恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART   作:カスケード

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第二十一話 デート・ア・イエフ!

どうも皆さん、こんにちは。私、コンパって言います。

……突然ごめんなさいです、でもどうしても言わなきゃいけないことがあるんです。

えーとですね、私には大親友がいて、あいちゃん……アイエフちゃんという女の子なんですけど。

しっかり者で、カッコ良くて、でも可愛らしいあいちゃん。プラネテューヌの諜報員というお仕事もキッチリこなしている凄い子なんです!

 

 

 

…………その、あいちゃんがですね…………。

 

 

 

「………はぁぁぁぁぁぁー………」

 

 

……ここ最近、元気が無いんです……。

気が付けば溜め息、暇があれば溜め息、とにかく溜め息。何か胸の中で溜めたものを吐き出しているみたいなんです。

この状態になったのは今から一週間くらい前……白斗さんがプラネテューヌを出てから一週間くらい経過した頃です。

最初はなんでもなかったんですが……見て分かるくらいにため息ばかりで、段々元気も無くなって……正直、見ていられないんです……。

 

 

「あのー、あいちゃん……大丈夫ですか?」

 

「…………えっ? あ、何かしらコンパ……白斗がどうしたって?」

 

「誰も白斗さんの事なんて言ってないです……」

 

「うぇっ!? あ、アハハハ……もー、何を言ってるのかしら私ってば……はぁ」

 

 

ああ、余計に落ち込ませちゃいました。

そうなんです……ため息ばかりだけではなく、事あるごとに白斗さんの名前を出すようになっちゃったんです……。

思えばあいちゃん、あの友好条約式典の時に白斗さんに助けられてから白斗さんの名前をより出すようになった感じです。

それだけ白斗さんに懐いているんですかね?

……仕方ないです、こうなったら最終手段発動ですぅ!

 

 

「……あいちゃん、そんなに元気がないならやることは一つです!」

 

「……んぇ? 何……?」

 

 

ああ、いけません!普段のあいちゃんからは想像も出来ないほど抜けた言動が多くなってるですぅ!

手遅れになる前に、看護師見習いとして出来る最善の治療法をしなければです!

 

 

「……白斗さんに、会いに行くです!」

 

「そう、白斗に………って、ふぇえええええええええええっ!!?」

 

 

おお、こうかはばつぐんです!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから少し時は経ち、リーンボックスの午前中。

 

 

「ぐっ!? 何だそのインストラクターの動き!? ああぁぁっ、無敵判定!?」

 

「ふふ、この上スマの動きこそ重要なのです……わっ!!」

 

「ぎゃあああああっ!?」

 

 

滞在二日目にして、相も変わらずゲームに勤しんでいるベールと白斗。

本日はルウィー出展の、ゲイムギョウ界で大人気にしてブランの最も得意な対戦ゲームで遊んでいた。

だが予想外の動きばかりするベールのキャラに翻弄され、白斗が操る平面人間は遥か彼方へと吹っ飛ばされてしまっていた。

 

 

「うごごご……か、勝てねぇ……」

 

「白ちゃんは何と言うか、裏を掻き過ぎて失敗していますわね。 そこまで捻くれていると逆に動きが読みやすいですわ」

 

「うう、思い当たる節々……」

 

 

そして対戦が終わればベールからレクチャーを受ける。

白斗の場合、しっかりと反省してそれを吸収しているため、呑み込みは早い方だった。

そのため次に対戦をする時にはレベルが上がっており、それがよりゲームを白熱させていたのだ。

 

 

「さて、今度は別のゲームでも………」

 

 

また違うソフトを取り出したベール。

彼女と遊んでいると、色んなゲーム、色んな世界に出会える。この世界に来てからというものの、白斗は今までは当たり前であったゲームという世界を存分に楽しんでいた。

と、そこへ勢いよくドアが開け放たれる。

 

 

「お姉様っ!! いい加減にしてくださいっ!!」

 

「あ、あら……。 チカ、どうかなさいましたの?」

 

 

現れたのは箱崎チカ、このリーンボックスの教祖である。

普段はベールを「お姉様」と慕い、心から敬愛している彼女だが今回は珍しく彼女に対しても怒り口調。

この剣幕にベールも押され気味で、困ったように頬を当てて苦笑い。けれどもチカの勢いは留まることを知らず。

 

 

「もう書類が幾つも溜まっているんです! そろそろお仕事してください!」

 

「え? 仕事してなかったの!?」

 

「あ、あはは………」

 

 

チカの手には、何枚かの書類が握られていた。

少し目を通しただけでも、締め切り間近なものだらけである。

どうやら白斗と遊ぶことを優先し過ぎて仕事を後回しにしていたらしく、ベールはばつの悪そうな顔を浮かべていた。

 

 

「あはは、ではありませんっ! 黒原白斗が来るのは百歩譲って認めても、お姉様が仕事をしなくていいわけではないのです!!」

 

 

正論オブ正論。

ぐうの音も出ないベール、そして白斗も腕を組んで頷いてしまう。

 

 

「姉さん、これはチカさんが正しいよ。 仕事してきなさい」

 

「うう、白ちゃんまで……」

 

「仕事をしない姉さんは嫌いだ……」

 

「今すぐ仕事してきますぅぅぅぅぅっ!!!」

 

 

余程嫌われたくないらしい、鶴の一声が発動し、ベールは脱兎のごとく執務室へと駆けていった。

後に残された白斗とチカは。

 

 

「「やれやれ……あ」」

 

 

同時にため息を付いては肩を竦めていた。

 

 

「お、ハモった」

 

「何でアンタとハモらなきゃならないのよ!」

 

「そんなこと言われても……」

 

 

同調することすら受け入れたくないらしい、チカが怒りだした。

今日の彼女はいつにもましてお冠だ。白斗の行動のいちいちに対して、厳しい視線を向けている。

 

 

「大体この忙しい時期にアンタが旅行なんて来るからこうなるのよ!! しかもアタクシのお姉様を奪っただけじゃなくてイチャコラしやがってぇ……!!」

 

「う……それについては俺にも原因がある……のかなぁ……?」

 

 

ただでさえゲーム好きで、白斗を溺愛しているベール。

そんな彼女の元に一週間も滞在するともなれば、日夜ゲーム浸けの毎日になることはとうに予想がつく。

一部私情が混じっているとは言え、白斗も痛いところを突かれ、頭を掻いた。

 

 

「あ、あの……俺、お詫びと言っちゃなんですが手伝いますよ?」

 

「……それは出来ないわ。 何度も言ってる通り、アンタは一応客人。 お姉様からもアンタに仕事を回すなって厳命されてるんだから」

 

 

フン、と鼻息を鳴らしながらも律儀に答えてはくれた。

最初に宣言した通り、あくまで公私の分別はつけてくれるらしい。ベール第一を通り越してベール狂いのチカではあるが、教祖だけあって出来ている部分もあった。

 

 

「だからアンタがゲームをしようがどこかへ出掛けようがそこを咎めるつもりは無いわ。 寧ろどこかへ行きなさい、お姉様に引っ付くな」

 

「本当に公私の分別つけているんですかねぇ!?」

 

 

少し、微妙な所だった。

とは言え、白斗の滞在を認めてくれているのでベールが絡まない限りは過度な干渉をするつもりは無いようだ。

 

 

(つっても今日を含めて残り六日間……その間にこの人から一々睨まれながらの生活は正直、胃にキそうなんだよなぁ……何とかして理解を得たいところだが)

 

 

