地が。

 

 

「見えてきましたわ。 二度目になりますが……あれこそが我が国。 雄大なる緑の大地、リーンボックス!」

 

 

雄大なる緑の大地。その二つ名に恥じない、生い茂った緑。

しかし、それらを破壊しない程度に見事に融和された科学技術の都市。

今も飛んでいるこの海の青さから、海水浴、森林浴と言ったアウトドアやリゾート地としても親しまれる国。

―――リーンボックス、これから一週間白斗が暮らす国は、もう間近だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んーっ!! いつ来ても空気が美味いなぁ!!」

 

「ありがとうございます。 と、いう訳で改めてようこそ、リーンボックスへ! 歓迎しますわ、白ちゃん」

 

 

発着場から少しずれた場所に白斗は下ろされ、思い切り背伸びをした。

そこはリーンボックスの都市が一望できる岬。そこから見下ろす街はまた格別だ。

科学が発展した国と言えばプラネテューヌが思い当たるが、そことの明確な違いはとにかく広いこと、そして建物の一つ一つが大きいことだ。

 

 

「相変わらず気持ちいい位のデカさだな。 スケールの大きさと自由がウリだっけ?」

 

「ええ、自分のしたいことを伸び伸びと出来ない人生なんて楽しくありませんもの。 楽しさ優先、それが我が国の持ち味ですわ」

 

 

ゲーマーというからにはゲーム関連以外には興味無さそうなイメージを持たれがちなベールだが、やる時はやる人というのが白斗から見た彼女の印象だ。

実際、自分の国を誇りに思うその姿勢はゲイムギョウ界の女神らしい姿だった。

 

 

「さて、街の景色も見て貰ったところで教会に行きましょう」

 

「ホイ来た」

 

 

再び女神化したベールに抱えられ、白斗は空へと舞い上がる。

女神と共に上空から眺めるリーンボックスは、定期船とはまた違う趣があった。

そのままベールの拠点でもある、洋館にも近い教会へと到着した。

白煉瓦に噴水、綺麗な花咲き乱れる庭園など貴族の屋敷とも思えるような外見は相変わらずだ。

 

 

「ここに来るのは二度目だけど、今日からここに泊まるのか……ドキドキするな」

 

「ええ、絶対に白ちゃんを退屈なんてさせませんわ。 勿論、無茶も」

 

「うっげ、姉さんまでそんなことを言う……」

 

「当り前です。 ノワールの所で仕事をした時はまだしも、ブランの所で大怪我を負ったと聞いた時はもう心臓が止まるかと思いましたわ」

 

 

実際、白斗は旅行と言いながらも他人のためにお節介を焼くところは相変わらずで実際大怪我を負ってしまったこともある。

ベールもそこには細心の注意を払っているようで、戒めるように軽く白斗の額を突いた。

 

 

「でも、そういう積もる話は中でしましょう。 チカ、今戻りましたわ~」

 

(あ、そうだ! チカさんがいるんだ……良い顔されないだろうなぁ……)

 

 

意気揚々と扉を開けたベール。

そこで出された名、チカのことを今になって思いだした。このリーンボックスの教祖、箱崎チカはベールの事を「お姉様」と仰ぐほどベールに心酔している。

そんな彼女にとって、弟扱いされている白斗は面白くない存在なのだ。白斗も彼女のことは悪い人ではないとは知っているが、それでも苦手な部類である。

どうやり過ごそうか、考えながら一歩を踏み出すと。

 

 

「お帰りなさいませお姉様! ……そして黒原白斗様、ようこそお出でくださいました」

 

「へ? あ、はい……お久しぶりですチカさん。 一週間、お世話になります……」

 

 

意外にも、普通の対応をしてくれたチカが出迎えてくれた。

大好きなベールに対するテンションはいつも通りだが、白斗に対する接し方は丁寧なものだ。

思わず肩透かしを食らったように、素っ頓狂な声色を出してしまう白斗。

 

 

