恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART 作:カスケード
でも内容はまさしくコレなんです。では本編始まります!
―――リーンボックス滞在三日目。
本来なら楽しい旅行になるはずだったのだが、白斗は現在参っていた。
と、言うのも。
「ね、姉さ~ん……」
「つーん、ですわ」
彼の姉となったベールが、超絶不機嫌なのである。
原因は昨日のアイエフとコンパとの、傍から見ればデートとしか言えない行動だった。
美少女二人を連れてお昼、サーフィン、そして水遊び。ゲーム廃人のベールですら羨ましがるシチュエーションの数々に、実際拗ねているのだ。
「姉さーん」
「つーん」
「ベール姉さ~ん」
「つんつーん」
無視しているつもりなのだろうが、ここまで「つーん」を連呼されると逆に面白くなってくる。
だが、彼女が拗ねていることは明らかなのでそろそろ白斗も本気で対策を考えることにした。
「とりあえず、一緒にゲームしましょ?」
「お一人でやってくださいまし。 私は今からアイテム使うと怒るナマハゲをジョニー単独撃破しますから」
「何そのやり込みプレイ」
中々コアなやり込みプレイをしようとしていた。
それにしても、ここまで嫉妬深いとは思いもしなかった白斗はお手上げ状態だ。
頭を掻きながらも、有効打を見出せない。女性経験が全くない白斗にしてみれば、どうすればベールが機嫌を良くしてくれるのかが分からないのだ。
(うーん、これは姉弟になってから初の擦れ違いって奴かな……。 正直面倒くさくもあるけど、このままにしておきたくない……どうしたものか……)
こういう時に限ってチカは出張しており、相談することも出来ない。
そして彼女には妹となる女神候補生がいないため、身近な人物も少ない方だ。
ベールを任された身として、何より弟として。絶対に仲直りしなければと思うも、解決法が見えてこないのではどうしようもない。
(……そうだ! 確かネプギアってよく姉さんから話しかけられたって言ってたよな!)
それは白斗が弟になる前の事、ベールは女神候補生がいないその寂しさからよく可愛らしい女の子を見つけては妹に勧誘していたのだ。
嘗てその対象として良く声を掛けられていたのがネプギアである。ベールがテレビに向き合ったタイミングで部屋を抜け出し、彼女に電話を掛ける。
『もしもし、お兄ちゃん? どうしたの?』
携帯電話から聞こえてきた可愛らしい声。
自分を兄と慕ってくれるネプギアのものだ。久々の会話ということもあって、彼女はとても嬉しそうである。
「ネプギア! 相談に乗って欲しいんだが行けるか?」
『うん、行けるけど……珍しいね。 お姉ちゃんも呼ぼうか?』
「今回はネプギアの意見が欲しいんだ。 実は………」
事のあらましを説明した。
真剣に伺ってくれるネプギアだったが、説明し終えると苦笑いが返ってくる。
『お兄ちゃん……そりゃ、ベールさんも怒っちゃうよ……』
「マジですか?」
『マジです。 だって、大切な人が自分そっちのけで他の子ばかりに構ってるんだよ? 私だって嫉妬しちゃうよ……』
呆れもあり、同情もあり、そして諭してもくるネプギアの声。
そう言われては、白斗は嫌でも理解してしまう。
「……そう、だな……。 確かに俺が悪かった」
『まぁ、お姉ちゃんやアイエフさんには内緒にしててあげるからベールさんのケアをちゃんとしてあげてね?』
「したいのは山々なんだが何に対しても無視してくるんだよ……」
そう、最大の問題点はそこなのだ。
ベールの不機嫌の理由が分かっても、肝心の本人が耳を傾けてくれないことにはどうしようもない。
寧ろそれに対する助言を求めるべく、ネプギアに連絡を入れたのだ。
『うーん、だったらベールさんが反応せざるを得ないくらいのことをしてみたらどうかな?』
「と言うと?」
『これまでの話を聞く限りだと、話しかけるだけだったんでしょ? だったらアプローチの方法はまだまだあると思うんだ』
なるほど、と白斗は顎に手をやる。
今まではあくまで言葉を掛けるだけだった。けれどもベールは要するに、構って欲しいのだ。そんな彼女に構ってやるとなれば、普段ベールが抱き着いてくるような身体的接触が一番だろう。
正直、勇気を超えた何かが必要だが。
「……ええい! ベール姉さんのためだ、尻込みしてる場合じゃねぇ! ありがとなネプギア、お蔭で俺頑張れるよ!」
『ううん、お兄ちゃんの役に立てて何よりだよ。 でも、私だって構ってくれなきゃ怒っちゃうんだからね?』
「分かってるって。 帰ったら一緒に機械弄って、沢山遊ぼうな」
『………! うん!』
ネプギアも嬉しそうな声で返してくれた。
そんな彼女が可愛らしくてつい微笑みを漏らしながら、白斗は通話を終了する。
(……さて、こっから先は俺の理性が持つかどうか……ぶっちゃけ姉さんに嫌われる可能性も否定できないが……やれるだけやってやらぁ!!)
