恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART   作:カスケード

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第二十四話 べるキャン!

リーンボックス滞在6日目。

昼下がりに、白斗は自室に籠っていた。

 

 

「―――っぐ、よし……これでメンテ終わりっと……」

 

 

数々の工具とパソコンを借り受け、白斗は久々の人工心臓のメンテナンスをしていた。

人命に関わる上、体内に埋め込まれている以上定期的なメンテナンスが必要となるこの心臓を疎ましく思いながらも、白斗はあらゆる作業を済ませる。

今回、その相方として選ばれたのはあの魔女っ娘帽子を被った少女ことMAGES.である。

 

 

「こちらも完了だ。 特に異常無し……だが、まさかこんな心臓に巡り合うとは。 狂気の魔術師と呼ばれた私でも、これは想定外だ」

 

「悪いなMAGES.、得体のしれないモン見せちまって」

 

「そう思ってるのはお前だけだ。 マーベラスも5pb.も泣いて心配してたぞ」

 

「マジか」

 

 

マーベラスや5pb.から聞いた話だと怪しげな発明をしてはよく異世界へ飛んでしまうらしい。

とりあえず機械工学に明るい身近な人間が彼女ということで少し戸惑いながらも声を掛けてみたのだが、MAGES.は快く二つ返事で承諾してくれた。

知り合ったのも二日前だというのに、もう気心知れた仲として打ち解けている。

 

 

「そういうワケだから後で連絡くらいは入れておけ」

 

「分かった。 ……ってもうこんな時間か、付き合わせちまって悪かった」

 

「いいさ。 こんな事情、知らないで過ごしてたら後から罪悪感が来るからな」

 

「……ありがとな、MAGES.。」

 

 

特に気にしていないと言わんばかりのMAGES.。

言動に癖はあるが、思いやりのある少女だった。そんな彼女に感謝の言葉を送っていると、扉がノックされた。

 

 

「は、白ちゃん。 それにMAGES.。 入ってもよろしいですか?」

 

「ベール姉さん? おう、終わったからもういいよー」

 

 

やや焦った声。ベールのものだ。

どうやら白斗が心配で仕方がなかったらしい。許可を出すと一気に扉が押し開けられ、その勢いのままベールは―――。

 

 

「白ちゃんっ!! 大丈夫でしたの!? どこか、悪いところとか!!?」

 

「ぼむっ!? だ、大丈夫だから!! ノープロブレムだから離れてぇ!!!」

 

 

躊躇いなく抱き着いてきた。それも涙目で。

豊満な胸が白斗を包み込む。どこまでも沈みゆく女性特有の柔らかさに溺れるところだったが、残った理性を振り絞り何とか彼女を離れさせる。

 

 

「……これは、5pb.とマーベラスに報告したら……最終戦争だな」

 

「戦争!?」

 

「……受けて立ちますわ、開戦しましょうか」

 

「開戦!?」

 

 

何やらのっぴきならない空気になりつつあるこの部屋。

ベールはいつものお淑やかな笑顔を浮かべながらも、周りに浮かべる覇気はまるで相手にならぬ雑魚を瞬時に気絶させてしまいかねないくらいの威圧感。

尤も、あくまで威圧対象が5pb.とマーベラスである以上、MEAGES.にはどこ吹く風ではあるが。

 

 

「まぁ、とりあえず心臓のメンテは終わった。 今のところ異常事態は無いが、そろそろ部品の交換も視野に入れて置いた方がいい」

 

「………メンドーなの来たか………」

 

 

白斗は頭を抱えた。

部品の交換、それは即ち機械的な意味では手術と同義。特に心臓と言う命に係わる部分の部品交換ともなれば、大規模な準備が必要になる。

当然その前後の期間、白斗は事実動けなくなってしまうのだ。当然それを嫌う彼としてはそんな状況は避けたい。

 

 

(……期を見て一人でテキトーにやっとくか。 手術なんて正直まっぴらごめんだし)

 

「隙を見て一人でやる、といのは無しだぞ白斗?」

 

「白ちゃん……? そんなことしたら、分かってますわよね……?」

 

(なんで二人にはバレてんねん!!?)

 

 

鋭いMAGES.とベールの視線に白斗は息が詰まってしまう。

女の勘は、物理法則すらも狂わせるというのか。

 

 

「……とにかく、メンテナンスの結果は大丈夫ということで良いのですよね?」

 

「ああ。 心配かけてゴメンな、姉さん」

 

「いえいえ、それでですね……白ちゃん。 今日は大事をとって安静にしていただくとして」

 

「安静も嫌なんだけどなぁ……」

 

 

折角の旅行六日目にして安静というのはまさしく時間の浪費だ。

貴重な時間を失いたくない白斗にとっては、最も避けたいことだった。とは言え姉からのきつい視線と言葉には逆らえず、ベッドに体を預ける。

 

 

「……そこで、なのですが。 明日の最終日……みんなでキャンプに行きませんか?」

 

「ん? キャンプ?」

 

 

突然の提案に白斗はキョトンと目を瞬かせた。

突拍子もないということもあるのだが、何よりゲーム廃人と言う究極のインドアな彼女がアウトドアを提案するなど全く考えてなかったのである。

 

 

「ええ。 思えば旅行に来ていただいたと言うのに、白ちゃんにはリーンボックスを観光させてあげられませんでした」

 

「まぁ、殆どゲームばっかり。 後は5pb.関連だったし」

 

「そこで、リーンボックス最大の特徴である大自然を味わってもらうべくキャンプというワケですの!」

 

 

そう言って背後から取り出したのはキャンプ場のパンフレット。

見れば雄大な緑の大地やら、マイナスイオン溢れる空気とか、綺麗に見える星空だとか、そんな売り文句で溢れている。

けれども、白斗にとってみればゆったりできる人生初のキャンプだ。

 

 

「明日一日キャンプ場で、次の日にそのまま俺はプラネテューヌへ帰還……って流れかな?」

 

「ええ。 どう、でしょうか?」

 

「うん。 俺もキャンプなんて初めてだし、姉さん自慢のキャンプ場、行ってみたいな」

 

「ヤッホー! ですわー!!」

 

 

白斗からも快い承諾が貰え、ベールは大はしゃぎ。

リーンボックスを収める女神様が、この少年の前では恋する乙女でしかない。それを察してしまったMAGES.も、思わず苦笑いだ。

 

 