「……何よ、まるで私がアンタを邪険に扱うことを想定していた身構え方ね」

 

「分かってるじゃないですか……」

 

「フン、正直気に食わないけどお姉様のためよ。 それに、アタクシだって公私の分別くらい付けるわ。 今回はあくまで仕事で接してあげるからそのつもりで」

 

 

確かにチカにとってみれば、白斗の訪問は彼女にとっては仕事の一環の様なものなのだろう。

仕事と割り切れば、好まない人間相手でも平等に接する必要があるという一種の自己暗示。ただ、そうまでしなければ普通に接することが出来ない辺り、まだまだ壁を感じてしまう白斗であった。

 

 

「あ、あはは……よろしくお願いします……」

 

「ではお姉様、アタクシは仕事に戻りますので。 ……あんまり構い過ぎて仕事を疎かにしないように。 では……」

 

 

そして、愛するベールに一礼。

チカはどこまでもベール一筋で、彼女にとってベールとは全てであり、物事の判断基準にもなっている。

ここまで徹底しているとある意味主体性のあるお人だろう。

 

 

「ごめんなさいね白ちゃん。 チカったら相変わらずで……」

 

「良いってことよ。 これから仲良くしていけばいいだけだし」

 

「そう言ってもらえると助かります。 では、お部屋の方にご案内しますわ!」

 

 

手を繋がれ、意気揚々と部屋の方へと引っ張られていく。

ここまではしゃいでいると姉と言うよりもまるで大きな妹のようにも思える。

そんなベールもまた可愛らしいと思いながら、白斗は成すがままに案内された。元々貴族の館のような外観であるこの教会だが、白斗の客室ともなればまさに貴族のそれだ。

 

 

「はぁ……こりゃまたどこの貴族だよって感じの部屋だ……」

 

「こちらからお招きしたのですから、不自由などさせませんわ。 滞在中はここを好きに使ってくださいまし」

 

「ありがとう。 うーん、ベッドもふっかふかだ!」

 

 

まず、部屋に通されたら大体の人がすること。

それはベッドに飛び込み、その寝心地を肌で実感することだ。白斗もその例に漏れず、ベッドの中へダイブ。

ボフン、とどこまでも沈むような柔らかさが白斗を包んだ。

 

 

「うずうず……うずうず……」

 

 

と、ここでベールが何やらうずうずしていて。口にしながら。

さすがにこれを察せないほど、白斗は鈍くはない。やれやれ、とため息を付きながらもベッドの心地よさを振り切り、上半身を起こして微笑んだ。

 

 

「……はいはい、対戦ね。 今日こそ負けないぜ、姉さん」

 

「待ってましたわ! さぁ、私の部屋へ行きましょう!」

 

「そこは姉さんの部屋なのね……」

 

 

やはりゲームに誘われた。

無類のゲーム好きである彼女にとって、愛しの弟と対戦するというのは何に代えても得難い至福の一時なのだろう。

実際白斗も、ベールとのゲーム対戦を楽しんでいるため、遠慮なく部屋へと招かれることに。

部屋は相変わらずゲームのトールケースや関連グッズなどで犇めき合っていた。

 

 

「相変わらずのお部屋で……」

 

「わ、私の部屋のことはどうでもいいですわ! それより何で対戦しますか?」

 

「そうだな……。 前やったこのFPSで対戦したい!」

 

「リターンマッチ、ですわね。 いいでしょう」

 

 

白斗が選んだのはFPS。戦争を舞台とした兵士達の戦闘をモデルにしたものだ。

リーンボックスで最も盛んなのはFPSだが、以前これで遊んでフルボッコにされたのはいい思い出である。

しかし、今の白斗には秘策があった。

 

 

「さて、リターンマッチというからには前回と同じハンデで勝負して差し上げますわ」

 

「よっしゃー! リベンジしてやるぜ~」

 

 

