恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART   作:カスケード

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第二十九話 ニニンが忍のマベちゃん

―――プラネテューヌ。

科学技術が発展したこの街は、とにかく娯楽に溢れていた。

ぐうたらな女神の影響を受けてか遊ぶことに関しては四ヶ国一と呼ばれ、お洒落なカフェなども多く遊び場として重宝されている。

そんな発展した街の昼下がり、白斗とネプテューヌは―――。

 

 

「もぐもぐ……ん! さすがネプテューヌオススメのチリドッグ、道楽でやってる店なだけあって素晴らしい味……」

 

「でしょー? まぐまぐ……」

 

 

以前訪れたことのあるチリドッグを頬張っていた。

今日もどうやら二人で遊びに出かけているようだ。初めてのデート以来、二人で出掛けることが多くなり、その前日になると遊ぶ時間を作るためネプテューヌは張り切って仕事をする。

これにはイストワールも舌を巻き、「たまにでしたら」と認めてくれているのだ。

 

 

「さて、軽く頬張ったところで次どこ行くよ? もう結構回ったが……」

 

「甘いよ白斗! プラネテューヌにはまだまだ遊べる場所が沢山あるんだから!」

 

「マジか。 俺が見ていたのは氷山の一角に過ぎなかったのか……」

 

「今度は夜の街に遊びに行くなんてのもいいかもー! ちょっとオトナな気分♪」

 

「………ネプテューヌは門前払いされそうだな」

 

「むかーっ!! それどういう意味ー!!?」

 

 

見た目的な意味で、とは敢えて口に出さず白斗はカラカラと笑う。

尚更頬を膨らませるネプテューヌだが、こんな会話も楽しく感じている今日この頃。

次なる場所へと向かおうとした最中。

 

 

「……ん?」

 

「ねぷ? どうしたの白斗?」

 

「いや、あそこに見知った顔がいたよーな……悪いネプテューヌ、ちょっくら挨拶に行ってくるわ」

 

 

白斗の視線の先には、オープンに晒されたカフェテリア。

開放感溢れるその場所で楽しくお茶会をしている女性達。その中で見知った顔を発見したのだ。律儀な白斗は一言挨拶しようと近寄ろうとする。

ネプテューヌは当然知らぬ顔なのだが、よく見なくても相手は女性なワケで。

 

 

「お、女の子……! むむむ……また白斗ってばフラグ立てちゃって~……っ!!」

 

 

しかも相手は集団。さすがに全員と顔見知りということは無いだろうが、その中の一人とはわざわざ挨拶に向かう程の親密性を持っている。

恋する乙女としては面白くはないが、かと言って相手の素性を知らないままでいることも良くはない。敵を知ることもまた勝利の秘訣、ネプテューヌもズカズカと後をついていく。

 

 

 

 

 

―――さて、白斗が挨拶に向かっていった女性陣達とは。

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ、そろそろ教えてよマーベラス~」

 

「な、何かな……サイバーコネクトツー……? そんなに目をキラキラ輝かせて……」

 

 

今日もふんわりとした髪型と雰囲気が特徴的な少女、マーベラスが。

そしてその仲間である褐色肌と獣耳がチャームポイントである少女が訊ねてくる。

サイバーコネクトツーと呼ばれた少女は、少々意地悪な声色と表情で詰め寄った。

 

 

「いやぁ、このプラネテューヌに来たがってたワケ。 えらくご執心だったじゃん」

 

「え? そ、そんなに気になる?」

 

「そうだね。 別世界のプラネテューヌとそんなに大差ないのに、まるでこの国にしかないもののために来たような感じだったから」

 

「早めに教えた方が身のためにゅ」

 

「そうだぞー! 私のヨメが隠し事など許さないのだー!」

 

「もう! ファルコムにブロッコリー、それにREDちゃんまでー!!」

 

 

マーベラスは顔を赤くしながらブンブンと首を横に振る。

すらりとした快活な印象溢れる女性ファルコム、謎の生き物に乗っかる超小柄な少女ブロッコリー、更には小柄と赤色が特徴的な少女RED。

皆がマーベラスの仲間達だけに、そう言った事情には興味津々である。

 

 

「ふふん、ならば教えてやろう。 それはな、愛のためだ」

 

「ちょ!? MAGES.ってば余計なこと言わないで!?」

 

「愛ですか!? 聞きたいです~!!」

 

「もー!! 鉄拳ちゃんまでこんな時に限ってアグレッシブ!!」

 

 

すると別の席に座っていた魔女のような格好の女性、MAGES.が得意げに語る。

更に食らいつくのは鉄拳と呼ばれた、名前とは反して優し気な風貌の少女。普段は控えめという印象なのだが、所謂恋バナに敏感になっている辺り、年頃の女の子である。

 

 

「愛……つまり、この街に好いている男がいるということだね!」

 

「なぬーっ!? ヨメは私のヨメなのにー!!」

 

「ファルコムもREDちゃんも騒がないでー! ホラ、どんどん視線が集まってるー!!」

 

「だったらさっさと白状するにゅ」

 

「う、うー………」

 

 

MAGES.の発言一つで大騒ぎ。

ファルコムの推測が更に火をつけ、ヒートアップどころか大暴走。気に入った女性を「嫁」と呼ぶREDがいきり立ち、ブロッコリーが追い打ちをかけるという完璧な連携プレー。

マーベラスは指先をつんつんと付き合わせながら、恥ずかしそうに顔を赤らめる。

 

 

「好いている、ってのは……まだ分からないんだけど……。 ルウィーの時に凄くお世話になった人がいて……その後も、その人と話すと楽しくて、嬉しくて……ちょっと、顔を見たくなっちゃうって言うか……そんな感じだよ、うん……」

 

 

もじもじ、としながら語るマーベラスの姿が何とも可愛らしく映る。

その時、誰もが思った。

 

 

(((((恋する乙女じゃん)))))

 

 

―――と。

 

 

「で、そんなマーベラスが必死に調べて、白斗が住んでいるのがこのプラネテューヌだとかぎつけたワケだ」

 

「だから横槍入れないでよMAGES.! って言うか名前まで……!!」

 

「へぇ、白斗さんって言うんですか」

 

 

更には狙ったように、いや明らかに狙って一言添えてくるMAGES.。

名前まで完璧に覚えられてしまい、仲間達からのじっとりとした視線が絡みついて離さない。

苦し紛れに飲んでいたジュースもすっかり底をついてしまい、もう後がない。

 

 

「い、いや! ちょっと白斗君とお話出来たらなーって思っただけだよ!? それにこんな広い街で白斗君と都合よく再会できるワケないって!!」

 

「俺が何だって?」

 

「そうそう、こんな風に都合よくひゃあああああああああああああああああああ!!?」

 

「……もう驚かんぞ、このリアクション」

 

 

甲高い悲鳴を上げてしまうマーベラス。何せ、意中の少年の声がいきなり降りかかってきたのだから。

意中の少年―――白斗は困ったように溜め息を吐いていた。

 

 

「な、なななな何でここに!?」

 

「いや、お前の顔を見つけたから」

 

「は、はわわわわわぁ………!!?」

 

 

会いに来たのは、そんな単純な理由だった。

だというのに、そんな彼の言葉や行動がマーベラスの言葉に響いてしまう。そしてその笑顔も。

だがそれだけではないらしい、懐に手を伸ばした白斗は何かを取り出す。

 

 

「それとこれ。 お前のだろ?」

 

「あ、私のハンカチ! 無くしたと思ってたのに……」

 

「リーンボックスの教会で落ちてたの拾ったんだ。 んで、いつでも返せるようにとポケットにしまっておいたところお前を見つけて返しに来たってワケ」

 

「……わざわざ、持っててくれたの……?」

 

「ああ」

 

「……ありがとう……」

 

 

白斗からすれば当たり前のことだ。世話になった彼女のためにできる些細なことをしただけ、故に大したことだとは思っていない。

確かにこのハンカチ自体に大した値打ちは無く、マーベラス自身も思い入れがあるわけではない。でも、白斗の真摯さに触れることが出来た一品になってしまった。

おずおずと手を伸ばして受け取ったハンカチからは、彼の温もりが伝わる。

 