情けない自分の頬を叩き、喝を入れる。
パァン、と気持ちの良い音が廊下に鳴り響き、焼けつくような痛みが白斗の意識を覚醒させた。
結局のところ、ベールの優しさに甘えていた分、今度は自分が優しくする番だと白斗は心を決めて再びドアを開け放つ。
(………で、肝心の姉さんはというと………)
「………………」
相変わらずベールはゲームに集中している。
と、言うよりもゲームに逃げているという印象だった。肝心のゲームも、いまいち楽しめていない様子。
不機嫌で、少し悲し気で。だからこそ、白斗は―――。
「……姉さん」
「………何ですの一体………ひゃぁっ!?」
後ろから、優しく抱きしめた。
「なっ、なななな………何ですの白ちゃん!?」
「……ごめんな、姉さん。 寂しい思いさせちゃって」
突然の抱擁に、珍しく慌てふためくベール。
しかも、普段なら絶対に忘れないであろうゲームをポーズ画面にすることすら忘れて。
ようやく見せてくれた不機嫌とは違う顔色、それは突然の事態に頭が追い付けず、顔を赤くしている一人の少女の顔だった。
「た、確かに寂しかったのですけど……。 と、とりあえず離してくださいません?」
「ヤダ」
「や、ヤダって………あぅ………」
ますます白斗の腕の力が強くなり、離れることが出来ない。
ベールはこれでも女神、本気になれば抵抗して、この程度の拘束など外すことくらい出来る。
―――だが、出来なかった。白斗の腕が、それだけ強く、それだけ優しく、それだけ心地よかったから。
「………姉さんは、こうしてるの……イヤ?」
「……い、イヤじゃ……ありませんわ………」
すっかりベールは顔を赤くして、大人しくなっている。
けれども言葉通り、嫌がっている様子はない。寧ろ予想だにしていない嬉しさに巡り合ったような戸惑いを感じていた。
「……姉さん、お詫びと言っちゃなんだけど……姉さんのして欲しいこと、叶えてあげる」
「え……? い、いえ……そこまでは……」
「遠慮しないで。 俺が姉さんにしてあげたいんだから」
「は、白ちゃん……」
また更に抱きしめてくる。尚且つ、優しく顔と声にベールの理性は蕩ける一方だ。
白斗の腕の中でもじもじとするが、寧ろ彼は愛する姉の要望を叶えるまで離してくれそうにない。
既に、ゲーム画面では「YOU LOSE」の文字が浮かんでいる。しかし、今のベールはそれすらも気に留めることが出来ない。目の前の白斗に、釘付けだったから。
(……今日の白ちゃんは、弟というよりも―――そ、そうですわ!)