このベールという女性のゲームに掛ける情熱は想像を遥かに超えている。

何せ銃での撃ち合いがモットーのFPSにおいて、ナイフ一本だけで完封と言う凄まじい技術を持っているのだから。

だからこそ白斗は勝ちたい。勝って認められたい。

 

 

「あら? 以前にも増して動きに無駄がありませんわね……」

 

(実はこのゲーム、ユニとやったことがある。 だから操作感覚は既に習得済みだ)

 

 

そう、ラステイション滞在時にユニと遊んでいたのだ。

銃マニアの彼女のことだからFPSが置いてあるのだろうと踏んでいたが、まさにドンピシャで同じゲームを持っていた。

だからこそ白斗はそのFPSでユニと交流を深めると同時に、ゲームスキルを磨いていたのである。

 

 

(そしてベール姉さんは素早く、的確に判断する。 そして前回の対戦で癖は大体見抜いた、つまりここで少し雑な動きを見せれば……!!)

 

 

今回もベールはナイフ一本という最大ハンデで挑んできている。

つまり彼女の勝ち筋としては必然的に、白斗の隙を的確について倒しに来るという戦法になるのだ。

だから白斗は敢えて僅かに隙を見せ、ベールに好機と悟らせる。そうすれば彼女は姿を現し―――。

 

 

「そこだぁっ!!!」

 

「あっ!?」

 

 

隙を突こうと物陰から姿を現したベールの操作キャラ。

しかし、それに合わせて白斗のキャラが銃を構えて振り返った。既にエイムはつけてある、そのまま引き金を引けば彼女のキャラは倒れ、白斗の得点となる。

 

 

「っしゃぁ! 姉さんから一本取ったぁ!!」

 

 

まるで鬼の首を取ったような喜びよう。

しかし、散々負け続けた白斗にとってこの勝利は大きかった。何よりあのベールから一本を取ることがこんなにも楽しいとは思わなかったのだ。

 

 

「………白ちゃん、成長しましたわね。 正直嬉しいですわ」

 

「ありがとう姉さん! ……って、あれ?」

 

 

言葉では褒めてくれるベール。

……なのだが、顔に陰りが入っている。何やら嫌な予感を感じ取り、白斗の顔から汗が滝のように流れだした。

 

 

「私対策は完璧……ふ、フフフ……。 愛しの白ちゃんが好敵手となる喜びはありますが……こうもしてやられてはゲーマーとして見逃せませんわね?」

 

「ね、ねえ……さん……?」

 

 

―――ベールは、負けず嫌いだった。

「欲しがりません。勝つまでは」を地で行くその執念に、白斗も悪寒を感じる。

とにかく画面を見直せば、ベールの操作キャラがリスポーン地点に戻っている。新しく仕切り直しだ。

 

 

「白ちゃん……貴方に敬意を表し、ハイスラでボコりますわ」

 

「そういうゲームじゃねぇからコレ!?」

 

 

まるで格闘ゲームのような感覚だ。

しかしながら、依然としてベールの操作キャラも、ハンデであるナイフ一本と言う条件も変わらず。

ならば白斗としてはこのまま油断しなければ最悪タイムアップで勝つことは出来る、のだが。

 

 

「甘いっ!!」

 

「嘘ぉ!? 何そのムーブメント!?」

 

 

屋根を伝っての奇襲、まるでその跳躍は義経の八艘飛びの如く。

ベールの技術だからこそできる動きに白斗はカメラワークが追い付かず、混乱してしまう。

その隙にベールが近寄り、一閃。

 

 

「ああああぁぁぁっ!? や、やられた……」

 

「まだですわよ白ちゃん。 このゲームの神髄……貴方に教え込んで差し上げますわ」

 

「ひいいぃぃぃぃぃっ!!?」

 

 

―――その後、白斗は本気を出したベールに成す術なくボコボコにされたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから時は流れ、夕刻。

 

 

「あーあ、結局まともに勝てたの最初のアレだけかー……」

 

「ふふ、でも正直危なかった試合も多かったですわ。 白ちゃんも上達してますわよ」

 