 

「へぇ、君が白斗か~……確かにマーベラスが好きそうなタイプだね」

 

「むむむ……確かにちょっとカッコイイ……。 でもヨメは渡さないのだー!」

 

「お、本人登場とは面白い展開。 これは本のいいネタにできそうだ」

 

「ふーん、こいつが噂の白斗かにゅ。 ……面白そうではあるにゅ」

 

「何だかいいお兄さんって感じがしますね~」

 

 

一方、この僅かなやり取りでマーベラスの仲間達は大体悟った。

白斗との距離感、そしてマーベラスの想いが今は一方通行であることを、けれども白斗はマーベラスに対して好感を抱いてくれていることも。

 

 

「相変わらずの女誑しだな白斗」

 

「そう言う物言いは止めろってMAGES.……ん? お前がいるってことは、このテーブルに居る子達って……」

 

「ああ、紹介が遅れたな。 私達の旅仲間だ」

 

 

意地悪そうな笑みを浮かべるMAGES.。

そんな彼女の視線の先に居た女の子達。彼女達こそ、以前言っていたマーベラス達の旅仲間である。

確かに個性豊かな人達だと白斗も納得した。

 

 

「コラー!! 白斗ぉー!! 一体何人の女の子にフラグを立てれば気が済むんじゃぁー!?」

 

「立ててねぇわ!! 変なことを言うんじゃねぇよネプテューヌ!!」

 

 

そこへ駆けつけてきたネプテューヌ。

正確には少しだけ様子を見ていたのだが、マーベラスとは明らかに友達以上恋人未満の関係性であると見抜き、看過できなくなった。

 

 

「あ、ネプちゃんだ!」

 

「ホントだ、ネプ子にゅ」

 

「やっぱり、こっちの世界にもいたんだね」

 

「ねぷ!? 私の事までリサーチ済み……本気で白斗を手に入れようと……!?」

 

「ワケの分からんことを言うな!! あー、実はだな……」

 

 

ネプテューヌの登場に反応を示すマーベラス達。

何を隠そう、彼女は異世界でのネプテューヌ達と出会ったことがあるからだ。だが当然、この次元のネプテューヌはそんなこと知る由もないため勘違いが加速していく。

このまま放ってはおけないと白斗が事情説明し、何とか落ち着いてくれた。

 

 

「へー、そうだったんだ! 別次元の私と……」

 

「うん! こっちのネプちゃん達も相変わらずで何よりだよ。 と、言うことで改めましてマーベラスAQL! 気軽にマベちゃんって呼んでね!」

 

「うん、よろしくマベちゃん! あ、これ私のメアドだよー!」

 

 

元々互いに明るく人懐っこい性格なだけに互いの事を知り合えば即仲良しになれる。

早速メールアドレスまで交換してしまうくらいだ。

誰とでも友達になれる、これはネプテューヌの特技の一つ。

相手にその気にさせるだけではなく、自分が心の底から相手を受け入れる。白斗が尊敬し、愛してやまないネプテューヌの魅力の一つだ。

 

 

「さて、マーベラスの事は知ってもらえたけど他の皆の事は初対面だったな。 折角だから自己紹介だ。 改めて、黒原白斗です。 今はネプテューヌのところでお世話になっています」

 

 

MAGES.を除く面々は、白斗にとって初対面である。

ここでこちらの世界のネプテューヌと交流を持ってくれた以上、自身の事も知っておいてもらいたいと自己紹介する。

あくまで初対面なので、礼儀正しく。

 

 

「そんな畏まらなくてもいいよ。 私はサイバーコネクトツー! よろしくね!」

 

「あたしはファルコム。 冒険家をしているよ」

 

「ブロッコリーにゅ」

 

「わ、私……鉄拳って言います。 よろしくです……」

 

「全世界の可愛い子は私のヨメ! REDちゃんなのだー!」

 

 

紹介の仕方一つで各々の個性が伝わってくる。

いい仲間に巡り合えたのだな、と白斗は少しだけマーベラスが羨ましくなったがすぐにその考えを捨て去る。

何故ならば、白斗の傍には最高の女神様達がついているのだから。

 

 

「そうだ白斗! 私のヨメとどんな出会い方をしたのか、説明を要求する!」

 

「よ、嫁って……説明してなかったのかマーベラス?」

 

「あ、あぅ……だって、恥ずかしいもん……」

 

 

どうやら自分の気に入った子を取られてしまうのが納得がいかないらしい、REDが吠える吠える。

小さい子相手には強気に出られず、マーベラスに助けを求めるような目をするが対する彼女は可愛らしくもじもじしているだけ。乙女である。

 

 

「さぁ、説明するのだー!」

 

(……って言うかこの子、小さいのに出てるトコ出てるな……それに比べネプテューヌときたら……)

 

「はーくーとぉー? ……何やら失礼な視線を感じたんだけど気の所為カナー?」

 

「気ノ所為ダヨー、ハハハー」

 

 

乙女は地雷センサーには滅法敏感である。

皆さんも、日常会話に潜む地雷には気を付けましょう。

 

 

「まぁいいや、ルウィーやリーンボックスで世話になったってだけだよ」

 

「違うよ! 助けられたの私の方なんだから!」

 

 

呆気ない説明で終わらせようとする白斗。

さすがに見過ごせなかったマーベラスが大声で否定する。確かにあの時は大変だったが、白斗との出会いは彼女にとってとても大切な思い出なのだ。

ただ、そんな少ない単語でも仲間内の情報は伝達してあるためファルコムはすぐに思い当たる。

 

 

「ルウィー? それって、MAGES.がスルイウ病にかかった時の?」

 

「そうだ。 薬草探しの最中、モンスターに襲われていたところを助けられたばかりか、特効薬の材料を譲ってくれたらしい」

 

「あー……それは確かに惚れてもおかしくないなー、うん」

 

 

そこに当事者であるMAGES.が説明に加われば説明も付く。

すっかり納得してしまったらしい、サイバーコネクトツーもうんうんと頷いた。

尤も見ての通り白斗は鈍感であることもすぐに察したため、あくまで彼に聞こえぬよう小声で話しているが。

 

 

 

 

「ルウィー? ……ああ、ブランの件で白斗が無茶した時のことかー」

 

 

 

 

ただ一人、事情をよく知らないネプテューヌがそんな一言を発した。

 

 

「……え? ブラン、様……? まさか、ブラン様も……」

 

「あ、ちょ、ネプテューヌ!? その話は……」

 

「……ねぷ!? まさか白斗、言ってないの!?」

 

 

しまった、と思った時にはもう遅い。

慌てて彼女の口を閉ざしたとしても、マーベラスの耳にはしっかりと入っている。

以前、彼女に特効薬を渡した際には「金目のものになると思っただけだから」と適当な嘘で誤魔化していたのだ。

けれどもネプテューヌを責めることなど出来ない。事の発端は白斗が真実を伝えていないからである。

 

 

「白斗君……どういう、こと?」

 

「……まぁ、ああ言わないと受け取ってくれない雰囲気だったからな。 でも二本目あったし、特に問題ナッシングよ。 実際ブランも助かったし、お前も見たろ?」

 

 

詰め寄ってくるマーベラス。

その様子は混乱している―――というよりも、後悔の念で満ちているようだった。

素直な彼女であるだけに、真実を重く受け止めようとしている。

白斗は出来るだけ彼女を苦しみから遠ざけようと言葉を選んでいた。二本目はその直後に見つかっているので、嘘ではないと言えば嘘ではないのだが。

 

 

「でも……無茶したって……」

 

「でぃ、ディース雪原に入ることが無茶ってなだけで……」

 

「ネプちゃん! どういうことなの!?」

 

「え!? え、えーっと………」

 

 

嘘ではないが、真実から遠ざけようとしていることは火を見るよりも明らかだ。

ならば事情を知っているであろうネプテューヌに聞いた方が早いと、彼女に視線を向ける。

ネプテューヌは素直な性格だ、強い言葉の前には嘘はつけない。白斗をちらりと見れば「話さないでくれ」と目で語ってはいたが。

 

 