「それから、今回5pb.ちゃんにMAGES.、マベちゃんもお呼びしたいのですけど」

 

「私達もか? 正直ありがたがいが……いいのか?」

 

「ええ、私のお友達、5pb.ちゃんを助けていただきましたもの。 感謝を伝えないほど私も女神が出来てないワケじゃありませんのよ」

 

 

聖母を思わせる優しい笑顔。

MAGES.からすれば恋敵を招き入れるなどどういう了見なのか訝しんでいたが、それも杞憂に終わった。

 

 

「分かった。 5pb.は分からんが、マーベラスなら確実に来るだろうな。 連絡はしておく」

 

「ところで姉さん、チカさんは大丈夫なのか?」

 

「抜かりはありませんわ。 真っ先に誘ったら二つ返事で承諾してくれましたもの!」

 

「チカさんェ……」

 

 

本来なら真っ先に止めに入りそうなチカも、既に掌握済みのようだ。

こういう手際の良さはさすがはベールと言ったところか。

 

 

「……ま、何にせよ明日だな。 楽しみだ」

 

 

人生初のキャンプ。

サバイバルなどで野外で過ごすことはあれど、こうして皆と楽しくアウトドアなど心躍るしかない。

白斗は笑顔のまま腰を下ろし、ベールが淹れてくれた紅茶を口にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。温かい陽光と大自然に包まれた、リーンボックスが誇るキャンプ場。その名もノドカーナ山。

そこで白斗は、テントを設営していた。

 

 

「ふぅ……こんなもんかな?」

 

 

金槌を手に、テントを支える杭を打ち込みロープを張る。

薄い幕で覆われながらも、しっかりとしたテントの完成だ。こういう重労働は男手である白斗の仕事。

働いた証である汗を拭い、どこまでも澄み切った青空を見上げた。

 

 

「白ちゃん、お疲れ様ですわ」

 

「こっちも準備できてるよ~」

 

「おーう。 そっちもご苦労さーん」

 

 

するとベールとマーベラスがそれぞれタオルとペットボトルを持ってきてくれた。

清潔なタオルで汗を拭い、飲料水で渇きを潤す。

反対側では切り分けられた野菜を笊に詰め込んだチカと5pb.もやってくる。

 

 

「お姉様~! 野菜切り終えました!」

 

「ぼ、ボクも完了……です……」

 

「チカさんに5pb.もご苦労さんです」

 

「アンタに報告したんじゃないのよ! アタクシはお姉様に……」

 

「ははは、そいつはすいません」

 

(白ちゃん……チカのあしらい方がレベルアップしてますわね)

 

 

相変わらず白斗に対して噛みついてくるチカ。

けれどもそんな彼女に嫌悪感を持つことなく、寧ろ白斗は大人の余裕で受け流している。

この分なら寧ろコミュニケーションは取れている方だと、ベールも安心した。

 

 

「それにしても5pb.、よく来られたな」

 

「うん。 丁度オフだったし、それに………白斗君と過ごしたかったから……」

 

「ん? それに以降が聞こえんが」

 

「な、何でもないよ! アハハハ………」

 

 

今回、一番来れる可能性が低いと懸念していたのは5pb.だ。

何せ彼女はリーンボックスが誇る人気アーティスト。活躍の幅が広がれば広がるほど当然、多くの仕事が舞い込むことになる。

だが偶然時間が空いたことと、白斗への想いが成せる業かスケジュールを調整してくれたらしい。

 

 

「むむ……白斗君! お肉、しっかり私が下拵えしたから楽しみにしててね!」

 

「お、おう。 期待してるぜマーベラス」

 

「うん!」

 

 

負けじとマーベラスが顔を近づけてきた。

彼女が近づけば近づくほど、可愛らしい顔と豊満な胸、そして女の子特有の甘い香りが近づいてくることになる。

照れながらも白斗は何とか目を逸らそうとするが、今度はベールが膨れっ面になってしまう。

 

 

「白ちゃん! 私だって下拵えしましたから!」

 

「姉さんもありがとね」

 

「いえいえ♪」

 

 

愛しい弟にして兄、そして想い人に褒められれば上機嫌になるのが乙女。

ベールはすっかり嬉しそうに顔を蕩けさせてしまっている。

 

 

「やれやれ、姦しいことだな」

 

「あ、MAGES.。 火の準備は?」

 

「もう出来ている。 空腹での大合唱が起きる前に、早いところ始めようではないか」

 

 

そしてMAGES.も当然このキャンプに参加していた。

彼女は火起こし担当だったらしく、後方では半切りにされたドラム缶に炭が敷き詰められ、その中に火種を放り込むことで火を起こす。

細い枝木を薪にして火力を調整していくと、食欲をそそる炭の香りが辺り一面に広がる。

 

 

「それじゃ始めますか! バーベキュー!」

 

「「「「いえーい!」」」」

 

 

そう、これからキャンプの定番料理の一つ、バーベキューである。

手にしたのはマーベラスらが下拵えした肉と5pb.達が切り分けた野菜、それらを刺した鉄串が何本も揃えられている。

肉を焼くのも白斗の仕事、コンロの上に敷かれた網の上に串を置くと肉の脂が滴り落ち、これまた食欲を刺激する音が響き渡る。

 

 

「ふぅ、熱ィ……まさにアウトドアって感じだな」

 

「白ちゃん、先程から汗だくでしょう? 交代しますわ」

 

「大丈夫だって。 こういうのは男の仕事よ」

 

 

白斗は慣れない手つきながらも、肉を焦がさないように串を返していく。

当然最も間近で熱波を浴びていることに加え、先程のテント設営もあって掻いている汗の量は半端ない。

体調を気遣うベールが交代を申し出るが、初めてのアウトドア体験から寧ろ白斗は楽しんでその役目を担っていた。

 

 

「っしゃ! この串焼けたぞー」

 

「ヤッホー! もらいっ!」

 

「ああっ! ずるいですわよマベちゃん!」

 

「それ以前にまず一番はお姉様でしょーがっ!!」

 

「ぼ、ボクだって……!」

 

 

そして始まる串の奪い合い。

真っ先に奪い取ったのはマーベラス。後を追うようにしてベールやチカ、5pb.も手を伸ばしてくる。

こんなどこにでもあるような光景が微笑ましくて、白斗はついつい嬉しくなってしまう。

 

 

「おいおい、ジャンジャン焼くんだから慌てなくて……ん? どうしたマーベラス、串を差し出してきて?」

 

