恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART   作:カスケード

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ネプテューヌ「貴様らに誰がメインヒロインか教えてやろう……」

やって参りました!圧倒的主人公ネプテューヌのターン!!



第二十五話 ねぷプラス

「―――帰ってきたぞプラネテューヌ!!」

 

 

夕日に染まりつつある未来国家、プラネテューヌ。

その街のシンボルでもある、この国で最も高い建造物であるプラネタワーの前で白斗は背伸びしながら、そう叫んだ。

彼にとっての家がこのプラネタワー。三週間ぶりに見上げるそれに、白斗は改めて凄さを感じていた。

 

 

(こんな立派なタワーで、しかも国政の中心で、おまけに女神様と一緒に暮らしてたのか……何だか俺、凄いことしてるよな)

 

 

どれ一つだけでも非現実的であろう。

特に女神様と一緒に暮らすなど、国民に知れたらどうなるか……そんな嫉妬が怖くもあり、けれども少し楽しくもあった。

楽しかった旅行の日々が終わってしまった寂しさはある。けれども、今はそれ以上にこのタワーに住む皆に―――ネプテューヌに会いたい。

その一心で白斗はプラネタワーの自動ドアを潜り、一歩中へと足を踏み入れると。

 

 

「お兄ちゃ~~~~~ん!!!」

 

「ぐぉおおおっ!? ね、ネプギア!!?」

 

 

誰かが抱き着いてきた。

薄い紫色の髪を持つ可愛らしい少女、ネプテューヌの妹にして、白斗を兄と仰ぐ女神候補生、ネプギアである。

ネプギアは愛おしそうに白斗の胸に顔を埋めては頬を擦り寄せていた。

 

 

「あー……二週間ぶりのお兄ちゃんだぁ……落ち着くよぉ~」

 

「二週間ぶりって……ちょっと前に連絡入れたでしょ」

 

「あんなのじゃ全然足りないもん! それにこうしてお兄ちゃんが傍に居てくれて、本当に嬉しいんだぁ……」

 

 

これほどの美少女に抱きつかれているのは、男冥利に尽きる。

けれども、周りの男性職員たちからの目は正直な所痛かった。

 

 

「あ、アハハ……そんなこと言ってるとネプテューヌが嫉妬しちまうぞ?」

 

「……お、お姉ちゃん……」

 

 

それに、彼女を妹として愛しているのは姉であるネプテューヌも同じだ。

寧ろ妹として扱った結果、ネプテューヌから嫉妬の電話を貰ったくらいなのだから。

にも拘らず、ネプギアは微妙そうな顔色を浮かべた。

 

 

「ん? どうしたんだ?」

 

「そ、その……お姉ちゃんなんだけど……見てもらった方が早いよね」

 

「???」

 

 

全く解せないでいる白斗。

どうやらネプテューヌに何かあったらしい。けれどもネプギアが別段慌てていないことから、生死に関わるようなことではないらしい。

兎にも角にも彼女に連れられ、住居スペースへと向かう。

 

 

「よっと……ただいま」

 

 

扉を開けて第一声。「ただいま」。

この三週間、ここを離れてようやく言えたその一言に白斗は妙に感慨深い気持ちになる。

そんな彼の声に反応して、どたどたと駆けつける足音。

 

 

「白斗さん、お帰りなさいですぅ!」

 

「お帰りなさい白斗。 その様子だとリフレッシュ出来たみたいね」

 

「アイエフ、コンパ! お陰様でな」

 

 

まず出迎えてくれたのはいつもの仲良し二人組、アイエフとコンパだ。

先日リーンボックスで一緒に遊んでからそこまで時間は経っていないのだが、こうしてプラネテューヌで顔を合わせると、帰ってきたという感じになる。

そしてこの国の教祖、イストワールも駆けつけてくれた。

 

 

「白斗さん、お帰りなさい。 楽しんできましたか?」

 

「イストワールさん、ただいま戻りました。 しっかりと楽しんできましたよ」

 

「それは良かったです。 もう、ルウィーで大怪我をしたと聞いた時は心配したんですよ? ネプテューヌさん達の慌てぶりと来たらもう……」

 

「あ、あはは……もう治ったし言いっこ無しですよー」

 

 

帰ってきて早々、温かい言葉と共に心配のお小言。

イストワールらしい挨拶だと白斗は苦笑いながらもしっかりと受け止める。

 

 

「……と、そういやネプテューヌは?」

 

 

ここでネプテューヌの名前が出てきたことで、ようやく気付く。

今ここにネプテューヌが来ていないことに。

いつもであれば、いの一番に駆けつけ、あの笑顔で自分を出迎えてくれるはずなのにと訝しんでいると。

 

 

「あ、ああ……ネプテューヌさんですか……」

 

「今朝からだけど……まさかネプ子がああなるなんてね……」

 

「はい……今のねぷねぷは、私でも治せないですぅ……」

 

「え? な、何か病気なのか!?」

 

 

皆が一斉に微妙そうな顔になった。

ネプギアがそこまで慌てていなかったから生死に関わるようなものではないとは思っていたが、まだ病気の可能性が残されていた。

思わず必死な声を上げて詰め寄るも、イストワールは首を横に振る。

 

 

「い、いえ。 病気ではありません。 ……いや、ある意味病気と言うべきでしょうか」

 

「え? どういう事?」

 

 

益々要領を得ない。

どう表現すればいいのか分からない、というのがイストワールの見解のようだ。

 

 

「まぁ、正直私はネプ子の気持ち分かっちゃうけど……」

 

「同じくです……」

 

「? 何か嫌なことでもあったのか?」

 

 

気持ち、という単語がアイエフから出てきた。

となれば何か気落ちするようなことでもあったのだろうか。

 

 

「とにかく、お姉ちゃんの部屋を覗いてみてください。 出来るだけ音を立てないように」

 

「お? おお………」

 

 

ネプギアにそう促され、指示に従う。

静かに扉を開けば、そこにはアンニュイな表情になりながら机に座っているネプテューヌがいた。

白斗の大好きなあの笑顔ではない。頬杖を突きながら、ぼんやりとしているように見えた。

 

 

(元気ないな、やっぱり何か……ん? 何か呟いてる?)

 

 

元気がないことに尚更心配を隠せない白斗だが、更に観察すると何やらネプテューヌの唇が動いている。

あの柔らかそうな唇が上下に跳ねている。何かの単語を繰り返しているようだ。じっと聞き耳を立てていると―――。

 

 

 

 

 

 

 

「ねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷねぷ」

 

(ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?)

 

 

 

 

 

 

ちょっとしたホラーが展開されていた。

あのネプテューヌが、口癖である「ねぷ」をうわ言のように連呼しているのである。

ヤンデレのような瞳と表情ではないが、笑顔が代名詞の彼女からこんなセリフが飛んでくるのでは末期も末期。

白斗は心の中で絶叫しながら急いで部屋を飛び出た。

 

 

「誰や!? 誰なんやアレ!!?」

 

「白斗さん、ショックの余り変な言葉になっちゃってるですぅ……」

 

「信じがたい気持ちは分かるけど、お姉ちゃんです……」

 

 

凄まじい恐怖に身を震わせながら白斗が叫ぶ。

あの明るいネプテューヌからは想像も出来ないような恐ろしさに、コンパやネプギアも引き気味である。

イストワールも苦笑いしながら、事の顛末を説明してくれた。

 

 

「今朝からずっとあんな様子で……でも仕事だけは終わらせてくれました」

 

「仕事までやったって言うのか!? ゲイムギョウ界はどうなっちまうんだ!?」

 

「何でも、明日だけは一日中遊びたいと申し出たんです。 条件としてかなりの量の仕事を片付けるようにお願いしたんですが見事にやりきってしまって……」

 

「明日一日……? ………あ」

 

 

