恋次元ゲイムネプテューヌ LOVE&HEART   作:カスケード

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第三十一話 プラネテューヌの歌姫、ツネミ

―――プラネテューヌの教会でピーシェを預かることになってから早数日。

相変わらずを超えて更に騒がしくなるプラネテューヌの日常。

しかし、日が沈めばさすがにそんな喧騒とも遠ざかっていく。10時近くともなれば、表を歩く人々も殆どいなくなる。

そんな寂しさすら感じさせるプラネテューヌの夜の街を、二人の男女が歩いていた。

 

 

「白斗、ありがとう。 仕事手伝って食事誘ってくれた上に見送りまでしてもらっちゃって」

 

「いいんだよアイエフ、俺がやりたかっただけだし」

 

 

白斗とアイエフだ。

この国の女神、ネプテューヌの傍にいるアイエフはプラネテューヌの諜報員を務めている。

そんな彼女も仕事柄親友に相談できないことも多いらしく、時折白斗がその手伝いをしていた。正式な諜報員ではないものの、書類仕事やそれに伴い現地調査などに付き合うことも多々あった。

今日もそんな一日の終わりだったのだ。

 

 

「……厚かましいんだけどさ、また……お願いしていい?」

 

「ドーンと来なさいっての」

 

「ふふっ、頼りにしてるわね。 ここまででいいわ、それじゃおやすみなさい」

 

「おう、おやすみー」

 

 

どうやらもう彼女の家の近くまで来てしまったようだ。

些細な会話も楽しく感じ、楽しければ楽しいほど時間も過ぎ去るのが早く感じてしまう。

口惜しいと感じつつも、またこんな日々を過ごせると感じたアイエフの足取りは軽かった。

 

 

(ふっふーん、今日はいい夢見れそうね~♪)

 

 

上機嫌で鼻歌を歌いながら、アイエフは自室へと駆け込んでいくのだった。

さて夜の10時を回ったプラネテューヌの街並みは美しく、それでいて静か。昼間の若者の雰囲気から、アダルティーな雰囲気が漂う街になる。

怪しげな色合いのネオンで彩られた店も多い。

 

 

「さて、このまま帰っても皆寝てるだろうな……いやネプテューヌはゲームで夜更かししてるか。 俺は適当に一杯引っ掛けちゃおうかな~」

 

 

彼は一体、第二十七話で何を学んでいたのだろうか。

馴染みの店でも作ろうか、と割と真剣に見回っていた時の事だ。

 

 

―――…………~~~♪

 

「ん? 歌……?」

 

 

どこからか、歌声が聞こえてきた。女性の声だ。

透き通るような、美しく繊細な声。声量こそ大きくないものの、心の芯に響き渡ってくる。

5pb.とは別ベクトルの魅力的な歌声を、白斗の聴力は聞き逃さなかった。

 

 

「……あの高台の方か?」

 

 

振り返った先には、プラネテューヌの街並みを一望できる高台。あの高台には公園が設置されており、人々の憩いの場として重宝されている。

プラネタワー程ではないが、この街を見渡せるスポットとして大人気だったがこの時間ともなれば誰もいない。故にそこで歌っている人がいるのも、理解できる話だ。

 

 

「……行ってみるか」

 

 

誰かがストリートライブをすることなど、珍しい話でもない。

ただ、誰もいない時間帯と場所で、こんな綺麗な歌声の持ち主がどんな人物なのか気になってしまう。

ネプテューヌの悪い癖がついたかな、と内心悪い気はしないまま白斗が静かにその公園へと向かった。

するとそこには―――。

 

 

 

 

 

「……Ah……届いて、私の想い―――……」

 

 

 

 

 

金髪でツインテールの少女が歌っていた。

服装は少し露出も多く、レオタードタイプの服とは言えスカートも空けているとかなり特殊なものである。―――言うなればアイドルのような。

だが、白斗にはそんな事さえ気にならなかった。

 

 

(……綺麗だ……。 でも……なんでこんな“悲しそう”なんだ?)

 

 

月光と星光を浴びながら美しく歌う少女の姿に、白斗は一瞬の内に魅了されてしまっていた。

5pb.がエネルギッシュな歌を得意とするなら、彼女は美しさで人を惹きつけるような、そんなスタイル。

歌声も、魅せ方も、そして何より歌っているその姿が美しい。

しかし、それ以上に気になるのは彼女に纏う雰囲気がどこか悲しさを語っていること。だから白斗は彼女から離れることが出来ない。

―――どれくらいの時間が経っただろうか、一頻り歌いきったらしく少女が息をつく。

 

 

「……ふぅ……。 ………―――っ!?」

 

「いい歌だったよ。 凄かった!」

 

 

そんな彼女に惜しみない拍手を送った。

突然の拍手に少女は大慌てで振り返る。どうやら人がいないものと思って歌っていたらしい。

心の底から驚いた彼女が振り返った先には、無邪気という言葉が似合うような笑顔を浮かべている白斗の姿があった。

 

 

「……き、聞いてたんですか……?」

 

「ゴメンな、一人歌ってたところに。 綺麗な歌声が聞こえたモンだから」

 

「い、いえ……ありがとうございます……」

 

 

少女は怯えている、というよりも感情の出し方が分からない様子だった。

歌っている時は喜怒哀楽がはっきりとしていたものの、どうやら人前ではそうでもないらしい。

この辺りの切り替えは5pb.にも通ずるものがある。

 

 

「あ、俺の事は気にしなくていいから続き歌ってくれ。 一人がいいなら……」

 

「いえ、いいんです……。 今ので歌い納めのつもり、でしたから……」

 

「そうなのか。 残念だな……」

 

「残念、ですか……?」

 

 

少女が聞き返してしまう。何故そこまで残念そうにするのか。

しかし、理由ならば単純だ。何故なら―――。

 

 

「俺、君の歌が好きになったから」

 

 

―――笑顔と共に、そんな温かい言葉が返ってきた。

 

 

「あ………」

 

 

そんな白斗の言葉が少女の胸の中に温かく響き渡る。その“弱り切った心”に、どこまでも染み渡るように。

更には、彼女の脳裏にある光景が過った。

 

 

―――私、君の歌が好きになったから!―――

 

 

自分を導いてくれた、あの“紫の少女”の姿が―――。

 

 

「……っ、う……ぐすっ……」

 

「……ってな、なんで泣いてるんだ!? 俺、何か酷いこと言った!?」

 

 

少女の綺麗な瞳から、突然涙が溢れ出した。

とにかく女の涙に弱い白斗にとって、これは何よりも理性を奪わせる一撃だ。

柄にもなく大慌てで駆け寄り、彼女の肩に触れて容態を確かめる。何か大きな怪我や病気というわけではな無さそうだが。

 

 

「ご、ごめんなさい……そんな言葉掛けてくれたのが……嬉しくて……」

 

「大袈裟な。 ……ひょっとして、悲しそうにしてたのと関係あるのか?」

 

「え……? そう、見えてました……?」

 

「ああ,歌は綺麗だったけど選曲が悲し気だったし。 ……何かあったのか?」

 

 

余計なお世話だというのは重々承知だ。いや、それを通り越して厚かましい、或いは失礼の部類に当たる。

それでも不興を買ってでもこの少女の悲し気な雰囲気をどうにかしてあげたかった。

 

 

「……そう言えば貴方、私をご存じないんですか……?」

 

「ひょっとしてアイドルの人? ゴメン、俺5pb.しか知らなくて」

 

「いえ、いいんです……」

 

 

