恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART   作:カスケード

29 / 69
注意!! このお話はmk2におけるあの「最悪のバッドエンド」に関した内容があります。閲覧の際にはご注意を。
それでも幸せになりたい方は……読んであげてください。ネプギアのために。


第二十八話 魔剣を断ち切って

―――本日もプラネテューヌは快晴。

しかし、心に土砂降りを降らしている少女が一人。この国の女神ことネプテューヌだ。

何故、そんなことになっているかというと―――。

 

 

「ちょーっ!! なんで私だけが二日もリーンボックスに行かなきゃダメなのー!!?」

 

 

そう、ネプテューヌがこの国を離れるからだ。

期間は二日間と小旅行のようなものだが、ネプテューヌは気乗りではない。

 

 

「ですから何度も説明したでしょう。 プラネテューヌから逃げ出した指名手配犯がリーンボックスに潜伏しているという情報を得たので捕らえてきて欲しいと……」

 

「だったらリーンボックスに任せればいいじゃーん!」

 

「ダメです。 プラネテューヌの不始末はプラネテューヌで解決しないと国民に示しが尽きません。 ベールさんも協力を申し出てくれましたし、戦力的には問題ないはずです」

 

 

文句垂れるネプテューヌだが、イストワールの理路整然とした説明に逃げ道を潰される。

幾ら相手が国外逃亡していると言えど、いやだからこそ国のトップが直々に捕縛することに意味がある。

女神が犯罪者への抑止力となる姿も信仰へと繋がるからだ。

 

 

「……分かったよ、行けばいいんでしょー。 その代わり白斗も一緒に……」

 

「ダメです。 白斗さんにはこの間の罰として書類地獄に埋めてありますから」

 

「い、いーすん!? なんて残虐なことを!? 白斗ー!! 今助けてあげるからー!!」

 

「ヒロインのような言動をしてもダメです」

 

「ヒロインだもん! しかもこの小説のメインヒロイン!!」

 

「メタ発言してもダメなものはダメです」

 

「いーすんさっきからダメしか言わないー!!」

 

 

女神と教祖による、いつものような漫才が繰り広げられる。

けれどもそれは、現在書類と死闘を繰り広げている白斗には耳に入れる余裕などなかった。

 

 

「クソがああああああああああああ!!! サインコサインタンジェントォ!!!」

 

「お兄ちゃん、落ち着いて!? 最早意味不明だから!!」

 

 

ガガガ、と凄まじい速度でサインを書き連ねていく白斗。

正直、その目には光が宿っていない。まさに仕事の鬼という状況。鬼気迫る状況に、イストワールも近寄りがたい空気である。

 

 

「ネプテューヌさんもああなりたいですか?」

 

「……ゴメン白斗、君の犠牲は無駄にしない!!」

 

「死んでません。 いいから行ってきなさい」

 

「うー……白斗とネプギアと二日間も離れ離れなんてぇ……」

 

 

未だに文句を垂れつつも、ネプテューヌは渋々と出ていった。

その際もいちいち立ち止まってはこちらを未練がましく見ていたが、イストワールの不気味な微笑みを前に、逃げるように去っていく。

 

 

「やれやれですね。 さて、白斗さんは………」

 

「ウォォオオオオオオオオオオオオ!!! ガアアアアアアアアアアアア!!!」

 

「ひゃあああああ!? お兄ちゃんがモンスターみたいになっちゃったぁ!!?」

 

 

吠えていた。最早人語を離すことが不可能になっている。

理性が崩壊しているとでも言おうか、ネプギアも涙目だった。

さすがのイストワールも鬼ではなく、溜め息ながらもこれ以上は危ないと判断した。実際今の白斗は危ない人を超えてただのモンスターである。

 

 

「……仕方ありませんね。 白斗さん、もうお仕事は終わりにして構いません」

 

「え!? いいの!!?」

 

「こういう言葉には敏感なんですね……ネプテューヌさんの悪い癖が移ってしまいましたか?」

 

「……かも、知れませんね」

 

 

いつの間にか、仕事から解放される喜びを知ってしまった白斗は柄にもなく苦笑いだ。

以前まではネプテューヌ達のためになればと寧ろ進んで引き受けていたはずなのに。

 

 

「ふふ、きっと白斗さんにとって仕事より優先すべきものがあるからですね」

 

「優先……?」

 

「ネプテューヌさん達と過ごすこと、ですよ」

 

「…………っ」

 

 

推測などではなく、確定しているかのような言い方だった。

思わず顔を赤くしてしまう白斗だったが、否定が出来ない。否定したくない。

照れ隠しにそっぽを向きながら頬を掻く白斗だったが、その姿は年相応の少年らしいものだった。

 

 

「むー……お兄ちゃん! 私はその中にいないの?」

 

「い、いや! 勿論お前もいるぞネプギア!!」

 

 

するとここで頬を膨らませるのは妹分でもあるネプギアだ。

白斗に懐いている彼女だからこそ、つい嫉妬してしまう。白斗にとっても大切な少女の一人であるネプギアを蔑ろにしたくないと、必死に否定する。

 

 

「でしたら白斗さん。 お仕事はもういいのでネプギアさんと一緒に過ごしてあげてください。 最近仕事漬けでしたし、正直な所大助かりですし?」

 

「いいんですかいーすんさん!? わーい!!」

 

「なんでネプギアの方が大はしゃぎなんだか……でも、ネプギアとも遊びたいしいいか」

 

 

可愛らしく大喜びなネプギア。

普段はしっかり者であることと、姉であるネプテューヌが駄女神であることに隠れがちだが、彼女も割と子供っぽいところがある。

大好きな機械弄りに対するパッションや大好きな姉であるネプテューヌと遊んでいる時など、その一端が垣間見られる。

それがきっと、素の彼女なのだろう。そして素の彼女を見せられる一人として白斗がいる。

 

 

「それじゃ、まずは憂さ晴らしにバイク整備とでも行くかな。 手伝ってくれるか?」

 

「任せてー!! ふんふーん、どんな魔改造しちゃおうかなー♪」

 

「息抜きに女の子をオイル臭い作業に誘うとは……ネプギアさん以外だと呆れられますね……いや、ネプギアさんのツボを心得ていると言うべきでしょうか」

 

 

最近の白斗の趣味の一つとして、バイク作りがある。

バイクを買ったのではなく、バイクの部品を少しずつ集めて一から組み立てているのである。誰もが一般人には無理だろうと思うことだが、白斗にはその技術があった。

しかも同じく機械に強いネプギアのアシストのお蔭で、今では8割ほど組み上がっているのだ。因みにバイクに目覚めたのはアイエフの影響とのこと。

 

 

「さて、タイヤは注文したのが届けばいいんだが……エンジン回りをどうするか」

 

「やっぱりここはスピード重視で行こうよ! それからロケットバーニアも付けて……」

 

「待て、公道走れなくなるだろソレ」

 

「あ、そっか……それじゃ出力を控えめにしないと」

 

「違う、そうじゃない」

 

 

などと、どこかズレたところもあるネプギア。

けれども大好きなものと一緒にいる時の彼女は本当に可愛らしい。姉であるネプテューヌが美少女なら、妹である彼女もまた美少女だ。

そんな屈託のない笑顔に、心なしか白斗も癒される。

 

 

「えへへー……って、どうしたのお兄ちゃん? そんな優しそうな眼差しして」

 

「んー? ネプギアが可愛いなーって思っただけ」

 

「ふぇっ!? そ、そんなこと言わないでよ……照れちゃうよ……」

 

 

顔を赤くしながら俯くネプギア。

当然照れ隠しだ、だからこそより可愛らしく映ってしまう。

そんなほっこりをした空気を抱えながら、二人はバイク整備を進めていく。

 

 

「ふぅー、改造した改造したー!」

 

「なぁ、ネプギア……ビームなんて要るのか……?」

 

「何言ってるのお兄ちゃん! ビームは必需品だよ!!」

 

「ビームをパワーワードにすんなよ」

 

 

どうやら彼女にとってビームは永遠の憧れであるらしい。

兎にも角にも、良い時間にもなったので今日の作業はこれで終わりにすることにした。(因みにビームは白斗がこっそり外した)