「……白斗、ちゃんと言ってあげよう? 黙ってた方が……傷つくこともあるんだよ?」

 

「っ…………そう、だな」

 

「でも白斗自身にも話しづらいだろうから、私から話すね。 あの、ね……」

 

 

時折出る、ネプテューヌの女神としての言葉。

全く邪気の無い心の持ち主だからこそ出る、優しくも真っ直ぐ、的確な言葉。

正論を言われては、白斗に反論の余地など無い。目を重く伏せながらも、白斗は頷き、変わってネプテューヌが事情を説明した。

同じ日にブランもスルイウ病に掛かったこと、白斗が薬草探しに出掛けたこと、そして結果ブランの分も手に入れたものの、白斗が大怪我を負ったこと。

 

 

「…………………」

 

 

もう隠していることは何もない。

全てを聞き終えたマーベラスの表情は―――やはり重い。思いつめている。

トレードマークとでもいうべきあの笑顔が失われ、少し突けば崩れてしまいそうな危うささえある。

きっと彼女からすれば「ブランを助けるための薬草を譲ってもらった上にその後大怪我を負わせてしまった」という負い目を感じているのだろう。

姦しい彼女の仲間達も、どう言葉をかけていいか分からずに黙ってしまった。

 

 

「……マーベラス、黙っていてすまなかった」

 

 

それでも、事の張本人が言葉を掛けるべきだ。

今更、虫のいい話だとは思いながらも白斗は言葉を紡いだ。けれどもマーベラスはふるふると首を横に振る。

 

 

「…………ううん。 白斗君は悪くないよ…………悪いのは、私……」

 

「い、いや! それは違―――」

 

 

慌てて否定しようと言葉を掛けた。掛けてしまった。

それが反発心を生み出してしまったのか、マーベラスは机を盛大に叩いて。

 

 

「―――違わなくないッ!! 私っ……いつも、助けられてばかりで……なのに、救えないまま……手を伸ばせないまま……!! あの時、だって………―――ッ!!!」

 

 

泣きじゃくりながら、己の感情をぶちまけた。

まるで今まで溜め込んでいたものを吐き出すかのような、そんな怒涛の勢いに白斗は勿論、ネプテューヌ、果ては彼女の仲間達までもが圧倒される。

そして居ても立っても居られなくなったのか、弾かれるようにして店から飛び出していった。

さすがに忍者を名乗るだけあって、凄まじい身のこなし。あっという間に視界から消えてしまう。

 

 

「ま、マーベラス!! クソッ、すぐに探して―――」

 

「待って!!」

 

 

飛び出していったマーベラスの後を追おうとすぐに立ち上がる白斗。すると、白斗の手を誰かが掴んだ。サイバーコネクトツーだ。

快活な見た目に違わず、少女であることに反して握力も腕力も強い。それでも本気で振り払うことは出来たのだろうが、少しばかり低い体温が触れたことで多少冷静さを取り戻した。

 

 

「……今は気持ちの整理がついていないだけだから。 そっとしてあげて」

 

「…………そう、か。 皆、すまなかった…………」

 

 

自分の心に関する問題は、他人がおいそれと手を出していい問題ではない。

白斗は心苦しく思いながらも、彼女の言を受けて立ち止まる。

そして、折角の仲間同士の楽しい一時を壊してしまったことに対して謝った。だが今度はネプテューヌが必死にそれを否定してくる。

 

 

「は、白斗は悪くないよ!! 私が、私があんなこと言っちゃったから……」

 

「お、落ち着いてください~! 白斗さんも、ネプテューヌさんも悪くないですから……」

 

「そうだ。 ……実際、原因は私がスルイウ病に掛かってしまったことだからな」

 

「め、MAGES.も暗くならないで!」

 

 

慌てて元気づけてくれる鉄拳とファルコム。

責められるものかと思っていたが、マーベラスの仲間達だけあって心優しかった。

 

 

「とにかく、ここで切り替えした方がいいにゅ。 マーベラスのことはこっちに任せて、白斗とネプ子はデートを再開したらいいにゅ」

 

「で、デートって……でも……」

 

「ヨメの事はこのREDちゃんにお任せなのだ! 必ず立ち直らせて、また会わせてあげるから!」

 

 

ブロッコリーやREDがそう勧めてくれる。

確かに付き合いの長さで言えば、彼女達の方が上だ。マーベラスの事は彼女達の方がよく知っている。

白斗は少し悩んだが、ここに居ても自分にできることは無いと悟った。

 

 

「……ありがとう。 でも、何かあったら連絡してくれ」

 

「勿論だよ。 それじゃ、またね!」

 

 

ファルコムの爽やかな見送りを受けて、白斗とネプテューヌは店を出た。

だが、当然ながらデート再開出来るような雰囲気ではなく、二人は視線を落としたまま歩き続ける。

 

 

「…………ごめんな、ネプテューヌ。 あんなことになっちまって」

 

「ううん、私こそ……ごめんね……」

 

 

結局、そのままプラネタワーへと戻ってきてしまった。

ネプギアやイストワールからは暗い雰囲気から心配されてしまい、今日あったことを掻い摘んで話した。

やはりイストワールも、「彼女の仲間と時間先生にお任せしましょう」と言う他無く、二人を元気づけながら夕食の席へと案内するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、MAGES.からメールが届いた。「マーベラスが戻ってきた」と。

どうやら今日の一件で責任を感じているため未だ暗いが、今はホテルの自室で大人しくしてくれているとのことだ。

彼女が戻ってくれたことは嬉しいが、彼女の気分が未だ晴れていないことを知ると白斗の気分がさらに重くなる。

 

 

「…………ふぅ」

 

 

白斗はプラネタワーの屋上へと足を運んでいた。

高所だけあって、夜風が吹いている。この冷たい夜風に晒されながら美しいプラネテューヌの夜景を見るのが、白斗の憩いの時間の一つ。

けれども、今日に限って重いため息が夜風に流れていく。

 

 

「あ……白斗も来てたんだ」

 

「……おう、ネプテューヌか」

 

 

そこへネプテューヌもやってきた。

いつもの明るい笑顔は鳴りを潜め、少し疲れたような顔をしていた。それでもトコトコと近づいてくる姿は可愛らしい。

 

 

「……隣、いいかな?」

 

「年中フリーよ」

 

「ありがと……」

 

 

普段ならここで何かおふざけをかましてくるネプテューヌだが、さすがにそんな余裕はないらしい。

ポスン、と可愛らしい音を立てて座るや否やふぅ、とため息を付いた。

 

 

「……どうやら同じらしいな、俺ら」

 

「うん……」

 

 

本来であればここで何気ない会話を楽しんでいるのだが、それすらも出てこない。

原因は言わずもがな、昼間のマーベラスの一件である。

 

 

「……俺、もっと上手い事出来たのかな……」

 

「白斗……?」

 

 

星空を、いや虚空を見上げながら白斗は一人呟いた。

その声は、後悔の念で満ちている。

 

 

「あの薬草を渡す時、もっと上手い事言えてたら……それ以前にあんな怪我しなかったら、マーベラスを……それにネプテューヌを傷つけること無かったのにな……」

 

 

マーベラスの事だけではない、今日ネプテューヌを暗い気持ちにさせてしまったと白斗は心の底から悔いていたのだ。

白斗は事あるごとにネプテューヌを優しいと評しているが、それは彼もそうだ。ネプテューヌは、白斗がどこまでも優しい少年であると改めて知る。

だからこそ、その傷を抱え込もうとする白斗が見ていられなくて。

 

 

「そんなこと無いよっ!!」

 

「え?」

 

「傷ついたとか、白斗の所為だとか、そんなこと絶対に無い!!」

 

 

大声で、全力で、必死で、否定してくれる。

先程まで思い詰めていたネプテューヌも、力強い光を瞳に宿して、白斗に温かい視線を向けてくれた。

 

 

 

 

「私もすごく悩んだし、今は大変かもしれないけど……まだバッドエンドだって決まったわけじゃないよ! これからハッピーエンドにすればいいじゃん!!」

 

 

 

 