こんな控えめな印象を受ける少女から「ご存じでない」という言葉が出てきた。

それだけ有名人なのだろう。こういう時、芸能関係に疎い自分を恨めしく思ったことは無い。

幸い、少女は気にしていないらしく涙を拭いて、しかし悲し気な雰囲気を払拭しきれないまま自己紹介してくれた。

 

 

「……私、ツネミと申します。 このプラネテューヌのアイドル……でした」

 

 

少女―――ツネミはそう名乗ってくれた。

道理で服装も歌い方も特徴的だったのだと白斗も納得した。だが、まだ納得しきれていない部分が一つあった。

 

 

「俺は黒原白斗、よろしくなツネミさん。 ……でも、“でした”ってどういうこと?」

 

「ツネミで構いません。 ……もう、アイドルを辞めようと思っていたところでしたから……」

 

 

そこで、先程の発言に繋がった。「歌い納め」と言っていたが、「今日はお終い」という意味ではなく「今日でお終い」という意味だったのだ。

自分から納得して辞めるのであれば、白斗もそれ以上は追求しないつもりだった。

だが、ツネミの悲し気な瞳からは明らかに未練が漂っている。

 

 

「……本当は辞めたくないんじゃないか? アイドル」

 

「え……?」

 

「だって……まだ歌いたいって目してるじゃんか」

 

 

そんな彼女の瞳を、白斗は見逃しはしなかった。

本人が心の底から納得していない、だから白斗もつい口を挟んでしまう。

一方ドンピシャで言い当てられたらしく、ツネミは少し自嘲気味な笑顔を浮かべて浅く息をついた。

 

 

「……凄いですね。 カウンセラーの人ですか?」

 

「断じてそんな立派なモンじゃない。 けど……力になりたい」

 

「……どうして、ですか? さっき会って、知ったばかりなのに……」

 

「さっきも言ったろ? 君の歌が好きになったから、って。 とりあえず話すだけ話してくれないか?」

 

 

余計なお世話であろうとも、知ってしまったからには力になりたかった。

それが黒原白斗と言う男。

彼の言葉が嬉しかったのか、またツネミは少しだけ涙を流してしまう。

 

 

「……ありがとう、ございます……。 でしたら、もう遅いので……また明日、ご相談していいですか?」

 

「それもそうだな。 なら明日、この喫茶店で待ち合わせできる?」

 

「はい。 明日一日フリーですし……明日になったら、どうせ知られるので……」

 

 

何か明日になって発表されることでもあるのだろうか。

ただ、力になりたいとは言ったものの無理に心の扉を抉じ開けることだけはしない。

心の扉を無理に開かせた途端、心が崩壊するかもしれない―――白斗自身が知っていることだから。

 

 

「分かった。 ……ずっと、待ってるからな」

 

「……ありがとうございます。 ………白斗、さん………」

 

 

そこでツネミは初めて白斗の名前を呼んでくれた。

「さん」付けする辺りは彼女の礼儀正しさ故である。

でも、少しは元気が出てきたらしく先程の悲しそうな雰囲気は和らぎ、元気よくその場から駆け出してしまった。

 

 

 

 

(……誰にも迷惑かけたくなかったのに……どうして、私……白斗さんにまた会いたい、なんて思うんだろう……)

 

 

 

 

 

―――少女の心に、何かが芽生え始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――次の日。

 

 

「えぇーっ! おにーちゃんもねぷてぬもあそんでくれないのー?」

 

 

朝食の場で、ピーシェの不満そうな第一声が響き渡った。

白斗とネプテューヌに相当懐いているピーシェからすれば、大好きな二人に構ってもらえないことは我慢ならないらしい。

苦笑いを浮かべつつも、白斗はその小さな頭を撫でてあげる。

 

 

「ゴメンな。 でも、今日おにーちゃんとねぷてぬは困ってる人を助けなきゃいけないんだ」

 

「その代わり、今回の一件が片付いたら沢山遊ぼうね。 ピー子」

 

「うん……」

 

 

今日はツネミと待ち合わせしている日。

相談役は多い方がいいとして、白斗はネプテューヌにも声を掛けていたのだ。

明るく優しい、その上時々だが鋭い意見を出してくれることもある彼女なら突破口が見つかるかもしれない。

そう思ってお願いしたのだが、ネプテューヌは二つ返事で引き受けてくれた。

 

 

「で、白斗。 相談したい子って誰? ……まさか女の子……?」

 

「声色低くするな。 まぁ、女の子だけど……そうそう、今テレビに映っている……」

 

 

すると白斗が指を差した。その先にはテレビ。

朝食などでテレビを点けるのは然して珍しくも無い話。そしてそこに映っているのはツネミだ。

アイドルであれば、メディア出演など大前提。そこまでは何もおかしくはなかったのだが。

 

 

『次のニュースです。 プラネテューヌのアイドル、ツネミさんらが所属する事務所が昨日、突然閉鎖することを発表しました。 尚、理由等については明らかにされておらず、ツネミさんらが今後どこの所属になるかは明日正式にコメントを発表するとの模様です』

 

 

―――そんな衝撃的なニュースが、穏やかな朝の日常を打ち崩した。

 

 

「な、何ィッ!? 昨日思い詰めていたことってこれか!!」

 

「しかもツネミが!? なんで私に真っ先に相談してくれないのかなあの子は!!」

 

「ネプテューヌ、知り合いなのか?」

 

「親友だもん!! 白斗、今すぐ待ち合わせ場所に案内して!!」

 

「合点!」

 

 

どうやらツネミとは親交があるらしい。さすがは誰とでも友達になれるネプテューヌと言ったところだろう。

それ故にこんな大事になっていると知った時のショックは半端なものでは無かった。

兎にも角にも、彼女から詳しい話を聞かなければならない。白斗とネプテューヌは急いで支度を済ませ、待ち合わせ場所の喫茶店へと急ぐのだった。

 

 

「ツネミ! どうして私に相談してくれないのかな!?」

 

「ご、ごめんなさいネプテューヌ様……ご迷惑おかけしたくなくて……」

 

「相談してくれない方がご迷惑だよ!」

 

 

そして指定された席に座っていたツネミに対して、真っ先にお説教を始めたネプテューヌ。

普段であれば彼女がお説教を受ける側なのだが、さすがは一国の女神。説教をするその姿は迫力があった。

しかもどれも正論なので、ツネミや白斗が口出しすることも出来ない。

 

 

「……まさか白斗さんが、ネプテューヌ様とお知り合いだったなんて……」

 

「それはこっちの台詞だ。 女神様と知り合いとは、さすがトップアイドル」

 

「ち、違います! ……私がアイドルになれたのは、ネプテューヌ様のお蔭なんです」

 

「え? どういうことだ?」

 

 

トップアイドルだから女神と知り合えたのではない、女神と知り合えたからアイドルになれたのだというツネミ。あの細々とした喋り方が一転、大声を出すほどにまで。

それだけネプテューヌに深い恩義を抱いているらしい。

少し興味が出てきたと、白斗は事情を聴いてみることにした。

 

 

「あれは数年前……私がアイドルを目指して、ストリートライブをしていた頃です。 当時は誰も相手にしてくれなかったんですけど……ネプテューヌ様だけが、私の歌を聞き届けてくれたんです」

 

「いやぁ、あれを聞き逃すなんて人生の三割損してるって」

 

 

当時から外で遊びまわっていたらしいネプテューヌ。ツネミとの出会いも、そんなサボりの最中だったのだろう。

彼女らしい出会い方だな、と白斗は納得した。

 

 

「で、ツネミとお話してたらすっかり意気投合しちゃってー。 こんな素敵な歌が皆に聞いてもらえないなんて実に勿体ないって思っちゃったんだよね」

 

「そうしたらネプテューヌ様は、ステージを手配してくださったんです」

 