さすがに機械油の臭いが染みついてしまったのでネプギアはシャワーを浴びることに。

 

 

「あー、気持ちよかった~」

 

「お。 ネプギア上がったか。 おやつあるぞ~」

 

「ホント!? 何かなー……って、アイスクリームパフェ!」

 

 

風呂場から戻り、未だ湯気が昇る髪を拭きながらリビングへと戻ったネプギア。

そんな彼女を待ち受けていたのは、色とりどりのアイスやチョコレートが盛り付けられたパフェ。

女の子ならば憧れるその豪勢な見た目にすっかり釘付けだ。

 

 

「おう。 溶けない内に召し上がれ。 それとイストワールさんもどうぞ」

 

「白斗さん、ありがとうございます。 それではいただきます」

 

「わーい! いただきまーす!」

 

 

勿論、ネプギアの分だけではなくイストワールの分も用意してある。しかも彼女のサイズに合わせて盛り付けを変えているという気配り。

感謝を送りつつ、二人はスプーンで一口。

 

 

「ん~! 冷たくて美味し~~~!」

 

「ええ! もう最高です!」

 

(うんうん、やっぱ二人とも女の子だなぁ)

 

 

極上の甘味を口にした途端、アイスクリームが口の中で溶ける。それに伴い、二人の顔も蕩けきった。

幸せそうな女の子を目にした白斗も眼福と言わんばかりに幸せそうに笑う。

 

 

「お兄ちゃん、これどこで買ったの? また食べたいな~」

 

「残念。 実はこれ、メイドイン白斗さんなんだぜ」

 

「え? そうだったんですか!?」

 

 

また食べたくなるほどの味。だから訊ねてみたのだが、なんと白斗の手作りであるという。

最早パティシェとも思えるその腕前に、ネプギアとイストワールも驚きだ。

証拠と言わんばかりに冷蔵庫を開ければ、手作りアイスクリームを保存するためのタッパーが置かれていた。

 

 

「昨日、ネプギアがテレビ見て『食べてみたいなー』って言ってたじゃんか」

 

「昨日……? あ……」

 

 

白斗の何気ない一言に記憶を振り返ってみる。

それは昨晩の夕食時でのこと。皆で団欒しながら夕食を食べ、その際に見ていたテレビ番組でゲイムギョウ界中のスイーツを紹介する番組があったのだが。

 

 

『見て見てお姉ちゃん! このパフェ美味しそう!』

 

『ホントだ! こーゆーの近くにあったらいいのになぁ~』

 

『お前、プリン以外も好きなのか?』

 

『当たり前だよ! 甘いものは女の子の嗜みなんだから!』

 

『その通りだよお兄ちゃん! あー、食べてみたいなぁー……』

 

 

―――思い出した。

確かに昨日、そんな会話をした。けれども、戯れにも近い一言だったので本気では無かった。寧ろ冗談に近いニュアンスだった。

でも、彼は―――兄貴分である黒原白斗はそれを叶えてくれた。それこそ忙しい仕事の合間を縫ってまで。

 

 

「ど、どうして……?」

 

「いや、ネプギアが喜んでくれるかなーって」

 

 

それは白斗にしてみれば、何気ない思い付きだったのかもしれない。でも、とても優しい笑顔だった。

そんなさり気ない気遣いが、優しさが嬉しくて、ネプギアが俯いてしまう。

 

 

「え? ど、どうしたネプギア!? やっぱり不味かったのか!?」

 

「ち、違うよ!? ただ、その、嬉しすぎて……こんな顔、お兄ちゃんに見せられない……」

 

「そうか? ならいいんだが」

 

(白斗さん……本当にわざとやっているんじゃないんですよね?)

 

 

一連の光景を見せつけられたイストワールは少々呆れ気味だった。

それでもパフェは最高に美味しかったので、特に口に出すことは無かったが。

 

 

「イストワールさんはどうですか?」

 

「はい。 こんな美味しいパフェが食べられて、本当に嬉しいです!」

 

「そっか、良かった良かった。 イストワールさんも昨日、羨ましそうにパフェ見てたから」

 

「え……?」

 

 

滅多にプラネタワーから出ることのないイストワールからすれば、パフェとは余り縁のないスイーツである。

料理が出来るコンパがプリンを作ってくれることは多々あったが、ここまで豪勢なものを作ってくれることは無かった。増してやイストワールは自分からリクエストを言うタイプではないのだから。

つまりこれはイストワールのためでもあった。だから、白斗のそんな優しい言葉にイストワールも顔を赤くしてしまう。

 

 

「……っ!? も、もうっ!! からかわないでくださいっ……!!」

 

「え? か、からかってなんか無いのに……」

 

 

大慌てと共に赤くなった顔を隠そうと白斗から視線を逸らしてしまう。

心外だと言わんばかりに白斗は口を尖らせる。一方のネプギアは先程まで上機嫌だったにも関わらず、この一幕を見せつけられて急に不機嫌になった。

 

 

「もーっ!! お兄ちゃん、そうやって女の子を惑わすのはいけないことなんだよ!!」

 

「そ、そうですっ! 白斗さんはもう少し、自分の発言を省みてですね……」

 

「何で怒られてんの俺!!?」

 

 

少しばかりお小言を受ける羽目になってしまった。

 

 

「ねぇ、お姉ちゃんもそう思―――あ」

 

 

同調してもらおうと、ネプギアは隣に話しかけた。

いつもなら、いつものように、いつも隣に座ってくれているはずの大好きな姉、ネプテューヌに。

しかし彼女は今日、仕事でいない。明日までいないのだ。それを認識した途端、ネプギアは寂しそうな声になってしまった。

 

 

「……いつもなら、お姉ちゃんと一緒にこのパフェ食べて……お兄ちゃんを叱ってるはずなんだけどな……」

 

 

明らかに気落ちしている。

ネプテューヌほどではないが、明るいイメージが常にある彼女がここまでになるとは。居ても立ってもいられず、白斗はイストワールに訊ねる。

 

 

(イストワールさん、ネプギアっていつもこんなでしたっけ?)

 

(いえ、クエストなどで別行動をする時は何でもなかったのですが……一日以上離れ離れなんて今までありませんでしたから)

 

(どんだけホームシックならぬ姉シックなんだか……)

 

 

姉であるネプテューヌの事が大好きな彼女からすれば、一日以上離れ離れになるというのは耐え難いことなのだろう。

少々どころではないシスコンぶりに白斗も苦笑いだが、それもまた彼女の魅力だと認識する。

だからこそ、彼女には笑っていて欲しい。白斗はそう願った。

 

 

「……大丈夫だ。 アイスはまだ量があるし、しばらく保つ」

 

「え? お兄ちゃん……?」

 

「明日にはネプテューヌも帰ってくる。 その時にまた食べたらいい。 二人一緒で、仲良くな」

 

「……うん」

 

 

白斗の微笑みに、ネプギアは少しだけ元気になった。

突然何の話をされたかと思ったが、白斗の気遣いであると理解するや否やそれが嬉しくなった。

その後、パフェが崩れない内に食べきり、やはり美味しいと大絶賛されたのだった。

余談だがこの後アイエフとコンパにパフェの話を聞かされ、二人には出せなかったために涙目になられてしまいまた作る羽目になるのは別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そして時間は夜。

ネプギアはベッドで一人、転がっていた。

 

 

「……はぁ……お姉ちゃん……」

 

 

時間が経てば、また溜め息が出てしまう。

理由は言わずもがな、ネプテューヌの不在である。いつも元気で明るい姉の存在があったから、自分は楽しかった。幸せだった。

けれども今、彼女はいない。たった一日離れただけでこんなにも寂しいものなのか。

 

 

「……寝よう……」

 

 

すっかり元気をなくしてしまい、疲れすら感じてくる。

大好きな機械弄りも、ゲームも、やる気が起きない。

ならば寝るしかない。さっさと寝て、さっさと明日を迎えれば大好きな姉が帰ってくる。ネプギアはそう思い、瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――気が付けば、ネプギアは森の中にいた。

隣には姉であるネプテューヌが一緒に歩いている。

 

 

(え? あれ、私どうして……そっか。 これ夢なんだ……)

 

 

一瞬状況が呑み込めず、けれどもネプテューヌが隣にいてくれることに喜ぼうとしたがすぐに夢であると認識してしまう。

先程まで部屋に居て、しかもネプテューヌは仕事でいないのだから。

 

 

(でもお姉ちゃんと一緒にお散歩なんて……あれ? 何だろう、この剣……)

 

 

すると、ネプギアは一本の大剣を提げていることに気づいた。

いつも愛用しているビームソードではなく、重々しく、そして禍々しい色合いの剣。こんなもの、自分の趣味では無かったはずなのに。

そう思って柄を少し握った―――その瞬間だった。

 

 

 

 

―――彼女の脳内に、この剣で貫かれた女神達の姿が流れ込んできた。

 

 

 

 

(―――――――――ッッッ!!?)