どうやらネプテューヌのあの様子は、明日一日に楽しみにしている何かがあるかららしい。

一体何を楽しみにしているのか、白斗が考えていると思い当たることが一つ。

 

 

 

―――……お土産、よろしくね―――

 

―――おう。 それに、帰ってきたらその分たっぷり遊ぼうな―――

 

―――……!! うん!!―――

 

 

 

それは、ラステイションに旅立つ直前の事、ネプテューヌと交わした約束。

三週間も離れてしまう分、帰ってきたら遊ぼうと約束していたのだ。

白斗自身忘れていたわけではないが、彼女があそこまで一心不乱になってしまうとはさすがに予想していなかった。

 

 

「……そういう事か………大丈夫。 すぐに元に戻ります」

 

「白斗さん?」

 

「俺に任せてください。 ……さて」

 

 

どうするべきか、白斗にはもう分かっている。

だから彼は勢い良く扉を開け、ネプテューヌに向かって大声で言う。

 

 

「……ネプテューヌ、ただいま!」

 

「っ!? は、白斗……白斗ぉ――――!!!」

 

 

ドアの開閉音だけではネプテューヌは反応しない。

けれども、白斗の声が聞こえた瞬間、我に返ったように勢いよく振り返る。彼女の視線の先に、白斗の笑顔が映った時。

ネプテューヌは喜びを爆発させて、勢いよく抱き着いた。

 

 

「うぐおっほぉ!? ちょ、くっつきすぎだっての!!」

 

「だってだってだってー!! 寂しかったんだもーん!!!」

 

「毎晩連絡してたでしょーが」

 

「あんなのじゃ全然足りないも―――ん!!!」

 

 

余程白斗に会いたかったらしい、彼の胸に顔を埋めては頬を擦り寄せる。

この反応は、先程のネプギアと同じだ。さすがは姉妹、血は争えないと言ったところか。

 

 

「ゴメンゴメン。 ……で、聞いたぞ。 明日のために仕事を頑張ったってな」

 

「うん! えへへ、偉いでしょー!?」

 

「ああ、正直お見逸れしたよ」

 

 

腰に両手を当てて、つるぺたな胸を突き出しながら渾身のドヤ顔。

でも彼女がやると大変可愛らしく映ってしまう。

普段なら図に乗らないようにと一言添えてしまう場面だが、結局はネプテューヌに甘くなってしまう白斗。彼女を思う存分褒めてしまう。

 

 

「……それで、さ。 あの……明日、なんだけど……」

 

「おっと、そいつは俺から言わせてくれ」

 

「ねぷ?」

 

 

顔を赤らめ、もじもじとしながら、何とか言葉を絞り出そうとするネプテューヌ。

相当緊張しているのだろう。

けれども、一方的に女の子にだけ言わせてしまうのは余りにも男として情けない。ここは敢えて、白斗から誘うことにした。

 

 

 

 

「……明日一日、俺と一緒に遊ぼうぜ。 ネプテューヌ」

 

「………!! うんっ!!!」

 

 

 

 

正真正銘、白斗から遊びのお誘い。

ネプテューヌは目を輝かせ、満面の笑顔で頷いていくれた。

やはりネプテューヌはこうでなくては、と白斗も安心する。

 

 

「それと、お土産もちゃんと持ってきてあるんだが……折角だ。 明日渡すよ」

 

「おっ? 期待しちゃっていいのかな~?」

 

「まぁ、気に入ってもらえたら嬉しい……かな」

 

「気に入るって! 白斗がくれるものなら何でも!!」

 

「ナス(ボソッ)」

 

「ナス滅ぶべし慈悲はない」

 

「何でもじゃないやん。 拒否してるやん」

 

 

などと、まるで子供じみたやり取りをする二人。

けれどもこの他愛もない時間が楽しくて、白斗とネプテューヌは互いに小芝居と分かっていながらも互いに乗ってしまう。

楽しくて、愛おしくて、ネプテューヌはいつもの笑顔を取り戻していた。

 

 

 

「………やっぱり笑顔のネプテューヌの方が好きだな」

 

「え………?」

 

 

ふと、白斗がそんな一言を言った。

一体それはどういう意味なのか、ネプテューヌが問い質そうとしたその時。

 

 

「お姉ちゃん! 元に戻ったんだね! 良かったぁ……」

 

 

ネプギアが飛び込んできた。

どうやら姉の様子が心配で、様子を窺ってきたらしい。突然の妹エンカウントに驚いてしまい、ネプテューヌは驚く。

 

 

「ネプギア? 私、別に変ったことなんてないよ?」

 

「……自覚症状無しだったとは」

 

 

どうやら先程の狂態は記憶にないらしい。

さすがに苦笑いを隠せない白斗とネプギアだが、何にせよこれでいつもの明るい笑顔がトレードマークのネプテューヌが戻ってきた。

ようやくこのプラネタワーに楽しさと明るさが舞い戻る。

 

 

「さ、二人とも晩御飯だよ! 今日はアイエフさんとコンパさんがご馳走作ってくれたって!」

 

「おっ! そりゃ楽しみだな、行こうぜ」

 

「うん! さー、いっぱい食べるぞー!!」

 

 

もう夕方も夕方、白斗は旅行疲れで、ネプテューヌは仕事疲れですっかり腹ペコである。

食卓へ赴けば、アイエフとコンパが満面の笑顔であらゆる料理を所狭しと並べてくれていた。

やっといつもの風景が戻ってきたと白斗も安心した気持ちになり席に着く。

そして美味しい料理に舌鼓を打ちながら、白斗の土産話で夕食は大いに盛り上がったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――某国某所。

あらゆる機械、あらゆるパイプ、あらゆるプログラムが複雑に絡み合い、組み合わさった鉄の研究所。

そこで一人の科学者が、世にも悍ましい顔つきでキーボードを高速で叩いている。

彼の目の前には、怪しげな色合いの液体で満たされたカプセルがあった。

 

 

「ぐ、ふふふ……いいぞ。 細胞の構成式が望んだ形へとシフトチェンジしておる……!! このゲイムギョウ界には驚かされたが、こうなってはこの世界のテクノロジーも、そして魔力の原理も我が手中よ……!!」

 

 

男は、狂気的な頭脳を持ってこの世界全ての知識をほぼ完璧に把握し、そして理解していた。

見たことのない機械でも、少し弄れば瞬く間により高性能な装置へとグレードアップさせ、見たことも無い魔術を見せればそれをデータにして記録してしまう。

その様子を、背後からこの魔女―――マジェコンヌは黙って眺めていた。

 

 

「……折角この次元に赴いてやったと言うのに、どこへ行っても口うるさいのがいることには変わりない、か」

 

「オバハン、ホントにあのイカレ科学者と手を組むつもりっちゅか?」

 

 

彼女の足元には一匹の、両足で立つネズミが一匹。

どうやら彼は、あの科学者を信用しきっていないらしい。あの狂気を見せつければ無理もないが。

 

 

「……正直、私とて好ましくない。 だが、女神を排除できるとなれば何だって利用してやる……これは私と奴の利害の一致なのだ」

 

 

マジェコンヌですらいい顔をしていない。

この科学者とマジェコンヌは仲間に非ず、互いに利用し合えるだけの関係だ。

だからこそ、互いにいざ見切りをつける時を虎視眈々と窺っている。

 

 

「うーん、オバハンに連れられてあの組織を抜け出したのは失敗だったっちゅかね……」

 

「ネズミ、勝者と言うのは最後まで立っていたもののことを言う。 最後まで見ておけ」

 

「だからオイラにはワレチューという立派な名前があると何度も……」

 

 

ネズミことワレチューなる存在がボヤくと、とあるカプセルに異変が起こった。

その中で何かの肉が、気持ち悪い音を立てながら粘土のように変化していく。やがてそれは、赤黒い色合いの巨大な蜘蛛へと変化する。

背中には、全てを拒絶するかのような輝きを放つクリスタルが埋め込まれていた。

 