「……ネプテューヌらしいな」

 

 

どうやら彼女のためにステージを用意したらしい。

その時のツネミの喜びは、相当なものだったのだろう。今でも当時の思い出を振り返る彼女は幸せそうだ。

相変わらずぶっ飛んだ発想で、しかし友達思いだと白斗は微笑ましささえ感じる。

 

 

「人生初のステージで、あるプロデューサーの目に留まって……以降はその人の事務所でアイドル活動をすることが出来るようになったんです」

 

「なるほど、そりゃ恩義感じるわけだ」

 

「いやー、ツネミの実力があってこそだって」

 

「そんなことありません! だから私はアイドルでいられましたし、ネプテューヌ様の治めるプラネテューヌで歌うことが何よりも幸せでしたから……」

 

 

確かにネプテューヌとの出会いがあったからこそ、夢へと進むことが出来た。

ネプテューヌの言う通り、そこから先はツネミの実力によるところもあるのだろうが、人々に希望や夢、生きる道を与えるのもネプテューヌの得意技だ。

決して口には出さないが、彼女への尊敬が益々大きくなる白斗だった。

 

 

「……でも、仕事自体は順調だったんだよね? 一週間前会った時だってそんな素振りなかったし……」

 

 

だからこそ、ネプテューヌは解せなかった。

順風満帆とでもいうべき彼女のアイドル生活が、一変しようとしていることに。

所属事務所を変えるだけならそこまで大きな話ではないだろう。にも拘らず、昨日はそれこそ悲しさしか感じられなかった。

まだのっぴきならない事情があるのだと、白斗も耳を傾けてみることに。

 

 

「……三日ほど前でした。 別のプロデューサーに引き抜かれそうになったんです。 その時はお断りしたんですけど……」

 

「……その結果、今所属している事務所を潰されたってことか!?」

 

「はい……。 しかも、他の所属している子を事実人質に取られた形で……今晩、“お相手”するように……言われています……」

 

「そ、そんな………!!」

 

 

ネプテューヌが絶句する。自分の治める国でそんなことをする人がいると聞かされたら、ショックを受けない方がおかしい。

しかも、どうやらそのプロデューサーとやらは所謂ツネミの体目当てらしい。それだけのために彼女の夢を潰そうとしていた。

 

 

「……それで昨日、歌い納めなんて言ってたのか」

 

「アイドルを辞めるってこと!? ダメだよ!! 私がそんなプロデューサー、責任もってぶっ潰してくる!!」

 

 

そこで話が繋がった。確かにそんな酷い状況に追い込まれれば、誰だってアイドルなど続けたくなくなる。

親友がそこまで傷つけられていることに憤ったネプテューヌは、それこそ女神化しかねない勢いで立ち上がった。女神権限ほど頼れるものはない。

 

 

「ありがとうございます、ネプテューヌ様……でも、ダメなんです。 他の子達の生活も懸かっていますから……」

 

「だ、だからって……!! そうだ、新しい事務所を立ち上げれば……」

 

「こんな話が公になれば飛び切りのスキャンダルです。 ……一度スキャンダルを起こしたら、仕事がもらえなくなります。 事実、今でも続々と仕事が打ち切られていますから……」

 

 

元々、誠実である上に我が強くないツネミからすればもう諦めるしかないと思っている。

ネプテューヌはそんなことないと言いたいが、方法が見つからない。

悪徳プロデューサーを潰すだけでは他のアイドル達も巻き添え、新しい事務所を立ち上げても仕事が来ない。

 

 

「―――なら、両方やればいい」

 

「「え?」」

 

 

ならばと、新しい意見を出してきた人物。白斗だった。

その瞳にはこれから何をするべきか、ツネミが望む未来、何よりもそれらを実現させようとする覚悟が備わっている。

 

 

「ツネミ、今日一日だけ時間をくれないか? ……必ず、歌えるようにしてやる」

 

「え? は、白斗さん……?」

 

 

ツネミの肩に、力強い手が置かれた。同時に力強い視線が彼女の綺麗な瞳を捉える。

白斗の得意技の一つだ。ただ口だけではない、こうやって宣言した後の彼は何がなんでもそれをやり遂げてしまう。

 

 

「白斗、それって……そう言う事?」

 

「そう言う事。 ……悪いがネプテューヌ、帰ったら各種決裁頼むぞ」

 

「任せて! こういう時くらい仕事しないとね!!」

 

「おう。 財布ここに置いておくから、ネプテューヌは後でツネミと一緒にプラネタワーへ。 それじゃっ!!」

 

「は、白斗さん!?」

 

 

財布を置くなり白斗は颯爽と喫茶店から去っていってしまった。

その間、ネプテューヌは携帯電話をコールし、通話を開始する。

相手は「イストワール」、プラネテューヌの教祖にして自分の補佐役。事実上、国のNo.2だ。

 

 

「もしもし、いーすん?」

 

『ネプテューヌさん、ツネミさんとのお話は終わったのですか?』

 

「それなんだけどね、帰ったら白斗と一緒に各種書類作るから目を通してほしいんだ。 大至急で。 後ツネミも一緒に来るから、それじゃーねー!!」

 

『え? ち、ちょっとネプテューヌさ―――』

 

 

用件だけ伝えるとネプテューヌはさっさと通話を切ってしまう。

呆気に取られてばかりのツネミには一体これから何が起こるのか、全く想像もつかない。

 

 

「それじゃツネミ、今日一日フリーならこれからプラネタワーに来てもらえるかな?」

 

「だ、大丈夫ですけど……」

 

「それじゃ我が家へレッツゴー!!」

 

「ね、ネプテューヌ様……!?」

 

 

その後、二人は白斗の財布で会計を済ませて喫茶店を後にした。

プラネタワーへと向かう間、ネプテューヌは明るい話題を多く振ってくれた。正直な所、ツネミの心にそんな余裕はなかったものの、いつの間にか彼女のペースに引き込まれ、笑うことも多くなった。

そうこうしているうちにプラネタワーへと辿り着く。

 

 

「たっだいまー!!」

 

「お姉ちゃん、お帰りなさい!」

 

「お帰りなさいネプテューヌさん、お話は白斗さんからお伺いしています」

 

「ねぷてぬ、おかえりー! で、そのひとがつねみ?」

 

「は、はい………」

 

 

彼女らを早速出迎えたのはネプギアとイストワール、そして最近この教会で暮らすことになったピーシェ。

イストワールは以前、ステージ手配の件で会ったことがあるが当然ながらピーシェとは初対面。何が何だか分からないという表情をしていると、ピーシェは無邪気にもツネミの手を取ってきた。

 

 

「ネプギアとピー子、これからツネミと一緒に遊んでてくれるかな?」

 

「任せて!」

 

「いいよー!! こっちであそぼ!!」

 

「え!? ね、ネプテューヌ様!? 一体何が何だか……!!」

 

 

言い終える間もなく、ツネミはネプギアと元気なちびっ子によって連行されてしまう。

相手が幼いこと、それに加え凄まじいパワーを有していることもあってツネミは抵抗できなかった。

 

 

「それにしてもネプテューヌさんが自ら仕事をやると言い出すとは……」

 

「だってツネミのためだもん! それじゃ私、白斗の書類を決裁するからいーすんも目を通してね!」

 

「分かりました。 お任せください」

 

 

何をしたいか、何をするべきかは白斗から聞かされている。

だからこそイストワールは多くは聞かず、語らず、彼女と白斗の望むがままにさせた。

その言葉を受けて、ネプテューヌは執務室に籠る。既に白斗が何枚かの書類を仕上げており、それに目を通してはサインなり判子なりを押していく。

 