 

 

 

 

その瞬間、凄まじい寒気と吐き気、そして恐怖に襲われる。

心臓を握り潰されたかのように痛みや苦しみが体中を支配し、体が動かなくなる。

あれだけ親しかったユニ達女神候補生、そしてノワールやブラン、ベール達女神を、この剣で―――殺した確かな感触。

 

 

(な、何……!? 何なのこれ!? 私、こんなことしてないのに―――どうして、どうしてこんなにもハッキリと……!!?)

 

 

現実の自分は、当然こんなことした覚えなど無い。

無いはずなのに、剣から伝わる感触は嫌という程鮮明だった。まるで無理に刻み込もうとしてくるかのような、そんな不快感しかない感触と共に。

だが、それだけでは留まらない。記憶が流れ込んでくる。

 

 

(……魔剣、ゲハバーン……?)

 

 

この剣の名前、そして特性、更にはここに至るまでの経緯が流れ込んでくる。嫌だと拒絶しても、無理に詰め込まれてしまう。

手にした魔剣―――その名は、ゲハバーン。

 

 

(……そうだ。 魔剣ゲハバーン……女神を殺すことで、犯罪神すら倒せる剣……私、この剣を使いたくなくて……でも、その代わり、シェアをプラネテューヌに集結させようなんて提案を……し、て……)

 

 

―――“このネプギア”は、犯罪神を倒すため、そして囚われた姉達を救うために旅をしていた。

しかし、犯罪神が蘇ってしまう。対抗手段として手に入れたのがこのゲハバーン。だがこれは、他の女神を殺すことで力を取り戻すものだった。

そんなもの使うことは出来ない。だからそれの代替案として、シェアをプラネテューヌに集中させるという方法を―――提案してしまった。

 

 

結果、それに反発した女神達とは仲違い―――そのまま離反して、喧嘩別れとなってしまった。

当然だ、シェアを集中させることは他の国のシェアが無くなる。それは国の―――女神の消滅を意味していたのだから。

 

 

(……そ、それ、で……皆を、説得するつもりが……皆を、こ、こ……殺……し、ちゃって……―――――ッッ!!)

 

 

自分の浅はかな提案で、皆の不信を駆ってしまい、今までの絆をあっさりと壊してしまった。

どうしても取り戻したくて、皆の下に向かったが受けいれられずに敵対。そして―――悲しきやり取りの末、ノワールを殺してしまった。

そこからはもう止まれず、結果的とは言えユニを、ブランを、ロムとラムを、ベールを手に掛けてしまった。

そして、教祖達からの当然とも言える罵倒の声。ネプギアの心をボロボロに崩していく。

 

 

(あ、あ………あああああああああああ!!? こ、こんなもの!! こんなものぉ!!!)

 

 

捨てたかった。壊してしまいたかった。

でも、“このネプギア”はそれが出来ない。今のネプギアは、ただ夢の中の彼女になり切ってしまっているだけだ。

つまりは、この物語の結末を見届けなければならないということ。

 

 

(……どうして、どうして……“私”、こんな選択をしちゃったの……?)

 

 

例え夢の中でも、大切な人達の死を見たくはなかった。増してや自分の手で殺すなど、悪夢以外の何物でもない。

最早、今のネプギアに目の前にある光景が夢が現実かの区別すらついていなかった。

だが、悲劇はこれだけでは終わらなかった―――。

 

 

 

 

「―――えっとね。 ネプギアに命を奪って欲しいなー、なんて」

 

 

 

 

―――突如、大好きな姉であるネプテューヌから、そんな一言が飛んできた。

え、と呆けてしまい、現実を受け入れられないでいる。

理屈はこうだ、いざという時に力を出せなかったら笑い話にもならないのだと。理屈はあっている。でも、それでも。

 

 

(い、嫌だ……そんなの嫌だよ!! お姉ちゃん、何を言ってるの!!?)

 

 

心の中で、ネプギアは泣き叫んでいる。

当然だ。大好きな姉を救うために旅をしてきたはずなのに、その結果姉を自らの手で殺すなんてことできるワケが無い。

夢の中のネプギアも、必死になって拒否をする。のだが―――。

 

 

「―――しっかりしなさい!! ネプギア!!!」

 

「っっっ!!?」

 

「何のために、皆の命を奪ったの!? ゲイムギョウ界を救うためでしょ!!?」

 

 

ネプテューヌが、悲鳴にも近い声で叫んだ。

いつもならば絶対に聞くことのない真剣みを帯びたその声に、ネプギアは怯んだ。圧倒的正論と厳しさ、そして女神らしさを併せ持った厳格な声に逆らうことが出来ない。

 

 

「私だって、ゲイムギョウ界を……救いたいんだよぉ!!! でも、私にできるのは……これくらいしかないんだよ………っ」

 

 

そして涙ながらに叫ぶネプテューヌ。

彼女の心もまた限界に近かったのだ。辛かったのはネプギアだけではない、親友だったノワール達を死なせてしまった彼女もそうなのだ。

だから、自分の使命と罪滅ぼしとしてその命を差し出そうとしている。

 

 

 

―――そして、夢の中のネプギアはゆっくりと魔剣ゲハバーンを構えた。

 

 

 

 

(や、めて………やめて……やめてぇええええええええええええええええ!!!!!)

 

 

 

 

必死に止めようと泣き叫ぶネプギア。

けれども、心の中だけではどうすることも出来ない。そのまま、夢の中のネプギアは叫びながら突撃し―――

 

 

 

 

 

―――ネプテューヌを、貫いた。

 

 

 

 

(あ、あぁ………)

 

 

 

 

剣から伝わる、肉を貫く気持ち悪い音と感触。魔剣から伝う、生温かい血。

それら全てがネプギアの心を容赦なく破壊する。

既にネプギアの目に光は伴っていない。でも、貫かれたネプテューヌは痛いという声を上げながらも、優しく微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

「……それじゃ、ね。 ネプギア……。 一緒に、頑張ろうね―――」

 

 

 

 

 

 

そして、愛する姉は、ネプテューヌは、光となって消え―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!?」

 

 

 

 

絶望の叫びを上げたネプギア。

夜の静寂を打ち壊すまでの絶叫だったが、今の彼女には気にしている余裕はなかった。

―――気が付けば、周りの景色は変わっている。森の中ではなく、すっかり暗くなった自分の部屋。

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!! ゆ、夢……? あ、あぁあぁあ………」

 

 

ベッドの上で、すっかり汗だくとなってしまった。

けれどもその汗で冷やされることにより、徐々にだが意識が現実に引き戻される。そう、さっきまでのは夢だった。

だが今まで見た来た中では、史上最悪の悪夢。夢で良かった―――そんな一言で済まされない恐ろしさが、今も脳内を支配している。

 

 

「あ、ぅ、ぇ……ぁ、ァア………」

 

 

最早まともな言葉を発することさえできない。

今も手には、姉を貫いたあの最悪の感触が残っている。思わず掌に視線を落とすと、その手が姉の血で染まっているという幻覚さえ見てしまった。

しかし、心が弱り切ったネプギアにはそれすらも判別することが出来ない。

 

 