一方の白斗は、チカが悪い人ではないことは理解しているつもりだ。

それでもこうして事あるごとに邪険にされては正直いい気分はしない。

仲良く、までは無理にしても彼女からの理解を得なければ折角の旅行も楽しめないだろう。

そのためには彼女からの信頼を得ることが第一、しかし直接仕事には触れさせないと来ている。ならば、取れる方法はただ一つ。

 

 

「チカさん、一つ提案があるのですが」

 

「提案……? アタクシも暇じゃないんだけど……」

 

 

少し鬱陶しそうな声色だった。

だが、相手はベール自ら招いた客人。無視を決め込むことも出来ないと、とりあえず話だけは聞いてくれることに。

 

 

「仕事は出来ないにしても、相談に乗ることは出来ますよ」

 

「相談? アンタに……?」

 

「はい。 ド素人の意見でも、聞くだけならタダでしょう」

 

「……お姉様から聞いた通り、グレーゾーンを見つけるのが得意だコト」

 

 

直接仕事が出来ないのなら、間接的にサポートすればいい。

今、白斗は時間を持て余している。その時間を使って個人的に調べ物をし、チカに相談という形で持ち込む。

思ったより建設的な意見だったのか、チカも呆れたように息を吐きながら白斗に向き直る。

 

 

「……そうね。 ならお誂え向きのが一件あるわ」

 

「はい、何でしょうか?」

 

 

あくまで仕事という体裁で白斗に接している。

今はこれでいい、信頼など一朝一夕で築けるものではないのだから。寧ろスムーズに話を進められる分、こちらの方がまだやりやすいというのが白斗の本音だった。

 

 

「アンタ、このリーンボックスの名物って聞かれたら何を思い浮かべる?」

 

「名物、ですか? ……うーん、前に姉さんが持ってきてくれたカステラかなぁ」

 

 

昨晩も、リーンボックスの山の幸を堪能した。

だが食材が美味しいと言われても、これが名物というものは正直見たことが無い。

良く土産物でカステラが取り上げられていると以前、ベールが持ってきてくれたことがあったがそれくらいしか知らない。

そのカステラすらも、名物と呼べるかどうか微妙な所なのだ。

 

 

「まぁ、そんな所よね。 ……そう、このリーンボックスにはコレという表立った名物が存在しないの。 これが意味するものは分かるかしら?」

 

「……リーンボックスは観光業が盛ん。 しかし、ウリとなる名物が存在しないことには客寄せにも響いてしまう。 食文化だって観光の楽しみの一つですもんね」

 

「そういう事。 ……まぁ、及第点ってところかしら」

 

 

どうやら軽くテストされたらしい、この一件に関わることを認めてくれたようだ。

名物に関しての話題ならば、ルウィー滞在時に意見を出してそれが本採用になったことがある。

白斗も得意分野とまでは行かないが、経験があるのとないのとでは大違いだ。

 

 

「ここまで来たら分かるわよね? ……正直な所、何を名物にしたらいいのか困ってるのよ。 あれやこれやと作っては売り出しているんだけど、売り上げはまちまちでね」

 

 

疲れたようなため息を吐くチカ。

際立った問題ではないが、国を運営する身として売り上げに関わる問題はいつまでも見過ごせないのだろう。

なるだけ早く消化したいようだ。

 

 

「分かりました、意見を纏めて、また夜にでも勝手に呟きます」

 

「……ふん、まぁ期待はしてないけど。 それと、リーンボックスの街を回らずして意見をまとめたーなんて言われても敵わないからしっかり街は見てきなさい」

 

「了解っと」

 

 

そうと決まれば行動あるのみ、白斗は早速自室へと戻り外出の準備を始めた。

一切迷いない行動とその背中に、チカは先程までとは違う溜め息を吐き出す。

 

 

「……やれやれね」

 

「あらあら、チカったら素直じゃありませんわね」

 

「お、お姉様!? いつからそこに!!?」

 

 

聞かれていないものとして完全に油断していたらしい、背後から掛けられたベールの声に驚いて振り返った。

そこには妙に優しい目と顔をしているベールがいた。

 

 

「いえ、先程のチカの書類を見せてもらおうと戻ってきたのですが……上手いこと白ちゃんを観光させてあげるとは、さすが私の妹、ですわね」

 

「な、何の事だか……」

 

 

目を逸らすチカ。

でも、彼女を妹として可愛がるベールだからこそ分かる。

 

 

「ふふ……折角の旅行なのに、いつまでもゲームだけでは勿体ない。 そんなチカの心遣い、ちゃんと伝わりましたわ」

 

「こ、これはお姉様のためであってあいつのためではありませんから!!」

 

「テンプレ的ツンデレ頂きましたわ~!」

 

「お、お姉様ってばー!!」

 

 

チカとベール、この姉妹も仲が良かった。

彼女にとってチカもまた、愛すべき妹なのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、リーンボックスの街へと繰り出したワケですが」

 

 

それからしばらくして、リーンボックスの教会を出た白斗は街へと到着した。

リゾート地などを多く所有するこの国だが、科学技術も発展しており、プラネテューヌとは違う目新しさがある。

プラネテューヌが常に変化を続ける街に対し、リーンボックスは伸び伸びと進化しているという表現が適切だろうか。

 

 

「こう見るとアウトドア以外でも楽しめる場所は多いな……。 けどこういった雑多な街になればなるほど、独自の名物は生まれにくい……」

 

 

リーンボックスは海を隔てた先にある国。

つまりここに来る人々は海を超える必要があるのだ。それは即ち色んな事情を抱えた人が集まることを意味し、そんな人々の幅広いニーズに応えるために店もあらゆるジャンルを取り揃えなければならない。

あらゆる物を用意すれば用意するほど、その国特有のオリジナリティを生み出すのが難しくなる。

 

 

「……この国特有のものを見つけるのではなく、幅広い層に受け入れられるようなものに独自性を持たせる方向で行くか」

 

 

とりあえず方向性は決まった。

問題はその方向性の先に何を見つけるか、なのだが。それを悩みながら街を練り歩こうとすると。

 

 

「うぅ~……コンパぁ~、もう帰りましょうよ~……」

 

「ダメです! ここまで来たからにはキッチリ会いに行かないと!」

 

「ん?」

 

 

何やら聞き覚えのある声が二つ。一人は特徴的な口調だから尚更分かりやすい。

振り返ってみると、そこでは―――。

 

 

「……アイエフに……コンパ?」

 

 

ネプテューヌの親友にして、白斗の仲間でもある少女。アイエフとコンパが何やら言い争っていた。

正確にはコンパがどこかへ行こうと手を引くが、アイエフが必死になって抵抗している感じである。

 

 

「だ、だって……そうよ! 今、白斗は旅行で来てるのよ! お邪魔しちゃ悪いだろうし……」

 

「俺が何だって?」

 

「ホラ、あいつはこんな風にすぐ首を突っ込みたがひゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?」

 

「うぉわあああああああああああ!!?」

 

 

背後から掛けられた、件の声。

アイエフは思わず絶叫を上げ、その絶叫に当てられた白斗もまた絶叫した。

華麗な身のこなしでアイエフが距離を取り、声のした方を振り返る。そこには白斗が未だに驚いた表情のまま立っていた。

 

 

「び、ビックリするじゃないの白斗!!」

 

「そりゃこっちの台詞だアイエフ……。 それにコンパまで」

 

「えへへ、白斗さんお久しぶりですー」

 

 

今にも爆発しそうな心臓を押さえながらアイエフが怒鳴る。

一方のコンパはいつもと変わらない柔らかい雰囲気と表情を湛えていた。

 