 

「……ふぅ、これで必要書類は全部か?」

 

「良いと思うよ。 もし不足があったらいーすんが補足してくれるだろうし」

 

「だな。 んじゃ、イストワールさん。 これにお目通しお願いします」

 

「ご安心を。 もう終わっていますから」

 

「おお、珍しく早いねいーすん! ……で、どうかな? 私達、ツネミを助けてあげたいんだ」

 

「それにこの方法なら言い方は悪いですが、プラネテューヌのシェアにも繋がります」

 

 

出された書類に目を通し終えたイストワールが息をつく。

彼女の口癖は事あるごとに「三日かかりますよ?」だが、今回は事態が事態なので最優先案件として処理してくれたようだ。

 

 

「どうかな、も何も私の役目は女神様の補佐。 ……ネプテューヌさんのやりたいことを助けるのが役目ですから」

 

「いーすん……!」

 

「それにツネミさんも愛すべきプラネテューヌの国民です。 ……皆で助けてあげましょう」

 

「助かります!」

 

 

ネプテューヌと白斗は揃って頭を下げた。

急な話なのに、無理難題にも程があるのに、イストワールはそれを快く受け入れてくれた。

尚更頑張らねばと二人は気を引き締める。

 

 

「ただ、正式発表はタイミングを見ないといけませんが」

 

「大丈夫。 ……その間に、こっちは終わらせますから」

 

「白斗、お願いね。 それまで私はツネミの相手をしてるから……」

 

「ん? どうしたネプテューヌ?」

 

 

もう一つの大仕事を果たすべく、腰を上げる白斗。

すると、ネプテューヌの顔色が暗くなった。まるで申し訳ないと言わんばかりに。

 

 

「……ごめんね白斗。 本当なら私が何とかしなきゃいけないのに……いつも白斗に、こんな危ないことさせちゃって……」

 

「そんなことか。 別にいいんだよ」

 

「ね、ねぷぅ!? だ、抱きしめ……っ!?」

 

 

どうやら白斗にまた一つ、重荷を背負わせることに心を痛めているようだ。

これから果たそうとする彼の“仕事”は、戦闘力自体は高くなくても身軽で機転も利き、情報収集能力が高い白斗だからこそできる仕事。

それでも危険であることに変わりはない。そんな仕事に彼を駆りだすことに罪悪感すら覚えていたが、白斗はそんな彼女を抱きしめて元気づける。

 

 

「ツネミを助けたい気持ちは俺も同じだ。 それに、お前の友達のためってことはお前のためでもあるんだ。 だから気にしなくていい」

 

「白斗……」

 

「そんな暗い顔じゃ、ツネミを元気づけるなんてできないぞ。 ……ネプテューヌには、笑顔が一番だ」

 

 

そう言って、白斗は微笑んだ。

この世界に来た時も、そしていつも元気を貰っている彼女の笑顔に追いつこうと精一杯の笑顔を浮かべる。

ネプテューヌはそんな彼の気遣いが嬉しくて、尚更彼に夢中になってしまうのだ。

 

 

「……白斗、お願いね!!」

 

「既にアイエフさんが情報収集に当たっています。 彼女と連携してください」

 

「さっすが、ゲイムギョウ界に吹く一陣の風。 それじゃ、行ってきます」

 

 

ネプテューヌとイストワールの言葉を受け、白斗は颯爽と出ていってしまった。

その間もネプテューヌは手を握り締め、祈る。どうか彼が無事で戻ってくるように、と。

 

 

「……ネプテューヌ様」

 

「あ、ツネミ。 ピー子達の相手はいいの?」

 

「白斗さんの事が心配になって……これから、どうするつもりなんですか?」

 

 

そこへツネミが現れた。

やはり白斗の事が気になったらしく、彼を追ってみれば案の定どこかへ出掛けようとしている。

どう話したものかとネプテューヌも少し悩んだのち、言葉を選んだ。

 

 

「んーとね……まぁ、簡単に言うと悪い人を懲らしめに行く、かな?」

 

「そ、そんな!? 危険すぎますよ!?」

 

「確かに危険だし、私だって本音を言えばイヤだよ。 でもね……」

 

 

心配や不安はある。でも、ネプテューヌは信じたかった。何故ならば。

 

 

 

 

 

「白斗はやり遂げちゃうし、そんな白斗がカッコいいんだよね……」

 

「………………」

 

 

 

 

 

 

―――そんな彼に、恋してしまったから。

そんな彼女の言葉、そして表情を受けてツネミは窓を覗く。

これから危険なことを成し得ようとしている白斗の姿を、その瞳に刻み込むかのように。

 

 

 

「……白斗さん……」

 

 

 

ツネミはその胸を握り締める。

湧きあがる不安、それと同時に溢れ出す「温かな想い」を確かめるかのように―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――その日の夜、ここはとある事務所。

外観こそは小奇麗にされており、その内装も金を掛けたであろう高価な装飾品で満たされている。

美しい革張りされたソファの上で、男は葉巻を加えながら一人微笑んでいた。

 

 

「ぐふっふっふ~♪ まだかな~、ワシの今晩のメインディッシュ~♪」

 

 

金色に装飾された悪趣味なバスローブを纏い、煙を吐き出しては舌なめずりをする。

その手に握られているのは、一枚の写真。それは市販されているブロマイド、このプラネテューヌのアイドル、ツネミの写真。

―――そう、この男こそが件の悪徳プロデューサーである。

 

 

「これだけ可愛い子が男を知らないなんて勿体ない……。 他の所属の子も可愛いし、しばらくはより取り見取りだなぁ~」

 

 

期待に胸を膨らませている下品な男。

これから自分が食い物にするアイドルをどう味わおうか、頭の中でゆっくりと考えている。

約束の時刻まであと僅か。

と、ここで外界を遮るドアが控えめにノックされる。

 

 

「お、来たかな。 少し早いがまぁいいだろう。 ツネミちゅわぁ~ん!」

 

 

こんな時間に訪ねてくる人物は、彼の中で一人しかいない。

意気揚々と扉を開け、これから召し上がろうとする少女を迎えようとした。―――だが彼を迎えたものとは美少女などではなく。

 

 

「ぐぅぶぇッ!!?」

 

 

痛烈な、蹴りだった。

 

 

「ゲホゴホッ!! な、なんだいきなり、無礼―――ヒィィッ!!?」

 

 

抗議の声を上げる間もなく、今度は何かが縫い付けられたナイフが次々と飛んでくる。

ズカカカ、と鋭い音を立ててナイフは男の輪郭を縫うように突き刺さった。

 

 

「―――無礼だ? それはツネミに対しても同じだろ?」

 

「な……だ、誰だ貴様!!? 他の奴らは何をしているゥ!!?」

 

 

男の目の前に現れたのは、黒衣の少年。

いや、殺意が溢れすぎて黒そのものに染まった白斗だった。殺気で空間が歪んですら見えてしまう。

恐怖の余り情けない声で助けを求めるが、静寂しか返ってこない。

 

 

「他の奴らはお寝んねしてるよ。 ダメだろ、こんな真夜中にまで働かせちゃ」

 

「さ……さてはツネミの奴がチクったな!? 許さんぞ!! 報復だ……あいつの人生を滅茶苦茶にしてやるぅ!!!」

 

「出来ねーよ。 それ、見てみ」

 

 

白斗が指を差した先にあるのは突き刺さったナイフ。

否、よく見れば何かの紙と共に縫い付けられている。

目の前の少年に恐怖しながら、男は恐る恐るナイフを引き抜き、その紙を手に取る。するとそこに書き連ねていたのは―――。

 

 