 

その時、一本の串が香ばしい匂いと共に近づけられた。

先程マーベラスが取った串である。彼女はそれを期待の籠った目で白斗を見つめていたのだ。

 

 

「嫌いなモンばっかついてたのか? 好き嫌いはダメだぞ?」

 

「違う違う。 そーじゃなくて、白斗君が一番槍! ということでどーぞ!!」

 

「え? 俺が?」

 

 

素直に驚いた。

勿論白斗も後で食べるつもりではいたが、マーベラスが真っ先に串を手にした理由は一番の出来たてを白斗に食べさせてあげたかったかららしい。

 

 

「もう、私が最初にしてあげようと思いましたのに……でもマベちゃんの言う通りですわ」

 

「白斗君、キャンプ初めてなんだよね? だったら真っ先に味わってもらわないと!」

 

「ふふ、ここまで尽くされては断る理由は無いよな? 白斗」

 

(本当はお姉様に一番槍授けたかったんだけど……まぁ、今日くらいはいいか……)

 

 

マーベラスだけではない、ベールと5pb.、MAGES.も笑顔で肯定してくれる。

チカは本心で言えばベールに真っ先に食べてもらいたかったのだが、空気を読んで言葉を押さえてくれている。

 

 

「……ありがとう。 そんじゃ、遠慮なく! もぐもぐ…………美味い!!」

 

 

MAGES.の言う通り、皆の想いを無碍にすることは出来ない。

笑顔で白斗は串に食らいついた。

肉の油と味、しっかりとつけられた塩胡椒の味わい、そして野菜の甘味。初めて味わう、皆とのバーベキューの味に白斗も大絶賛した。

 

 

「ふふっ、良かった! だったら私も……」

 

「おおっとこの串はアタクシが頂くわ! そしてお姉様どうぞ!」

 

「あ、あはは……チカ、ありがとうございます……」

 

「この分だとボク達の串取れないかも……」

 

「安心しろ。 私がちゃっかり確保しているからな」

 

 

そして即座に始まる串の奪い合い。

騒がしくなるものの、やはりキャンプとはこうでなくてはと白斗も笑顔ながらに見守り、どんどん串を焼いていく。

肉だけではない、川で釣れた魚も合わせてバリエーション豊かに。ベールが淹れてくれた紅茶やジュースも付けて色取り取りに。

 

 

「んー! 美味しー! はぁ、皆も誘えたら良かったんだけどね……」

 

「仕方あるまい。 あいつらは今回の一件に関わってないし、クエストで別行動だしな」

 

「ん? 友達がまだいたのか?」

 

 

ふと、そんなことを話しているマーベラスとMAGES.。

誰か誘いたかったらしい、気になった白斗が訊ねてみる。

 

 

「うん。 私達、実は他にも仲間がいてね。 今は別行動中だったんだ」

 

「あらら、そりゃ残念だな」

 

「そう悲観せずともまたこういった機会はあるだろう。 その時には白斗にも紹介してやる」

 

「ああ、楽しみにしてるぜ」

 

 

気のいい彼女達の仲間ともなれば、気になってくるというのが当然。

まだ見ぬ二人の仲間がどんな人たちなのか、色々想像しているとMAGES.が顔を近づけてきて。

 

 

「……コナ掛けるなよ?」

 

「んぁ?」

 

 

そんな一言を残すが、訳が分からないと言わんばかりに白斗は首を傾げるばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そーれっ!!」

 

「ひゃっ!? ま、マベちゃん冷たいよ~」

 

 

それから昼食が終わっての昼下がり。各々のリラックスタイムだ。

川ではマーベラスと5pb.が水遊びをしており、非常に微笑ましい光景。

木陰では日々の激務から離れたチカが本を片手に寛いでいる。木々の間に結びつけられたハンモックでは、MAGES.がお昼寝していた。

 

 

「……ホント、こうしていると平和って感じがするな」

 

「ええ。 偶にはこういうのもいいでしょう?」

 

 

白斗も別の木陰でそれらを眺めていたところ、心地よい香りが漂う。

目を向けてみると、ベールが紅茶を淹れてくれていた。

 

 

「どうぞ。 今回はアッサムですわ」

 

「ありがとう。 ……ふぅ、優雅に紅茶を飲むと贅沢な一時って思っちゃうな」

 

「いいじゃありませんの。 心の潤いは必要ですわよ」

 

 

ベールはその優雅な見た目は所作に違わず、紅茶が趣味で淹れるのも非常に上手い。

味や温度調節、銘柄選びまでもが完璧だ。

貴族のようなイメージを持つ彼女にはピッタリの趣味で、白斗もリーンボックスに来てからは少し興味を持ち、造詣が深くなっていった。

 

 

「白ちゃんは何かしませんの? 折角キャンプに来たのですから……」

 

「……なら、周囲をちょっくら探検でもしてくるかな~」

 

「でしたら、私もお供しますわ。 白ちゃんと探検♪ 白ちゃんと探検♪」

 

「ははは、こりゃ頼もしい。 よろしくな、姉さん」

 

 

確かにキャンプならではの経験もしないまま時間を浪費するのは勿体ない。

周りには大自然が広がり、尚且つキャンプ場ということで幾分整備され、安全性も保障されている。

ならば気の赴くままに探検も悪くないと白斗とベールは腰を浮かした。

 

 

「チカ、白ちゃんとちょっと探検に行ってきます。 晩御飯までには戻りますので」

 

「え!? お姉様………はぁ~………」

 

 

さすがに黙っていくのは気が引けるので、チカに一言掛けることに。

慌てて止めに行こうとしたチカだが、急に何かに思い当たり、そして大きくため息を一つ。

 

 

「……黒原白斗」

 

「は、はい?」

 

「……お姉様に怪我、させるんじゃないわよ」

 

 

その一言“だけ”残すや否や、そっぽを向いて鼻息を鳴らすチカ。

後は特に何も言うことは無く、視線をこちらにぶつけることなく、また読書に専念し始めた。

そう、ベールの事を任されたのだ。あのベール至上主義な彼女が、白斗にその役目を自ら譲ったという事実に、白斗は思わず嬉しくなる。

 

 

「……任せてください!」

 

「ふん! 行くんならさっさと行ったら?」

 

 

まるで虫を払うかのようにシッシッと手を払うチカ。

けれども、顔はこちらに向けない。怪訝そうな顔をしているのか、それとも―――。

これ以上の詮索は野暮だと、白斗は改めてベールと向き合う。

 