 

「どうしたんだ二人とも? 仕事か何かか?」

 

「いえ、あいちゃんが白斗さんに会えなくて元気が最近無かったから会いに来ちゃったんです」

 

「ちょぉっ!? な、何言ってるのよコンパってばぁ!? ち、違うのよ白斗!! これにはね、深いワケがね……!!」

 

 

いつものようにほんわかと説明してくれるコンパに対し、アイエフは顔を赤らめてながらも早口で、矢継ぎ早に言ってくる。

あわあわとして、最早何を言っているのか支離滅裂な状況だ。でも白斗は不思議と嫌な気分にはならなかった。

 

 

「そうかそうか、寂しかったのか。 悪かったなアイエフ」

 

「う、うにゃー……って頭撫でるなぁっ!」

 

 

気が付けば白斗はその手で、アイエフの小さな頭を撫でていた。

しっかり者と言っても、その本質は年齢相応の可愛らしい女の子だ。怒ってはいるものの、可愛らしい反応を返してくれる。

撫でる度、綺麗な髪の感触が指先を通り抜け、尚触りたくなる。アイエフも、言葉だけで強く拒絶まではしなかった。

 

 

「……そうだ。 実は俺、ワケあって街を回ることなったんだけど二人とも付き合ってくんね? 俺、リーンボックスの街知らないからさ」

 

「え? わ、私は……そうね! コンパにここまで連れてこられたんですもの、ここまで来たら付き合ってあげるわ!」

 

 

これがツンデレ、というものだろうか。

アイエフはどちらかと言えば素直な少女で、ツンデレと言えばノワールの領分なのだが。これはこれで悪くないと白斗はうんうんと頷いている。

そしてコンパは、自身も誘われたことにキョトンと首を傾げていた。

 

 

「私もです?」

 

「おう。 ダメか?」

 

「い、いいえ。 でもベールさんは大丈夫ですか?」

 

「姉さん、今日は仕事で缶詰よ。 その間暇になったから街をブラリと」

 

 

自分も誘われるとは思っても見なかったらしい、コンパが少したじろいだ。

ここに来た目的も親友であるアイエフのためだ。事実、アイエフは白斗と少し会話しただけでいつもの元気を取り戻しつつある。

聞けば白斗の方も一人だと言うので、ここはお言葉に甘えることにした。

 

 

「では、私もご一緒するです!」

 

「んじゃ、色々店回ってい行こうぜ」

 

「ええ! まずリーンボックスと来たら巨大ピザバーガーね!」

 

 

何やら意気揚々とアイエフが案内してくれる。

案内されたのはワゴン車に店が搭載された形の屋台。店の中には本格的な窯まで用意されており、職人のこだわりが伺える。

早速アイエフが一つ注文。その間、職人がピザ生地を捏ねまわしていた。

 

 

「お、本格的。 なんだ、名物ってあるじゃんか」

 

「まぁ、名物と言うよりも変わり種というか?」

 

「見てればわかるです」

 

「見てればって……げぇっ!?」

 

 

思わず変な声を出してしまった。

そこに出たのは文字通り、ピザでサンドイッチされた巨大ピザバーガーだ。

2枚のピザ生地にハンバーグ、レタス、チーズなどの具材を挟み込み、焼いたものだ。それ自体は良いのだが、巨大の名に恥じない大きさである。

 

 

「デカッ!? そして重ッ!? ざっと5人分はあるんじゃねぇの!?」

 

「これ一度食べて見たかったんだけど、大きさが大きさだから中々踏み込めなかったのよねー」

 

「確かにこれは名物……にはなり辛ぇなぁ……」

 

 

この国の新しい名物になるには、誰もが美味しく食べてもらえる必要がある。

味は良いのだろうが、量が量だけに気軽に手を出せるものでは無い。

 

 

「でも今日は白斗さんがいてくれたからチャレンジできるです!」

 

「ねー。 最後にはスタッフよろしく白斗が美味しく頂いてくれるんだから」

 

「お、ま、え、ら~~~ッ……!!」

 

 

確かにこれは女の子だけで食べきるには辛いものだ。かと言って頼んでおきながら残してしまうのも失礼な話。

今回、白斗はダシにされてしまったようだ。

けれども、憧れだったものを食べることが出来て嬉しそうなアイエフとコンパを見ては、怒りもすぐに消えてしまう。

 

 

「……まぁ、いいや。 とにかく食べよう。 いただきまーす」

 

「「いただきまーす!」」

 

 

早速切り分けて食べてみる。

ピザ生地の触感と肉、チーズ、レタス、そしてソース。全てが絡み合い、この上ないハーモニーを奏でる。

―――のだが、今回のハーモニーは聊か重く響いており。

 

 

「……うぷ。 も、もうご馳走様……」

 

「わ、私もですぅ~……」

 

「ちょっとお前ら!? まだ5分の3残ってるんだが!?」

 

 

それぞれ一切れ口にしたところで限界が来てしまった。

元々女の子である二人は、大喰らいではない。のだが量以前に味が濃すぎてギブアップしてしまったらしい。

こうなっては、残る量を白斗が処理するしかないのだ。

 

 

「まぁ、そこは白斗だし?」

 

「白斗さんだから大丈夫ですぅ」

 

「ド畜生があああああああ!!! モグモグハグハグガツガツグッフォゥェッ」

 

 

覚悟を決め、一気に喰らう。

白斗も大喰らいというほどではないが、かと言って目の前で出された料理を残すほど無頓着な男でもなかった。

少しでもペースを落とせばキツくなる。食べる、食べる、食べる、そしてむせる。

 

 

「あははは! 白斗ってば、落ち着いて食べなさいな」

 

「そうですよ。 お料理は逃げませんから」

 

「誰の所為だと思ってんだああああああああああ!!!」

 

 

―――その後、見事に食べきったという。

だが白斗は膨らんだ腹を押さえ、一歩も歩けない様子だ。

 

 

「ぐ、ぐふ……もう、ジャンクフードはいいや……」

 

「ごめんなさいね白斗。 でも美味しかったでしょ?」

 

「まぁな……んじゃ次はどこへ行く……?」

 

 

まだ食べ過ぎから回復出来ていないが、折角のこの時間を無駄に過ごすのも勿体ない。

現在コンパの治療を受けつつも今後の予定を立てることに。

 

 

「そうね、アウトドアとかは時間掛かっちゃうからまたの機会にしたいし……そうだ! サーフィン訓練とかどうかしら?」

 

「んぁ? 海にでも行くのか?」

 

「何も海だけがサーフィン出来るとは限らないわ。 着いてきて!」

 

「お、おいアイエフ!?」

 

「あいちゃん、待ってくださいです~~~!」

 

 

すると白斗の手を取り、アイエフは走り出した。

親友であるコンパも慌てて走り出す。普段は冷静で一歩引いたものの見方が出来る彼女が、ここまで見境なくなる姿などコンパは見たことが無かった。

 

 

(でも、あいちゃん……すごく嬉しそうです!)