「………ッ!!? こ、これ……これぇっ!!?」

 

「アンタが今まで犯してきた悪事とその証拠だ。 まぁ、叩けば出てくる出てくる……正直イヤになるわ。 勿論、ツネミの所属事務所を不当な手段で潰したことも、な」

 

「な、ななななな…………」

 

 

開いた口が塞がらないとはまさにこのことだ。

この紙一枚だけでも致命傷なのに、それが幾つも存在している。つまりこの少年はその全てを頭に叩き込んでいるということだ。

ならば外へ漏れ出る前に口を封じてしまえば、とも思ったのだが。

 

 

「因みにそれはコピーした奴。 原本は既に警察や女神様んトコへ送信済みだ。 もうすぐ、お迎えが来るだろうぜ」

 

「あ、ば、ば………」

 

 

この状況を見れば、言い逃れなど不可能だろう。

つまり、どう転ぼうがこの男に救いなど無い。ツネミの人生を弄ぼうとしたこの男に、救いなど必要ない。

ならばせめて、一矢報いようと最後の悪足掻きを見せた。

 

 

「ば……馬鹿、め……。 こんなことをしても、ツネミはもう生きていけんぞ……一度潰れた所属事務所は戻らない……そんなアイドルを誰も取りたがらない……。 お前は、奴が生きる唯一の道を潰したんだ……」

 

「いいや、取りたがる奴はいるんだな。 コレが」

 

「な、に………!?」

 

 

最後の足掻き、それは自分を陥れたであろうツネミに対するアイドル人生の抹殺。

この男がこれだけ卑劣な真似が出来たのも、彼女の人生そのものを人質にとっていたからである。

だがそんなものは予測済み。対して苦にもならず、白斗は囁きかける。

 

 

「女神様」

 

「は………!?」

 

「ま、お前は精々指を咥えて眺めてるがいいさ。 冷たい獄中から、な」

 

「……ッ……ッ………………」

 

 

言葉も出せず、もう冷や汗を掻くだけの水分も残っていない。

何もかもが手遅れだと理解した男は、情けなく口から泡を吹いて崩れ落ちた。

 

 

「お前がツネミを泣かせたこと、このくらいじゃ到底足りない。 ……けど、裁くのは俺じゃないしな。 後は法律様と女神様にお任せしますよっと」

 

 

欲を言えば、白斗の手でこの男を殺したかった。それほどまでにこの男に対して怒っていた。だから白斗は、この男の心“だけ”を殺した。

間もなくここにアイエフ率いる警察が雪崩れ込んでくる。

面倒ごとになる前に、白斗は音も無くその場から立ち去った―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――翌日。

 

 

『次のニュースです。 あの大物プロデューサーが数々の不正を暴かれ、昨夜緊急逮捕されました。 同氏は悪辣な手口を用いては手籠めにしたアイドルを次々に襲っていたという容疑が掛けられており―――』

 

「ほ、本当に……逮捕、されちゃった……」

 

 

いつもの面子にツネミを加えての朝食。

正直な所、ツネミは気が気でなかった昨日だが昨夜白斗から「悪徳プロデューサーは潰した」という連絡を受けて、ようやく安眠することが出来た。

それでも不安はあったらしく、今朝のニュースを見てようやく心が本当に軽くなる。

 

 

「さっすが白斗!! 我がプラネテューヌの懐刀!!」

 

「まさにお兄ちゃん様様! だね!」

 

「いやいや、アイエフのサポートのお蔭だよ。 ありがとな」

 

「いいのよこれくらい、私がやりたかったんだから。 あ、このスープ美味しいわね」

 

 

昨日の大捕り物に参加してくれたアイエフも、夜遅かったためプラネテューヌの教会で寝泊まりすることになった。

お礼の意味も込めて、今朝の朝食は白斗が作っている。

 

 

「……ありがとうございます白斗さん。 でも、私にはもう歌う場所なんて……」

 

「あれ? ネプテューヌ、お前言ってなかったのか?」

 

「いやぁ、昨日はゲームで大盛り上がりだったから言いそびれちゃってー」

 

「まぁいいや。 この後どうせ発表されるだろうしな」

 

「発表……ですか?」

 

 

どうやらまだ何かあるらしい。

気になってテレビに目を向けると、それに関連したニュースが飛び込んできた。

 

 

『では次のニュースです。 先日、閉鎖された事務所に所属していたアイドルのツネミさんですが、今後は新たにプラネテューヌの教会直属のアイドルとなり、国を元気づけるアイドルとして新しい一歩を踏み出していくとのことです』

 

「え……?」

 

 

呆気に取られてしまった。

彼女に、思いがけない形で新たに歌えるステージが飛び込んできたのだ。

どういうことなのかと事態が呑み込めないまま、白斗とネプテューヌに目を向けると二人は得意げな表情を向けてきた。

 

 

「聞いての通りさ。 ツネミは今後、このプラネテューヌ教会のアイドルとして歌手として活躍しつつプラネテューヌの宣伝を行ってもらうってことさ」

 

「因みにスタッフは前の事務所の人を呼び戻したから人手は心配ないよ!! で、実績を積み上げたら独立して元のテレビの仕事中心に戻ってもらうってワケ!!」

 

「そう。 ま、今後はプラネテューヌのために歌ってくれたまえ」

 

 

わざと偉そうな口調で悪びれようとする白斗。

元より彼がそんな人物ではないことは、この二日間でよく知っている。でも、何故こんな形をとったのか。

 

 

――ネプテューヌ様の治めるプラネテューヌで歌うことが何よりも幸せでしたから……――

 

「あ……」

 

 

それは昨日、ツネミが明かした胸中だ。

ネプテューヌが治めるこの国が好きだから、この国で歌っていきたい。白斗はただ彼女の夢を繋ぎ止めるだけでなく、彼女の夢を叶えてくれたのだ。

だが、驚きはこれだけでは終わらない。

 

 

『更にプラネテューヌ教会からの発表によりますと、彼女の新しい門出の一環として今夜無料ライブを開催するとのことです。 入場料無料で後日動画配信もされるという、ネプテューヌ様らしい豪快かつ思いやりに溢れた政策ですね』

 

 

なんと、いきなりライブの仕事まで入ってきたのだ。

 

 

「えぇっ!? こ、今夜ですか!?」

 

「な? こんな無茶ぶりするなんて俺も相当な悪だろ? だから感謝は俺じゃなくてネプテューヌ様にしてくれよ」

 

 

へへ、と意地悪な微笑みを浮かべながら白斗はコーヒーを啜る。

しかし、これまでアイドルとして多忙な生活を送ってきたツネミにとってこの程度の無茶ぶりなど日常茶飯事。問題は無かった。

寧ろ驚いたのは、早速仕事が入ってきたことである。

 

 

「バックダンサーも手配済み、ステージは知り合いに頼んで設営中、機材とかはまだ手配中だがライブには必ず間に合わせる。 ……これでも歌えないかい? ツネミ」

 

 

―――そこで白斗は、優しい微笑みを向けてくれた。

あの夜の時もそうだ。彼はこうして優しい微笑みを向けてくれた。だからこそ、諦めないでここまで来ることが出来た。

それもこれも偏に、彼が―――白斗が優しかったから。

 

 

「………あり、がとう………ございますっ………!!」

 

 

今度は、嬉しさで涙が溢れてしまった。

歌う時以外は無表情、無感情にも近い彼女だが、これだけの優しさに触れて嬉しくない訳が無い。

溢れ出る涙を慌てて拭き取ろうとするネプギアとピーシェ。温かな一時が、ようやく訪れた。

 

 

「……やったよ白斗! ようやく、ツネミに歌わせてあげられるね!」

 