 

「……完成だ。 ついに私は……生命を生み出すことにも成功したのだぁ!! アンチクリスタルを埋め込んだモンスター……名付けて「アンチモンスター」!! ヒ、ヒャハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

 

 

モンスターと言えど、この男は人工で一つの命を生み出したのだ。

人の身でありながら、まさに神に対する挑戦をも軽々とこなすこの男にマジェコンヌは恐怖にも近い感情を抱く。

けれどもなるだけ平静を装い、呆れたように溜め息を一つ吐く。

 

 

「……本当にイカレた男だよ、貴様は」

 

「褒め言葉と受け取っておこう!! さて、まずは試運転だ……どこかの国で適当に暴れさせ、実戦データを収集してもらいたい」

 

「……ならあの下っ端に行かせよう。 場所は……適当でいいか」

 

「なら伝えてくるっちゅよ」

 

 

要件さえ済めば、あの男と同じ空気など吸いたくない。

マジェコンヌとワレチューは颯爽と背を向け、研究室から出ていった。彼女達が出ていけば、もう興味の対象は別に映る。

そこには一際大きなカプセルがあり、その中では一人の少女が浮かんでいた。

 

 

「………もうすぐだよ………助けてあげるからな。 “香澄”―――」

 

 

香澄と呼ばれた女性は、何も答えない。答えることが出来ない。

ただ、悲しそうに目を伏せていた―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そして日は昇り、プラネテューヌは本日も晴天。

綺麗な石畳と芝生に木々、噴水が設置された公園で白斗は一人待っていた。

黒コートこそ変わらないが、髪型もバッチリと決め、左手首に巻かれている腕時計で時間を今か今かと心待ちにしている。

 

 

「……やれやれ、ネプテューヌまで待ち合わせがしたいと言い出すとは」

 

 

昨日の夕飯の席でのこと。

ネプテューヌらの質問により、どんなことをして過ごしていたのかを赤裸々にする羽目になった。

一応ネプテューヌには毎晩連絡を入れていたのだが、実際に目の前で話をするのとでは段違いである。そして話し終えるや否や。

 

 

『もーっ!! 何なのその羨ましいシチュエーションの数々!? こーなったら私は全部それをやってやるんだからねーっ!!!』

 

 

―――と、謎の対抗心を燃やしてしまわれた。

そのため今日の外出は如何に彼女を満足させられるか、そして互いにどれだけ楽しめるかに掛かっている。

 

 

「白斗ーっ! お待たせー!!」

 

「お、来たか。 こういう時だけは待ち合わせに遅れない……ん、だな……」

 

 

そこに聞こえてきた、あの声。

振り返るとそこには、いつものパーカーワンピではない、紫を基調としたミニスカートかつ動きやすさとオシャレを両立させたような、新しい服を着こんだネプテューヌが立っていた。

 

 

「えへへ、どう? 私のニューコスチューム、ジャージワンピ!! 可愛いでしょ?」

 

 

可愛らしくウィンクまでして、新しい服をアピールしてくる。

少し大きめだったパーカーワンピとは違い、こちらはしっかりとボディのラインを意識している服だった。

柔らかさを押さえ、代わりに可愛らしさを押し出した衣装に白斗は思わず見とれてしまった。

 

 

「……可愛い……って、俺ってば何言ってんのぉっ!!?」

 

「か、可愛い頂きました! ヒャッホー!!」

 

 

普段はどちらかと言えばシニカルよりな言動をすることが多い白斗だが、ネプテューヌ相手ではそれも形無しである。

思わず感想をドストレートに言ってしまい、恥ずかしさに悶える。

尤もネプテューヌは素直に褒められたこともあって、いきなりご機嫌だった。

 

 

「ふっふっふー、これで白斗も私が守りたくなるような、可愛らしい美少女だってちゃんと認識してくれたったことだよね!」

 

「自分で言うな自分で…………でもな」

 

「ねぷ?」

 

 

またもやドヤ顔。

彼女の代名詞の一つではあるが、こうもしてやられては白斗とて悔しい。そこで、ちょっとした仕返しを思いついた。

彼女の耳元に近づき、囁く。

 

 

「……俺にとってネプテューヌは、可愛くて守りたくなる女の子だよ」

 

「~~~~~っっっ!!? 」

 

 

可能な限り近づいての囁き。温かい声だけではない、息遣いすらも耳に掛かってしまう。

それが何とも言えない感覚となってネプテューヌの全身を駆け巡り、震え上がらせてしまった。

恐怖と言った嫌悪感などではない。寧ろ快感に近い感覚だった。

 

 

「ね、ねぷぅ……白斗ってば、私のボケに無理矢理合わせなくても………」

 

「………本気」

 

「ひ、ひゃああぁあぁあぁ~~~………!!?」

 

 

また耳元で囁きを一つ。

確かに仕返しのつもりではあったが、彼がネプテューヌに抱く感情は嘘偽りのないものだった。

だからこそ、ネプテューヌは嬉しさや恥ずかしさ、幸せと言ったあらゆる正の感情が混ざり合わせ、いきなりオーバーヒートを起こしかけてしまう。

 

 

「さ、そろそろ行こうか。 早くしないと時間が勿体ない」

 

「だ、誰の所為だと思ってるのー!! もー!!!」

 

「ゴメンゴメン。 ……そろそろ行こうか」

 

「うん! あ、手………」

 

 

からかったつもりが、逆にからかわれっぱなしだ。

白斗に主導権を握られているのが面白くないと感じていた矢先、ネプテューヌの手が温もりに包まれた。

主導権だけではない、手すらも白斗に握られていたからだ。

けれども、ネプテューヌが漏らした甘い声に反応した白斗が視線を落とすと。

 

 

「って、ご、ゴメン! い、嫌だったよな……」

 

「う、ううん! 寧ろウェルカムだよ!!」

 

「そ、そうか? なら………」

 

 

余りにも自然だったのか、白斗も意識しなかったらしい。

大慌てで離そうとするが、寧ろネプテューヌは強く握り返した。もう離さないと言わんばかりに。

顔を赤らめながらも、二人は手を繋いだまま歩き出す。

 

 

「さて、まずはクレープを食べに行こ! 白斗は甘いものは大丈夫?」

 

「バッチ来いだ」

 

「ほい来た!」

 

 

デートの定番、クレープを食べに行こうとするネプテューヌ。

その間も、手は繋がれたままだ。

 

 

「……そう言えば女神様と手を繋ぐなんてこれ、大丈夫なんだろうか」

 

「大丈夫大丈夫! 私、女神様って思われること少ないし!」

 

「おいおい……だとしても噂されたらどうすんの」

 

 

今まで意識してこなかったが、女神とは国の象徴であり、いわばアイドル的存在だ。

一国の大統領が結婚したり子供を作れば物議を醸すように、女神にも恋人や愛人がいればそれだけで致命的なスキャンダルになりかねない。

女神を守りたい白斗にとって、そんなことは避けたいと思っていたのだが。

 

 

「……白斗となら、いいもん」

 

「え………」

 

 

ふと、ネプテューヌが零した一言。とても小さく、けれども嘘偽りのない声。

今度は白斗が呆気にとられる番だった。

 

 

「な、何を冗談言って……」

 

「……本気、だよ」

 

「…………っっっ!!?」

 

 

仕返しの仕返しと言わんばかりに、今度はネプテューヌが耳元で囁きかけた。

白斗の全身に、謎の鳥肌が駆け巡る。

それは嫌ではない、寧ろ幸福に近い何かだった。

 

 

「あははっ! 白斗ってば可愛い~♪」

 

「か、からかうなってーの!! ……ん?」

 

 

ふと前を見ると、その先には一人の青年がいた。しかもこちらへ近づいてくる。

咄嗟に白斗は手を離し、何でも無かったかのように装う。

幸いにも青年には見えてなかったのか、特に気にすることなく近寄ってきた。白斗には見覚えのない青年だが、ネプテューヌにはあるらしい。

 