それが、彼女が出した結論だった。

起きてしまったことは変えられない。なら、その結果を最善のものにするように努力するしかない。

前向きかつ、的確で、女神らしいお言葉に白斗も顔を上げざるを得なかった。

 

 

「……私も頑張るからさ。 必要以上に責任を感じなくていいんだよ、白斗……」

 

「…………お前の言う通りだ。 ありがとな、ネプテューヌ」

 

「うん。 ……二人で、マベちゃんの力になってあげようね」

 

 

彼女の言葉に、どれだけ救われただろうか。

今だけではない。今までも、明るく優しい言葉にどれだけ心を救ってもらったことか。

ようやく白斗も笑顔と元気を取り戻し、前を見上げる。

明日、例えマーベラスから拒絶されようとも彼女の力になろう。彼女の笑顔を取り戻そうと決意したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――次の日、プラネテューヌは雨だった。

土砂降りも土砂降り、近年稀にみる大豪雨。

数十メートル先すら目視出来ず、増水による川の氾濫や洪水に対する警戒警報が出されていた。

 

 

「うわー……昨日まで天気よかったのに……」

 

「今日一日はずっとこんな感じなんだって」

 

「床下浸水などの被害も予想されます。 ネプテューヌさん、もし要救助者の存在が報告されたらすぐに救出に向かえるように準備してください」

 

「おっけー! 任せてー!!」

 

 

朝食を食べ終えた一同は、この豪雨への対策を進めている。

白斗も書類整理なりで手伝っていたのだが、正直な所身が入っていなかった。

 

 

(……雨、か……。 さすがに今日、マーベラスに会うのは止めといた方がいいか……ん?)

 

 

仕事を片付けてからマーベラスに会おうと思っていた矢先にこれだ。

こんな土砂降りの中では、さすがに向こうも会おうとはしないだろう。

ため息を付きながら白斗が書類の山を抱えようとした、その時。彼の胸から着メロが鳴りだす。因みに当然、5pb.の曲である。

 

 

「……MAGES.から……? もしもし?」

 

 

相手はMAGES.。所謂中二病的な言動の持ち主であっても、心は常識人だ。

そんな彼女がこんな朝早くから電話を掛けてくるとは、のっぴきならない事が起こったのかもしれない。

白斗は迷うことなく通話に応じる。

 

 

『白斗! 朝早くにすまない、そっちにマーベラスが行っていないか!?』

 

 

携帯電話から聞こえたMAGES.の声は、焦りに満ちたものだった。

冷静な彼女らしくない声に、何事かとネプテューヌ達も振り返ってくる。

 

 

「マーベラス? 来てないが……いないのか!?」

 

『ああ。 朝食に呼びに来たら、“探さないで”という書置きだけがあって……』

 

「探さないでって……まさかこの豪雨の中を!?」

 

『らしいんだ。 仲間達も探してくれているが、ホテルの中はいなくてな……』

 

 

白斗が窓の外を見る。相変わらずの豪雨―――いや、時間が経つにつれ雨が強まっている。

彼女達が滞在しているホテルの中にいないとすれば、ホテルの外しか思い浮かばない。

だがこんな豪雨の中を一人でうろつくなど、下手をすれば命に関わる。

 

 

『くっ……失念していた……! 今日が“あの日”だったのを……』

 

「あの日?」

 

『ああ、マーベラスは決まってこの日付に一人になりたがるんだ。 詳しくは語ってくれなかったが……何か辛い出来事があったみたいでな』

 

 

白斗はようやく思い当たった。

確かに昨日の出来事はマーベラスにはショッキングな出来事だったのかもしれないが、それに加えてまるで過去の自分を責めるような言動も見受けられた。

今日という日が近づいていたからなのだ。

 

 

「……分かった。 MAGES.、マーベラスを見つけたらすぐに連絡を入れる」

 

『見つけたら……って、まさかこの雨の中を探すつもりか!?』

 

「まさかもまさか。 ……“泣いている”女の子を、放っておけるかよ」

 

『泣いているって何故分かるんだ……? というよりも早ま―――』

 

 

ピッ―――。止めるのも間に合わず、白斗は通話を切ってしまった。

すぐさま黒コートを着込み、懐に必要なものを幾つかしまい込む。

 

 

「イストワールさん、すみません! 俺、野暮用が出来ましたんで行ってきます!!」

 

「ま、待ってください!! 事情は把握しているつもりですが、この雨ですよ!? 危険です!!」

 

「だとしたら尚更です。 ―――マーベラスが危ないんだ、放っておけるかよ」

 

「………っ」

 

 

マーベラスを迎えに行こうとする白斗を、イストワールが止めようとする。

数十メートル先すら見えなくなるほどの大雨だ、事故などで大怪我―――それ以上の事態に巻き込まれる可能性も否定できない。

それでも、彼の強き視線にイストワールは怯んでしまう。

 

 

「―――待って白斗。 私も行くわ」

 

「お、お姉ちゃんまで!? しかも女神化しちゃってるし!?」

 

 

後ろから凛とした声が。ネプテューヌのものだ。

それも女神化を果たした姿―――パープルハートになっている。

これが、彼女の本気。これこそが彼女の覚悟。

 

 

「決めたでしょ? 二人でマベちゃんの力になる、って」

 

「……ああ! イストワールさん、お願いです!!」

 

「いーすん、お願い!!」

 

 

二人して、頭を下げる。

真面目な白斗だけではない、あのネプテューヌすらも。友達思いな彼女だからこそ、躊躇うことなく。

誰かのために動けて、誰かのために戦える二人のこんな姿を見せられては、イストワールも笑顔で応えるしかない。

 

 

「分かりました。 これも人命救助、見過ごしてはいけませんね」

 

「……! ありがとう、いーすん!」

 

「ただし、白斗さんやネプテューヌさんも怪我をしないように。 みんなで、帰ってきてください」

 

「はい!!」

 

 

二人揃って約束する。そして迷うことなく、外へ出た。

プラネタワーから一歩出ただけで轟音が支配する世界へとやってくる。この雨の強さは想像の上を行ったが、そんなものでは今の二人は止められない。

 

 

「ネプテューヌ、西地区を任せていいか?」

 

「ええ。 白斗は東をお願い。 見つけたら即連絡するわ」

 

「OK、それじゃ……行くか」

 

 

白斗の一言を皮切りに、二人は豪雨の中を掛けて抜けていく。

女神化したネプテューヌであれば空も飛べるのだが、この豪雨では飛行も安定せず、視界不良ともなれば空を飛ぶ意義も薄い。

だからこそ、二人は走りながら街中を探し回る。

 

 

 

(マーベラス……!! 頼む、無事でいてくれ………!!!)

 

 

 

手足が千切れ飛ぶ勢いで、白斗は駆け抜ける。

マーベラスの―――あの笑顔を取り戻すために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザァァ――――。

まるで気持ち悪いノイズにすら聞こえる、轟音の雨。

触れれば体温が奪われ、その勢いも相まって最早冷たいを通り越して痛みすら感じるこの豪雨の中、一人の少女は当てもなく彷徨っていた。

 

 

「…………………」

 

 

マーベラスAQL。現代に生きる女忍者、くノ一。

だがそれを感じさせない出で立ち、そして明るい笑顔がトレードマークの少女。その笑顔は今、微塵さえ無かった。

この豪雨すら感じられないほどの冷たい表情。マーベラスの心の中では、後悔と罪悪感に満ちていた。

 

 

(……私、どうしていつも……大切な人を傷つけることしか出来ないのかな……)

 

 

心が闇に沈んでいく。沈んでいく度、言いようのない痛みが襲い掛かる。

けれどもそれすらも気にならなかった。

この痛みは当然の物だとして、受け入れてしまっているのだから。

 

 

(……数年前の、今日。 あの二人を助けられなくて……今度は白斗君を傷つけちゃって、私……そんなことも知らなくて……。 昨日だって、白斗君に八つ当たりみたいなこと言っちゃって……)

 

 

―――今日、この日付。例え世界が変わっても、この日付はマーベラスにとって重い意味を持っている。

知らず知らずのうちにそれが心に鎖となって縛り付けられ、彼女の心に暗い影を落としていた。

今、マーベラスの脳内ではその日付に起きた悲劇、そして白斗の顔がこの豪雨のように降り注いでいる。彼女の心を引き裂いた悲劇と、自分に起きる悲劇を承知の上で笑顔でいてくれた白斗に対し、彼女の罪悪感は毒のように蝕んでいく。