その瞬間、ベールはあることを思いついた。
ずっと心の奥底に閉じ込めていた願い。自分と言う性格だからこそ、言い出せなかった願望。
けれども、今の白斗ならば。それを叶えてくれるかもしれない。
「で、でしたら……!」
「ん?」
また優しく微笑んでくれる。
今の彼は、ベールを甘えさせてくれるだけの包容力と頼り甲斐がある。間違いないとベールは確信した。
彼ならば、自分を受け入れてくれると。
「………今日一日だけ、私の……“お兄さん”で……いてくれませんか……?」
「へっ?」
白斗も、それには予想できなかった。
いつもは皆を優しく見守る姉と言うのがベールの第一印象だ。そんな彼女の、奥底にしまっていた願い。
それは、兄が欲しかったこと。いや、“自分も甘えたい”ということだった。
「……ダメ、でしょうか……?」
不安げな表情で、上目遣い。
ベール程の美少女にそんな顔をされて断れる男が、断れる“兄”がいるだろうか。
「―――ダメじゃないよ、“ベール”」
「………~~~~~っ!!?」
肩を抱き寄せ、耳元で囁いた。
初めて見る、耳まで真っ赤に染まり切った顔。何かが崩れ去り、吹き飛んだかのような表情。
プルプルと震えながら、恥ずかしいやら嬉しいやら、ベールの内心はもう何も考えられなかった。
「……次はベールの番、俺を“兄として”呼んでみて」
「は、はわわわわわ………!?」
更に畳みかけられる。
そう、今日一日、この瞬間。彼はベールの兄となる。となればいつもの呼び名ではない、彼を兄として呼ばなければならない。
想像以上に緊張し、想像以上に胸が熱くなる。汗が止まらず、喉が渇く。けれども固唾を絞り出して呑み込み、意を決して呼ぶ。
「……は、白斗……兄様……」
「ん。 良くできました」
そして優しく頭を撫でられる。
何度も夢見たシチュエーション、ゲームやアニメでしか見られなかったシチュエーション、そして夢でしかなかったシチュエーション。
それをこの少年は、現実のものにしてくれた。
(こ、これが……兄!? これが妹になるということ……!? ロムちゃんやラムちゃんは、こんな至福の一時を味わっていたというのですか……!!?)
(まさか姉さんが妹になるなんてなぁ……。 しかも兄様と来た。 これはこれで新鮮だし、可愛いし。 いいなぁ、これ……)
すっかり、互いにこの状況を気に入っていた。
ベールに至っては病みつきという言葉がピッタリ嵌るくらいである。白斗も普段見ることのできないベールの表情に夢中になっていた。
「は、白ちゃん………」
「じゃなくて?」
「に……兄様………その、さっきはごめんなさい……。 素っ気ない態度をとってしまって……」
「いいんだよ。 俺もほったらかしにしてたのが原因だし」
(と、言うよりもアイエフちゃんやコンパちゃんとデートしてたのが原因ですが……まぁ、いいですわ)
少し見当違いだったが、今となってはそんなことはどうでもいい。
些細な言い合いで、こんな夢見たシチュエーションを手放したくないとベールは意を決してこの状況を楽しむことにする。
「に、兄様! 今回はこちらのゲームで遊びましょう!」
「おう、いいぜ。 ほうほう、金稼ぎ系すごろくゲームか」
中々コアなゲームを持ち出してきたベール。
緊張しながらも、満面の笑顔でケースを向けてくる彼女が可愛らしくて、白斗は二つ返事で承諾した。
今回選ばれたのは複雑な操作も必要ない、ターン制のゲーム。今までやったことのないジャンルというだけでなく、これならばゆったり話しながらゲームが出来るという考えによるものだ。
(正直……こんなにもドキドキが止まらない状態で、まともなゲームなんてできませんもの……)
いつもなら、ゲームで味わう胸の高鳴りとは未知なる世界へ敵に対しての興奮、スリル、感動が主である。
だが、弟でもあり、兄でもあるこの少年の前では心臓が全く違う動き方をするのだ。胸を締め付けて、切なくなる。でも、不思議と嫌ではないのだ。
「うっげ、めっちゃ搾り取られる……。 俺リアルラック無い方なんだよな……」
「……ふふ、女神達と懇意にしておいて運が無いは無いでしょう?」
「はは、違いない」
そう言いながら、互いにコントローラーのボタンを押していく。
カチャカチャ、と選択肢を入力するだけのシンプルなボタンやレバーの操作音だけがこの部屋に響き渡った。
常日頃、ベール一人だけでゲームを楽しんでいる空間なのだがそれがここ最近、この黒原白斗という弟でもあり、兄でもある少年がいる。
(……お、おかしいですわ……。 昨日まで普通に会話していたのに、どうして今日に限って言葉が出てきませんの……!?)
何故か、この少年を意識する度に胸が張り裂けそうになる。
体温が上がって、喉が涸れそうになる。何でもいい、何か話をしてみたいが、下手な話題でこの心地よい空間を壊してしまうと思うとそれすら怖い。
大人の女性としての印象が強かったベールは、ここにはいない。いるのはただ、悶えに悶えている可愛らしい少女だった。
(……あれ? ベール姉さん、いつもならゲームならハイテンションで色んな話題出してくれるのに……まさかまだ怒ってるのか!?)