 

 

そして―――眩しいまでのその笑顔も。

彼女が笑顔になれば、コンパも笑顔になる。そんな彼女の背中を追いかけようとしたその時、目の前に一匹のネズミとクマのようなフードを被った肌色の悪く、鉄パイプを手にした女性――表現するなら、下っ端のような存在――が通りかかっていった。

 

 

「えっほえっほ……全く、この水晶は希少品だと言うのに、それを探せなんてオバハンも無理難題をいうっちゅ……」

 

「愚痴ってもしょうがネェ。 とにかくアタイも二つほど集めたんだから、これであの二人も文句は言わネェだろ」

 

「出来ればそうありたいっちゅね………ぢゅぢゅっ!?」

 

 

一人と一匹は、何かを抱えながらコソコソと裏路地へと消えていこうとした。

その時、ネズミの方は何か躓いてしまったのか前のめりに地面と激しいキスを交わしてしまう。

 

 

「ヂュヂュ~~~ッ!! い、痛いっちゅ~~~~!!!」

 

「だ、大丈夫か!? 例のブツは!!?」

 

「オイラの心配をするっちゅ~~~!!」

 

 

何やら漫才を始めてしまった二人。

けれども、ネズミの顔の怪我は中々に酷いものだ。顔面を強打したらしく、顔は赤く腫れあがっている。

それを目の当たりにしてしまったコンパは、思わず声を掛けてしまう。

 

 

「あの、ネズミさん。 大丈夫ですか……? 私が治してあげるです!」

 

「ふ、ふん。 悪党たるオイラに情けは無用……ぢゅぢゅッ!!?」

 

 

看護師見習いとして、怪我人は放っておけない。

一方のネズミは悪党気質から差し伸べられた手を払おうと振り返った。

―――その時、ネズミに電流走る。

 

 

「……天使っちゅ……」

 

「「へ?」」

 

 

コンパも、そして下っ端のような少女も思わず変な声が出てしまった。

 

 

「な、何でもないっちゅ……でも、気持ちはありがたく受け取るっちゅ! 君、名前は!?」

 

「わ、私はコンパです……」

 

「コンパちゃんっちゅね! また会おうっちゅ! 行くっちゅよ下っ端!」

 

「だーかーらー! アタイにはリンダって名前が……」

 

 

またもや漫才を繰り広げながら、ネズミと下っ端は裏路地へと消えていく。

結局治療は出来なかったものの、元気そうだとコンパは一安心した。

その一方で、一つだけ気になった点がある。

 

 

「? 何でしょう今の人達……確か、どこかで見たような気がするです……」

 

 

何故か見覚えのある顔だった。

だが、どこで見たのかが思い出せない。うーん、と頭を捻りながら唸っていると。

 

 

「コンパー!? 何してるのー!!?」

 

「あ、あいちゃん! ごめんなさいです~~~!!」

 

 

追いかけてこないことを心配したアイエフが戻ってきた。

親友の声により現実に引き戻され、コンパは先程の些細な疑問を忘れて再び親友を追いかける。

もう既に、あの一人と一匹の姿はどこにもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、着いたわよ!」

 

「ここって……サーフィン関連の店か?」

 

 

案内された先には、サーフボードが看板替わりに立てかけられた店。

ショーウィンドウには水着やシュノーケルなど、海における必需品が並べられていた。

そこに飾られているものだけでも、かなりの品揃えであると分かる。

 

 

「それもあるんだけど、中で人工プールを使ったサーフィン訓練が出来るのよ」

 

「ほう、それは面白そうだな!」

 

 

確かに一々海に行ってサーフィンというのは手間がかかる。

けれどもこうして店の中でサーフィンを体験できるというのは手間も省けるいいサービスだと白斗も感心した。

技術が進んだゲイムギョウ界ならではだろう。

 

 

「ホントは事前予約とか色々あるんだけど、仕事先の人からここの無料体験チケットを貰ったの。 三人分あるから、一緒に遊びましょ!」

 

「私もサーフィンやったことないので楽しみですぅ!」

 

「俺もだ。 サーフィン、実は憧れてたりするんだよな~」

 

 

手際の良さはさすがアイエフと言ったところか。

初めてのサーフィンにコンパと白斗も心を躍らせる。

そのまま店のドアを潜ると、ハイカラな格好の店主が気さくに話しかけてきた。

 

 

「HEY! らっしゃい、本日は何用かいBoy&Girl?」

 

「ここでサーフィンしたいんです。 このチケットで行けますよね?」

 

「OKOK! 大歓迎、Let's Go!!」

 

 

随分とエキセントリックでハイテンションながらも、フレンドリーな店主だった。

そのまま案内された部屋で、白斗はスウェットスーツ着替えを済ませてから出る。

目の前に広がるのは皆で遊べる大規模なプールから、個人で楽しめるカプセル型の個室型プールの数々。

つくづくゲイムギョウ界の進んだ技術に驚かされる。

 

 

「おぉ……! これはスゲェな!」

 

 

既にカプセル型のプールでは何人かがサーフィンの練習をしていた。

一人一人にインストラクターが付き添い、外からスピーカーを通じてアドバイスしている。

波の調整も可能らしく、穏やかな波からビッグウェーブを想定したものまで様々だ。

 

 

「白斗さん! お待たせですぅ~! ほら、あいちゃんも」

 

「わ、分かってるわよぉ……うう、ちょっと恥ずかしい……」

 

「ん? 二人とも、来たの……か……」

 

 

ようやく着替えが終わったらしい。

振り返ると、そこには青と白。それぞれのスーツを着込んだ美少女が二人、白斗に微笑みかけながら歩いてきた。

コンパは何よりも胸が強調されており、破壊力抜群である。しかしアイエフも、スレンダーな体系が寧ろ美しいボディラインを生み出しており、独自の魅力がある。

思わず白斗も、言葉を失ってしまう程の可愛らしさだった。

 

 

「HEY、Guy! 彼女に見惚れるのは結構だが、二股は良くないぜBaby?」

 

「んなっ!? そ、そんなんじゃねーから!!」

 

「そ、そうですっ! わ、私達と白斗はそういうんじゃないですから!!」

 

「う~……ちょっと恥ずかしいですぅ……」

 

 

彼女、そして二股。女性経験が皆無である白斗にすれば、免疫のない単語だ。

アイエフとコンパらも、ついつい顔を赤らめて反論してしまう。

けれども、それが余計に「らしく」映ってしまったらしい、店主はカラカラと笑っている。

 

 

「Sorry、Sorry! で、改めてみんなサーフィンは初体験ってことでOK?」

 

「は、はい」

 

「だったらまずは個別Lesson! あそこのカプセル型プールで基礎を学んでくれ!」

 

 

指を差された先には空いているカプセル型プールが三つ。

それぞれにインストラクターが既に配置完了していた。彼らに案内され、白斗たちはそれぞれ浮かべられたサーフボードの上に恐る恐る足を乗せる。

 

 

「おぉ……ととと! スケートとは違うバランス感覚要求されんなコレ……!」

 

『でもお上手ですよ! そのまま下半身を軸にして、全体を波に合わせてください』

 

「は、はい!」

 

 

スケートは常に滑りながらバランスを維持する必要があるのだが、寧ろサーフィンはボードの上でどれだけ波と同調できるかが関わってくる。

白斗も不慣れながらもなんとか意地で姿勢を保とうとしている。アイエフやコンパはどうなっているのか、少し見て見ると。

 

 

「イヤッホー! 白斗ー! 見てるー!?」

 

『アイエフ!? お前もう出来るようになったの!?』

 

 

既にノリノリで波に乗っているアイエフがそこにいた。

華麗にボードを乗りこなし、波と一体化している彼女の姿は美しくもあった。

元よりアイエフの運動神経は抜群である。モンスターとの戦闘経験も、白斗より上。そこが活きたのだろう。

 

 

「ええ! 面白いわねコレ!! 何なら私が教えてあげようか?」

 

『ぬぬぬ……負けるかコラー!!』

 

(ふふ、ムキになっちゃって……可愛いところもあるじゃない。 そうだ、コンパは……?)