「ぁぁあぁああぁあああぁあああああああああ!!? はッ、あ、はヒッ、ひっ、ハ、あ、グ、ヒ、ハァッ……!」

 

 

顔を覆い尽くし、泣き叫ぶ。

呼吸すら困難になり、過呼吸寸前にまで陥った。

だがどうすることも出来ず、ただただ心が崩壊していくのを感じながら―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ネプギアッ!!! しっかりしろ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――突然大きくも温かい声が降りかかってきた。闇を砕く、力強い声。

その声によって現実に引き戻されたネプギア。視界が闇の中から、現実に戻る。

すると目の前には、ネプギア以上に必死になっている少年の姿があった。

 

 

「………お、にい……ちゃん………?」

 

 

兄として慕う少年、黒原白斗。

白斗が、ネプギアの肩を揺り動かしていたのだ。自分の名前を呼んでくれたことに、白斗は希望を見出したような声を出してくれる。

彼女の小さな体を抱きしめ、温もりを汗でべたついた体に与えてくれた。

 

 

「そうだ、兄ちゃんだぞ! 大丈夫か、ネプギア?」

 

「あ、ぁ……お兄ちゃん………私、私っ………!!」

 

「無理しなくていい。 ゆっくり、深呼吸するんだ。 すー、はー、すー、はー」

 

「……すー……はー……すー……はー……」

 

「焦らなくていいぞ。 ……傍に居るからな」

 

 

恐怖で震えるネプギアの体を抱きしめながら、白斗は彼女の背中をさすってあげる。

そして深呼吸を促し、呼吸を整えさせた。

呼吸は集中力を高め、調子を取り戻させるのに適切な方法の一つとされる。時間をかけてゆっくりと行われたそれに、少しずつだがネプギアの気持ちも和らいでいった。

 

 

「ネプギアさん!? それに……白斗さんも!? どうされたんですか!!?」

 

「イストワールさん、話は後です! 水とタオルをお願いします!」

 

「わ、分かりました!!」

 

 

イストワールも駆けつけてきた。

電気すら点いていない部屋で、ネプギアを抱きしめている白斗の姿。一体何事かと慌てたが、白斗の鬼気迫る表情から飛んだ指示に従ってしまう。

その間も彼女を優しく撫で続けると共に、深呼吸を続けさせ―――。

 

 

「………はぁ、はぁ………お兄ちゃん……あり、が、とう……」

 

「大分落ち着いたみたいだな。 ……良かった……!」

 

 

彼女の調子が、戻ってきた。

まだ恐怖による疲弊はあるものの、先程の様な錯乱はもう無い。彼女が無事だったことで、白斗は心底安心したように胸を撫で下ろした。

彼の汗も尋常なものではない。それだけ、ネプギアが心配だったのだ。

そこへ、水とタオルを用意したイストワールも大慌てで戻ってきた。

 

 

「お待たせしました、お水とタオルです」

 

「ありがとうございます。 ほら、水だ。 ゆっくり飲め」

 

「う、うん……ごくっ、ごくっ……」

 

 

コップを手渡し、彼女に飲ませた。

汗で相当な量の水分が失われていたため、喉を駆け抜ける清涼感がたまらなく心地よい。

その間、白斗とイストワールが清潔なタオルでネプギアの汗を拭き取ってくれた。

二人の万全なケアのお蔭で、ネプギアの体も大分正常へと近づく。

 

 

「……ふぅ……。 もう、大丈夫だよ……本当に、ありがとう……」

 

「大丈夫じゃないだろ。 びっくりしたぞ、急に叫び声なんて上げるから……」

 

「はい。 ネプギアさん、どうされたんですか?」

 

 

どうやら悲鳴を聞き取ってくれたようだ。イストワールも同じらしい。

あれだけの悲鳴を聞き逃す方が無理とも言えるが。

 

 

「……夢を、見たの……。 私が、お姉ちゃんを……こ、殺しちゃう……夢……」

 

「お前が……?」

 

 

すると、一体何があったのか語り始めるネプギア。

出だしから衝撃的だった。ネプテューヌが大好きな彼女が、姉を殺すなんて。全く現実味の無い話だったが、笑い飛ばすことなく白斗はネプギアを抱きしめた。

労わるかのように、支えるかのように、癒すかのように。

 

 

 

―――その後もネプギアは語り続けた。

夢の中で一体何があったのか、何故そうなってしまったのか、その結果どれだけ苦しかったのかを。

白斗とイストワールは、しっかりと受け止め、聞き届けた。

 

 

 

「……ゲハバーン……まさか、それが出てくるなんて……!」

 

「イストワールさん……実在するんですか? その魔剣……」

 

「……伝承レベルですが、記録には残されています。 確かに女神様の命を吸うことで強くなる、恐ろしい魔剣です……」

 

「……誰が作ったか知らねーが、最低なモン生み出しやがって」

 

 

白斗は怒りを抱いていた。女神の命を蔑ろにするも同然という、冒涜の魔剣に。

何よりその魔剣の存在が、ネプギアを苦しめているということに。

 

 

「ですが、ネプギアさんはその魔剣の存在を知らなかったのですよね? どうして夢の中とは言え、そんなものが……?」

 

 

イストワールにはどうしても解せなかった。

今まで存在すら耳にしたことのないゲハバーンが、夢の中とは言え鮮明に出てきたのか。

鮮明で尚且つ作り話にしては詳細すぎる描写に、何かの陰謀すら感じてしまう。

 

 

「……もしか、したら……未来の私、なのかも……」

 

「ネプギア?」

 

 

ぽつり、ぽつりとネプギアが口を開く。

光のない瞳で、また恐怖に怯え始めている。

 

 

「……私、が……間違ったこと、しちゃったら………ユニちゃん達を、ノワールさん達を………そして、お、お姉ちゃんを……この手で、殺しちゃうって……!!!」

 

 

夢の中とは言え、その手で姉を殺してしまった感触がまだ刻まれている。

だからこそ、ネプギアはそれをただの悪夢だと否定することが出来なかった。

 

 

 

「―――なら、お前はもう間違えないで済む」

 

「………え………?」

 

 

 

するとそこに、白斗は優しい笑顔で語り掛けてくれた。

彼女の悪夢を、悪夢だと否定してくれた。

一瞬何を言っているのか分からなかったネプギアだが、彼の言葉は自身の思い込みを止めるだけの力と温かさがあった。

 

 

「今のお前は何が友情を壊してしまうのか、浅慮が何をもたらすのかを知った。 だったらそれに背を向き続ければ、少なくとも最悪の結末なんて訪れない。 そうだろ?」

 

「………で、でも………」

 

「でももヘチマもない。 ……それに、絶対にそんな未来にならないっていう確信もある」

 

 

彼は、そんな結末が訪れないという確信があった。

何故そこまで言い切れるのか、目で問いかけてみる。すると彼は、力強い視線で、こう語ってくれたのだ。

 

 

「―――その夢の中には、“俺”がいなかったんだろ? でも、今……お前の傍には、俺がいる」

 

「え………」

 

 

そう、あの夢の中に白斗の姿は無かった。あの夢の中では、白斗は存在しなかった。

これが何を意味するのか―――ネプギアにも、徐々に分かってきた。

 

 

「もし、お前が間違えそうになったのなら止めてやる。 もし、お前が間違えたのなら殴ってでも正してやる。 もし、皆がバラバラになっちまったのなら地べた這いずり回ってでも繋ぎ止めてやる。 ……俺が、お前を最高の結末に導いてやる」

 

 

笑顔と共に掛けられた言葉。

白斗は、ネプギアが間違いを犯すことを否定はしなかった。でも、その間違いを正すことを約束してくれた。

 

 

(……そうだ。 あの夢の中で……私は、止めてくれる人がいなかった……。 お兄ちゃんがいてくれたら、きっと……あんなことにならなかったんだろうな……)

 

 

夢の中で、彼女の提案を咎める者は女神達だけだった。そしてネプギアは戸惑いながらも、その提案を取り下げようとしなかった。

そこからきっと歯車が狂ってしまったのだ。もし、そこで誰かが身を挺してでも正そうとしてくれたのなら、あんな悲劇は起こらなかった。

その“誰か”になる―――白斗は、喜んで名乗り出てくれた。

 

 

「だからネプギア、お前は心配しなくていいんだ。 それにゲハバーンつったか? そんな最低な魔剣、見つけ出してぶっ壊してやる」

 

「……お兄ちゃん、ホントに……?」

 

「ああ。 女神様を……お前を傷つけるモンなんてあっちゃならねぇ。 頼まれなくてもそんなクソッタレな鈍ら、ぶっ壊すさ」

 

 

白斗は魔剣の存在に、最早殺意を覚えていた。

だからこそ、彼女を救うためにもその魔剣の破壊を約束する。ネプギアの壊れかかった心を救うために、やれることを全てやってくれる。

力強さと誠実さ、優しさが合わさったその言葉に、ネプギアはまた涙を流した。

 

 

「お兄ちゃん……ありがとうっ……!!