「ありがと……でも次こそ絶対勝つ!!」

 

 

あれからFPSのみならず、格闘ゲーム、レーシングゲーム、果てはRPGのボスをどれだけ早く倒せるかのタイムアタックなど様々な方法で対戦した。

接戦自体はあったのだが、結局のところ白斗は最初の一本以外勝つことが出来なかったのである。

楽しかったが、存外白斗も負けず嫌い。リベンジを誓っている。

 

 

「さて、そろそろ夕食ですわね。 夕食はステーキをお願いしてありますわ」

 

「いいね! ガッツリ食いたい気分だったんだ~」

 

(あらあら、はしゃいじゃって……可愛い♪)

 

 

いつもは大人びた言動も多い白斗だが、相手が姉だからかやたらと子供っぽい言動になっている。

それもまた可愛らしいとベールはご満悦だが。

彼女の案内の元、食堂へ向かえば肉汁溢れるステーキや炊き立てのライス、色とりどりのサラダ、スープなどが出迎えてくれた。

 

 

「おお……超豪華!」

 

「ふふ、我がリーンボックスの恵み……存分に召し上がれ」

 

「それじゃ……いただきまーす!」

 

 

両手を合わせ、早速肉を切り分けて一口。

雄大な自然の中で育った肉の味はまさに絶品、噛めば噛むほど広がる肉の味と油、それに絡み合うソース。

肉だけでなく、自然の恵みそのものと言える野菜も瑞々しく、良い歯ごたえと味わいだった。

 

 

「美味い! これぞ自然の恵みって感じがする!」

 

「お気に召していただいたようで何よりですわ。 で、白ちゃん」

 

「ん?」

 

 

急に名前を呼ばれた。

料理に夢中になっていたが名前を呼ばれては仕方がないと白斗は視線を向ける。

その先にはフォークに刺された肉が一切れ、白斗の目の前、いや口元へと差し出されていた。

 

 

「はい、あーん♪」

 

「ブフォッ!?」

 

 

思わず吹いてしまった。

無理もない、ベール程の美女が眩しい笑顔で、しかも甘い声で「あーん」を繰り出してきたのだから。

 

 

「きゃっ!? ちょっと白ちゃん、お行儀以前の問題ですわよ」

 

「ご、ごめん……じゃなくて! なんでこんなシチュエーションなんだ!?」

 

「何を仰いますの! 『はい、あーん』は姉弟における当然のコミュニケーション! 古事記にも書いてありますわ!!」

 

「姉さんどんな古事記使ってんの!?」

 

 

要約すれば「あーん」をしてあげたいとのことだ。

だがこれは姉弟というよりも恋人のすることなのではないか。さすがの白斗の気恥ずかしさが勝ってしまい、一旦は拒否してしまうものの。

 

 

「ダメ……ですか……?」

 

「うっ……」

 

 

急にしおらしくなり、俯いてしまうベール。

明るかった彼女が急に悲しみに包まれるともなれば、白斗も罪悪感が湧いてしまう。

思えばベールは四女神の中で唯一妹となる女神候補生がいない。妹としてチカを可愛がっているが、それでもやはり家族に対する憧れがあるのだろう。

そんな彼女の細やかな望みを叶えないで、弟とは名乗れない。

 

 

「……わ、分かった……。 あ、あーん……」

 

「っ!! あーん、ですわ♪」

 

 

覚悟を決めて、目を瞑りながら口を開けてベールに近づける。

ベールは一転して明るくなり、肉を白斗の口の中へ。

もぐもぐとゆっくりと租借しながら彼女が食べさせてくれた肉を味わう。

 

 

「どうですか!? 美味しいですか!?」

 

「……美味しいよ」

 

「よっしゃぁ! ですわー!!」

 

 

顔を赤くしながらも、白斗は微笑んだ。

やっと憧れていたシチュエーションが出来たことに、ベールは感無量。食事中にも関わらず大はしゃぎ。

どちらがマナーがなっていないのか、という野暮なツッコミは胸の中に留めて置く。

 