 

 

負けっぱなしは癪である、案外負けず嫌いな白斗が尚更必死に乗りこなそうと練習に戻った。

そんな彼の少年らしさを可愛いと思いつつ、コンパの方を見て見ると。

 

 

『あ、あいちゃーん! 助けくださ……ガボゴボ……』

 

「あ、アハハハ……コンパは、そもそも体幹を鍛えるところからかしら……」

 

 

上手くバランスを取れずに、何度もプールへ落ちているコンパの姿があった。

元より運動が得意ではない彼女からすればサーフィンのようなバランス感覚命のスポーツは短時間で慣れろという方が無理があるのだろう。

アイエフも苦笑いしつつも指導はインストラクターに任せ、自身はサーフィンを楽しむのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ~……悔しいですぅ……。 次こそは乗って見せるですぅ!」

 

「まぁ……頑張れ、としか言いようがないな」

 

「そうね。 今度は私と一緒にバランス感覚を鍛えましょ。 そういうゲームもあるから」

 

 

自動ドアを潜り抜けて出てきた白斗たち三人。

あの後、白斗はどこか覚束ないながらもコツを掴むことが出来、それなりに乗れるようになった。

ただ、やはりコンパはあの短い時間の中では基礎を作り上げることが出来なかったため、こうして悔しがっている。

 

 

「それじゃ次はコンパに合わせたトコ行こうか」

 

「そうね。 何がいいかしら………ん?」

 

 

このままでは折角付き合ってもらったにも関わらず、コンパが不憫である。

彼女が楽しめるものは何かと思案していると、アイエフの目にあるものが止まった。

それは書店。本で目が留まると言えばブランを思い出すのだが、今回アイエフの目に留まったのは、一冊のレジャー雑誌。

店先で並んでいるそれを手に取り、立ち読みして目を通す。

 

 

「……どうやら、近くに短時間でも楽しめるハイキングコースがあるみたい。 景色もいいみたいだし、こっちに行ってみない?」

 

「いいな。 ハイキングだったら激しく動き回る必要もないし」

 

「いいですね! それじゃ出発ですぅー!」

 

 

リーンボックスと言えば、こうした発展した街並みだけでなく雄大なる緑の大地を謳うだけあって豊かな自然を抱える。

緑生い茂る山でのアウトドアも、メジャーな楽しみ方の一つ。実際肌で感じて見なければ名物など思い浮かびもしないだろう、白斗もその提案に乗っかることにした。

 

 

「……そう言えば、こういう時にはネプテューヌも引っ付いてきそうな感じだが今日はいないのな」

 

 

ハイキングコースに向かう道すがら、気になったことを訊ねてみた。

アイエフとコンパは幼馴染というほどの大親友だが、そこにネプテューヌも加わった三人組での行動も多い。

だが今回、彼女の姿は無い。白斗に会えると聞けば、猶更彼女が参加しそうなものだが。

 

 

「ねぷねぷに知らせると仕事そっちのけで来ちゃいそうなので今回はナイショです」

 

「おk、把握」

 

「理解が早くて助かるわ」

 

 

プラネテューヌ安泰のためにも、彼女にはしっかり働いてもらわねば。

白斗もうんうんと頷き、納得した。

 

 

「……で、ネプテューヌで思い出したんだが、どういったキッカケで知り合ったんだ? アレでも仮に女神様なんだし」

 

「アレとは随分な言いようね……まぁ、私もそう思うけど」

 

 

そしてもう一つ気になったこと、それはネプテューヌとの馴れ初めだ。

天真爛漫とは言え、ネプテューヌは女神だ。真面目なアイエフが、仮にも女神たる彼女と出会えば畏まっていそうなのが普通なのだが。

 

 

「あれは何年前だったかしら……私とコンパで世界中の塔巡りをしてたんだけど……目の前にネプ子が落ちてきてね」

 

「………ゴメン、言っている意味が分からない」

 

「そうよね……普通は分からないわよね……。 でも事実、ネプ子が空から私の目の前に落ちてきたのよ」

 

「……………もういいや、続けて」

 

 

痛む頭を押さえながら白斗が続きを促した。

その光景が容易に想像出来てしまうから、尚更頭が痛いのだがとりあえず話を進めないことにはどうにもならない。

 

 

「で、驚く私を他所にネプ子が普通に話しかけてきたのよ」

 

「私もびっくりですぅ。 で、そのままねぷねぷと話してたら楽しくなっちゃって」

 

「ひょっとしてその『ネプ子』や『ねぷねぷ』って愛称もその時に?」

 

「そ。 呼びづらかったし、その時は私もネプ子が女神様なんて思わなくてね」

 

 

確かにネプテューヌという名前は少々言いづらい。

思い返せばマーベラスも「ネプちゃん」と呼んでいた気がする。彼女としてはちゃんと呼んで欲しいのだろうが、それでも笑顔で受け入れている姿が想像出来た。

 

 

「で、その時にねぷねぷを追いかけてきたギアちゃんとも知り合ったんです」

 

「更にウチに案内するからーって言われてやってきたのがプラネタワーで」

 

「そこにいたイストワールさんによって初めて女神様と知ったワケか」

 

「そういう事。 私も最初は不敬罪で捕まっちゃうと思ったんだけど、ネプ子ったら怒るどころか『友達が出来たー』って喜んじゃって」

 

 

堅苦しいことを嫌い、誰とでも触れ合える、心優しい彼女らしい光景だ。

だからこそ、あの仲良し三人組が出来上がったのだと白斗も腑に落ちた。

サバサバしたしっかり者のアイエフと、ほんわかで緩いコンパ、そして天真爛漫で心優しいネプテューヌ。

今にして思えば、良いトリオだと心から思う。

 

 

「……そんなあいつだから、俺はここに居られたのかな」

 

「ええ。 良かったわね、真っ先に出会えたのがネプ子で」

 

「ああ。 ホントに……ネプテューヌには感謝してもし足りないよ」

 

 

白斗がこのゲイムギョウ界に来て、初めて出会った人物。

それがパープルハートことネプテューヌだ。もし、彼女ではない人物と出会っていたらどうなっていたのだろうか。

きっと、どこから来たかも分からない不気味な男に優しく接してくれる人などいないだろう。

今だからこそ、白斗はネプテューヌとの出会いに感謝する。

 

 

「でも、俺はアイエフやコンパとも出会えてよかったって思ってるぞ」

 

「え? な、何よ急に」

 

「急でもないさ。 二人とも、俺を助けてくれるし、色々遊んでくれるし、こうして一緒に行動してくれるし」

 

「は、白斗さん……」

 

 

そして、今では出会った人すべてに感謝している。

勿論ここに来るまでにも、ノルスやウサンなど許せない人物もいた。けれどもそれを乗り越えて、女神達やその仲間達、特にアイエフやコンパとも出会えた。

彼女達の支えも、今の白斗には無くてはならないものなのだ。

 

 

「アイエフは俺の背中をバックアップしてくれてるし、コンパには料理とかで助けて貰ってる。 俺にとっちゃ、本当に感謝してるんだ」

 

 

決して世辞などではない、心からの言葉。

女神達を通じて聞いた話だが、白斗は凄惨な幼少期を過ごしてきたらしい。胸に埋め込まれた機械の心臓がその証なのだろう。

だからこそ、優しくしてくれた人達に惜しみない感謝を向けている。そしてそんな感謝を向けれる白斗は―――本当に心優しいのだと、アイエフとコンパの胸に響き渡った。

 