 

「それじゃ行こうか姉さん」

 

「ええ。 コースはお任せしますわ♪」

 

 

どうやら行く先は白斗が決めていいらしい。

当然土地勘など無い白斗だが、最悪の場合はベールに女神化してここに飛行してもらえればいいだけの事。

特に何の心配も不安も抱かずに、二人で木々を掻き分けながら森の奥へと進んでいく。

 

 

「んーっ! 何だか気持ちいいなー」

 

「ですわね。 マイナスイオンでお肌もしっとり、ですわ」

 

「それ目当てで女性客とか呼び込めばいいんじゃない?」

 

「実際効果もありますのよ。 ほら、山ガールとか言いまして……」

 

 

他愛もない会話を繰り広げていく二人。

ちょっとした雑談からためになる豆知識まで様々だ。静かな森の中、二人の話声ですら響き渡るかのような、そんな空間。

二人きり、それを意識した途端、白斗は少し恥ずかしくなってしまう。

 

 

「……思えば、こうして二人で話すのって初めてかな」

 

「……ええ。 いつも周りには人がいて、ゲームがありましたもの」

 

 

思えばこの二人が会話する時は、殆どゲーム、時々仕事と言ったように何かを抜きにしての会話をしたことが無い。

故に面と向かってする、姉弟の会話というものは妙に新鮮な気分になる。

やがて、出口を示すかのような差し込む光。少し眩さを覚えながらも森を抜けると、そこには見晴らしの良い丘があった。

 

 

「………凄ぇ………」

 

「こんな所があったなんて驚きですわ……」

 

 

ベールですら知らなかった場所らしい。

柔らかな草が絨毯のように生え、そこに爽やかな風が吹き抜ける。風に吹かれた草は気持ちよさそうに靡き、草同士が触れ合うことで心地よい音を奏でた。

 

 

「……ここいらで横になるか」

 

「いいですわね。 よっと……」

 

 

二人して芝生の上に寝転がる。

シートを敷いていなくても、草の柔らかさが二人を包み込み、エアコンなど無くても温かな日差しと爽やかな風で気持ちよくなれた。

そして周りには誰もいない。都会の喧騒も、すっかり遥か彼方。

 

 

「…………姉さん」

 

「何ですの?」

 

「なんて言うか……幸せだなぁ」

 

「……ええ、幸せですわね……」

 

 

ただ寝転がっているだけなのに、それだけで幸せになれた。

元居た世界では絶対に味わえない景色と感覚、そして気持ち。白斗とベールはこの大自然の中に溶け込んでいた。

心地よさが体をほぐし、日頃の疲れをじわりじわりと奥底から押し上げてくる。

 

 

「ふぁぁ~……ヤベ、眠い……」

 

「ふふっ、寝ててもいいんですのよ?」

 

「それはダメでしょ。 姉さん守らなきゃ……」

 

「お堅いこと考えないで。 私だって敵が来たら気配くらい察知できますもの。 それに、白ちゃんは頑張りすぎですからこういう時くらい休んでくださいまし」

 

 

姉として振る舞うベールは、存分に甘えさせてくれる。

白斗自身はしっかり者で、女神の事となると身を削ってまで尽くす男だ。だからこそ、ここぞと言う時に本心を押しとどめてしまいがちである。

ベールは、そんな彼の本心を引き出してくれる存在だった。

 

 

「……ありがと。 それじゃ、遠……慮……な…………ぐぅ……」

 

「……あらあら、もう寝てしまったんですのね。 あの定期船の時を思い出しますわ」

 

 

日頃の疲れが押し寄せてきたのか、一気に眠りについてしまった白斗。

そんな彼の頬を、ベールは優しく撫でた。

彼と姉弟としての関係を結ぶことになったあの日での定期船でも、こうして彼はベールの言葉を受けてようやく休息することが出来た。

自分の事を省みず、でも他人のことになると人一倍必死になる。そんな彼だからこそ気になって、彼だからこそ弟にしたくて、そんな彼だからこそ―――恋してしまった。

 

 

「こうしていると可愛らしいのに……いざという時はカッコよくなるから困りますわね。 これも惚れた弱み……というものでしょうか」

 

 

何気ない一時、何気ない触れ合いのはずなのに、どれもが幸せに感じ、逆にどれ一つ欠けても幸せでなくなってしまう。

戦う姿も、ゲームに勝てなくて必死になっている姿も、そして笑顔。

それほどまでにこの少年―――黒原白斗が愛おしい。

もっと白斗と一緒にいたい、もっと白斗と一緒に居たい、もっと白斗と過ごしていたい。そんな想いばかりが溢れてくる

 

 

「そうだ! 良いことを思いつきましたわ♪」

 

 

その時、ある名案が舞い降りる。

思い立ったが吉日、それを体現するかのようにベールはさっそく実行に移していく―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「………んん………?」

 

 

それからどれくらいの時がたったのだろうか、ようやく白斗が目を覚ました。何か温かく、それでいて柔らかい感触を後頭部に感じながら目を開くと、何やら緑色の球体らしきものが二つ、ぼんやりと浮かんでくる。

何が何なのか分からないでいると、白斗の真上から声が聞こえてきた。

 

 

「あら白ちゃん、お目覚めになりましたか?」

 

「……ねえさん……?」

 

 

ベールの声だった。

だが妙なのは、隣や真後ろなどではなく真上から彼女の声がすることだ。こちらの顔を覗き込んでいるのであればベールの顔が真っ先に飛び込んでくるはず。

だが白斗の目の前にあるのは、二つの双丘がぽよんぽよんと震えている光景―――。

 

 

「………んん!? ちょ、待って!? これって―――」

 

「ええ。 所謂膝枕、ですわ♪」

 

 

そう、目の前にあるのはベールの胸。緑色に見えたのは、彼女が来ている服の色が緑色だったからである。

先程の柔らかい感触とは、まさにベールの太腿。それを理解した途端、白斗の体温が急激に上昇する。

 

 

「ぬぅぉぉぉぉおおおあああああああああああッ!!? ね、姉さん何をっ!!?」

 

「うふふ、役得ですわ♪」

 

「い、いいから離れて……むぎゅっ!?」

 

「だーめ、ですわ。 それに、お嫌いでは無いでしょう?」

 

 