 

「ね、ネプテューヌ様!!」

 

「あ。 君、確かこの間街中で……」

 

「は、はい! あの時案内してもらった者ですっ!!」

 

 

相当緊張しているのか、声は上擦っており、片言にも近い。

聞いている白斗ですら、ハラハラしてしまうような危なっかしさがある。

どうやら青年は以前、ネプテューヌに世話になったことがあるらしい。よく他人のトラブルに首を突っ込むネプテューヌらしいな、と白斗は内心思っていたのだが。

 

 

「それで……その……あ、貴方に……一目惚れしましたっ!!! 好きですっ!!!」

 

「ねぷっ!?」

「んなぁっ!?」

 

 

青年の、とんでもないカミングアウトにネプテューヌは勿論、白斗ですら驚きの声を上げた。

特に白斗に至っては“何故か”嫌な冷や汗を滝のように流している。

 

 

「そ、その……いきなりで不躾ですが……つ、付き合ってもらえませんかっ!!?」

 

 

直角九十度、青年はピシリと頭を下げた。

驚きながらも白斗は青年を観察していたが、動きなどはドの付く素人。暗殺者の類ではない。

何より言動から誠実さが伝わってくる。本人の言う通り、ネプテューヌに一目惚れしてしまった男なのだろう。

ならば、彼女の判断に任せるしかないと白斗は見守ることしか出来なかったが。

 

 

「……ゴメンね。 そこまで想ってくれるのは嬉しいんだけど……付き合えないかな」

 

「アウッ!! ば、バッサリ……だ、ダメでしたか…………」

 

 

ネプテューヌは少し困ったかのように、けれどもハッキリと告げた。

変に取り繕うくらいなら、直球に伝えた方がいいという彼女なりの気遣いだ。見事に玉砕してしまった青年は、この世の終わりにも近い声を上げる。

さすがに白斗も、同情の視線を禁じ得なかった。

 

 

「ホントにゴメンね。 ……私の事、信仰してくれなくなっちゃうのは寂しいけど……私が付き合いたいって、思えないんだ」

 

「い、いえ……。 僕が一方的に好きになっただけですから……だから、貴方様への信仰を辞めるなんて、絶対にしません」

 

 

恐らく、青年にとってはまさに一世一代の告白だったのだろう。

それも振ってしまったことから嫌われることも覚悟していたネプテューヌだが、青年は寧ろ彼女を応援し続けると言ってくれた。

ネプテューヌの人の良さが成せる業だろう。

 

 

「……でも、そうか……。 最近ネプテューヌ様に好きな人がいるかもって聞いたから、居てもたってもいられなくなったけど……やっぱりなぁ……」

 

「ね、ねぷっ!? そんな噂流れてるの!?」

 

「都市伝説レベルですけどね。 ……でも、納得しました」

 

 

すると青年は、一瞬だけだが白斗を見た。

それが意味するものとは―――。

 

 

「……ありがとうございました。 ネプテューヌ様……これからも、頑張ってください」

 

「ううん、こっちこそありがとう。 ……女神として、君の事は守るからね」

 

「はい。 では……失礼します」

 

 

寂しさと同時に、どこか清々しさを纏いながら青年はその場を去った。

まるで完敗を認めざるを得なかったかの様な、そんな寂寥感。

後に残された白斗とネプテューヌは、彼の姿が見えなくなるまでその場で立ち尽くした。

 

 

「……結構あるのか? あんなのが?」

 

「しょっちゅうじゃないけど、たまにかな。 ……実際、付き合いたい人っていなかったけど」

 

 

付き合わなくていいのか、とは訊ねなかった。彼女自身が決めたことだから。

だからその代わりに、気になることを訊ねる。やはり可愛らしい美少女であるネプテューヌは人気が高いらしく、告白されるケースがあるらしい。

今回の対応も手慣れた部類から、同じような手合いだったのだろう。

 

 

「それに……今は白斗がいるから! さ、クレープ食べに行こ!」

 

「うお!? ち、ちょっと!?」

 

 

今度はネプテューヌの方から手を繋ぎ直し、再び歩き始めた。

少し後味の悪い一幕の後にも関わらず、白斗の隣で歩いているネプテューヌは非常にご機嫌だ。

 

 

「……お、あれが件のクレープ屋か?」

 

「そうだよ! プラネテューヌで一番人気!!」

 

 

歩き始めてから少しして、クレープ屋を見つけた。

車に店を搭載している、所謂移動する店。まだ昼前にも関わらず、既に女子達による長蛇の列が出来上がっていた。

 

 

「女の子の列で並ぶのはキツいでしょ? 私買ってくる!」

 

「悪いな。 お金出すよ」

 

「いいよ、これくらい……」

 

「俺が出したいんだ。 その代わり、メニューはネプテューヌにお任せな」

 

「……ありがとー! それじゃ行ってくる!」

 

 

そして女の子のためにお金を出すのも男の役目。

白斗は迷うことなく財布を預けた。さすがに気が引けるネプテューヌだったが、彼に説得されて笑顔で注文しに行く。

けれども長蛇の列だけあって順番が回ってくるのは少し時間が掛かりそうだった。

 

 

「あら、白斗さん。 ネプテューヌさんとデートでは?」

 

 

するとそこに降りかかる声。

振り返ると、そこにはいつもならプラネタワーにいるはずの教祖、イストワールが今日も本の上に乗りながらふわりふわりと浮いていた。

 

 

「い、イストワールさん!? で、デートって……ネプテューヌなら今並んでます」

 

「ふふっ、クレープはデートの定番ですものね」

 

「からかわないでくださいよ……」

 

 

まるで母親の様な慈しむ視線に、白斗は照れ臭くなってしまう。

彼自身、母親は物心つく前に他界してしまっているので顔すら見たことは無いのだが、彼女には母性を感じて以降、頭が上がらない。

 

 

「それにしても、イストワールさんがプラネタワーから出るなんて一体何事ですか?」

 

「失礼ですね。 まるで私が出不精みたいな言い方をして」

 

「え?」

 

「白斗さん。 明日の仕事の量を5倍にして差し上げましょうか?」

 

「すみませんでしたぁぁぁぁ!!! ご勘弁くださああああああああい!!!!!」

 

 

少し青筋を浮かべて、笑顔と共にそんな一言。

白斗は恐怖を覚え、公衆の面前であるにも関わらず土下座。無駄に洗練された、無駄のない、無駄な土下座だったという。

 

 

「全く……私だってお買い物くらいしますっ」

 

「本当にすみません……イストワールさんも女の子ですものね」

 

「っ!? も、もうっ!! ネプテューヌさんに聞かれたら怒られますよ!?」

 

 

何気ない一言に、今度はイストワールが大慌て。

女の子扱いされていることになれていないのだろうか、少し可愛らしかった。

 

 

「……そう言えば、少し聞きたいことがあるんですけど……」

 

「あら? なんでしょうか?」

 

「……女神様って、恋愛とかどうなってるんですかね?」

 

「珍しいですね。 白斗さんがそんな質問をしてくるなんて」

 

「実は………」

 

 

それは先程の青年の告白、そしてネプテューヌと手を繋いだことでふと湧いてしまった疑問だ。

別に隠すようなことでもなかったので、素直に経緯を話す。

なるほど、と少し唸った後、イストワールは顎に手をやりながらまるで言葉を選んでいるかのように話しかけた。

 

 

「……女神様がお付き合いしてはならないなどと言う法律は存在しません。 ですが、不文律として恋愛はご法度でした」

 

「やっぱり、アイドルにおける恋愛禁止令みたいなものですか?」

 

「ええ。 女神様に対しての憧れも、シェアに繋がりますから」

 

 