 

「……私もよ白斗。 ネプ子達を助けてくれて……そして、私を助けてくれて、ありがとう」

 

「私も白斗さんに感謝してるですぅ!」

 

 

一方、アイエフとコンパもまた白斗に感謝していた。

もし、彼がいなければ今頃彼女達の大切な親友であったネプテューヌが、この世にいなかったのかもしれないのだから。

そして、アイエフもまたそうなっていたのかもしれない。それを助けてくれたのは他でもない、目の前にい白斗だったのだ。

彼女達にとって、白斗とは最早大切な存在になっている。

 

 

「どういたしまして。 ……ん? 川のせせらぎが聞こえるな」

 

「ホントだわ。 ちょっとコースから外れるけど行ってみる?」

 

「いいぜ。 川の近くでのんびりも悪かない」

 

「私もさんせーですぅ!」

 

 

耳を澄ませば、美しい水の音が聞こえる。

このまま歩いて自然を堪能するのも良いが、先程サーフィンで激しく体を動かしたばかりだ。

休憩の意味も込めてゆっくりするのも悪くない。白斗とコンパの賛成を得てその方向に歩いてみると、透き通った川が静かに流れていた。

 

 

「おぉー、いいねぇ。 まさに自然の中って感じだ」

 

「川の深さも、足首くらいまでね。 ゆっくりするにはもってこいだわ」

 

「それじゃここで一休みするです~」

 

 

早速腰を下ろし、靴を脱いで、足首まで浸かる。

冷たい水が足を包み込み、駆け抜ける水の流れが、心地よい清涼感を齎す。ここまでの疲れも掻っ攫われるような、そんな気持ちよさが三人を包んでいた。

 

 

「……なんか、いいなぁ……こういうの」

 

「そうね……落ち着けるわ~」

 

「すっごくいいですぅ~……」

 

 

足首まで水に浸かったまま、三人はこれまた川の字になって寝転がる。

背中には柔らかい草、そして真上には澄み切った青い空。周りには大自然が生み出すマイナスイオンのひんやりとした空気。

都会の喧騒もどこへやら、三人は普段の慌ただしさも忘れて自然の中に溶け込んでいた。

 

 

「……俺、こうして自然の中でごろ寝なんて初めてだ」

 

「私もネプ子達とキャンプに行った時以来ね。 コンパ、あれいつだったかしら?」

 

「確か……一年前、友好条約が結ばれることが決定したお祝いにねぷねぷが企画したですぅ」

 

「はは、ネプテューヌなら進んでやるよな。 そういうの」

 

 

自然と思い出話に花が咲く。

白斗の知らない三人の思い出を聞くのは正直楽しくもあったが、その反面羨ましくもあった。

年頃の少年少女がしていそうな思い出が、白斗には作れなかったから。

 

 

「……そうだ。 またみんなでキャンプに行きましょ。 今度は白斗も一緒に、ね?」

 

「え? 俺も………?」

 

「はいです! 白斗さんも、一緒に思い出作りするです!」

 

 

そんな彼の表情を読み解いたのか、アイエフがそんな提案をしてきた。

コンパも、寧ろ嬉しそうに受け入れてくれる。

皆で作り、皆で共有する思い出に、白斗も加われる。彼女達にとって、白斗とはそういう存在なのだから。

 

 

「……ありがとな。 って、あ……」

 

「あ……」

 

 

ふと横を見れば、アイエフの顔が近い。

何せ三人で川の字に寝転がり、白斗はアイエフとコンパの間にいるのだから。

互いの吐息すら、顔に触れ合うほどの距離であることを自覚した途端。二人の顔が真っ赤に染まった。

 

 

「ち、ちょっと! 顔近いってば……!」

 

「ご、ゴメン! じゃぁこっち……ってこっちにはコンパが……!」

 

「わひゃぁ!? は、白斗さん近いですう~~~!」

 

 

右を向けばアイエフ、左を向けばコンパ。

よくよく考えればこの状況、美少女二人に囲まれているのだ。それを認識した途端、急に白斗の顔まで赤くなってしまう。

 

 

「~~~だぁぁぁぁ!! 暑いッ!! 顔冷やすッ!!!」

 

 

どうにもいたたまれなくなって白斗は叫びながら上半身を起こす。

丁度、足元には冷たくて綺麗な川が流れていのだ。白斗は顔を水面に寄せ、バシャバシャと洗い始める。

水の冷たさが、火照った顔をいい感じに冷ましてくれる。のだが―――。

 

 

「……えいやっ!!」

 

「ぶふっ!? ちょ、アイエフ何すんだ!?」

 

 

足元を川に浸けていたアイエフが、突然その足を跳ね上げさせた。

当然大量の水飛沫が舞い上がり、それらが白斗の頭全体を濡らす。当の本人は悪戯っ子のような表情で楽しんでいた。

 

 

「ふふっ、さっきのお返しよ。 コンパ、やっちゃいなさい!」

 

「はいですぅ! えーい!!」

 

「ばはっ!? こ、コンパまで……!!」

 

 

アイエフの指示を受けて、反対側からコンパが水を浴びせてきた。

これまた白斗の顔面にクリーンヒット、頭どころか胸元まで濡れそぼる。

 

 

「ふふーんだ! 悔しかったら反撃してみなさい! えい、えいっ!!」

 

「あはは! 白斗さんに攻撃ですぅ~~~!」

 

「べへっ!? ………て、め、ぇ、らぁ~~~~~っ!!!」

 

 

コートを脱ぎ捨てたアイエフ、そしてコンパは川の中へと走り込み、両手で水を掬い上げては白斗に浴びせる。

間断なく襲い掛かる水に、白斗も唇を吊り上げ、不敵に笑う。

 

 

「いいだろう……俺を怒らせたこと後悔しやがれぇ!! ドォラァ!!!」

 

 

白斗もいつもの黒コートを脱ぎ捨て、タンクトップ姿を晒した。

そしてそのまま勢いよく川の中へと飛び込む。

彼の体重と衝撃で、大量の水が舞い上がり、アイエフとコンパの頭上からスコールのように襲い掛かった。

 

 

「きゃっ!? ちょ、ビショビショじゃな~い!!」

 

「俺だけ濡れるのは不公平だ……テメェら二人ともビショビショにしてやらぁ!!!」

 

「きゃー!! 逃げろです~~~~!!!」

 

「逃がすかぁー!!! 待てやコラァァァァアアアア!!!!!」

 

「もー!! 白斗ったらー!!!」

 

 

―――その後、二人の少女と一人の少年は童心に帰って遊び続けた。

それこそ日が暮れるまで。それこそカラスが鳴くまで。それこそ―――遊び疲れるまで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……よっし、服乾いたな」

 

 

夕暮れ時、川の畔で白斗たちは焚火を起こしていた。

焚火から漏れ出す熱で濡れた服をようやく乾かし終えたところだ。さすがにびしょ濡れのまま帰るわけにはいかないからである。

 

 

「白斗さん、楽しかったですか?」

 

「ああ。 俺、ガキん時でもこんなに遊んだことってなかったよ」

 

「私達もこんな水遊びするの、ネプ子がいた時以来かしら?」

 

「ははは、あいつだったらやるよなー」

 

 

服も乾いたことで帰り支度を始める一行。

だが、それすらも惜しむほどの楽しい時間だった。特に白斗にとって、今でもあの水飛沫の美しさ、体を動かす感覚、そして楽しんでいたアイエフとコンパの笑顔が鮮明に蘇っている。