しばらくゲームを黙々と進めていた白斗だが、ここでベールの口数が少ない―――というよりも全くないことに気付く。
良く見て見れば、顔を赤くしているではないか。まだ怒り自体が収まっていないのではないのかと、彼女に嫌われたくない余り勘違いがエスカレートしていく。
「……何だよベール、まだ怒ってるのか?」
「ひゃぁっ!? 白ちゃ……兄さっ……白斗君っ………!!」
「落ち着けっての。 逃げやしねぇから」
(こ、これは……! ゲームとかで見た、そう、もう“きょうだい”を通り越して恋人ですわっ!!?)
また肩を抱き寄せられ、耳元で囁かれる。
まさか今日一ずっとこれなのかと、ベールの心臓が保つ気配がしない。この時だけは、機械の心臓を持つ白斗が羨ましくなった。
でも、そんな彼女に白斗は。
「……心配しなくてもいいよ。 傍に居るから」
優しい笑顔と共に手を握られる。
手から伝わる温もり、そして彼の思いが、ベールの中に入り込む。
(あ………)
その瞬間、ベールの中でその笑顔が焼き付いた。温もりが刻み込まれた。その優しさに―――胸が、ときめいた。
まるでゲームで出てくる“恋人”のように。
(……そう、でしたのね。 私、確かに妹や弟、兄も欲しかったのですけど……
白ちゃんに………恋人のように接してほしかったのですね。
それもきっと………私が、彼に………恋、してしまったから………)
気付いた瞬間、胸の高鳴りも、この体温の上昇も、そして気持ちも。
ベールは全てを受け入れた。
するとどうだろうか、彼との思い出が鮮明に蘇ってくる。
自分が誘導したとは言え、ボディーガードに志願してくれたこと。一緒に楽しくゲームしてくれたこと。昨日もチカの相談に乗ってくれたこと。そしてこうして、抱きしめてくれていること。
―――全て、彼の優しさが、温かさが、心だからこそ出来たことだ。
(最初は、何故か気になる程度だったはずなのに……彼と過ごして理解できた。
白ちゃんは、自分の事を暗殺者などと罵りますが、でもそうじゃない。
強くて、どこか子供っぽくて、でも頼れて、温かくて……そして優しい。
こんな私の我儘にも真剣に向き合って、真摯に受け止めてくれる……。
そんな彼だからこそ、一緒に居たかった……弟として、そして兄として………)
確かにベールは、他の女神候補生がいないが故に妹に対する願望はあった。
だから、本来ならば白斗だけに執着する必要はない。けれども彼女は白斗が傍に居ることを望んだ。
その願いの正体に気づいたことで、気持ちが軽くなってくる。
(ネプテューヌ達のような劇的なシーンは無いかもですが……でも、私は本当に白ちゃんが好きで、本気で恋してしまったのですね……。
今まではゲームの中だけでしかなかった、「素敵な恋」……。
きっと、素敵な貴方だからこそ……素敵な恋を、してるのですね。
……この分もだとネプテューヌ達もそうかもしれません。 この子、ジゴロですから)
いつの間にか、ベールは自然に笑えるようになっていた。
まだ胸の鼓動は抑えられない、寧ろ自覚した分余計に爆発しそうになっている。でも、今なら受け入れられる。
この温かな気持ちを、預けるようにベールは白斗の肩に頭を乗せた。
「いっ!? ちょ、姉さ………!?」
「……ふふ、今日一日は?」
「べ、ベール……じゃなくて何やってんの!?」
やはり、白斗は女性経験や免疫が無い。
だからこそこのように、身体的接触されただけですぐに大慌てになる。こうして彼から抱き寄せてくれていると言うのに。
途端、白斗の手が離れそうになるが、ベールはその手を掴み、離さないようにした。
「だーめ。 ………離しませんわ、絶対に」
「…………ベール…………」
やはり、彼女には敵う気がしない。弟としても、兄としても。
頬をポリポリと掻きながらも、白斗は諦めたように息を吐き出した。
「……しょうがないなぁ、ったく」
「ありがとうございます。 ついでに……頭も撫でていただけます?」
「ウェイ!? そ、それはもう兄を通り越しているような気が……」
「こんなに肩を抱き寄せて置いてそれはナシですわ」
「……へいへい」
そのまま肩を抱いていた手を頭に乗せて、撫でる。
今まで女神達やアイエフらの頭を撫でたことはあったが、ベールの頭を撫でるのはこれが初めてだ。
全く違う髪の感触に白斗も戸惑うが、当の本人は気持ちよさそうに目を細めている。
「ん~……最高ですわ~……」
「……そりゃ、どうも……」
撫で撫でを繰り返している白斗。
最早ベールはその幸せをその身で感じることに精一杯だ。その証拠に愛してやまないはずのゲームが、先程から全く進んでいない。
ボタンやレバーを弄るだけの簡単なゲームですら、全く手がつかなくなるほどに白斗に甘えていた。
―――結局これが、夕方まで続いた。