今度は白斗がなるほど、と唸ってしまう。

高嶺の花は、高嶺であるからこそ美しい。手に届く存在になってしまった途端、手の平を返す輩は残念ながらどこの世界にも存在する。

ネプテューヌ達女神は、そんなアイドルと同等の存在でもあったのだ。

 

 

「……白斗さん、話は変わりますがこの次元は何と呼ばれているか知っていますか?」

 

「え? ゲイムギョウ界……じゃなくて?」

 

「それは世界全体の名前。 実はこの世界とは別の、平行世界のゲイムギョウ界があるんです。 その中でも私達の居るこの次元にも、名前があるんです」

 

「サラッとパラレルワールドとか出てきちゃったよ………」

 

 

さりげなくトップシークレット的な事実が明かされている。

余りにも軽く流されるものだから、白斗も驚くだけの余裕がない。けれども、重要なのはこのゲイムギョウ界が何と呼ばれているかだ。

 

 

「この次元は……“恋次元”と呼ばれています」

 

「こい……じげん……?」

 

 

また突拍子もない名前だと、白斗は面食らってしまった。

驚く彼を他所に、イストワールは説明を続ける。

 

 

「女神様は遥か昔ら数多く存在しており、当然その中には恋に目覚めた方もいらっしゃいました。 女神が特定の方とお付き合いすることは多くの危険を孕んでいましたが、割とそれを無視して付き合う方がいたことからこの名前が付いたと言われています」

 

「……色々言いたいことはあるが大丈夫なのかこの次元」

 

 

とりあえず、出てきた感想はそれだった。

どうやら結構女神様達は誰もが割とアバウトな精神を持っていたらしい。

 

 

「各々が辿る結末は様々でしたが……幸せになった方もいらっしゃいます。 ですから、本当に困難に立ち向かえるのであれば……私からは口出しなんて出来ません」

 

「イストワールさん……」

 

「それに私も……女神様達には、幸せになってもらいたいと思っていますから」

 

 

やはり聖母の様な微笑みで、そう言ってきた。

あくまで危険性を多く孕んでいると言うだけであって、覚悟があるなら付き合うこと自体は出来ると言う事らしい。

とりあえず一つの回答を得られたことで、白斗の胸のつっかえは取り払われる。

 

 

「ですから、白斗さんがもし女神様の誰かと付き合いたいというのであれば……色々覚悟してもらわなくてはなりませんけどね」

 

「なっ!? なななななな、何で俺が………!!?」

 

「うふふ。 さて、これ以上話しているとネプテューヌさんから嫉妬を買ってしまいそうなので失礼しますね」

 

 

けれども、去り際に残したイストワールの一言が白斗に突き刺さった。

女性経験皆無、色恋沙汰など無かった彼にとって女性と付き合う、増してやその相手が女神など今まで考えたことも無かったのだ。

そんな彼の反応が見られたことで、イストワールは微笑みながらまだ何かを告げようとする。

 

 

「最後に一つだけ。 ……今はただ、ネプテューヌさんとのデートを楽しんでください。 余計なことは考えずに」

 

「…………はい」

 

 

彼女が伝えたかったこと、それは今の時間を大切にして欲しいということだった。

正直な所、気になることだらけだったのだが、必要以上に意識して折角の楽しい時間を壊すのも確かに勿体ない話。

白斗が真剣に頷くと、イストワールも満足したような表情でその場を去っていった。

 

 

「白斗、お待たせ―! ってあれ? いーすんと何話してたの?」

 

「いや、外に出るの珍しいですねって言ったら怒られた」

 

「あはは! いや、気になっちゃうのは仕方ないよね。 だって出不精のいーすんだもん」

 

「……お前、絶対にそれ本人の前で言うなよ」

 

 

ようやくネプテューヌが戻ってきた。

その手には二つのクレープが握られている。黄金色の生地の中に、それぞれ特徴あるトッピングが包まれており、今にもかぶりつきたくなるような匂いも漂っていた。

 

 

「はい! 白斗にはチョコバナナクレープ!」

 

「お、いいチョイスだな。 ネプテューヌのは何にしたんだ?」

 

「私は当然プリンクレープ!」

 

「予想通りだった………」

 

 

白斗に手渡されたのはたっぷりのバナナにチョコレートソースや様々なチョコを絡めて包んだクレープ。

対するネプテューヌのものは、プリンや生クリーム、フルーツなどを包みこんだ一品。

それぞれかなりの量があり、立ちながら食べるのも行儀が悪いのでベンチで二人仲良く腰を掛けてクレープにかぶりつく。

 

 

「もぐもぐ………ん~~~っ!! やっぱりここのプリンクレープはサイコーだよ~!!」

 

「はぐはぐ……確かに、こりゃ美味ぇな!」

 

 

クレープの味はまさに絶品だった。

生地は香ばしく、それでいてクリームにもしっかり吸い付き味わいを広げてくる。

それぞれの具材も、クレープならではの味付けに調整されており、量自体はあったものの二人して一気に食べ進めるほど美味しかった。

 

 

「もぐもぐ~……」

 

(それにしても幸せそうに食べるな……ん?)

 

 

ふと、白斗がネプテューヌの方を見る。特に理由はない、なんとなくだ。

今の彼女は目の前の甘味に蕩けきっており、大変可愛らしい顔をしている。そんな彼女を微笑ましく思っていると、いつも頭に付けている十字キーの形をした髪飾りに目が行く。

そこに、ゴミが付着していたからだ。

 

 

「ネプテューヌ、髪飾りにゴミついてるぞ」

 

「え? ウソ!?」

 

「動くなって。 俺が取ってやるから」

 

 

余程大切なものらしい、ネプテューヌが少し慌てだす。

女の子だから身嗜みにも気を遣うのだろうと思い、白斗がその髪飾りに手を伸ばす。カリカリと爪でそのゴミを取ろうと髪飾りに触れた途端。

 

 

「うわわー!?」

 

「のわっ!? な、何で抱き着くよ!!?」

 

 

ネプテューヌが突然、白斗の胸元へ飛び込んできたのだ。

昨日と言い、結構ネプテューヌは彼の胸元へ飛び込んでくることがある。それ自体は可愛らしい行為なのだが、さすがに羞恥心くらいは覚える白斗。

けれども今回の彼女は、少し様子が違った。

 

 

「は、白斗が私の脳波コントローラーを弄るからでしょ!」

 

「え? 脳波コントローラー? この髪飾りが?」

 

「うん。 これはいざという時に私を外部から操作するためのものだからね」

 

「どんな“いざ”だよソレ」

 

 

どうやら、いつも頭に付けている十字キーはただの飾りではないらしい。

もう少し弄ってみたくなるが、これ以上はネプテューヌを怒らせてしまいそうなのでやめておくことにした。

だがそれ以上の問題が発生。先程のやり取りで、ネプテューヌのクレープから具材の一部がはみ出し、地面へと落ちてしまったのだ。

 

 

「あー! 今のでクレープ少し零しちゃった……」

 

「ご、ごめんネプテューヌ……」

 

「許さないよ! お詫びとして……白斗の一口もらいっ!! バクーッ!!」

 

 

すると、ネプテューヌが一気に接近し、バクリと白斗のクレープを頬張った。

忘れがちだが、素の彼女でも戦闘力は白斗より遥かに高いのだ。まさに目にも止まらぬ早業。

けれども、一気に白斗のクレープが減ってしまうのは見逃せない。

 

 

「おっま!? 食い過ぎだろ!? んじゃ、俺もちょっともーらいっ!」

 

「ねぷぅっ!? もー!! 白斗ってば、これじゃ食べさせあいっこしたのと変わらないじゃ……ねぷ?」

 

 

けれども白斗も負けじとネプテューヌのクレープを少し齧った。

文句を言おうとしたその時、ネプテューヌがあることに気づいた。「食べさせあいっこ」というキーワードで。

同時に白斗も、とある事実に行きつく。

 

 

(……あれ? これって……所謂、その……)

 

(………間接キス、という奴なのでは?)