 

 

「それにしてもお腹すいちゃったわね」

 

「はいです。 お弁当でも持ってくれば良かったです……」

 

 

だが服が乾いても、遊び疲れた体は簡単には元通りにならない。

そして体を動かせば、その分だけ腹が減る。

アイエフとコンパの何気ない会話が、白斗の耳に入ってきた時、電流が走った。

 

 

「ん? ……そうか、弁当!! その手があったか!!」

 

「うぇっ!? な、何よ白斗、突然に……」

 

「ああ、悪い悪い。 こっちの話」

 

 

そもそも、白斗が今日、外出をすることになったのはチカから任された一件があったからだ。

だがそれも、コンパの一言のお蔭で光が見える。

何でもないように装うが、二人の目から見た白斗の様子は明らかに朗らかだった。

 

 

「どうしたんでしょうか白斗さん?」

 

「さぁ? ……それより、そろそろ帰らなきゃ……ね」

 

 

名残惜しそうに、アイエフが寂し気な声を漏らした。

本当に楽しかったのだ。親友のネプテューヌこそいなかったが、コンパと、そして白斗とこんなにも遊べたことが。

 

 

(……明日からまた、白斗の居ない生活か……。 って私……どうしてこんなにも白斗を意識しちゃってるのかしら……)

 

 

だからこそ、帰れば終わりを告げてしまう。明日からまたしばらく―――白斗がいない日々が続くのだから。

アイエフは、胸の底に疼く訳の分からない痛みに俯いてしまう。

 

 

「……んな寂しそうな顔すんなって。 あと一週間でプラネテューヌに帰ってくるからさ」

 

「なっ!? べ、別に白斗が心配とかそういうんじゃ……」

 

「ふーん? ……じゃぁ、リーンボックスに永住しちゃおうかな~?」

 

「えっ………」

 

 

すると今度は、悲し気な声色と表情になった。

痛みすら感じているかのように茫然自失だ。軽い冗談のつもりだったのだが、さすがにそんな顔を見せられては、白斗も罪悪感が湧いてしまう。

 

 

「ゴメンゴメン。 嘘、ちゃんと帰ってくるからさ」

 

「……~~~~っ!! もーっ、アンタって人はー!!」

 

「はっはっは、だからゴメンってば」

 

 

彼女を安心させるために優しく頭を撫でる。

するとアイエフは少しだけ涙を流しながらも、ポカポカと叩いてきた。

怒っているのか嬉しいのか、よく分からないまでに感情を爆発させているが、それすらも白斗には心地よく感じられる。

 

 

「……ふふっ。 あいちゃんもすっかり元気、これで一安心……ん?」

 

 

やはり、来てよかったとコンパは確信する。

白斗と遊べて楽しかった、アイエフとも遊べて幸せだった、そして彼女がいつものように元気になってくれた。

それだけでコンパも嬉しくなった―――のだが、彼女の背後にある茂みが不自然に揺れる。

と、次の瞬間。

 

 

「グルアァァァァァァッ!!」

 

「きゃあぁぁぁっ!!?」

 

 

茂みから、オオカミ型のモンスターことウルフが鋭い牙を光らせて襲い掛かってきた。

冒険者から逃げてきたのだろうか、体中に傷があった。そんなウルフは錯乱したままコンパに襲い掛かる。

突然のことでコンパも、アイエフも動けなかった。

 

 

「―――コンパぁっ!!」

 

「ひゃっ!? は、白斗さん……!?」

 

 

だが、白斗だけは違った。

寸での所だったが、ウルフの殺気を感じ取り彼女を抱きかかえることに成功した。共に地面に倒れ込むようにして獣の飛びつきを避ける。

そして着地して隙だらけになったウルフに。

 

 

「犬っコロ風情が……コンパに手ェ出すんじゃねぇよ!」

 

「グギャァッ!!?」

 

 

懐から取り出した銃で、鉛玉一発をお見舞いした。

一瞬のうちに構えられ、狙いを付けられた弾丸は見事モンスターの脳天に風穴を開ける。

悲鳴を上げながらウルフは絶命し、倒れ伏して消滅した。

 

 

「コンパ!! 白斗!! 大丈夫!!?」

 

「俺は大丈夫だ。 アイエフの銃のお蔭だな」

 

「あ、私の銃……使ってくれてたのね」

 

「当り前だ、お前がくれた大切なお守りだからな」

 

 

慌ててアイエフが駆け寄ってくる。

けれども白斗は特にケガはない。それも迅速にモンスターを仕留めることが出来たから。

そしてそれが可能だったのも、アイエフがくれた銃があったからだ。

白斗はくるくると銃を回しながら彼女に笑顔を向ける。

 

 

(っ!! な、何……今の、ドキッとしたような感覚……)

 

 

そんな彼の笑顔に、アイエフは胸の高鳴りが抑えられず、顔を赤くしている。

甘酸っぱくて、熱くなって、切なくて、でも嫌じゃなくて。

色んな感情が綯交ぜになり、その感情の名前が分からなくなる。

 

 

「で、コンパ。 大丈夫か?」

 

「わ、私は大丈夫です……で、でも……ひぐっ! 怖かったです~~~!!」

 

「よしよし、もう大丈夫だから。 な?」

 

 

余りにも一瞬の出来事で、コンパには何が何だか分かっていなかった。

徐々に思い出してくるのは、襲い掛かってくるウルフの恐ろしい表情。けれども温かい感覚がコンパを包み、そして白斗の必至な表情が目の前にあったこと。

襲われたのだと、そして助けられたのだとようやくわかり、コンパは大泣きした。

 

 

「白斗さん……ありがとうです~~~……」

 

「いいってことよ。 コンパが無事で、本当に良かった……」

 

 

改めてコンパの様子を見ているが、襲われた恐怖で泣いていること以外に外傷は見当たらない。

泣きながらも感謝しているコンパの頭を撫でながら、白斗も一息を付いた。

彼にとって大切な仲間が無事だったことに、本当に安心したから。

 

 

「……白斗さん……」

 

(……あれ? なんだ、このコンパの可愛さは……)

 

(な、何かしら……この危機感は……!?)

 

 

何やら醸し出される甘い空気。

それに包まれているコンパは、白斗の顔にうっとりしている。白斗はそんなコンパの顔に魅入ってしまい、対するアイエフは謎の危機感を覚えていた。

 

 

「そ、それよりコンパの事が心配だし! 早く戻りましょ!!」

 

「お、おう! もう日が暮れちまうしな!」

 

「そ、そうですね! あ、あはははは……」

 

 

―――甘酸っぱい思いもまた、少年少女の特権なのかもしれない。

三人の影は、夕焼けに照らされながらもリーンボックスの街へと向かっていく。

 

 

 

(……また、いつか……白斗と一緒に、こんな日を過ごせたらいいな……)

 

 

 

彼の後ろで歩いているアイエフは、密かに微笑んだ。

まだ見ぬ未来に思いを馳せて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そして、それから数時間後。

プラネテューヌの教会こと、プラネタワーにて。

 

 

「おーい、あいちゃーん。 こんぱ~?」

 

「…………………」

「…………………」

 

 

すっかり月が昇った時間帯、ようやく戻ってきた親友二人を笑顔で出迎えたネプテューヌ。

しかし、肝心のアイエフとコンパは尚更ぽーっとしていた。

まるで蕩けているかのような、どこか桃色すらも感じるような雰囲気である。

 

 

「ねー、二人ともー。 どうしたのってばー?」

 

「本当に何があったんですか?」

 

 