☆
そして日も傾き、空が茜色に染まった頃。さすがに胃袋が悲鳴を上げ始めていた。
「……もう夕飯時だな。 んじゃ、可愛い妹のために何か作りますか」
「えっ? 兄様……作れますの?」
「簡単なもので良ければ」
そう言って白斗は厨房に向かう。
勇ましく厨房に向かう彼の姿、何より恋心を自覚した相手の手料理を食べられるという期待。
何もかもがベールにとって心ときめかせるものだ。
(こんな……こんなギャルゲーみたいなシチュエーション……本当にあるのですね……。 もう、白ちゃんはどこまでも素敵なんですから……)
白斗が去った後での部屋で、ベールは一人悶々としていた。
当然こんな状態ではゲームなどままならず、ベールは大好きな紅茶を飲んで心を落ち着かせようとした。
のだが、緊張に手が震えて紅茶が零れる零れる。
―――それから数十分後。
「ビーフシチューにしてみました」
「こ、これは何ともオシャレな……」
芳醇な香りが漂うビーフシチューに、サンドイッチ。
この優雅なリーンボックスの教会に相応しい料理が並べられていた。
「兄様、凄いですわね……。 お料理まで出来てしまうなんて」
「……まぁ、必要があったから覚えなきゃなんなかったって言うか」
「え?」
今までベールが見てきた中で、白斗が料理を作っている姿は見たことが無かった。
それ故に驚きの声を上げる一方で、白斗は少し寂し気な声と表情になる。
思わず聞き返してしまうも、彼は敢えてそれを聞き流し、ベールに笑顔を向けた。
「さ、早くしないと冷めちまう」
「は、はい。 では……いただきます。 はむっ……ん、ん~~~!! 美味しいですわ!!」
ビーフシチューをスプーンで掬い、口の中へ運ぶ。
するとどうだろうか、濃厚な味わいが広がる。肉の油、溶け込まれたジャガイモやタマネギの味、しっかり下味がつけられたルー。
ベールの口の中は、まさに天国だ。
―――美味しいわ白斗!!―――
「……そ、そう? ありがと……」
無邪気に喜ぶベール。
まただ、以前ブランに手料理を振る舞った時もそうだったが、あの姉の言葉と笑顔が思い起こされる。
今度はさすがに不意に泣くことは無かったが、それでも嬉しさが込み上げてくる。
「ええ、サンドイッチもバッチグーですわ!!」
「バッチグーとか久々に聞いたな……。 ん、でも我ながらいい出来」
ハイテンションながらもどこかお淑やかに盛り上がっているベールの姿を見れば、過去のあれこれなど気にしていられない。
白斗も自前のビーフシチューを一口。自画自賛かもしれないが、胸を張れる味だった。
☆
―――それからも、二人はゲームをやり続けた。
種類問わず、様々なゲームを、様々な遊び方で、いつものように。
でも、ベールにとってそれはいつも以上に楽しくて、愛おしい時間となっていた。隣に弟で、兄で、そして―――愛しい人がいたからだろうか。
「くっ、こ、の……!!」
「…………っ!!」
それでもゲームは手を抜かない。
彼女なりの方法で、彼女なりの技術で、彼女なりの全力で。
ボタンやレバーを操作する音が高速で、部屋の中で満たされる。今互いにゲームのキャラに入れ込んでの格闘ゲーム。
互いの息遣いすら、重要な情報源。そして。
「っ!! そこだっ!!!」
「あっ!?」
白斗のキャラが繰り出した、鋭いアッパーが炸裂した。
気持ちの良い音と共にベールのキャラは空中に舞い上がり、そして力なく地面に倒れ込む。
画面には堂々と「K.O.」の文字が、称えるように浮かび上がった。
「よっしゃぁー!!! 勝ったぁあああああああ!!!」
「……ええ。 負けましたわ。 連敗ハンデ付きでしたけど」
初めて、やっと、ベールをゲームで打ち負かした。
当然素の実力ではなく、ハンデを設定してのものだがそれでも白斗にとっては嬉しかった。
鬼の首を取ったように喜ぶ彼に対し、さすがにいい気分がしないベール。ネプテューヌ達に隠れがちだが、彼女も負けず嫌いなのだ。
「……でも、“こっち”は……完敗を認めるしかありませんわね」
「ん? 完敗って……うぉっ!?」
また、頭と体重、そして思いを白斗の肩に預けるベール。
だがその預け方はまるで違う。自分の持つ全てを、彼に預けていた。
「……こうされるのは、お嫌いですか?」
「……別に」
もう既に、兄だの弟だの妹だの姉だの、そういう立場など関係なかった。
ここにいるのは、親しい二人の男女。白斗とベールだけ。
きっと白斗は、何とか平静を装うとする余りベールの心の機微に気づけていない。でも、ベールはそんな彼が―――大好きなのだ。
(……なんて、心地よいのでしょう。 ですがこれを今まで味わえていなかったと思うと、さすがに勿体ないですわね。 ネプテューヌ達は今までこれをしてもらっていたのでしょうか?)