 

 

白斗が口を付けていたものをネプテューヌが食べて、ネプテューヌが食べていたものを白斗が食べた。

そう、まさにこれは言い逃れしようのない「間接キス」であり―――。

 

 

((……………うわわわわわああぁあああぁぁああああああああああああ!!?))

 

 

それを自覚した途端、二人は恥ずかしさが爆発し、跳ねるようにして少し距離を取ってしまった。

真っ赤にした顔を見られないように、互いに顔を覆い隠し、背を向け、俯いている。

 

 

(ぬああぁああぁあ!! 何やってんだ俺の馬鹿野郎ォオオオオオ!!! うぅ……ネプテューヌに気味悪いって思われてねーかな……) 

 

 

恥ずかしさと、ある意味の怖さでネプテューヌの顔を見られない白斗。

だが、いつまでもこのままというわけにはいかない。

勇気を振り絞って、辛うじて振り返ると未だに顔を赤らめながらも、決して嫌ではないという顔をしているネプテューヌがそこにいた。

 

 

「は、白斗ってば何恥ずかしがってんの……。 どーせ、こんなシチュエーションも他の女の子にしてあげてたんでしょ?」

 

「してねぇよ!! こんなのお前が初めてだよ!!」

 

 

とんでもないことを仰っているネプテューヌ様。

このままでは彼女の中で白斗が女誑しだと確定されてしまう(もう弁明は無理の領域に居るが)。

それだけは何としても避けたいと、白斗もそんな事実を口にした。

 

 

「………え? 私が、初めて………?」

 

「……そうだよ。 だから、その……無神経で、ゴメン……」

 

「う、ううん! 気にしてないから! ……寧ろ、嬉しいかな……」

 

「? なら、いいんだが………」

 

 

恥ずかしがりながらも、どこか嬉しそうな表情を見せるネプテューヌ。

特に後半になるにつれ聞こえてこなかったので何故嬉しそうなのか解せないでいるが、そこまで怒っているわけでは無さそうなのでとりあえずは一安心。

先程よりも何故かテンションが上がった状態で、クレープの残りを食べてしまう。

 

 

「よっし! ごちそーさま!」

 

「ふぅ、俺も食った食った。 結構量あったな」

 

「でしょー? んじゃ、次は腹ごなしにゲーセンに行こう!」

 

「お、おい!? そんなに走らなくてもゲーセンは逃げないっての!!」

 

「ゲーセンは逃げなくても時間が逃げちゃうの! タイムイズ金なりだよっ!」

 

 

少しでも多く、長く、白斗と楽しんでいたい。

そんな衝動が彼女を突き動かし、凄まじいエネルギーとなって走らせていく―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅー、遊んだ遊んだー!」

 

「さっすがプラネテューヌ。 どれもこれもが楽しかったな」

 

 

その後二時間もゲームセンターに入り浸った二人。

レーシングゲームでデッドヒートを繰り広げ、UFOキャッチャーでネプテューヌが欲しがっていたマスコットを手に入れ、格闘ゲームやガンシューでランキング上位を独占、最後にはプリクラで思い出作りとやりたい放題だった。

 

 

「っと、そろそろ昼時だな。 どこで食べる?」

 

 

気が付けばもう十二時前。

ゲームセンターでハッスルしたことが功を奏し、大分腹も空いてきた。今なら最高に昼食が美味しき食べられるコンディションである。

けれども、訊ねられたネプテューヌは少し恥ずかしそうに顔を俯かせて。

 

 

「……それ、なんだけどね。 その……公園で、良いかな?」

 

「ん? 何か出店でも出てんのか?」

 

「そういうんじゃないんだけど……ダメ、かな……?」

 

「ダメなんて言う筈ないだろ。 今日一日はネプテューヌと過ごすって約束したんだ、どこまでもお前についていくさ」

 

「……!! ありがとう!! それじゃ、公園へレッツゴー!!」

 

 

頭にクエスチョンマークを浮かべる白斗。

どうやら、ネプテューヌは店に行きたいわけではないらしい。それでも何か考えがあるのだろうと彼女についていくことに。

待ち合わせ場所とは違う、広い芝生と植えられた木々の多さが特徴的な公園に到着した二人。

 

 

「それじゃ……あっちの木陰で……」

 

「おう」

 

 

一体彼女が何をしたいのか、皆目見当がつかないでいる白斗。

しかし、ネプテューヌは恥ずかしがりながらも、懸命に何かを成そうとしているのは見て取れる。

ここは特に何も言わず、彼女に案内されるがまま、指定された木陰で腰を下ろす。

芝生の冷たさと、木陰の涼しさがとても心地よい。

 

 

「ふぅ………いい場所だな、ここ」

 

「でしょー? 時々ここでお昼寝してるんだー!」

 

「……イストワールさんにはバレないようにな。 で、ここでお昼寝ってワケじゃないだろ?」

 

 

どうやらネプテューヌのお気に入りスポットらしい。

彼女だけの場所に案内されたことは素直に嬉しいが、昼食のためにここに来たはず。

するとネプテューヌは、とうとう覚悟を決めたかのように何かを取り出し、そして差し出す。

 

 

「は、白斗……! その……今日のお、お……お弁当ですっ!! 食べてくださいっ!!」

 

 

そう、差し出されたのは紫色の風呂敷に包まれた弁当箱だった。

弁当箱は二段になっており、大きさだけでも結構な量であることが見て取れる。

どこから取り出したのかと訊ねるのは野暮だった。それよりも重要なのは、明らかに市販のそれとは違うこの雰囲気。

 

 

「え……? も、もしかして……ネプテューヌが作ってくれたのか?」

 

「……うん。 だから、その………美味しくなかったら、ごめんね………?」

 

 

まさかの、ネプテューヌが手作りしてくれた弁当だった。

顔を赤らめながらも、緊張の余り瞼をギュッと閉じ、腕を振るわせているネプテューヌ。よく見ると、差し出されていた彼女の指には細かな傷が多くついていた。

どれだけの練習をしてくれたのだろうか、想像もつかない。それもこれも、今日この日の―――白斗のためだったと思うだけで、彼の胸が熱くなった。

 

 

「…………手作り弁当なんて、俺初めてで……こんなの、嬉しくて……食べたいに決まってる! ありがとな、ネプテューヌ!」

 

 

今まで女神達には美味しい料理を食べさせてもらった白斗だが、こんなに愛情のこもった手作り弁当を作ってもらったことは無かった。

だから、ネプテューヌの想いが存分に伝わってくる。だから、白斗は最高の笑顔と言葉で、感謝の気持ちを伝えた。

 

 

「……!! うんっ!! どーぞ、召し上がれ!!」

 

「おう。 それじゃまずは風呂敷を広げて……おお! バリエーション豊か!」

 

 

早速弁当箱を開けると、色取り取りの料理が白斗を出迎えてくれた。

お弁当の定番である唐揚げ、卵焼き、三角おにぎりは勿論のこと、タコさんウィンナーと言った一品料理に加え、野菜の数々にフルーツまで盛り付けられている。

まさに理想のお弁当と言うに相応しいラインナップに、白斗は目を輝かせていた。

 

 

「ヤベェ……! こんなの、本当に俺が食べてもいいのか!?」

 

「もっちろん! 白斗のために作ったんだから!」

 

「よっしゃ! んじゃ、最初は唐揚げから!」

 

 

肉好きな白斗は、まずはメインとなる唐揚げに手を伸ばした。

当然この唐揚げも冷凍食品などではなく、ネプテューヌが一から衣揚げしたものだ。

箸でそれを摘まみ上げ、早速一口。

 

 

「もぐ、もぐ、もぐ………」

 

「………ゴクリ………!」

 

 