「ああ、正直ネプテューヌの提案がなかったら俺とて思いつかなかったよ。 ……さて、それじゃツネミがちゃんと歌えるように俺も仕事に戻りますかね……っ!?」

 

 

コーヒーを飲み終え、残った手配などを済ませようと書類を手にして腰を上げた白斗。

だがここで、彼の視界が大きく揺らいだ。白斗の体が崩れ落ちそうになったのだ。

 

 

「は、白斗!?」

 

「白斗さん!? 大丈夫ですか!?」

 

 

慌てて抱き留めるネプテューヌとツネミ。

容態を調べるべく顔を覗き込んだが、明らかに疲弊の色が見て取れる。特にツネミには分かる。

アイドルとして、多忙な生活を送ってきたのだから。

 

 

「やっぱり無茶し過ぎだよ! 昨日だって夜通し書類作成とかやってたんでしょ!?」

 

「だ、大丈夫よ……ぶっ倒れるのはツネミのライブが成功してからでも遅くねーって……」

 

「ダ、ダメです!! 休んでください!!」

 

「それこそダメだってーの……俺がツネミをここまで引っ張っちまったんだ、だったら最後まで責任持って送り出さねーとカッコつかないだろうが……」

 

 

ネプテューヌも、そしてツネミもそれこそ泣きそうな表情で止めようとした。

白斗は昨日の事務所立ち上げの書類作成から始まり、大物プロデューサーの悪事を突き止め、更にはライブの手配などの作業を今までノンストップでやってきたのだ。

それも彼の優しさからくる危うさ。ツネミもさすがにそこまで望んでいないと何とかして止めようとするが。

 

 

「十分カッコついてるわよ白斗。 後は私達に任せなさい」

 

「えっ……?」

 

 

誰かが、白斗の書類を取り上げた。

顔を見上げれば、そこには今、この国に居るはずのない黒髪の少女が一人。

 

 

「の、ノワール……!?」

 

「ネプテューヌから連絡を受けてきたんだけど、想像以上の無茶を想像通りやってくれるわね。 これで倒れる方が格好付かないってものよ」

 

 

ラステイションの女神、ノワールだった。

どうやらネプテューヌがこの展開を見越して救援を依頼したらしい。驚くべきはプラネテューヌ側の問題なのに、彼女がわざわざ動いてくれたことだろう。

しかし、白斗の驚きはそこで終わらなかった。

 

 

「ノワールの言う通りね。 少しは誰かに頼ることも覚えなさい」

 

「ぶ、ブランまで……!? ってことは……」

 

「私もいますわよ、白ちゃん」

 

「べ、ベール姉さん……女神様集結かよ……」

 

 

ブランとベールまでもが姿を現したのだ。

既にどちらも書類を手にしている。いずれも白斗がこの後片づけようと思っていた資料だ。

目を通し終えているらしく、彼女達はそれぞれの仕事へと着手していく。

 

 

「それじゃ私は人材関係を請け負うわ。 得意分野だもの」

 

「なら、私は会場のセッティングね。 後で現地に直行するわ」

 

「私は機材関係を。 リーンボックスのテレビ局から手配しますわ」

 

「それじゃ私は各種書類決裁! 仕事は早いことで定評のあるネプ子さんだよー!」

 

 

今、ここにゲイムギョウ界の四女神が集結した。

ネプテューヌの、ツネミの、そして白斗のために。各自得意分野を持って、仕事に当たってくれている。

こうなっては、白斗も関わるななどと無粋なことは言えない。

 

 

「……頼もしいことで。 それじゃ、俺はそれ以外の仕事を……」

 

「あ、待って。 白斗には一つ頼みたいことがあるの」

 

「な、何だよ……?」

 

 

しかしこれだけ有能な女神が集まっても、仕事は山ほどある。少しでも進めようと白斗が別の仕事に手を付けようとした時だ。

突然ノワールからそんな一言が飛んできた。一体何だろうかと耳を傾けると。

 

 

「当て身っ!」

 

「ゴふっ!?」

 

「は、白斗さん!?」

 

 

鋭い拳が白斗の腹を捉えた。

弱り切った体では避けることも耐えることも出来ず、白斗は卒倒する。

慌てて抱きかかえるツネミだが、白斗はすぐさま大鼾をかいて寝始めた。

 

 

「白斗の仕事は、ゆっくりと休むことよ。 それじゃ私達は仕事があるから」

 

「ええ。 私も現地へ飛ばないと」

 

「音響関係は……5pb.ちゃんにお願いすれば何とかなるでしょうか……」

 

 

白斗が寝たことを確認するや否や、ノワール達はそそくさと部屋を出ていく。

各種連絡や手配のためには一ヵ所に留まっていられないのだ。

当然ネプテューヌもそれに伴う書類の始末などをしなければならないため、いつもなら嫌がる執務室へ自ら赴こうとするが。

 

 

「ツネミとピー子、しばらくの間白斗を見ててくれる?」

 

「え? あ、はい……お任せください」

 

「お願いね。 それと……」

 

 

その間、白斗のお目付け役にツネミを指名したネプテューヌ。

ライブが始まるまでの彼女の仕事と言えば喉のコンディションを整えることや、ライブで歌う曲を決めることくらいだ。

確かに白斗を診てあげられるのは彼女しかいない。ただ、その際に耳元に。

 

 

 

 

 

「白斗は……渡さないからね」

 

「………っ!?」

 

 

 

 

 

そんな囁きを一つだけ残した。

一体それが何を意味するのか、ツネミには分からなかったが顔がボッと赤く染まってしまう。

あの無機質なことで有名な彼女の顔が、だ。

それに応えることもなく、ネプテューヌはネプギアとアイエフを連れて部屋を出てしまう。

 

 

「……? つねみ、どしたの?」

 

「……分かりません。 ただ……」

 

 

先程の一言が、脳内に反芻する。そのため、心配してくれたピーシェの声掛けにも生返事だ。

そして次に思い起こされるのはこれまでの白斗の姿と顔、声。どれも思い出すだけで胸が熱くなり、心臓が跳ね上がる。

歌う時でしか感情を表に出さないのに、どうしたことなのか。ツネミ自身もよく分からなかった。

 

 

「………今は、白斗さんと居られるこの時間を………大事にしたい、です……」

 

 

ツネミは、倒れた白斗を柔らかな膝に乗せ、そっと頭を撫でてあげる。

出会って間もないというのに、こんな自分のために、こんなボロボロになってまで頑張ってくれた優しい少年に惜しみない感謝をそれ以上の気持ちを込めながら。

―――ツネミの顔は、嬉しそうに微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そして、日は沈み、夜の6時40分。

プラネテューヌの街角で臨時で設置された特設ステージには、突然のライブであるにも関わらず多くの観客と報道陣が押し寄せていた。

 

 

「おい押すな!! 俺がこの席なんだぞ!!」

 

「いいから詰めろって!! ツネミちゃんが見られないだろうが!!」

 

『え、えーと押さない、駆けない、喋らないのおかしを守ってください~!』

 

 

これだけの盛況ぶりにはスタッフによる整理やネプギアのアナウンスも、焼け石に水と言った様子だった。

盛況なのは結構だが、この辺りは次回への課題になると舞台裏から覗く少年―――白斗はメモに書き留め、その間も各種指示を繰り出していく。

 

 

「いやぁ、突然なのにバックダンサー頼んで悪かったなマーベラス。 昔ミュージカル出演したって聞いたから頼めるのが他に居なくて」

 

「いいのいいの! 寧ろ頼ってもらえて私も嬉しいんだから!!」

 

「サイバーコネクトツーにファルコムもありがとう」

 