とんでもない状況であることを把握した白斗は咄嗟に離れようとするが、自身を包み込むベールの両腕、そして彼女の豊満な胸ががっしりと押さえつけて立ち上がらせない。

その上、この感触が極上であるのなんの。悲しき男の性も相まって、そのまま落ち着いてしまう。

 

 

「ふふ、やっと姉らしいことが出来ましたわ♪」

 

「……十分すぎるよ、もう……」

 

 

赤らめた顔を見られたくないと、白斗は僅かにそっぽを向く。

ベールにしたらなんて事のないスキンシップなのだが、白斗からすればベール程の美人による膝枕など天にも昇る心地だからだ。

 

 

「風も芝生も気持ちよくて、白ちゃんの髪の撫で心地も最高ですわ~」

 

「……姉さんったら。 こんなことされると……甘えたくなっちゃうじゃんか……」

 

 

白斗は尚も戸惑っていた。

無論、女性に免疫が無いことが大きな原因だが、その中の一つとして今まで小さな幸せすらも味わってこれなかった凄惨な過去にある。

彼から詳細は語られないものの、それでも常人には耐え難い人生であったことは彼の胸に埋め込まれた心臓が告げていた。

だから、ベールは尚更優しい手つきで白斗の頭を撫で続ける。

 

 

「……白ちゃん、寝たい時に寝ればいい。 遊びたい時に遊べばいい。 甘えたい時には甘えればいい……それが貴方のこれからの人生、ですのよ」

 

 

ベールは既に、彼の過去など割り切っている。

否定しているわけではない。寧ろ肯定した上で、これから待ち受ける新しい人生へと導いていた。

大好きな人だから、いつまでも過去に囚われて欲しくないと優しく諭してくれる。

 

 

「これから先、幾らだってお付き合いしますわ。 勿論ネプテューヌ達も一緒に」

 

「……ありがとう」

 

「この程度でお礼を言っては、どんどんハードルが上がりますわよ?」

 

 

溢れる包容力で、白斗を包み込んでくれるベール。

体中に刻まれた忌まわしき過去も、記憶も、傷も。全て和らいでいくようだ。

そしてそんな思いはこれからも続いていく。白斗は尚更、心が躍るのを感じた。

 

 

「あーっ!! ベール様何を!?」

 

「ズルいですっ! ……ぼ、ボクだって……」

 

「ん? マーベラスに5pb.か」

 

 

すると後方から二人ほど悲鳴にも近い声が。

振り返るとマーベラスと5pb.が頬を押さえながらすさまじい顔で叫んでいた。ムンクの叫びにも近いそれだ。

 

 

「ふふふ、これも姉の特権ですわよ」

 

「わ、私だってお姉ちゃんキャラになれるもん!」

 

「ぼ、ボクも一応MAGES.より年上だからお姉さんと言えばお姉さんだよ!」

 

 

どうやら水遊びの最中に二人の不在に気づき、探しに来たらこの光景に出くわしたようだ。

だが白斗に好意を抱く者として見過ごせる状況ではなく、すぐさま自分達も肖ろうと口々に立候補する。

 

 

「何をそんなムキになって………お?」

 

 

何とか宥めようとさすがに立ち上がり、二人を説得しようとした白斗。

その時、少し先にある花が一輪だけ割いているのが見えた。

岩の陰に隠れて、ひっそりと咲いているその花に何故か惹かれ、白斗は歩いていく。

 

 

「白斗君? どうしたの……って花?」

 

「綺麗……なんていう花なんだろう?」

 

「私は見たことありませんわねこの花……毒性はないようですが」

 

 

5pb.達も反応するほどの綺麗な花だった。

花弁は綺麗な紫色で、風で揺れる度に輝きの雫を放っているように錯覚してしまう。可愛らしくて、でも綺麗で―――白斗はその花にある少女を重ねた。

どうしても、この花から目が離せない。この花こそが、あの少女に相応しいと思わずにはいられない。

 

 

「……姉さん。 この花、持って帰ってもいいかな?」

 

「構いませんけど……白ちゃん、花が好きでしたの?」

 

「いや、今までは別段興味は無かったけど……お土産にしようかなって」

 

 

どうやらこのキャンプ場で花を摘んでも問題ないらしい。

ベールですら知らない花だが、白斗はこの花を気に入った―――というよりもこの花に何かを見出したらしい。

 

 

「あ、じゃぁ私鉢植えの代わりになりそうなもの持ってくる!」

 

「ボクは掘り起こすの手伝うよ。 土はそのままのを使った方がいいし」

 

「ありがとな」

 

 

マーベラスと5pb.も笑顔で手伝ってくれる。

その後、皆の協力もあってこの名も知らない紫色の花は無事土ごと鉢植え代わりのボウルに移されることになった。

紫色の花は、尚もふわりと風で揺れている。自由気ままに、それでいて変わらない美しさで。

 

 

 

 

 

 

 

―――この花が齎す奇跡。それを知るのは、もう少ししてからのお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳で! キャンプと言えばカレーですわ!」

 

「どういう訳ですか姉さん」

 

 

日は沈み夕刻、夕食のため再びキャンプ場に戻ったところでベールからのそんな一言。

白斗のツッコミも空しく、カレー作りが始まった。

尤も好物であったため、特に文句など無かったのだがツッコミを入れずにはいられない悲しき白斗の性である。

 

 

「では私は白ちゃんと一緒に野菜の方を……」

 

「あ! ずるいベール様! 私も白斗君と切りたい!」

 

「ぼ、ボクも………」

 

 

どうやら調理に託けてスキンシップを採りたいようだ。

ベールだけでなく、マーベラスや5pb.までもが立候補してくる。見るに見かねたのか、それとも面白おかしくしようとしたのか、MAGES.がやれやれと溜め息を付きながら一言添えてくる。

 

 

「ふふ、人気者だな白斗は。 ご指名してやったらどうだ?」

 

「何故こうなるのか分からんがどれ選んでも角が立つだろコレ!?」

 

「角も腹も死亡フラグも立つぞ」

 

「あら不思議死ねる!!」

 

 

明らかに誰一人として譲らない状況。

誰を選んでも誰かの不興を買う。一方のベール達は期待の籠った眼差しで白斗を見つめていた。

そろそろ作らないと夕食が遅くなってしまう。悩みに悩んだ末に。

 

 

「………チカさんとベール姉さんに野菜切りを一任します!」

 

「しまった……! 一人だけとは言ってませんでしたわ!?」

 