ゆっくりと租借する。

衣の感触、広がる肉の味、口の中で溶ける脂。それら一つ一つを疎かにせず、ネプテューヌが作ってくれたそれを余すことなくしっかりと味わう。

どんな評価が下されるのか、ネプテューヌは期待と不安が織り交ざった目で、固唾を飲みながら見守った。

 

 

「………っ!! 美味しい……すげぇ美味しいよネプテューヌ!!」

 

「ほ、ホント!? やったぁー!!!」

 

「ああ! もうサイコーだぜ!!」

 

 

これまでにない、最高潮のテンションと笑顔で白斗がそう答えた。大絶賛の声だった。

その反応だけでも、大成功だとネプテューヌは喜びを爆発させる。

唐揚げは案外難しい料理なだけに、これを美味しく作れたということは他の料理にも期待をするなと言う方が無理である。

早速次の料理に手を伸ばそうと―――。

 

 

「あ! ま、待って!!」

 

「ん? どうした、何かマズイことが?」

 

「そ、そーじゃなくてね……」

 

 

するとネプテューヌが卵焼きを一つ、箸で摘まみ上げた。

彼女も食べたかったのだろうと、白斗は一人納得していたのだが、それは違った。

 

 

「は、はい………あーん♪」

 

「ぶふぉっ!?」

 

 

箸で摘まみ上げられた卵焼きが、白斗の目の前に差し出される。

そう、まさにこれは「あーん」の構図そのものであった。

一度ベールの所で味わっているとは言え、白斗は盛大にむせてしまう。

 

 

「ち、ちょっとネプテューヌさん!? こ、こ、ここここれ……!!」

 

「……言っておくけど、私がしてあげたいんだからね。 今までのお礼とか、それだけじゃなくて……あーもー!! 四の五の言わずに食べてよー!!!」

 

 

ネプテューヌも、さすがに恥ずかしがっていた。

だが小さなプライドをかなぐり捨ててまで実行している。全ては白斗のために。

彼女がここまでしてくれたのだ。白斗も小さなプライドに拘っている場合ではない。ごくりと生唾を飲み込み、そして口を開く。

 

 

「あ………あーん………」

 

「は、はいっ!!」

 

 

恐る恐る開けられた白斗の口に、意を決して卵焼きを放り込んだ。

卵焼きを口で受け取り、これまたゆっくりと租借する。

ふわふわとした触感、そして卵焼きに混ぜられた砂糖の甘味と卵の味。何よりもネプテューヌが食べさせてくれたという事実が織りなす三重奏に、白斗の口の中は別世界を迎えていた。

 

 

「ど、どう……かな………?」

 

「………これが、幸せの味って奴か………」

 

「し、幸せ!? そっか、幸せなんだ……やったやったー!!!」

 

 

白斗が美味しいと言ってくれる度に、嬉しい層にしてくれる度に、そして幸せを感じてくれる度にネプテューヌが一喜一憂する。

ここまで尽くしてもらえるとは思ってなかった白斗は、最早嬉し涙すら流すレベルだ。

今なら間違いなく言える。生きてて良かった、と。

 

 

「さて、それじゃ白斗も美味しく食べてくれたところで私も食べよっかなー」

 

「あ、ちょい待ち」

 

「ねぷ? 何かな白斗………ってねぷぅぅぅっ!!?」

 

 

十分弁当を堪能してもらえた。これでようやくネプテューヌも、心置きなく弁当を食べられる。

そう思って箸を伸ばしたのだが、今度は白斗に止められてしまった。すると、白斗は唐揚げを一つ箸で摘まみ、それをネプテューヌの目の前に差し出したのだ。

 

 

「はい、あーん」

 

「ちょぉぉぉっ!? なんで白斗が!!?」

 

「俺にだけしてもらうってのは不公平っしょ。 ほれ、あーん」

 

「う、う~………あ、あーん………」

 

(何、この可愛い子)

 

 

始めは遠慮していたものの、根負けしてしまい、それを受け入れるネプテューヌ。

目を閉じながら、静かに口を開けるその姿は可憐で、どこか艶やかでもあった。

妙な高揚感と背徳感を覚えながらも彼女の口の中に唐揚げを一つ放り込む。ネプテューヌもそれをしっかり味わって食べると。

 

 

「………白斗が言ってた幸せの味って意味、理解できるよ~………」

 

 

物凄く、幸せそうだった。

今にもヘヴンリーしそうな表情で蕩けきっていると、白斗もやった甲斐があると言うもの。

その後も弁当に舌鼓を打ち、米粒一つすら残すことなく弁当箱は綺麗になった。

 

 

「ご馳走様でした!」

 

「お粗末様でした! いやぁ、これが弁当を作ってあげる幸せか~……これからも、たまにだけど作ってあげるからね!」

 

「マジで頼むわ。 ……ふぁ、ヤベ……腹いっぱいになったから眠気が……」

 

 

ネプテューヌが作ってくれた最高の弁当に満足した白斗。

しかしここで、気の抜けた欠伸が一つ。

刹那、ネプテューヌが待ってましたと言わんばかりに目を輝かせる。

 

 

「は、白斗!!」

 

「ん?」

 

 

するとネプテューヌは正座をして、自分のふとももをパンパンと叩いている。

まるで誘導しているかのように。

 

 

「……ひ、膝枕……してあげる」

 

「んなぁっ!?」

 

 

驚いた。それこそ心臓が飛び出てしまうくらいには驚いた。

ネプテューヌは自分でよく「美少女」だの言うが、事実その通りだ。彼女ほどの美少女の膝枕なんて、正直嬉しくない訳が無い。

だからと言って、羞恥心を覚えない訳も無い。

 

 

「いいじゃん! ベールにしてもらったんでしょ? だったら私だって!!」

 

「何の対抗心だよ……」

 

「ホラホラ! こんな美少女にあーんに続いて膝枕してもらうなんて、この機会を逃せば次は回ってこないよ! ハリーハリーハリー!!」

 

 

急かすようにネプテューヌが捲し立てる。

ゴクリ、と一体何度唾を飲み込めばいいのだろうか。白斗には最早分からない。

でも、実際に飛び込んでみたいという自分がそこにいたのも事実なのだ。であれば、無下にする方が失礼というものだろう。

 

 

「で、では……お言葉に甘えて……。 お邪魔しま~す………」

 

「ひ、ひゃぅっ……!!」

 

 

白斗がおずおずと、ネプテューヌの太腿に頭を乗せた。

彼女の足は細いが、きめ細かく柔らかい肌の感触に病みつきになりそうになる。

 

 

「……お、おおぉ……ヤベ、気持ちいい……」

 

「で、でしょでしょ? 何だったら寝ててもいいから」

 

「……悪い。 なら、遠慮なく……」

 

 

こうして膝枕されながら寝るのも二度目だ。

慣れたもの、とまではいかないが白斗はあっという間に目を閉じて寝息を立て始める。

 

 

「……ぐぅ………すぅ………」

 

「ふふ……寝ている白斗も可愛いな~……♪ そうだ! 折角だからこの光景を写真に収めて……うん、完璧!」

 

 

寝ている白斗は、本当に幸せそうな表情だ。

そんな顔を見せられてはネプテューヌも幸せになるしかない。そしてそんな幸せな一幕を記録しようと携帯電話を取り出し、パシャリと一枚撮影。

満面の笑顔を浮かべるネプテューヌと、彼女の膝の上で安らかに寝ている白斗。最高の一枚が取れたとネプテューヌも満足そうだ。

 

 

「………白斗………」

 

 

そんな幸せな気持ちのまま、ネプテューヌは彼の頭を撫でる。

いつもなら彼の大きく、優しい手に撫でて貰っている。今回はそのお返しだ。細い指が、彼の髪を駆け抜ける度に快感にも近い高揚感が溢れ、尚更幸せな気分になる。

ネプテューヌの心臓が、トクン、トクンと心地よく跳ねていく。

 