今まで過ごしてきた女神達、ネプテューヌやノワール、そしてブランはこの至福の一時を味わっていたかと思うと羨ましくなる。
しかもあの三人に至っては目の前で白斗が、劇的に命を救うという姿を見せつけている。
故に惚れていてもおかしくはないのだ。
(ですが……私だって、優しくて、温かくて、私を受け止めてくれるこの人が大好きなんです……だから、渡しませんわっ!!)
「な、何だよ急に抱き着いてきて!? む、胸が……胸がっ……!!」
そして、笑顔でその腕に抱きつく。
当然ベール程の巨乳であればその柔らかさが白斗を包み込む。いや、寧ろ胸囲の弾力で白斗の腕が潰されそうになった。
けれどもこんな形で腕を潰されるのなら本望だ、などと馬鹿なことを思いながら慌てていると、ボーンという音と共に時計が鳴った。
「あ……もう12時か」
「12時……魔法と約束が解ける時間、ですわね……」
普段、こんなアラームは設定しない。
けれども今日は約束があった。「今日一日は、ベールの姉として接する」。その約束が終わる時間。
ベール自ら設定したものだ。
「……ご希望があれば、兄としても接するけど?」
「い、いえ……さすがにあれはその……溺れてしまいますわ……」
「はは、案外初心だな。 “姉さん”は」
「……白ちゃんがいけないんですのよ。 もうっ」
―――日付は変わった。満月が天頂に達する。
けれども、二人の間には温かい時間が流れ続けていた。いつまでも、いつまでも―――。
『と、いう訳でこれより被告人・黒原白斗の裁判を開廷します』
「急にどうしたネプテューヌ!?」
そして午前1時、今夜はメールだけで済ませようと思っていた白斗の元にネプテューヌの通信が入った。
いつもより厳格な格好と表情、そして木槌を叩きながらそんな第一声。どこか拗ねたような声色である。
『静粛に、被告人は口を慎むように。 ではノワール検事、冒頭弁論を』
「へっ!? ノワール!?」
『はい。 被告人、黒原白斗はリーンボックスの女神、ベール氏に対し弟だけではなく兄としての関係を強要した容疑が掛かっています』
「何でお前が起訴してんだ!? ってかどこで知った!!?」
『あの後ベール自らが自慢するように報告してきたの』
「姉さんんんんんんんんん!!?」
なんとそこにノワールも検事として通信に参加していた。
しかもバリバリのスーツに眼鏡と知的さ、冷徹さを醸し出させるコスプレまで用意して。最も今回はネプテューヌも裁判長の恰好をしているのだから違和感など無いが。
『ご苦労。 では次にブラン検事』
『はい。 その後も、兄としての関係のままゲーム三昧でリーンボックスの政務に手出しさせないなど内政面で悪影響を及ぼしています』
「ブランまで!? ってか何故検事が二人いるんだ!? 弁護士は!!?』
まさかのルウィーの女神、ブランまで参加していた。
こちらもスーツ姿、そしていつもの穏やかな口調ではない。が、声色は殺気が籠っていて、絶対零度を感じる。
正直、暗殺者として生きてきた白斗など目では無かった。三人の女神から厳しい視線を向けられて、命を握られている。
『弁護士などいない。 では被告人に判決を言い渡します。 有罪、ギルティ―』
「待て!! 待てぇえええええええええ!!!!! 幾ら何でもこれは不当……」
『『『白斗ォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』』』
「ひぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!!?」
白斗の絶叫でリーンボックスの教会が揺れる。
旅行三日目は、終わりをつげ、四日目の朝日が昇るのは後5時間後の事。
☆