「ふふん! 偶にはいいことを言うじゃない! というわけでお姉様~~~♪」

 

「ちょ、チカ! お、お待ちになって~………」

 

 

ベールの叫びも空しく、チカに引きずられてしまった。

しかし何も二人きりの作業は野菜切りだけとは限らない。そこに着目した5pb.が勢いよく手を上げる。

 

 

「だ、だったらお肉の方を……」

 

「それをマーベラスとお願いな」

 

「「ぶーぶー!」」

 

 

そして角が立ちそうな二人を共同作業へと持ち込ませた。

ブーイングが上がるものの、血を流す結果になるよりかはマシだと白斗は大いに自信をもって言える。

MAGES.も特に反対することなく、うんうんと頷いていた。

 

 

「ある意味一番賢い選択肢だな」

 

「だろう? グレーゾーン見つけるの超大好き」

 

「中々いい趣味をしているな。 折角だ、米を炊きながら深淵の語らいとでも洒落込もうか」

 

「面白い、受けて立とう」

 

 

思えば親しくなったにも関わらず、MAGES.とはゆっくりと話をしたことが無かった。

二人は水洗い場で米を研ぎつつ、飯盒に入れて暖炉にくべる。

火加減を調整しながら、少し拗らせつつも案外楽しく談笑することが出来た。

 

 

「……MAGES.ってば……ちゃっかり白斗君の隣ゲットしちゃって……」

 

「こうなりゃカレーの美味しさでアピールするんだから!」

 

 

そして、暖炉の炎以上に嫉妬の炎を吹き上がらせる5pb.とマーベラス。

肉を炒め終えるや否や、小麦粉とカレー粉、牛乳を用いてお手製のカレールーを作り出す。

後は食材やルーを鍋に放り込み、コトコトと煮込めば食欲をそそる香りが辺りに漂う。

 

 

「うんうん! 良い香りと良い色合い!」

 

「ああ。 ちょっと雑な感じが寧ろいいんだよな~」

 

 

お玉で中を掻き混ぜながらマーベラスと白斗が中を覗き込む。

クツクツと、音までもが食欲を刺激して空腹にとどめを刺そうとする。これはたまらないと早速炊き立てのご飯を器に盛り付け、その上にカレーを掛ける。

気が付けば日は沈み、澄んだ空気の中で煌く星空が彼らを包み込んでいた。

 

 

「それじゃ、いただきまーす!」

 

「「「「「いただきまーす!」」」」」

 

 

白斗の音頭で、全員が一斉にカレーを一口。

少しピリ辛で、形自体は不揃いな野菜や肉、けれどもそれらの味がしっかり溶け込んだカレーは、とても美味しかった。

 

 

「おお……これが星空の下で食べるカレー……! 最高!」

 

「まぁ、今回だけはアタクシも同意見ね。 偶にはこんなのも悪くない」

 

 

舌鼓を打つ白斗とチカ。特にチカは普段、白斗に合わせる気は表面上皆無だというのに、ふとした時には気が合う。

そんな光景が微笑ましく、ベールは笑顔で見守っていた。

 

 

「5pb.ちゃんはどうですか?」

 

「ボクも楽しいし、嬉しいし、幸せです! ……また、これたらいいな……」

 

「来たらいいじゃない! 今度は私の仲間も誘っておくから!」

 

「ああ。 あいつらなら二つ返事で参加するだろうしな」

 

 

他の皆、特に5pb.も大満足している。

滅多にない体験だけに、きっとこの日の出来事や苦労、そしてバーベキューやカレーの味も忘れないだろう。

あっという間にカレーは底を尽き、後片付けを終えて後はもう寝るだけ。

 

 

「さて、名残惜しいけど……そろそろ寝ますかねっと」

 

「あれ? 白斗君、どこで寝るの?」

 

「外。 寝袋あるし、野宿経験あるから余裕よ余裕」

 

 

建てられているテントは大型のもの一つだけ。

当然このパーティーの殆ど、というよりも白斗を除いて全員女性だ。そんな女の園に男が潜り込むわけにはいかない、かと言って白斗一人のためだけにテントを立てるのも落ち着かない話。

そこで白斗は一人外で寝ようと言うのだが。

 

 

「ダメですわそんなの! 私が許可を出しますからおいでませ!」

 

「何言ってんのアンタは!? 男が乱入できるワケねーでしょーが!?」

 

 

ベールがとんでもないことを宣ってきた。

モラル以前に白斗は想像してしまう。女の園の中に男一匹放り込まれる光景を。正直想像しただけでも体中の水分が吹き飛んでしまう程、顔が熱くなった。

 

 

「大体そんなのチカさんが許すとでも……」

 

「……仕方ないわね」

 

「そう、こんな風に仕方ないって何ですとおおおおおおおおおおおッ!!?」

 

 

なんと、ベールの事となれば人が変わるあのチカが事実上の許可を出してしまったのだ。

一番許可を出さないであろうお人が出したという状況に白斗はムンクの叫び状態。

 

 

「正直な所反対したくはあるけど……まぁ、アンタが単なるケダモノじゃないってのは嫌でも理解されてるし、それにアタクシの目に届くところに置いておいた方がまだ安心できるし」

 

「納得の回答ありがとう。 出来ればその弁舌でベール姉さんも説得して欲しいなぁ!?」

 

 

妙に納得のいく理由だから白斗も説き伏せることが出来ない。

忘れがちだが、ベールさえ絡まなければ箱崎チカは教祖と言うだけあって辣腕を振るっている実力者。

ぽっと出の新参者である白斗が、口で勝てる道理などないのだ。

 

 

「め、MAGES.だって嫌だよな!?」

 

 

ならばともう一人の女性、MAGES.に話しかける。

今日で更に仲良くなった彼女ではあるが、男女としての距離感が掴めていない。そこを突けば、猛反対が飛んでくるものだと期待していたのだが。

 

 

「ふっ、さすがにお触りは厳禁だが一緒にいるだけならばいいだろう。 5pb.やマーベラスもそれをお望みのようだし、な?」

 

「ふぇっ!? で、でも……白斗君と一緒に寝られるなら……」

 

「わ、私も……いいよ……」

 

「ナンテコッタイ……」

 

 

特に気にしていないどころか、面白そうな顔つきをしている。

マーベラスと5pbに至って.は顔を赤らめながらも寧ろご所望だった。

5対1、勝ち目など無かった。

 

 