ネプテューヌが幾ら呼び掛けても、目の前で手をブンブン振っても、体を揺すっても大した反応を見せてくれない。

そんな二人を見るのは付き合いが長いネプテューヌも初めてのこと。ネプギアも心配そうに駆け寄ってみると。

 

 

「…………白斗…………」

「……白斗さん……」

 

「え? お兄ちゃんがどうかしたんですか?」

 

 

溜め息と共に、白斗の名前を漏らした二人。

どこか上の空で、どこか甘酸っぱくて、どこか愛おしそうで―――。

 

 

「……そういう事か……ふ、ふふふ……」

 

「ひっ!? お、お姉ちゃん……!?」

 

 

一体二人に何があったのか、なんとなく察したネプテューヌ。

いつものような笑顔を湛えながらも、黒いオーラを纏い始める。

普段の姉からは想像できないような悍ましい何か、妹も震え上がった。

 

 

(……また、いつか……白斗と一緒に……)

 

(白斗さんと……遊びたいです……)

 

 

机で頬杖を突きながら、ただ虚空を―――いや脳裏に思い描いたあの人の顔を眺める二人。

その姿はまるで―――恋する乙女のようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、リーンボックスの教会では。

 

 

「―――と言うわけで弁当なんかどうでしょうか」

 

「弁当、ねぇ……」

 

 

チカから出された相談、「リーンボックスの新名物」についての報告会。

白斗の出された提案に、キョトンと言う言葉が似合う様子のチカだった。

 

 

「この国ではアウトドアがメジャーです。 でも個人や少人数で行動する人たちはわざわざバーベキューとか手の込んだものを持ち歩かないでしょう」

 

「確かに、荷物になるだけだものね」

 

「そこでリーンボックスの幸を詰め込んだ弁当を作るんです。 一つの料理だけに囚われない、色んな味を大自然の中で楽しむっていうコンセプトでね」

 

 

今日一日、白斗が過ごしてみて感じた率直な意見だった。

少人数で移動する場合、どうしても装備を軽く済ませようという傾向にある。そんな中、手軽に食べられる美味しい弁当があればとコンパが言った。

まさにその通りだ。だったらその要望を叶えてしまえばいい。食材もリーンボックスで取れるものを使えば、この国らしさが詰まった弁当の出来上がりというわけだ。

 

 

「……目の付け所は悪くないのね。 正直、検討してみる価値はあると思う」

 

「お役に立てたなら何よりです」

 

「アタクシじゃなくてお姉様の役に立てることを考えなさい。 フン……いいわ、ちょっとは使えそうな奴って認めてあげる。 癪だけど、癪だけど!」

 

 

宣言通り、仕事では分け隔てなく接してくれるチカ。

今はこれでいい。仕事方面だけでも、多少信頼が得られればそれだけで違ってくる。1と0とでは埋めがたい差があるのだ。

 

 

「……ま、一応ご苦労様とだけ言っておいてあげるわ」

 

「ありがとうございます」

 

「言っておくけど調子に乗らないこと! そしてお姉様に手を出していいって話じゃないんだからね! それじゃっ!!」

 

 

また一つ鼻息を鳴らして、チカは去ってしまった。

何度も言うが、チカは敬愛するベールに一途なだけであり、そんな彼女に付きまとう白斗が許せないだけだ。

人によって価値観は違うのだから、一朝一夕に態度が変わるはずがない。だからこれから少しずつ歩み寄って行こうと決心する白斗だった。

 

 

「………さて、ベール姉さんに一言挨拶でも……ん? 着信?」

 

 

報告さえ終われば後は自由時間だ。

思えばベールとは今朝別れたきりである。寝る前に一言挨拶するべきだろうと彼女の部屋に向かおうとした矢先、白斗の胸の中でケータイが震える。

画面をタップし、空中に画面を投影すると。

 

 

『白斗ぉおおおおおおおお!!! これは一体どういうことじゃああああああああ!!?』

 

「うぅぉぁああああああああ!!? 何なんだよネプテューヌ!!?」

 

 

いきなりのドアップで怒号が響き渡る。

通信相手はネプテューヌ、なのだが例に漏れずお冠だ。

 

 

『白斗ってばノワール達だけじゃ飽き足らず、ネプギアやユニちゃん、挙句あいちゃんやこんぱにまでコナ掛けたっての!!?』

 

「何の話だ!?」

 

『だって二人ってば、ずっと白斗の名前しか言わないもん!! っていうかズルいズルいズルいーっ!! 三人だけで遊びに出かけるなんてー!!』

 

 

どうやらアイエフとコンパを通じて、今日一日の白斗の行動を知ったらしい。

遊ぶこと大好きな彼女からすれば、羨ましがるのも無理はないだろう。

 

 

「そりゃお前にゃ仕事が………あれ? 変だな、謎の悪寒が……」

 

『ねぷ? どうしたの白斗……って白斗!? 後ろ、後ろ―――』

 

 

プツン、と通信が切れた。背後から伸びた指が、ボタンを押したのだ。

ひんやりとした恐ろしさに、白斗は震え上がる。

まるで油の切れたロボットのようにギギギと首を後ろに回すと。

 

 

 

 

 

「……白ちゃん? まさか今日一日ずっと……アイエフちゃんやコンパちゃんと一緒に過ごしていたのですか……?」

 

「ね、ねえ……さん………?」

 

 

 

 

 

ウフフ、と素敵な笑いを浮かべているベールがいた。

のだが、このひんやりとした空気から分かる。顔は笑っていても、目が笑っていないということを。

嘗て、元の世界では最高峰の暗殺者と謳われた少年が、今恐怖で足が竦んでいる。

 

 

「私が、大好きなゲームを、白ちゃんと一緒に楽しむことも我慢して仕事をしている中……アイエフちゃんと、コンパちゃんと一緒……しかもフラグまで……」

 

「な、何の話をしているのでしょうか……って、何故に私の首根っこを掴んで!?」

 

 

普段のおっとりとした言動からは想像も出来ない恐ろしさ。そして握力。

指先から伝わる冷たさは、殺気にも近い。

どうにかして振りほどこうにも女神の力に敵う筈もなく、白斗は成す術なく無慈悲にズルズルと引きずられていくだけだ。

 

 

「あれぇ!? この状況、ブランの所でもあったよ!? そして謎の鉄の扉がある部屋に連れていかれるんですよね!!?」

 

「そう、ブランとまでそういうことを……フフフフフ……」

 

「待って姉さん!! いや姉様!! 話し合おうッ!!!」

 

「ええ……しっかりとお・ハ・ナ・シ、しましょうか………」

 

「ヒイイイイィィィィッ!!? だ、誰かあああああぁぁぁぁ…………」

 

 

―――白斗の叫び声が、リーンボックスの夜空へ響き渡る。

この国に滞在してまだ二日目。これからもドラマは起こるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

ただ、無事に明日を迎えることが出来たらいいな―――と思う白斗であった。




サブタイの元ネタ「デート・ア・ライブ」

と言うことでアイエフちゃんとコンパちゃんのお話でした。
まさかここでぶっこむとは思わなかったでしょう。でも本当に好きなんです!
今回はネプテューヌがいなかったので、ちょっと違う関係性とかが見せられたらと思います。
後チカさんとかも忘れずに描写。チカさんは確かにベールさん第一だけど、ちゃんとした大人でもあるということをお伝えできれば。
さて、次はちゃんとベールさんに焦点を当てたお話です。イチャイチャです。バケツの貯蔵は十分か。
それではお楽しみに~。

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