次の日、これは朝食を終えた直後の一幕。
「ふぁぁ~……」
「あら白ちゃん、眠れなかったんですの?」
「ええ、誰かさんが自慢気に他の女神にチクったりしたからかなぁ~……?」
「あ、あはは……ごめんなさい……」
目の下に隈を張り付けた白斗はやや不機嫌そうだ。
事の張本人ことベールは苦笑いしながら謝るベール。
「そ、それよりも!! 今度はこれで対戦しましょう!!」
「それでご機嫌取りのつもりか。 まぁ取られるんだけど……ほう、レーシングゲームか……俺これ苦手なんだよねぇ……」
お気に入りのゲームソフトを掲げているベール。
苦笑いしながらも、結局は付き合う白斗。ここまではいつも通り。なのだが、その親密度が段違いになっている。
「…………何なのよこれは…………ッ!」
それを目の当たりにしているのは、昨日一日出張で出かけていたチカ。彼女は突然戻ってきた。そんなチカを出迎えたのがこの光景、あまりにもあんまりである。
「………黒原白斗ォォオオオオオオオ………」
「ヒィッ!? ち、チカさんお帰りなさい……」
「その前に……お姉様に手を出していいって言ったわけじゃないって……アタクシ言ったはずよねぇ……?」
今にも殺気が爆発しそうなチカ。
気が付けば、弟と姉のやり取りを超えた親密度。そして肝心のベールは、明らかに白斗に向ける好感度が高くなっている。というよりも、好意のベクトルが別の方向になっている。
それに気づいて、ブチ切れないチカがいるだろうか。いや、いない。
「あら、チカ。 お疲れ様でした。 お早いお帰りですわね」
「お姉様もその男から離れてくださいッ!! そんなに相手して欲しいならアタクシだって……!!」
「ええ、もちろん。 後で一緒に遊びましょうチカ」
「お姉様………!!」
チカも、ベールにとって愛すべき妹。
だからこそ大人の余裕で包み込んでくれる。不思議とあしらっているようにも見えるのは、きっと気のせいである。
何しろやり手のチカですら、それに気づかず幸せそうな顔をしているのだから。
「ところでチカ、貴方がこんなにも早く帰ってくるとは何かありましたの?」
「……それなんですが、ちょっと客人が」
「客人? それもこんな朝早くに?」
「そうでもしないと来れない人なので。 ……ただ黒原白斗、アンタは出ていきなさい」
パンパンと手を叩くことでその人物を招き入れる。
どうやら既にこの屋敷にいるようだ。あのチカですらあっさり屋敷内に入れると言うことは彼女にとってもベールにとっても顔見知りだということ。
一方の白斗には出ていくよう命じた。気に食わないという理由だけではなく、何か他の理由があるようなのだが。
「えっ? は、白斗君……いるん、ですか………?」
「ん? その声……」
物陰から聞こえた声。少女のものだ。
少し怯えが混じったような、でも透き通った美しい声色。白斗はその声に聞き覚えがあった。
それはラステイション滞在中の事。出会いとしては、20分にも満たなかったが、白斗はその子の事を忘れてなどいなかった。
「……お久しぶりですベール様。 そして………白斗、君………」
「ふぁ………5pb.!?」
リーンボックスの歌姫、5pb.がおずおずとその姿を現したのだった。
アイドルが、こんな早朝から訪ねてくる―――それはもう、嵐の予感しかしない。
サブタイの元ネタ「俺の妹がこんなに可愛いはずがない」
ベール様にまさかの妹属性追加+恋に落ちるお話でした。
でもVⅡの白昼夢イベントで妹願望もありましたから別段珍しいことでもなかったり。
ならばと私が出した答えが姉であり、妹でもあるというこの欲望押さえる気ゼロの展開でした。ベールさん可愛い。
次回はリーンボックスの歌姫、5pb.ちゃんのお話でござーい。お楽しみに!