「さ、もう白ちゃんの寝袋も敷いてありますしこちらへどうぞ♪」

 

「いつの間に!? ちょ、引き込まないで……ムワアアアアアアアアアア!!?」

 

 

ベールだけではない、マーベラスや5pb.の腕までもが絡みついてくる。

しかも皆、細くてきれいな腕だというのに異常に力が強いのだ。白斗はそんな手に成す術なくテントの中に引きずり込まれる。

まさにデーモンハンド。

 

 

「ふふ、ようこそ乙女の園へ。 気分はどうですか?」

 

「……心臓、爆発しそうです……」

 

「わ!? 白斗君の左胸が異常に光ってる!?」

 

 

緊張しないワケが無い。ごく普通の心臓を持っている人なら、きっとバクバクと鼓動が鳴り、血流が早くなっていることだろう。

だが白斗の心臓は機械。故に彼の感情が昂ると、オーバーロードを起こしかけてしまうのであった。当然、暗闇でも光って仕方がない。

 

 

「まぁ、こういう訳だから眩しいし鬱陶しいでしょ? だから外で……」

 

「そんなこと気にしませんのに」

 

「そうそう。 逆に白斗君が気にし過ぎ」

 

「それに寝袋に入っちゃえば、そんなに気にならないから」

 

 

特に取り繕っているわけでもなく、何の問題も無いと言ってくれるベール達。

実際メンテまで手伝ってくれたMAGES.も、事情を知っているチカも特に何も言ってこない。

こうなっては、もう下手に騒がずにさっさと寝てしまった方が穏便に済むだろう。

 

 

「そ、そうか……ならさっさと寝……ん?」

 

「ひゃんっ!? は、白斗君ってば………」

 

「うぉわぁ!? ご、ごめんマーベラス!」

 

 

すぐさま寝袋に入り込み、チャックを締める白斗。

後は目を閉じて眠るだけ、のはずが右隣りからやたら柔らかくて、弾力のある感触が。

 

 

「うるさいわよ!! グダグダ騒がずにさっさと寝なさい!!」

 

「す、すいませんチカさ………ンンっ!?」

 

 

一々大きいリアクションを取ってしまうが故に声も大きい。

今までは見逃してくれていたチカもさすがにこれには我慢ならなかったらしく、文句が飛んでくる。

ご尤もなお叱りだったので白斗は必死に謝りつつ、マーベラスから顔を背けると左側には。

 

 

「は、白斗君……その、見つめられると……ボク、照れちゃうな………」

 

「ふぁ、5pb.……」

 

 

5pb.がいた。

歌姫というだけあって、その顔は美しい。少し照れながらも、嬉しそうにしている表情が可愛らしく、白斗の機械の心臓が余計に稼働してしまう。

こうなればさっさと目を閉じてしまう他無いと必死に目を瞑るが。

 

 

「白ちゃんってば、私にも構ってくださいまし!」

 

「ムガガガッ!?」

 

「ちょ、ベール様!?」

 

「幾ら何でもそれはズルいーっ!!」

 

 

ぽよん、と白斗の顔に柔らかい何かが。マーベラスのそれにも比肩する大きさと弾力、ベールの胸だった。

当然、マーベラスや5pb.からは挙って文句が飛んでくるが今の白斗にそれを処理しきれるだけの余裕などなく。

 

 

「ちょ!? 何この状況!!? たゆんたゆんのパイパイがパイでパイポパイポのしゅーりんがん、しゅーりんがんの………ゴフッ」

 

 

意味不明な言動の挙句、気絶してしまった。

 

 

「は、白ちゃん!? どうして鼻血を出して……!?」

 

「お姉様、当然です。 ……全く、本来なら八つ裂きにしてやりたいけどようやく静かになったし、もう寝ましょう」

 

「……リーンボックスの教祖よ、血の涙を流しながら言ってもホラーなだけだぞ……」

 

 

当然、チカにとってこの状況は耐え難いものだった。

けれども大声を出さずに血の涙で留めていただけ彼女も成長しているのだろう、きっと。

 

 

「それじゃ、白ちゃんは気絶してしまったようですし……ここまで女の子が揃っていたらやることは一つですわね! ガールズトーク!!」

 

 

するとベールは掌をパンと合わせ、満面の笑顔でそんな提案をしてきた。

当然、他の女子達は茫然となっている。

まさに今、色恋にときめいているのが一名。色恋を自覚しつつあるのが一名。腹の底を探らせないのが一名。どうでも良さそうなのが一名。

 

 

「お姉様……楽しそうですね」

 

「実は女の子同士で恋バナとかしてみたかったんですわ~!!」

 

 

蕩けるような顔と声のベール。

彼女も乙女、白斗への恋慕を自覚した今だからこそ、そういう話をしたいのだろう。

 

 

「それじゃ……まずはマベちゃん、お願いしますわ!」

 

「ふぇっ!? わ、私ですか!?」

 

「ほぉ……興味深いな。 その豊かな胸の中に、どれだけの淡い桃色の想いを隠しているのか……気になるな」

 

「め、MAGES.まで!? ちょ、待って~~~~!!?」

 

 

乙女達の恋バナは際限なくヒートアップしていく。

ただ一人、チカだけはその対象がいなかったのだが他人の話を聞くのであればついつい参加してしまう。

姦しき女達の一時は夜をも忘れ、盛り上がっていった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてとうとう、日は昇り―――。

 

 

「ふぁぁ~……ね、ねみゅい~………」

 

「ぅー……ぁー……」

 

「うむむ……少しはしゃぎ過ぎたか……。 ぐぅ……」

 

「アタクシとしたことが……つい盛り上がっちゃったわ……」

 

 

キャンプを終えて、リーンボックスの教会へと戻ってきた白斗たち一行。

けれどもそこでは死屍累々だった。

何せ、昨夜は空が白むまでガールズトークに花を咲かせていたのだから。当然待ち受ける結果は寝不足。

楽しくはあったか、後悔していたというのが彼女達の本音である。

 

 

「マーベラスに5pb.……それにMAGES.にチカさんまでどうしちまったんだ……」

 

「あはは、少し夜更かししてしまいまして」

 

「俺が気絶している間にそんなことを……ってか姉さんは平気なのね」

 

「徹夜はゲーマーの必須スキルですから!」

 

「ドヤ顔するところじゃないからね」

 

 

白斗は呆れたように溜め息を一つ。

ガールズトークは結構だが、それで体調管理が出来ていないのは本末転倒である。

かく言うベールのは、体調管理云々以前の問題ではあるが。

 