 

 

(……三人でゲイムギョウ界を守っていこうって誓ったけど……出来るのかな……。 白斗君をあんな目に遭わせちゃった私が……)

 

 

世界を守る。そしてその世界に生きる人たちを―――大切な人を守る。

そんな彼女の誓いは、崩れ去ろうとしていた。

 

 

(……二人の刀を貰って……名前も変えて、二人の大好きな笑顔でいたかったのに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……こんな日に笑顔になんて、なれないよ……っ)

 

 

笑顔―――トレードマークだったそれは、彼女にとっての誓いでもあった。

だが今だけは、その誓いを果たすことが出来そうにもない。

後悔が、痛みが、苦しみが涙となって溢れ出る。笑顔でいられないのなら、涙を隠したい―――そんな一心で、この雨の中飛び出してしまった。

 

 

(……………私は……………)

 

 

でも、今となってはどうすればいいのか分からない。何がしたいのかも分からない。右も左も、自分の気持ちさえぐちゃぐちゃに混ぜ合わさり、感覚がマヒしかけている。

目から光が失われかけ、過去のトラウマと白斗への懺悔が心を引き裂きそうになった―――その時。

 

 

「ニャー! ニャー!」

 

「…………え?」

 

 

この雨音の中でも、忍の聴覚は聞き逃さなかった。

か細く、弱々しいながらも助けを求める可愛らしい要救助者の声が。

思わず顔を見上げて、声のした方向に向かって走り出す。そこには川がある。この豪雨の影響で増水し、荒れ狂う濁流となっていた。

濁流は流木やゴミの塊なども運んできたが、その中で何かに引っかかり辛うじて止まっているボート。そしてその上で泣き叫んでいる猫が一匹。

 

 

「た、大変……っ!! でもどうすれば……!?」

 

 

尚も雨は強まっている。その影響で濁流の勢いも増し、更には助かろうと猫は大暴れ。

結果奇跡とも言えるバランスで止まっていたボートが傾きかけている。そうなればボートは転覆、猫も濁流に投げ出され、助からない。

一刻の猶予も無い。雨で目視すらままならない中、それでも必死に周りを見て考える。

 

 

(―――あの橋から飛び降りる? いや、あの猫の下までは距離がありすぎる。

 

 

 

 

 

 

 

―――ロープ使って川の中を泳ぐ? ダメ、ロープ程度じゃあの激流は無理……。

 

 

 

 

 

 

―――流木……そうだ!! これしかないっ!!!)

 

 

 

その中で唯一の活路を見出したもの、それは流木。

今、上流から勢いよく流れてきている流木が数本、あのボートの前を過ろうとしている。

大きく息を吸い込み、神経を研ぎ澄ませ―――。

 

 

「今だっ!!」

 

 

義経の八艘飛び、なるものをご存じだろうか。

小舟から小舟へと飛び移ったという身軽さが成せる業。現代のくノ一であるマーベラスは、まさにその八艘飛びを再現していると言わんばかりに流木から流木へ飛んでいるのだ。

そしてあっという間にボートへと飛び移り、猫を抱え上げる。

 

 

「よし、もう大丈夫だよ。 ちゃんと連れて帰ってあげるからね」

 

「ニャー……」

 

 

不安そうな声を上げる猫。

無理もない。行きは良いが帰りはどうするのか。

だがさすがにそれを忘れているマーベラスでは無かった。今度は川の向こうにゴミやら流木やらがまた流れてきているのだ。

猫を抱えたまま、先程と同じ要領で飛び移っていき―――。

 

 

「うわっ!?」

 

 

と、その途中で雨に絡めとられてしまい、足を滑らせてしまった。

このままでは仲良く激流へ落ちてしまう。そうなればこの猫は勿論、マーベラスとて命の保証はない。

 

 

「くっ―――君、だけでもっ!!」

 

「ニャー!?」

 

 

幸い、岸まで近かった。マーベラスは咄嗟に猫を優しく放り投げた。

ギリギリではあったが、猫は濁流にのみ込まれること無く着地する。

だがマーベラスはそうもいかない。自分を飲み込もうとする、濁った激流が迫ってくる。

 

 

(―――でも、良かった……。 こんな私でも、あの子を助けられたんだ……。 ちょっと、遅かったけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ……白斗君に………謝りたかったな―――)

 

 

ゆっくりとした時間で感じられる、着水までの瞬間。

それでもマーベラスに後悔はなかった。小さくても、たった一つしかない命を救えたのだから。

ただ一つの心残り、それは今でも思うあの少年に言葉を掛けられなかったこと―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マーベラス――――――――――ッッッ!!!!!」

 

「え………!?」

 

 

 

 

 

 

 

その直前、力強い声と温もりがマーベラスを包み込んだ。

声の主は知っている。何せ、今でも彼女が想っている人―――黒原白斗なのだから。

 

 

「は、白斗く……わぷっ!!?」

 

「ぐぶっ!! ……も、もう大丈夫だぞ!!」

 

 

彼だと認識するや否や、時間が急速に動き出した。

白斗は落ちる寸前にマーベラスを抱え込んだものの、それだけでどうにもなるはずがなく、二人揃って激流へと落ちてしまう。

しかし、激流の中でも二人の体が下流へと流されることは無かった。白斗がワイヤーを、近くの電柱に結び付け、命綱にしていたからだ。

 

 

「は、白斗君……なんて無茶を……!!」

 

「ははは、そりゃお互い様だ。 なぁに、すぐに岸へ連れていって……―――っ!!?」

 

 

無茶も無茶だ。

この激流に逆らうことがどれだけ体に負担を強いることなのか。しかも白斗はワイヤーを伸ばすために右腕を伸ばし切った状態、右腕にはそれこそ引きちぎれそうなまでの激痛が走っているはず。

おまけにマーベラスを激流に晒さないため、白斗は彼女を背中で庇いながら岸へと引き寄せている。

 

 

「流木!? チッ……ぐうっ!!?」

 

 

しかも、その最中に流木が二人目掛けて突っ込んできた。マーベラスを守るため、白斗はそれを背で受ける。

流木の大きさ、そして濁流の勢いが合わさり白斗の背中に大打撃を与えた。

 

 

「白斗君ッ!! も、もういいよ……私なんか離して……逃げてよぉっ……!!」

 

 

傷つき、苦しむ白斗の姿を見てマーベラスから涙が溢れ出す。

これ以上、大切な人が目の前で傷つく姿なんて見ていたくない。

必死に嘆願するが、白斗は苦しみながらも必死に笑顔を浮かべて。

 

 

「逃げるかよ……お前の笑顔がまだ見れてねぇのに、見捨てるなんざ出来るかよォッ!!」

 

「……白斗君……って危ないっ!!」

 

 

マーベラスのために、命すら張っている白斗。

辛いのに、苦しいのに、それでも彼女のために笑顔を浮かべている。そんな姿を見て、マーベラスも苦しかった。苦しい、はずなのに―――その姿に魅入ってしまう。

だがそんな空気も長くは続かなかった。先程の物よりも、更に巨大な流木が白斗へと向かって―――。

 

 

「させないわ!! デルタスラッシュ!!」

 

 

すると、凛とした声と共に鋭い三つの斬撃が飛んできた。

斬撃は流木をまるでバターのように切り裂き、白斗に直撃する前に切り分ける。おかげで白斗に直撃することは無かった。

こんな芸当が出来るのは、ただ一人。

 

 

「ネプテューヌ! 助かった!!」

 

「白斗!! それにマベちゃんも……無事で良かった!! 今引き上げるわ!!」

 

 

女神化したネプテューヌことパープルハートだった。

美しい太刀筋を見せただけでなく、プロセッサウィングを展開し、白斗とマーベラスを激流から引き揚げた。

 

 

「このままプラネタワーまで送るわ」

 

「頼む。 いいよな、マーベラス?」

 

「………うん………ごめんなさい……」

 