「寧ろこんな貴重な経験させてもらって感謝感謝!」

 

「そうそう、白斗はドーンと構えてたらいいんだよ」

 

 

今回バックダンサーとして依頼したのはマーベラスとその仲間であるサイバーコネクトツー、そしてファルコムだった。

ミュージカル経験のあるマーベラス、そして体捌きに優れた二人ならば最高のダンスをしてくれると踏んでの起用だ。

正直な所、唐突にも程がある話だったが三人とも二つ返事で承諾してくれたのだ。

 

 

「MAGES.に5pb.もありがとうな。 ステージ設営も大変だったのに」

 

「なぁに、この程度造作もない。 5pb.の時より遥かに楽だったからな、変形機能が無い分」

 

「寧ろ何に使うんだよ変形機能……」

 

「何でもFを16連射すると変形するらしいよ……ボクは絶対にしないけど」

 

 

そしてステージ設営はMAGES.に、間取りは5pb.に依頼した。

以前5pb.から聞いた話ではリーンボックスで彼女が歌うステージはMAGES.が一晩で作ってくれた代物だという。

その腕前と仕事の速さを見込んでの起用だったが、想像以上の出来だった。それでも大変だっただろうに、二人も快く引き受けてくれた。

 

 

「ノワール達も本当にありがとう。 皆がいたからここまで来られた」

 

「だったら今後はもっと私達を頼りなさいよね」

 

「そうそう、一人で抱え込むのは白斗の悪い癖だわ」

 

「そうですわよ白ちゃん。 貴方は一人ではないのだから」

 

 

そしてノワール達、各国の女神にもしっかりと頭を下げる。

ネプテューヌのため、彼女の友のため、何より白斗のために駆けつけてくれた女神達には本当に頭が上がらない。

加えてお説教までされては、本当に敵わないと白斗は頬を掻いた。

 

 

「……さて! 曲の準備もバッチリだけど、ツネミは行けるよね?」

 

「………………」

 

「あれ? おーい、ツネミさーん?」

 

 

本日の主役、ツネミはこの国の女神ネプテューヌに連れられて姿を現した。

コンディションも仕上がっており、体調も万全。後は本番が来るのを待つだけと言った様子なのだが、ツネミは舞台裏から覗くと呆気に取られてしまった。

 

 

「………私、本当に……こんな凄いところで、歌っていいんですか……?」

 

「いいのだよ! 予算の事なら心配ないよ、いーすんが出してくれたから!」

 

「ああ。 『プラネテューヌのための先行投資と思えば安いものです』ってよ」

 

 

未だに信じられなかった。

二日前まで絶望の淵に立たされていたというのに、それが今では華やかなステージで歌うことが出来る。まだ、夢を追うことが出来る。

誰もが、こんな自分のために協力してくれた。舞台裏で控えている皆に―――そして白斗に、感謝の気持ちが絶えない。

 

 

「……皆さん、ありがとうございます……!」

 

「エンディングにはまだ早いぜ。 歌いきってから、な?」

 

「……はい!」

 

 

白斗の温かい一言に、勇気も活力も、何もかもを貰える。

憂いなど無い、後は本番でやり尽くすのみ。そう構えていたのだが。

 

 

「お、お兄ちゃ~~~ん! 大変だよー!!」

 

「ネプギア? どうした!?」

 

 

アナウンスを担当していたネプギアが、慌ただしい様子でこちらに駆け込んできた。

有事の際は姉と同じで落ち着きがなくなる彼女だが、それ故にこんな様子ではよからぬ知らせが舞い込んできたに違いない。

ある程度身構えつつ、話を聞くことにしたのだが。

 

 

「ギターボーカルの人が深酒し過ぎたせいで来れなくなったって……!」

 

「ンだと!? チッ、そいつ干してやる……!!」

 

 

開始20分前を切り、まさに土壇場と言うところで最悪の知らせが舞い込んできた。

この様子ではもう間に合わないだろう。ツネミの曲の一つはギターボーカルが必要なものがある。

彼女を代表する歌だけに、この抜けは正直言ってキツい。

 

 

「ど、どうするのよ!? 開始までもう15分も無いわよ!?」

 

「ギターボーカルが必要ない曲を入れる……?」

 

「でも、こういっちゃなんだけどツネミの曲って割と静かなのが多いからそれが抜けると盛り上がりに欠けちゃうよ?」

 

「こ、困りましたわね……私達、ギターなんてできませんし……5pb.ちゃんなら!」

 

「し、失礼ですけど今回はツネミさんのステージですから、ボクが出張るのは……」

 

 

さすがにこれには女神達も大慌て。

幾ら戦闘や仕事が出来ると言っても、ギターなど手を付けていないものまで出来るわけがない。

かと言って別の曲を入れれば狂いが生じてしまう。

ギターで言えば5pb.も出来るのだが、今回はツネミのステージ。リーンボックスの歌姫が出張ると彼女を食いかねない以上、名乗り出ることが出来なかった。

まさに万事休す、ツネミの顔も曇りかけたがその時、白斗の目が開いた。

 

 

「……ネプギア。 開始を10分ほど遅らせるアナウンス流してくれ」

 

「え? お、お兄ちゃん?」

 

「5pb.、ギター持ってるよな? 悪いけど借りていいか?」

 

「いいけど……白斗君、まさか!?」

 

 

5pb.からギターを借り受けた白斗はその場でチューニングを始める。

弦を掻き鳴らせば刺激的な音が響き渡った。音色も、ギターボーカルが演奏する予定だったものとほぼ同一だ。

 

 

「俺がやる。 昔取った杵柄だが、無いよりマシだろ?」

 

「は、白斗さん……!!」

 

 

どうやらギターの扱いには心得があったらしい。

ウィンクと共に見せられたその笑顔に、やはり勇気を貰えるツネミ。その腕前以上に、彼が宣言した以上はやり遂げてくれる。

ツネミはもう、白斗に全幅の信頼を寄せていた。

 

 

「20分で覚えてやる! だから少しだけでいい、開始が遅れるってアナウンスを……」

 

「20分なんて言わず、30分でも1時間でもいいよ。 ……私が時間、稼ぐから!」

 

 

するとここで名乗りを上げた人物が一人。ネプテューヌだ。

彼女は自信満々な表情でマイクを手にしている。それが意味するものとは―――。

 

 

「……期待してるぜ、プラネテューヌの女神様」

 

「期待しててね、私の騎士様♪」

 

「頼む。 ……ツネミ、悪いが楽譜と調整に付き合ってくれ!!」

 

「は、はい!!」

 

 

後の事をネプテューヌに任せ、白斗はツネミと共に控室へと戻っていった。

彼らのしたいことを察した女神達が代わりに陣頭指揮を執り、各種手配を済ませていく。

そして開始時刻となった7時丁度。派手なスモークと共に現れたのはツネミではなく、この国女神ことネプテューヌ。

 

 

「みんなー! 今日はツネミのために来てくれてありがとー!! 今回は私の友達、ツネミの新しい門出を祝ってのスペシャルサプライズ!! 私が歌っちゃいまーす!!」

 

『マジで!? ネプテューヌ様が!?』

 

『こんな間近で女神様を見られるなんて……しかも歌まで披露してくれるってのか!!』

 

『これが無料でいいのかよ!? プラネテューヌ最高ー!!』

 

 

そう、彼女が出した案とはしばらくの間ネプテューヌが前座を務めることだ。

平時であればブーイングが出てもおかしくない事態だが、ネプテューヌはこの国の女神として半ばアイドル化していること、そして国民に人気があること、無料公演であることが功を奏した。

誰もが彼女の登場を喜んで受け入れ、ネプテューヌは歌いだす。

 