 

 

今度は自ら、白斗の胸に飛び込む。

彼に甘えるために。そして白斗は、そんなネプギアの気持ちを全て受け止めた。

今のネプギアには、もう先程の様な恐怖は無い。全て彼が受け止めて、支えてくれるから。

 

 

(……ああ、貴方がお兄ちゃんで良かった―――いや、“お兄ちゃん”じゃ、もう足りないよ……私の、この気持ち……)

 

 

ネプギアの心臓が、先程とは違う動きを見せていた。

嫌な衝動に突き動かされたものではない、その逆。幸せな気持ちによって心臓が動き始めた。

その瞬間、ネプギアは自らの気持ちに気づいた。きっとそれは、姉も抱いている感情だと理解する。だって、今のネプギアとネプテューヌは同じ顔をしているのだから。

 

 

「あら? 窓が……」

 

 

今までその流れを見守ってきたイストワールが何かに気づいた。

窓が、何者かに叩かれているのだ。しかも激しく。

始めは鳥か何かかと思っていたのだが、どうも違うらしい。カーテンで遮られている所為で、正体までは分からなかったのだが。

 

 

「イストワールさん、開けてあげてください」

 

「え? えぇ……何でしょうか……ってきゃぁ!?」

 

 

どうやら白斗には正体が分かっているらしい。とりあえず窓を開けるように指示する。

白斗の事だから何か考えがあるのだろうとイストワールは特に疑うこともなく、窓を開ける。

瞬間、何かが一気に部屋の中へと飛び込んできた。

 

 

「ネプギアっ!! 大丈夫なの!!?」

 

「え? お、お姉ちゃん……?」

 

 

飛び込んできた影の正体、それは女神パープルハート。そしてネプギアが愛する姉、ネプテューヌだった。

ネプテューヌは脇目も振らず、ネプギアに抱き着くと彼女の容態を確かめた。

今はリーンボックスにいるはずなのに。しかも時間は夜の3時という真夜中なのに。

 

 

「白斗から連絡を貰ってきたの。 ネプギアが怯えてるって……でも、大丈夫みたいでよかった……!」

 

 

―――これも、白斗の手回しによるものだった。

だがそれでも彼女は、真夜中であるにも関わらずに来てくれた。愛する妹のために。

 

 

「うん……。 もう大丈夫だよ。 お姉ちゃんと……お兄ちゃんのお陰で」

 

「そう……白斗、本当にありがとう……! ネプギアの心が壊れていたら、私……!」

 

「良いってことよ。 それよりも夜中に叩き起こして悪かったな、ネプテューヌ」

 

「いいの。 こんな時に駆けつけられなくちゃ、姉失格だもの」

 

 

女神の仕事も、睡眠時間も放り出して駆けつけてくれたネプテューヌ。

それだけネプギアのことが大事だったのだ。

上がった息と大量の汗、そして彼女を想うために流した涙ががその証拠だ。この二人を守れてよかったと、白斗も笑顔になる。

そしてネプテューヌは女神化を解除し、再度ネプギアに抱き着いた。

 

 

「それにしても怯えていたなんて……何があったの?」

 

「……実はですね」

 

 

もう、ネプギアにあの悪夢を語らせたくないとイストワールが代弁し始めた。

信じられないという表情を隠しきれなかったネプテューヌだが、何も言わずにそれを全て聞き届ける。

聞き終えた時、ネプテューヌは涙を流しながら妹を抱きしめる力を強めた。

 

 

「……そっか。 辛かったよね、ネプギア……」

 

「……お姉ちゃん……! 私、絶対に間違えないから……! だから、もう離れないで……!」

 

 

大好きな姉に抱かれて、ネプギアは尚更安心する。

こんな真夜中でも、心配してくれる人がこんなにもいる。自分を愛してくれる人がこんなにもいる。

こんな人たちを失いたくない。だから、あんな未来にはもう辿り着かないとネプギアは強く決意した。

 

 

「すみませんイストワールさん、ネプテューヌを呼び戻しちゃって」

 

「今回ばかりは仕方ありません。 ネプテューヌさんにはまた戻っていただくことになりますが……」

 

 

すると白斗は、イストワールに頭を下げた。

ネプテューヌにはまだ仕事が残っている。そして何より女神たる彼女に無理を掛けさせることなどあってはならない。

だが、イストワールは白斗を咎めなどしなかった。ネプギアの心を救ったのだから、寧ろ感謝しかなかった。

 

 

「あのさ、いーすん……私、早起きするから今晩……ネプギアに添い寝してあげてもいいかな?」

 

「ええ、傍に居てあげてください。 ……リーンボックスには私から連絡しておきますから」

 

「ありがとう! いーすん、大好き!」

 

 

ネプテューヌはすぐにはリーンボックスに戻らず、ネプギアの傍に居たいと言い出した。

今回はイストワールもそれを聞き入れ、許可を出してくれた。

 

 

「あの、お姉ちゃん……。 お兄ちゃんも、添い寝しちゃ……ダメかな?」

 

「んなっ!? ね、ネプギア……そいつはマズいんじゃ……」

 

 

と、ここでネプギアがとんでもない提案をしてきた。

白斗も一緒に添い寝して欲しいというのだ。幾ら妹分とは言え、相手は美少女。しかも候補生とは言え女神様。

女神を大切に想う白斗からすれば、遠慮しなければならない場面なのだが。

 

 

「……白斗、してあげて。 ネプギアがそれを望んでるんだしさ」

 

「ね、ネプテューヌ……」

 

「それに、私的には寧ろ嬉しいって言うかさー!」

 

「ほえ?」

 

 

ネプテューヌはあっさりと許可を出してくれた。

寧ろ彼の事を愛している身としては、役得と思わざるを得ない。白斗は首を傾げながらも、彼女の許可が得られるのならそれでいいかととりあえずは納得した。

 

 

「折角だからいーすんも一緒に寝ようよー!」

 

「わ、私ですか!? は、白斗さん……その……」

 

「や、やっぱり俺がいちゃダメですよね!?」

 

「い、いえ……。 寧ろ白斗さんなら安心、ですね……。 分かりました」

 

「なん、だと……」

 

 

未だに恥ずかしさの方が勝る白斗。そこに良識人のイストワールまでもが加わろうとしている。

彼女ならば猛反対の声が上がるものだと思っていたのだが、あろうことか彼女までもが許可を下してしまい、しかも一緒に寝ることに。

そんなことを言われては白斗もあきらめざるを得ない。覚悟を決めて、4人が一緒のベッドに潜り込む。

 

 

「あ、アハハ………さすがに狭いね……」

 

「お、お兄ちゃん……もうちょっとそっち寄って……」

 

「これ以上は落ちるって! い、イストワールさんは大丈夫ですか?」

 

「は、はい……今だけはこの体のサイズに感謝です……」

 

 

さすがにネプギア用ベッドに四人が潜り込むのは少々無理があったのか、あちこちで狭いだのキツいだの、そんな声が上がる。

だが、温かい。家族のような繋がりを感じられる。ネプギアは幸せそうだった。

 

 

「……何だかいいなぁ、こういうの……」

 

「ネプギア?」

 

 

ネプテューヌが、自分の腕の中に収まっているネプギアの顔を見る。

先程の様な絶望に打ちひしがれた顔ではなく、幸せに満ちた顔になっている。

 

 

「……お姉ちゃんがいてくれて、いーすんさんがお母さんみたいで……お兄ちゃんが、その……私の旦那様みたいで……いいなぁって……」

 

 

家族と一つになれている喜びを、ネプギアは味わっていた。

互いの体を通じて伝わる温もりに支えられた彼女は、今度こそあの絶望に負けはしない。

それを確信した面々は安心を覚える。のだがその一方で―――。

 

 

(だ、旦那様って……ネプギアまで白斗の事を!?)