「謝るなって。 ひとまずプラネタワーで温まろうぜ」

 

 

ワイヤーも回収し、雨も少しだが弱まってきた。

今なら飛行も問題ない。そのままネプテューヌは二人を抱えてプラネタワーへと飛んでいく。

二人を下ろし、ネプテューヌは女神化を解いた。

 

 

「ただいまー。 マーベラス、無事救出完了!」

 

「お兄ちゃん、お姉ちゃん!! わわ、凄いびしょ濡れ!!」

 

 

出迎えてくれたのはネプギアだった。

分かっていたことだが、白斗もネプテューヌも、そしてマーベラスも全身が濡れている。白斗とマーベラスに至っては濁流に入っていたのだ、服も相当泥まみれ。

ネプギアの悲鳴に近い声を聴いて、イストワールも駆けつける。

 

 

「お帰りなさい白斗さん、ネプテューヌさん。 それにマーベラスさんですね?」

 

「は、はい……。 こっちの世界のイストワール様か……」

 

「お話はお伺いしています。 ひとまずお風呂を沸かしているのでそちらを使ってください」

 

「おおー! さすがいーすん、気が利くー!!」

 

 

雨の中走り回って体中が冷え切り、泥水で気持ち悪さを感じていたところだ。風呂は正直な所、有難かった。

ネプテューヌもご機嫌になり、マーベラスは最初遠慮しようと思っていたのだが、この格好のままでいるわけにもいかないのでここはお言葉に甘えることにした。

 

 

「イストワール様! すみません、ちょっと来てください!」

 

「分かりました、今行きます。 ネプギアさん、すみませんがサポートお願いします」

 

「あ、はい! お兄ちゃん、お姉ちゃん、それにマーベラスさんもしっかり温まってくださいね」

 

 

そこへ慌ただしく駆けつけるアイエフ。

火急の用件らしく、すぐさま対応に向かうイストワールとネプギア。後に残された三人は顔を見合わせたが。

 

 

「んじゃレディーファーストだ。 ネプテューヌとマーベラス、先入って来いよ」

 

「え? で、でも……白斗君が……」

 

「そうだよー! 私達は良いから、先に白斗が………くしゅん!!」

 

「ほれ見ろ。 風邪ひいちまうだろ、お前達が先に………ヘックシ!!」

 

 

ネプテューヌとマーベラスに風邪を引かせるわけにはいかないと先に譲ろうとする白斗。

だが大切な少年に風邪を引いてほしくないと、同じくネプテューヌとマーベラスが譲ろうとした。

互いに譲り合いが続く中、白斗とネプテューヌが仲良くくしゃみしてしまう。このままでは風邪を引くのは火を見るよりも明らか。

考えた末なのか、それとも水の冷たさで熱が出てきたのか、マーベラスが口を開いた。

 

 

 

 

 

 

「……だ、だったらさ……皆で、入ろうよ……」

 

「「…………ゑ?」」

 

 

 

 

 

思わず、固まってしまった。

 

 

「な、何言ってんのマーベラス!? やっぱ熱に浮かされてんだな!?」

 

「本気だもん!! 真面目だもん!! 冗談じゃないもん!!」

 

「冗談じゃないと言われりゃそれこそ冗談じゃない!! 年頃の女の子がそんなことしちゃ……」

 

 

恥ずかしさから必死に拒否する白斗。

年頃の男の子からすれば、魅力的すぎる提案。だが残った理性が必死にそれを押さえようとしている。

鉄壁の理性で押し切ろうとしたその時、白斗の右手に冷たくも綺麗な感触が。

 

 

「……それしかないね!! 入ろう、白斗!!」

 

 

ネプテューヌが握った手だった。顔を赤らめ、目をぐるぐるさせながら彼女も賛同している。

緊張の余り、顔に張り付いた雨水が蒸発して湯気になっていた。

 

 

「ネプテューヌ!? よし、風呂の前にまずは病院に行こうね!?」

 

「このままだと全員風邪ひいちゃうし!? ……こんなチャンス、滅多に無いし……」

 

「後半部分が聞き取れないくらい弱っている!? マジで考え直せ!!」

 

「あーもー!! 男がゴチャゴチャ言わないのっ!!」

 

「そうだよ!! 白斗君も覚悟を決めなさいっ!!!」

 

「俺間違ったこと言った!? って、ちょ、待てやああぁぁぁぁぁ………」

 

 

白斗の絶叫も空しく、そのまま風呂場へと連行された。

さすがに一緒の場では着替えが出来ないので先に白斗が脱ぐことに。恐らく彼が風呂場に入るまで、彼女達は着替えないつもりだろう。

ここまでされては逃げるに逃げられず、仕方なく服を脱ぎ、腰にタオルを巻いて浴室へと足を踏み入れる。

出迎えてくれたのは温かな湯気と、それに包まれた広い湯舟だった。

 

 

「おぉー、さすがイストワールさん。 入浴剤もいいもの使ってくれてるな。 ……ただ」

 

 

チラ、と白斗が外へ通じる扉を見る。

少ししたらネプテューヌ達が入ってくる―――のかもしれない。男としては嬉しいが、健全な青少年としてはこの状況はマズイ。

イストワールに知られれば、打ち首獄門と判決されてもおかしくない。

 

 

(仕方ねぇ!! さっさと洗ってさっさと出てしまえば……)

 

 

覚悟を決め、シャワーのダイヤルを回そうとしたその時、ガララと心地よい音が立てられた。

 

 

「ふっふーん! さっさと洗って出ようたってそうはイカの金時計ー!!」

 

「白斗君、カラスの行水はよくないよ!!」

 

(ナントイウコトデショウ……)

 

 

時すでに遅し。二人が入ってきたのだ。

怖くて振り向けない。振り向いた瞬間、鉄壁を貫いたこの理性が超新星爆発と共に木っ端みじんに吹き飛ぶ自信がある。

こんなことになるくらいなら、二人の提案を受けて一番乗りすべきだったと超後悔。

 

 

「白斗!! こっち見てよ!! ……それとも恥ずかしいのかな~?」

 

「は、恥ずかしいに決まってんだろ!!」

 

「……こ、こっちだって恥ずかしいんだよ……。 でも、見てくれないと……ここで大声で悲鳴上げちゃうから」

 

「待て。 どう転んでも俺が死ぬ未来しか見えないんだが?」

 

 

理性を崩壊させて死ぬか、社会的に死を迎えるか。

―――ならば、役得な方を選んでしまう。悲しき男の性。

 

 

「し、失礼します………っ!!?」

 

 

ゆっくりと、振り返る。

そこにはきめ細やかで、美しい素肌の美少女が二人、湯気に包まれていた。

ネプテューヌは体の凹凸は少ないものの、健康的なポージングと女神たる美しき肌が何とも言えない魅力を醸し出している。

マーベラスは柔らかな肢体と丸みを帯びたラインが扇情的。少し動けば揺れる胸やお尻などが、白斗の脳内を揺らす。

何よりもどちらも胸から太腿までバスタオル一枚を巻き付けているのだが、それが逆に艶やかさを引き出していた。

 

 

「ど、どう……?」

 

「ドキドキ、してくれてる……? って白斗君、心臓が物凄い光り方を!?」

 

「……もう、ゴールしても……いいよね……?」

 

「ダメー!! まだしちゃダメー!! もう、初心なの分かったからあっち向いてていいよ!!」

 

 

想像以上に女性に免疫が無かったため、心臓がオーバーロードを起こしかけた。

女を意識してくれているので、マーベラスもネプテューヌも結果としては上々だったが、これ以上はさすがに白斗に悪いと向こうを向かせる。

白斗は安心したような、残念なような、そんな複雑な気持ちに駆られる。

 

 

「と、とにかくまずは湯船に入ろうぜ!? 温まりたいだろ!?」

 

「そ、そうだね!! し、失礼しま~す……」

 

(う、うぅ……なんで私、勢いとは言えこんなことを……! で、でも……恥ずかしい以上に、嬉しすぎる……っ!!)