 

「それじゃいっくよー!! 一曲目、Fly high!!」

 

 

―――ネプテューヌは歌いだした。

正直、アイドルとは程遠いカラオケの延長線上でしかなかったが彼女の賢明な歌声と踊る姿に、誰もが魅入っていた。

更には女神化も織り交ぜてより派手に、より飽きさせないように歌い続ける。

曲の合間にトークも挟んだりして出来るだけ時間を稼いでいたのだが、やがて30分が経過した頃―――。

 

 

「ふぅ……ふぅ……さ、さすがにキツくなってきた……。 でも、白斗だって頑張ってるんだから、私だって頑張らなきゃ……!」

 

 

息が上がってきた。

アイドルと言うのは存外体力勝負なのだ。歌うだけではない、踊ったり、表情でそれを表現しなければならない。

それを30分も続けるとなると、さすがの女神と言えども体力の限界だ。それでもやり切らなければならない。

ネプテューヌも覚悟を決め、最後の持ち歌を披露しようとしたその時―――。

 

 

「―――ありがとな、ネプテューヌ。 おかげでこっちはパーペキよ」

 

「ネプテューヌ様、感謝します。 ……ここから先は、私達のステージです」

 

 

背後から、温かな手が肩に置かれた。

自信満々な表情のツネミ、そして白斗だった。彼の目を見て確信する。彼なら、やり遂げてくれると。

 

 

「……良かった……! それじゃみんなー、ここから先は真打ち登場! よろしくね!」

 

「「「ねーぷ! ねーぷ! ねーぷ!」」」

 

 

ネプテューヌは最後に精一杯の笑顔を浮かべてステージから去った。

その間も惜しみない拍手と称賛の声。相当頑張ってくれたのだろうと、白斗とツネミは容易に想像してしまう。

だからこそ、余計に気合が入った。

 

 

「ツネミ、どうやらネプテューヌが相当ハードル引き上げたみたいだが……イケるか?」

 

「ふふ、これくらいでへこたれてたらアイドルなんて一生名乗れませんから」

 

「お前もステージの上だとスイッチが入るねぇ……なら、ノープロブレムだなっ!!」

 

 

白斗が勢いよくギターを掻き鳴らした。

人々の心に絡みつくようなギターの音が、一気に人々の心を捕らえた。それと同時にマーベラスらバックダンサーも飛び出し、見事な踊りを披露していく。

 

 

 

 

 

「―――皆さん、今日は本当にありがとうございます。 私の新しい一歩として……聞いてください!!」

 

「「「うおおおおおおお!! ツネミちゃ―――ん!!!」」」

 

 

 

 

 

―――ツネミのライブが、始まった。

彼女の綺麗な歌声に白斗のギターが見事に調和し、美しさと格好良さを両立させている。

そして背後で踊るマーベラス達も、そんな名曲を彩るのに一役買っていた。

誰もが今、歌と踊り、楽器で完成された最高の夜を楽しんでいる。観客も、バックダンサーも、スタッフたちも、女神様も、白斗も、そして―――ツネミも。

 

 

 

(……白斗さん、本当にありがとうございます。 貴方がいなかったら私……きっと、アイドルどころか生きてすらいられませんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………でも、今………とても幸せです。 だって、だって………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………貴方と一緒に、最高の歌を、歌えているんですから………!)

 

 

 

―――共に汗を流しながら、共に歌う少年の姿に、ツネミはようやくその気持ちを自覚した。

その気持ちと共に歌いあげたその時、会場からは惜しみない拍手の嵐が巻き起こる。

今夜、このライブは今までで最高の大盛り上がりを記録したことは―――語るまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――それから数日後。

人の噂も七十五日とは言うが、数日経てばアイドルに起こった事件など誰もが気にも留めなくなる。

プラネテューヌの街は、今日も人々が新たな娯楽を求めて慌ただしい日常を過ごしていた。

そんな中、白斗はとある公園で一人腕時計を見ながら立っている。

 

 

「は、白斗さん! すみません、お待たせしました……!」

 

「構わないよツネミ。 ……でも驚いたぞ、休日に遊びに出たいなんて言うから」

 

 

そう、待ち合わせをしていたのだ。待ち合わせ相手はツネミ。

あの夜のライブが功を奏し、今では出演依頼が引っ切り無しに舞い込んでくるアイドル中のアイドルだ。

今はプラネテューヌ教会所属のアイドルであるため、受ける仕事は選びがちだが早くも以前のようなテレビ中心の活躍に戻れる日も遠くはない。

そんな多忙であるはずの彼女から突然、遊びに誘われたのだ。

 

 

「白斗さんにはお礼が出来ていませんでしたから……ちゃんとしたお礼がしたいんです」

 

「俺じゃなくてネプテューヌ達にしてやってくれよ。 俺がやったの無茶ぶりだけだから」

 

「そんなことありません! 白斗さんがあの夜、声を掛けてくれたから私がここにいるんです!」

 

「お、おう……なら光栄だな……」

 

 

珍しく、大声を上げて反論してくるツネミ。

あの日から彼女は表情が豊かになったように感じる。

いや―――正確には白斗の前では、だが。

 

 

「にしても今更ながらアイドルがこんなパンピーと一緒に居たら今度こそ致命的なスキャンダル……ってちょっとぉ!!?」

 

 

突然、白斗が驚いた声を上げてしまう。

理由は簡単。彼の右腕が柔らかい感触と甘い匂いで包まれたからだ。

―――ツネミが、抱き着いてきたのである。

 

 

「ち、ちょっとツネミ!? マジでまずいって……!!」

 

「いいんです。 ……これが、私の偽らざる気持ち……ですから」

 

「お、おいおい……」

 

「それとも白斗さんはこういうの……お嫌い、ですか?」

 

 

涙目で上目遣い、更には抱き着きという凶悪三連コンボの前に耐えられる男などいるはずがない。

アイドルとして培ってきた演技力と美貌。それらに打ちのめされた白斗は少し唸った後。

 

 

「……嬉しいよ……あーあ、女には敵わねぇな。 ったく……」

 

「良かった。 なら、行きましょうっ!」

 

 

素直に負けを認め、諦めたように溜め息を吐いた。

それに満足したツネミは彼の手を引きながら歩いていく。遊びに、とは言ったが特に目的地も無い。

ただ彼と―――白斗と過ごせれば、ツネミはそれだけで満足だったのだ。

 

 

 

(……ネプテューヌ様、ごめんなさい。 私、一つだけ約束を破ります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……貴女様から「白斗さんは渡さない」って言われましたけど……諦めたくありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だって……私も白斗さんに……恋、してしまいましたから―――)

 

 

 

 

―――何故なら彼女もまた、恋する乙女なのだから。




というわけで新ヒロイン、「激震ブラックハート」よりツネミの登場でした。
サオリさんとどっちを登場させるか非常に迷いましたが、ツネミが可愛すぎたので今回はこちらで。
今回の彼女は武将ではなく、メーカーキャラほどではありませんが一般人よりちょっと外れた枠になります。
思えばネプテューヌシリーズのキャラってクーデレが少ないなーと感じたので今回は彼女にクーデレ枠を当てはめる形に。
普段は表情を表に出さないという公式設定のツネミさんですが、心の底から笑うと可愛いと思うのです。今後もそんなツネミの魅力を引き出せて行けたら幸いです。
余談ですが武将キャラってどの子もいいですよね。スピンオフでまた再登場しないかなぁ……。

さて、次回ですがここまでプラネテューヌの描写に偏り過ぎたのでプラネテューヌから離れたお話になる予定です。お楽しみに!!
感想ご意見、お待ちしております!!
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