 

「でもまぁ、そんなベール姉さんも可愛いけど」

 

「……ふぇっ!? か、可愛い……ですか……?」

 

「って、しまったぁ!? 何口に出しちゃってんの俺ぇ!?」

 

 

心から想うからこそ口に出してしまった一言。果たして彼は何度、同じようなうっかりを繰り返せば気が済むのだろうか。

 

 

「も、もう白ちゃんってば! お姉ちゃんをからかわないでくださいまし!」

 

 

頬を膨らませてそっぽを向くベール。

その顔は、少し赤く染まっていた。あーんをしてあげたことよりも、可愛いと言われたことに照れてしまったらしい。

これは使える、と考えた白斗が少し身を乗り出して彼女の耳元に囁く。

 

 

「からかってなんか、ないから」

 

「……~~~~~っ!!?」

 

 

ベールは声にならない声を発し、先程よりもハッキリと顔を赤らめながら席を立った。

いつもは大らかな彼女らしくない、大慌てでのバックステップ。熱くなった頬を少しでも冷まそうと両手を頬に当てているのがまた可愛らしい。

 

 

「はは、やっぱり可愛い」

 

「も……もー! 白ちゃんってばー!」

 

「ゴメンゴメ………殺気ッ!!?」

 

 

瞬間、射殺すような視線を感じた。

元暗殺者としてその手の視線に敏感な白斗がその方向へと振り返る。そこには。

 

 

 

 

 

「お姉様とイチャコラしてんじゃねぇよポッと出の若造がァァァァアアアア……!!」

 

(ヒイイイイィィィイイイイィィィィッ!!?)

 

 

 

 

 

 

チカが、血涙しそうな勢いでこちらを睨んでいた。

明らかに呪詛を撒き散らしていそうなまでの殺気、暗殺者として鍛え上げた白斗ですら怖気づいてしまうレベルである。

ただ、彼女が止めてくれなかったら最早姉弟を超えた行動にまで発展していた可能性がある。ここは止めてくれたチカに感謝するべきだろう。

 

 

「そ、それよりさ! 早く食べないと冷めちゃうぜ!?」

 

「そ、そうですわね! お、オホホホ……」

 

 

この状況を何とかするべく、食事を再開する二人。

だがベールは不思議と先程まで美味しく感じていたはずの料理の味が、全く感じられなかった。

何故なら、脳内には白斗のあの言葉が反芻していたからだ。

 

 

 

 

―――からかってなんか、ないから―――

 

(…………白ちゃん…………)

 

 

 

 

あの白斗の顔が、声が、雰囲気が。

いつまでも脳内再生され、ベールの脳内を支配する。甘く響き渡るそれに、ベールは骨抜きにされていた。

甘美なる毒ならば、それでもいいと思えてしまうくらいに。それ以降、ベールの視線はずっと白斗を捉えて離さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、いう訳で白ちゃん! 夜のフライトに行きますわよ!」

 

「ホントに唐突だなアンタ!?」

 

 

それから少しして、白斗の部屋に突然ベールが殴り込んできた。

しかも女神化した姿で。

 

 

「善は急げ、時は金なり、いつまでもあると思うな姉と金! 行きますわよ!!」

 

「え!? ちょ、待っ……ぎゃあああああああああああああああああああ!?」

 

 

抵抗する間もなくベールに捕まり、抱えられ、そのまま開け放たれた窓から飛び立たれる。

何の準備も覚悟も出来ないままのスタートであったため、さすがの白斗も悲鳴を上げながら大空へと連れ去られる。

夜風が少し沁みるが、それ以上に凄まじいスピード。少しの間、目を開けることが出来なかった。

 

 

(うおおおおお!!? 今朝のフライトとは比べ物にならん勢い……正直怖ぇ!!)