 

「……くぅ……すぅ……」

 

「ん? 5pb.……寝ちゃったのか?」

 

「マベちゃんやチカ……MAGES.もですわね」

 

「無理もないな。 とりあえず毛布でも掛けてあげるか」

 

 

とうとう眠気が限界に来たのか、ソファの上で転寝を始めてしまう四人。

このままでは風邪をひいてしまうと、白斗とベールは毛布を掛けてあげた。

白斗は昨夜見られなかったのだが、こうして女の子の寝顔が見られることに思わず固唾を飲んでしまう。

 

 

「あらぁ? 白ちゃんは寝ている女の子に対して何をなさるおつもりですの?」

 

「なっ!? 何にもしねーって!」

 

「うふふ、分かっておりますわ。 白ちゃんですもの」

 

 

相変わらずからかわれて玩具にされている白斗。

こういう時のベールには何があっても勝てない、やはり彼女は姉なのだなと白斗は内心諦めムードになる。

 

 

「やれやれ、最後まで姉さんには勝てず仕舞いだったな」

 

「……最後……そう、今日で白ちゃんがプラネテューヌに……うぅ~~~!!」

 

「ガチ泣きしおった!?」

 

 

そう、この後白斗は帰ってしまう。彼の故郷となっているプラネテューヌに。

今までの日々が楽しかっただけに、ベールの内に込み上げる寂しさは凄まじいものとなっている。

寂しさは悲しみへと変わり、涙となって溢れ出た。

 

 

「白ちゃん! いっその事リーンボックスで暮らしませんか!? 女神権限で……」

 

「アンタまでノワールみたいなことを言いだす……申し出はありがたいけど、俺の帰る場所はプラネテューヌだから」

 

「そんな~……」

 

 

ガクリと肩を落とすベール。

聊かオーバーリアクションのようにも思えるが、その瞳の揺れ方からして本気で落ち込んで、本気で悲しんでいると分かる。

それだけ白斗の事を、本気で好きになってしまったら。

 

 

「……姉さん。 俺、楽しかったよ。 この三週間……色んな事をさせて貰えたし、色んな場所に行けたし、色んな人と出会えた。 勿論、このリーンボックスも……好きになった」

 

「は、白ちゃん……」

 

 

そんな彼女の哀しみを汲んでか、白斗は敢えて笑顔でそう言ってきた。

彼の優しい顔に、ベールの涙は止まってしまう。

 

 

「だから、俺に取っちゃこのゲイムギョウ界そのものが帰る場所……このリーンボックスも、俺のもう一つの故郷なんだ。 だから……また帰ってくるよ。 絶対に」

 

 

白斗は、優しい笑顔のままそう断言した。

例え冗談のつもりであっても、それが約束であれば彼は必ず果たしてくれる。それを知っていたからベールは。

 

 

「……! ええ! 勿論、いつでもウェルカムですわ!!」

 

 

笑顔で、答えた。

これは永遠の別れなどではない。また会えるのだ。だからこそベールは、すっかり悲しみが吹き飛んでしまっていた。

 

 

(……本当に白ちゃんはズルいお人ですわ。 私の何でもかんでもを、幸せに変えてしまうんですから……)

 

 

思わず頬を赤く染めて、ベールが少し俯く。

悲しいからではない、こんな照れた顔を白斗に見られたくないからだ。

 

 

「ありがとう。 ……楽しみにしてるぜ、“ベール”」

 

「……はい、兄様♪」

 

 

そして二人だけのもう一つの関係性である兄妹。

ベールにとって白斗とは甘やかすことが出来る存在、甘えることが出来る存在、そして自分の気持ちを受け止めて守ってくれる―――愛しい存在。

彼の全てに、恋してしまったのだと改めて認識する。

 

 

「……そうだ、白ちゃん。 プラネテューヌにはまた私が送って差し上げますわ」

 

「もう妹モードは終わりか。 有難いけど、いいの?」

 

「ええ、その方が少しでも長く滞在できるでしょう? 昼食をとる時間くらいは出来ますから、最後に皆でお食事にしましょう」

 

「……ああ、そうだな。 ならお言葉に甘えて」

 

「ええ、ですからゆっくりと荷造りしてきてください」

 

「オッケー。 ……ありがとな、姉さん」

 

 

次、昼食を食べ終えれば白斗は彼女に連れられてリーンボックスを去る。

仕事もクエストも、そして過去の辛い思い出も全て忘れて楽しむことが出来た日々。白斗とて辛いわけではない。

でも、またこういった日々がやってくる。それを思うと、嬉しくもあった。白斗は自室に戻り、荷造りをしながらふとそう思う。

そう、このゲイムギョウ界で彼にとっての居場所が多くできた。どこの国へ行っても、温かくて幸せな日々が過ごせる。

 

 

 

 

 

(………ネプテューヌにも………早く会いたいな………)

 

 

 

 

 

同時に思い浮かぶは、いつも自分を支え、そして元気づけてくれたあの笑顔。

プラネテューヌに戻れば、あの笑顔の下にドタバタとした落ち着きのない、けれども楽しい日々が待っている。

真っ先に彼女に会って、どんな土産話をしようか。ふと、荷物に目が行く。始めは少なかった白斗の荷物も、各国のお土産でギッシリと詰まっていた。

その中でも、特に思い出に残っているものが二つ。ルウィーで買った、「女神と守護騎士」という本、リーンボックスへ見つけたネプテューヌへのお土産となる“あるもの”。

 

 

 

 

(……また、遊びに来るよ。 絶対に)

 

 

 

 

 

もうすぐ無人となるこの部屋を見渡しながら、白斗はもう一度誓うのだった。

時刻は12時近く。最後の記念となる昼食が出来たとベールが呼びに来るまで、後少し―――。

 




サブタイの元ネタ「ゆるキャン!」より

リーンボックス編ラストを飾るキャンプのお話でした。
ベールさんの事だから最後までゲームで終わらせると思ったか!?いや、最初は私もそうしようかなと思ったんですが、リーンボックスならではの展開が欲しいということでアウトドアの描写も入れてみました。
余談ですがカレーってちょっと雑に作るのが意外に美味しかったりするんですよね。皆さんも経験ありません?
次回からはついにメインヒロインであるネプテューヌ回!
そして明日はいよいよ勇者ネプテューヌの発売日!! 括目せよ!!
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