 

 

このまま二人の体をまじまじと見続けるよりかは、湯船に入って体を見ないようにした方がまだいい。

そう判断し、二人を湯船に浸からせる。当然湯の温もり以上に羞恥心で二人の顔はすぐに熱くなったが、それ以上の幸せを感じていた。

 

 

「……あ……白斗……体、傷だらけ……」

 

 

すると、ネプテューヌが白斗の体を見つめてきた。

当然、近ければ見えてしまう。白斗の体に刻まれた、無数の傷跡。

真新しいものはこの世界にある回復魔法や、コンパの治療などで消せるのだがこの傷跡は明らかに数日でつけられたものではない。

 

 

「……まぁ、昔色々あったのよ」

 

 

どこか達観したような顔と声で、白斗は自分の傷を見つめた。

彼の過去についてはマーベラスも、ベールらを通じて少しだけだが聞いた。

白斗はろくでもない父親を持ってしまったこと、その父親に機械の心臓を埋め込まれたこと、そして無理矢理暗殺者にされてしまったこと。

成人もしていない少年が抱えるには、余りにも重すぎる過去であることは想像に難くない。

 

 

「……でも、白斗君は凄いな……そんな傷を抱えてでも、あれだけ強いもん……」

 

「マーベラス……?」

 

「……私は、昔の……弱い私のままで……自分が嫌になっちゃうよ……」

 

「マベちゃん……」

 

 

今日のマーベラスはとにかく暗い。

やはり、MAGES.の言っていた通り今日という日付に何かトラウマを抱えているのだろう。

白斗とネプテューヌは互いに顔を見合わせる。何しろ、彼女の力になりたいと誓ったのだから。

 

 

「―――そんなこと無い」

 

「え……?」

 

 

突然、肩に手が置かれた。白斗の手だ。

先程までこちらを直視することすら拒んできた彼が、ここにきてマーベラスを真っ直ぐ見つめている。

その力強い視線は、マーベラスを捉えて離さなかった。

 

 

「マーベラスが弱いなんて、そんなこと無い」

 

「……で、でも……私、笑顔でいるって誓ったのに……全然笑えてなくて……昨日だって、白斗君に最低な八つ当たりしちゃって……」

 

「あんなん八つ当たりにすら入らないっての」

 

 

自己嫌悪に陥るマーベラスだが、対する白斗はまるで気にしていないように笑っている。

いや、実際に気にしていないのだ。

 

 

「誰だって暗くなる時くらいあるさ。 ちっとばかしそれが続いたくらいで人の強さなんて決められるはずがない。 それにお前、さっきはあの猫助けたじゃないか」

 

「あ…………」

 

 

あの時、絶望的な気分に浸っていたのは事実。それでもあの猫を見た時、考え無しに動いてしまった。

考え無しに―――動けた。結果、あの猫は辛うじて助けることが出来た。

その瞬間、マーベラスの中には確かな充足感があった。

 

 

「あんな状況で、あんな気分で、それでも助けに行ったんだ。 ……これを強いと言わずしてなんて言うよ?」

 

「……で、でも……結局白斗君を巻き込んで……」

 

「はは、なら今度から無茶やめろよ。 それでいいさ」

 

「………白斗君だって無茶するくせに」

 

「それには私も同意」

 

「そこだけ一致団結しねーでもらえますかね?」

 

 

細々としたツッコミが返ってきた。

でも、こんなジョークが言えるのは心に余裕が出来た証拠だ。

ネプテューヌが笑うと、つられてマーベラスも笑う。笑えば、元気が少しでも出てくる。

気分が持ち直した今なら、彼女の本音を聞き出せるかもしれない。

 

 

「……マベちゃん。 余計なお世話かもしれないけど……私達、マベちゃんの力になりたい」

 

「ああ。 ……だから、もし良かったら……話してくれないか? 何があったのか」

 

 

あくまで自発的に話してもらえるように促す。

過去を話せば彼女の心も晴れるかもしれない、一方で過去のトラウマを抉り出すようであればより追い詰める結果にもなりかねない。

そんな時は何が何でも支える。それが白斗とネプテューヌの覚悟だった。

 

 

「……そう、だね。 お世話になったし……二人には、話しておかなきゃね……」

 

「ありがとう。 ……でも、ここまで言っておいて何だが無理はしなくていい」

 

「ううん。 二人だから聞いてほしいの」

 

 

マーベラスも、気分が軽くなった。そしてより軽くなりたかった。この二人なら話せる―――それだけの信頼が生まれていた。

白斗とネプテューヌは嬉しくなったが、同時に気を引き締める。彼女の過去を、受け止める責任が生じたのだから。

 

 

 

 

 

そして、マーベラスはその過去を話してくれた―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――私、数年前に……大切な仲間二人と一緒にある任務に出たんだ。

 

 

 

 

 

簡単だと思われていたその任務で、私達は敵の罠に嵌ってしまって……

 

 

 

 

 

抜け出せたまでは良かったんだけど……仲間二人は、深手を負っちゃったの。

 

 

 

 

 

 

二人を助けなきゃって、必死に手を伸ばして………でも、届かなくて………

 

 

 

 

 

 

何も出来なくて、死を見届けるしか無くて……私、悲しくて、泣きじゃくるしかなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

助けることも出来なくて、泣くことしか出来なかった私に……二人は言ってくれたの。

 

 

 

 

 

 

 

―――『あなたは笑顔の方が似合っているから、ずっと笑っていなさい』って―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――やっとわかった。彼女が何故笑顔でいられたのか。何故、笑顔に拘ったのか。

それが大切な仲間の形見と誓いだったのだから。

更には二人との思い出を残すため、形見の刀を今でも後生大事に持ち歩き、名前まで変えたのだという。

それだけマーベラスにとって―――忘れられない日なのだ。今日という日は。

 

 

「……こんなところ、かな。 長々と暗い話聞かせちゃってゴメンね!」

 

 

無理矢理明るくしようとするマーベラス。

そして、またあの笑顔を浮かべる。彼女自身、笑顔でいることは好きなのだ。でも、笑顔でいたくない時ですら笑顔でいようとする。

だから、白斗は―――

 

 

 

 

 

 

――――彼女を、右胸に抱き寄せた。

 

 

「ひゃっ!? は、はははは……白斗君………!!?」

 

「…………」

 

 

彼の素肌に顔を引き寄せられ、マーベラスは顔を赤くする。

何事かと顔を見上げれば、白斗は優しい笑顔を浮かべて頭を撫でてくれている。

 

 

「……笑顔でいたくない時くらいあるだろ。 だったら、あの二人に見えないように俺が隠してやる」

 

「え………」

 

「だから、泣きたかったら泣けばいい。 見なかったフリも聞こえないフリも出来る。 誰にも見せない。 今日みたいに、雨で涙を隠そうとしなくていいんだ。 胸くらい、幾らだって貸してやるさ」

 

 

白斗は、マーベラスを救うたった一つの方法を見つけた。

彼女の心に重くのしかかる「笑顔でいられない時」。それを、無理矢理にでも作り出してくれた。

それだけではない、今日何故、あんな無茶をしたのかも理解してくれている。

彼の腕が、肌が、温もりが。マーベラスの心を溶かしていく。

 

 

「……あ……だ、だめ……こ、れ……だめ……わたし、ないちゃう……」

 

「だーかーら、泣いていいんだって」

 

「そうだよ、マベちゃん!」

 

 

更にそこへマーベラスの頭を抱きかかえる少女が一人。ネプテューヌだ。

彼女も、泣きそうになっているマーベラスの顔を隠してくれる。

 

 

「白斗だけじゃない、私もいるよ。 ……そりゃ、白斗みたいに頼れるわけじゃないけど……私だって、マベちゃんの力になりたいから」

 

「ネプ、ちゃん……白斗、くん……あ、あぁ………」

 

 

二人の優しさが、何よりも嬉しかった。

その時、マーベラスの脳内である過去の映像と今の光景が一瞬だけ重なった。

―――大好きだった二人の仲間が、優しく抱きしめてくれた、そんな一幕に。

 

 

「……泣いて、いいの……?」

 

「いいんだよ。 遠慮なく、ドーンと来なさい!」

 

 

ネプテューヌが、ぺたんこな自分の胸をドンと叩く。

 