 

 

情けない話、少し涙すら出てしまいそうだ。

瞼を力強く閉じ、出来るだけ目を開けないようにしていたが、急にピタリと止まる。

 

 

「さ、着きましたわ。 目を開けてくださいまし」

 

「うう……何なんだよ急に……」

 

 

どうやら目的地へ到着したらしい。

と言ってもまだ地に足はつかず、ベールに抱きかかえられたまま。つまりここは未だに空中ということになる。

少し恐怖を感じながらも、白斗が目を開けるとそこには。

 

 

 

 

 

 

 

―――満天の星空と、それを映し出す海。その二つの幻想的景色に包まれていた。

 

 

 

 

 

 

「………す、げぇ………」

 

「でしょう? 自然豊かなリーンボックスだからこそ、空気も澄んでてて……だからこそ綺麗な星空と綺麗な海を見ることが出来ますの」

 

 

観光地なだけあって、それを破壊するような汚染活動は女神たるグリーンハートが絶対に許さない。

その理由の一つとして、彼女が愛するこの景色を守るためだった。

 

 

「そしてこの場所は私しか知らなかった場所……でも、白ちゃんだから特別ですわ」

 

「………ありがと………。 こりゃ、絶景と言う他ないよ……」

 

 

そしてそれらを一度に堪能できるこのポイントは、彼女しか知らないらしい。

確かに空を自在に飛べる存在など、この世界では翼をもつモンスターか、或いは女神くらいのものだ。

同時にリーンボックスを愛しているベールだからこそ、見つけられたただ一つの景色。そこに案内してくれたと言うことは、彼女にとってそれだけ大切な存在になったということだ。

 

 

「フラストレーションが溜まった時とかは、たまにこうして飛んでいますの」

 

「……はは、出不精の姉さんもそんなロマンチックなことするんだな」

 

「んなっ!? し、失礼ですわよ白ちゃん!! 私だって立派な―――」

 

 

ついつい茶々を入れてしまう。

女神化すると、少しクールさが増すベールも愛する弟からの一言には崩れてしまうというもの。

反論しようと言葉を紡ごうとしたが、白斗にはその先が分かっていた。

 

 

「分かってるよ。 立派な女の子、だもんな」

 

「……っ! だ、だからからかわないでくださいまし……」

 

 

白斗にとってベールとは、姉でもあり、大切な女神様でもあり、そして可愛い女の子でもあった。

そんな彼の思いが、短いその一言だけで伝わってくる。だからこそ女神グリーンハートは、少女ベールは慌てて赤面してしまう。

けれども、やはり心地よい鼓動が胸を打っていた。

 

 

「……白ちゃん、貴方の姉になれて……本当に幸せですわ」

 

「早いよ姉さん。 まだ一日目だぜ? リーンボックスの魅力、いろいろ教えてくれるんでしょ?」

 

「……ええ! もっと、もっと! 一緒に楽しんでいきましょう!」

 

 

ベールは、女神グリーンハートは確信した。

彼が弟になってくれて良かったと。そして、彼と一緒ならもっと楽しんでいけると。

ゲームも、日常生活も、嫌いな仕事ですら。きっと。

 

 

 

 

 

(……でも、何ですの? 念願の弟がこうして遊びに来てくれたのに、まだ何かが足りない……というより、もう少し踏み込みたい、なんて思ってしまうのは……)

 

 

 

 

 

―――だがそれと同時に、更なる願いが募っていく。

それは、女の子だからこその特権なのかもしれない。




サブタイの元ネタ「超次元ゲイムネプテューヌ(無印)」よりリーンボックスのキャッチコピー

ということで今回からベール編!
ベールさんの包容力と可愛らしさを全面に押し出せて行ければと思っています。
因みに今回のサブタイは上記にある通り無印からの引用ですが、無印と以降のリーンボックスってかなり違ってるんですね。
本来なら「独創する緑の大地」とも迷ったんですが、それはまた別の機会に。今回のリーンボックスは自然多めで、ちょっとmk2に寄せている印象だと思っていただければ。
では次回もベール様のターン!と見せかけて、別の子達のエピソードをば。お楽しみに!
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