 

(……本当にどうしちゃったんだろうね、私ったら……。 ここ最近、白斗の事ばかり考えて、でも白斗のことになると嬉しくて、楽しくて、幸せになれて……)

 

 

まさしく、寝ても覚めても白斗の事ばかりだ。

普段の何気ない生活の所作も、白斗と一緒ならば幸せになれる。逆に楽しい時間も、白斗がいないと物足りなく感じてしまう。

ここ最近になってようやく自覚した、名前も分からないその感情。ふと、今日一日の出来事が脳内でフラッシュバックされる。

 

 

 

『それで……その……あ、貴方に……一目惚れしましたっ!!! 好きですっ!!!』

 

 

 

脳内再生されたその一言、それは今日自分に告白し、そして振ってしまったあの青年の事だ。

彼には悪いが、好きという感情は湧いていなかったし、振ってしまったことも負い目はあるものの、後悔自体はしていない。でも、その言葉の意味だけが反芻する。

ならば、自分にとっての「好き」とは何なのか。

 

 

(一目惚れ……好き、好き………好き………)

 

 

「好き」―――。

言葉としてはありふれている。日常でも、漫画でも、アニメでも、ゲームでも。

ネプテューヌにとっての「好き」は、周りにあるもの全てだった。

 

 

(……私は、プリンが好き。 ネプギアが好き。 あいちゃんが好き、こんぱも好き、いーすんも好き。 ノワールも、ブランも、ベールも好き。 プラネテューヌが、ゲイムギョウ界が……皆がいる、いつもの日常が好き)

 

 

自分の好物が、大切な妹が、友達が、家族が。そして自分が治めるこの国が、この世界そのものが、この世界で生きる人たちが。

そして、当たり前のこの日常が―――彼女にとって、愛しいものだった。

それも「好き」であることは、間違いない。

 

 

 

―――では、この少年―――黒原白斗の場合は?

 

 

 

「………白斗………」

 

 

もう何度目になるか分からない、彼の名前を呼んでみる。

また、心臓が優しい音を立てて跳ねる。跳ねる度幸せな気持ちが溢れて、それでいて胸を締め付けてくる。

 

 

『………やっぱり笑顔のネプテューヌの方が好きだな』

 

 

そして思い出される、白斗の言葉。昨日、白斗がふと漏らした言葉だった。でも、ネプテューヌは聞き逃していない。

あの青年の告白と同じ「好き」であるにも関わらず、彼が言ってくれた「好き」でネプテューヌは幸せな気持ちになれる。

その気持ちを抱いたまま、この言葉を付け加えてみる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………白斗………好き……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――その瞬間、優しい風が吹き抜けた。

 

 

 

「……あ……そっか、そうだったんだ………」

 

 

 

彼女の中の靄を、迷いを、疑惑を吹き飛ばすかのように。

すると、世界が変わって見えたような感覚になった。先程よりもはっきりと、幸せの鼓動を感じた。

心臓はうるさいくらいに鳴り響き、体温が上昇し、胸は更に締め付けられる。

それでも、彼女は幸せだった。

 

 

(………好き、好き、好き。大好き……白斗が、大好き………!)

 

 

何故彼の事が気になって、何故彼と一緒にいたいのか。

やっと見つけた、その感情の名前。そしてずっと抱き続けてきた疑問に対する答え。

ネプテューヌの視線に熱が籠る。また一つ、白斗の頭を撫でて、自分の気持ちを確かめた。

 

 

 

 

 

(……私………白斗に、恋しちゃったんだ……。 白斗の事が、好きで、好きで……大好きになっちゃったんだ……!)

 

 

 

 

 

―――「恋」。

 

 

それが、ずっと彼に抱き続けてきた想いの、本当の名前。

自覚した途端、尚更彼との思い出が溢れ返った。初めて出会った時の事、一緒にクエストに行ったこと、守ってもらったこと、抱きしめてくれたこと―――。

それら全てが、まるで宝物のように光り輝いている。

 

 

(戦う白斗が好き、遊んでる白斗が好き、私を守ってくれた白斗が好き、ちょっとドジ踏んじゃう白斗が好き、意地悪な白斗が好き、カッコイイ白斗が好き、そして優しい白斗が……大好き!!)

 

 

こんなにも、好きを連呼したことなど一度もない。

けれども、これが最高にして最大の表現。彼のいい所も、悪いところですらも、彼の悲しい過去も、背負った罪も、だからこそ生まれる優しさも。

何もかもが、ネプテューヌにとっての「好き」だった。

 

 

「………えいっ!」

 

 

するとネプテューヌは光を纏わせる。

それが女神化の光。いつもの少女から、この国を司る守護女神、パープルハートとへその姿を変えた。

突然の光と体系の変化に、少しだけ白斗が身悶えするが起きはしなかった。

 

 

「……ふふ、この姿になっても……鼓動の方は止まってくれない……。 寧ろ、強くなってるわね……」

 

 

パープルハートは顔を赤らめ、優しい視線のまま、彼の頭をまた撫でた。

いつもの凛とした女神ではない。優しく、温かく、それでいて愛おしく―――まさに乙女そのものだった。

性格すら180度変わってしまう守護女神形態だが、白斗への想いだけは変わらず、それどころか強まっていく一方だ。

 

 

(……これが、恋をするってことなのね……。 私ってば、まるで乙女じゃない……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、白斗相手なら嫌じゃ………違う。 白斗じゃなきゃ、ダメ………ダメなの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………これが、私が望んでいていた「素敵な恋」、なのね………)

 

 

自覚する度に、更に想いは強くなる。

今日の、これまでの逢引きの一つ一つが幸せそのものだ。そして今の膝枕も、こうして彼の頭を撫でることですら、ネプテューヌにとっての幸せだ。

その幸せこそが、「素敵な恋」。彼女の中で、もう答えは出た。

 

 

 

(ありがとう白斗……。 貴方が守ってくれたように、私も貴方を守るから………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だから………ずっと傍に居てね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………白斗、貴方の事が………大好き、です………)

 

 

どこまでも穏やかで、温かく、愛しい時間が流れていく。

けれどもまだ日が沈むまで時間がある。デートはまだ、始まったばかりだ。

午後からのデートに想いを馳せ、ネプテューヌはどこまでも幸せそうに、そして美しく微笑んでいた―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――時を同じくして、プラネテューヌ付近の森。

 

 

「………や、やっと着いたぜプラネテューヌ………ここまで来るのも一苦労だ……」

 

 

男勝りで、乱暴な言葉遣いの女が街を見上げる。その女の名は、リンダという下っ端。

彼女が見上げているのは未来都市プラネテューヌ。ゲイムギョウ界の中でも、尤も科学技術に秀で、そして発展している国。

けれども、彼女の脳内ではそんな国がどれだけの惨劇で染まるか―――そんな歪な発想で、不敵に微笑む。

 

 

「さぁ、この街がどれだけメチャクチャになっちまうか……楽しみだなぁ!」

 

 

愛用の鉄パイプを担ぎ、リンダは一歩踏み出す。

そんな彼女の後ろには、悍ましい気配を携えたあの大蜘蛛―――アンチモンスターが、不気味な呻き声をあげていた。




サブタイの元ネタ「ラブプラス」

もうちょっとだけ続くんじゃよ。
と言うことでネプテューヌ様とのガチデート!前後編に分けてお送りします。
ネプテューヌは明るく楽しく、でもマジで素敵な恋をするというテーマのもと執筆しております。
そんな雰囲気を少しでもお届けできれば幸いです。
そして本日は勇者ネプテューヌ発売日!!みなさん、ねぷねぷしてますかーっ!?私はこれからねぷねぷするぞーっ!!
では次回もお楽しみに!! 感想お待ちしておりまーす!!



……実はそろそろ書き溜めていたストックが切れる(汗)
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