 

(お、お母さん……ですか……白斗さんがお父さんだったら、そういう関係に……)

 

(落ちる落ちるーっ!! ぐぬぉおぉぉっ!! 踏ん張れ俺ぇぇええッ!!)

 

 

気が気でない少女二名と少年一名。

 

 

「………ぐぅ………すぅ……」

 

「ってあれ? ネプギア?」

 

「寝てしまわれたようですね。 相当お疲れだったのでしょう」

 

 

その温もりに包まれたネプギアは、程なくして安らかな寝息を立てた。

精神的にも肉体的に限界に近かったのだ、疲れてしまうのは当然の事。そんな彼女の寝顔を見て、ネプテューヌは愛しい妹の頭を優しく撫でた。

イストワールも柔らかい微笑みを向け、白斗はネプギアの体を抱きしめてあげる。

 

 

「「「おやすみなさい」」」

 

 

三人はそう言って瞼を閉じた。

この家族で、今度こそ素敵な夢を見られることを信じて―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………―――あれ? 何ここ……真っ暗……」

 

 

気が付けば、ネプギアは一人真っ暗な空間に居た。

どこまでも広く、どこまでも寂しく、どこまでも冷たい空間。

あの温かな空気はどこにもなく、寒気すら感じてしまう。

 

 

「お姉ちゃーん! いーすんさん! ……お兄ちゃーん!!」

 

 

先程まで傍に居てくれた、愛しい人達に呼びかける。

だがネプギアの声が寂しく響き渡るだけだ。何かに当たって反響しているのではない、彼女の大声が闇に消えていくような、そんな響き方。

声そのものにエコーが掛かっているかのようだ。

 

 

「―――まさか、さっきの夢の続き……?」

 

 

一つだけ突き当たる、この不可解な状況への答え。

あの悪夢の続きがここへと誘ったのではないか。

またあの絶望的な状況を目の当たりにするのではな―――心臓が、嫌な跳ね方をしたその時だ。

 

 

「……そうだよ。 でも、夢であって……夢じゃない」

 

「え……?」

 

 

そこに突如割り込んできた声。

ネプギアは、その正体をよく知っていた。少し声色が重苦しかったが、聞き間違えるはずがない。

何せその声は―――いや、そこにいたのは―――。

 

 

「……私……!?」

 

 

ネプギア自身、だったのだから。

 

 

「……そうだよ。 正確に言えば……パラレルワールドの私、かな」

 

「あ、なるほど。 理解した」

 

 

機械に強いネプギアだけあって、パラレルワールドの存在をあっさり受け入れてしまった。

思い込みの強さというか、素直さも彼女の魅力の一つだろうか。

ただ、目の前のネプギアはどこか違う。目は虚ろで、顔はやつれている。そしてその手には、あの忌々しき“魔剣”が―――。

 

 

「ってちょっと待って!? 貴女、その手にしてるのって……!!」

 

「……そう。 魔剣ゲハバーン……私はね、これを使って……お姉ちゃん達を、こ、殺し……ちゃったの……」

 

 

今分かった。

何故、目の前のネプギアはこんなにもボロボロなのか。そして何故先程まであのような悪夢を見せられてしまったのか。

 

 

「……貴女が、あんな夢を見せていたの?」

 

「意図して見せていたワケじゃない……でも、そうだよ。 だって……貴女が、羨ましくて……私じゃ、どうにもできなくて……」

 

「え?」

 

 

そう言えば、あの夢ではネプテューヌを殺した場面で終わっていた。

もうあれ以上の絶望はない―――そう思っていたのだが、まだ何か続きがあるというのか。

やつれ切ったネプギアは、過去を引きずるかのように話を続ける。

 

 

「……この剣で、犯罪神は倒せた……いや、犯罪神はわざと倒されただけだった……。 たった一人の女神に統治された世界は、争いも発展も成長も無く、停滞し……衰退していくだけだって……」

 

「……その通りに、なっちゃったんだ?」

 

「うん……。 お姉ちゃん達の犠牲が……無駄になる……そう思ったら、どうしようもなくて……もう、限界で………っ!!」

 

 

―――彼女は未だに苦しんでいたのだ。

大好きな姉を殺したことで出口のない地獄へと堕ち、そして落ちた先でもその姉の犠牲が報われない結末が待っている。

同じ“自分”だから、ネプギアには分かってしまった。だが目の前のネプギアはそれだけでは止まらない。

 

 

「だから……だからっ!! “あの人”が教えてくれたこの方法しかないのっ!! もう私が……貴女になって、お姉ちゃんを手に入れるしかっ!!」

 

「えっ!?」

 

 

なんと、女神化を果たしたのだ。

女神化したネプギアは白いレオタードタイプのプロセッサを纏っている。そこまではいい。

だが彼女は、あろうことかゲハバーンでネプギアに切りかかってきたのだ。咄嗟にビームソードを取り出し、受け止めるも。

 

 

「うっ!? ああああぁぁぁぁぁっ!!? ……げほっ、ごほっ!!」

 

 

余りの威力に受け止めきれず、地面を激しく転がる。

何とか立ち上がったが、激痛と言う激痛が体中に刻み込まれ、呼吸すら困難になってしまう。

 

 

「……もう、ダメ……ダメなの……。 お願い……私が、お姉ちゃんを守るから……絶対に、守るから……私に、譲って……譲ってよぉ……」

 

 

虚ろな目で、泣きながら、夢の中のネプギアはゲハバーンの切っ先を向けた。

間違いない、彼女は今のネプギアを殺すつもりでいるのだ。そして成り代わることで姉を―――幸せな人生を手に入れようとしている。

気持ちは痛いほどわかる。もし、自分がそうなってしまったら同じことを考えてしまうだろうから。

 

 

「……でも、ダメだよ……。 私だって、今あるこの幸せを手放していい理由には……ならないよ!!」

 

 

だが、ネプギアは譲らなかった。

あの温かな場所は自分の場所であって彼女の場所ではないから。悲しいけれども、そこを履き違えはしない。

強い眼差しで、彼女は夢の中のネプギアを否定する。

 

 

「……やっぱり、そう来ちゃうんだ。 もういいよ……だったら……だったらぁっ!!!」

 

「っ!!?」

 

 

夢の中のネプギアは激昂し、ゲハバーンを構えて接近する。

ただでさえ女神化しているのだ、そのスピードは桁違い。あっという間に肉迫し、魔剣が振りかぶられる。

もし、あの唐竹割を受けてしまえば――――。

 

 

(お姉ちゃん……いーすんさん……ユニちゃん、みんな………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………お兄、ちゃん――――)

 

 

防ぐことも、避けることも出来ない。

まるで走馬灯のように、ネプギアは愛する人たちの顔を脳内に浮かべた。

迫りくる禍々しき刃、それを受け入れるかのようにただ、ひたすら見つめて―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ネプギアァアアアアア―――――――――――ッッッ!!!!」

 

「「っ!!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――絶望を打ち砕く、力強くも温かい声。

夢の中のネプギアは、この声を知らない。でも、今のネプギアはこの声を知っている。

先程ようやく自覚し、そして愛してやまない人の声なのだから。

力強さと温もりがネプギアを包み込んだと思いきや、一気に体が引き込まれる。誰かがネプギアを抱え、唐竹割を避けたのだ。

その誰かとは――――。

 

 

「ハァッ……ハァッ……! だ、大丈夫か……ネプギア……」

 

「お、お兄ちゃん……お兄ちゃん!」

 

 