 

「……頼っちゃって、いいのかな……?」

 

「寧ろ頼らなかったら怒るぞ」

 

 

そして白斗が、優しく頭を撫でてくれた。

もう、限界だ。せき止めておくことなど出来ない。涙腺は決壊し、嗚咽は大きくなり―――。

 

 

 

 

 

 

 

「……うっ、あ、あぁっ………ぁ………うあああああああああああああああああん!!!」

 

 

 

 

 

 

マーベラスは、あの日以来初めて人前で大泣きしたのだった――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――もう、大丈夫だよ。 二人とも、ありがとう!」

 

 

それからややあって、マーベラスはようやく泣き終えた。

堪りに堪り切ったそれを全て吐き出し、最高の笑顔を見せてくれている。

 

 

「うんうん、今度こそ心からの笑顔だね。 私が言うんだから間違いナッシング!!」

 

「確かに、笑顔第一のお前が言うんだから安心だわな」

 

「……やっぱり、別の世界でもネプちゃんは優しいね。 ありがとう!」

 

「でしょー!? 慈愛の女神様だよー!! 崇めたまえー!!」

 

「調子に乗るなっての」

 

 

同じく笑顔を信条としているネプテューヌが、言うのだから間違いない。

彼女の笑顔につられて、白斗も笑う。そしてそんな彼の笑顔を見て、マーベラスの心臓は高鳴った。

 

 

 

 

 

(……そして、白斗君……本当に、ありがとう……。 私の心を救ってくれて……。

 

 

 

 

 

 

 

………もう誤魔化せない。 誤魔化したくないよ、この気持ち……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白斗君を見る度に、話す度に、触れ合う度に高鳴る、この幸せの鼓動………。

 

 

 

 

 

 

 

 

………貴方に、恋しました。 大好きです、白斗君―――――)

 

 

 

 

蕩けきった表情で、マーベラスは大好きな少年―――白斗を見つめていた。

 

 

(ム!! 私の乙女センサーが感知……やっぱりマベちゃんも白斗に惚れてるっぽい!? 今回はマベちゃんの心を助けるためだったけど、白斗は渡さないんだからーっ!!)

 

 

色恋沙汰となれば話は別。

ネプテューヌの無駄な察知能力がここで覚醒し、意中の少年を渡さないために更なる行動に出る。

 

 

「さ、さて! マベちゃんの気分も晴れたことだし、白斗! 背中流してあげる♪」

 

「ぶーっ!? な、何言ってんのお前!?」

 

「いいじゃん!! 私の騎士様なんだし♪ ホラホラ、早く………ねぷ?」

 

 

背中を流すという大胆行動に出た。

美少女、それも女神様に背中を流してもらえると聞けば焦らない白斗ではない。

拒否するも、持ち前の積極さで白斗を座らせようと手を引くがそんな彼の反対側の手を、マーベラスが握っていた。

 

 

「だ、ダメだよネプちゃん! 私が白斗君の背中を流すの!! 今日のお礼に!!」

 

「マーベラスまで!? いいっての!!」

 

「良くないよ!! これだけ良くしてもらったのに、何もしないなんて女が廃る!!」

 

「廃らねぇよ!! これ以上は逆上せるし、もう俺は出―――」

 

 

これ以上はマズイ。マーベラスの過去編に突入したおかげで、随分と時間が経ったはずだ。

そろそろ誰かが風呂場を覗き込んでくるかもしれない。

最悪の事態は避けたいと適当な理由をつけ、白斗は浴室から離脱しようと――――

 

 

「お兄ちゃあああああああああん!! どういうことなのおおおおおおおおおおっ!!?」

 

「ね、ネプギア―――――ッ!!?」

 

 

最悪の事態、発生。

とうとうネプギアが浴室に乱入してきたのだ。

 

 

「お姉ちゃんと……マーベラスさんと、一緒に混浴なんてっ………!!」

 

「ち、違うんですッ!! これには深いワケが……ってか何でお前までタオル一丁!?」

 

 

社会的な死から逃れようと、白斗は絶望的な言い訳を口に出そうとした。

だがここで気付く。ネプギアもタオル一枚しか巻いていないではないか。

慌てて目を隠すも、もう遅い。

 

 

「だから―――混浴なんてズルいって言ってるの!! 私もお兄ちゃんとお風呂入って背中流してあげたいのーっ!!!」

 

「なんでだあああああああああああああああああああああああああああ!!?」

 

 

なんとネプギアまでもが参加してきた。

彼女もまた、白斗に想いを寄せる乙女の一人。意中の人と混浴イベントなんて、見逃せるはずがなかったのだ。

しかし火に油を注ぐような行為でしかなく、ネプテューヌとマーベラスが膨れっ面を向けてくる。だが、混沌の宴はこれだけで終わるものでは無く―――。

 

 

「待ちなさいネプギア!! ネプ子!! アンタらだけ、そんな……そんなっ……!! わ、私だって、白斗の背中を流してあげるんだからーっ!!」

 

「アイエフぅううううううううッ!? お前もどうしたよ!!?」

 

「待つです~~~!! 私も白斗さんと、こ、こ、混浴するです~~~~~!!!」

 

「コンパまで!!? ちょ、抱き着かないで……!!」

 

 

同じく、タオル一丁になったアイエフとコンパまでもが入ってきた。

どうやら三人とも、今までの会話を扉越しに聞いていたらしく、結果白斗への想いが暴走し、正常な判断が出来なくなったらしい。

我先にと白斗の腕にくっつく美少女たち。当然、看過できるネプテューヌとマーベラスではなく。

 

 

「ダメだよ皆!! この小説のメインヒロインは私!! メインヒロインたる私が背中を流すシーンを提供しなきゃ読者が納得しないでしょ!!」

 

「メタなこと言わないでよネプちゃん!! それに今回の主役は私なんだから、私が流さなきゃダメなの!!」

 

「そんなの関係ないよ!! お兄ちゃんの背中は、妹である私のものだもん!!」

 

「白斗の背中は私が守るって決めたのよ!! 私がやるの!!」

 

「わ、私だって負けないです~~~~~!!!」

 

「あばばばばばばばばばば………………!!?」

 

 

彼女達が負けじとくっつき、胸を抱き寄せてくる。それに対抗して他の少女達も、自らを知らしめるように密着度を高めるというスパイラルが形成。

美少女5人に、タオル越しとは言え抱き着かれ、白斗も脳内回路が限界へと到達する。

全ての血液と熱が、顔に集中し―――。

 

 

「…………もう、だめ………ぶふっ」

 

「き、キャーッ!? 白斗君、しっかりして~~~~~~!!?」

 

 

鼻血を出して、気絶したのだった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、5人は夜通しでイストワールの説教を受け瀕死に陥った。

白斗は翌日意識を取り戻したが、やはりイストワールから説教を受ける羽目に。

加えてマーベラスも迎えに来た仲間達にも説教され、二人仲良く二度死にかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……でも私……女神様相手でも負けないよ。 忍は絶対に諦めないんだから! 覚悟してよね、白斗君♪)

 

 

 

 

 

 

 

―――それでも、マーベラスの笑顔は最高に幸せそうだったという―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みにこの話が各国に行き渡り、聞きつけたノワールら三女神の手によって白斗は三度死にかけたそうな。




サブタイの元ネタ「ニニンがシノブ伝」

皆様、遅ればせながらあけましておめでとうございます。カスケードです。
今年も明るく楽しく、ねぷねぷな一年していきましょう!
大変長らくお待たせいたしました。今回はマベちゃんのお話でした。
欲望のままにシーンを詰め込んだせいでとんでもない長さになっちゃった。感動もギャグもラブコメも、何もかも詰め込んだのがこの「恋次元」という作品のスタンスなのでその辺りを楽しんでいただければ幸いです。
その分読み応えという形でお送り出来たらと思います。更には他のメーカーキャラも登場。今回はRe:birth基準で出しました。
因みにマベちゃんの次にREDちゃんも好きだったりするのだ。
そして次回から少しずつストーリーを動かしていこうと思います。次回からは黄色くて元気なあの子が登場!お楽しみに!!
感想お待ちしております!!





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