彼女が兄と慕う少年、黒原白斗だった。

夢の中だというのに、助けてくれた。

今の彼はこの中で一番汗をかき、呼吸を乱している。それだけネプギアの事が大事で、必死に守ろうとしてくれた。ネプギアはたまらず、涙と共に抱き着いた。

 

 

「……ったく、寝たと思ったらこの謎空間に居て、そんでネプギア同士が争って……」

 

「え? どっちが私か……分かったの……?」

 

「妹を見分けられない兄がいるかよ」

 

 

そしてネプギアを守るように一歩前に出る。

以降は振り向かなかったか、逞しいその背中に守られ、ネプギアは頬を赤く染めた。

 

 

「一体何が何なんだ、この状況は……」

 

「……なんでも、ゲハバーンを使っちゃった私……なんだって……」

 

「……そう言うことかよ」

 

 

白斗は厳しい視線を、夢の中のネプギアに向ける。

相手が女神であっても怯まず、逆に睨まれたネプギアは「ひっ」と悲鳴を上げながらも必死にゲハバーンを構える。

その手は、恐怖に揺れていた。

 

 

「な、何ですか貴方は……!! 邪魔しないでください!!」

 

「そうはいかない。 ……妹を傷つける奴は、例え別のネプギアであろうとも許すわけにゃいかないんでね」

 

「い、妹……? ……そっちの私は、そんな人までいるなんて……っ!」

 

 

ギリ、と歯軋りをしている。

一体何に対しての怒りなのか、恐怖なのか。負の感情しか伝わってこない。

だが白斗はナイフを構え、冷静に戦うべき相手を見つめる。

 

 

「だ、ダメだよお兄ちゃん! 逃げて……!!」

 

「ヤダね。 ……妹を守るのは兄の務めだ。 それに言ったろ? ……ネプギアが間違ったことをしたのなら、殴ってでも正してやるって」

 

「お、お兄ちゃん……まさか……?」

 

「ああ。 あのネプギアを正してやる……絶対に」

 

「―――!! 出来っこないくせにぃいいいいいいいいいいいっ!!!」

 

 

愛する妹を守るため、そして別世界と言えど同じネプギアを救うため、白斗は戦うことを決意する。

それがより逆鱗に触れたのか、夢の中のネプギアがゲハバーンを振るう。

 

 

「うおっとぉ!! どうした、お前の力はその程度か!!?」

 

「舐めないでええええええええ!!! 私が……私がどんな思いをしたのか知らないくせにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」

 

「知りたくもねぇよ!! 皆を殺してまで掴んだ平和だの苦しみだの!!!」

 

 

ゲハバーンを滅茶苦茶に振るうネプギア。

白斗はその剣筋を何とか見切り、屈み、飛び上がり、後ろへ下がって回避する。今の彼女は感情の赴くままに刃を振るっているだけだ。

技術もへったくれもあったものではない。故に白斗もまだ避けられる。

 

 

「大体、お前は何をしたかったんだ!? 何をどうしたかったんだ!? それをちゃんと皆に言ったのか!!?」

 

「っっっ!!! 言えなかった……言えなかったのぉッ!!!」

 

「今もか!? 偽りの平和を掴んだ後ですら言わないのか!!? 誰でもいい、お前の思いの丈をぶつけもしなかったのか!!?」

 

「だから今っっ……こうやってぶつけてるのおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 

滅茶苦茶に振るわれるゲハバーン。

振るう度に凄まじい衝撃波が巻き起こる。女神七人分の命を吸って生み出されたというその力に偽りはない。

それでも白斗は決して諦めることは無く―――

 

 

「がっ!?」

 

「お兄ちゃん!?」

 

 

だが、足が取られてしまった。

余りの威力に力が抜けてしまったのか、倒れ込んでしまう。そこに振りかぶられる魔剣―――。

 

 

「やめなさいッッ!!!!!」

 

「え―――――」

 

 

その一撃を、別の人物が受けた。

凛とした美しい声と佇まい、そしてあの大太刀―――。

 

 

「お、ねえ……ちゃん…………」

 

 

どちらのネプギアにとっても、大切な姉。

女神パープルハートことネプテューヌだった。彼女までもがこの夢の中に来ていたというのか。

信じられないという表情で、ゲハバーンを握る手を緩める夢の中のネプギア。

 

 

「―――話は大体聞いたわ。 あちらのネプギアも……苦しかったのでしょうね」

 

「……そう、だよ……。 だから、お姉ちゃん……私と、一緒に……!」

 

「でも、だからってこんなやり方はダメよ。 ―――こんなやり方では、死んでいった私達だって報われないわ」

 

 

ネプテューヌも事情を大体把握していた。

だからこそ、あのネプギアのやり方を肯定するわけにはいかない。何よりも姉を求めていたネプギアにとって、否定の言葉は心に突き刺さるもの。

ただでさえ崩れかけていた心が今、完全に崩された―――そんな気すら感じて。

 

 

「あ、あぁああぁああぁ……や、めてよ……否定、しないで……一人にしないでえええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」

 

「ううぅぅっ!!?」

 

「ネプテューヌッ!!!」

 

 

力任せに振るわれた魔剣が、ネプテューヌを薙ぎ払う。

規格外の威力に抑えきれず、ネプテューヌは地面を転がるが白斗がすぐに受け止めた。

 

 

「……やめなさい」

 

「…………!?」

 

 

その光景を目の当たりにし、尚且つ看過できなかった一人の少女が立ち上がる。

こちらのネプギアだ。今も尚女神化は出来ず、手にしたビームソードは壊れかけている。それでも、その瞳に揺らぎはない。

 

 

「……どんな理由があっても、お兄ちゃんを……お姉ちゃんを傷つけていいはずがない」

 

「だ……って……私には、これしか……」

 

「違うよ。 貴方は他を選ばなかっただけ……弱すぎただけなんだよ」

 

 

壊れかけたビームソードに、エネルギーを集中させる。

眩いまでの白い光―――シェアエネルギーが集う。すると、今までとは違う色合いの、光の刃になった。

 

 

「ネプギア……行け。 魔剣も、あいつの心の闇も……断ち切ってやれ」

 

「貴女ならできるわ。 だって……自慢の妹なんですもの」

 

 

あの魔剣の前には手も足も出なかった白斗とネプテューヌ。

それでも二人は、愛する妹の勝利を確信していた。

 

 

「……私、やっとわかったの。 シェアは想いを形にする力……だから女神と言う一人の命すら生み出せるんだって……」

 

「だ、だから……何!?」

 

「……本気で想えば、魔剣なんて……犯罪神なんて、バッドエンドだって断ち切れる!! 私は、この力で……貴女を断つ!!!」

 

 

今のネプギアに迷いなど無い。

女神化など出来なくても、女神の力がある。全ての想いを剣に集結させ、生み出した光の刃は―――魔剣のそれよりも大きかった。

言うなれば、シェアの力全て集結させた聖剣とでもいうべきか。

女神化を果たしている夢の中のネプギアは、震える手で何とか魔剣を構え直す。

 

 

「……できるワケ……できるワケないよおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

「やるったら………やるのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 

魔剣と、聖剣。

二つの刃は凄まじい衝撃を伴ってぶつかり合い――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――見事に切り裂かれた魔剣の刃が、地面に突き刺さった。

 

 

 

「ぁ…………」

 

 

 

失意、そんな表現しか出来ない表情と共に夢の中のネプギアは崩れ落ちた。

彼女には傷一つ付いていない。それでも、今のネプギアに勝てる気など全く起きなかった。

ネプギアは光を収め、大きく息を吐いて崩れ落ちようとするが。

 

 

「おっと! ……カッコ良かったぜ、ネプギア」

 

「ええ。 ……さすが私の妹ね」

 

「お兄ちゃん……お姉ちゃん……」

 

 

咄嗟に白斗とネプテューヌが、その背中を支えた。

そして喜び合う三人。確かな絆が、そこにあった。一方、それを見せつけられた夢の中のネプギアは、絶望に震え、涙を地面へと落とす。

 

 

「……うっ、う……ど、して……わた、しは……私は………あんな、ことを……!!」

 

「ネプギア……」

 

 

ネプテューヌが、悲しそうな声を上げた。

幾ら別世界とは言え、同じネプギアだ。しかも彼女は使命のために姉の命を自らの手で奪ったのだ。

何とか元気づけてやりたい。ネプテューヌは声を掛けようとするが、言葉が見つからない。だが、白斗は彼女に近づくと。

 

 

「ほい、拳骨っ!!」

 

「~~~~~~ッ!!?」

 

 

その脳天に、拳骨一発。

鈍い音が響き渡り、思わずネプテューヌやこちらのネプギアまで頭を押さえてしまった。当然受けた夢の中のネプギアも、痛みに悶えているのだが。

 

 

「……ネプギア。 間違いは正せる。 そう思わないか?」

 

「………え?」

 

 

肩に置かれた温かな手が、彼女の顔を上げさせた。

そこに、あの厳しい顔をしていた少年はいない。優しい兄の顔をした少年だった。

 

 

「お前はきっと、知らず知らずのうちに罪から逃げてしまった。 そして罪と向き合えるだけの力を持てなくなってしまった……それだけなんだ」

 

「力……って……」

 

「きっと、そんな世界でもお前を助けてくれる人がいるだろ? そして助けてくれる人を、お前は作ってこなかった……そうだろ?」

 

 

そこで夢の中のネプギアは、言葉に詰まってしまった。

あちらの世界でも、イストワールやアイエフ、コンパと言った生き残った仲間達。そして嫌味交じりながらもケイが協力してくれた。

しかし罪の意識からか、それすらも疎遠になりつつあったのだ。

 

 

「そうね。 でも、こちらのネプギアが見せてくれたでしょう? ……人々の想いこそシェアの源、人々の想い次第で何でもできるって」

 

「おねえ、ちゃん………」

 

「こんな夢の中の邂逅だけど……私のシェアをあげるわ。 貴女はこれを基に人々の想いを集めなさい。 そして……奇跡を起こすの」

 

 

ネプテューヌは、その胸から光の塊を取り出して彼女の手に預けた。

シェアエネルギーだ。ただでさえ、プラネテューヌのシェアは少ないというのに、それを微塵の躊躇いもなく差し出してくれたのだ。

 

 

「……できる、のかな……」

 

「出来るって信じなければ、何も出来はしないわ。 ……私は、信じてるから」

 

「だな。 ちゃんと間違いだって教えたし、俺も信じてるぜ」

 

 

白斗も同じだった。

彼は女神では無かったため、直接的なシェアをあげることは出来ない。その代わり、彼女を信仰した。

信仰こそシェア、女神の力の源なのだから。

 

 

「……ねぇ、もう一人の私。 今度こそ皆に話してみて。 そして……みんなの想いを一つにして。 それこそが、本当のシェアの集結……本当の奇跡だから」

 

 

そして、死闘を制した今のネプギアが微笑んでくれる。

今分かった。あの聖剣と呼べる力は、全ての想いが集ったからなのだと。だから魔剣など、目でもない力が生まれた。

あの力を目の当たりにしてしまえば、もう信じるしかない。

夢の中のネプギアは、そこで涙と共に初めて微笑み―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――ありがとう――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな一言と共に―――光の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――次の日。

誰よりも早く目覚めたネプギアは、凄く晴れやかな顔をしていた。続いて起きた白斗とネプテューヌ、そしてイストワールもそれを見てもう何の心配もいらないと安心する。

ネプギアは今度こそ、リーンボックスに向かう姉を快く送り出し、新しい朝日を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更にそれから三日後。

とあるダンジョンで、その魔剣は眠っていた。

魔剣の名は「ゲハバーン」。犯罪神すらも滅ぼせる、恐ろしき魔剣。その恐ろしきの出どころは、女神の命を奪うことで鍛えられるという代償から。

その恐ろしき魔剣は今――――。

 

 

「ドォウラァ!! ドォウラァ!! ドォウラァ!!」

 

「925!! 925!! 925!!!」

 

 

意味不明な掛け声をする白斗とネプテューヌによって、粉々に打ち砕かれていた。

そう、魔剣は最早「魔剣だったもの」へと成り下がっている。

白斗とネプテューヌは、詳細な調査の元、魔剣の在処を探し出すことに成功した。そして、最悪の可能性を生み出すそれを、迷うことなく破壊したのだった。

 

 

「ふぅ……こんだけ粉々に砕きゃいいだろ」

 

「うん! あー、スッキリしたっ!!」

 

 

いいことをしたと言わんばかりに汗を拭う二人。

これでもう、女神の命を犠牲にするという選択肢はない。選ぶことも出来ないが、後悔など元より無かった。

 

 

「……これでもう安心だぞ、ネプギア」

 

 

そして白斗は、後ろで控える少女に微笑んだ。

少女の名はネプギア。ネプテューヌの妹にして、白斗の妹分である。粉々に砕かれたそれを見て、ネプギアは尚更安心した顔を向けてくれた。

 

 

「……うん、うん!! ありがとうお姉ちゃん、お兄ちゃん……!!」

 

「約束したからな。 さーて、気分もいいし、今日は俺が奢るからなんか食いに行くか!!」

 

「お!! さっすが白斗!! だったら週末にしか開かないチリドッグがね……」

 

 

これで愛する妹の悩みの種が一つ消えた。

清々しい気分と共に食事誘う白斗。その彼の片腕を絡めとるネプテューヌ。

 

 

「むーっ!! お姉ちゃんズルい!! 私もお兄ちゃんに抱き着くーっ!!」

 

「うお!? ネプギア、近いって!!」

 

 

そしてその反対側にはネプギア。

彼女は頬を擦り寄せる。大好きな兄に、そして大好きな“男の人”に―――。

 

 

 

 

 

(……こんなの、惚れるなって方が無理だよ……お兄ちゃん♪)

 

 

 

 

 

恋心を自覚したネプギアは、とても幸せそうだった。

 

 

「……そういやさ白斗、あっちのネプギアは大丈夫かな?」

 

「大丈夫だよ、きっと。 だって主人公オブ主人公のお前の妹だぜ? 主人公補正で幾らでも奇跡を起こせるっての」

 

「アハハ、お兄ちゃんまでメタ発言ー!!」

 

 

二人の美少女に挟まれた少年。

けれども、とても幸せで、とても仲が良かった。彼らはボロボロにされた魔剣など一切目を向けずに、それに背を向けて光へと歩いていく―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そしてここは、どこかの次元。

嘗てプラネテューヌ、ラステイション、ルウィー、そしてリーンボックスという四つの国で統治されたゲイムギョウ界。

そこに犯罪組織なる者が世界を支配しかけ、その支配から抗った結果―――とある女神を除く全ての女神の犠牲により、世界は救われた。

 

 

 

 

―――その世界で唯一の女神となってしまった少女は、今。

 

 

 

 

「お姉ちゃーん!! 早く早くー!!」

 

「ま、待ってよネプギアー! ノワール達だってまだ……ねぷぅーっ!!」

 

 

 

再び、愛する姉と共に歩みだしていた、

これはきっと、数ある可能性の中の一つ。ご都合主義なのかもしれない。有り得ないと呼ばれてもおかしくない。

でも、これがきっと彼女の望んだ世界なのだから。今はただ見守っていこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――紫の妹は、魔剣を断ち切った。何故ならそんな呪いはもう、必要ないから。




ギリギリセーフ!!
ということで今年最後の更新、ゲハバーンとそれに関するお話、そしてネプギアちゃんにもフラグが立つお話でした。
二次創作においてこのゲハバーンの扱いは悩みましたが、フラグもバッドエンドもぶち壊すもの。ぶっちゃけ私、あのエンドを見て吐き気が止まりませんでした。
だからこそ幸せになって欲しいと思い、今回このお話を書きました。そしてこれが2019年最初の投稿では余りにも重すぎるので、今年最後として必死に書いてきました。
最後の辺りはご都合主義と呼ばれようが構いません。だって、ハッピーエンドが一番なんだもの。
次回はマベちゃんのお話にしようかと思います。お楽しみに!!
そして皆さま、来年もよろしくお願いします!!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。